【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】 作:hasegawa&friends
“夢”とは――――
・将来実現させたいと思っている事柄。
・現実離れした空想や、楽しい考え。
・心の迷い。
・はかないこと。たよりにならないこと。
※この作品は、以前募集した【夢のある小説を書こうプロジェクト】内において、皆様から頂いたアイディアを元に執筆した物です。
今回のお題はこちら↓
◆ ◆ ◆
私なりに夢とは何だろうと考えた結果、“幸せな家庭を作る”と言うものを思いつきました。
ですのでお題は、ハンターハンターで……。
マチ「団長、あたし好きな人が出来たから幻影旅団やめて花嫁修行しようと思う。」
です。
マチの好きな人は、誰でもOKです。
(幸1511様)
マチ「団長、あたし好きな人が出来たから、幻影旅団やめて花嫁修行しようと思う」前編 (幸1511様 原案)
【幻影旅団、集合――――】
そんなクロロの端的な連絡により、幻影旅団の仲間たちは今日、この場に集められた。
普段は何か有事でも無い限り、それぞれ好き勝手に行動し、各地で暴れまわっているのが常なのだが……、何やらクロロから
団長であるクロロ自身、そして“ある一人”を除いた11人の団員達は、ひとつも文句を言う事なく、ここ流星街にある廃墟同然のアジトへと、イソイソやって来た。
いつも粗暴で喧嘩っ早い所はあるものの、意外と仲間思いな者達なのである。
「で……今日はどうしたよ
前の仕事が片付いてから、まだそんなに経ってねぇが」
「別に文句があるワケじゃねぇが、『しばらく自由にしてて良い』と言ってたしな。
よぉ、なんかトラブりでもしたか? どっかのクソがちょっかい出して来たのか?
もしそうならオレが……」
この旅団でも古株であるノブナガ、ウボォーギンが口火を切った。
実はここに集合してから、もう3分くらいは余裕で経っていたりするのだが、クロロはアンティークとは名ばかりの小汚い椅子に腰かけながら、じっと俯くばかり。
この場に至っても、まるで何かを思い悩んでいるかのように、ずっと黙り込んでいるのだ。
「いえ、そうじゃないのよみんな。
今の所、どの国の警察も嗅ぎ付けて無いし、どこの組織とも敵対してないわ。
そこは安心して頂戴」
「ほう。なら仕事の話か?
次なに盗むね? ワタシ浪漫ある獲物、大歓迎よ」
「いいねェ……♥ 荒事は大好きさ♣
ボクとしては、たくさん人を殺せるようなのが……♦」
「あー、そっちでも無いんだよフェイ、ヒソカ。
先の仕事はけっこう大変だったし、中には怪我しちゃったヤツもいるだろう?
だから今は休養して欲しいって、クロロも言ってるんだ」
傍に控えるパクノダとシャルナークが、代わりに質問を捌いていく。
もう「グッタリ!」と項垂れているクロロを気遣いつつも、どこかアハハと苦笑気味なのが見て取れる。
そんな彼らの姿に、フェイタンをはじめとする仲間達は、みんなキョトンとした顔。
「けどちょっと……、ある意味で
こんなの全然考えてなかったものだから、流石にクロロも参ってしまってるの」
「オレとパクは、団長と一緒に居たんだよ。だから事情は知ってるんだけど……。
でもこればっかりは、もうどうして良いか……。
いつもみたく、腕っぷしで何とかなる問題でもないし……」
良き参謀役であり、奇しくも幻影旅団における“チーム金髪”の二人。
だが彼らも今「うむむ」と眉間に皺を寄せており、クロロに負けないくらい悩んでいるのが分かる。
別に深刻さを感じさせる様子では無いものの、もう「こまったこまった」と言わんばかりなのである。
「どうも要領を得ないな……。いったいどうしたんだクロロ?
そのしなびた野菜みたいな姿は何だ? お前らしくも無い」
「団長ほどの人が困っちゃうような、招集をかけなきゃいけない位の問題……?
う~ん。ちょっと分かんないです、あたし」
「シズク、これクイズ番組じゃないよ。とっとと答え聞いたら良いのさ。
さっきから何にも喋ってないけど、ボノレノフだって退屈してるよ?」
(こくこく)
順番にフィンクス、シズク、コルトピ。(あとボノレノフ)
彼らも腕を組んで「うーん」と考え込んでしまったので、もうこのアジトには【考える人】が12体ある事になる。いくらなんでも多過ぎである。
「皆が集まってるのに、この場に
何か理由があるんだろ? 話してくれクロロ」
そして、確信を突くようなフランクリンの低い声。
それを受けてクロロが、ようやくその重い腰を上げ、信頼する掛け替えのない仲間達の方へ、しっかりと顔を向けた。
「端的に言う――――マチに好きな男が出来た。
花嫁修業したいから団を抜けたいって、そう言われてな……?」
――――怒号、狂乱、驚愕。
そんな言葉が相応しい大声が、昼時の流星街の空に、響き渡った。
◆ ◆ ◆
「おい、いったん落ち着こうぜお前ら。街が滅んじまうよ」
10分後。これまで意味もなく念を全開にし、心の赴くまま、所かまわず破壊活動に勤しんでいた面々が、ようやく動きを止める。
まさに“鶴の一声”。こういう時にすぐ冷静になれる所が、フランクリンがみんなに頼りにされる理由のひとつである。(まぁ彼も散々暴れまわってはいたが)
「す……すまねェ! 思わずここいら一帯を、更地に変えちまった!
