【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】 作:hasegawa&friends
――――エキシビションッ!!
※頂いたお題※
『魔法少女系の作品をあまり知らないけど、偏見まみれでプリキュアっぽいものを書いてみた』って趣旨の、魔法少女作品を2~3部作でお願いいたします!
【条件】
・『hasegawaさんの考える魔法少女もの』に沿った作品であること。(つまりは、既存の魔法少女作品にとらわれず、好きに書いていただいてOKです)
・ジャンルはなんでも構いません。
ギャグでもシリアスでも……例えば最初の1文が「大日本帝国万歳!!!!」でも、私は今更驚きはいたしません____いたしませんとも。(フラグ)
・基本、2~3部作であること。
劇場版をイメージした感じでお願いいたします。
よろしくお願いします!!
※作者注※
イメージは劇場版という事で、誠に勝手ながら【3万文字の作品を一本】という形です。
別に2~3部作に分割しても構わなかったんだけど、せっかくだから一気に読んでみて!
そして私は男の子なので、プリキュアという物を観たことも無ければ、魔法少女のこともロクに知りません。
今回大輪愛さまは、【それを承知の上で】リクエストを下さっておりますゾ。
魔法少女系の作品をあまり知らないけど、偏見まみれでプリキュアっぽいものを書いてみた (天爛 大輪愛さま 原案)
―prologue―
…Oh,him?
プリキュアの事か?
Yeah. I know him.
ああ、知っている
It’s going to take a while.
話せば長くなるな
It happened years ago.
そう、古い話さ
Did you know
……知ってるか?
there are three kind of aces?
プリキュアは、3つに分類できる
Those who seek strength,
平和と笑顔を求めるヤツ
those who live for pride,
“カワイイ”に生きるヤツ
and those who can read the tide of battle.
客の需要が読めるヤツ
Those are the three.
この3つだ
But him…
だが、アイツは……(目逸らし)
◆ ◆ ◆
昭和32年、冬。
世間は“プリキュア”という魔法少女ブーム、一色であった――――
『プリキュアって凄いよな! プリキュアは最高さ!』
『うんうん! プリキュアってイカスわよね~! とってもクールだわ!』
誰もがラジオや新聞に噛り付き、口々にプリキュアへの憧れを語った。
プリキュアに想いを馳せ、プリキュアの背中に夢を見たのだ。
『最近さ? 【そーしゃるでぃすたんす☆ プリキュア!】っていう子達が出てきたらしいぜ?』
『わーお! 新しいプリキュアの誕生ねっ! アタシぜったい応援する♪』
そんな時世の中、突然飛び込んで来た鮮烈なニュースに、人々はまさに狂喜乱舞。
学校で、職場で、商店街で、奥様方が井戸端会議をする公園のベンチで――――
日本中どこに居ても「プリキュア万歳! プリキュア万歳!」と両手を振り上げている人々を見る事が出来た。
お菓子やジュース、魚肉ソーセージのみならず……、あらゆる商品、あらゆる物の名前には、プリキュアのロゴや関連イラストが使用された。
プリキュアと名の付く物は、空に羽ばたいていくハトの群れのように、まさに飛ぶように売たのだ。
希少なレア物を手にしようとする客達は、店の前に数キロにも及ぶほどの長い列を作るどころか、時に濁流と化して「ひゃっはー!」と暴動を起こしては、警官隊に鎮圧される事も、決して珍しくない。
至極当然のように生まれる、忌むべきクソッタレな転売行為や、本家に無許可で作られた偽物の中国製商品の存在。
そして戦時中にはよく、お米を手に入れる為に利用していた事でも記憶に新しい、“闇市”のような物(通称闇キュア市)までが日本中に氾濫。
夢と希望に溢れた“プリキュア”という物のイメージとは裏腹に、これは現在政府が頭を悩ませる、大きな社会問題ともなっている。
つい最近、与党の推薦を受けて立候補した、とある者が掲げる選挙公約に「誰もが心からプリキュアを楽しめる世の中を!」という物があった程だ。
これもひとえに、プリキュアという物の眩しさや、キラキラ輝かんばかりの素敵さ、そして比類なき素晴らしさの表れ。
それは最早、社会現象などという言葉では
キリストやビートルズの誕生と同じく、まさに空前絶後のセンセーション! もうプリキュアが無い生活なんて考えられないっ! プリキュア無しでは生きていけないッ! いやんいやん!
どれほど人々がプリキュアに熱中しているか! どれほどプリキュアを愛しているか! という事の裏返しでもある。
『プリキュアの為なら死ねる!
水と空気とプリキュアがあれば、生きていける!』
『プリキュアおかわり! プリキュアをじゃんじゃん持ってこい!
金ならいくらでもあるぞ!』
『プリキュアこそ至高ッ! プリキュアにあらずんば人にあらずッ!
皆殺しじゃあああーーッ!!』
『プリキュアばんざぁぁぁい!
プリキュア達に栄光あれぇぇーーッ! ぎゃあああああ!!!!』
『貴方はぁ~、プリキュア↑(訛り)を~、信じますかぁ~?
プリキュアとはぁ~、愛デース!』
人の喜びも、人の悲しみも、笑顔も涙も生も死も、全てプリキュアによって与えられる。
世界中で起こる、ありとあらゆる運動、行為、争いが、プリキュアの名の下に執行された。
人はプリキュアを通して、物を見る。
プリキュアの姿から、尊い人間性や、正しい倫理を学ぶ。
プリキュアの生き様を元に、日本国憲法は作られたのだ。
いま世界は、プリキュアと共にある。
石油や、ガスや、電気なんて目じゃない。“太陽”だ――――
今の時代、世界はプリキュアによって動いていると言っても、決して過言では無かった。
老いも若きも、男も女も、プリキュアの話。みんなみんなプリキュアに夢中。
このたび新しく誕生したという、【そーしゃるでぃすたんす☆ プリキュア!】への期待に胸を膨らませ、日本中がマグマのように湧きたっていた時代。
新たなる星の誕生を、まるで全ての生き物たち、全ての生命が祝っているかのような、人類史上まれに見る、特別な時。
――――しかし、それらの話題に全く耳を傾けようともしない、ただ一人の“少年”がいた。
◆ ◆ ◆
「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
2月の末。冷たい風と白い雪が吹きすさぶ、ただっ広い空地。
もうとっくに日は沈み、弱々しくて頼りない街灯の灯りだけが、この場を照らすのみ。
そこに今、地面に倒れ伏し、苦しそうな声を漏らしている、まだ幼い男の子の姿がある。
きっと今ごろ、彼と年頃を同じくするクラスメイト達は、こんな冷たさなど微塵も届かない温かな家の中、愛する家族と共に食卓を囲み、美味しい料理を食べている事だろう。
そしてプリキュアの話などをしつつ、幸せな時を過ごしているハズだ。
けれど、そんな当たり前のどれもが、
彼に与えられるのは、子に対する愛情やぬくもりではなく、もう使い古されてボロボロになってしまった茶色い“グローブ”と、石のように固くて冷たい“白球”のみである。
「くっ……クソッ!」
ヨロヨロとその場を立ち上がる。ぶっ続けで数時間にも及んだ苛烈な“しごき”により、もう足がガタガタと震えているのが分かる。
それでもなんとか立ち上がり、手の中にあるボールを握りしめ、大きく腕を振りかぶった。
「二百九十一! 二百九十二!」
少年が満身創痍の身体で、懸命に投げ放つボール。それが眼前に立つ中年男のグローブに収まり、バシーンと甲高い音を響かせる。
その度に、冷徹さを感じさせる厳しい声が、少年に向かって放たれた。
「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
「どうしたぁ! そのくらいの事でへばるなど、情けないと思わんのかッ!!」
ビシュッと風切り音を立てて飛んで来る、不必要なほどに力強い返球。
大人の力で投げられ、叱咤の意味が込められたそれを捕球した途端、少年の身体は大きくぐらつき、また地面に倒れ込んでしまう。
「全身で投げるんだッ!! 腕だけじゃなく、全身を使えッ!!
そうらッ、あと8球ぅー!!」
そう大きな声で告げても、少年はなかなか起き上がる事が出来ない。
とっくの昔に体力は尽き果て、もう身体を動かすことも、雪でかじかんだ指を開くことも出来ない。
厳しい寒さによって赤くなった手は、もう所々ツメが割れてしまっており、痛々しく血が滲んでいる。
「――――何をしてるッ! 立て
怒声が飛ぶ。決して逆らうことを許さぬ、強い声が。
「投げろッ! 投げとおせッ!!
――――この
未だ地面に蹲りながらも、懸命に身体を動かす。たった一人の父親の方へ、まっすぐ顔を向ける。
ぶっとい眉毛が添えられた、とてもキラキラした大きな瞳から、滝のように涙を流して。
「さぁ後8球だッ!! 立て! 立つんだ飛雄馬ッ!!
お前は日本一の、
「――――待ってくれ父ちゃん! これ
なんでプリキュアになるのに、野球の練習するんだ!」
「黙れ飛雄馬ッ!! 口を動かす暇があったら、手を動かせッ!!!!」
一徹の投げた剛速球により、飛雄馬は「ぐえっ!?」っとか言って、おもいっきりブッ飛んだ。
◆ ◆ ◆
「どんな子達なんだろうな~! そーしゃるでぃすたんす☆ プリキュア!」
「きっと強くてカワイイんだろうなー! 早く活躍が見てーよ!」
ある日の早朝。ここは飛雄馬が通っている、小学校の教室。
いま彼のクラスメイト達は、いつもの如くみんなで集まり、ガヤガヤとプリキュアの話に花を咲かせいた。
これは、我が日本国における日常の光景であり、この小学校のみならず、全国各地のあらゆる年代のちびっ子たちが、毎日毎日飽きる事なくプリキュアの話をしているのだ。
詳しい理由は定かでは無いが、いつもプリキュアと呼ばれる魔法少女に覚醒した者……、いわば世界の平和を守る戦士達が誕生するのは“年に一度”。
毎年のように、ちょうど春アニメが始まろうとするこの時期に、日本の都市のどこかでプリキュア達が誕生し、その存在が確認されるのだという。
史上初めてプリキュアという魔法少女の存在が、我々人類に認知されてから、早15年。
魔法少女として覚醒した者達は、その年を代表するプリキュアとして戦い、春になったら新しい子達と交代するように、入れ替わり立ち代わりしながら、地球の平和を守ってきたのだという。
(時には“続投”という形で、数年に渡りプリキュアとして活躍した、凄い人達もいるらしいが)
ゆえに、15年前にプリキュアという存在が誕生してからというもの、ちびっ子たちの話題となるのは常にプリキュア。これは不変となっている。
プリキュアの活躍を応援し、プリキュアの引退を涙ながらに惜しみ、そしてまた春になれば、新しいプリキュアを迎え入れる。
いま現在、世界はこのサイクルを繰り返しながら、まわり続けている――――
「話によると……今度プリキュアになったのは“小雪ちゃん”っていう女の子で、以前はすごく病弱な子だったらしいぜ?」
「もう一人は“愛叶ちゃん”だったっけ?
