悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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漫画家の松本零士先生が亡くなられました。

先生がいなければ、きっとこの小説を書き始める事も無かったでしょう。
私の大好きな「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」等の素晴らしい作品を生み出してくださった先生へ、心から敬意を表すると同時に、ご冥福をお祈りいたします。

星の海へと旅立った先生の旅路に、どうか幸多からんことを。


第八十六話【日常回(?)】

という訳で、ちょっとしたトラブルは有ったものの、ウルトラマンベリアル――もといカイザーベリアルは復活した訳ではあるが……

 

「こちらは支配惑星B-006で生産された洋酒です」

「ほう……」

 

迎賓館のとある一室。

美しく磨き上げられた大理石の柱に、彫金が施された彫刻、天井のフレスコ画が此方を見下ろしている豪著な空間。

まあ、迎賓館内は大体こういった部屋ばかりなのだが、俺はベリアル様と一緒に、その中で比較的小さめとも言える部屋に居た。

 

本来のベリアル様の性格なら、復活した肩慣らしに適当な惑星へと侵攻しそうなものなのだが、

ニュークシアでの日々が余程気に入ったのか、体のサイズを縮めてまで、こうして部屋のソファーでふんぞり返って寛いでいる。

 

俺としては、ベリアル様にはニュークシアから出て行って欲しい所ではあるが、監視できるという意味では今の状況も悪くはない。

まさに“痛し痒し”といったところか。

 

「フン」

 

ベリアル様は一言、鼻を鳴らすように声を出すと、給仕ロボの持つ銀のトレーの上に乗った瓶を手に取る。

クリスタルグラスの瓶に満たされているのは、透き通った琥珀色の液体――最高級のブランデーである。

支配惑星B-006産のブランデーは、かのエスメラルダ王室にも納められた実績を持つ、この文明圏でも最高級と言われる物である。

 

そんな最高級のブランデーの瓶――この瓶も細かな装飾が施された美術品だ――に対して、ベリアル様は躊躇いも無く手を振り下ろした。

 

《ピシッ!!》

 

手刀の形で瓶に当たったベリアル様の鋭利な指が、白鳥の首の如く細い注ぎ口を切り飛ばす。

そしてそのまま、同じく銀のトレーの上に有ったブランデーグラスには目も留めず、その大口をガパリと開けて直接ブランデーを体内へと流し込んで行った。

 

ドボドボと液体が零れ落ちる音と共に、見る見るうちに無くなって行くブランデー。

それが完全に無くなると、ベリアル様は「ん」という一言と共に瓶を差し出して来るので、遅滞なく回収して給仕ロボに渡す。

こうしないと瓶そのものを放り投げて、辺りにガラス片が散らばる事になるので重要である。

 

「中々の味だな」

「お褒めの言葉、痛み入ります」

 

空き瓶を渡されて下がって行く給仕ロボを見送り、俺はベリアル様へと一礼する。

そして、手を《パン》と一つ鳴らすと、部屋の照明が落ち、ホログラムディスプレイが作動した。

 

『どうか……どうかお許しをっ!!』

 

そこに映し出されたのは一人の男。

男が着用する独特な形状の民族衣装は上質に仕立てられており、男が相応に高位の身分である事を示しているが、

涙と鼻水を垂れ流し、情けなく震える体を地面に這いつくばらせている姿からは、そうとは見えない。

 

まあ、俺が同じ立場でもそうするかもしれないが。

 

チラリとベリアル様を横目で見ると、ベリアル様はつまらなそうに頬杖をしながらホログラムディスプレイを眺めており、画面の向こうとは凄まじい温度差を感じざるを得ない。

やがて、男の様子を見ているのも飽きたのか、頬杖をしていた手を下ろし、ベリアル様はただ一言だけ言葉を発した。

 

「やれ」

「承知いたしました」

 

俺はベリアル様へと返事を返し、腕の端末へと指示を出す。

 

「波動砲発射準備、目標、征服惑星B-011」

 

指示を出したベリアル様を横目で見れば、既に目の前の男への関心は無いらしく、目の前のローテーブルに置いてあったヤスリで爪の手入れをしている。

絶望に染まり、呆然とした顔で静かに涙を流す哀れな男が、青い閃光に包まれていくのを一瞥もせずに。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「今日の仕事はおしまいっと」

 

博○館に居る“ナイスな戦士”みたいな独り言を呟きつつ、俺は研究所内の自室でゆったりとソファーに座り寛ぐ。

そしてだらけた姿勢のまま、給仕ロボが持って来た紅茶を飲みつつ、サイドテーブルに置いてあったタブレットを手に取り、表示された情報を精査していく。

 

「コスモリバースの動作に問題無し、征服惑星B-011の保護を完了っと」

 

自分の計画が上手くいっている事に、俺はニンマリと頬が緩むのを感じる。

これで『保護』した惑星は10を数える。総人口は数百億人に上るだろうか?

 

一見、ベリアル様から市民を救う計画は順調のように見える。

しかし、やはりそう簡単にはいかない。

 

「レジスタンス側も、波動砲の弱点に気付き始めたようだな」

 

俺は眉間に皺を寄せ、レジスタンスの動向に関する情報を見ていく。

この情報は、古代アケーリアス文明の知識を使い、俺が独自に開発した技術によって集めたものだ。

 

「“ブレインスキャン”の結果を見ると、どうやらエメラル鉱石の豊富な惑星に根を張っているようだ」

 

人類の始祖とも言える古代アケーリアス文明人には、ある特殊能力が備わっていた。

言葉を交わさなくても直接他人の心へと呼びかける事が出来るテレパシー、そして“人の心中を読む事が出来る”能力。

これは宇宙戦艦ヤマト2199に登場したジレル人が持っていた能力なのだが、実はジレル人の直系の先祖であるアケーリアス人もこの能力を備えていたのだ。

 

まあ俺の場合は生まれ変わった事で、元々クシア人が備えていたテレパシー以外の能力は失われてしまったが、それでも技術的には完全に再現可能となっており、それがこのニュークシアで俺が創り出した『ブレインスキャンシステム』である。

 

このシステムは天文学的規模で人型知的生命の思考を読む事が可能であり、それにより今の俺はニュークシアに居ながら、エスメラルダ文明圏のあらゆる情報を手に入れる事が出来る。

 

もちろん、この事はベリアル様には秘密だが……

 

「『エメラル鉱石の豊富な惑星では波動砲は使えない』――予想以上にバレるのが早かったな」

 

波動砲の弱点に気付いたであろうレジスタンス達が、拠点をエメラル鉱石が潤沢な惑星へと移し始めた。

その事実を知った俺は思案する。

 

惑星を破壊するだけなら、別に波動砲以外にもいくらでも手はある。惑星破壊プロトンミサイルや破滅ミサイル等だ。

住民だけを始末するなら重核子爆弾や、恒星を操作する事の出来るハイドロコスモジェン砲を使用して惑星の気候を滅茶苦茶にする事も可能である。

 

ただ、俺の目的は惑星破壊でも虐殺でもない。

 

「俺の計画に問題が無いのなら、放っておこう」

 

そう結論付けた俺はタブレットをサイドテーブルに置こうとしたが、そこでアナライザーから一通のメールが届いている事に気付く。

内容を確認する為にメールを開き、そして俺は再び口元に笑みを浮かべた。

 

「どうやら、計画を次の段階へと進める時が来たようだな」

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