別に悪気があったワケじゃねェんだッ!」
「いやでも、あまりに衝撃的だったモンでよ? 念が暴走しちまったんだ!
まるでオレの頭が、それを受け入れるのを拒否してるみてェに……。
何かで発散させずには居られなかったんだよッ!」
「この10分くらいで、何人死んだか? 何人殺しちゃたか?
ワタシ正直、あんま記憶ないね……」
「建物も、瓦礫も、街中の物を吸い込んじゃったよ……。
はじめてデメちゃんが『もうお腹いっぱい』って……」
ウボォーがらしくもなく謝り、ノブナガは冷や汗をかき、フェイタンが愕然とし、シズクはまだグルグル目を回している。
それほどまでに彼らの脳は、さっき聞いた事が受け入れ難かったのだろう。
たった今、幻影旅団が総出で「うおぉぉーー!」と暴れまわったのだ。半狂乱の状態で、まったく見境も無く。
その結果、多くの者達の故郷である、ここ流星街は、ほぼ壊滅状態であった。
とても酷い事になっているので、被害総額などもう考えたくもない。
「すまない皆、オレもつい暴れちまった。
でも正直、すごくスッキリした……」
「冷静になれたんなら、何よりだよ。
とりあえず話してくれる? 街の連中には、また後で詫びに行くとして……」
ちんまい背丈で一生懸命に背伸びしつつ、コルトピがよしよしとクロロの頭を撫でる。
普段は頼りになる団長だが、彼はいま冷静じゃないのだ。とりあえず話を聞かなければ。
「とにかく、マチが旅団を抜けたいと言い出したんだ。
理由はさっき言った通り、“好きな男が出来たから”。
もうオレは、どうして良いものか、分からんくなってな……」
「私もその場に居たけど、どうやらマチの意思は固いみたいよ?
私達への義理事は果たすし、しっかり筋は通すけれど、団は辞めさせて貰いたいって」
「アイツは盲目になってるワケでも、意固地になってるワケでも無かったよ。
もちろん、誰かしらに念で操られてる~という線も無い。しっかり確かめたからね。
マチは自分の意思で、冷静に判断し、その上で旅団を抜けたいって言ってる」
団長&参謀二人のいう所によると、もう自分達だけでは判断が付かないので、とにかく団員たち全員の意見を訊きたい! と思ったのだそうだ。
それが本日の招集の理由であり、皆で話し合うべき議題であった。
みんな頭の切れる者達ばかりであり、いわゆる“人間力”がとても高い連中であったが……しかしこと恋愛に関しては、実はまったくの
――――今まで腕力とか暴力とかで、全部なんとかして来ました!
ぶっちゃけみんな、そんな人達ばかりなので、逆にそんな繊細な問題を対処できるようには、とても出来ていなかった。
なんやねん恋愛って。それ食えるのか? ってなモンなのである。
「ちょ……ちょっと待って貰って良いか?
なんかすっげぇ、ツッコミ所が多いんだがよ!?」
思わずウボォーが立ち上がり、オロオロしながらクロロ達に詰め寄る。
普段は「ガハハ!」とばかりに豪気なのに、もう森で迷子になった子供のように狼狽えている。
仲間が抜けるかもしれないという事態、そしてこの“恋愛”という未知の問題が、そうさせているんだろう。
「そりゃあ本当に、マチが言ってたのか?! なんかの間違いじゃねェのか!?
お前らを疑うワケじゃねェが、オレぁどうしても信じらんねェんだよ!」
「そうだ!
なんか
彼の言葉にノブナガも賛同し、共に立ち上がる。
なんと言っても、マチは彼らと同様に【幻影旅団の初期メンバー】
ここ流星街で生まれ、これまで同じ釜の飯を食って来た、掛け替えのない仲間だ。
そんなマチが、自分から団を抜けたい、俺達と離れたいなどと言っているという。
そんなのは考えられない、決してありえない事だと、二人は声を荒げる。
ハッキリ言って――――そんな安い“絆”では無い。
実の兄弟以上の、血よりも濃い絆で、自分達は結ばれている。まごう事なき一心同体なのだ。
「お、オレぁてっきり……マチは団長に
「しっ! 言うなフランクリン! 禁句だぞ!