ピンク髪で、ラノベみたいなリボンをしてる、おっぱいが大きい子!」
「あともう一人、爆乳ナイチンゲールこと力石さん、って人がさ?」
わいわい、ガヤガヤ。
まさにこんな擬音が相応しい様子で、クラス全員が教室の中央に集まり、プリキュアについて語り合っている。
みんな心から楽しそうに、和気あいあいと盛り上がっている。
けれど……、その中でただ一人だけ、苦い顔をしながら黙って自分の席に座る、飛雄馬の姿があった。
「なぁ、今度の子達は、どんな必殺技を使うのかなぁ?
やっぱし、“そーしゃるでぃすたんす”が関係してくんのかな?」
「立ち位置の間隔を、充分にあけながら、敵と戦うんだ。
感染拡大の予防に配慮しつつ、遠距離から魔法をぶちかますのさ!」
「でもそれ、なんかメンバー同士が、ギクシャクしてるみたいじゃない?
会ったばかりで良く知らないし……、まだ距離感も掴めてないんです……。
同じプリキュアってだけで、別に友達ってワケじゃないし……。みたいな!」
「プリキュアなのに人見知りかよ!?!? 夢も希望もねぇ!!!!
でもそれ新しくね? 新しい魅力じゃね? ぎゃはははは!!」
ふいに今、クラスの中でもガキ大将として名を馳せている一人の子が、大きく笑い転げながら机にもたれかかって来た。
それによって飛雄馬のえんぴつが変な方向に動き、せっかくやっていた宿題のプリントに、余分な線をひいてしまった。
「うっ――――うるさぁぁぁあああいッッ!!」
いきなり大声を上げて、おもいっきり机をひっくり返した。
それにもたれかかっていたガキ大将は、飛雄馬が投げ飛ばした机と一緒になって、ゴロゴロと床を転がってしまう。
当然のことながら、このあまりに突然の出来事に、さっきまで楽しかったクラスの雰囲気が、一気に凍り付く。
「毎日毎日、プリキュアの話ばかりッ!
いい加減にしろよお前らッ!!」
ノートやえんぴつが散乱する中、飛雄馬が怒りを籠めた声で一喝する。
だがクラスメイト達は、みんなポカンとした顔。なぜ自分達が怒られているのか? もっと言えば、なぜ飛雄馬が怒っているのかが、まったく理解出来ずにいる。
「な……なんでぇお前! ふざけやがって!
プリキュアの話して、どこが悪いってんだよぉ!?」
飛雄馬によって弾き飛ばされた男の子が、「むきー!」とばかりに立ち上がり、即座に飛雄馬に掴みかかっていく。
それを機に、ようやくクラスメイト達の硬直も解け、みんな一斉に飛雄馬を批難し始める。
「そうだよっ! 君がプリキュア嫌いなのか知らないけど、話の邪魔するなよっ!
しかも暴力だなんて、酷いじゃんか!」
「なんで怒るんだよ! なんにも悪いこと言ってないのに! おかしいだろ飛雄馬!」
「言論の自由は、国が保障しているッ!
気に喰わないというのなら、日本から出て行きたまえよ! ここは法治国家だッ!」
「YEAH! プリキュア万歳☆ プリキュア万歳☆ うけけけけ!」
中には机の上に乗り、クネクネ踊りながら「プリキュア~☆」と煽り出す者まで居る。
その姿を見た途端、飛雄馬の頭にカーッと血がのぼり、ガキ大将に掴まれている胸倉をバシッと外してまで、そのお調子者に走り寄って行った。今すぐ黙らせるとばかりに。
「プリキュアの話は、よせと言ったろうッ! 俺を怒らせたいのか!!」
「くっ……!? 苦じぃ! たしゅけてぇー!」
飛雄馬の鍛え上げられた剛力により、その子の掴まれた襟元がグイッと締まっていき、もう泣きそうな声を出してしまっている。
軽い冗談のつもりが、こんなにも飛雄馬を激怒させるだなんて、これっぽっちも思っていなかったのだろう。クラスメイト達はみんなあっけにとられたように、怒り狂う飛雄馬の姿をただ眺めるばかりだ。
「――――こいつぅぅ!! 飛雄馬ぁぁぁあああーーッッ!!!!」
「うぐっ!?!?」
もう我慢ならない。ぶっ倒してやる!
そう義憤に駆られたガキ大将の子が、えーいとばかりに飛雄馬を投げ飛ばす。壁に背中を打ち付け、肺の中の空気が外に押し出される。
「へっへーん♪ ざまぁ見ろ飛雄馬! あーっはっはっは!」
「「「あははは! あははは!!」」」
みんなの笑い声が教室に響く。
痛そうに背中を摩っている姿を見て、だっせぇ情けねぇと口々に嘲り、大きな声で笑う。
その光景と恥辱に、飛雄馬はついにプチンと切れてしまい、目にも止まらない程の速度で駆け出し、ガキ大将を飛び蹴りで吹き飛ばす。
いかにその子が太っていて、とてもガタイが良くとも、日々鍛えている飛雄馬にとっては、まさに大人と子供。そのくらい喧嘩の実力に差があり、下手をしたら弱い者いじめになってしまう程だ。
ゆえに飛雄馬は、普段は決してこんな事はしない。せっかく一生懸命に鍛えた力を、友達を殴るために使ったりはしないのだ。
けれどもう、火が着いて止まらないほど、飛雄馬は怒り狂っていた。
教壇の傍にあった花瓶が割れ、窓際のカーテンがビリビリになり、女の子たちが悲鳴を上げて泣き出してしまうくらいに。
周りの者達は、本当に不思議に思った。
なぜ飛雄馬が怒っているのか。なぜプリキュアの話をしちゃ駄目なのか。それがまったく分からなかったから。
こいつおかしいんじゃないか? という批難の目で、誰もがこちらを見つめている。
――――何がプリキュアだ! 何が世界の守り手だ!
――――――俺の父ちゃんだって! ホントは……! ホントはッ……!!
彼が胸に抱える、そんな悔しさの事など、知る由も無く。
◆ ◆ ◆
「何をボンヤリしているんだッ!
さぁ後200球だ! 来い飛雄馬ッ!」
今日あった出来事を思い出し、暫し月を眺めていた。
もう辺りはすっかり暗くなり、月明りが眩しく感じる、ただっ広い空地。
そこで今、飛雄馬が無言でグローブをはめ直し、眼前に立つ父親のミット目掛けて、投球をおこなった。
「ん!? ……なんだこの気の抜けた球はッ!!
まるで力が入ってないぞッ!!」
即座に見抜かれる。いま飛雄馬が「心ここに非ず」といったような、気の抜けた投球をしてしまった事を。たったの一球で。
次の瞬間、それを咎めるような鋭い返球が、飛雄馬の構えるグローブ目掛けて飛んできた。
たとえコレをはめていても、父の投げる球は信じられないほど力強く、手にするどい痛みが走る。きっと先ほどのように気を抜いていたら、捕球をミスして指を骨折してしまうだろう。
「ピッチャーとい……ゲフンゲフン!
いや
常に己の全力を持って、ぶつかるんだッ!!」
父の叱咤が飛ぶ。強く厳しい視線が、まっすぐ飛雄馬に向けられる。
「どうしたッ! 聞いているのか飛雄馬ッ!!
分かったらさっさと投げろッ! そのプリキュアボールを、プリキュアミット目掛けてッ!!」
生まれてこのかた、飛雄馬に物心がついてからというもの、このような父の態度は、一貫して変わる事は無かった。
いつも見てきたのは、厳しい顔をする父の姿。聞いていたのは、自分を叱咤する父の怒声のみ。
(父ちゃん……。何だってそう、俺をしごくんだっ。
プリキュアって、そんな価値のあるモンなのかぃ……?
こんなにまでしなくちゃ、いけないモンなのかぃ……?)
どこか悔しさや、やり切れなさを称えた瞳で、父の顔を見つめる。
分からないのだ。なぜ自分が、こんな辛い目に合わなきゃ、いけないのかが。
何故いつも父は、こんなにも自分に辛くあたるのかが。
(なぁ父ちゃん、俺は嫌だぜ……?
プリキュアなんか目指して、父ちゃんの
父の怒声が聞こえる。早く投げろと声を張り上げてるのが分かる。
けれど飛雄馬の身体は、決して動く事無く、ただただ暫しの間、じっと父親の方をを見つめるばかりだ。
現代の常識では考えられない程に、ぶっとい眉毛が……その真剣な表情を形作っている。未来プリキュアとなるべき男の顔を。
「……おっ? なんだなんだぁ~? 深夜の秘密特訓かぁ~?」
「こりゃまた驚いたねぇ~! 身体を鍛えさせるなんざぁ!
今どき珍しい親子も、いたもんだぁー!」
ふいに、この場に知らない声が響いた。
目を向けてみれば、どうやら銭湯帰りであるらしい、風呂桶やタオルを小脇に抱えた中年の男達が、ニヤニヤ笑いながらこっちを見ているのが分かった。
きっと偶然ここを通りかかり、何気なしに星親子のことを見かけたのだろう。
「ははは! どうせプリキュアにでも育ててよぉ?
将来はガッポガッポ稼がせよう~って、そんな魂胆だろうぜっ!」
「けっ! こんな汚ねぇドヤ街から、プリキュアが生まれるもんかい! 無理無理ぃ!
