【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】   作:hasegawa&friends

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陽キャ共を絶望のどん底に叩き落してみた。 その2

 

 

 

 よく知らない言葉を、“なんとなく”で使っちゃう事って、あるよね?

 みんな言ってるし、よく聞く言葉だから、自分も使おって。

 

 それ言ってたら、とりあえず合わせられるし、とりま笑い取れるし。

 だからよく知らなくても、詳しい事は何にも分かんなくても、あーし達はその言葉を使っちゃう。

 

 マクってる時*1、サブってる時*2、LINEやネット掲示板や、家族や友人との会話の中で。

 何にも考えずにアハハと笑いながら、まるで当たり前みたく、よく知らない言葉を使うの。ジョークみたくして。

 

 例えば戦犯とか、飢餓とか、ジェノサイドとか、……シベリア送りとかを。

 

 知った時、ビビる――――

 今はべつに本なんて読まなくても、わざわざ調べようとかしなくても、ちょっと機会があればニュースサイトとか動画サイトとかで、簡単に情報が手に入るから。

 ふとした瞬間に、自分が今まで使ってた言葉の()()()()()()()()()()()()、ひとり恐れおののいちゃう事が、これまで何度かあった。

 

『戦犯は誰よ? 誰が一番悪いん?』

 

『もうマジ飢餓ってる。腹と背中が南アフリカだわ』

 

『超ジェノサイドw お前ポル・ポト派かよwww』

 

『シベリア送りされんぞw これマジありえんw』

 

 でもこれは、そんな風にマック食べながら言っていい言葉でも、ましてやジョークで使うような言葉でも、無かった。

 それを知らず、さも当たり前みたく使ってた自分に、怖くなった。

 当たり前みたく普通に使ってる()()()()()、怖いと思った。

 

 でもあーしは、いつも笑って誤魔化す。

 なんでもないみたいに、自分は何もやってないみたく。

 「悪くなんてない。こんなの大した事ない」って、軽く受け流すんだ。

 

 そして、もう3分もすれば、綺麗サッパリ忘れてしまう。

 さっき、たしかに胸に刺さったハズの罪悪感を、真実っていう重さを、まるでへっちゃらみたく無かった事にする。

 

 重みや、真面目、ホントのこと――――そんなのは全部()()()()()()()()()

 だってそんな物、ちっとも楽しくなんかないし、良い事なんて無いし、笑えもしない。

 わざわざ好き好んで、辛い物と向き合った所で、バイブス上がんないでしょ?

 

 

 あーし、“目を瞑る”のって得意。

 もしかしたらコレ、いちばん得意かもしんない。ピアノやダンスよりも。

 

 ずっと昔、それこそこーんなちっちゃい頃から、いつも親に言われるままに、お稽古や習いごとをしてきたからね。

 いつも嫌なことや、なんか重たそうな事は、なんにも考えないようにしてるの。

 全部ふふ~んって受け流しちゃえば良い。あの頃それが出来なかったから……あんなにも辛かったんだし。

 

 目を瞑ろう――――楽しいことだけを思おう。

 明るく、楽しく、綺麗な物だけを見よう。自分に気持ち良いことだけを想おう。

 

 愛とか、夢とか、希望とか。恋や自由や友達のことを想おう。

 あーしの周りには、こんなにも素敵な物が、たくさん溢れているんだから。

 好き好んで辛いものを見たり、重い物を受け止めたりする必要なんて、どこにも無いんだから。

 

 だから、目を瞑ろう? 見えなくしてしまおう?

 

 嫌なことは、そうやって無くしちゃえば良いの。

 ぜんぶ全部、考えないようにしちゃえば良いよ。

 

 生きるのって、しんどいよね? ムカついたり辛かったりするよね?

 なのに……何でリアルが辛いのに、わざわざしんどい事をするの? 心に良くない物を見るの?

 

 歩いて行く為には、“喜び”が必要だよ。

 がんばって生きてく為には……、優しさや綺麗なものが絶対いるんだよ。ぜったいに。

 

 パーティをしよう。ウェーイって騒ごう。みんなでKP*3しようよ。

 そうやってる内は、なんにも考えずに済むから。楽しさで心を満たせるから。

 

 何事も、ノリを大切にいこうよ。

 楽しんだモン勝ちって言葉もあるっしょ?

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「――――止まるなジュリ! 死ぬぞッ!!」

 

 強い声。

 タカの一喝が、白い意識の中で揺蕩(たゆた)うあーしを、呼び戻した。

 

「動け! 歩くんだジュリ! 止まったら駄目だッ!」

 

「……ぽよぃ?」

 

 冷気で凍り付いた瞼を、必死こいて開く。

 身体はもう、寒いとか痛いとかを通り越して、感覚を無くしてる。

 いま自分は立っているのか、歩いてるのか止まってるのか、それすらワカランティ。

 だけど、なんか声がした方向にぐぎぎ……って首を動かしてみたら、あーしの好きピ*4であるタカの顔が見えたので、マジAS*5する。

 

「ジュリ、肩つかまれし。

 オレ中学までアマレスやってたし。超ヨユーだしw」

 

「けど、背負うのは拙い……。常に身体を動かしてないと。

 僕らが分かるかジュリ? ちゃんと見えてるか?」

 

「うん……ワカッティング(承知していますよ)

 ガチ見えてるし。二人ともあざまし」

 

 イカンイカンと、犬みたく顔をフルフル。

 まさか立ったまま、歩きながら眠っちゃうなんて、あーし一生の不覚。マジ末代までの恥だし。

 

「メンディーけど(とても面倒くさいですが)、歩くっきゃないっしょ?