……まぁオレも同じで、ニヤニヤしながらアイツ等を見守ってた方だけどよ。
もうマジかよって心境だぜ……」
「あたし入団して日が浅いけど、これって
いつも健気なマチさんの姿に、キュンキュンしてたのに……もう何も信じらんないよ」
フランクリン&フィンクス&シズクが、ひそひそと小声で囁き合う。
決して
「哀れだな、マチ。
所詮アイツは、
そう思わず口に出しちゃったボノレノフが、即座に団員たちにタコ殴りにされる。まさに絵に描いたような瞬殺である。
彼は今、ちょうど近くにあった高い木の枝に、ブラーンとぶら下げられている。いわゆる晒し者というヤツだ。
身体中に巻いた包帯のせいで、なんかミノ虫みたいに見えるから、とても良い感じだ。
「あんだろうがよ! 脅迫されたとか、無理やり言わされてるとかぁ!
別に念なんざ無くても、なんかド汚い手を使われてよぉ!」
「そういうんじゃないって……。落ち着きなよノブナガ。
マチは真剣に言ってたんだ、本気なんだよ。
だからこそクロロも、困ってるんだ……」
ノブナガを「まぁまぁ」と諫めつつも、シャルの方も困惑気味。
もし何らかの手段により、マチの意思でない言葉であったのなら、そもそもクロロは自分自身で動いている。そしてとっくに彼女を救い出しているハズだ。
だがマチが言っているのが、虚言や空事ではなく、本当に彼女自身の意思であるからこそ、こうして皆に意見を募っているのだ。
いままで苦楽を共にしてきた、家族以上の存在である彼らに。
というか……今まで“こんな事”が起こるなんて想定すらしていなかったので、ぶっちゃけもう、どうして良いのか分からん。
いったい誰が思おう? 「恋愛を優先したいので、幻影旅団やめます」なんて言い出すヤツが出てくるなんて。そんなの予想が付くものか。
そしてこれが恋愛という、【人として真っ当な理由】であるからこそ、クロロ達は彼女を留める術を持たなかったのである。
いったいどうして言えよう? 「女の幸せなんかより、盗賊団を優先しろ」などと。
そりゃいったい、どこの鬼畜だという話だ。そんなこと出来るか。
「大体よぉ! なんで惚れた男が出来たからって、団を抜けることになんだ?!
居りゃー良いじゃねェかよ! 辞める必要なんかねぇ!
オレたちと盗賊やってて、何の問題があるってんだ!」
「――――いや問題あんだろウボォー。
恋人の傍に、
ウボォーとノブナガのマジ喧嘩が勃発。向こうの方で死闘を繰り広げ始める。もうドゴゴゴみたいな音が、そこら中に響き渡っている。
だがそれを「いつもの事ですので」とばかりに無視しつつ、団員たちは引き続き話し合いを行う。
「まぁ、さっきのウボォーじゃないけど……、ちょっと早急な感じはするよね。
マチは好きな人が出来たってだけで、まだソイツと付き合ってるワケじゃないんだろ?」
「そうねコルトピ。まだ恋をしてる段階ってだけよ。
けれどマチは……旅団を辞めて、その上『花嫁修業がしたい』とまで言い出したの。
これはあの子の、“覚悟の表れ”なんじゃないかしら?
今までの自分を捨てても、その人と居たい――――きっとそう思ったのよ」
パクノダの言葉に、ゴクリと息を呑む。
真剣な表情、同じ女としての説得力、そしてどこか慈愛を含んだ彼女の表情を見て、団員たちは次の言葉を見つけられずにいる。
マチは本気だ――――本当に好きだと思える人を見つけたんだ。
なら俺達がすべきは、いったい何なんだ?
この場の空気が、段々そういう雰囲気にシフトしていくのを、クロロは感じ取る。
「団長としては情けない話だが……、こればっかりはオレが舵を取るワケにもいかん。
至極プライベートな問題でもあるしな。
オレ達は家族みたいなモンで、同じ団の仲間であるとはいえ、立ち入れない領域という物がある」
やがて、クロロが静かにその場から立ち上がり、しっかりと団員達の顔を見渡す。大切な仲間達の顔を。
「だから――――お前たちの気持ちを知りたい。
いま思ってる事や、素直な想いで良いんだ。
マチや旅団のことを鑑みて、自分はどうしたいのかを、訊かせてくれないか」
◆ ◆ ◆
クロロの号令で、挙手による採決が行われた。
そして数分の時が経ち……大まかに分けて団員たちの意見は、以下のようになった。
・【応援、協力派】 シズク、ノブナガ、ヒソカ、コルトピ
・【否定、説得派】 フィンクス、フェイタン、ウボォーギン、ボノレノフ
・【譲歩、両立派】 クロロ、パクノダ、シャルナーク、フランクリン
「見事に割れたなぁオイ……」
「12人が、キッチリ三等分かぁ……。みんな思う所があるんだね」
同じ派閥に入り、隣同士に並んだノブナガとシズクが、くすりと苦笑し合う。
ヒソカは意味ありげに「ふふふ……♣」と微笑み、コルトピはじっと静観している事が窺えた。
「ありえねェ、あいつが抜けるなんざ。
悪いが、オレは認められねェよ。たとえぶん殴られようともな」
「断固、説得すべき。
マチの気持ち、あるだろけど、あいつワタシらの家族よ。……取られてたまるか」
フィンクス、フェイタンが頷き合う。そしてウボォーは怒りすら滲ませた表情で、じっとどこかを睨んでいる。……ボノは木にぶら下がったままだけど、「オレ達は戦士なのだ」とはっきり意思を告げた。
「別に多数決をするつもりは無いさ。
ただお前らの気持ちを、訊いておきたかっただけだ。
この結果を見て、意見を変える必要は無いぞ」
「実はマチには、1時間ほど遅く集合時間を伝えてあるの。
後であの子も来るから、また貴方たちの気持ちを伝えてあげてね」
譲歩派、いわば「恋愛とかは良いので、なんとか団には留まって貰えないっスかね?」と交渉する意向であるクロロ&パクノダが、優しい顔で微笑む。
温厚なシャル、そして思慮深いフランクリンも、うんうんと頷いている。
だが……この場でひとりだけ、仲間達の意向に真っ向から食って掛かる者が居た。
「――――おいノブナガ! テメェどういうこった!!