貧乏長屋の親子と一緒にされちゃあ、プリキュアが怒っちまうよ! へへへっ!」
機嫌良さげに、嘲る。
同じドヤ街に住み、夢の為に努力をするどころか、未来になんの希望も持たないような男達が、今まさに血の汗を流しているこの親子に向かって、唾を吐いたのだ。
飛雄馬の視界がカッと赤く染まり、「この野郎!」と叫びながら駆け出そうと動く。
だが、その途端。
「――――飛雄馬ッッ!!!!」
切り裂くような父の声が、飛雄馬の動きを制する。「ハッ!?」とした顔で踏み止まり、思わず父の方を見た。
なんで止めるんだよ父ちゃん……!? あんなヤツラなんて……!
そう批難しようとした飛雄馬であったが、しかし父の真剣な表情を見て、思わず言葉を飲み込んでしまった。
ケラケラと笑いながら去っていく、つまらない者達の事など、微塵も気に留めること無く、星一徹の力強い眼差しは、大切な我が子だけを見つめていた。
そして彼に言い聞かせるように、親としての厳しさを称えた表情で、黙って首を横に振るのだ。
その説得力。その潔さ。その男らしさよ!!
「……ッ! くっ……!」
悔しかった。馬鹿にされたのが。
自分達の努力、これまでの苦労、そして父である星一徹という人間そのものを、何も知らない連中がアハハと馬鹿にしたのだ。
息子であるこの俺の、目の前で!
一度は動きを止めた。父ちゃんの立派さや高潔さだって、ヒシヒシと分かる。全部理解してる。
けれど……だからこそ息子である飛雄馬には、この怒りを抑え込むことが出来なかったのだ。
「うおぉぉぉーー! チッキショーーッ!!」
「ひ、飛雄馬ッ?!」
投球動作に入った! 燃えるような怒りと共に、全身に満ちた力の全てが、左腕に握った白球に込められる!
それを見た途端、一徹は即座に捕球体勢をとる。まるでヒョウのように素早く、洗練された見事な動きで、飛雄馬の球を捕ろうとする。……だが。
「くらえー! ――――プリッキュアァァァアアアーーッッ!!!!(掛け声)」
飛雄馬が投げ放った剛速球が、まるで蛇のように空中でくねくねと曲がり、一徹のミットをスルリとすり抜ける。
そして、物言わぬ無機物であるハズの白球は、まるで意思を持ったかの如く、
「うわぁ! なんだぁ?!?!」
「ぎゃー!! お助けぇ~っ!!!!」
ヘラヘラと笑いながら歩いていた男達は、突然響いた“ガラスが割れる音”に肝を潰す。
そして次の瞬間、自身の頭上から降って来た、数えきれない程のガラス片から、必死で頭を守るようにしながら、その場に倒れ込むハメとなったのだ。
飛雄馬が投げた球は、彼が思い描いた通りの軌跡を描きながら、標的であった民家の窓へ直撃した。
男達の歩く速度を計算し、ちょうどヤツラの頭上にガラス片が降り注ぐタイミングで。しかもあれだけクネクネと曲がっておきながら、針の穴を通すようなコントロールを持って、正確に当ててみせたのだ。
その速度、その軌道、その投球技術。
どれひとつ取ってみても、これを投げた彼が、まだ小学生の男の子であるなどとは、とても信じる者は居ないだろう。
その魔球、まさに
常軌を逸した訓練により可能とされる、凄まじいまでの投球技術。親子で作り出した、奇跡の結晶のようなボール。
もうすでに星 飛雄馬には、“世界を守る戦士”としての片鱗がッ……!?
恐るべき少年……! 驚くべき才能であるッ……!
だが何故、投げる時に「プリッキュアー!」言うのか。
それ言わないと投げられないんだろうか?
「へへん! ざまぁ見ろってんだ! いい気味だぜアイツらっ!」
深夜に鳴り響いた騒音に、「なんだなんだ?」と人が集まり出す。
未だ情けなく地面に倒れている男達が、それにオロオロと戸惑っているのが分かり、飛雄馬は胸がスッとする心地だ。
しかし、
「うわっ!? ……な、何だよ父ちゃん!」
得意げに微笑む飛雄馬の襟を、一徹がグイッと片手で掴み上げる。
そして、そのままズンズン歩き、この場を立ち去っていく。
ジタバタと暴れながら抗議する飛雄馬など、全く意に介さずに。
◆ ◆ ◆
「グッ……! と、父ちゃん! 何するんだよぉ!」
あの男達が言った通りの、ドヤ街にあるオンボロ長屋。
一徹は家の玄関を開けた途端、中に飛雄馬を放り投げた。
畳とはいえ背中を打ち付けられ、飛雄馬は苦しそうに喘ぐ。
「――――馬鹿者がッ!!
あの球は、悪魔の送球と言われた【魔送球】だ!
絶対に使うなと、言っておいたハズだぞッ!! 飛雄馬ッ!!!!」
ビシッと指を突き付け、怒鳴りつける。この上なく真剣な顔で。
未だ床に倒れ伏す飛雄馬は、そのあまりの剣幕におののいてしまう。
「だっ……だって悔しいじゃないか! 癪に障るじゃないかよっ!
俺たちの事、あんな風に言われたら! 父ちゃんが馬鹿にされたらっ……!」
「――――黙れッッ!! そんなことは理由にならんッ!!
お前は世界を守る戦士、全人類の憧れ“プリキュア”となる男ッ!
あれは決して、使ってはならぬ技なのだッ!!!!」
プリキュアは夢! プリキュアは希望! プリキュアとは明日! まさに太陽たる存在なのだ!
そんな女の子の憧れ、ひいては全人類の護り手たるプリキュアが、頭文字に“魔”なんて付く技を、使って良いワケがない。
あの【魔送球】は、悪魔の如き力。けして使ってはならぬ忌まわしき魔球なのだ。
「でも父ちゃん! いったいプリキュアって
ウチは貧乏だから、TVやラジオどころか、新聞すらとってないじゃんか!
だから俺……プリキュアがどういうモンなのか、
ここで衝撃発言――――星飛雄馬はプリキュアを知らなかったッッ!!!!
いつもクラスのみんなが、何やら言っているのは耳にしても、実際プリキュアを見た事なんか無いし、どういう物なのかもよく知らない。知識ゼロなのだ。
飛雄馬は物心がついてからというもの、こんなにも毎日のようにしごかれ、辛い鍛錬の日々をおくって来たというのに。でも肝心のプリキュアの事を、なにひとつ知らないままだった。
だってウチTVないんだもん。ここドヤ街の貧乏長屋だぜ? 昭和32年なのだ。
「愚か者ぉーッ!!!!」バシーン!
しかし、星一徹はその言葉を遮るように、自分の息子にビンタ。
「――――プリキュアはプリキュアだッ!!
プリキュアは何だと問うような者が、プリキュアになれるかッ!!!!」
なんか\ババーン!/と効果音が聞こえてきそうな勢いだが、飛雄馬は「そんな理不尽な」と思った。
説明責任すら果たさず、俺をしごくのか父ちゃん。こんな殺生な話があるか。
「考えるなッ、感じろッ!!
プリキュアは人に教わる物ではなく、
お前のッ! お前だけのプリキュアをッ! 見つけ出せぇぇぇえええーーッ!!」
「――――無理だよ父ちゃん! 俺知らないんだもの!
せめてTV買ってくれ! プリキュアにさせたいんならっ!」
無茶苦茶だよ! 物には順序ってモンがあるよ! ちゃんとしてくれよ!
まだ小学校の低学年である飛雄馬に、至極真っ当なことを言われる一徹であった。
だってプリキュアという“単語”しか知らないんだもん。
「さぁ言ってみろ飛雄馬ッ! プリキュアとッ! 声に出してッ!!
お前はプリキュアになり、プリキュアとして戦い、プリキュアとして生きるのだッ!
プリキュア御殿に住み、プリキュアスリッパを履いて、プリキュア弁当を食べ」
「――――やめろよ父ちゃん! 洗脳すんなよっ!
俺もうプリキュアがゲシュタルト崩壊だよ! 何なんだプリキュアってぇ!!」
知らん! 知らんのだプリキュアを!
飛雄馬はこれまでの訓練により、野球のピッチャーみたいな事は上手に出来るが、プリキュアの事は何ひとつ分からんのだ!
一徹は勢いでゴリ押ししようと、いつも「プリキュア、プリキュア」と連呼するばかりだし。なんなんだこの親父。
「せめて野球にしてくれ!
それだったら俺、ギリ納得できるよっ! そっちにしようぜ父ちゃんっ!」
「うるさいッ! お前はプリキュアとなるのだッ! こっちへ来い飛雄馬ッ!!」
狂ってる! 狂ってるよ父ちゃん! 俺こんな親イヤだよ!
飛雄馬の心の叫びは、どうやっても届かない。“頑固一徹”という言葉もある位なのだ。
「さぁ手を付いて謝れッ! ここに座ってッ!
そして、もう二度と致しませんと誓えッ!」
「い、いやだッ!」
一徹は窓の傍、いわば【夜空の星が見える場所】に正座し、沈痛な面持ちで頭を下げている。だが飛雄馬はそれに倣うことをせず、頑なに抵抗する。
どうしても納得が出来ないのだ。
「なっ……なにぃ!! 飛雄馬ぁぁああーーッッ!!!!」
「おっ、お父さんっっ!!」
思わず掴みかかろうとした一徹を、今まで黙って見守っていた明子が止める。
彼女はこの家の長女であり、飛雄馬とは少し年の離れた、心優しい姉である。
しかし今は悲鳴にも似た声を出し、この場の張り詰めた状況を、必死で止めようとするばかり。
「父ちゃんだってっ、父ちゃんだって悔しいハズだっ!
プリキュアの事はともかくとして……、俺が知らないとでも思ってるのかよっ!」
漫画みたいな、滝のように流れる涙。
まさにスポ魂! と言うべき表現で、大きな瞳を涙で滲ませながら、星飛雄馬が言い放つ。
(当作品は“魔法少女物”です)
「――――新しく誕生した、史上最強! 史上最カワのプリキュア!
秋月 小雪の名を聞く度に、父ちゃんは苦い顔してヤケ酒を……!」
「 黙れぇぇぇえええーーッ!!!! 」
甲高い音が、ボロの貧乏長屋に響いた。
張り手によって吹き飛んだ飛雄馬が、玄関のドアに身体を打ち付ける。
お父さんっ……! 乱暴は止めてっ! お父さん!