 あーし超おけまる。パリピの看板背負ってるし。まじオリハルコン」

 

「おぉ、やりおるマン(出来る人ですね)

 ジュリ羽ばたいてんなwww(とても良い感じです)」

 

 意味も無く「ぽよーい!」*6と叫び、ドシドシ歩いて行く。何もない雪の平原を。

 あの寂れた港町……というのもマジおこがま! って感じの町を出発(でっぱつ)してから、もう何日くらい経つんだろ?

 ウチらは今、インキャデス兵の指揮の下、こうして目の前1メートルすら定かじゃない吹雪の中を、延々と行進させられ中。

 

 あーしのきょコは*7は、マジ常夏なTシャツ&ボトムスときている。超きびつい。*8

 しかも、歩いても歩いても何も見えてこない、馬鹿みたいに広大な土地。氷点下の寒冷地だ。

 そんな場所を、どこまで続くのかワカランティ、どこに向かってるのかもシランティな状態で、もう数日もの間、延々と歩かされてるのだ。

 

 途中、ちょっとでも列を乱したり、立ち止まったりすれば、容赦なくインキャ兵のグーパンが飛んで来るし。奴らはスタバ行ったり、トイレ行ったりをせん生き物っぽい。マジありえんてぃ!

 なので、ウチらはまるで機械みたく、ただただ歩を進めていくしかナッシン。

 

 もう目を開けてらんないくらい吹雪いてるし、身体が麻痺して動かしづらい。ちょっと油断したら思考もぼやけて来る。体力なんて初日でソクサリ(即去った)だ。まじエンプティ極まる。

 歩かせるんなら、せめて防寒具くれし。トレンチコートよこせし。ってパリジェンヌかよ。

 とりま流石のあーしも、これには萎えぽよピーナッツだ。やばばばば。*9

 

「そーいえばさ、“真夏のイヴ”って曲なかった? マリコの」

 

「歌手の永井真理子か?

 いやマリコ呼びは無しだろう……。妙齢の女性だぞ?」

 

「いーじゃんマリコwww

 オレ年上とか、超リスペクトしてっし。ありよりのありw

 マリコまじ尊い(素敵じゃないですか)」

 

 確かちょい昔の映画主題歌に、そんなタイトルの曲があった。

 この雪景色、つか前さえ見えん吹雪の中に居るんだけど……、ふとあの曲のタイトルが頭に浮かんだの。

 つか何でもいいから話でもしてないと、リアルガチで死んじゃうので、今バリバリに凍ってる顔の皮膚を無理やり動かし、ガクガク震えるアゴをガン無視しながら、なんとか喋ってく。

 いつかふと耳にした、あの優しい曲のことを。

 

 冬を待てないよ、二人でクリスマスをしよう――――もうサヨナラはいらない。

 

 あーし超うろってるけど*10、確かそんな内容だった気がする。

 とても切ないけど、素敵な曲……。胸がキュってするような(エモい)

 

「今こよみ的には、9月の頭っしょ?

 これウチらにピッタリじゃん、って」

 

「氷の大地で、季節外れのクリパ……か。

 そいつはバイブス上がるなぁ」

 

「たかし(確かに)。しかもここ外国だぜ? あげみざわ(とても気分が高揚します)

 パリピのクリパ見せてやろうぜ!w まじインターネットwww」

 

「それインターナショナルじゃね? 違くね?」

 

 

 

 その後、一定の間隔でやってるっぽい“点呼”の時間があり、ウチらは全員インキャ兵にグーパンされた。どうやらウチらの人数が減ってたらしく、逃亡兵が出たことでの連帯責任だった。

 もう口ん中、超切れてるし。あーし乙女なのに、ボッコォ顔面なぐられーしょん。酷くない?

 

 まぁぶっちゃけ……寒さにやられて行き倒れた人もいたし、あーしさっき歩いてる道中で、なんかフラフラと列から離れていくヤツがいるの、気付いてたけどね。

 ちょい止まれし! そっちの道違くね!? みたく声を出す気力なかったから、もう背中見てるしか無かったんだけど……。

 

 まぁ別に、やりたいようにすれば良いし? こんな場所で誰かの言うこと聞くなんて、まっぴらゴメンだろうし。ちゃんと逃げ出せたんなら、それはそれでって思う。

 アンタのお蔭で、あーしグーパンされちゃったけど、それくらい許したげても良いよ?

 パリピイエロー、マジ仏心(ほとけごころ)

 

 まぁ今は身体がアレだけど……ウチらもどっかのタイミングで、上手くやるつもりだし。

 アンタの方も元気でねって感じ。おさらばです同胞! おつかれーしょん☆

 

「馬鹿なヤツだ……、日本に帰れるワケでも無いのに」

 

 けれど……ボソリと。

 列にいたほかピ*11の、吐き捨てるような声。

 

 

「逃げた所で……、こんなただっ広い寒冷地で、一体どうするってんだ?