マチが抜けても構わねぇってのか!!」
突然、爆発が起こったかのような大声が、弛緩しかけていた空気をぶち壊す。
「なんでそっちに居る!? なんでこんなの認めんだッ!!
お前ッ……お前そんなヤツだったのか!? マチなんざどうでも良いってのかオイッ!!」
怒り。それどころか目に涙すら滲ませて、ウボォーがノブナガの胸倉を掴む。
きっと彼は、どこか「裏切られた」ような気持ちで居たんだろう。
自分と気が合い、喧嘩はしつつもちゃんと通じ合っている、同じ気持ちでいてくれていると思っていたノブナガが、いわゆる“応援派”に居る。
その事が、どうしても許せなかったんだろう。
「――――バカ野郎ッ! テメェの事ばっか考えてんじゃねぇぞウボォー!!」
しかしノブナガも、即座に怒声を返す。
身体の大きなウボォーに相対しても、一歩も退く事無く、言ってのける。
「オレがぁッ……! オレが悔しく無いとでも、思ってやがんのかよッ!!
テメェこそどうなってんだよウボォーッ!
「!?!?」
「オレらの家族がッ! 自慢の
今しっかり胸張って、筋通そうとしてんだよッ!!
――――だったらオレらがする事は何だ!? ヤツにしてやれる事は何だぁッ!!!!
んなモン……んなモン『頑張れよ』って送り出してやる事に、決まってんだろうがよ!!
それ以外ッ、いったい何があるってんだ!! 言ってみろこの野郎ぉぉぉーーッッ!!!!」
が、ガン泣きしてはる――――涙腺が決壊し、だーだー鼻水たらしてはる。
そのあまりの迫力に、ウボォー達は言葉を無くしてしまった。
人情に厚く、なにより道理を重んじる、剣客という人種。“任侠”という物。
「ちょっと、ノブナガ……?
貴方いまワン〇ースみたいな顔になってるから。いっかい落ち着こ……?」
「お、おぅ。……悪かったよノブ。
オレが馬鹿だった。だからもう泣き止み……」
「――――んだ■■■※※※オイ! テメェ◆◆◆コラボケカスああああーーッッ!!」
良いヤツだとは思ってたけども、まさかここまでとは……。
幻影旅団の仲間達は、震えあがる。
きっと実の父親だって、こんなボロボロ泣きはしない。
みんな改めて「ノブナガすげぇ」と思った。
◆ ◆ ◆
いったん集まって、先に話し合っていて良かった。こんな光景をヤツに見せずに済んだ。
クロロが密かに安堵し、自分の判断の正しさを実感した出来事から、数十分後――――
「……」
ブスッとした顔、警戒心バリバリの猫のような雰囲気を漂わせたマチが、ようやくこの場に到着した。
「何……? アンタら先に集まってたの? アタシ抜きでさ」
もう「おーいおい!」とボロッボロ泣きながら抱き合っているノブナガ&ウボォー。それをヨシヨシと慰めるコルトピ&パクノタ。
そんな変な光景を、マチが訝し気に一瞥した後、「じとぉ~!」っとクロロを睨む。
団長である彼が冷や汗を流す所など、みんな初めて見た。というか今日は、今まで知らなかった姿がたくさん見られる日だなぁ~と思う。こんなにもずっと一緒に居たのに。
「みんな妙な雰囲気だし、なんかアジトも全壊してるし……。
まぁ大体のことは察しが付く。話したんでしょクロロ?」
「う、うむ」
たじだじ。もうクロロが見る影もない。まるで小鹿みてぇだ。
普段はあんなにも頼りがいがあるのに、こと恋愛に関してはこうなっちまうのかと、みんなヒソヒソと囁き合う。情けねぇ所もあるんだなぁと。団長の威厳失墜。
「じゃ、もうそういう事だから――――アタシは今日で抜けさせてもらうね。
辞めた人間が、またアンタらと会えるのかどうかは、知らない。
でも今までの事、感謝してる……。一緒にいられて、楽しかった」
未だ沈黙を続ける団員達の姿に「やれやれ」と嘆息を漏らして、マチは再びリュックサックを担ぎ直す。もう話は済んだとばかりに。
「まぁ怪我でもした時は、声をかけて?