そう悲痛な声を上げ、明子は必死に父の腕を掴む。まだ幼い飛雄馬を守るために。
「……いいや、黙らないぞっ! 黙るもんかよっ!
ホントなら、それより十年も先に……!
父ちゃんが【史上最強の名プリキュア】になってたハズなんだぁー!!」
――――嘘つけぇ。みたいな話だけれど、飛雄馬が言っているのは
飛雄馬はプリキュアの事など、これっぽっちも知らないけれど……、だが自分の父親の事や、人々がヒソヒソと話す噂などは、しっかり耳にしていた。
「やっ……やめろッ!! その話はやめろッ!」
「嫌だっ! 言ってやるともっ! 父ちゃんこそが、
でもあの必殺技、魔送球が使えなかったばっかりにっ! 父ちゃんはっ……!!」
「 やめろッ!! やめろぉぉぉーーッ!!!! 飛雄馬ぁぁぁあああーーッッ!!!! 」
「お父さんっ……! お父さぁーん!!」
――――もう「なんだコレ」みたいな状況だけど、彼らは真剣にやっているのだ。
本来ならば、きっと“最強のプリキュア”として名を馳せ、栄光ある立場となっていたであろう自分の父。それが何故、こんな小汚いドヤ街などに住み、毎日酒浸りの生活を送っているのか。
飛雄馬にはそれが、どうしても我慢できないのだ。
俺のたった一人の、大事な父ちゃんなのに!!
「黙れぇッ! 黙らんかぁーーッ!!」
「うわぁー!」
「ひゅ、飛雄馬ぁっ!?
やめてお父さんっ……! やめてよぉぉーーっ!!」
明子の腕を振りほどき、またしてもビンタ。もう飛雄馬のほっぺは真っ赤だ。
それでも一徹の怒りは留まる事を知らず、今度は懸命に足にしがみつく明子を、振りほどこうと藻掻く。
鬼のような形相なのに、その目から大量の涙を流して。離せとばかりに。
「なんだいっ! 自分の果たせなかった夢を! 無念を!
子供の俺に果たさせようだなんて、そんなの勝手だよっ! 勝手すぎるよっ!!」
「よくもッ……! よくも言ったな飛雄馬ッ……! おのれぇぇぇえええーー!!」
「お父さぁぁーーん!」
ホントそうだと思う。しかも
飛雄馬は男の子であり、凄くゴッツイ眉毛をしてるのに。なんでプリキュアに。
というか、なぜ女の子である明子ではなく、自分なのだろう? 姉ちゃんの方が先に生まれたのに。
実は飛雄馬は、いつも疑問に思っているんだけど……、だがもしこれを言ってしまったら、なんか【この家庭が崩壊しかねない何か】を感じ、怖くて聞けずにいる。
――――これは決して、触れてはならない何かだ。星家の“闇の部分”なのだ。
まだ幼いながらも、飛雄馬はそれをヒシヒシと感じている。
たとえ口論になったって、これだけは絶対口にしなかった。怖くて。
「このッ……! このッ……! 待て飛雄馬ッ! 待たないかッ!!」
「お父さんっ! やめてお父さんっ! 飛雄馬も早く逃げてぇぇ~~!!」
必死にしがみ付く姉、今にも息子を殺してしまいそうな雰囲気の父。
そんな全てを尻目に、飛雄馬はひとり玄関から駆け出す。
「――――父ちゃんのバカ! 父ちゃんの弱虫ぃーっ!!
プリッキュアアアァァァーーっっ!!!!(泣き声)」
街灯さえ無い深夜のドヤ街を、飛雄馬が泣きながら「わーっ!」と走って行った。
◆ ◆ ◆
「いったい何だって言うんだ……!
なんで俺が、こんな想いしなくちゃ……!」
ホントそうだと思う。まごう事なき不憫な少年だと、同情を禁じ得ない。
とりあえず今、飛雄馬は近所の橋の上にいる。
ドヤ街と外を区切るようにして流れる、悲しい色に濁った川。それを橋の上でぼんやり眺めながら、飛雄馬はひとり心を吐き出していた。
「父ちゃんのバカ! 父ちゃんのウジ虫! 父ちゃんの低賃金日雇い労働者!
父ちゃんが入った後の風呂、なんか変なモノが浮いてるんだよっ!
何が出てるんだ父ちゃん! その中年の身体から!」
グチグチと言葉を並べる。「あのクソッタレ! 死んじまえー!」とばかりに。プリプリキュアキュア。
毎日酒ばっか飲んでんじゃねぇよ! 父ちゃんの眉毛が遺伝したせいで、俺とても小学生には見えない風貌だよ! もうベテラン投手の風格だよ!
クソが! このチンカス中年! ワーキングプア野郎! お前なんか肥溜めに顔つっこんで死ねば良いんだ! 俺の尻を舐めろ! うんこ!
だがその言葉も、全て“愛情”の裏返し――――
飛雄馬は悔しくて仕方ない。自分の大切な父親が、こんな目に合っているだなんて。
あれだけ野球(らしき物)が凄い父ちゃんが、こんな報われない生活を送らなきゃいけない理由が、一体どこにあるのかと。
「父ちゃんは凄いんだ! 強いんだ!
誰にも負けない、最高のプリキュアになれたんだ!
あの秋月 小雪なんかよりっ……!」
その声は、深夜の静寂の中に消える。
誰にも届かない、飛雄馬の心の吐露だった。
「俺は……父ちゃんの肩を潰した、この世界が憎いっ!
秋月小雪が、初代プリキュア“したたるウーマン”が憎いっ……!!」
ふと何気なく下を見ると、そこにはプカプカと川に浮かんでいる新聞紙。
恐らくは一面なのであろう、大きく書かれた「新プリキュア、秋月小雪! 祝賀パーティ」の文字が見える。
飛雄馬はおもむろに石を拾い上げ、それをビシュッと投げつける。
針の穴をも通すようなコントロールで、新聞にある秋月小雪の写真を、撃ち抜いてみせた。
◆ ◆ ◆
「えーっ、それではTVをご覧の皆様、お待たせ致しました。
ただいまより、新プリキュア秋月小雪さんのインタビューを、行います」
帝国ホテルの、とても煌びやかな一室。
沢山の記者たちが絶え間なくシャッターを切りながら、いま多くのTVカメラに囲また秋月小雪の姿を見つめている。
白とピンクを基調とした、愛らしいフリフリのドレス。
胸元と頭にあるリボンには、彼女の美しさを際立させる、大きな宝石が飾られている。
彼女こそは、秋月 小雪――――
このたび新しくプリキュアとなった、早くも【史上最強、最カワ】と名高き少女である。
「如何ですか小雪さん? 今の心境は」
「あはは……。えっと、でんとーあるプリキュアの一員になったからには、そのなまえを汚しちゃわないよう、いっしょうけんめいガンバりたいって、おもってます♪」
カメラ慣れや、取材慣れをしていないのか、小雪はどこかテレテレと恥ずかしそうな様子。
だが人々の期待や希望を一心に背負う“プリキュア”として、彼女なりにしっかりと応えてみせた。
関係無いけれど、このインタビューの答えは、全て家でお兄ちゃんと一緒に考えてきた。ありがとうお兄ちゃん♪
「えーっ! ではここで、栄光の初代プリキュアである“したたるウーマン”さんから、彼女の輝ける未来とご活躍を願い、花束の贈呈です!」
「ふぅ……。ワテクシの出番?
そんじゃあ小雪ぃ、まぁそこそこ頑張んなさぁ~い」
「はいっ! ありがとう、したたるおねえちゃん♪」
眩しい程のフラッシュ、そして沢山の拍手が雨のように降り注ぐ中で、偉大な先輩であるしたたるウーマンが、小雪を激励する。
ちなみに普段の彼女は、パンティ一丁の他は全裸、しかも股にフランクフルトを挟みブラブラさせている……という恰好で、どこにもプリティ&キュアキュアな要素は無い。
――――あんな美人で、しかも半裸なのに、どっこもエロく無い!! 不思議ねママ!
当時はそう評判となった、伝説のプリキュアであるのだが(ある意味で)、しかし今は真面目な席という事で、ちゃんと服を着ている。気品を感じさせるドレス姿なのだ。
愛する妹分の晴れ舞台だというのに、彼女がなんとなしにテンション低めなのは、そのせいもあるのかもしれない。
真の己をさらけ出せないフラストレーショか。
そして、そんなウーマンのローテンションに構う事無く、小雪のための祝賀パーティは続いていった。
どこかの制作会社の社長だが、スポンサーだかが「頑張りたまえよ」と握手しに来たり、大勢の記者に質問攻めに合ったりと、小雪も大忙しである。
今でこそプリキュアとなり、まさに女の子の理想を体現するかのような愛らしさ、そして活発な姿を見せているものの……。
彼女はつい最近までは“病人”であり、決して治らないと思われていた難病に苦しんでいたのだ。それも生まれてからずっと。
たとえ芯の強い、優しい娘だとはいえ、そんな子が過酷な役目であるプリキュアになってしまい、しかも今大勢の知らない人達に囲まれて、慣れない堅苦しい場へと出席させられている。
もしかしたら……今ウーマンがどこか不機嫌な様子でいるは、その事を良く思っていない事が大きいのかもしれない。
彼女はこれまで、心から小雪のことを愛し、その優しい心を持って献身的に支えてきた、まさに姉代わりとも言える人物なのだ。
まぁ、いつも小雪に変な事ばかり教える、変態淑女ではあるけれども。
「ねぇしたたる様? プリキュア“イエロー”のポジションだった貴方、そして“ピンク”のポジションとなった小雪さん。他にも数々の子達がいますが……。
史上最強と謳われる名プリキュアは、みんな貴方が関係してるというか、育てたというか。
縁の深い子達ばかりですよね?」
「はぁ……そうなの~ん?」
やはりどこか気の抜けた声で、記者への質問に返答。
それを見たどこかのお偉いさんが、慌ててこちらに近寄ってきて、彼女の代わりを買って出る。
「おっほん! 小雪さんは、彼女自らが手塩にかけて育てた、至高のプリキュアだ!
