悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

93 / 164
第八十九話【キャプテンの再出発】

エスメラルダ星系の外縁に存在する、星屑しか無いような辺境宙域。

星系の中心に存在する恒星の光が微かに照らす中、エスメラルダの戦艦20隻程と、ベリアル軍の戦艦5000隻が対峙する。

 

「会敵したか……」

 

()()()()()()()()()()()の中から、強化ガラス越しの宇宙に広がるその光景を、俺――パルデス・ヴィータは悠然と艦長席に座りながら眺めていた。

とうとう本格的にエスメラルダ攻略へと着手する、その手始めである。

 

『あんな少ない船で俺達と対峙するとはぁ、嘗められたものだなぁ』

『いや、あれは単なるパトロール部隊でしょう』

 

通信越しに聞こえるアイアロンとダークゴーネの会話を聞きながら、俺は肘掛けに頬杖をつく。

 

確かに数だけ見るとエスメラルダ側の艦隊が不利に見えるが、ダークゴーネの言う通り、あれは星系の守備の為の艦隊に過ぎない。

もうしばらくすれば、通信を受けた本隊が駆けつけて来るだろう。

 

それに、乗員の質という意味でも、此方とエスメラルダ軍の間には雲泥の差が有る。

 

『それにしても、本当に大丈夫なのですか?あんなゴロツキ共に軍を任せて』

 

腕を組んでモニターを眺めながら、ダークゴーネが疑問の言葉を口にしつつ、モニター越しの此方へと訝し気な視線を向けて来る。

 

そう、あの5000隻に乗っているのは全員、支配惑星の刑務所からかき集めて来た犯罪者なのだ。

 

恩赦と引き換えに、戦争に参戦した屑ども。

メンバーは一応、宇宙船の元搭乗員や宇宙軍の経験者を軸に集めているが、やはりこれだけの艦数となると人員が足りないために、下っ端ともなれば宇宙に出るのも初めてな素人だ。

 

しっかりとした訓練を受けたエスメラルダの軍人とは、比べ物にならないぐらいに脆弱だろう。

 

「特に問題は無い」

 

だが、俺はその点に関して、俺は特に気にかけてはいなかった。

 

元より、負ける事に関しても織り込み済みだ。

あの5000隻の艦も現地の軍艦を基に製作したモンキーモデルであり、やられたとしても痛くも痒くもない。

 

それに先ほど示した通り、人員も全員が元犯罪者のゴロツキだ。

全滅したところで、喜びこそすれ、悲しむ者は数少ないだろう。

 

それに……

 

「この艦隊が負けたとして、本来の目的を遂げられれば、それで良い」

 

右足を動かして足を組んだ俺は、必死になって戦う両艦隊を眺める。

 

もしもあの艦隊がエスメラルダ軍に勝てるなら儲けものだ、まず100%不可能だろうが。

だがそれより重要な俺の本懐は別の所に有る。

それが達成されれば、この程度の損害は物の数ではない。

 

『ほう、陽動という事か』

「ええ、()()()()そうです、ベリアル様」

 

今まで沈黙を保っていたベリアル様が、背もたれにゆったりと体を預けながら言葉を発する。

そう、この間に合わせの艦隊の第一の目的は、エスメラルダ軍宇宙艦隊の本隊を誘い出す為のエサである。

 

そうして集まった艦隊を叩き、本星の守備を丸裸にする、それが第一の目的。

だが、俺にとってはもう一つの目的も重要であった。

 

「ふむ、どうやら本隊のお出ましのようだ」

 

開戦から幾ばくかの時が経ち、互いに何隻かの艦が削り取られた所で、とうとうエスメラルダ軍の本隊が到着した。

守備隊よりも一回り大きい艦が複数隻、そしてその中央には葉巻型の独特な艦体を持つ、おそらくは旗艦と思われる巨大な戦艦が一隻。

 

