悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第九十一話【反旗のクルー】

「っ!?」

 

メインモニターをキャプテンは凝視する。

 

距離にして約数千キロメートル先の物体を、光学センサーで捉えた緻密な映像。

その中で、旗艦と思しき巨大戦艦の戦端が放射状に開き、緑色の光の粒子が集まり始める。

 

「回避しろ!!」

 

冷や汗をかきながら、キャプテンは叫ぶように指示を出す。

メインエンジンがやられた事で動きは鈍いが、幸いにも予想射線から外れる事は出来そうだ。

 

そして、急激に方向を変えた重力に、肘掛けを掴んで堪えきったと思った瞬間だった。

 

《ピカッ!!!!》

 

目を焼きそうなほどの緑の閃光が、艦橋内を覆いつくす。

次いでやって来る突き上げるような衝撃に、オペレーターの何人かが悲鳴と共に席から振り落とされた。

 

「ぐっ……」

 

瞼を突き抜けるその閃光に、キャプテンは思わず片手を肘掛けから放して顔を覆った事でバランスを崩しそうになったが、どうにか堪えた。

数秒の後に、閃光が弱まっていき、やがて平常の宇宙空間へと戻って行く。

 

「……被害状況は?」

 

完全に光が無くなったところで、恐怖に震えそうになるのを無理矢理抑えながらキャプテンは聞く。

どうか、少しでも軽微な被害であってくれと。

 

しかし、そんなキャプテンの願いは、オペレーターからの報告によって無惨にも打ち砕かれた。

 

「……今の一撃で、多数の味方艦が撃沈、損耗率99%」

「あと50隻、といったところか……」

 

搾り出すような声が、キャプテンの口から零れる。

もう無理だ、流石にこれ以上の戦闘続行は不可能だ。

 

だが、メインエンジンをやられた事でワープも不可能、逃げる事は出来ない。

こうなれば、近くに有る小惑星帯に艦を隠してやり過ごすか。

 

そう考え、撤退の指示を出そうとした時であった。

 

「ふざけるな!!」

 

突如として艦橋内に響いた怒声、その発信源は、艦橋の隅で仕事をしていた通信手の男だった。

顔を憤怒に歪めながら自分を睨んで来るその男を前に、キャプテンは一つ溜息を吐いて鋭い眼光で男を一瞥する。

 

「何か文句が有るのか?」

 

流石は海賊団の長なだけあって、その眼力は通信手の男を怯ませたが、それでも目線を外す事は無かった。

そして、更なる怒声をキャプテンへと浴びせる。

 

「お前の指示のせいでこうなったんだ!!」

「ほう?」

「責任を取れ!!この無の……」

 

《パァン!!》

 

本来であれば「この無能!!」と続くはずだった言葉は、途中で途切れた……永遠に。

額に穴の開いた通信手の男は、空気の抜けた風船のようにぐしゃりと崩れ落る。

 

「余計な口は閉じておいた方が身のためだ、人生の最後に学べて良かったな」

 

広がって行く赤黒い水たまりを横目に、キャプテンは構えていた硝煙の立ち昇る拳銃を、ホルスターへと戻す。

キャプテンからすれば何の事は無い、自分の邪魔になるような奴は処刑する、海賊にとっては当たり前の事だ。

恐怖による規律の引き締め、無法者を纏めるには一番手っ取り早い方法である。

 

が、それはあくまで平時の場合だ。

 

極限状況においてキャプテンが行ったこの処刑は、悪い方向に事態を動かし始める。

 

「キャプテン、俺ももう限界です」

 

今度はレーダー手が席を立つ。

そして航海士、操縦士等、艦橋に居たキャプテンを除く数十人全員が席を立ち、キャプテンを囲んだ。

流石のキャプテンもこの事態には驚いたが、その動揺を隠しながら再び拳銃を取り出した。

 

「俺に逆らう気か?コイツみたいになりたいようだな」

 