早くも歴代最高、史上最強のピンクと呼ばれているが、きっとその名に恥じない活躍をしてくれるハズだよ! いや間違いないっ!! 私が保証しようじゃないか!!」
そんな風に、ガハハと機嫌良く喋っているオッサンに背中を向け、どこか憂いを含んだ表情のまま、ウーマンが歩き去る。
とても騒がしく、どこか馬鹿馬鹿しい感じを覚えるこの場を離れ、ウーマンはテラスの方へ。
ひとりになれる静かな場所へと移動した。
「史上最強のピンク……ねぇ」
気持ちの良い風が吹き、眩い日の光が照らす中、ウーマンは何気なくテラスの柵にもたれながら、ひとり呟く。
「きっと、あの戦争さえ無かったらぁ……。
もしくは彼が、
それはもう既にぃ、生まれていたのかも、しれないのよぉん」
空を見上げる。まるで世界がプリキュアの誕生を祝っているかのような、澄み渡る青空を。
雲一つない、何もないそこに、したたるウーマンは“ある男”の面影を投影する。
「星一徹――――幻の名プリキュア、星くぅ~ん。
アンタ今どこにいるのん? 何をしてるのぉ~ん……?」
そうため息をつき、一人になったので、さりげなく服を脱いでみる。
だが韋駄天みたいに社長が飛んで来て、めっちゃ怒られた。
◆ ◆ ◆
彼女の密かなため息を他所に、まだまだ祝賀パーティは続いていった。
何をそんなに騒ぐことがあるのか。なぜ自分達のために戦っている小雪に、身勝手なまでの期待を押しつけ、心身に負担をかけようとするのか。
そして何故、それをいけない事だと考えないのか。
見る者が見れば、そう思わざるを得ない程に、過剰なバカ騒ぎ。
善意という名の、明らかなおせっかい。
時に小雪本人をも置き去りにして、記者やお偉いさん方は機嫌良さそうに談笑しているのだから、もう手に負えない。
それでも小雪は、自分に期待してくれている声に答える為、慣れないインタビューや写真撮影を、懸命にこなしていく。
その健気で愛おしいまでの姿に、またしたたるウーマンがため息をひとつ。
願わくば、今すぐ彼女を外に連れ去り、落ち着ける場所でケーキでも食わせてやりたい気持ちなのだが……やはり今日という祝いの日は、そんな気遣いさえ許してくれそうに無かった。
「したたる様! そんなトコでくすぶってないで、お願いしますよっ!」
「あ、そうだ! プリキュアのエンブレムの前で、小雪さんと一緒にポーズを!
新旧プリキュアの貴重な写真だ! それ明日の一面に、ドーンと載っけますから!」
「そりゃあ良いな! お願いします、したたる様! ぜひ一枚!」
「……はいはぁ~い。りょ」
いい加減にしろ、この馬鹿共が――――フランクフルトでぶっ叩いてやろうか。
そんな気持ちを押し殺しながら、したたるウーマンが小雪に手招きをする。
今後の戦いの為にも、こうしてスポンサーや市民を味方に付けておく事は、とても重要な事。
それを痛いほど熟知しているウーマンは、ギリギリと奥歯を噛みしめつつも、黙ってリクエストに従う。
小雪の方も、ようやく見知った大好きな人のもとに行けるとあってか、とても嬉しそうな笑みを返す。まさに花のような笑顔だった。
元気に手を振り、こちらへ駆けて来る姿を見て、またウーマンの胸が、ズキリと痛んだ。
「――――ッ!?!?」
だが突然、二人の顔色が変わる。
人類の護り手たるプリキュア。この場に起こった変化を、二人だけは即座に感じ取ったのだ。
「うわっ! 危ねぇ!!」
「ひぃーっ!」
突然この場に飛び込んで来た、
それはまるで蛇のようにくねり、まるで観衆たちを躱すように何度もカーブを描きながら、小雪に襲い掛かる。
「――――っ」
皮一枚。動じることなくスッと首だけを動かし、小雪がそれを避ける。
さっきまでの愛らしさとは裏腹、まごう事なき戦士の瞳。真剣な顔で。
「これはっ……!
小雪に躱された白球は、最後にしたたるウーマンを狙い、飛び込んでくる。
だが歴戦の力を感じさせる素早い動きで、それをパシッと手で受け止めた。
その大きく見開いた瞳に、驚愕の色を滲ませながら。
「まさか……星一徹が!? 彼がここに居るのぉ~ん!?!?」
「おねえちゃん、魔送球って? それに星一徹っていうのは……?」
小雪が即座に駆け寄り、ウーマンに怪我が無いことを確認。そして今耳にした単語と、見知らぬ人名のことを訊ねた。
自身の姉以上の存在であり、もう長い付き合いではあるのだが、小雪はその魔送球というのも、星一徹という名前も聞いた事がなかった。
緊迫感を孕む表情、そして驚愕した瞳。
したたるウーマンの心情としては、決して余裕など無いのだが、それでも大切な妹分を心配させぬよう、固い表情筋を無理やり動かし、優しく笑顔を形作ろうとした。
だが……その時。
「――――こら坊主! お前なにしてるんだ!!」
大人の男が放つ、怒気を孕む声。
それがこの場の空気を切り裂いた途端、ウーマンと小雪がハッとそちらを向く。
「この野郎! 来いッ! 暴れるんじゃない!!」
やがてこの場に、肩を怒らせたホテルの使用人達が、こちらにやって来る姿が見えた。
彼らは三人がかりで、
「こ、こんな子供がぁ? あの魔送球を~ん……?」
「うそ……しんじられない。まだちっちゃい子なのに」
使用人たちに両腕を拘束されながらも、キッと強い瞳でウーマン達を睨む。
ぶっとい眉毛に、五輪刈りの頭。小雪よりもよっぽど小さいのに、身体中から溢れ出す闘志。
「でもこの子、なんで
「わたしといっしょのドレス……。おとこの子なのに……」
しかしその闘志とは裏腹。着ているのは「まさにプリキュア!」って感じの、ラブリー全開なドレス。メタモルフォーゼ!
そんなぶっとい眉毛なのに、服だけは花の妖精のようだ。
正直な話、ZENZEN似合ってなかった。ぶっちゃけありえない(マックスハァ~♪)
だが一説によれば、「誰でもプリキュアになれる」
誰かを護りたいという気持ちと、それを夢見る想いがあるなら、たとえ男の子だってプリキュアになれる。オッサンに片足つっこんだ男でもなれる(らしい)のだ!
だから飛雄馬がプリキュアになっても、ピンクのフリフリを着ても、全くおかしな所など無い!
これはプリキュアの大ファンたる、
――――それがプリキュアなのだ! プリキュアとはこういうモンなのだ!(確信)
とまぁ、話を戻すが……彼こそは星飛雄馬その人。
あの凄まじい力、あの人外が操るような魔球を投げて見せたのは、この男の子であったのだ。
その事実を知り、プリキュアたる二人はさらに驚愕した。
「おいっ! 君はいったい何だね!?」
「どうしてこんな事をしたのだ! 何を考えている! 親はどこなんだ!?」
「黙ってたら分からんだろうがっ!」
ようやく放心から立ち直った、臆病で人任せな市民たち……、もといこの場にいるスーツのお偉いさん達が、飛雄馬に詰め寄って行く。
先ほどは「チンカスダーの来襲か!?*1」と慌てふためいていたのに、相手がただの子供だと分かるやいなや、この有様である。
「で、でもよ……?
本当にあの子が、あの力を使ったんだとしたら……、こりゃどえらい事だぜ?」
「人が投げる球じゃない……。
まさにプリキュアみたいな……!」
この場が騒めく。ひそひそザワザワと。
中にはこの記者たちのように、ただの不届きな乱入者ではなく“力を持った子”として、飛雄馬の特異性を見抜く者達も居た。
だがそれも、ごく少数派である。
「おい! 君は自分がした事が、分かっているのかね!?」
「もし小雪さんに当たったらどうする! したたる様が怪我でもしたら!
君は少年院送りになってたんだぞ!? この悪ガキめ!」
んなワケない。せいぜい親を呼び出されて厳重注意か、微々たる賠償金が関の山。
だが飛雄馬が小さな子供なのを良い事に、大人たちは強い口調で脅す。ここぞとばかりに、よってたかって。
さっきまで「ひゃー!」と狼狽えていたのに、今は「自分達がプリキュアを守る!」とでも言わんばかり。
この情けない卑怯者たちの姿を、プリキュアたる二人は、どう見つめているのだろうか。
人類の守護神たる、魔法少女たちは。
「――――待ちなさい。ソコどいてくんなぁ~い?」
人々が振り向く。この場に響いた“カリスマ”を伴う声の方へ。
今したたるウーマンが人込みを(ブラブラしたフランクフルトで)かき分け、ゆっくり飛雄馬のもとへ歩いて行く。
「君のお名前ぇ……、もしかして“星きゅん”て言うんじゃな~い? そうでしょん?」
「ちょ! なんで姉ちゃん、
さもありなん。あの魔球によって「ピキーン!」と脅威を感じ取ったしたたるサンは、もう「クロスアウッ!(脱着)」とばかりに衣服を脱ぎ捨てていたのだ!
これが彼女にとっての戦装束。“逆メタモルフォーゼ”と言うべき物である。ちびっ子も見てるのに。
「そんな事はい~のん!(キリッ!)
せっかくだからしっかり見て、また今夜にでも
それよりも……君は星きゅんで、間違い無いわねん?」
「ちっ、違わーい!」
思わず仰け反り、距離を取る。いま眼前にいる、乳を放りだした頭のおかしい人から。
だがウーマンは、そんな飛雄馬の姿から、目ざとく“ある特徴”を見つける。
おっぱいを見ないようにと必死に目元を隠している最中である彼の、手の平を見たのだ。
「ほっほ~う……、なんちゅー
まるで、二十年も三十年も野球やって来たみたいな。とんでもない手だわん……」
その異常性――――けしてこのような幼い子が、していて良い物では無い。
いったいどれほどの苛烈な、いや狂気めいた修練によって、その手を作り上げたのか。
スタスタと近寄り、普通に「むんず!」と掴む。そしてどこか慈しみの籠った瞳で、飛雄馬の手を見つめた。
彼のこれまでの苦難、そして歩んで来た人生が、アリアリと分かる――――
「離せよぉ姉ちゃんっ! この変態っ!」
「そ……それはそのとーりだけど……」
思わず呟いた小雪の言葉。それに構う事なく、飛雄馬は暴れ出す。
「ばっきゃろーっ!