昔の仲間のよしみで、安くしといたげる。……それじゃあ」
「ちょ、ちょと待つよ! 待つよろし! マチ!!」
んじゃ! とばかりに右手を上げ、フランクにこの場を去ろうとするマチを、慌ててフェイタンが呼び止める。
いまこの場は、まるで時が止まっていたかのようだった。皆じっと黙ってマチを見つめていたから。だがそんな空気が一気に壊れ、誰もが慌ててその場から腰を上げる。
「
アンタ普通にしゃべれるんでしょ? 何よ『待つよろし』って。このエセ中国人」
「そな事は今よい! ちょと止まるねマチ! ちゃんとこち向くよ!」
もうフェイは、アワアワしながら追いすがっている。きっとこれも情けない姿だ。
だがそうしている内に、団員達がマチを取り囲み、この場からの逃走阻止に成功。無理やりではあるが、なんとか話をする態勢が整った。フェイタンGJである。
「――――う、腕相撲ッ!
ワタシ倒してから行くよ! 勝負よマチ!」
何を言っとるんだコイツは――――さっきはGJと思ったけれど、どうやらフェイも相当テンパってるみたい。突然ワケの分からんことを言い出した。
「おっ、おうそうだ! 倒してから行けよマチ!」
「やろうぜ久しぶりに! せっかく集まったんだしよ!?
このまま解散ってのも、冴えねぇ話だろ!」
「久しくやってなかったろ? ほら遊ぼうぜマチ! 頼むよオイ!!」
だがフィンクス、ボノレノフ、ウボォーなどが、何故かそれに乗っかる。
お前らは本当に脳筋だな――――もう物を考えることも放棄したのか。
そう思慮深い者達はため息をつくが、かといって他に代案があるワケでも無し。ここはひとつ彼らに任せてみる事とする。
とにかく、今はマチを帰さない事が先決だ。まずは話をしなくちゃならないんだから。
「ささ! こち来るよマチ! テーブル着くね!」
「えぇ~、今から? マジでぇ~」
せっかく良い雰囲気でお別れしたのに……。そんなマチの気持ちなどお構い無しに、フェイが一生懸命に語り掛ける。もうアリアリと必死さが伝わってくるようだ。
「じゃあ、一回やったら許してくれる? もうアタシ、正直こういうのはさ……」
「うん! 一回でよいよ! ほら手ぇ握るねマチ! 楽し腕相撲よ!」
こんな必死なフェイ、今まで見たこと無い。ここで帰ちゃうのは、あまりにも彼が可哀想という、無視出来ないタイプの雰囲気。
それに押されたマチが、しぶしぶながらテーブルに肘を置く。なんとかお願いを聞いて貰えたことに、内心安堵する一同。
(なんかよく分からん事なたけど……、とにかくマチ負かすよ!
だいじょぶ、ワタシギリ、マチより強いね! 前やた時は勝たよ!)
そして、マチに因縁をつけ、思い留まらせる!
まだ弱いとか、そんなんじゃ駄目だとか、理由は何でも良い。とにかく勝ってマチを説得するキッカケを作ろうと、そこまでは考えた。
しかし……。
「あー、よいしょ」
「!?!?!?」
ボカーン! という大きな音が鳴った途端、フェイの身体がゴロゴローっと床を転がっていく。
マチだ――――彼女の
「ふぅ、これで満足? それじゃあ皆、元気で……」
「ちょ! ちょいちょいちょい!! 待つよろしマチ!(ややこしい)」
壁に激突し、なんかでんぐり返っているフェイが、それでもなんとか呼び止める。
なんだ今のは!? いったい何が起こった?! そんな疑問が止めどなく頭に浮かぶが、今はもうそれ所じゃない。仲間離脱の危機なのだ。
「オイなに帰ろうとしてんだよ! 次はオレだぁー!」
「えぇ~。あれって
なんなのよアンタら……遊びたい盛りなワケ?」
飛びつくようにしてテーブルに着き、ボノノレフが「むん!」と腕を構える。その姿にまたマチがため息を付く。
「あ、そーれ」
「おっごッ!?!?!?!?」
ガッシャーン! みたいな音を立て、瓦礫を沢山撒き散らしながら、ボノレノフが吹っ飛んでいく。
「次はオレがやる! 覚悟しろよマチ!」
「えっ、フランクリンもやるの?
アンタは多少マトモだって、そう思ってたのに……」
よいしょーい! ギャー!
そんな二人分の声が響いた瞬間、フランクリンの身体が地面に埋まった。床のコンクリを粉砕して。
「オラ次だ次! 構えろよマチ! さぁ勝負だ!」
「フィンクス、アンタなに
えーい! ホゲェー!
またしてもそんな二人分の声が響き、フィンの身体がフリスビーみたく水平に飛んでいく。そしてメチャクチャ遠くの方で、破壊音を立てながら着地。
「ふははは! よく来たな勇者よ!
