【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】 作:hasegawa&friends
今回のお題はこちら↓
◆ ◆ ◆
お世話になっております。
リクエスト企画についてお題を送信させていただきます。
「無茶ぶり上等」と聞いて無茶ぶりしないのも却って失礼かと思いまして!
タイトル:AN-BREAD ZERO
お題:「アンパンマン」を原作とした「エースコンバット・ゼロ」のパロディ
つまりは、エスコンゼロのラストバトルをアンパンマンvsばいきんまんで再現していただきたく!
(甲乙さまより頂いたメッセージ抜粋)
20××年11月25日、デラオイシ国境付近の町――――
「アイツか? ああ知ってるぞ」
放置された家具や、空爆によって崩れ落ちた壁が床に散らばる、廃墟の一室。
照明など無く、窓から差し込む光だけが光源となる、昼時なのに少し薄暗い部屋の中で、彼にビデオカメラのレンズが向けられている。
「こんなトコに好き好んで来るなんて、よっぽど偏屈なヤツだろうって思ったが……。
まさかアイツの事を訊かれるとはなぁ~」
薄暗闇に紛れる、黒い身体。
落ち着いた雰囲気を演出する、柔らかい笑みと、それを形作っている大きな口。
そして、恐らくは
「懐かしいなぁ。もう10年にもなるのか。
アイツと一緒に飛んでた、あの頃から……」
タタタタ、という
彼は何気なしに窓へと顔を向け、そのままどこか遠くを見つめ始めた。
意識を過去へと飛ばし、思い出を拾い集めているかのような、静かな表情で。
「んー、こりゃあ話せば長くなるぞぉ~」
「……まいっか、アンタどうせ暇なんだろ?
こんなトコで油売ってる、変わり者のジャーナリストなんだし。
せっかく来たんだ、聴いていくと良いさ」
彼が、軽く抱きしめるようにして持っているアサルトを、今一度握り直した。
こちらへと向き直り、少し前傾姿勢になったのが分かる。話をする態勢に入ったのだ。
遠く異国からやって来た、私というインタビュアーに対して。
「古い話だ。でも鮮烈に憶えてる」
「アンタは
なんかヒョロヒョロだし、戦いとかには縁が無さそうに見えるけど」
ここに来るまでに、幾人かの方々からお話を伺ってきました。
皆、貴方と同じく“エース”と呼ばれていた方々です。
そう私は苦笑を返す。
「ふーん、
そういや俺さまも、呼ばれてたっけ」
「じゃあ……知ってるか?
エースってゆーのは、三つのタイプに分類出来るんだ」
片方の眉を上げた、どこかひょうきんな表情。
彼がリラックスし、会話を楽しんでくれている様子が、見て取れる。
「ひたすらに、強さを求めるヤツ――――
信念とかの、
判断力に優れ、戦況が読めるヤツ――――
この三つだ」
俺さまは、自分では2番目だと思ってるけど……いや待て、意外と3番もあるか?
そんな風に、彼が腕を組んでうんうん悩み始めた。それはどことなく、微笑ましい姿に見える。
彼が年の割には小柄で、身振り手振りで感情を表に出すタイプだからかもしれない。
歴戦の
「アイツの方はどうかなぁ~?
自分で言っといてなんだけど、もうあそこまで
正直なに考えてるのか、俺さまにもよく分かんないトコあったし……」
「まっ! とにかく真の
彼の名はGerm(ジャーム)
これは“ばい菌”というニュアンスで、医学用語ではなくカジュアルに使われる言葉だ。
ひとたび彼が戦場に駆け付ければ、たちまち戦況がこちらへ傾いていく事から、その様を敵軍にとっての病原菌に例えたTACネーム*1なのだという。
まぁ彼いわく「ジャムおじさんの“Jam”と似てて、あんまり好きじゃなかった」との事だが。
そして彼こそは、私が追っている“ある人物”の、元同僚。
自称、宿命のライバルにして、相棒だった男――――
今から約10年前、まさに世界を巻き込んだ、大きな戦争があった。
その名を【ベカリ戦争】という。
多くの血が流れ、幾人もの人々が命を散らしていった、この戦い。
その空に鮮烈なまでの軌跡を描き、ひっそりと歴史から消えた、ひとりの
敵味方の双方から畏怖と敬意を抱かれ、その狭間で生きた
私は今、彼を追っている。
いちジャーナリストとして、その物語が知りたいのだ。
三脚に取り付けられた固定カメラが、廃墟の中でポツンと座る男を映し出す。
いま若干しゃがれた声で、“片羽のばい菌”と呼ばれた男が、言葉を紡ぎだす。
「今日と同じだ。
あれは雪の降る、ちゃっぷい日だった――――」
◆ ◆ ◆
10年前、4月2日。
コムギィコ共和国内、ヴァレー空軍基地にて。
「なぁ~んで俺さまが“2”なんだぁ~!
どぉ~考えたって、俺さまが1だろうがぁ~!」
先ほどまで居た作戦会議室から、愛機のある格納庫へと向かう道すがら。
ばいきんまんがプンプン肩を怒らせ、もうそこら中の物にパンチやキックを繰り出しながら(八つ当たりしながら)、それでも早足で走っている。
現在、当基地には
色々思うところはあれど、とりあえず急がなければならない。
「やい
とりあえず今回は譲ってやるけどぉ、下手こいたら承知しないぞーう!」
そして、そんな彼と並走する、ひとりの人物がいる。
彼の名はアンパンマン――――ここヴァレー空軍基地に、ばいきんまんと共に“傭兵”として所属する、戦闘機乗りである。
赤い服に、黄色い靴と手袋、そして背中でパタパタ揺れている茶色いマント、といういつもの出で立ち。
胸の中心部分にある“勇気のマーク”は、そのまま彼のトレードマークとなっている。
彼も今、自身の愛機が眠る格納庫へ向けて、どこか緊迫感を感じさせる表情で走っているところだ。
「お前がガルム
今回は僚機だし、指示には従ってやるが……、もし駄目だったら途中でも交代だっ!
なんてったって俺さまは、人に命令されるのがぁ、大っ嫌いだからなぁ~!
あーーっはっはっは!」
傭兵なのに、いったい何を言っとるんだコイツは? 命令によって戦い、それでおまんま食ってる身分なんじゃないのか?