秋月小雪が何だ! したたるウーマンが何だ! プリキュアが何だーーっ!!」
「あっ……コラ! 星きゅん!」
駆け出す。したたるウーマンの手を振りほどき、大人達の間を縫うようにして。
目にも止まらぬ程、とてつもないスピードだ。
「――――なんという子なのぉん!? 一体どれほど訓練すれば、そんな風に走れるのよん?!
ちょっとちょっとぉ!? お待ちなさいな星きゅーーん!!」
「あっ! したたるおねえちゃん!」
即座に駆け出す。飛雄馬の背中を追って。
レジェンドプリキュアの面目躍如とばかりに、まさに人外の速度で人の群れをかき分ける。
「小雪ぃー! 悪いけど後は頼んだわよん! ワテクシあの子を追っかけるからっ!
また帰ったらチューしたげるわん♪ 身体中いろんなトコに♡」
「まってよ、おねえちゃんっ!?
◆ ◆ ◆
「ちきしょう! ちきしょーっ!」
止めどなく溢れる涙、それをグジグジ拭いながら走る。
都会を抜け、自分の住む土地であるドヤ街へ。飛雄馬はひたすら駆け抜けて行く。
「ひぃ~っ! ホントどーゆう足してんのよん! あの子は!
ワテクシだから付いてけんのよぉ~ん!?」
それにピッタリ付いていく、したたるウーマン。
彼女は飛雄馬と一定の距離を保ちながら、もう1時間も全力疾走していた。
言うまでも無く、まだ子供である飛雄馬が、それをこなしているという事だ。
「幻の名プリキュア、そしてワテクシの親友……星一徹。
アンタは今、どーゆう生活してんのぉん? どんな風に生きてんのぉん?」
それを確かめんが為、あえてウーマンは追従している。決してふん捕まえる事をせずに。
この十年もの間、ずっと気になっていた。どうしても確かめたいのだ。
我が戦友たる男、星一徹の行方を。
「思えばアンタは……不運な男だったわん。
プリキュアに覚醒したのが、ちょうど太平洋戦争の真っ最中。昭和17年だった……」
ぜぇぜぇ走りながらも、彼女は過去の大切な思い出を、脳裏に浮かべていく。
彼女の青春であり、自身の人生で一番熱かった時代。そこには常に、あの男の姿があった。
「アンタは、天才的な戦士だった。
まごう事なき、【最強のプリキュア】だったわぁん。
まぁスネ毛はえたオッサンだったけど……。それはともかくとして……」
「ワテクシはね? アンタこそが世界の未来を担う、名プリキュアだと信じてた。
……でも、ただの一度も
戦争に、兵隊に取られてしまったから――――」
走る。歯を食いしばりながら。
零れ落ちそうになる涙を、必死に堪えて。
「そしてプリキュアにとって……。
というかアンタの技にとって、命よりも大切な、“肩”を壊して帰って来た。
物資の補給すら、おぼつかなかったという、過酷な南方戦線での戦争は……、あんなに輝いていたアンタの身体をも、ボロボロにしてしまったのよぉん」
………………
………………………………
………………………………………………………………
――――昭和23年。長きに渡る戦争から帰還し、星一徹は約5年ぶりにプリキュアに復帰した。
肩を壊した一徹が、もはやプリキュアとして戦えるハズは無かった。誰もがそう思った。
だがなんたる事だろう! やはり星一徹は、天才だったのだ。
ようやっと戦争が残した痕跡から、人々が復興の兆しを見せ始め、プリキュア達が人間同士ではなく“チンカスダー”(悪役)との戦いを、再び始めようとしていた頃。
彼女たちがプリキュア同士でおこなっていた、戦闘訓練にて。
『えっ……。一徹アンタ、
至極当然の疑問が、訓練場に響いた。
ある日突然、一徹はプリキュアとして技では無く、何故が野球の球を使い、戦闘し出したのだ。
『しかも、なんか凄くなぁい……? それどーやって投げてんのぉん?
なんか蛇みたく、クネクネ曲がってるし……。凄まじい威力だし……』
絶技だ。まさに
天才たる星一徹だからこそ投げられる、人知を超越した魔球であった。
『あぁ! 流石はしたたるだ! 素晴らしい動体視力だな!』
『そんな事より、それどーなってんのぉん? なんで突然野球を?』
アッハッハと朗らかに笑う一徹を、ポカンとした顔で問い詰める。
戦友であり、初代プリキュアの同期である彼女は、もう既に引退した身でありながら一徹の戦闘訓練に付き合っていたのだが……。なんか突然へんな事をされ、目を丸くしたのだ。
ちなみに、こんなスポ刈りでスネ毛ボーボーのオッサンが【ピンクのフリフリとリボン】という格好をしている、という事実に目を丸くしているワケでは無い。
そんな物はもう慣れた。心から「キモイ!」とは思うけれど。
『ん? いやいやこれは、別に野球をやってるワケじゃないぞ?
これは
『いやアンタ、“送球”って言っちゃってるじゃん。それ野球用語でしょん?』
ほとんど素になって問いかけるが、一徹は未だ涼しい顔。
なぜ戦闘訓練なのに、野球をやっているのか。彼女の気持ちは、なかなか一徹に届かない。
『お前も知っての通り、俺は先の戦争で、肩を壊したな?
もう昔のように、プリキュアの技を使うことは出来んよ』
『そ、そうよねん。ワテクシほんと……、何て言って良いか。
悪のチンカスダーじゃなく、まさか人間同士の戦いで、プリキュアが潰されるだなんて……。
こんな事があって良いのかって、何度この世界を恨んだか……』
『言うな、したたる! プリキュアたる者、人を憎んではいかん!
我らは人類の護り手。……愛しこそすれ、恨んだりするものか』
天才プリキュアであった一徹ですら、あの戦争には勝てなかった。
そもそも彼ほどの男が、人間同士の戦いに、プリキュアの力を使用するワケが無い。
彼はその信念にしたがって国に尽くしながらも、その過剰すぎる強大な力を使わず、あくまで“人”として戦っていたのだ。
だがそれこそが、一徹が戦争という物に壊され、大切な肩を奪われてしまった理由。
あんなに華麗で、どんな敵にも負けないくらい最強だった技は、もう二度と使用される事はない。
人間同士が始めた戦争により、その護り手たるプリキュアの力は、永遠に失われてしまったのだ。一度もチンカスダーに向けて放たれる事のないまま。
幻の初代、幻の名プリキュア――――
人は彼のことを、そう呼ぶ。
だが、それでも不屈の闘志をもってプリキュアとしてカムバックしたハズの、彼の様子がおかしい。
もう戦えない事は聞かされていたのに、それでも無理をおしてプリキュアに復帰し、またこうしてウーマンは協力を頼まれているワケであるが……。
一体どうやって戦うのかと思えば、
それはどういう事なんだと、彼女は問い詰めているワケである――――
『ゆえに、我が必殺技であった【てつキュア♪ エクスプロージョン☆】の代わりに、この白球を投げつける事としたのだ。
これなら俺の肩でも、問題なく行使できる』
『その気色わるい技名はともかく……、なんで野球のボールなのん?
そんなの投げたって、チンカスダー倒せないわよん?』
絶技だ。確かに魔法めいた球だと思う。
だがそれ野球のボールでしょん? マジックアイテムどころか、金属ですら無いでしょん?
そんなの例え時速300キロで投げ込んだ所で、チンカスダー効かないわよん?
だってアイツ等、
『案ずるなかれ! この技の名前は【魔送球】だ。
しっかり頭文字に“魔”が入っているじゃないか』
『名前だけじゃないのよっ!!
ようは、すんごい投球技術でクネクネ曲がるよ! ってだけの球でしょが!!』
倒せんて。野球のボールでは無理やて。
ついに堪忍袋の緒が切れたウーマンは、「ガーッ!」っとばかりに一徹に吠えたてる。
『一徹くぅん! あえて忠告するわぁん!
――――アンタ潔く、プリキュアを辞めなさぁぁい!』
『なっ……なんだってぇ!?!?!?』
なんだってぇ、じゃねーよ!!
そう言いたいウーマンは、引き続き一徹にがなり立てる。いい加減にしろこの野郎と。
『女の子の夢ッ! 人類の希望ッ! プリティ&キュアキュア!
そんな名誉あるプリキュアを汚す者は、たとえどんな天才であっても、プリキュアにいちゃ駄目なのよぉん!』
『馬鹿なッ!
この魔送球という技が、やがて来る不動の人気! 国民的ヒロインたるプリキュア黄金時代の到来にとって、どれほど役立つ事か!
それが分からん程に貴様ッ……! 貴様ボンクラウーマンだったのかッ……!
変態だとは思っていたが、ただのパンいち痴女だったのかッ!』
『誰がボンクラよぉん! でも痴女なのは別にイイデショ?!
ちょっとお股のフランクフルトから、肉汁出してるだけじゃないのようっ!
こんなの女の子なら、誰でもやってるわよん! お部屋で!』
嘘つけぇ。と言いたい所であったが、二人はもう火が着いて止まらない。
一徹はウーマンの胸倉を掴み、今にも殴りそうな勢いだ。
それほどまでに、二人は真剣なのだ! 内容は馬鹿だけど!
『星くぅん……?
この戦争で死んでいった“キュアカニカマ”のこと、憶えてる?
ワテクシたちの……かけがえのない仲間』
『憶えているともッ! 忘れたりするものかッ!
戦友だった! ヤツは毎日カニカマばかり食う、偏食キチ〇イだった!!
だがそれがどうしたと言うんだッ!』
先ほどまでの般若とは一転。したたるウーマンはまるで聖母の如く、見る者を魅了するような慈悲深き顔で、一徹の心に語り掛ける。
ちなみに一徹が“キュアはんぺん”、したたるウーマンが“キュアちくわ”である。
彼女たち初代プリキュアは、おでんが美味しい季節に結成した。でもカニカマってどうなの? 入れる?
