【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】   作:hasegawa&friends

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 今回のお題はこちら↓
 

 ◆ ◆ ◆


 お世話になっております。
 リクエスト企画についてお題を送信させていただきます。
「無茶ぶり上等」と聞いて無茶ぶりしないのも却って失礼かと思いまして!

 タイトル:AN-BREAD ZERO
 お題:「アンパンマン」を原作とした「エースコンバット・ゼロ」のパロディ
 つまりは、エスコンゼロのラストバトルをアンパンマンvsばいきんまんで再現していただきたく!

(甲乙さまより頂いたメッセージ抜粋)





AN-BREAD ZERO ―アンブレッド・ゼロ― Ⅰ (甲乙さま原案)

 

 

 

 20××年11月25日、デラオイシ国境付近の町――――

 

「アイツか? ああ知ってるぞ」

 

 放置された家具や、空爆によって崩れ落ちた壁が床に散らばる、廃墟の一室。

 照明など無く、窓から差し込む光だけが光源となる、昼時なのに少し薄暗い部屋の中で、彼にビデオカメラのレンズが向けられている。

 

「こんなトコに好き好んで来るなんて、よっぽど偏屈なヤツだろうって思ったが……。

 まさかアイツの事を訊かれるとはなぁ~」

 

 薄暗闇に紛れる、黒い身体。

 落ち着いた雰囲気を演出する、柔らかい笑みと、それを形作っている大きな口。

 そして、恐らくは()()()()で片方を失ったのであろう、虫を連想させるような形状の羽が、背中に存在している。

 

「懐かしいなぁ。もう10年にもなるのか。

 アイツと一緒に飛んでた、あの頃から……」

 

 タタタタ、というアサルト(AK)の銃声が、遠くから絶え間なく聞こえている。

 彼は何気なしに窓へと顔を向け、そのままどこか遠くを見つめ始めた。

 意識を過去へと飛ばし、思い出を拾い集めているかのような、静かな表情で。

 

「んー、こりゃあ話せば長くなるぞぉ~」

 

「……まいっか、アンタどうせ暇なんだろ?

 こんなトコで油売ってる、変わり者のジャーナリストなんだし。

 せっかく来たんだ、聴いていくと良いさ」

 

 彼が、軽く抱きしめるようにして持っているアサルトを、今一度握り直した。

 こちらへと向き直り、少し前傾姿勢になったのが分かる。話をする態勢に入ったのだ。

 遠く異国からやって来た、私というインタビュアーに対して。

 

「古い話だ。でも鮮烈に憶えてる」

 

「アンタは戦闘機乗り(ヒーロー)のこと、どのくらい知ってるんだ?

 なんかヒョロヒョロだし、戦いとかには縁が無さそうに見えるけど」

 

 ここに来るまでに、幾人かの方々からお話を伺ってきました。

 皆、貴方と同じく“エース”と呼ばれていた方々です。

 そう私は苦笑を返す。

 

「ふーん、英雄(エース)なぁ~。

 そういや俺さまも、呼ばれてたっけ」

 

「じゃあ……知ってるか?

 エースってゆーのは、三つのタイプに分類出来るんだ」

 

 片方の眉を上げた、どこかひょうきんな表情。

 彼がリラックスし、会話を楽しんでくれている様子が、見て取れる。

 

「ひたすらに、強さを求めるヤツ――――

 信念とかの、矜持(プライド)に生きるヤツ――――

 判断力に優れ、戦況が読めるヤツ――――

 この三つだ」

 

 俺さまは、自分では2番目だと思ってるけど……いや待て、意外と3番もあるか?

 そんな風に、彼が腕を組んでうんうん悩み始めた。それはどことなく、微笑ましい姿に見える。

 彼が年の割には小柄で、身振り手振りで感情を表に出すタイプだからかもしれない。

 歴戦の英雄(エース)だというのに、その様はまるで少年のよう。きっと言われなければ、誰もそうは見えない事だろう。

 

 

「アイツの方はどうかなぁ~?

 自分で言っといてなんだけど、もうあそこまで()()()()()()()()()

 正直なに考えてるのか、俺さまにもよく分かんないトコあったし……」

 

「まっ! とにかく真の英雄(エース)だよ、アイツは」

 

 

 

 彼の名はGerm(ジャーム)

 これは“ばい菌”というニュアンスで、医学用語ではなくカジュアルに使われる言葉だ。

 ひとたび彼が戦場に駆け付ければ、たちまち戦況がこちらへ傾いていく事から、その様を敵軍にとっての病原菌に例えたTACネーム*1なのだという。

 まぁ彼いわく「ジャムおじさんの“Jam”と似てて、あんまり好きじゃなかった」との事だが。

 

 そして彼こそは、私が追っている“ある人物”の、元同僚。

 自称、宿命のライバルにして、相棒だった男――――

 

