悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第七十四話【ある戦士の消失】

「これで(ヘロディア)の野望も終わりだな」

 

爆散したニセウルトラマンタロウの姿を見て、ようやく人心地がついた俺は、ヒュウガの肩を借りながら此方へと歩いて来るレイを見つめる。

ネローゴモラからニセウルトラマンタロウへの連戦でかなり消耗しているようだが、足元がふらついている事以外に怪我等は無いようだ。

 

「大丈夫か?」

「ああ、怪我は無い」

 

俺の近くまで来たレイは、無事である事を示すかのように笑顔で片手を上げる。

肩を貸してるヒュウガは「あまり無理はするな」と嗜めるが、その顔はレイと同じく笑顔を浮かべており、声にも喜色がにじみ出ている。

 

が、その明るい空気は、ある一点を見た事で霧散した。

 

「運よく生き残ったようだな」

 

岩にもたれかかり、相変わらず脱力した姿勢で座るレイブラッドを見て、レイとヒュウガの表情は険しくなる。

一触即発、その張り詰めた空気の中で、レイブラッドは顔を上げた。

 

「勝ちを譲ろう、そろそろ限界のようだ」

 

その一言と共に、レイブラッドの体から膨大な闇が漏れ出る。

闇は一旦周囲へと広がると、渦巻く様に一点へと収束してレイブラッドのかつての姿を形作った。

 

「なっ、レイブラッド星人だと!?」

 

強大な闇のエネルギーに気付いたゼロが此方を向き、そしてその光景を見た俺は、面倒事の再来に本日何度目になるか分からない頭痛を感じる事になった。

お前はトンズラこくだけで良いが、後始末をする事になるのは俺なんだぞ?

 

俺がそんな事を考えている事を知ってか知らずか、レイブラッドはチラリと此方へ視線を寄越した後に、ゼロを見据えて不敵な笑みを浮かべる。

 

「この肉体を奪って復活といきたかった所だが、上手くいかないものだな」

「待ちやがれ!!」

 

ゼロからすれば、レイブラッドはベリアルを闇に落とした張本人であり、光の国を混乱に陥れる切っ掛けを作った巨悪である。

捕縛しようと咄嗟にゼロは手を伸ばすが、精神体のレイブラッドに実体は無く、その手は空気を掴むだけに終わった。

 

「さらばだ、光の者よ、生きていれば再び相見える事もあろう」

「クソッ……」

 

ゼロの悪態を尻目に、レイブラッドの姿は宙に溶けるように掻き消えて行った。

後に残されたのは苛立たし気に肩を震わせるゼロと、何とも言えない気まずい空気、そして……

 

「レイっ!!」

 

ぐったりと倒れこんだ『もう一人のレイ』へ、レイとヒュウガは駆け寄って行く。

レイブラッドが抜け、本来の姿を取り戻したレイは、呻き声と共に目を覚ました。

 

「レイ、しっかりしろっ!!」

「……ボス?レイ?」

 

宙を彷徨っていた視線が像を結び、自らを心配そうに見下ろす二人の姿を捉える。

脱力して虚ろな表情だった『もう一人のレイ』は、今の状況を理解したのか薄く笑みを浮かべた。

 

「レイブラッドから助けてくれたんだな」

「いや……」

 

戸惑うかのように視線を逸らすレイ。

その様子を不思議そうに見ていた『もう一人のレイ』だったが、次の瞬間にはその表情が苦悶に歪んだ。

 

「あっ……」

「っ!?レイっ!!」

 

苦痛に喘ぎながら胸を抑え、まるで子宮内の胎児の如く、蹲るようにその背を曲げる『もう一人のレイ』

そして間を開けずに、震えるその体が眩い金色に輝き始める。

ここで『もう一人のレイ』は、レイブラッドが何故居なくなったのか、絶望的な答えを悟ってしまった。

 

「俺の体、もう使い物にならないって事か……」

 

金色に輝く『もう一人のレイ』の体が、次第に透けるように薄くなりはじめる。

黄金の粒子が、まるで紐を解くかのように舞い上がる様は美しくも有り、その場に居る全員に現実の無常さ突きつける。

 

「レイ、すまない」

「良いんだ、ボスも、そしてレイも気に病む必要は無い、それに……」

 

死の間際ではあるものの穏やかに笑い、『もう一人のレイ』は自らの手を握りながら懺悔をするヒュウガの手を握り返す。

その握力の弱弱しさに、ヒュウガの頬を一筋の涙が伝った。

 

「レイブラッドの侵略に利用されるぐらいなら、これで良かったんだ」

 

『もう一人のレイ』の顔が自らの周囲に居る一人一人へと向けられる。

そして俺と視線がかち合った瞬間、胸中を何とも言えない感情が過った。

これは罪悪感だろうか?それとも若き戦士が散っていく事への悲しみだろうか?

 

「ありがとう……」

「レイっ!!」

 

一言の礼の言葉を呟くと、静かに目を瞑った『もう一人のレイ』の姿は虚空へと消えて行った。

蹲ったまま悲しみに震えるレイと、その背を撫でるヒュウガ、ダークロプスゼロはその様子を静かに見つめ、ウルトラマンゼロは次元の狭間に居た為に詳細は分かっていないものの、一つの命が失われてしまった状況に険しい表情を浮かべている。

 

そんな中で、俺はどうにかこの宇宙から脱出する算段を練っていた。

『もう一つのペンドラゴン』のクルー達は、この不安定な宇宙が無くなれば、おそらくは復活する事が出来るだろう。

ここは因果から外れた場所であり、この宇宙自体がある種の平行同位体と言えるものだ。

破壊する事で、全ての因果が元に戻るはずだ。

 

とりあえずはダークロプスゼロからディメンションコアを外して……と考えていたのだが、

 

《カチリ》

 

「……何だ?」

 

突如として響いた、場にそぐわない硬質な音。

まるで何かのスイッチを入れたかのような……

 

「おい、今何か音がしたぞ?」

 

同じく音に気付いたゼロが、周囲を見渡す。

その光景に特に変化は無いようではある。

 

「センサーに異常なエネルギー反応を検知、これは……」

 

最初に異変に気付いたのはダークロプスゼロだった。

そのモノアイが向いた方へと視線を移すと、そこには……

 

「ニセウルトラマンタロウの……首?」

 

そこには先程撃破されたニセウルトラマンタロウの首が転がっている。

無機質に空を見つめるその双眸、その中にハッキリと光が灯った。

 

「なっ!?」

 

その光景に、思わず驚きの声を上げるヒュウガ。

 

全員が見ている目の前で、ニセウルトラマンタロウの首はフワリと宙へ浮かび上がる。

そして一瞬の制止の後、目にも留まらぬ速度で空へと上昇して行った。

 

「何なんだ……」

 

あまりの珍奇な光景に呆気にとられる一同。

 

『ニセウルトラマンタロウを倒したようね、誉めてあげるわ』

 

その固まった空気を崩すかのように、周囲へと声が響き渡った。

勝気な女の声、先ほどまで対峙していたこの事件の現況。

 

「ヘロディア!!」

 

レイの怒声が、静かな大地に轟いた。

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