最後は我が相手だ!! かかって来るが良いッ!!」
「何その口調? そういう男のノリって、ついて行けないんだけど……」
そして、最後は旅団腕相撲ランキングで堂々の第一位! ウボォーギンが立ちはだかる。
だが彼もすぐ「ぎゃーす!」とか言いながら、ガメラみたいなまわり方で、宙を舞うハメとなった。
「あー、肩いったい! なんでこんな事してんのよアタシら……。
ちゃんとお別れしなきゃって、そう覚悟決めて来たのに……もうヤダ」
「……」
「……」
「……」
不満げ、そしてどこか悲し気な様子のマチ。……だがそんな彼女に構うことなく、残りの団員たちは一人残らず「アンガー!」と口を開けている。
なんだコレ、みたいな顔で。
「えっと……たしかマチって、団の中じゃ6番目くらいじゃなかった?」
「私もそう記憶してるけど……、いったい何があったの? どういう事なのコレ?」
元々マチより下位だったシャルとパクノダは、もう瞼をパチパチしながら、キョトンと見つめ合うばかり。
彼らは天下の少年ジャンプ作品、夢やバトルや冒険を旨とする漫画の登場人物だ。
普段から友情であったり人情であったりは、とても大切にはしている物の……でも残念なことに、こと“恋愛”に関しては、ほぼほぼノータッチで生きてきた者達である。
ゆえに悲しいかな、この答えには思い至らない。これはまさしく、ジャンル違いであると言えよう。
彼らは忘れていた。
“念”という物は、その覚悟や想いの強さによって、力が爆発的に増減するという事を。
その想いの強さによって、マチの強さが正に天元突破しているなどとは、思いもよらなかったのだ。
これは――――マチの
「あっ! これってもしかして、あのよくあるヤツ?
餞別がわりにアタシを勝たせて、気分良く送り出してやろうってコト?
もう皆ったら、そんな気を使わなくても良いのに。……でもアリガト」
「……」
「…………」
「………………」
なんか本人は自覚が無いようだが……、いま見たようにマチの
恋する乙女ってスゴイ。女の子は空だって飛べる。
とても夢のある話であった。
「それじゃ、アタシ行くから。……みんな元気でいてね」
「お待ちなさいったら! お願いだからっ!」
「そうだよマチさん! ちょっとお話していきましょうよ!」
背を向けてスタスタ歩き出そうとするマチを、同じ女の子であるシズク&パクノダが制する。もう色々と必死だ。
「まだ私たちとは勝負してなかったでしょ? 仲間外れは寂しいじゃないの」
「あたし達は腕相撲そんなにだけど、でも別のヤツで遊びましょ!
ほらほら! いつもコイントスとかやってるじゃないですか? しようよマチさん!」
「えっ、いや別に良いけど……。あれ喧嘩しちゃった時のヤツでしょ? 今やるの?」
もう次の言葉を待たずして、二人はクモの絵がデザインされたコインを、懐から取り出す。理屈とか道理とかじゃなくて、もう勢いで押し切る作戦だ。
「ほら、もし私が勝ったら、マチにはもうちょっとだけ、この場に居て貰うわ。
すぐ帰るんじゃなく、ご飯くらい一緒に食べたって、バチは当たらないでしょ?」
「あたしが勝ったら、メアド交換です!
マチさんなかなか教えてくれないんだもん! ここでグッと距離を縮めますよ!」
「なにその無駄な情熱。
この際だし、別にどっちも構わないけど……そんなので良いの?」
ピーン! とコインをはじく二人。
マチはじっとそれを見た後、あっさり「どっちも裏」と即答。
「……」
「……」
「お、アタシの勝ち? それじゃあ悪いけど、もう帰るわね。
引っ越しの準備とか、セミナーの申し込みとかしなきゃだし」
スタスタと、マチが歩き去って行く足音が響く。〈ヒュ~!〉とつむじ風が吹いた。
「マチぃぃーー!! 表か裏かぁぁーーッ!?」
「さぁやるよマチ! 裏か表ぇぇーー!?」
「うおおお! マチぃぃーーッッ!!」
「ちょ……びっくりさせないでよアンタ達。
そんな大声出すキャラでも無いでしょ?」
シャル、コルトピ、クロロがドドドッと駆け寄りながら、コインをピーン!
もう有無を言わさず勝負を開始する。彼女の意思は尊重しないようだ。
「裏、表、表」
斬ッ! と音が聞こえてきそうな程の瞬殺――――
全員あっけなく玉砕し、ただただマチが歩き去る後姿を眺める羽目となる。
なんか〈チーン♪〉という鐘の音が聞こえた気がする。無様だ。
「な……なぁマチよ? お前どうして、裏か表か分かるんだ?
たしか透視能力などは、持っていなかったハズだが……」
「ん? そんなの無いわよフランクリン。
あぁ、この子無敵だわ――――コイントスで勝てるワケねぇ。
幻影旅団の仲間達は、完全敗北を悟る。もうマチを負かすことなど、出来はしないのだと。
恋する乙女すげぇ、みたく。
「マチのカンは、よく当たるからな(震え声)」
「クロロ、クロロ、顔面蒼白になてる。ちょと落ち着くよ」
もう終わりなのか!? このまま幻影旅団は空中分解してしまうのか!?