『前にワテクシが、信者の変態マゾ豚共を、ケツバットして遊んでた時、言われたのん。
子供が遊ぶための道具で、そんな事しちゃいけませんって――――』
その言葉を聞いた途端、一徹はハッとした表情となり、やがて膝から崩れ落ちた。
まるで今は亡き戦友の言葉が、痛烈に胸に刺さったかの如く。
『そ、そうか……。子供のために作られた遊具で、変態男の汚いケツを叩くこと。
それは俺がやろうとした、野球のボールを
これは、子供達の大切な物を、侮辱する行為だったのか――――』
ようは、本来の用途と違う使い方すんな! という事である。
しかも、したたるに至っては、子供の遊具を
ぶっちゃけしたたるは、「子供達の大切な物を~」どうこうまでは、ぜんぜん考えてなかった。ただただ過去に自分が怒られた事を、他人にも言ってやったに過ぎない。
なんか「やり返してやった!」みたいな心地で、とても気分がスッキリした!
そして一徹は、なんか無駄に深読みして膝から崩れ落ちちゃったけど……、まぁ大筋は間違っていなかったので、黙って見守っとく事にした。
女の子の夢たるプリキュアなのに、まるで彼女はダークヒーローだ。鬼畜である。
『星くぅん……。あんな戦争さえなかったら、運さえ悪くなかったら……。
きっと君は、史上最強のプリキュアに、なってたハズよぉん?
まぁ肩とか関係なしに、「なにスネ毛ボーボーの奴が、魔法少女やってんだ!」みたいな批判は、以前からあったけどぉ……。
ぶっちゃけワテクシの方も、もうそんなクレーム処理すんの、嫌気が差してたんだけど。
だからね一徹? アンタ……』
『――――分かったよ、したたる。俺はプリキュアを去る』
だからアンタ、
しっかり養ったげるから、ワテクシの婿になりなさいな! 子供いっぱい作ろ☆
そう思い切って“愛の告白”をしようとしたが、突然一徹はこちらに背を向けて、スタスタと歩き出してしまった! あなや!
『ちょ! おまっ……!
どこ行くのよぉんマイスイート! 子供は!? 愛の巣は!? 新婚旅行の熱海は!?
ワテクシたちのラブストーリー、どうすんのぉ~~ん!?!?』
『さらばだ、したたる。
何を言っているのか、皆目見当が付かんが、達者でな。
半裸も結構だが、風邪ひくんじゃないぞ――――』
………………………………
………………
………
「あれから10年……。ワテクシ見事に行き遅れよコンチキショー!
責任とってよぉ! 一徹ぅ! 連れ子も上等なんだからぁ~ん!」
なんか漫画めいた滝のような涙を流しつつ、したたるウーマンは走る! 飛雄馬の背中を追っかけて!
「星きゅぅ~ん! ワテクシをお母さんって呼んでよぉ~~っ!
もう一人の部屋に帰るのも、渾身の出来だった肉じゃがを一人で食べるのも、大玉キャベツを冷蔵庫で腐らせちゃうのも嫌なのぉ~ん!!
孫は諦めるしかないか……みたいな親の視線が辛いのぉぉぉおおおん!!!!」
お金あげるから! お金あげるから!(必死)
もはやアラサーとなったレジェンドプリキュアの叫びが、夕暮れ時のドヤ街に響き渡った。
◆ ◆ ◆
「やめてお父さんっ! 危ないわっ!」
「くっそぉーーッ! このぉーーッ!!」
家の中から、何かが割れる音や、何かを投げつけて壊す音が聞こえる。
飛雄馬が泣きじゃくりながら家に辿り着いた時、外まで音が聴こえて来たのだ。
「あぁ……ごめんなさい皆さん。本当にすいません……。
何でもないですから、心配なさらないで下さい……」
扉の前で立ち尽くしていると、姉である明子が家から出てきた。
ガヤガヤ、おい何だ? とこの場に集まって来たご近所さん達に、頭を下げて謝るために。
「おい姉ちゃん! 父ちゃんに酒を飲ませたのか?
こんなに暴れるなんて、やっぱりどうかしてるぜ!」
「まぁっ! ちょっと来なさい飛雄馬っ!」
勝手に出て行ったばかりか、何も知らずに父親を批難。
そんな無責任な飛雄馬を、明子は引きずるようにして家に放り込む。
いつも温厚である姉が、明らかに怒っているのが分かる。
「何すんだよ姉ちゃん! 手を引っ張るなよっ! 痛いじゃんか!」
「バカ飛雄馬! これをご覧なさい! 全部貴方のせいよ?」
飛雄馬は「ゲッ!」みたいな顔で、家の中を見渡す。
そこにあったのは、割れた食器や壊れた家具の数々。そしてその真ん中で大の字になって寝転がっている、酔っ払いな父の姿だった。
「うわぁ……また派手にやりやがって。
でも姉ちゃん、なんでコレが俺のせいなんだ? 俺は今まで外に……」
「とぼけないでっ!
何も知らない小雪さんに、いきなる魔送球を投げつけるなんて!
そんなのお父さんが怒るのも、当たり前ですっ!
いったい何を考えてるの! 変な眉毛して!」
「眉毛は関係ないじゃんか!
つか姉ちゃんズルいよ! 一人だけ母親似で!」
こんな父親だというのに、一人だけ綺麗な顔立ちで美しく育った姉を、「ホントにこの人、俺の血縁なのか?」と飛雄馬は疑っている。
どうやったらこの父親から、こんなちゃんとした娘が生まれるんだ。おかしいじゃないか。
「それはともかくとして……観てたのかい姉ちゃん!?
いやウチってTV無いだろ? なんで知ってんだよぉ!」
「飛雄馬がTVに出てたことは、もう街中の噂だし、お父さんはちょうどお酒を飲みに行ってて、そこでTVを観てたの。
誰があれを投げたかは、みんな分からないって言ってる。
……でもお父さんは、すぐ分かったわ。自分の子のボールだもの」
辛そうな顔で、飛雄馬を咎める。この時ばかりは、いつも影ながら守ってくれる姉も、父の味方だ。その心情は察するにあまりある物だから。
「だっ……だからって、こんな暴れること無いだろう!?
あんなの当たったって、プリキュアなら別に」
「――――馬鹿者ぉぉぉおおおッッ!!!!」
まったく反省の色がない飛雄馬の態度に、大の字でいた一徹が怒声を発しながら起き上がる。その手に大きな酒瓶を握りながら。
「たとえ腐っても、この星一徹。……あんなバカな真似を、自分の息子がするなど!
プリキュアの戦友たちに、顔向け出来んわいッ!!」
心底くやしそうな顔で、また酒を飲む。
のんだくれだし、情けない大人そのものであるが……でもこんな姿にさせたのは自分なのだ。
その事を痛烈に理解し、飛雄馬はグッと奥歯を噛みしめてうつむく。
けれど……きっと
彼が手塩にかけて育てた息子であり、誰よりも親の気持ちが分かる飛雄馬だからこそ、反発する。
勢いよくガバッと顔を上げて。
「――――嘘だッ! 父ちゃんのうそつきぃ!」
「ッ!?」
ビシッと指をさし、言葉を放つ。
しっかりと父に向き合い、力強く胸を張って。
「――――父ちゃんが荒れたのは、俺が勝手な事したからじゃない!
あの魔球を! 父ちゃんが発明した魔送球を!
その言葉に、一徹は瞼を伏せた――――
先ほどまでとは違い、とても静かな表情のまま、あの父が黙り込んでしまった。
ロクデナシで飲んだくれの低賃金日雇い労働者だけど、あんなにも強くて誇らしかった! 俺の父ちゃんが!
「避けやがったっ! 眉ひとつ動かさず、その場から一歩も動かないで!
まるであの魔球が、
史上最強のプリキュア、最高のピンクと謳われる、父ちゃんと同じ色した女が、あの魔球を避けた!
まったく問題にしなかった! 脅威にならなかった! あいつの方が強かったんだ!
「父ちゃんは……幻の名プリキュアは、
負けたんだぁぁ~~っっ!! うわぁぁぁあああーーん!!!!」
崩れ落ちる。障子に縋り付くようにして。泣きながら。
悔しいのは父だけじゃない。飛雄馬もだ。
どれだけ世間に蔑まれようとも、たった一人だけ父を信じていた飛雄馬は、心が切り裂かれる想いだったのだ。
ちきしょう……! ちきしょう……! ちきしょおぉぉぉーー!!
そう子供の泣く声が、隙間風の吹く貧相なボロ家に木霊する。
まるで父ちゃんと秋月小雪の“差”を、象徴しているみたいに。
「うっ……うわぁぁぁああああーーーーッッ!!!!」
まるで熊が鳴いたような大声を上げ、一徹が皿を投げつける。それは壁に当たって砕け、またこの場に破片が散乱する。
だが……叫ぶだけ。それは決して「違う」という否定じゃない。
秋月小雪という存在を、否定する言葉では無かったのだ。
「……ほらっ、俺が言った通りさ!
父ちゃんは、父ちゃんは……!」
「飛雄馬っ! 止めなさいっ!」
明子が駆け寄る。まだ罵倒の言葉を放とうとする飛雄馬の口を、ビシッと制する。
「そう言う飛雄馬だって、ホントは悔しいんでしょう……? 悲しいんでしょう……?
貴方が一番、誰よりもお父さんを……」
「ばっ! バカ抜かせぇぇーーっ!!」
思わず向き直り、腕でグイッと涙をぬぐう。
ダーダー滝のように流してた涙の跡を、姉に見られないように。必死に否定する。
「ふふっ……そんな事したって駄目よ……。だってその顔に書いてあるもの。
ぼくは悔しい……お父さんが好きだって……!」
「うるさぁぁーーいっ!」
飛びかかる。お姉ちゃんのお腹にグイグイ顔を押し付けて。
ポカポカ、ポカポカと可愛い音を立てて、駄々っ子のように姉の胸元を叩く。
怒っているのに、まるでお母さんに甘えているみたいに。
「バカバカ! 姉ちゃんのバカ! あんぽんたん!
そんなんじゃお嫁の貰い手がないぞっ!
なんでそんなこと言うんだぁー! 自分だけ普通の眉毛しやがってぇー! わぁぁーーん!」
「飛雄馬……。飛雄馬っ……!」
抱きしめる。ギュッと慈しむように。
もう明子の顔も涙でグシャグシャだ。星一家はみんな泣き虫になってしまった。
それほどまでに強い想いで、結ばれていたから――――取り繕うんじゃなく、心でぶつかり合っているから。
「可哀想な飛雄馬……。誰よりも信じていたのに……。
自分じゃなく、お父さんの為にこそ、貴方はあんなにも努力し、魔送球を覚えたのに……!