そう心の中でツッコミを入れたかどうかは、定かではないが……、とりあえず彼は無言で並走。ばいきんまんと肩を並べ、格納庫へと向かって行った――――
『こちら、基地司令部。
全機あがったようだな』
ヴァレー空軍基地、上空。
愛機に乗り込み、颯爽と基地から飛び立ったばいきんまんの耳に、無線からの音声が届く。
『今一度、作戦を確認しておく。
現在この基地に、国境を越えたベカリ公国の大規模爆撃機編隊が接近している。
敵はここを強襲し、コムギィコ共和国全土の覇権に
『知っての通り、ここヴァレー空軍基地は、我が国の最後の砦だ。
本作戦の失敗は、そのままベカリによる、コムギィコ政権完全制圧を意味するだろう』
『各機、全力で敵編隊を撃破。基地を守り抜け。
断固として、ここでベカリ公国の侵攻を食い止めるのだ』
まぁばいきんまんの方は、あんましちゃんと聴いてなかったけれど。
散々難しいことを言ってはいたが……ようは「敵の飛行機がいっぱい飛んで来るよ! ぜんぶやっつけてね!」という事に他ならないのだから。一緒いっしょ。
「お、降って来たなぁ~。
風情があって良いじゃないか。なぁ
無線を通して、アンパンマンに語り掛ける。
特に返事はかえって来なかったけど……、彼は構わずひとりで喋り続ける。
まぁこれも、いつもの事だ。
今ばいきんまんの眼下には、視界いっぱいに広がる雪景色がある。
バイキンUFO・Eagle*2に乗り込み、飛び立ってすぐに、この雪に覆われた美しい山脈が現れた。
雲で白く濁っているとはいえ、広くて胸がすくような空。そしてこの白い山脈の光景の両方が、ばいきんまんのテンションを上げる。怒りに高ぶっていた心を洗う。
それに、今日はやけに冷えると思っていたら、どうやら雪まで降って来たらしく、これも良い感じ。
まぁ、このような多少の雪など、空戦においては、さしたる影響は無い。やれるハズだ。
むしろこの綺麗な光景が、戦いに赴く自身の集中力を、どんどん高めていくようで、諸手を上げてバンザイしたい気分である。
(まぁ子供の頃は、綺麗な物なんか大っ嫌いだったけど……)
俺さまも年を取ったもんだ。丸くなったもんだ。
そう彼は、心の中でごちる。彼はバイキン星からやって来た宇宙人(?)なのだから、“綺麗”なんて言葉は似合わないのだった。
「かといって、この雪山でベイルアウト*3は悲惨だなぁ~。
……おい1番機、せいぜい頑張れ? 墜ちるんじゃないぞ」
まぁアンパンマンは飛べるけどな――――片羽になっちゃった俺さまはともかく。なんで航空機に乗ってんだろコイツ?
そう鼻歌気分で操縦桿を握り、機体を操る。今日もバイキンUFO・Eagleはご機嫌だ。
いま隣を飛ぶ“アンパンマン号・Raptor”*4、……いやガルム1の方も調子よく飛んでいるのが見て取れる。これなら何の問題は無いだろうと、ばいきんまんは内心で安堵する。
『ガルム1、ガルム2、そのまま現在の方位を維持せよ』
「こちら
『方位315、ベカリ軍爆撃機の接近を確認。
各機、迎撃態勢を取れ』
「ほい、お出ましだな。
おい司令部のお前っ! す~ぐやっつけて来るから、報酬を用意しとけよぉ?」
『君という男は……。豪胆なんだか軽薄なんだか。
分かっている
「心配するなぁ~! 俺さまに任せとけぇ~っ!」
遠くに機影が見える。目視で敵機を確認――――その数40機あまり。
ばいきんまんは改めて操縦桿を握り直し、グイッと力強く前に入れる。
さぁ、戦闘開始だ。
『ガルム隊! 敵爆撃機を全機撃墜せよ!
基地に到達させるな!』
「
んじゃあガルム1! いっちょ
『おいガルム2、お前はガルム1の指示に従え!
ブリーフィングで伝えただろう! 一機で突出するな!』
「うへぇ……」
出鼻をくじかれたばいきんまんは、苦虫を噛み潰したような顔。
そして渋々ながら、アンパンマンに声を掛ける。カッと強い瞳で、眼前の敵を睨みながら。
「――――了解っ! 指示は頼んだぞぅ
その檄を合図に、散開。
アンパンマンは右へ、ばいきんまんは左へと、機体を急旋回させる。
「はーひふーへほぉ~っと! 今日が初陣だなぁ
どうだ、高ぶってるか? 勇気の鈴は鳴っているかっ!!!!」
ロケットの発射ボタン。それを押してすぐ、眼前の敵が火の玉に変わる。
機体は砕け散り、大事に抱えていた爆弾に誘爆。更なる炎を上げる。
「でもお前にとっちゃ、空は慣れ親しんだ場所だろう!? 家みたいなモンだ!!
――――気負うことは無い! やってしまえ! 空でお前に勝てるヤツなんかいないっ!!
俺さまだって苦労させられたんだからッッ!!!!」
発射、即座にジンク*5。
急上昇し、敵機の真上にダイブ*6。
数機を同時に相手取り、それを瞬く間になぎ倒す。手元のボタンひとつで、襲い来る鉄塊を炎に変える。羽虫のように地に堕とす。
相手パイロット達の技量は知らない。どれだけの想いを持って、ここに来たのかも。
だがひとつ言えるのは、“年季が違う”。お前たちと俺さまでは、空で生きた年月が違うのだ。このヒヨッコ共がッ!!
そして、相手がアンパンマンであるのなら、それはなおさらの事。
たとえ万に一つとて、お前らに勝ち目などあろうハズもない。
ばいきんまんは、強く確信している。
「ガルム1、三機撃墜ッ!
よっし! 良いぞアンパ……じゃなかった
あー、ややこしいんだよなぁTACネームって……。ついいつものクセで」
――――別にいいよ? アンパンマンで。
そう無線機から彼の声が届く。
だが喋りながらも
ヘッドオン*7し、自分のミサイルだけを確実に当てる。
バレルロール*8を駆使し、四方八方からのミサイルを躱す。
どれほどの数で纏わり付こうが、周りを取り囲もうが、決して彼を捉えることは出来ない。
まるでこの“空”という空間で、唯一彼だけが特権を持っているかの如き動き。
明らかに周りの匹夫どもとは違う、特別な者だけが
華麗を絵に描いたような、その姿。
当然だ。この空は、彼の物なのだから――――
ここでは
彼の正義を、矜持を、犯すことなど出来るハズが無い。
重い爆弾を抱えた爆撃機は元より、護衛で引きつれている数多の
「バカ言え、一応ここの決まりなんだ。
少なくとも、これに乗ってる時は
問題行動で報酬減らされたら、俺さま困るもの」
――――お金が欲しいの? ぼくのをあげようか?