 雪に飲み込まれて死ぬだけ。()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「■■■ッ! ▲▲▲ッ!!」

 

 それから(多分)一日くらい経った時、隊列を牽引してたインキャ兵が、停止の指示を出した。

 ウチらはこれまで、行く先々で農場だの畑だのを見つけては、そこから全員で食べ物を拝借しては、吹雪の中えっちらおっちら歩いて来たんだけど……、長かったこの雪の行進も、ようやくエンドった(終わりました)

 

 ちな*12、食べ物といっても小汚いジャガイモとかを、勝手に畑から掘り返して、一個くらい食べただけ。

 煮たり焼いたりもせず、まだ洗ってもいないソレを、土ごとゴリゴリ齧って食べた。

 

 あーし発見したんだけど、寒いとか眠いとかの気持ちがおっきすぎると、もうグーペコとかの他の欲求って、()()()()()()()()()()()()()

 この行進の間、「なんか食べてぃ~。ミスドのフレンチクルーラーほちぃ~」なんて感情、あーし一回も浮かんで来なかったもん。思考の中はただただ「眠たし。落ちそう」って言葉で埋めつくされてた。

 まぁ流石に何か食べないと、この先もたないし、つらたんな身体に鞭うって、無理やり食べてたんだけどさ。

 

 ……でもここマジ氷点下だし、ジャガイモってほぼほぼ水分じゃん? もうデンプンという名の氷を食べてる感じだった。アレまじダイヤモンドだよ?

 よくポンポン壊さなかったなーって、あーし自分の身体を褒めたもん。そしてこのバイブスに感謝。

 

 まぁ同じもの食ってたハズのインキャ兵たちは、なんか全然へーきそうにガリガリいってたけど……アイツら一体どーなってんの?

 なんか根本から身体の作り違うっぽい。冬仕様にチューンされとるのやもしれん。どーゆうピープルなのアンタら。

 

「なんだアレは……洞窟か?」

 

「そのワリには、なんか人の手が入ってるくせぇな。

 いったい何に使うんだかw」

 

 ウチらが辿り着いたのは、木で出来た塀に囲まれた、超小規模な村みたいな場所。

 中にはいくつかの粗末なロッジ*13があって、そのすぐ近くには、大きな洞窟のような物がある。

 入口には、なんか工事現場で見るような“掘るヤツ”が無造作に転がってて、たぶんトロッコの為なんだろうけど、レール的なのが敷いてあるのが見えた。

 

 あーね~*14。とりまインキャデス共は、ウチらに土木作業させる気まんまんみたい……。

 これには超レシーブ*15と言わざるを得ません。ウチら正義のヒーローなんですケド?

 ないわー。ライダースジャケット着といてママチャリ乗ってる人くらい、ないわー。

 

「静粛にィ! 傾注ッ!!」

 

 やがて、広場っぽいトコに並んでるウチらの前に、なんか偉いさん的な雰囲気を漂わせるオジサンが歩いて来た。

 とてもおっきな、威圧感のある声で、ウチらと一緒の言葉を喋る。このひと()()()

 

「ここが、本日より諸君らが入る事となる、収容所であるッ!

 許可なく塀の外に出た者は、容赦なく射殺となる! 肝に銘じておけッ!!」

 

 収容所? 冗談でしょ? こんな枯れ木がそこら中に伸び散らかした、ポツポツと小屋が建ってるだけの村が? ココ、そんな大そうな名前で呼ぶような場所じゃないっしょ?

 

 それに、()()()()()()

 ウチら罪人じゃないよ。平和の為に戦ってたヒーローだよ? がんばってたじゃん。

 何にも悪い事してないのに、なんで収容されんの?

 この一瞬で、いくつもいくつも頭に「?」が浮かぶ。

 

「コイツ……捕虜か?

 僕らより先に捕まり、ここで働かされてるのか……?」

 

「だったら良いが、なんかアイツ、恰幅よさげじゃね?

 こんな場所で、ガチョウみたく丸々と太りやがって……。

 まっ! ()()()()()()()()()、とかじゃなきゃ良いなwww」

 

 この人だけじゃない、今ウチらの周りには、肌ツヤがよくて綺麗な軍服を着た人達が、取り囲むようにしてこちらを監視してる。その手に怖そうなライフル銃を持って。

 しかも、全員が()()()()()。今こっちに銃を向けて、力づくで抑えつけようとしてるのは、ウチらと同じ人達。憎むべき悪のインキャデスなんかじゃない。

 

 頭がクラクラする。出来るんなら「ありえんてぃ!」とか言って、後ろにひっくり返りたい。そのまま気絶しちゃいたかった。

 いま目にしている光景を、受け入れたくない――――

 

「ジュリ、物は考えようだ。相手が人間であるなら……つけ入る隙が出来る」

 

「それなw 今まで言葉も喋れねぇような奴らに、ずっと従わされてたろ?

 なら通訳が来たと思えば良くね? マジありがたくてハゲるwww(感激です)」

 

「う、うん……ワカッティング。

 あーしノープロだよ?」

 

 小さな声で、すきピ(大事な人達)と囁き合う。

 まだあーしの呼吸は収まらないし、頭ん中ぐぁんぐぁん揺れてるケド……、タカやリョウの声を聞いて、ようやく落ち着いてくる。

 

 極寒。氷の大地――――

 すべての命を凍らせ、あらゆる熱を雪と氷で奪い去っていく残酷なトコロ。そして、どこか物悲しい世界。

 そんな場所で、あーしのズッ友たちの言葉は、何よりもあったかく響く。

 

 なんでみんな、こんなにも優しいんだろ? なんでこんな明るく、強くいられるんだろう?

