悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第九十三話【守護者たちは遭遇する】

「刻限まであと30分程ですが……」

「うむ……」

 

惑星エスメラルダが属する星系の外縁部、宇宙船の航路からも外れ、普段なら調査船ですらやって来るか来ないかも分からないような辺鄙な場所、そこにエスメラルダ軍が誇る大艦隊が集結していた。

星系の防衛にあたる主力艦隊は6000隻もの物量を誇る星系最大の物で、エスメラルダ文明圏の盟主を名乗るに相応しい規模だ。

 

その大艦隊が何故こんな場所に居るのかと言えば、全てはこの宙域を偵察していた守備艦体の緊急通信から始まったのだが……

 

「案外呆気ない物でしたね」

 

肩の力を抜き、軽口を叩く艦長の言葉を背に、艦隊を率いる老練な司令官は、年輪のような皺に囲まれ、少々落ち窪んだ目を細めて敵を睨む。

 

緊急通信を受けてこの艦――旗艦『キングエメラルダス』が率いる主力艦隊が駆け付けてみれば、目の前には宇宙空間にひしめき合うように敵の大艦隊が広がっていた。

奮闘し、消耗していた守備艦体からの報告によれば、元々は5000隻居たものの、30数隻は撃沈したとの事だ。

 

そしてその流れのまま艦隊戦に移ったのだが……

 

「あまりにも、脆いな」

 

敵のあまりの脆弱さに、司令官は指で摘まむ様に蓄えられた顎髭を触りながら、考えに耽る。

 

調査によれば、敵――ベリアル銀河帝国の戦力は強大にして精強との事だった筈だ。

既に複数の惑星を占領し、広大な宙域をその勢力圏に収めている。

 

特にベリアル側に付いたニュークシアの技術は凄まじく、惑星破壊兵器を実用化する程であり、かなり昔の事とはいえ一度はエスメラルダ軍にも勝利しているのだ。

だからこそ万全の準備を整えて迎撃したのだが、それにしては拍子抜けとでも言えばいいのか。

 

「罠か、いや……」

 

自分達を誘き寄せる罠の可能性が脳裏を過るが、それにしてはあまりにも大規模な艦隊だ。

これだけの艦隊を用意すのには並大抵の事ではない筈。

それこそ()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな事を考えながら、艦橋のガラス越しに、遠くに漂う残り50隻ほどになった艦隊を眺めていた時であった。

 

≪ピカッ!!≫

 

突如として、敵艦の停泊しているであろう場所から眩い閃光が迸る。

 

「何事だ!?」

「敵艦の反応が一隻ロスト、爆沈した模様です」

「誰か攻撃したのか!!」

 

司令官の怒鳴り声に艦橋が慌ただしくなる。

オペレーター達が右往左往しながら情報を収集し、その結果を伝えていく。

 

「我が方からのエネルギー反応は無し、ビーム砲を発射された形跡は有りません!!」

「リンクデータを確認、我が方からの攻撃は確認されず!!」

「一体どういう事だ……」

 

起こった出来事に司令官は困惑し、その他のクルー達も隠し切れない不安を覗かせる。

一体何が起こっているのか?分からないままに次から次へと敵艦は破壊されていく。

 

「攻撃が止まった?」

 

しばらく爆発が続いた後にパタリと攻撃が止み、先程の混乱が嘘のような静寂が訪れた。

無慈悲な破壊の末、残されたのは漆黒の宇宙の中にはポツリと一隻だけ浮かぶ敵艦。

 

破壊されず残されたその敵艦がどういう意図を持っているか分からず、司令官は「ううむ」と唸る。

ここは偵察部隊を先行させ、調査させるべきか……

 

「敵艦からの通信です!!」

「……繋げ」

 

どうすべきか考えていた所へ通信士からの報告が入る。

その報告を聞き、司令官は一旦は偵察部隊の出動を棚上げし、通信を繋ぐよう指示を出した。

上手くすれば、この状況の詳細が掴めるかもしれない。

 

《誰かっ、誰か助けてぇっ!!》

 

が、実際に通信が繋がった瞬間、その考えは霧散した。

その内容は報告でも連絡でもなく、ただ助けを求める混乱した声だった。

 