――――バカタレ、黙って戦え。
そう雑談をしながらも、二人は息の合った動きで敵機を落としていく。白く染まった雪山に、黒い煙を上げた航空機が、次々と墜落していく。
アンパンマン号・Raptorが縦横無尽に駆け、バイキンUFO・Eagleがその頭上を守る。
あれだけ沢山いた爆撃機が、もう見る影も無く数を減らしている。護衛機なんてもう雀の涙だ。
「FOX2! フォックストゥー! ……っと。
はーひふーへほぉ~っ!」
『良いぞガルム1、ガルム2。目標あと僅かだ。
各員、作戦を続行せよ。さっさと片付けて、ホットウイスキーとしゃれこもう』
『まぁ金の分は、きっちりやらせてもらうさ。
だがガルム隊の連中……、ちと張り切り過ぎなんじゃねえか?』
『おいおい
つえぇ。あんな変な戦闘機(?)なのに、強ぇ……。
周りを飛んでいる傭兵仲間たちは、その活躍に呆れかえっている。なんなんだアイツらと。
さっきまでの緊張感はどこへやら。あの作戦開始時の悲壮感は、いったい何だったのだろう? きっともう、誰もそれを憶えていないだろう。
「ナイッショー! いいぞ
もう撃墜数10を越えたんじゃないか?
今日一日で
ばいきんまんの機体は、あんな丸っこいノッペリしたUFOで、アンパンマンにいたっては、自分の顔を模したようなファニーなデザインなのに……。
でも
誰もがその動きに驚愕し、また同時に畏怖と尊敬を抱く、その戦いぶり。
ガルム隊――――
この空域、この戦場は今、彼ら二人が支配している。
『……こちらオット5、IFF*10不調。
作戦遂行は不可能。作戦空域を離脱する』
そして時折、敵であるベカリ側の無線も、こちらに聞こえてくる。
彼らは皆、劣勢だの、作戦遂行は困難だのと、慌てふためいてる様子。
『敵爆撃機1機が、戦線を離脱中。……怖じ気づいたのか?』
「ここまで来といて、とんずらぁ~?
ベカリの
当然だ、奴らは
まさかこのような反撃を受けるとは、ここまで完膚なきまでにやられるとは、思ってもみなかったのだ。
戯れのつもりで、死にかけのネズミをいたぶりに来たら、そこには二匹の虎が居た。何人でかかろうが、どんな手を使おうが、傷一つ付けられないほどに強力な虎が。
「ほいほいっと。
遠路はるばる、ご苦労さ~ん。風邪ひくなよぉ~」
国境を越えてやってきた爆撃機の編隊が、その任務を果たす事なく墜落していく。まるで後生大事にしているかのように、基地破壊用の爆弾を抱えたままで。
そしてベイルアウトした搭乗者たちのパラシュートが、次々に雪山へ降下していく。
もう全ての護衛機が落とされ、また友軍を見捨てて逃げ去ったので、あとは
ヴァレー基地の傭兵たちの、独壇場――――
「よぉ、どうだアンパンマン!
……楽しいか? 楽しいだろう?! 楽しきゃ笑えぇぇ~~い♪」
途轍もない轟音が空気を揺らす。バイキンUFO・Eagleの放ったミサイルにより、すり抜け様に敵機が爆散する。
ばいきんまんの「あーっはっは!」という楽しそうな声が、コムギィコ共和国の空に響く。
まぁアンパンマンの方は、相変わらず無言で操縦してるようだが、この程度でめげる彼ではない。メンタルは強い方だった。
「おーし! 最後の一機だぞっ!
――――勝負だアンパンマーン! アレを先に落とした方の勝ちだぁぁ~~っ!!」
さっき報酬がどうとか「TACネームで呼ぶ」とか言ってたのに、もうこの有様。
だが彼は楽しそうに、心からの笑みを浮かべながら、猛然と敵機に突撃していく。
というか、勝負のダシに使われてる敵パイロットは、もうたまった物ではないだろう。
この戦場を席巻していた二機が、同時にギューンと自分に向けてヘッドオンしてきたのだから。しかも彼が乗っているのは爆撃機であり、重い爆弾を抱えた機体では
二人は瞬く間に接近して来て、ほぼ同時にミサイルを放ったのだが、それが機体に直撃するよりも随分と前に、彼は座席のレバーをグイッと引いてベイルアウト。
あとに残された機体だけが、巨大な炎に飲み込まれていった。
「あー、同時か……?
ちっきしょう引き分けかぁ~! くっそぉ、アンパンマンめぇ~!」
――――いや、君の方か早かったよ。ばいきんまんの勝ちだ。
そうあっさりと勝負を譲られ、なんかばいきんまんは腑に落ちない気分になる。
負けたら負けたで、もっと悔しがれ。そのどーでも良さそうな、平坦な声は何なんだ。このつぶあん野郎。
だが、そうふてくされはするものの……、いま彼の胸は、確かに熱く燃えていた。
久方ぶりの高揚感。そして得も知れぬ喜びが、まるで温泉を掘りあてたみたいに吹き上がる。
こいつと、空を飛んだから。
その喜びによって、どうしても顔がニヤニヤしてしまうのを、抑えることが出来ない。
(いつ以来だろ? おっきな戦いの時は*11、たまに共闘したり、肩を並べて飛ぶ事もあったが……)
けれど、それは過去の事。
ほんとうに、もう記憶がかすんで
彼は噛みしめる。またこうやって、アンパンマンと飛べた喜びを。
あの頃のように、正義の味方と悪者ってシチュエーションじゃないけれど……、確かに今、自分達は“戦った”のだから。
「まぁ良い! 今回はそういう事にしといてやる~う! ふーんだ!」
プンプンしてるけど、どことなく嬉しそうに。
喜びを噛み殺してるみたいに。
「また機会はあるさ、何度でもな。
これからも頼むぞ――――
彼がアンパンマンに笑顔を贈る。
いま無線越しで、顔が見えないのをいい事に。
……
…………
……………………
◇ ◇ ◇
「そう……、あの雪の日が、新しい始まりだった」
一度は終わった、俺達の物語の――――
そう薄暗い廃墟の中、固定カメラの前に座る彼が、回想する。
「最初の印象? そうだなぁ~。
ま、流石って感じかな? 俺さまがライバルと認めるだけの事はある」
「あいつアンパンラプターに乗るのは、これが初めてだったんだけどな?
