悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第九十四話【手懐け】

《ほう?貴様はコレを狙っていたのか》

「ええ、彼はベリアル様とレイブラッドの力を受け入れた器、切っ掛けを与えて体内の残滓(ちから)を覚醒させたのです」

 

俺は艦橋の窓越しに、エスメラルダの艦隊を蹂躙するキャプテン――ザウラーの姿を眺める。

 

『恐竜戦士ザウラー』

前世のウルトラシリーズの知識に有った怪獣で、元々は『ベリアル銀河帝国』本編に登場予定だったものの、諸事情でボツとなってしまったキャラクターだ。

ミラーナイトがアイアロン、ジャンボットがダークゴーネとマッチメイクしていたように、本来ならグレンファイヤーに対峙する筈だった存在。

 

「名前を聞いた時はまさかと思ったが……」

 

元々は実験がてら、体内のベリアル因子を活性化させる薬を試そうと思っただけだった。

注射器を渡し、そして名前を聞いた瞬間、俺は驚愕と共にその『ザウラー』という存在に可能性を感じた訳だが、やはり間違ってはいなかったようだ。

 

「それにしても、流石はグレンファイヤーの対戦相手なだけあるな」

 

怪獣として覚醒したザウラーの戦闘能力は「凄まじい」の一言だ。

俊敏な機動性で戦艦のビーム砲を易々と回避し、固い装甲や爪で戦艦のシールドをものともせず貫き切り裂いていく。

 

そして最も恐ろしいのが口から吐く熱線である。

先程から何度か戦艦に当てているが、一発でバターの如く戦艦の装甲を溶かしつくし、数瞬の後に爆沈させてしまう。

 

それにしても、やはりベリアル因子の威力は凄いな、まさかここまでとは……

次々と爆沈していくエスメラルダの軍艦を見ながら、俺は改めてベリアル様の恐ろしさを思い知る。

 

……が、やはり数の差というのはいかんともし難い物で。

 

「何時間かかるんだ?コレ……」

 

今のところ、ザウラーが敵艦を破壊していくペースは1分に1隻、十分にハイペースである。

だが、敵艦の数は6000隻だ。計算してみると……

 

『約4日と4時間程デス』

「はぁ!?そんなに掛かるの!?」

 

アナライザーからの答えに、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

まさか4日間以上になるとは、流石に時間が掛かり過ぎである。

 

『もう間モ無くマレブランデスのワープアウトでス』

「戻られたら面倒臭いな……いかがいたしますか?ベリアル様」

 

俺がお伺いを立てると、ベリアル様は頬杖をついて、何を今更と言わんばかりに「フン」と声を漏らす。

 

《貴様が立てた作戦だ、自分のケツは自分で拭くんだな》

「……了解しました、早急に敵を処理いたします」

 

ベリアル様の突き放すような言葉と共に通信が切れ、俺は一つ溜息を吐く。

 

仕方ない、か。マレブランデスでも敵の処理は簡単に出来るだろうが、ここはベリアル様からの信用が第一である。

気付いて戻られる前にサッサと敵艦を処理し、早急に戻ろう。

 

そう結論を出した俺は艦長席に深く座り直し、アナライザーへと指示を出すのであった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

《オオオオオオオオッ!!》

 

破壊した艦を足場代わりに飛び上がり、俺は手近な艦を自身の爪で切り裂く。

戦艦の分厚い特殊装甲が、まるで紙でも切り裂く様に簡単に裂け、隙間から部品や逃げ遅れたクルーが宇宙空間へと飛び出して来る。

二度三度と手を振り下ろせば、艦体はひしゃげていき、やがて機関部に損傷が入ったのか爆発する。

 

が、爆風を受けても熱さは感じない。

むしろ心地よい風のようである。

 

今度は本能のままに胸に溜めたエネルギーを吐き出せば、巨大な火柱が敵艦へと向かって行き、装甲を溶かしつくして爆発させる。

 

次々と戦艦を破壊していく中で、俺は多幸感に包まれていく。

体内から溢れ出す力、それがもたらす万能感、まるで階段を駆け上がって行くかの如く増していく高揚感に、その身を任せようとした。

 

『ザウラー、聞こえるかね?』

 

が、突如として脳内に響いた声に出端を挫かれる。

舌打ちと共に前進を止めたザウラーは、敵艦のビーム砲を避けながら、その声へと返答していく。

 

『良い気分だったのに水を差すな、パルデス・ヴィータ』

『すまないね、だが時間が無いのだ、もう間も無く本隊がエスメラルダへと到着するのでね』

 