 おんなじパリピ、同じ陽キャナンジャーなのに、あーしは二人に感謝してばかりだ。

 

 この二人が支えてくれてるから、いつも傍にいてくれるから、あーしはおけまる。

 いつだって、羽ばたいていける*16、って思う。マジ最&高。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「さぶいーーっ! ちぬぅーーっ!! もうダメぇーーっ!!」

 

 でも即折れしたあーしの叫びが、収容所の広場に木霊した。

 

「ちゃぶい! ちゃっぷいちゃっぷい!

 ありえんてぃ……、超MMC……(マジむかつくし殺します)、さげぽよ……」

 

 今あーしは、見たこともないようなおっきいノコギリを駆使して、木をゴリゴリやっている所。

 超合金かよ!? おめぇ樹齢何年よ!? みたいな木々を、申し訳ないけど切り倒してる最中だ。つらたん。

 

「こんないっぱい歩いて来たのに、休憩もナッシン?!

 どーなってんの此処の人! あの日の貴方に戻って! ……知らんけども!」

 

 あの恰幅のよいオジサンに「これより班分担して、整備作業開始ッ!」と言われた時は、自分の耳を疑ったほどだ。ショッキングピーポーマックス!

 あーしバイトとかした事ないけど、ぜったいコレ労働基準法とかガン無視してる。人間の尊厳にツバ吐いてる。MJD(マジで)!?!?

 

「うおぉぉ~~っ! パリパリパリパリッ……!!」*17

 

 けれど、ブリキみたくなった身体を、懸命に動かす。渾身の力を込める。……そうしなきゃ寒くて死んじゃうし。

 敷地内にわんさか生え散らかしてる枯れ木を、お化けノコギリでどんどん伐採してく。

 これがいわゆる“整備”ってヤツなんだろうけど……そんなのウチらが来る前にやっとけし! もてなせし! と思わない事もない。

 さっき通りすがりのほかピ(お仲間)が言ってた所によると、この粗末な建物や、オンボロの柵とかも、ぜんぶ捕虜に作らせたらしいし。

 もっと頑張りなよ! 諦めんなよ! って感じだった。

 

「うぃーーしょい! うぃーーしょい!

 こんのぉ~う! 陽キャなめんなし! パリピなめんなし! 全然おけだし!」

 

「おー、ぱねぇなジュリw マジ神ってんなwww」

 

「あぁ、大したもんだ。僕らのイエローは」

 

 ノコで切り倒しては、地面をボコッと掘り返して、切り株を抜く。その繰り返し。

 どれほど動こうが、氷点下過ぎてちっとも身体あったまらない……、けどやるしかなくね?

 

「ちょ……! なにサボッティング?!?!(怠けてはいけません)

 アンタら働けし! 動けし!

 ほらこれ切っといたよっ! ジャンジャン持ってけし! 秒で!(すぐお願いします)」

 

「かしこーw(かしこまりました) さぁて、いっちょやったるマン!

 オレ超フッ軽だし(フットワーク軽いですし)、速攻エンドるぞ?www」

 

「YMだな(やる気まんまんですね)、その調子だジュリ。

 僕らも見習うとするよ」

 

 のほほんとこちらを眺めてた二人を、ガーッと一喝。

 もう寒いし辛いし、あーしは()()なのである。

 今タカとかは、手の平を怪我しちゃってるし、ホントは作業なんてして欲しくないんだけど……、ダラダラしてたらグーパン飛んで来るからね。今はしゃーないの。

 

 あーしがゴリゴリ切りまくった木を、二人が肩に担いで持って行く。

 それは向こうの方で、ウチらの住居となる建物の為に使われる。ようは今、家作りをおこなってるのだ。

 

 元々ここにあった建物なんて、もう粗末すぎて住めた物じゃない。数もぜんぜん足らないしね。

 だからこれ終わんないと、ウチら今日、マジで寝るトコ無いらしいし……。きびつい*18からってサボッティングしたら、エライ事になっちゃうよ。ガチ絶死。

 

「あー、これもしかして、テントの布?

 これ屋根に使うんだぁ~」

 

「そうだ。丸太はともかく、板を準備するのまでは無理だからな。

 今は骨組みだけ作っといて、これを布として被せるんだ」

 

 ウチらの班10人がかり。家はみるみる内に出来上がっていく。

 床とか剥き出しの土だし、そんな広い建物でも無いけど……、でもこうして皆で何かを作り上げるのは、いつだって楽しいし、充実感がある。(身体ボッコボコだけどね)

 

 

「場所なんて関係ない。どこだって良いんだ。

 ――――僕らはパリピ戦隊、陽キャナンジャー。

 今いる場所を、最&高にしてけば良い。ここが僕らのパーティ会場なのさ」

 

「わかりみw リーダーだいしてる♪(大好きですし、愛してます)

 オレが女だったら、絶対ほっとかねぇわコイツw きゅんですwww(ときめきます)」

 

「パない!