でもしっかり操縦出来てたし、飛び方もすごく上手かった。
元々アンパンマン号って、空も飛べるマシンなんだよ。陸海空ぜんぶいけるんだ。
だから多少勝手の違いはあっても、昔取った杵柄ってヤツなんだろう」
これって、強くてニューゲームだよな! と彼がワケの分からないことを言う。
「というかあいつ、航空機が出来るような事は、
シザース*12だの、スナップアップ*13だのも、息をするより簡単にこなすぞ?」
「だから、何をどうやって、どんな風に飛べば良いのかなんて、ぜんぶ身体で知ってる。
アイツ生まれながらの、
そして彼は、もっとよく分からない事を言った。
傍で聞いていても、私にはサッパリ理解出来ないことばかり。
ただの人である私には。*14
更に言えば、この【ベカリ戦争】にも、謎が多い。
一般市民である我々が知っている事など、ほんの僅かでしかない。
だがこの度、終戦から10年絶った現在、ようやく一部の情報が政府より開示された。
私はすぐにその資料を入手し、もう目を皿のようにして読み漁ったが……それでは到底満足することが足りず、ついには出所不明な裏情報にも手を出した。
ジャーナリストの魂に、火が着いたのだ。
私がそこまで掻き立てられたのには、理由がある。
僅かな情報を頼りに各国を飛び回り、今日もこのような紛争地帯にまで足を運んでいるのは、とても“単なる興味”というだけでは出来ない事だろう。
いま私の身体を、この「なんとしても知りたい」という抗いがたい知的好奇心が、まるで赤い布に突進していく牛のごとく、突き動かしているのだ。
隠された真実、忘れられた出来事、歴史から消えていった英雄。
未だ世界には、これほどまでに戦争の爪痕が残っているというのに、誰も口にする事の無い“物語”。
この戦争は、20××年のベカリ連邦法見直しに、端を発する――――
◆よく分かる! 当時の世界情勢!◆
(読むのめんどくさい人は、スクロールしてネ!)
20××年当時。
財政難に荒れるベカリ公国は、自国の領土であった東方諸邦の独立を許し、多くの国土を切り崩していた。
(いまアンパンマン達がいるコムギィコ共和国は、このときに誕生)
しかし、それでもベカリの財政難は、決して収まる事はなかった。
一方で、その流れに乗じてどんどん肥大化していく、隣国の巨大国家オイシーヤ連邦の存在。
衰退していく国。すぐ近くにある脅威。そして貧困により失われていく、民族の誇り……。
そんな泥沼化した経済恐慌の中で、ある極右政党が“強く正当なベカリを取り戻す”をスローガンとし、ベカリ政権を獲得した事が、全ての始まりだった。
約7年後の、3月5日。
コムギィコ共和国で天然資源が発見されたのをきっかけとし、ついにベカリ共和国は、隣国への電撃的な侵攻作戦を開始。同時に周辺各国へ宣戦布告した。
無ければ奪え、そうしなければ我々は滅ぶとばかりに、過去には同じ国であったハズのコムギィコに、猛然と攻め入って来たのだ。
【ベカリ戦争】の開戦である――――
準備不足だった各国は、伝統ある強力なベカリ空軍の前に、軒並み敗走する。
コムギィコ共和国も、わずか数日の内に、山岳地を除くほぼ全域を、占領下に置かれてしまった。
そこで時のコムギィコ政府軍は、“外国人傭兵部隊”を組織することを決定。
アンパンマン&ばいきんまんを擁するヴァレー空軍基地は、オイシーヤ連邦との連合作戦に、全ての望みを賭けた――――
◆ここまで!◆
……まぁいろいろ難しいことを言いはしたが。ようは、
『超強い国が、地下資源を目当てに侵略してきたゾ! こっちはもう風前の灯だ!
くそったれぇ~! なんとかベカリ公国に反撃しなくっちゃ!
行け! とべ! アンパンマン!』
とだけ憶えておけば、だいたい間違いない(確信)
ここまでは、教科書にも載っている知識。
今さら話すような事じゃなく、この世界に住む者であれば、誰でも知っているような事だ。
しかし私は、今回手に入れた数々の資料の中に、
一人の傭兵に関する記述――――そこに
情報としては不明瞭で、不十分なものが多い。
だが、私はそれにこそ惹かれた。ジャーナリストとして、ミステリアスな魅力を感じた。
この傭兵を通じて、ベカリ戦争を追いかける事にしよう。私はそう決めて、今日この場に立っている。
その先には、何かがある。
この戦争の隠された姿か、それともただのおとぎ話か……。
どれほど探ろうとも、ついにその傭兵に会うことは出来なかった。そもそも存在自体が、非常にあやふやなのだ。
ただ、“彼”と関わりのあった人物数人を、突き止めることは出来た。
いま私の目の前にいる男。
通称“片羽”は、その中の一人だ――――
「アンパンマンを傭兵にしたのは、俺さまなんだよ。
ついでに言うと、あのアンパンラプターを作ったのも、俺さまだったりする」
暫しの回想から我に返り、私は再び彼の話に、耳を傾ける。
「以前から、
その当時……いや
ベカリとかオイシーヤとかを渡り歩いて、ずっと戦闘機に乗ってた」
「でも世界情勢がえらい事になって、故郷のコムギィコに戦火が及んだ時……、アンパンマンをヴァレー空軍基地に誘った。
お前も傭兵をやってみないか? 退屈してるんだろ? って言って」
視線を天井に向けて、彼は当時のことを思い出していく。
先ほどのテンションとは違う。相棒との初陣を語っていた時とは打って変わり、その瞳に悲しみの色が宿っているように見えた。
「昔は……子供のころは、よくアイツと喧嘩をしたよ。
俺さまたちは宿命のライバルだったから、ことある毎にアンパンマンと戦った。
カバ男のお菓子を盗ったとか、てんどんまんの中身を食ったとか……、そんなつまらない理由で」
「まだこの世界が“夢の国”っていう名前で……、
今みたく、
「けれど、いつしか大人になって……次第にそういう事も、無くなっていった。
見た目はあんまり変わらなくても、俺さま達の精神は成長し続け、それに合わせるみたいに、時代も移り変わっていく」
「ポカポカと喧嘩するんじゃなく、別のことで勝負する事はあった。
パン作りや料理で勝負してみたり、どっちか上手に椅子とか本棚とかを作れるか~とか、そういった事で戦うようになった。
お互い、もう子供みたく掴み合いをするなんて、そんな年でも無かったんだ。
でも楽しかったと思う。俺さまはずっと、楽しかったんだ」
「けど……そんな幸せな時代も、
アイツが天寿を全うして、墓の下にいった時……、そしてカバ男やバタコさんも結婚して、あの国を去っていった時、俺さま達の時代は終わった――――」
彼が握るAKが、カチッと小さな音を立てた。
無意識に力を込め、何かを耐えているような顔。どこか辛そうな表情に見えた。
「あいつは、
ジャムおじさんが死んでから、一度も笑ってる所を、見たことが無いよ」
「きっと、ジャムおじさんは“特別”だったんだよ。
まごう事なき天才だった。パン作りに命を懸けた人だもの。
ヤツは“心”を込めた。
おいしくなぁれ、おいしくなぁれと願いながら、いつも一生懸命パンを作ってた」
「……でもアンパンマンには、
ジャムおじさんが居なくなってからは、自分で顔のパンを作ってるんだが……、でもヤツみたく命を吹き込むなんて事は、とても出来なかったんだ。
きっと……家族の死っていう出来事も、影響してたのかもしれない……」
「心の込もってない、形だけのアンパン――――孤独な心で焼くパン。
それが今のアイツの顔だ」
「……アンパンマンは、笑わなくなった。
ずっと無表情のまんま、感情を表に出すことすらも、なくなった。
もう、空も飛ばなくなってた……」
必要ないのさ、そもそも“ヒーロー”なんて物は。
国境が出来て、法律が出来て、治安維持はぜんぶ警察がやってる――――
だから子供の頃みたく、アイツが空を飛ぶ必要なんて無い。パトロールなんてしなくて良い。
そもそも、いつも悪さをしてた俺さまも、もう悪戯なんてする年じゃ無かったしな……と彼は語る。
「当時は、色々ちょっかいを出したよ。
なに暗い顔してるんだ! なに腑抜けてるんだ! 元気を出せ!
