悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第八十八話【面会】

「さてアナライザー、目的の部屋はこの先か?」

『ハイ、コノ先の部屋デス』

 

人気の無い静かな通路を、俺はアナライザーと共に奥へと進んで行く。

 

ダークゴーネとアイアロン、そしてベリアル様は、エスメラルダへの侵攻を行う為の艦隊戦力の集結を待つ間、マレブランデスへと滞在している。

『せいぜいベリアル様のお守りに苦労するがいいさ』などと思いながら、嫌らしい笑顔で俺を見送った馬鹿二人を思い、俺はほくそ笑む。

 

今現在、俺は一旦、一人でニュークシアの研究所へと帰って来ていた。

それは何故かというと、今回の作戦に関わる“重要な用事”が有った為だ。

 

それにしても、普段はベリアル様と二人であったせいか、今この星に俺たった一人しか居ない事を考えると寂しくも感じる。

普段はベリアル様に対してあんなにも恐怖心を感じているハズなのに、それが無くなった途端こうなるとは皮肉な物である。

 

まあAIとはいえ、アナライザーが居るから少しは気が紛れているけれども。

 

『コノ部屋です』

「ご苦労、アナライザー」

 

研究所内の通路を右へ左へと歩き、エレベーターで数階層下へと降りた先、そこに俺は用が有った。

目の前に有るのは一枚のドア、そしてドアの横には赤いランプの灯った操作パネル。

俺がその操作パネルに掌を押し付ける。

 

「パルデス・ヴィータ、ロックを解除」

《声紋、並びに脳波、指紋を認証、ドアのロックを解除します》

 

電子音声と共に操作パネルの明かりが緑色へと変化し、《カチリ》という軽い音と共に、ドアが横へとスライドして行く。

俺は開ききるしばしの間を待ち、扉が完全に停止した後に、部屋の内部へと足を踏み入れた。

 

ドアの先に有ったのは、20畳ほどの部屋であった。

壁一面がクリーム色の塗料で塗られた部屋は、中央部分にそびえ立つ鉄格子で二等分されている。

そして鉄格子の向こうには……

 

「何しに来やがった」

 

鉄格子の向こう、そこにはまるでワンルームアパートの如く家具が配置された空間となっていた。

中央部に置かれたベッドに、壁沿いに設置されたシャワーブース、檻の外からは衝立で見えはしないものの、洋式便器が配置されたトイレ。

 

自由に出歩けない事を除けば、十分に快適に生活出来る空間である。

 

そして、ベッドの横に置かれたウイングチェアーに、一人の男が腰を掛けていた。

ふてぶてしい態度で足を組み、葉巻の紫煙を燻らせる男――そう、ベリアルに体を乗っ取られていた宇宙海賊『青光(せいこう)の団』のキャプテンである。

 

「ちょっとした話が有ってね……君にとっては耳寄りな話だ」

 

檻の方へと歩み寄り、俺は置いてあった椅子へと腰を掛ける。

 

生活に必要な物が揃えられている檻の中とは違い、ただ面会の為に有る外側には最低限の物しか置かれていない。

有るのは今俺が腰かけているミッドセンチュリーデザインの椅子と、同様のデザインのサイドテーブル一脚、そして小さなシンクぐらいだ。

 

俺がゆったりと足を組んだのとほぼ同時に、アナライザーがサイドテーブルの上へとレースのテーブルクロスを敷き、その上に電気ポットと純銀製の小さなティーポット、ティースプーン、エメラル鉱石の如く緑色に輝くウランガラスのカップ&ソーサーを置いていく。

 

そしてその横に、プレーンスコーンの乗ったボーンチャイナの大皿と、ラズベリージャム、カヤジャム、クロテッドクリームの乗った小皿を並べた。

 

「フン、俺様の艦隊を潰しておいて何を今更」

 

顔を顰め、吸っていた葉巻を苛立たし気にクリスタルの灰皿へと押し付けるキャプテン。

その様子を横目に、俺は電気ポットのお湯をティーポットとカップへと注いでいく。

 

「そうだな、俺とベリアル様の戦いですり潰されたんだったか?ご愁傷様とでも言っておこう」

 

