悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第八十五話【復活の皇帝】

霞んだ景色が少し晴れ、俺の近くに佇む人影の正体が徐々に見えて来る。

そこに立っていたのは……

 

「ベリアル様?」

 

先程まで寝台に横になっていた、ベリアル様の姿がそこにはあった。

その手にはコスモドラグーンが握られており、その銃口は俺の首へと向けられている。

腰に有るホルスターへと手を伸ばせば、そこに有ったはずのコスモドラグーンが無くなっていた。

 

「ココは何処だ!?答えろ!!」

 

何処か焦った余裕の無い態度で、目の前のベリアル様が俺へと罵声を浴びせて来る。

そこでようやく俺は気づいた。『コイツはベリアル様じゃない』と。

 

「俺の海賊船はどうなった!!」

 

ベリアル様らしからぬ取り乱した態度、他人のホルスターから拳銃を拝借出来るほどの手癖の悪さ、「俺の海賊船」という発言、そこから導き出される答えは……

 

「肉体の本来の持ち主か」

「おい!!何か言えよ!!」

 

苛立ちと怒りに満ちた声音で、目の前の男が怒鳴りつけて来る。

まあ今の状況を考えれば、こうなってしまうのも分からなくはない。

言葉から察するに、ベリアル様に憑依されて以降の事は何も覚えていないのだろう。

 

「聞いているのか!?無視するんじゃねぇ!!」

 

それにしても、だ。

いい加減、目の前で喚き散らす男にイライラしてきた。

 

「少しはその口を慎んだらどうだ?」

「何だと!?」

 

溜息を吐きながら発した俺の一言に、男は過剰に反応した。

コスモドラグーンを握るその手は怒りからか震えており、当たる銃口が首筋を撫でる。

 

「俺から話せる事は何も無い、撃ちたいなら撃てばいい」

「生意気言いやがって、お望みどおりにしてやるよ!!」

 

男は俺の首筋に当てていた銃口を、額へと移した。

金属の硬質な感触が、額を擽る。

 

傍から見れば、まさに『絶体絶命』という状況だろう。

しかし、俺は無意識に浮かぶ笑みを堪えきれないでいた。

 

「よく狙え、ホラ」

「バカにしやがって……死ねっ!!」

 

激昂した男の指が、コスモドラグーンの引き金を引いた。

 

膨大なエネルギーが内部の薬室内を満たし、巨大怪獣をも一撃で倒せる程のエネルギーが銃口から発せられる。

そのエネルギーは俺の頭部を完全に消し飛ばすに飽き足らず、轟音と共に厚さ数メートルは有ろうかという強化コンクリート製の壁面を抉り取る――なんて事は無かった。

 

「ぐあああああああっ!?」

 

次の瞬間、引き金を引いた姿勢のまま、男は野太い悲鳴を上げつつ、体をビクリと引き攣った様に固まらせて地面へと崩れ落ちた。

 

「私がこういった事態に備えていないとでも思ったのか、馬鹿めが」

 

地面に横たわり、口から泡を吹きながらブルブルと痙攣する姿を冷めた目で一瞥し、俺は男の手から零れ落ちたコスモドラグーンを床から拾い上げ、腰のホルスターへと戻す。

 

コスモドラグーンは実に危険な兵器である。

 

先程も言った通り、拳銃サイズでありながら巨大怪獣を一撃で仕留める威力を誇る。それはチェイニーでのニセゾフィーの件を見ても分かるだろう。

その原理は小型の波動砲であり、銃の内部には極限まで小型化した波動機関が搭載されており、出力で言えばこの一丁で宇宙船を動かせる程の強力さだ。

もしもその技術が流出してしまったらどんな事になるか……なんて事は考えるまでも無いだろう。

 

「私以外の者が引き金を引けば、高圧電流が流れるようになっている」

 

確か数千万ボルトぐらいだったかな?

成人男性を昏倒させるのに十分な強力さである。

 

……というか、死んでないよな?

 

つま先でツンツンと男の体をつつけば、男はビクリと震えた。

良かった、一応生きているようだ。

 

「んあ?ろうなっれる?」

 

ふむ、呂律が回っていないようだ。

電流によるショックのせいだろうか?

 

まあ、とりあえずは……

 

「アナライザー、コイツを閉じ込めておけ」

『了解』

 

アナライザーへと指示を出せば、二体のロボットがやって来る。

そのロボットは男の両脇を抱えると、脚を引きずるようにして奥のエレベーターへと去って行った。

 

さて、目の前の問題は解決した訳だが……

 

「君達、面白がっていただろう?」

 

霞みが晴れて来た事で視界がハッキリとしてきた俺は、今の騒動をジッと見ているだけだったダークゴーネとアイアロンをを睨みつける。

対する二人はというと、さほど気にかけた様子もなく飄々としたものだ。

 

「貴方は銀河帝国に必要なお方……もしも傷付けられたらと思うと怖くて怖くて手が出せませんでしたよ」

「俺も同じく……だがベリアル様の部下たるもの、この程度の事は自分で切り抜けなければなぁ」

 

そう言いながらも、二人の口調は何処か白々しく、半笑いのニヤニヤしたその表情から明らかに楽しんでいた事が丸分かりである。

こいつ等……一発ぶちかましてやろうか。

 

俺はホルスターにしまったコスモドラグーンのグリップへと手を伸ばす。

ベリアル様の許可無しに処断する事は許されないだろうが、一発足元にぶち込むぐらいは構わないだろう。

 

そのままグリップを握り、ホルスターから取り出そうとした時だ。

 

「騒々しいぞ、貴様ら」

 

突如として地下空間全体に響いた、地を這うような低い声。

慌てて俺はコスモドラグーンのグリップから手を放し、体を反転させて跪く。

背後からも地面に重量物を落としたような音が二つ響いた事から、ダークゴーネとアイアロンも同じく跪いたのだろう。

 

地下空間の奥から《ズンッ》という音が断続的に聞こえる。

それが足音だと悟ったのは、いまだに奥の方で滞留していた白い蒸気をかき分けるようにして、漆黒の巨体が姿を現した時だった。

 

「顔を上げろ」

 

指示を聞き、俺はゆっくりと顔を上げ、目の前に迫った巨体を見上げる。

かつてと変わらない宇宙の闇の如き漆黒の中に、鮮血の如きラインが走る筋骨隆々とした巨体。

その堂々とした姿は、銀河皇帝の名に恥じないものだ。

 

「……」

 

その凄まじい存在感に鳥肌が立つのを悟られないようにしつつ、片側に亀裂の如き傷の走った、ベリアル様の橙色の双眸を見つめ返す。

 

「いまここに、ウルトラマン――いや、『カイザーベリアル』の復活を宣言する……フッフッフッ、ハーッハッハッハッハッ!!」

 

薄暗い地下空間に響くベリアル様の笑い声。

今ここに、最強最悪の銀河皇帝が、真の復活を遂げたのであった。

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