悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第九十二話【俺の名前】

「どうだ?繋がったか?」

「ああ、生き残りの奴らも一緒に投降するってさ」

 

コンソールを操作していた男達が顔を上げる。

その返答に、艦橋内の空気が明確に軽くなったように感じた。

 

やはり残りの艦のクルー達も、これ以上の戦闘続行は不可能だと思ったのだろう。

攻撃を止め、コンソールを操作して信号弾を打ち出す。これはこのエスメラルダ文明圏共通の降伏を示す合図だ。

 

信号弾が撃ち上がった数瞬の後、エスメラルダ軍からの砲撃はピタリと止まった。

流石は星系最強の軍といったところか、規律も完璧だ。

こんな奴らを相手取って戦争を吹っかけていたのか、と考え、クルー一同は背筋に寒気が走るのを感じた。

 

《こちらはエスメラルダ軍防衛艦隊、降伏信号を確認、応答せよ》

「こちらはベリアル銀河帝国軍、エスメラルダ侵攻部隊だ」

 

それからしばらくして、艦橋の通信機から聞こえてくる声。

エスメラルダ軍を名乗るその声に、艦橋に居たクルーの一人が答える。

 

「俺達はベリアルに無理矢理従わされていたんだ、艦隊司令を拘束したから、その身柄と引き換えに身の安全を保障して欲しい」

《了解した、一時間以内に全乗組員は武装解除の(のち)、救命艇に搭乗し艦を離れよ》

「ああ、全部あんたらの言うとおりにする」

 

通信を終えたクルーが艦橋を見渡し、視線を合わせると示し合わせたように全員が頷いた。

 

「総員、退艦するぞ」

「この通信は全チャンネルで流してる、他の艦の奴らも出て来るだろう」

 

クルー達の顔に笑顔が戻り、そして艦からの脱出準備を開始し始める。

幸いにもこの艦はエスメラルダ文明圏では標準的な構造となっており、救命艇の場所も分かりやすい。

遅くとも30分も有れば全乗組員が乗り移る事が可能だろう。

 

「よし、準備は出来たな?」

「と言っても着の身着のままで搭乗した(のった)からなぁ、準備と言ってもコレだけだ」

 

そう言いながら、クルーの一人が着用した全身タイツのような宇宙服を引っ張る。

談笑しながら全員が準備を済ませ、救命艇に乗ろうと移動し始めようとした。

 

その時だった。

 

《やれやれ困ったものだ。降伏の許可を出した覚えは無いのだがね……》

 

突如として艦橋のスピーカーから聞こえて来た声。

それぞれ移動しようとしていたクルー達はピタリと停止し、ゆっくりと通信手の席へと振り向く。

 

《勝手な行動は困るな、君達の恩赦はエスメラルダ軍の殲滅と引き換えなのだからね》

「ふざけた事を言うな!!パルデス・ヴィータッ!!」

 

クルーの一人が叫び出したと同時に、次々と怒号が飛ぶ。

「クズみたいな艦を掴ませやがって」だの「無理難題を押し付けやがって」だの、好き放題に罵声を浴びせかけていく。

 

が、クルーの一人が発した文句で、空気が変わる。

 

「安全な場所で高見の見物か!?そんなに目的を果たしたいなら自分でやれよ!!」

《分かった、君の言うとおりにしようではないか》

「へ?」

 

通信越しに、パルデスがそう発言した瞬間だった。

 

《ギャァァァァッ!?》

「っ!?」

 

突如として、通信越しに凄まじい悲鳴が聞こえて来る。

それはつい先ほどまで喋っていたパルデスの物とは違う声だった。

 

《うわぁぁぁっ!?》

《嫌だぁっ!!》

 

その叫び声を聞いていたクルーの一人が、「まさか」と思いながらレーダーを見て、サッと顔を青ざめさせた。

 

「味方艦が、次々とレーダーからロストしている……」

 

静かになった艦橋に、誰かが息を呑む「ヒュッ」という音が響く。

それと共に、勝手に切り替わるメインモニター。

クルー達がそちらに目をやれば、そこには宇宙空間に浮かぶ友軍の戦艦の姿が有った。

 

『ドスッ!!』

 

メインモニターを見ていたクルー達にも、一瞬何が起こったのか理解出来なかった。

友軍の戦艦の上空にある宇宙空間が揺らいだかと思えば、その場所から突如として現れた触手の様な物が艦体を貫いたのだ。

その様は、まるで水中から現れた怪物が、外に居る者を捕食しているかのよう。

 