そんな風に、いろいろ連れまわしたりもした。
無理やり外に連れ出して、二人で遊んだりした」
「けど……無駄だったよ。
アイツは一度も笑わなかった。いつも何も言わず、俺さまの後に付いて来るってだけ。
何年かやったけど……いつしか俺さまは、
「こいつはもう駄目だ、腑抜けてしまった、もう相手にする価値なんて無い――――
そうアイツを見限り、国を飛び出した。
国境を越えて、“新しくなった世界”ってヤツを、見て周るようになった」
「傭兵稼業も、それで始めた事だ。
……別に俺さまが本気だせば、余裕で小国くらいは滅ぼせるんだけど……。
でも“戦闘機”で相手してやった。色んなヤツに交じって、いち傭兵として空を飛んだ。
そうしないと、対等になれない――――退屈を紛らわせないから」
「世界征服とか、何かを変えるとか……、そーゆう事にはもう、興味が湧かなかった。
――――俺さまの時代は、
だから惰性みたく戦闘機に乗って、ただただ退屈を紛らわす為に、戦ってたんだ」
ジュポっと音を立て、ジッポの火を着ける。
片羽のばい菌と呼ばれた英雄が、いま気だるそうにタバコを吹かし、力なく瞼を閉じている。
その姿は憂いを含み、見る者に切なさを感じさせる。
歴戦の
「コムギィコが侵攻された時、数十年ぶりに国へ帰った。
ちょうど空軍が“外国人部隊”を組織しようとしてたからな。
俺さまはバイキン星の出身だ! と言い張って、部隊に入った。
傭兵としての実績は挙げてたし、なんの問題もなかった(と思う)」
「ジャムおじさんの墓参りをして、ドキンちゃんの方にも花を添えて。
そしてある日、気まぐれにアイツの家に行ったんだ。
もうボロボロで、当時のあったかかった面影なんて微塵もない、あのパン工場へ……」
「アイツはそこに居た。
ずっとずっと一人で……パンを焼いてたんだ。
誰とも会わず、誰とも関わること無く、相変わらずの無表情で」
「ついて来い! って引っ張ってやった。
アイツは文句も言わず、トコトコついて来た」
「今度は俺さまという“悪党”じゃなく、敵兵という名の“一般人”との戦いだ。
あの頃とは違い、正義を背負ってヒーローとして戦うんじゃない。
ただ国境によって敵味方に別れただけの連中を、政治家が掲げるよく分からん“大義”とやらの為に、殺していくんだ」
「それでもアイツは、
俺さま達は、もう正義の味方でも悪党でも無い。子供でも無い。
楽しい時間は、とっくに過ぎたんだ。
もう何もかも、終わってしまっていたから――――」
――――どうだアンパンマン! 久しぶりの空は!!
――――楽しいか? 楽しいだろう?! 楽しきゃ笑えぇぇ~~い♪
ふいに、先ほど聞いた彼の言葉が、思い出された。
この男は、一体どれほどの想いをもって、その言葉を口にしていたのだろうと。
「
胸のニッコリマークのワリには、お前いつもブスッとしてんなぁ! っていう皮肉だよ。
どうだ、いいセンスだと思わないか? 中々やるもんだろぉ~?」
――――笑え、笑ってくれ。あの頃みたいに。
――――簡単だ。ほらこうやるんだよ。もう一度お前と……。
彼の表情から、そんな言葉が頭に浮かんて来たのは、果たして私の気のせいなのだろうか?
陽気だ。とても明るい。……でも彼は、いま自分が
私にはもう、知る由もない。
「あれから、色んなトコ行ったなぁ~。
アルロン地方へ、補給路の奪還に行ったり、フトゥーロ運河で戦域攻勢作戦をやったり。
いつもアイツと二人、並んで飛んだ。
いろんなモノと戦ったよ」
彼が言うには、アンパンマンは入隊してすぐに、頭角を表していったという。
誰よりも多く撃墜し、誰よりも自由に空を飛んだ。その空域を支配した。
『こいつら……コムギィコから来やがったのかよ!?』
『聴いてねぇぞ! こんな
『第1守備隊が撃破された!
全軍、なんとしてもあの二機を叩け!」
『支援要請はしたのか!? 繋がるまで続けろ!
本部からの指示はどうした!?』
『状況報告! 施設の損害を確認!
たったあれだけの戦闘機に、なにをやってる!』
『またやられた。このままじゃ、なぶり殺しだぞ……!』
いつも無線から、敵の狼狽した声が聞こえてきた。
逃げ惑い、恐れおののき、たった二機の戦闘機を茫然と見つめる無力な連中の声が、とても心地よかった。
『お前たちは何だ! 戦闘機乗りだろう! 飛ばなければ何の価値のない連中だ!
勇気のないヤツは置いていく! 悔しければ喰らいつけ! しがみつけ!