お父さんは【史上最高の名プリキュア】だって、信じていたのに……!」
星一家がシクシクとなく悲痛な声が、いつまでもいつまでも、ドヤ街の空に響いていった。
◆ ◆ ◆
「関係ないんだけど……。
これがプリキュアじゃなく、名選手とか最高の三塁手とかだったら、どれほど良かったかしらん……」
こんなにも真面目なシーンで、こんなにも良いシーンで、いちいちプリキュアとか言うものだから……、もう傍で見ていると「この家族、全員バカなんじゃないの?」と思えて仕方ない。
飛雄馬きゅんの後を追っかけ、コソコソと中の様子を窺っていたウーマンさんだったが、もうそう思わざるを得ないのだ。
「そもそもの話、自分がそれで駄目だったのに、なんで息子にまで野球させんのよん?
せめてプリキュア的な戦闘訓練をねん……?」
あらゆる意味で、もうこの一家は、
こんなにも厳しく、しごいてるのに。
もうプリキュアじゃなく、巨人入団でも目指せば良いのに。飛雄馬くんメッチャ可哀想だ。
むしろしたたる的には、コイツらに目の仇にされる小雪が、不憫でしょうがない。
なんにも悪い事してないからね、あの子。とっても良い子だからね。
「あのぉ~、お邪魔しますぅ~。
ちょーっと良いかしらぁ~ん?」
「うわっ! なんで居るんだよ痴女の姉ちゃん!? 追っかけて来たのか!?」
「貴様ッ! したたるかッ?!」
もう居たたまれなくなって、思わず玄関のドアを開けた。
星一家はビックリした顔で、したたるサンを見ている。半裸の痴女でもあるし。
「すまんッ! 賠償金は勘弁してくれッ!! この通りだしたたるッ!!」
「あんた昔、父ちゃんの仲間だったんだろ!? 許してやれよ!」
「ウチは貧乏なんですっ……! ご覧の有様でございますっ……!
この飲んだくれと、わんぱくクソ眉毛に、ご飯を食べさせなきゃいけないんですっ……!」
「あー、だいじょぶダイジョブ。怒りに来たんじゃないしぃ。
とりあえず皆さん、すき焼きでもしませんこと?
ワテクシ材料買って来たのよ~ん」
VIP待遇。まるで神様のような扱いで、家の中へ通された。
したたる様、プリキュア様、すき焼き大明神様。そんな凄まじい歓待を受けた。
解せぬ。
「うめぇーーっ! 俺こんな旨い肉、食ったことねぇよ!」
「よく噛むのよ飛雄馬? 味わって食べるの。
きっとこんな事、私達の人生で二度と無いんだから。こんな高いお肉……!」
「ガッハッハ! いやぁ~すまんなぁ戦友ッ!
持つべき物は、やはり心を通わせた友人だなぁッ!」
アンタら、さっきまで暴れ狂ってたんじゃないのん?
何その「お腹が膨れたらゴキゲン」みたいな。飯さえ食ってりゃ家庭円満なのん?
そうは思うのだが、したたること“すき焼き大明神”さんは、黙って卵をかきまぜる作業に勤しむ。
藪を突いて蛇を出す必要は無いし、なんだかんだと楽しくもあったから。
ぶっちゃけ――――誰かとごはん食べるのって、ホント久しぶりだわ。
いつも暗い部屋に一人だし。彼女は伝説のアラサープリキュア(独身)なのである。
あったかい家庭って素敵☆
「ほら! もっと食え飛雄馬! お前は肉を食えッ!」
「たくさん食べなさい。お姉ちゃんの分も食べて良いから。
飛雄馬は早く大きくなって、プリキュアになるの」
「ちょっとぉ! 父ちゃんも姉ちゃんも、肉食ったらいーじゃんっ!
さっきからネギとか、豆腐ばっかりじゃないかぁ!」
よく見ると、一徹と明子の二人は妙に遠慮して、飛雄馬にばかり食べさせているのが分かる。
言葉にせずとも分かる、深い愛情――――彼らにとって飛雄馬こそが、守るべき大切な物なのだろう。
せっかくの高いお肉だって、構わず飛雄馬にあげてしまう程に。
「良いからお食べなさいな……。もう唸るほど沢山買って来たし。心配ないわよん。
あ、お姉ちゃんの子! たしか明子ちゃんだったかしらん?
これ冷蔵庫に入れとくから、あまった分は好きに使ってね~ん。全部あげちゃ~う!」
「ありがとう御座います、プリキュアさま……!
ああもう、こんなにも優しくて素敵な方に、飛雄馬が失礼な事しちゃったなんてっ……!」
いーのいーの♪
そんな風に手をふりふりする(フランクフルトもぶらぶらする)、したたるウーマン。
まぁ久しぶりに、あったかい空気の中で食事できたし、これなら思い切って使ったお金たちも、充分に報われるという物だ。幸せ☆
飛雄馬きゅんも嬉しそうだし、子供らしいカワイイ顔を見せている。ここに来て本当によかった。そう彼女は思う。
「さてさて、どれ飛雄馬きゅん? こっちへいらっしゃいな♪」
「ん? なんだよ、したたるの姉ちゃん」
トテトテと寄って来た飛雄馬を、まるで冬虫夏草のようにガバッと捕獲。もといギュ~っと抱きしめる。
「うわぁ! ちょっとやめろよ! 恥ずかしいってぇ!」
「まーまーまー♪ おねえちゃんを助けると思って♪
こんな機会、おねえちゃん中々ないのよん。
あー! ちびっ子のぬくもりが身に染みるわぁ~ん!」
スリスリと頬を押しつけ、ショタっ子を堪能。
飛雄馬の方は嫌がってこそいるが、そんなに激しく抵抗はしていない。きっとこの人が優しい事を分かっているんだろう。変態だけど。
ゆえに仏頂面ながらも、されるがままになっている様子。健気だ。
「Oh? なんか痛いというか、金属みたいのがあるわね……。
飛雄馬きゅん、シャツの中に何か入ってるのん?」
「あぁ、これかい?」
おもむろに飛雄馬が、着ていた上着を脱ぎだす。
ショタっ子の裸あざぁーーっす! ……とは流石に思わないが、したたるウーマンはキョトンとした顔で様子を見守っている。
しかし……。
「ちょ……! 飛雄馬きゅん!? 貴方っ……!!!!」
飛雄馬の上半身には、まるで彼を縛り付けるかのようにして、いくつもの太いスプリングらしき物が、縦横無尽に張り巡らされていた。
こんな物――――とても子供に着けるような物じゃない! どんな鍛錬器具だ!!
「このバネみたいなヤツな? 前の誕生日ん時に、父ちゃんがくれたんだよ。
なんかコレ着けてたら、すんごく強くなれんだってさ!
確か……【大プリキュア養成ギプス】とか言ったかな?」
「 !?!?!? 」
目を見開く。まるで何でもない事かのように、のほほんと言ってのける飛雄馬の姿に。
彼は今も、これを付けながら「~♪」と身体を揺らし、こちらに見せてやるようにブンブン腕を上下させたりしている。
(こ……これを着けたまま、
この子はあの剛速球を! 人外めいたボールを! 投げて見せたというのぉん!?!?)
頭がシェイクされる。いま目にしている、あまりの現実に。
先の祝賀パーティで投げ放った、あの凄まじいまでの魔球は、
もしこの馬鹿げた器具を外せば! 投げるのが普通の白球でなければ!
きっとあの魔球は、奇跡に届き得る――――人類の敵を打倒し得る力に!!
この子の力、この子の可能性。
そのあまりに眩い輝きに、伝説の戦乙女たる彼女は、言葉を失ってしまった――――
「飛雄馬、今夜は本当によく、お星さまが出ているぞ」
おっ、マジでか父ちゃん!
そう飛雄馬が「ひゃっほー!」と表に飛び出していく。
未だ衝撃から立ち直れぬ、したたるウーマンを残して。
「ホントだ! すごく綺麗だよ父ちゃん! 満点の星空ってヤツだ!」
「あぁ飛雄馬よ、綺麗だな。今夜は最高の夜だ」
親子二人、そして傍らによりそう姉と共に、皆で夜空の星を見上げる。とても嬉しそうな顔で。
「見ろ飛雄馬! あれこそは、栄光の“プリキュアの星座”だ」
知らない。そんな物きいた事がない。ただのオリオン座じゃないのん?
だが、したたるウーマンは、口を挟むことが出来ない。……それほどまでに美しく、侵しがたい光景だったから。
「俺もかつては、あの輝かしい星座の一員だった。
しかしもう……、この手は届かないんだ」
「父ちゃん……」
「お父さん……」
親子三人。これまで懸命に努力し、支え合って来た美しい家族。
この中に、自分も入れたら……。
そう彼女は、思わずギュッと手を握りしめる。
「飛雄馬ッ、お前はあの星座に駆け上れッ!
プリキュアという星座の中で一際輝く、でっかい明星となれッ!!
――――飛雄馬よッ! あの栄光の星を目指すのだッ!!!!」
◆ ◆ ◆
それから三年後、めでたく中学校へと進学した飛雄馬は、プリキュアとなる。
あのピンクと白のドレス、可愛さという物を象徴したかのようなリボン、そしてキラキラした魔法のステッキを握って。
……ついでに言えば、そのぶっとい眉毛と五輪刈り。身体に着けたキチ〇イめいた養成ギプスが、彼のトレードマークだ。
「ひゅうまくん、いくよ? いっしょにチンカスダーを、やっつけよう!」
「あぁ行こうぜ小雪っ!
俺が! 俺達が! プリキュアだ!!」
「「くらえーっ! プリッキュアアアァァァーーー!!!!(掛け声)」」
――――そんなワケあるか。と言いたい所だが、誰だってなれるのだから仕方ない。
この物語は、プリキュアの星を目指し、プリキュアに青春の全てを懸けた、熱き親子の物語である。
ついでに言えば、
◆スペシャルサンクス◆
天爛 大輪愛さま♪
PS がんばれ大輪愛さん! 応援しているぞ!