《死にたくないっ、死にたくないっ!!》

《お母さぁぁぁんっ!!》

 

悲鳴と爆発音が響く通信は、まるで地獄の二重奏とでも言うべき惨状を晒していた。

そして閃光と共に、友軍艦は爆散していくのだった。

 

《が、まずは役目を果たせなかった者達の処分が先だ》

 

凍り付いたかのような艦橋に、どこか楽し気なパルデスの声が反響する。

見る見るうちに味方艦は刈り取られて行き、やがて……

 

「味方艦、全艦撃沈、残りは本艦のみです」

 

恐怖に震える声で、レーダーを見ていたクルーが報告を告げる。

これでもう味方はいない。それに脱出しようにも、人知を超えたような手段でパルデスによって粛清される。

 

『絶望』の二文字が、クルー達の脳を占めていく。

このまま自分達も処分されてしまうのか……そう思っていたのだが、最後の味方艦が撃沈した後、パルデスの動きは何故かピタリと止まった。

 

「一体どういう事だ?俺達を見逃すつもりか?」

 

困惑するクルー達。

その中に混じる『もしかして助かるかも?』という淡い期待。

 

が、その期待は、他ならぬパルデスの口から否定される事となる。

 

《さて、と、何故君達の艦だけ攻撃しないのか、今きっと疑問に思ってるだろうね》

 

まるで心の中を見透かしたかのようなパルデスの言葉に、ギクリと艦橋に居た全員が固まる。

そんな空気を知ってか知らずか、再び笑い声を零した後に、パルデスは語り出す。

 

《この艦隊を編成した理由は二つ有る、一つは『エスメラルダ軍の足止め』、コレは成功した》

「足止め、だと?」

《君達がエスメラルダ軍に勝てるとは思っていないよ、あくまでベリアル様が率いる本隊をエスメラルダへ速やかに上陸させる為の作戦さ》

 

クルー達は愕然とした。

この大艦隊は……俺達は囮だったという事なのか?

 

そして、その困惑から抜け出す前に、パルデスは更なる衝撃的な事実を告げる。

 

《そしてもう一つは……キャプテン、君だよ》

 

その言葉に、艦橋に居たクルー達全員の視線が、キャプテンの方を向いた。

相変わらずボロボロのまま床に倒れ伏しており、変わった様子は無いように見える。

こんな奴に、一体パルデスは何を求めているのだろうか?

 

そう思っていた時だ。

 

「……やっぱり、コレが目的だったって訳か」

 

キャプテンが笑い交じりの声で呟き、ゆっくりと立ち上がる。

その様子に、クルー達は驚愕した。

あの時、間違いなくキャプテンは両足を撃ち抜かれた筈、本来なら立ち上がれるはずが無いのだ。

 

それなのに何故……と困惑に染まるクルー達の前で、キャプテン指の間に引っ掛けるように持っていた物を、眼前へと晒す。

 

《おめでとう、これで君は人知を超えた存在となる》

 

キャプテンが持っていたのは、カラになった注射器だった。

それを背後へと放ると、放物線を描いて飛んで行き、やがて床へと叩きつけられる。

 

「うっ、うわぁぁっ!?」

 

先程キャプテンを撃ったクルーが、パニックのあまり銃を乱射した。

何発もの弾がキャプテンへと殺到し、ジュストコールに穴を開けていく。

普通の人間なら間違い無く即死しているだろう。

 

しかし、キャプテンはまるで退屈したかのように欠伸をしているだけだ。

パラパラという音と共に、発射された筈の銃の弾頭が、潰れた状態で床へと落ちていく。

 

「うっ、嘘だ……」

「生憎と、俺はもう人間を卒業したんだ」

 

ボコリ……ボコリ……

 

その言葉と共に、まるで膨張するかのように膨らんでいくキャプテンの体。

 

「うおぉぉぉぉ……俺は……オレハ……」

 

やがて服が耐え切れずに破れると、中から覗くのは暗褐色の岩のような表皮。

そして頭部と背中からは、まるで赤熱した鉄の如く光るヒレが生えていく。

 

「オレノ名ハ『ザウラー』……偉大ナル宇宙海賊『キャプテン・ザウラー様』ダァァァァッ!!」

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