そんな悲壮感がこの場を支配しつつあった、その時!!
突然この場に、今まで妙に喋らなかった人物の声! “救世主”の一言が響いた!
「――――ねぇマチ♠ 君の好きな人って、
ヒソカだ!
今まで「ふふん♪」とニヤケながら、ずっと壁にもたれるばかりだった彼が、唐突にマチに問うた!
確信を抉る一言、不思議と今まで誰も口にしなかった疑問を、空気も読まずにズバッと言い放ったのだ! ステキ!
「はぁ? みんなにならともかく、何でアンタに教えなきゃいけないの? サイアク」
「そう言うなよマチ♦ ボクだって団の一員だろ?
仲間のことを知りたいと思うのは、当然じゃないか♥」
「……」
デリカシーのない、軽薄な言葉。……だがこの場においては有難い! これはみんなが知りたかった事だ!
前代未聞のことであるが、もう旅団の全員が「ヒソカがんばれ! やっちまえ!」みたく応援していた。決してマチには気付かれぬよう、ちっちゃい声で。
「けれど……その
そりゃそうだ! そんなの誰だって、言えるワケがないっ……!」
「へ?」
間の抜けた表情のマチ。対してヒソカは思わせぶりな笑みだ。なにやらとても機嫌が良さそうに見える。(正直ムカつく顔だ)
「好きな人のために、花嫁修業かぁ……♦
まさか君に、そんな可愛らしい所があったなんてね……♣
これはボクも、見る目が無かったと言わざるを得ないなぁ。知らなかったよマチ♥」
「ねぇ、バカにしてる? それともケンカ売ってんの?
アタシもう抜けるんだし、“マジギレご法度”のルールなんて、知らないわよ?」
「いいよいいよっ! いやはや、健気じゃないかマチっ!!
顔はともかくとして、正直もうちょっと強いほうが、ボク好みだったりはするけれど……この際だから妥協してあげても良いよ?
うん、君はとっても素敵さ♥ 本当だよマチ?」
ツンデレなのかと思ってたけど、素直になったんだねぇ♪
そうヒソカが「うんうん」と頷きながら、まるで太陽のような笑みで、バシッとマチに告げる。
「――――ボクなんだろ? 君が好きなのは♥
いや~、君も意外と面食いというか……♠ モテる男はつら
「違うけど? あんたキモイから、
触りたくない、殴る価値もない――――
そう言わんばかりに、マチが背を向けて、スタスタ去って行く。
まるで虫のような扱いだった。心底汚らわしいと。
「おい、ヒソカが膝から崩れ落ちたぞ」
「ほっといてあげよ? 彼には今、時間が必要だよ」
ボノレノフとコルトピが、ひそひそ囁き合う。
こんなにも残酷な仕打ちがあるのか、こんな哀れなヤツ見た事ねぇ――――
同じ男として同情する。まぁ慰めたりフォロー入れたりはしないが。めんどいし。
「あの、マチちゃん……?
いちおう訊いておくけど、旅団の誰かってワケじゃ無いのよね?
シャルとか、フィンクスとか、あと団長とかさ?」
「そんなワケないじゃん。なんでアタシが、
というか何でちゃん付けで呼ぶの? パクノダ今日おかしいよ?」
予期せぬ流れ弾を喰らった男共が、もう〈ガックゥー!〉と崩れ落ちる。
ひどい。なんにも悪いことしてなかったのに。世界は理不尽であった。
「パクノダだって、もしウボォーと付き合えとか言われたら、舌噛みちぎって死ぬでしょ?
フランクリンやボノレノフなんか、ほぼほぼ化け物だよ?」
「そうね……よくよく考えたら無理だわ。ごめんなさいねマチ」
「あたしも無理かなぁ……?
こんな人達と付き合うくらいなら、一生デメちゃんといるかも」
「――――もうやめてくれッ!! オレ達がいったい何したって言うんだッ!!」
そう盗賊団の犯罪者共が申しております――――と言わんばかりの光景だが、どうか彼らの気持ちも汲んでやって欲しい。ただ仲間の為に頑張ってるだけなのだ。
「もう帰らせてよ。もしくはアタシ達でお茶しにいこうよ。
三人でトークすればいいじゃない」
「うん、じゃあもうそうしましょう。ここ男だらけでムッサイし」
「乙女同士、キャッキャウフフしましょっか。
こういうの必要だよな~って、ずっと思ってたんですよ。この団ムッサイし」
「――――見捨てないでくれッ! オレ達も仲間に入れてくれよッ!!
あとムッサイって言うなよ!!」
傷つくよ! 男のハート粉微塵だよ! 粉塵爆発しちゃうよ!