ザウラーは歯をむき出し、グルルと不機嫌そうに唸り声を出しながら、どういう方法かテレパシーを飛ばしてきたパルデスへと返事をする。

それに対して飄々とした態度でパルデスは返事を返してきた訳だが、その内容にザウラーは激怒した。

 

『お前!!やはり俺達を囮にしやがったのか!!』

《グルアァァァァァッ!!》

 

怒りのままに雄叫びを上げ、ザウラーは目の前の敵艦へと体当たりをする。

哀れな敵艦は、艦体の中央に巨大な穴を開けられることとなり、そのまま爆散した。

 

『すまないとは思っているよ、だが結果的には良かっただろう?君は君の目的を果たすのに十分な力を手に入れたではないか』

『ああそうだな、だがお前の掌の上で転がされてたのが気に食わねぇ』

 

そう言うとザウラーは不機嫌そうに火焔を吹きかけ、また一隻哀れな戦艦を溶解し爆散させる。

常人が見れば恐ろしさに腰を抜かすだろう光景ではあるが、パルデスの声からはそのような気配は感じず、むしろどこか楽し気な物だ。

 

『まあそう言うな、お詫びと言ってはなんだが、ベリアル様に口添えして幹部の座を用意させよう』

『はぁ!?俺は海賊団の復活の為にお前に協力してやったんだぞ!!』

 

遠回しに「自分の目的を諦めろ」と言っているに等しいパルデスの言葉に、ザウラーは文句をつける。

が、パルデスから帰って来たのは溜息と共に呟かれた『やれやれ』という言葉であった。

更に怒りのボルテージを上げたザウラーが反論しようとするが、それは次にパルデスが発した言葉によって飲み込まれる事になる。

 

『よく考えてみたまえ、一生を海賊という賤業に捧げて宇宙の闇の中で這いずり回るか、それとも覇権国家の上席に座して甘い汁を吸うか、どちらの方が利が有ると思う?』

『ぐっ……』

 

思わずザウラーは言葉に詰まる。

 

そう、ザウラーにとって海賊をやっていた理由は何かと言われれば、普通に金や女だ。

資源を略奪し闇マーケットに流し、貴金属や金を略奪すれば湯水のように使って豪遊し、女を奪えば飽きるまで慰み者にする。

そこに“誇り”などという感情は一切介在せず、むしろ「そんな金にならない物」と馬鹿にしていた。

 

そんなザウラーにとって、この提案は「実に魅力的である」のは事実であった。

 

既に複数の惑星を掌握し、更にはエスメラルダまでその掌中に収めようとする程に力の有る国家。

その幹部ともなれば、どれ程の富と権力が手に入るだろうか?

 

『……分かった、アンタに従う』

 

少なくとも、一生どころか百回生まれ変わって宇宙海賊をしたとしても、まず手に入らないような物を手に入れる事が出来るだろう。

結論へと至ったザウラーは、先程までの態度が嘘かのように、パルデスへと恭順の意思を示した。

 

対するパルデスは少しの笑みを漏らし、そして告げる。

 

『じゃあ君には次の仕事をやろう』

 

その瞬間、ザウラーの肌を凄まじい悪寒が走った。

 

何かが、来る……

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「撃て!!あの怪獣を仕留めろ!!」

「ダメです、艦砲が当たりません!!」

「イオライト、オニクス、アルマディン、撃沈!!」

 

エスメラルダ軍艦隊の旗艦であるキングエメラルダスの艦橋は混沌とした雰囲気に包まれていた。

先程までは易々と敵艦を葬っていたのだ、それが今では逆転してしまっていた。

 

たった一匹の怪獣によって、狩る側から狩られる側に。

 

「後退だ!!後退しろ!!」

 

司令官が艦隊に指示を出した瞬間だった。

 

突如として、怪獣の動きがピタリと止まった。

そしてそのまま、艦隊との距離を開けるように後退していく。

 

何が起こったのか?司令官がそう思った瞬間、異変は訪れた。

 

「レーダーに反応有り!!」

 

目の前のレーダーを見ていたレーダー手が叫ぶ。

 

「敵か?方角は!!」

「敵方角……これは!?」

「どうした!!迅速に報告しろ!!」

 

レーダー手は困惑した表情と共に言葉を詰まらせる。

それに対して一刻も早く情報を知りたい司令官は急かすが、次にレーダー手が発した言葉に耳を疑った。

 

「敵は……艦隊直上です!!」

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