 

 今から約10年前、まさに世界を巻き込んだ、大きな戦争があった。

 その名を【ベカリ戦争】という。

 

 多くの血が流れ、幾人もの人々が命を散らしていった、この戦い。

 その空に鮮烈なまでの軌跡を描き、ひっそりと歴史から消えた、ひとりの英雄(エース)がいた。

 

 敵味方の双方から畏怖と敬意を抱かれ、その狭間で生きた()()

 私は今、彼を追っている。

 いちジャーナリストとして、その物語が知りたいのだ。

 

 三脚に取り付けられた固定カメラが、廃墟の中でポツンと座る男を映し出す。

 いま若干しゃがれた声で、“片羽のばい菌”と呼ばれた男が、言葉を紡ぎだす。

 

 

「今日と同じだ。

 あれは雪の降る、ちゃっぷい日だった――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AN-BREAD ZERO ―THE BAKERY WAR―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 10年前、4月2日。

 コムギィコ共和国内、ヴァレー空軍基地にて。

 

「なぁ~んで俺さまが“2”なんだぁ~!

 どぉ~考えたって、俺さまが1だろうがぁ~!」

 

 先ほどまで居た作戦会議室から、愛機のある格納庫へと向かう道すがら。

 ばいきんまんがプンプン肩を怒らせ、もうそこら中の物にパンチやキックを繰り出しながら(八つ当たりしながら)、それでも早足で走っている。

 

 現在、当基地には緊急事態警報(エマージェンシー)が発令されており、ばいきんまんを始めとする戦闘機乗り(ヒーロー)達には、緊急出撃命令(スクランブル)が出ているのだから。

 色々思うところはあれど、とりあえず急がなければならない。

 

「やい()()()()()()

 とりあえず今回は譲ってやるけどぉ、下手こいたら承知しないぞーう!」

 

 そして、そんな彼と並走する、ひとりの人物がいる。

 彼の名はアンパンマン――――ここヴァレー空軍基地に、ばいきんまんと共に“傭兵”として所属する、戦闘機乗りである。

 

 赤い服に、黄色い靴と手袋、そして背中でパタパタ揺れている茶色いマント、といういつもの出で立ち。

 胸の中心部分にある“勇気のマーク”は、そのまま彼のトレードマークとなっている。

 彼も今、自身の愛機が眠る格納庫へ向けて、どこか緊迫感を感じさせる表情で走っているところだ。

 

「お前がガルム(ワン)! 俺さまがガルム(ツー)だ! コールサインを間違えるなよ!?

 今回は僚機だし、指示には従ってやるが……、もし駄目だったら途中でも交代だっ!

 なんてったって俺さまは、人に命令されるのがぁ、大っ嫌いだからなぁ~!

 あーーっはっはっは!」

 

 傭兵なのに、いったい何を言っとるんだコイツは? 命令によって戦い、それでおまんま食ってる身分なんじゃないのか?

 そう心の中でツッコミを入れたかどうかは、定かではないが……、とりあえず彼は無言で並走。ばいきんまんと肩を並べ、格納庫へと向かって行った――――

 

 

 

『こちら、基地司令部。

 全機あがったようだな』

 

 ヴァレー空軍基地、上空。

 愛機に乗り込み、颯爽と基地から飛び立ったばいきんまんの耳に、無線からの音声が届く。

 

『今一度、作戦を確認しておく。

 現在この基地に、国境を越えたベカリ公国の大規模爆撃機編隊が接近している。

 敵はここを強襲し、コムギィコ共和国全土の覇権に王手(チェック)をかけるつもりだ』

 

『知っての通り、ここヴァレー空軍基地は、我が国の最後の砦だ。

 本作戦の失敗は、そのままベカリによる、コムギィコ政権完全制圧を意味するだろう』

 

『各機、全力で敵編隊を撃破。基地を守り抜け。

 断固として、ここでベカリ公国の侵攻を食い止めるのだ』 

 

 Base Command(基地司令部)からの、熱のこもった声。緊迫感をあおる言葉。

 まぁばいきんまんの方は、あんましちゃんと聴いてなかったけれど。

 散々難しいことを言ってはいたが……ようは「敵の飛行機がいっぱい飛んで来るよ! ぜんぶやっつけてね!」という事に他ならないのだから。一緒いっしょ。

 

「お、降って来たなぁ~。

 風情があって良いじゃないか。なぁSmile(アンパン)よ?」

 

 無線を通して、アンパンマンに語り掛ける。

 特に返事はかえって来なかったけど……、彼は構わずひとりで喋り続ける。

 まぁこれも、いつもの事だ。

 