「落ち着け!!まずは君の所属と名前を……」

《そんな事をしてる場合じゃねぇ!!早くっ、早く助けを寄越してくれ!!》

 

恐怖に怯え、錯乱する男の声。

それを聞いていた通信士だが、ある違和感に気付いた。

 

「君の他に誰かいるのか?先程から衝突音の様な物が聞こえるが、一体何なんだ?」

《ばっ、化け物に殺されるッ!!ドアがっ、ドアが破られちまうッ!!》

「化け物だと?」

 

通信士が呟いた瞬間、一際大きい轟音と共に、男の声がピタリと止んだ。

代わりに聞こえるのは、過呼吸のような小刻みな呼吸音だけ。

 

そして……

 

《嫌だっ、いや……》

 

怯えた男の声が≪ブチュッ!!≫という何かを潰すような音と共に途切れた。

 

「司令官、どうしましょう……」

「特殊部隊を強行突入させ、敵艦内を調査させろ」

「了解」

 

何であれエスメラルダに迫る脅威は祓わねばならない、そう考えた司令官は、危険を承知で特殊部隊を敵艦へと侵入させるべく指示を出す。

それを受けた通信士が、特殊部隊が搭乗する艦へと通信を繋げようとした時だった。

 

「あれは何だ!?」

 

観測員の声に、艦橋に居た全員の視線が敵艦へと集中する。

先程よりも距離を近づけた事で、艦の全景がハッキリとしてきた。

 

そして、その光景の異常さに、司令官は息を呑む。

 

「あれは……」

 

敵艦の艦種自体は、文明圏では一般的な戦艦と似たものだ。

おそらくはどこぞの戦艦を真似て建造されたのだろう。

 

だが、その艦橋だけは、まるで膨張する風船の如く膨らんだ形をしている。

そして、その膨らみは刻一刻と増していき、やがて卵の殻を破るかのように装甲が割れ、その中身が姿を現した。

 

≪グオォォォォォ!!≫

 

艦橋だったモノの中から出て来たのは、まるで巨岩のような一体の巨大な怪獣だった。

ゴツゴツとした暗褐色の表皮と、体中から生えた赤いヒレのような物。

そんな怪獣が、ブチ破られた艦橋の上に立ち、雄叫びを上げている。

 

そして、その怪獣はギロリと此方へと視線を向けたかと思うと、凄まじい勢いで宇宙空間へと飛び上がり、艦隊へと急接近をして来る。

危機的な状況にハッと意識を戻した司令官は、すぐさま部下へと怒鳴りつけるように指示を出した。

 

「撃てぇっ!!」




【メカ解説】

エスメラルダ軍宇宙艦隊総旗艦『キングエメラルダス』

全長:850メートル

『武装』
・エメラルレンズ収束型大口径レーザー砲×1門
・400mm4連装エメラルレーザー砲×7門
・300mm3連装エメラルパルスレーザー砲×5門
・艦尾ミサイル発射管×6門
・艦尾ミサイル発射管×6門
・艦橋後部ミサイル発射管×4門
・艦橋後部ミサイル発射管×4門

『解説』
エスメラルダ軍宇宙艦隊が保有する最大の艦であり、艦隊の総旗艦として建造された。
艦名の由来は、惑星エスメラルダを統一した初代のエスメラルダ国王の名前である。

艦隊旗艦に必要な強力なデータリンク能力と、高度な軍用コンピュータによる予測計算により、必要な戦略をすぐに整えて艦隊の隅々にまで指示を贈る事が可能。

さらに、その武装も強力無比であり、搭載された『400mm4連装エメラルレーザー砲』は、通常兵器の中では文明圏の中でも最大口径で最も強力な物である。

そして本艦の特筆すべき点としては、戦略兵器として搭載された『エメラルレンズ収束型大口径レーザー砲』の存在が挙げられる。
これは薬室内部に搭載されている特殊なカットを施されたエメラル鉱石のレンズに、複数のエメラルレーザーを照射・収束して撃ち出す物で、その威力は小惑星すら打ち砕く凄まじい威力を誇る。

しかしエメラル鉱石資源が豊富なエスメラルダにおいても、この兵器に採用されたレベルの巨大かつ透明度の高いエメラル鉱石の確保は困難であり、いまのところ、この艦一隻のみが搭載する兵器である。
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