数秒の後、ティーポットとカップが十分に温まったのを確認し、俺はお湯をシンクへと流していく。

そして椅子へと戻り、テーブルにそれを置き、懐から銀色の缶を取り出す。

ポケットに収まるほどの小ささの缶を開封すれば、華やかな香りがフワリと広がった。

 

「他人事みたいに言いやがって」

「ほう?ニュークシアを襲って俺を殺そうとした癖によく言う」

「ぐっ……」

 

ぐうの音も出なくなったキャプテンを尻目に、俺はティーポットの茶こしへと茶葉を入れていく。

今日の茶葉は和紅茶の「青廉(せいらん)」である。華やかな味わいや香りが特徴だ。

茶葉を入れた後、電気ポットから熱湯を入れていく。

 

「まあ、その事に関しては許してやろう。君自身からは何ら被害は受けていないからな」

 

後は茶葉を蒸らさねばならない。

面白い事に茶葉の蒸らし時間は約3分(茶葉により異なる)だ。ウルトラマンは美味しい紅茶を飲む事が出来ないのである。

 

実に残念だ。

 

さて、そんな下らない事は置いておいて、俺はキャプテンと視線を合わせる。

 

「檻の外に出たくはないかね?」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「定期通信、此方はエスメラルダ星系第二守備艦体、航路1030(ヒトマルサンマル)地点を航行中、周囲に異常無し、どうぞ」

《此方はエスメラルダ星系第二宙域基地、第二守備艦体の定期報告を受信、どうぞ》

 

エスメラルダ星から少々離れた宙域、星系外縁部に一群の艦隊が航行していた。

『第二守備艦体』と呼ばれているこの艦体は、その名の通りエスメラルダが存在する星系の守備を担っている艦隊である。

 

「ふわ~っ、今日も異常は無しか」

 

その艦隊に所属する戦艦の一隻、その艦橋で、コンソールの前に座る一人の男が欠伸と共にぼやく。

男は眠い目をこすり、目の前のモニターをジッと見つめる。

 

今ココに艦長がいたとすれば「弛んでいる!!」と大目玉を食らっていた事だろう。

しかし、その艦長は今、休息を取っており、男を咎める者はいない。

 

何せ、この艦橋に居る全員が同じ事を思っていたからだ。

 

ベリアル銀河帝国の宣戦布告以降、星域の警備強化の為にこうして駆り出されているが、ここしばらくは何も起こっていない。

勿論、複数の惑星が侵略されている以上、気を抜く事は出来ないのは分かっている。

 

が、いつ来るか分からない敵の為に、延々と緊張感を保ち続けるのは無理だろう。

 

「ったく、敵はそもそも本当に来るのかよ?」

「案外、ビビッて縮こまってるかもよ?何せエスメラルダ軍は宇宙最強だからな」

「言えてる」

 

文明圏の盟主であるエスメラルダ星の防衛軍は、勿論文明圏最強だ。

それを相手取って戦おうなんて、愚かとしか言いようが無いだろう。

 

「おい、油断するな、敵は惑星破壊兵器を持ってるんだぞ?」

「でもエメラル鉱石に対しては使えないって聞くぜ?大丈夫だろ」

 

そんな事を話していた時だ。

 

「前方にワープアウト反応!!」

 

オペレーターが叫ぶ声が、艦橋内に響く。

一気に緊迫した空気に包まれ、艦橋内の人員がそれぞれのシートへと座る。

 

「ったく、お馬鹿な宇宙海賊か?数は!!」

「ワープアウト反応を解析、数は……は?」

「おい、どうした?」

 

突然、固まったように動きを止めたレーダー手へと、他のオペレーターが声を荒げる。

そのまましばらくの間、無音が続いた後、レーダー手は震える声で、その言葉を口にした。

 

「艦数、約5000隻!!」

「は?5000隻!?」

「メインモニターに、光学映像出ます!!」

 

艦橋奥の大型モニターに、映像が映し出される。

そこには、今まさにワープアウトを続ける大量の艦影が映し出されていた。

 

そして、その艦の一つ一つに記された紋章を見た一人のオペレーターが叫ぶ。

 

「第二宙域基地へ緊急通信!!航路1030付近でベリアル軍の艦隊を確認!!至急応援を求む!!繰り返す!!……」

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