 つかハルのカレピッピでしょ!? 盗んなし!」

 

 

 

 

 白一色の吹雪の中、三人で笑い合う。

 どんな場所も、天国にしちゃえば良い――――それがウチらパリピの本領。

 

 気合を入れて、バイブス上げて、いつだって楽しく。

 たとえそれが、どんな状況であっても。

 

 まぁ、とりま三人で「ウェーイ☆」とかやってたら、歩哨の人きてボカスカに殴られたよ。

 これも良い思い出になるといいな。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 次の日から、ウチらの仕事は主に“坑道堀り”になった。

 あの来る時にチラ見したおっきな洞穴は、案の定あーしの仕事場になった。

 

 ――――あかん、身体動かん。おきれんてぃ。

 連日の行進で痛めつけられた身体は、一晩眠ったくらいじゃ回復しない。それどころか、中途半端に休ませたせいで、前よりさらにポンコツになった。

 これまでは麻痺してた痛みや疲れが、ぜんぶ表面化したんだと思う。

 ガクッと、お米の袋を何個も背負ってるみたく、明らかに身体が重たいの。

 

 有り体にいって、ウチらが頑張って作ったお家は、あまり良い物とは言えなかった。

 貧乏な家とかである隙間風どころか、もう四方八方から雪が入り込んできて、布で塞いでる上からも落ちて来る。とうぜん部屋の中は鬼寒い。床だって地面むき出しだ。

 とてもじゃないけど、支給されたうっすい毛布一枚じゃ、大事な自分の体温を守ることなんて、出来はしなかった。

 

 ご飯として出されたのは、雑穀が混ざってる感じの、固い黒パンひと切れ。そして具なんかロクに見当たらない、お湯よりちょっとマシ系のスープを、コーピーカップ一杯分ほど。

 美味しくもないし、こんなんで力でるワケない。このなんにも無い氷の世界では、ビタミンやタンパク質すらも遭難しちゃったみたい。

 

 そんなこんなで、みんなフラッフラな身体のまま、坑道に赴いた。

 例によって、あの軍服着たオジサン達にコツキまわされながら、無理やりキッチリ列で歩かされた。

 

 これまで正義のため、地球のみんなの為にって戦ってたウチらは、今もうオジサン達の気分次第でボコボコ殴られるような存在。

 成す術もなく、ただ無気力にそれを受け入れるだけの存在。

 それを思うと、胸がキュッとなった。

 まだかろうじてあーしの中に残ってる“熱”が、こんな自分達の姿を「哀れだ」と感じさせた。

 

 

 

「なにココ……。

 ねぇ、本当にこんなトコ入るの……?」

 

 列の先頭の人が持つ、たった一個のランタン。

 そのちっちゃくて頼りない光を頼りに、坑道を歩いた。

 

 人の手で作った洞窟は、ちんまいあーしの身体ですら窮屈。何回も岩肌にぶつけ、肩や顔に傷を作りながら進まなきゃいけなかった。

 暗かった。そしてとんでもなく深かった。どこまで続いてるのかを考えたら、不安な気持ちで一杯になっちゃうくらい。不気味だった。

 

 まるでアリの巣みたく、それは切羽(きりば)に枝分かれしてた。

 決して列を乱さないよう、遅れちゃわないように必死で歩いた。

 こんなワケわからん異国に連れて来られ、しかもここは“こわたん”な坑道のドン詰まり。うしろには銃もった軍服オジサンが、怖い目でウチらを監視してる。

 もうここから外に出ることは、簡単じゃない。

 逃げ出すとか、日本に帰るとか、そんなのここでは()()()()()()って、ようやくあーしは思い知ったの。

 

 ……どうやるのソレ? いったい何したら良いの? 誰かおしえてよ。

 こんな動かすだけでギシギシいうほど疲弊した、ロクに防寒具すら着てないような身体で、いったい何が出来るの?

 ここ寒冷地だよ? マイナス何十度の世界だよ? 木も草も土も風も、ぜんぶ凍ってるんだよ?

 たとえ100キロ歩いたって、まわりには何もない所なんだよ?

 

 スマホも貴重品も、ぜんぶ取り上げられた。お金も通信手段も、体力だって無い。

 きっとこの環境じゃ、それずっと回復しないよ! ()()()()()()()()()()()()

 だってごはんも、服も、清潔さも、満足な休息すら無いじゃんか!!

 

 ――――どうやってここから出るの? どうやって逃げたら?

 もうウチら、()()()()()()()()()()()()()()()()()?!?!

 

 

 

 突然あーしの心に“恐怖”が襲い掛かった。

 倒れたい、地面に膝を付きたくなる衝動が、身体中を突き抜けた。

 それを必死に振り払うように、ツルハシを握る。

 この現実と重ね合わせ、それを壊しちゃうつもりで、岩肌に振り下ろす。

 

「■■■ッ!! ▲▲▲▲ッ……!!」

 

 激が飛ぶ。すぐ横の方で、仲間がインキャデス(化け物)に殴られてる音がする。

 それすらも必死で振り払う。無心でツルハシを振るう。ロクに残ってない体力で力一杯。

 見たくないもん――――考えたくないもん。こんなの。

 だから動く。身体を動かす。頭を真っ白にして。

 マメが潰れ、手から血が滲んでる。どんどんあーしのツルハシが、赤く染まってく。

 

 熱い……あついよ……頭がポーっとするよ……。

 

 外はあんなにも寒かったのに、ここはまるでサウナみたい。

 地熱なのか、人間の熱なのか、はたまたあーしが風邪ひいたのかは分かんないけど、ここは酷く熱い。喉がカラカラに渇く。

 平衡感覚を失い、自分が立ってるのかも、何してるのかすらも、分からなくなる。

 

 夢の中みたい。ここは洞窟の中なのに、目の前がぜんぶ真っ白になってる――――

 あーしがもう、あーしじゃ無いみたく、なってるの。

 