『エスメラルダ軍の本隊ガ到着シタ模様、艦数、約6000隻』

 

アナライザーからの報告に、俺はさして動揺する事は無い。

全てが予想通りに進んでいる。

 

俺は口元に笑みを浮かべ、最前線でありながら絶対的安全性を誇るこの場所から状況を眺める。

 

「さて、どうする?キャプテン?いや……」

 

第二の目的――その鍵を握るキャプテンの名前を口にし、俺は笑うのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「クソッ!!」

 

敵の激しい猛攻に、俺は苛立ちをぶつけるようにコンソールを叩く。

 

いけ好かない野郎(パルデス)の手を借りる事にはなったが、『青光の団』の華々しい再出発は成功裏に終わる筈だった。

何せこれだけの艦隊と人員を提供してくれたのだ。対する敵も、精々20隻程のチンケな艦隊、赤子の手を捻るが如く簡単に終わると、最初はそう思っていたのだ。

 

が、結果はコレだ。

 

「敵はたったの20隻、俺の艦隊と2ケタの差が有るのに、何故押し切れない!!」

 

味方の艦隊は約5000隻も居るのだ、なのにこのザマ。

敵の艦は3隻ほどしか沈められていないのに、此方側の艦の損失は既に30を数える。

 

このまま押し切れば()()()()()()勝てるだろう。だが、それではダメなのだ。

 

「まだ本隊が残ってるっつうのに……」

 

そう、俺には分かっていた。

こんな小さな部隊が、エスメラルダ軍の主力だという事はあり得ない。

通信を受けた本隊が、必ず後からやって来るはずだ。

 

それなのにこの体たらくでは……

 

「とにかくやれ!!皆殺しだ!!」

 

不安を隠すかのように、俺は部下達へと号令をかける。

それと共に、俺の艦隊から発せられたビーム砲が、雨のように敵艦へと降り注ぐが、決定打には至らない。

 

殆どがシールドで防御され、攻撃が通らないのだ。

 

対する敵の艦のビーム砲は、2~3発程で装甲を貫通し、艦を轟沈にまで至らせる。

艦のスペックが全く違うという事に気付くまでに、そう時間はかからなかった。

 

「パルデスの野郎、こんなガラクタを渡しやがって……」

 

数だけは立派な、使い物にならないガラクタを寄越してきた野郎――パルデスに対する怒りが沸き上がる。

が、この怒りをぶつけるのは後だ。今はこの状況をどうにかしなければ。

 

そう思っていた所へ、更なる凶報が入る。

 

「キャプテン!!敵の増援です!!」

「何!?」

 

オペレーターの言葉に、怒りに伏せていた顔を上げれば、強化ガラス越しに見える宇宙に複数の艦がワープアウトして来るのが見える。

本隊が来やがった……そう思った俺の耳に、更なる絶望が降りかかる。

 

「敵艦、数6000!!」

 

ザワリ、と艦橋内が湧きたつ。

「もう無理だ」「逃げた方が良い」そんな声が、俺の耳に入って来る。

 

だが、それは無理な相談だ。

 

「……逃げてどうなる?待っているのは粛清だ」

 

おめおめと逃げて来た部下を、ベリアル様が許すとは思えない。

役立たずと詰られ、光線により一瞬で焼かれるならまだマシ、最悪は嬲り殺される事もあり得る。

 

「じゃあどうしろと言うんで?このまま死ねと?」

 

怒りと恐怖が綯交ぜになった表情で、部下が俺の座る艦長席へと詰め寄って来る。

逃げればベリアル様による粛清、立ち向かっても待っているのは星系最強のエスメラルダ軍、八方ふさがりである。

 

と、ココで俺はある事を思い出した。

 

「……」

 

いつも着ているジュストコールのポケットを探ると、金属質の冷たい感触が指に触れる。

俺はそれを掴み、外へと取り出した。

 

「キャプテン、何なんですか?ソレ……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。