倒れ伏し物言わぬ骸と化した通信手の男を、キャプテンは顎で指し示すが、周囲を囲むクルー達は怯む事無くキャプテンを睨みつける。

 

「例えここで一人殺したとしても、全員を撃つ事は不可能でしょう?」

「全員一斉に襲い掛かれば、たった一人ぐらいなら拳銃を持ってても制圧できる」

 

周囲のクルーから立て続けに言われ、キャプテンは内心で焦る。

確かに、一人が撃たれたとしても、その間に制圧されてしまうだろう事は予想はしていた。

 

かくなる上は……と思いながら、キャプテンは横目で艦橋の出入り口をチラリと見る。

ここは艦橋から逃亡し、脱出艇を利用して健在の他艦へと移るべきか。

 

幸いにも火器管制の権限は自分に有り、遠隔で使用制限をすれば撃ち落される事も無いだろう。

そう考えたキャプテンは、隙を見て銃口を出入口のドア前に遮るように立ちはだかるクルーへと向けようとした時だった。

 

この時、キャプテンは失念していた。

艦橋に居るメンバーが、例外なく刑務所に収監されていた『ワル』だという事を。

 

「オラッ!!」

「!?」

 

キャプテンの視線が艦橋の出入り口に向いている事を悟った一人のクルーが、懐から取り出した小型ナイフを投擲する。

注意が散漫になっていたキャプテンはコレを避けきれず、幸いにも深く刺さる事は無かったが、拳銃を手から放してしまった。

 

「チッ!!」

 

それでもキャプテンは、突然の事態に追いつけなかったクルーの一人を押しのけ、どうにか艦橋の出入り口へとやって来る。

そして、扉を開けようと開閉を操作するコンソールに手を掛けた瞬間だった。

 

《パンパァンッ!!》

 

立て続けに響く二つの破裂音と共に、キャプテンの両足に力が入らなくなり、その場に跪く。

何が起こったのか、と見下ろしたキャプテンの目に入ったのは、両太腿に穴が開き、赤々とした血が流れだす自らの足であった。

 

「グアァァァァッ!!」

 

知覚した瞬間、熱せられた鉄を押し付けられたかのような熱と激痛に、キャプテンは叫ぶ。

そして必死に傷口を押さえながら見上げれば、クルーの一人が拳銃を構えていた。

 

そう、キャプテンが取り落とした拳銃だ。

 

銃口を下げ、キャプテンへと近づいたそのクルーは、痛みにもだえ苦しむキャプテンの腹を蹴り上げる。

 

「ベリアルの腰巾着が偉そうにしやがって!!」

「ガッ!!グッ!!ううっ……」

 

一頻り蹴り上げて溜飲が下がったのか、蹴り上げていたクルーはキャプテンがボロ雑巾のようになったところで暴行を止め、周囲のクルーへと向き直る。

 

「投降しようぜ、コイツの首を手土産にすればどうにか交渉出来るんじゃねぇか?」

「そうだな、またムショにぶち込まれるとしても、死ぬよりはマシだ」

 

そんな会話を聞き、キャプテンは歯を噛み締め怒りの形相を浮かべる。

自分はこんな惨めな扱いを受けるような、矮小な男ではない。それなのに……

 

だが、下手人を始末しようにも、激しい暴行に痛む体は自由には動いてくれなかった。

最早これまでか……と思ったところで、キャプテンは再びパルデスの言葉を思い出した。

 

《コレは君の中に有るチカラを解き放つ薬だ》

 

懐を探ったキャプテンは、先程触っていた銀の箱を取り出す。

幸いにも先程の暴行にも耐えきった様で、表面には傷や凹み一つ無い。

箱の中から、赤黒い液体を内包した注射器を取り出す。

 

《その代わり、二度と人のカタチには戻れないがな》

 

「……ここで死ぬぐらいなら、人の姿を捨て去っても構わねぇ」

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