 

「おいトコッロだ! 乗せろ乗せろ!」

 

「ほら押せぇーッ! 押せ押せ押せぇーーッ!!」

 

 時折、この場にガラガラとトロッコがやって来る。その度にみんなツルハシを置いて、掘った石をそれに詰め込んでいく。数人がかりで出口まで押し戻す。

 それが、いい緩急になった。

 延々と、まるでずっと続くかのような時間の中、そのガラガラという煩い音が、あーしをこの場に繋ぎとめた。

 それがあるからこそ、定期的に現実に引き戻され、あーしの意識はどこかに飛んで行かずに済む。この世界に踏み止まる事が出来る。

 

 

 

 やがて時が経ち、もうそんな物がある事すらも忘れてた“作業終了時刻”が来た時には、あーしはズタボロになってた。

 服も、髪も、手も顔も、身体中が真っ黒になってて、外で水洗いでもしなきゃ、家の中にも入れない状態。

 

 たった半日の間だったのに、改めてそれを思い出す、生きている事すらを許さない冷気。美しさとは裏腹な、雪の残酷な感触。

 その中で、みんな死んだ目のまんま、崩れ落ちそうになる身体を必死に支えつつ、真水で服と身体を洗った。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「うぅ~。またご飯こんだけスかぁ……。さげぽよ……」

 

 炭鉱掘りは、次の日も、また次の日も続いた。

 

「黒パンとスープばっかじゃんか……。

 ちゃんとしたモノ食べて無いじゃんか……。

 どんだけ貧乏なのインキャ帝国……」

 

 そう愚痴りながら、テーブルに着く。

 ここは一応、曲がりなりにも“食堂”の体裁だけは整った、この所内でいちばん大きな建物である。

 外や自分達の小屋とは違い、ちょっとしたストーブも置いてある場所なので、多少は元気も出てくるんだけど……、出されたご飯は今日もこの有様。しょんぼり沈殿丸なのだ。

 まぁぶっちゃけ、ご飯くれないのって「おめぇに食わせる飯はねぇ!」みたいな事なんだろうけど……。考えたら悲しくなってくるので止める。いま貴重なリラックスタイム。

 

「ジュリ、体調はどうだ? どっかおかしくしてないか?」

 

「ん、ノープロ。タカこそ怪我だいじょび?

 また医務室から包帯ゲトってこよっか?(入手して来て差し上げましょうか?)」

 

 タカはこの地にやって来た時、手の平を大怪我しちゃったので、とても心配。

 一応はここでも作業を分担してて、タカは比較的だけど、怪我の影響が出ないような仕事に回されてるそうなんだけど……。まぁインキャ帝国のやる事だからなぁ。あんま信用はNG。ちゃんと気を配ってないと。

 

 彼は柔らかい笑みで「問題ないさ」と返す。

 そりゃハルもきゅんするわって感じの、まさにイケメンスマイル。

 そんな風に、誰彼かまわずそんな事してるから、いつもOBT*19してるから、ハルがやきもきオロオロしてるワケなんだけど、まぁ今は言うまい。ご飯マズいけどうまい(ライム)

 

「あーいてて!w オレもうマジ粉砕骨折! やばばばば!www

 誰がぬくもり的なヤツをオレに」

 

()()()()()()

 マッチョは外で乾布摩擦しとけし。パチこくなし(嘘はいけませんよ)」

 

「この扱いwww 辛辣www」

 

 ちなみにリョウは、ちょい前にやった身体検査みたいなので“甲”の評価が付き、めっちゃ重労働させられてるハズなんだけど……、いつもこんな感じでいる。元気爆発ガンバルガー。

 同じ人間なのにズルくない? って思うから、コイツにはちょい強めに言うことにしてる。なんかそれすると、みょ~に嬉しそうな顔でニコーッとしよるから、別に改める必要ないと思うし。

 ……Mさんなの君?

 

「いま考えてる。

 どうにか出来ないかって、二人で探ってる所だから……もうちょい辛抱してくれ」

 

「ジュリ、なんかあったら言えし。

 何かしようとする前に、まずはオレらに相談すんだぞ?

 ワカッティングよな、BFF?(ベスト・フレンド・フォーエバー)」

 

「うん……もし何かあったら、秒で言うね?

 あざまし」

 

 

 

 

 翌朝も、その翌朝も、あーしは坑道で働いた。

 真っ暗の中、不安や恐怖を振り切るようにして、ツルハシを握ってた。

 

「ごほっ……! ごほっ! ごほっ!!」

 

 ふと、隣から聞こえた声に、意識を戻す。

 あーしはガチガチに固まってる手を解き、いったん得物を置いてから、声のした方に駆け寄った。

 

「ちょい! だいじょびカナちゃん? ノープロ?」

 

「あ……ジュリちゃん。

 ごめんね、だいじょうぶだよ♪」

 

 蹲ってる背中をさすり、声をかけてやる。

 この子はカナちゃんといって、あーしとは他の戦隊ヒロインやってる、ガーリーな女の子。

 きっとロリータドレスとか似合う、小動物系のカワイイ子である。

 

「立てる? ツルハシ持てる? おっぱい触っていい?」

 

「おっぱいは今ヤだけど……立てるよ?