分かったなクソ野郎共!? よし行けッ!!』
片羽は言ってやったという――――勇気
そもそも、他ならぬ俺たちに対して“勇気”を誇るか? いまアンパン号・Raptorに乗っているのは、いったい誰だと思っているのかと。
技術や能力はもとより、
いつも彼は、軽く「はーひふーへほぉ~!」と口ずさみながら、鼻歌交じりで敵を殲滅した。
すぐ隣を飛ぶ、憎らしいばかりに心強い、相棒の機影を見ながら。
「けどまぁ……いくつか死線も潜ったよ。
なんてったって、俺さま達はいつも二機で組んでたからなぁ~。
多勢に無勢だろ……って感じることも、まぁたまにはある。
ヴァレー空軍基地の司令部は、頭がおかしいんだ」
まっ! だからこそ、俺さま達の撃墜数が伸びるんだけどな。
そうニヤリと、どこか愛嬌のある笑みで、片羽は語る。
たとえヒヤリとする事があろうと、いま彼が生きているという事が、勝利の証なのだ。
「いちばんヤバかったのは……やっぱ
あんたも知ってるんだろ? 何人かに話を聞いたって言ってたし。
俺さま達の聖地であり、住処であり、また墓場でもある――――あの“円卓”のコト」
……
…………
……………………
◆ ◆ ◆
『ガルム隊へ、こちらイーグルアイ*15。
作戦開始。【B7R】に侵入し、周辺の状況を探れ』
その日の任務は、ばいきんまん&アンパンマンという、ガルム隊二機のみの参加。
ベカリの制空権下にある国境空域B7Rへと侵入し、強行偵察を行え、という物だった。
もし敵勢力とコンタクトした場合は、交戦を許可する――――諸君らの実力が試される時だ。
ブリーフィングでは、なんかそんな風に言われてた記憶がある。
国境という、ベカリにとって絶対防衛戦略空域。ここには多数の航空部隊が配備されていることだろう。しかもこのB7Rの特性として、強度の磁場による通信混線も起こるという。
その強力な敵戦力は元より、戦闘すら非常に困難な場所、という事だ。
ちなみに、かの地で発生しているという磁場の原因は、土地に眠る膨大な地下資源にある。
ベカリ公国によるコムギィコ侵略は、この地下資源を狙った物であり、そしてここB7Rにおいては、古より多くの血が流れて来た歴史がある。
「ガルム2
眼下に広がる荒野。地平線の先まで何もない、土色の景色。
ばいきんまんは無線に応答しながらも、注意深く周囲の警戒する。
「管制機以外は、俺さま達だけ……。けどその方がやり易いかもな~。
パッと行って、パッと帰って来れるし」
そう軽口を叩いてはいるが、今朝からばいきんまんの様子がどこかおかしい事を、アンパンマンは感じ取っていた。
彼はアンパンマンよりも以前から、長年傭兵として
「B7R……俺さま達にはお似合いの場所、お似合いの任務だ。
バイキンEagleとお前さんのRaptorなら、まぁ問題ないさ」
B7R――――通称“円卓”。
それは戦闘機乗りに与えられた舞台であり、また墓場でもある。
絶対防衛戦略空域であるB7Rは、各国のエースが制空権をめぐり熾烈に飛び交う、他とは比べ物にならない死地。
たとえ
すなわち、ここでの撃墜は“死”を意味する。退路が存在せぬ潜水艦乗りのように。
ベカリだろうがコムギィコだろうが、条件は皆同じだ。
生まれた国も、階級も、肌の色も、全てがここでは意味を成さない。上座も下座もない。
戦闘機乗りにとって、ある種の究極的な平等が与えられる場所。
そして、自らの矜持を賭けて挑む決死の舞台――――それが“円卓”だった。
お似合いの場所? とんでもない。あそこはまごう事なき、
戦う意義や、守るべき矜持や、愛国心――――
そんな物でもない限り、好き好んで赴くような場所じゃない。こちとら金で雇われてるだけの傭兵なのだ。
ばいきんまんに関して言えば、この傭兵という職業に誇りを持ってはいる。いま自分を生かしてくれている、大切な物なのだと。
だが他の傭兵連中には、明らかに荷が勝ちすぎる場所。しかもアンパンマンなどは、ただ言われてほいほいついて来ただけの者だったりするし。
流れに身を任せて傭兵となり、もう2週間ほどは共に空を飛んでいるが……、未だにばいきんまんには、彼が何を考えているのかなど、これっぽっちも分からずにいる。
敵を撃墜しようが、任務を達成しようが、こいつはニコリともしない。
いつも無言のまま報酬を受け取り、それを使うことも無く、ただあてがわれた宿舎の部屋へと帰るだけ。
自分はパン(食べ物)だからと、同僚から飲みに誘われても、決して付き合うことをしない。ただ朝起きたらパンを焼き、Raptorいじって任務に行っては、帰って寝る――――それを繰り返す日々。
そこには熱も感じなければ、意思や意義など微塵もない。……戦いの中で人を殺すことすらも、なんとも思っていないように見えた。
――――どうしたの? なにか心配事?
ふいに、無線からアンパンマンの声が聞こえた。恐らくは、いつも煩いばいきんばんが黙り込んでいるのを、不自然に思って問いかけたのだろう。
ばいきんまんはハッと我に返り、ワチャワチャと辺りを見回す。再び警戒態勢に入る。
「なんでもないぞぅ!
それよりどうだアンパンマン、傭兵稼業ってヤツは?
楽しくやってるかぁ~?」
ガッハッハと意味もなく高笑いし、誤魔化すように問い返す。
「良いもんだろ? 空を飛ぶのは!
俺さまが連れて来てやったんだからなぁ! 感謝しろよ~う!」
――――別に感謝はないよ。これ忙しいし、とても疲れるもの。
アンパンマンが、まるでバイトをし始めたヒキコモリみたいな事を言う。実際その通りではあるのだが。
もう少し、のんびりしたいかな? パンを焼いていたいよ。
なに言ってるんだぁ! お前おひさま好きだろぅ? 外に出てナンボだろーが!
そんな風にワーワー言いながら、並んで空を飛ぶ。
たとえ任務中であろうとも、二人はいつもこんな感じだ。緊張感がない会話であった。
「まぁ空のドライブだと思って、気楽にやれぇ~!
こぉ~んな偵察任務なんかぁ! 俺さまにかかれば、ちょちょいっと終わら……」
だが、突然。
『――――レーダーに敵性反応を確認! 警戒せよ!!』
管制機からの、空気を切り裂くような声。
『敵影多数! まっすぐこちらへ向かっている! 注意しろ!!』
「……」
ばいきんまんが、あんぐりと口を開ける。
さっきまでの歓談ムードが、一瞬で消し飛んでしまい、まだ状況に心が追いついていない。ポカーンとした顔だ。
『……なんだ、IFFの故障か……? 反応は2つだけです……』
『……二機だと? ……そんなハズは……』
そして無線から、ノイズまじりに“知らない声”が聞こえる。
恐らくは、今こちらへ迫っている敵戦闘機の通信が、混線により届いているのだろう。
(2つ“だけ”? じゃあヤツらは、
これ偵察任務だろ? こっそり行って調べて来い、って事だろう?
でも情報筒抜けじゃないか!! バレとるがな! 俺さま達が来るの!!
ばいきんまんはタラ~っと冷や汗を流す。
しかもここは“B7R”。ヤツらの絶対防衛戦略空域、この世で一番ヤバい場所だ。
きっとハチの巣を突いたみたいに、ワラワラやって来るに決まってる! ……こっちは二機なんだぞ!?