スタコラ歩き去ろうとする三人に、野郎共が必死に縋り付く。もう恥も外聞も無かった。お願い行かないで。
「おいマチ」
だが、その時……。
「その男ってのが、どんなヤツかは知らねェ。でもよ……?」
今まで静観を貫いていた一人の男が、マチを呼び止めたのだ。
「お前、
ノブナガだった。この袋小路を壊したのは。
彼はいま、普段の飄々とした態度を捨て、とても真剣な表情でマチを見つめている。
の、ノブナガ父さん……!
「……いきなり何? ムカつくんだけど。
そんなの頑張れば、出来るに決まって……」
「いーや、無理だな。
言っちゃ悪いが、お前は男所帯の中で育った、
そこいらのセミナーやお料理教室に入った所で、周りに溶け込めるとは思えねェ。
そうだろマチ?」
「……っ!?」
「確かに、気合だの根性だので、お前に敵うヤツぁいねぇ。……だが違うだろ?
ああいう場所で必要とされんのは、周りと上手くやれる協調性と、社交性だ。
お前それあんのか? 上手くやれる気でいんのかよ?
――――舐めてんだよお前、“社会”ってヤツを」
たじろぐ。ここに来て初めて、マチが真剣に仲間の話を聞く。
マチは努力家だ。きっとどんな家事スキルだって、瞬く間に習得してしまう事だろう。
……だがそれは「ちゃんとやれれば」の話。ちゃんと続けられればの話だ。
言葉遣いも悪く、喧嘩っ早く、頭に血がのぼりやすい彼女が、まわりにいるごく普通の女性達と上手くやれるのか? ちゃんと先生の言うことを素直に聞けるのか?
もっと言えば、念なんか知りもしないカタギの人達に、
ノブナガが言っているのは、そういう事だ――――
「お前が他所で下手をこきゃあ、旅団の面子に傷が付く。
抜けるだのなんだのは関係ねぇぞ? そんなのは形式上の話だろうが。
……これまでお前を支えてきたクロロや、
そして皆の意見も聞かず、全部てめぇ勝手に行動すんのは、お前にとって“アリ”なのかよ」
「……ノブ」
マチが俯く。ノブナガの顔を見れずに。
気付いたのだ、仲間達のことを
仲間だ。コイツらはアタシの家族だ――――大切な人達じゃないか
なんでノブに言おうとしなかったんだろう。ちゃんと話をしなかったんだろう。
こんなにも真剣な目で語り掛けてくれる人を、なぜ蔑ろにしていたんだろう。
マチは心から痛感し、悔いた。
「ったく……。そんなにオレらが頼りねェってのか。
喧嘩はしても、今まで一緒にやって来たろ? お互いの背中を任せてた。
連れねェじゃねえかマチ。相談してくれって……」
「うん……ごめんノブ。アタシがズレてた。
やんなきゃ、やんなきゃって、そればっかりになってた……」
小さく、コクリと頷く。普段は勝気なマチが、素直に謝っている。
その姿をノブナガはあたたかく見つめ、周りの者達は「大丈夫かしら!? 大丈夫かしら!?」とハラハラ見つめている。中にはウボォーのように漢泣きしてる者もいるが。
「ところでよぉ? お前さん……“出汁の取り方”は知ってんのか?」
なにやら照れ臭そうにそっぽを向きながら、唐突にノブナガが訊ねる。
今この状況においては、どこかおかしな、突飛な言葉に思えた。
「えっ……出汁って、昆布とかカツオの事?」
「おうよ。あとアゴとかイリコとか、まぁ色々あんだけどよ。
こういうのを上手く出来ねぇと、何を作っても駄目だぜ?
奥が深ェんだ、料理ってのは」
にんまりと笑う。さっきまでの厳しい表情はもう無い。
本人はどう思うか知らないが、もう本当に「ノブナガ父さん……!」って感じだ。地味に旅団内での信頼感が爆上がりしていた。
「よぉシズク! お前って掃除得意だよな?
よく掃除グッズがどうとか、この洗剤が良いとか言ってたろ?」
「う、うん。お掃除するの好きだよ?
場所によってのやり方とか、汚れの落とし方とか、色々知ってるつもり」
「なら料理はオレ! 掃除の先生はシズクだ!
洗濯はクロロが詳しい。アイロンがけはヒソカが気色悪いくれェに上手い。
裁縫は……必要ねェか。マチが団で一番だもんな。
あとパクノダに家計簿の付け方、フェイに冠婚葬祭とかのマナーを教えて貰え。
……どいつも頼りになるぜ?」
「っ!?」
そうニカッと微笑んだ後、「あーやれやれ」とばかりに、ノブナガがこの場を去って行く。
きっと照れ臭いのを誤魔化したのだろうが、彼の想いはしっかりマチに届いた。
彼女は今も、息をのんで彼の背中を見つめている。
そして……大役をこなしてくれたノブナガの代わりに、団長であるクロロがこの場を引き継ぐ。
「マチ、ヤツの言った通りだ。オレ達が力になろう。
幻影旅団の名にかけて、お前を立派な花嫁にしてやる――――」
(つづく)
文章量が大きくなるので、今回は二部作の予定です。
また投稿にはお時間を頂きますが、そんなにお待たせする事は無いと思いますので!