 心配しないで、ジュリちゃん♪」

 

 おっきいんだよねぇ……。そんなロリータ・フェイスしてるのにさ。

 きっとフィギュアとか作られてると思う。服とかパンツとか脱着できるタイプのヤツ、量産されてると思う。……抱きしめてぇなぁMJD(マジで)

 

 ちな、この子もあーしとおんなじ日に、この収容所に来た。

 雪の行進の時も一緒だったし、ウチらの家でも隣で寝てたりする。おんなじ女の子だしね。

 まぁあの行進の時は、話とかする余裕なかったけど、顔はしっかり憶えてたの。

 メッチャもきゅい子いるし!*20 パない! って。

 

「う゛ぐッ! ごほっ……! ごほっ……!!」

 

「ダメじゃんか! ちょい休めしカナちゃんっ!

 ほら、あーしの影に隠れて? アイツらに見えないように、座れし」 

 

 秒で肩を支え、腰を下ろさせてやる。

 でもカナちゃん、必死に首を「いやいやっ!」って振ってる。こんなにも力の入ってない身体で。

 

「だ……ダメだよ。わたしだけじゃない、みんな頑張ってるのに……。

 じぶんだけ、休んだりなんか……」

 

 どれだけ諫めても、立とうとするのを止めない。ツルハシを手放そうとしない。

 なんで意地を張るの? なんで頑張ろうとかするの? あーしには理解出来ずにいる。

 

 これ戦いじゃないよ。世界とかみんなを守るヤツじゃない。()()()()()()()()()

 言ってたもん、あーし聞いたもん。ここは“流刑地”だって。

 罪を犯した人や、政治犯とかが送られる場所なの。だからウチらの他にも、同じインキャデスの労働者が交じってるんだよ――――

 

 こんなトコで頑張ったって、意地はったって、良い事なんてない。

 違うよカナちゃん……。ここウチらの戦場じゃないよ……。

 

 命を懸けるべき場所じゃない。信念や想いを貫く場所じゃない。

 ウチらはもう()()()()()()()()()()()()()――――こんなトコでこんな事させられてるんだよ。

 

 

「……ありがと、ジュリちゃんはやさしいね♪

 最初みた時は、怖い人なのかと思った……。

 愛とかじゃなく、強さや力ばっかりの人かなって。

 でもね、すぐ違うって分かった――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 翌朝、カナちゃん死んでた。

 ロクに仕事をしないお日様が昇っても、布団から起き上がることが、出来なかった。

 

「…………」

 

 彼女の顔を、見てた。

 やつれて、まっくろで、目元に涙の跡が残ってるカナちゃんの顔を、暫く眺めてた。

 

 昨日、作業が終わった後……、カナちゃんはご飯を食べられなかった。

 もう何日も、食べてなかったんだと思う。きっと身体が受け付けなかったんだろう。

 それを見た周りの連中が、食わないなら寄こせとか言って、デリカシーもなく何人か群がってた。あーし追っ払ってやったけど、カナちゃんはずっと力なく下を向くばかりで、結局パンに手を付けることは無かった。

 

 どんなに粗末で、少ない食事だったとしても、ここでは食べないといけない。

 そうじゃないと、もたない。

 生きることが、出来なくなる。

 

 

 ――――ならん! 一人休めば、他に分担が増えるッ!

 これは、あーしが軍服さんに、カナちゃんの体調不良を伝えに行った時、言われた言葉。

 昨日、ようやくインキャ帝国側から、防寒具の支給があっただろう。それで何とかしろって、意味ワカランティなこと言われた。

 なんで服着てたら、身体悪くても働けると思うのか。

 なんでその高そうな椅子から腰を上げて、一目でもカナちゃんの様子を確認しに行かないのか。

 どれだけ考えても、あーしには分からない。今まで何にも考えてこなかったからかな?

 

 こいつマジ話にならん、明日になったらインキャ兵とっ捕まえて、ボディランゲージでも何でもする。カナちゃんの容態を診てもらう。

 ぜったいそうするって、心に決めてたのに……。カナちゃんの身体は、それまで持たなかった。

 

 カナちゃんに、“明日”なんてものは、無かった――――

 

 

 

『衛生兵に聞き、コイツを別の部屋へと運ぶべし。

 その前には、衣服や下着などを、すべて脱衣させておけ』

 

 カナちゃん死んだよ? そう丁寧語つかって報告したら、すぐにあの軍服さんは、あーしに指示を出した。なんの感情もないような顔で。

 脱衣とは、服を脱がせる事ですよね? 私にカナちゃんの服を、剥ぎ取れという事ですか? ってコイツに聞き返した。

 

『貴重な衣服を着させといて、何とする?

 ()()()()()使()()()()、他の者にまわすのが、有効利用というものだ』

 

 

 

 その後、医務室に行って、衛生兵さんと話した。

 場所を訊き、さっきあーしの手で裸にしたカナちゃんを、担架で“霊安室”に運んだ。

 

 ここは、そんな御大層な名前とはかけ離れた、ただのオンボロ小屋だ。

 壁は穴ボコだらけで、所々に雪が積もってるような場所。こんなトコじゃ何にも使えないから、適当に霊安室にしたんだろうと思う。

 

 もうすでに、何人かの遺体が並んでた。素っ裸にされた、死んだ人達の身体が。

 そのどれもが、ガリガリに痩せこけ、ハッキリ形が分かるくらい肋骨も浮いてて、触ったら折れちゃいそうに見えた。

 各自、その枕元には、見たこと無いくらいに汚くて小さなオニギリが、ポツンとひとつだけ添えられてあった。

 

 カナちゃんをこんなトコに置いといて、何とする?