『敵部隊接近! ガルム隊、交戦を開始せよ!』
「……Damn it!(くそったれぇ~!!)」
何が偵察だ! なにが「気楽にやれ」だ! ゴリゴリのピンチじゃないか!
そう毒づくも、状況は変わらない。もう目視で確認出来る距離まで、数える気が起きないほどの敵編隊が迫っている! まっすぐこちらに来る!
――――まったく。君といると、ロクなことが無いね。
そうボソッと、アンパンマンの嘆息が聞こえた。
来いと言うから来てみれば、なんだよこの状況はと、呆れているような声色。
「文句は後で聞く……。今はあっちを何とかするぞ」
けれど……何故だろう? 勇気が湧いてくるのは。
いつも通りのぶっきらぼうで、そっけない態度なのに、アンパンマンの声を聞いただけで、なにやら闘志が湧いてくるのだ。
たったの二機……だが一人では無いッ!
――――どうした、ビビッったのか? やられるんじゃないぞ~う。
――――そっちこそ。早く片付けてしまおう。
そう無線越し、二人が示し合わせたように、コクリと頷き合う。
「ガルム2より、ガルム1へ――――
――――
そう短い応答が、無線に届いた。
◆ ◆ ◆
『さて、機体の性能テストでもさせて貰うか』
最初、敵無線からそんな声が届いた。
『墜とせ。撃墜するんだ』
だがアンパンマンが一機、二機と墜とした時、ヤツらの声色が変わった。
『よく狙え。引き付けて撃つんだ』
『くそっ! 外したッ! 何やってるんだ!』
三機、四機……次々に敵が墜ちていく。敵部隊がその数を減らしていく。
『集中しろ……! 焦るな! 何をやってる!』
『相手は二機だぞ! 落ち着いて対処しろ!』
そして、こちらの撃墜数が6を越えた時、明らかな焦りの色が、敵無線から伝わった。
「よぉ
――――最悪。ミサイルアラートがうるさい。
「そのワリには、えらく
まるでこの空に、“お前だけの法律”があるみたいだ」
お前だけが躱し、お前だけが当てる。
お前だけが飛び、お前だけが生きる――――
この空で唯一、お前だけに許された特権。お前が定めた法。それを弱者達に押し付けるみたいに、地に墜としていく。誰もかれも区別なく、コイツに従わされていく。
格の違いとか、コイツの方が強いとか……そんなレベルじゃない。
こいつは“特別”だ。ほかのヤツとは、存在としての次元が違う。
ヤツらは訓練をし、戦闘機に乗ることで、ようやく
だがこの空は元々、誰の物なのか? それを思い知りながら、元の場所に帰っていくのだ。
慣れ親しんだ地面に――――お前にはそこが似合いだ。
「ほ~ら、後ろを取られたぞー。
がんばれよ
でないと……、
火の玉になる。爆散して落ちていく。
ミサイルが食いつき、死に追いつかれ、彼の人生が終わった。
だがもし生きていたのなら、彼は家に帰り、ママにこう伝えるだろう。「空にはとても怖いオバケがいる」と。
もう二度と、近づいたりしませんと――――
あれだけ周りにいた敵戦闘機が、今はもう片手で数える程。
ガルム隊の二機により、次々にその数を減らし、この土地に
「行きがけの駄賃だ、とっとけ」
すり抜け様、ばいきんまんの放つミサイルが、また敵機を炎で包む。
たった二機の強者が、我が物顔で空を進んでいく。最強と謳われた歴史ある空軍の者達を、まさに蹴散らしながら。
鎧袖一触という言葉が、これほど似合う光景も無いだろう。
『周囲に敵影なし。敵編隊の殲滅を確認。
ガルム隊、このままB7Rへ突入せよ!』
「ガルム2了解。……アンパンマン、“円卓”へ向かうぞ」
無線からは無音。だが彼が頷いたような気配を感じた。
二機は同時に加速。身体にかかる凄まじいGに耐えながら、空に雲を引きつつ前進していく。まさに飛び込んでいくように。
『――――警告! エリアB7Rに高速で侵入する機影あり! 警戒せよ』
「敵の増援、恐らくは本隊だな。……こっから本番ってトコか」
ようやくかの地に侵入を果たし、そして管制機の連絡が来てすぐ、前方に敵編隊の機影を確認。
横並びで飛ぶ四機の
『状況把握。相手は二機のみ』
『了解。では楽しませてもらうとするか。
敵の無線。とても冷淡で、こちらをあざ笑うかのような。
きっとヤツらの脳裏には、今こちらの二機を
崖から落ちそうになっている者を、安全な場所から見下ろすような、愉悦の色が声に滲んている。
「グリューン隊? ホーネット*16が来やがったか……。
これはちょっとばかし……アレかな?」
機体の性能だけじゃない。ヤツらは
今までの者達とは、もう比べ物にならない。この円卓の番人であり、“狩り”に手慣れたヤツらだ。
相手は四機で、こちらは二機。単純な戦力差でも倍。
ヤツらの「楽しませてもらう」という言葉、そしていま愉悦に口元を歪めているのは、当然の事と言えるだろう。
だが……。
『――――ガルム隊へ、撤退は許可できない。迎撃せよ』
「だろうな」
落ち着いている。確かに手汗でベチョベチョだし、冷や汗だってかいているけど、それより高揚感が勝っている。しっかりと敵を睨むことが出来る。
すぐ隣を飛ぶ、相棒の息遣いを感じることが出来る。
――――もう疲れたの? 少し休んでるかい
――――バカ言え、すっこんでろ
ばいきんまんが、ギュッと操縦桿を握る。
くっくっくと笑い、ニィヤ~っと嬉しそうな顔で。
「上等、報酬上乗せだ。
ガルム2、交戦開始――――目ん玉ひっくり返してやるッ!」
ガルム隊の二機が、示し合わせたように左右へ別れる。
大きく円を描き、敵編隊を挟撃するように、一気に襲い掛かる、
『ヤツら、突っ込んできますよ』
『ふっ、コムギィコの傭兵風情が。選択を誤ったようだな』
そして、グリューン四機も各自散開。
自信に満ちた口調、統率力の高さを感じさせる動きで、二機を迎え撃つ。
だが……。
「
直撃する。ばいきんまんの放つミサイルが。
グリューンの一機が黒煙を上げながら、まるで羽虫のように墜落していく。
それを機に、明らかに敵の飛び方が変わる。
先ほどまでの余裕は消し飛び、慌てて気合を入れたかのように、小刻みに機体を動かし始めた。
「黙って来い。お前らに余裕なんて無いんだ」
身の程を知れ、
そして、すぐさま始まるドッグファイト。早くも一人が脱落し、五機が激しく入り乱れる空戦。命の獲り合い。
『グリューン各機、射出装置グリーン。ファックしてやれ』
「
ブンブン飛び回って、獲物を仕留める。
ケツの一刺しに気を付けろ?」
一機を追い回せば、それを囮にもう一機が回り込む。
後ろを取ろうとすれば、即座に他の機体がそれを阻止してくる。
手練れだ。奴らは手慣れている。まるで脳を共有する一個の生物のように、的確にこちらを追い詰めてくる。
獰猛だが、理性的。チェスを連想させる理詰めの立ち回り。数の有利を存分に活かしている。
どんだけロックしてくるんだ! どんだけ上手いんだお前ら!