 そう思ったけど、これはあちら側の都合なのだそうだ。

 今日一日ここに置いといて、明日まとめて埋葬させる予定だ、みたく衛生兵は言ってた。

 もちろん、ソレやるのは、ウチらの仕事だった。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 ゴロンて、音が鳴った。

 おっきな石とか、固くて重い物を転がした時みたいな。

 あの場所で、ずっと冷気に晒され続けて、ガチガチに凍ったカナちゃんの遺体を、穴に放り込んだ音。

 それがこの場の空気を揺らし、小さく響いた。

 

 凍ってたのは、カナちゃんの遺体だけじゃない。ここの地面もだ。

 さっきウチらは、ロクにツルハシも通らないほど固い土を、焚火の炎でゆっくり融かしながら、必死で穴を掘った。

 でも、深くは掘れなかった。カナちゃんの身体がギリギリ隠れるくらいの穴しか、掘ってやれなかった。

 

 それほど氷の大地は、固くて冷たくて……。

 まるで、ここではお前らの力など通用しないと、そう言われているような気がした。

 

 遺体を箱から出して、穴へ落とした。

 こんな土地では箱さえ貴重だから、一緒に埋めるなどと、もったいない事は出来ん、と言われた。

 

 

 ――――かわいそうに。裸にされて、そのまま埋められるだなんて。

 ――――――こんな日本から遠く離れた土地で……。なんて不憫な。

 ――――――――無念だったでしょうに。寒かったでしょうに。ごめんなさいカナさん。

 

 

 周りから、仲間達の声がする。

 悔しそうに、泣きそうな声で、カナちゃんに語り掛けてるのが聞こえる。

 

 あーしは、立ちすくんだまま。

 穴に落とされ、虚ろな目でお空を見ているカナちゃんの顔を、ずっと見てた。

 

 思うことはあるし、それは頭の中でグルグル渦巻いてる。たくさん沢山。

 けれど、それを口に出すことが出来ない。

 こんな目に合ったカナちゃんに、()()()()()()()()()()()()()、いったい何を言えば良いのかが、分からずにいた。

 

 

 あーしは、考えるのが苦手。

 今まで何一つ、ちゃんと受け止めては来なかったから。

 

 だから今、言葉が浮かばないのか。

 こんな時、いったい何を思えば良いのかが、分からずにいるのか。

 

 ――――受け止めないから、見ないから、いつも「ふふん」って言って受け流すから。

 だからあーしは、カナちゃんが死んでも、()()()()()()()()()()()

 

 

『安い同情は嫌だ。そんなの吐き気がする』

 自分だけ安全な場所から見下ろし、ただ自己満のために言う憐憫の言葉……。

 そんなのカナちゃんに言えない、友達にそんな事できないって、そう思ったのよ。

 

 けど――――その()()()()()()のおかげで、あーしカナちゃんに、お別れ言って無いじゃんか。

 カッコつけて黙ってただけじゃんか。この()()から逃げただけじゃんか。

 

 

 軍服さんに「早く現場に戻れ」とか言われて、適当に土かぶせてから、お墓を立ち去った。

 あんなにいい子だったのに、仲良くしてくれたのに、この中であーし一人だけ、何もしなかった。

 

 ……ねぇ? 「怖くない、優しい」って、そう言ってくれたじゃんか?

 なのに何であーし、カナちゃんに何も言ってあげなかったの――――

 

 なんなのソレ? どういう事なのソレ?!?!

 

 

 

 ……ねぇ、あーし無理だよ。

 出来ないよ“目を瞑る”とか。

 

 だってさ? こんなのどうやって、()()()()()()()()()()???????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………

 ………………

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「あの子……最後の食事もろくに摂れんと、逝ってしもうたんやなぁ……」

 

 そんな小さな声が、向かい側の席から聞こえた。

 

「でもやぁ……、明日は我が身やで?

 わたし等かて、もう何時ああなるんか、わからへんやんか。

 ……ほれ見てみ? もうガリガリやもん……。一体なんやねんなコレ。

 こーんなほっそい身体で、ここで生きてけるかぁ?」

 

 

 

 

 その声を余所に、黒パンを齧る。

 何を思うでもなく。黙々と口を動かす。

 こんな時でも、どんな事あっても……、人間お腹が空いたら、ごはん食べれるんだ。

 

 

 それが出来なくなった子から、死んでいくよ?

 

 此処では暖かさも、想いも、人の命も。

 ぜんぶ氷点下に向かって、消えていく――――

 

 

 

 

 

 

 

 

(つづくし!)

 

 

 

*1
マクドナルドに居る時

*2
サブウェイに居る時

*3
乾杯の略

*4
好きなピープル、親しい人の事

*5
安心

*6
えーい! と一緒の言葉

*7
今日のコーディネート

*8
厳しい&つらい

*9
やばいの進化系。その度合いによって、“ば”の数が増える

*10
うろ覚えなのですが

*11
ほかのピープル。他人

*12
ちなみにですが

*13
丸太で建てられた小さな家

*14
あーなるほどね~、の略

*15
ウケる、とても面白い

*16
良い感じに出来る、輝いてる、という意味

*17
パリピが力を溜める時の声である。

*18
厳しい&きつい

*19
思わせぶりな態度

*20
動物的な可愛さを表す言葉

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