そう歴戦の傭兵である彼をしても、驚愕せざるを得ない。
いくら3機がかりとはいえ、これほどアンパンマンに対して打ち込んでくるとは! 追い回すとは!
一機一機は大した事ない。だがチームでの戦いが上手い! これが“円卓”に住む
『ほう……面白いパイロットだな。型にはまらない飛び方だ』
『ああ。ここまで楽しませてくれるヤツは、久しぶりだ』
『機体のデザインも、なんか変ですし……。あれ本当に戦闘機ですか?』
うるさいっ! 聞こえてるぞグリューン! 文句あるかぁ!
そう怒鳴りつけたいのだが、今それどころじゃない。ミサイルを振り切るので精一杯だ。
馬鹿にしやがって! あれ俺さまが作ったんだぞう! カッコいいだろうが!
「って……気を付けろ
アンパンマンの放ったミサイルが、グリューン機の背面に迫る。
だが空中に射出されたチャフ*17により、ミサイルが明後日の方向へ逸れる。
そして攻撃後の隙を見計らい、別の一機がアンパンマン号・Raptorに迫る。
当の彼は、なぜ攻撃が逸れたのかが分からず、動揺で次の動きに移れずにいた。
「――――バカたれぇぇ~っ! ボサッとしてると死ぬぞぉーッ!」
割り込むようにして、機銃を放つ。
アンパンマンを狙っていたグリューン機が、慌てて回避行動を取り、Raptorの傍から退避していく。
しかし、それを黙って見逃すバイキンUFO・Eagleではない。
「足元すくわれたマヌケは、お前の方だッ! ――――そぉいっ!!」
爆散。緑色の機体がバラバラになる。
必勝を期していたであろうグリューン機は、ばいきんまんのミサイルまでは振り切る事が出来ず、撃墜される羽目となった。
「おいガルム1よ! まだまだトーシロだなぁお前ぇ!
俺さまが全部相手してやろうかぁー? あーーっはっはっは!」
――――クスッと、小さな笑い声が聞こえた。
無線を通じて、アンパンマンの笑った声が聞こえた……ような気がしたのだ。
ばいきんまんは思わず放心してしまうが、即座に「いかんいかん」とブンブン首を振る。さっき二人も間抜けを見たばかりなのに、今度は自分とか洒落にならないと、慌てて気を引き締める。そして即座に残りの二機を捕捉。
『こざかしい……! お遊びはここまでだ! 本気でかかれ!』
「遅いんだよバカ。もう終わりだぞ?」
二対二。すなわち同等。
ならばもう、こちらが負ける道理は無い。
先から言っている――――お前たちとは「存在としての次元が違う」と。
「チャフだのフレアだの、うっとーしい程ばら撒きやがって。
けど……そんだけだな。
延命や時間稼ぎをするだけじゃ、アイツは墜とせないぞ」
そう言ってる間に、アンパンマンのミサイルが敵機に刺さる。
フレアを出すことを見越しての、ディレイをかけた連続攻撃。二羽目の燕が貫くようにして敵機を捉えた。
『くそっ! なんだこの二機はッ!! やるじゃねぇか!』
「強がりも良いけど、ベイルアウトの準備は出来たか?
……おい
どっちが墜とすか勝負だぁぁ~~っ!」
再び左右に別れ、挟撃。
グリューン隊の最後の一機は、悲鳴が聞こえてくるかのような急上昇をした後、二発のミサイルによって炎に包まれながら、地上へ落ちていった。
ばいきんまんが飛ぶ後方に、遥か遠くの方でフワフワ浮いている、小さなパラシュートを見つける事が出来た。
「ああ……こりゃ明らかに、お前のが先だぁ~。
一瞬遅れちゃったんだよなぁ~。
あーんな必死こいて
ばいきんまんが「ガックリ!」と落胆してすぐ、遥か上空を飛ぶ管制機からの通信が入る。
ベカリの増援、全機撃墜を確認――――任務完了。
それを聞いた途端、またばいきんまんは力が抜けたように、グッテ~っとシートに沈み込んだ。
『たった今、連合軍作戦司令部より、入電が来た。
――――連合軍海上部隊は、進軍を開始。貴隊の活躍に感謝する、……だそうだ』
「海上部隊ぃ~? なんだそりゃ。
そんなコト俺さま、一言も聞かされてないぞぉ~?」
このような作戦、ブリーフィングには無かった……と思う。
恐らくはガルム隊を二機のみでB7R内に突っ込ませ、それを陽動として海上部隊を進軍させる、というのがこのミッションの本願だったのだろう。
それに気が付き、またばいきんまんが「もうどうにでもしろ」とばかりに、力なく天を仰いだ。
「はいはい……なるほどなるほど。
俺さま達は偵察じゃなく、“捨て駒”だったってワケね~」
もう文句を言う元気も、怒鳴り散らす力も無い。こちとら疲労困憊なのだ。
先ほどまでは死ぬ思いをしてたし、ようやくそれから解放された安堵感で気が抜けて、もう渇いた笑いしか出なかった。
これはもう、よっぽど報酬を上乗せして貰わないと、ワリに合わない。
こちとら金で雇われた傭兵なのだ。労いの言葉より、誠意を見せて頂きたいものだ。今日は高い酒でも飲まないと、やってられるか。
「
長年各国を巡って身につけた英語を使い、何気なくそう言ってみる。
ふーっと脱力し、気の抜けた声で。
共に死地を潜り抜けた、戦友に対して。
――――ばいきんまん、……ありがとう。
そして、万感の想いが込められているかのような、短い応答――――
まさかそんなのが返って来るなんて、夢にも思わなかったものだから……、ばいきんまんは慌ててワチャワチャと姿勢を正し、目をひん剥きながら無線機を二度見してしまった。
え、なにソレ? どゆこと? ……みたく。
「うっ……うるさぁ~~い!
俺さまはお礼を言われるのがぁ! だぁーーいっきらいだぁ~~っ!!」
(つづくぞ!)
何話かに分けての投稿となります。
今回のものは、軽い“連載”のつもりでやりますゾ♪
ただ、この続きの投稿には、かなりのお時間を頂いちゃう事になるかと存じます(マジ)
どうか……! どうかのんびり待っていて下さいっ……! 私がんばって書くからネ!