 今ばいきんまんの眼下には、視界いっぱいに広がる雪景色がある。

 バイキンUFO・Eagle*2に乗り込み、飛び立ってすぐに、この雪に覆われた美しい山脈が現れた。

 雲で白く濁っているとはいえ、広くて胸がすくような空。そしてこの白い山脈の光景の両方が、ばいきんまんのテンションを上げる。怒りに高ぶっていた心を洗う。

 

 それに、今日はやけに冷えると思っていたら、どうやら雪まで降って来たらしく、これも良い感じ。

 まぁ、このような多少の雪など、空戦においては、さしたる影響は無い。やれるハズだ。

 むしろこの綺麗な光景が、戦いに赴く自身の集中力を、どんどん高めていくようで、諸手を上げてバンザイしたい気分である。

 

(まぁ子供の頃は、綺麗な物なんか大っ嫌いだったけど……)

 

 俺さまも年を取ったもんだ。丸くなったもんだ。

 そう彼は、心の中でごちる。彼はバイキン星からやって来た宇宙人(?)なのだから、“綺麗”なんて言葉は似合わないのだった。

 

「かといって、この雪山でベイルアウト*3は悲惨だなぁ~。

 ……おい1番機、せいぜい頑張れ? 墜ちるんじゃないぞ」

 

 まぁアンパンマンは飛べるけどな――――片羽になっちゃった俺さまはともかく。なんで航空機に乗ってんだろコイツ?

 そう鼻歌気分で操縦桿を握り、機体を操る。今日もバイキンUFO・Eagleはご機嫌だ。

 いま隣を飛ぶ“アンパンマン号・Raptor”*4、……いやガルム1の方も調子よく飛んでいるのが見て取れる。これなら何の問題は無いだろうと、ばいきんまんは内心で安堵する。

 

『ガルム1、ガルム2、そのまま現在の方位を維持せよ』

 

「こちらガルム2(ばいきん機)。了解だぞ」

 

『方位315、ベカリ軍爆撃機の接近を確認。

 各機、迎撃態勢を取れ』

 

「ほい、お出ましだな。

 おい司令部のお前っ! す~ぐやっつけて来るから、報酬を用意しとけよぉ?」

 

『君という男は……。豪胆なんだか軽薄なんだか。

 分かっているGerm(ばいきん)。お互いが無事であれば、な』

 

「心配するなぁ~! 俺さまに任せとけぇ~っ!」

 

 遠くに機影が見える。目視で敵機を確認――――その数40機あまり。

 ばいきんまんは改めて操縦桿を握り直し、グイッと力強く前に入れる。

 さぁ、戦闘開始だ。

 

『ガルム隊! 敵爆撃機を全機撃墜せよ!

 基地に到達させるな!』

 

了解ッ(ラジャー)

 んじゃあガルム1! いっちょロックンロール(ひと暴れ)といくかぁ~!」

 

『おいガルム2、お前はガルム1の指示に従え!

 ブリーフィングで伝えただろう! 一機で突出するな!』

 

「うへぇ……」

 

 出鼻をくじかれたばいきんまんは、苦虫を噛み潰したような顔。

 そして渋々ながら、アンパンマンに声を掛ける。カッと強い瞳で、眼前の敵を睨みながら。

 

 

「――――了解っ! 指示は頼んだぞぅSmile(アンパン)! お前が主役(ガルム1)だッ!!」

 

 

 その檄を合図に、散開。

 アンパンマンは右へ、ばいきんまんは左へと、機体を急旋回させる。

 

「はーひふーへほぉ~っと! 今日が初陣だなぁSmile(アンパン)

 どうだ、高ぶってるか? 勇気の鈴は鳴っているかっ!!!!」

 

 ロケットの発射ボタン。それを押してすぐ、眼前の敵が火の玉に変わる。

 機体は砕け散り、大事に抱えていた爆弾に誘爆。更なる炎を上げる。

 

「でもお前にとっちゃ、空は慣れ親しんだ場所だろう!? 家みたいなモンだ!!

 ――――気負うことは無い! やってしまえ! 空でお前に勝てるヤツなんかいないっ!!

 俺さまだって苦労させられたんだからッッ!!!!」

 

 発射、即座にジンク*5

 急上昇し、敵機の真上にダイブ*6

 数機を同時に相手取り、それを瞬く間になぎ倒す。手元のボタンひとつで、襲い来る鉄塊を炎に変える。羽虫のように地に堕とす。

 

 相手パイロット達の技量は知らない。どれだけの想いを持って、ここに来たのかも。

 だがひとつ言えるのは、“年季が違う”。お前たちと俺さまでは、空で生きた年月が違うのだ。このヒヨッコ共がッ!!

 

 そして、相手がアンパンマンであるのなら、それはなおさらの事。

 たとえ万に一つとて、お前らに勝ち目などあろうハズもない。

 ばいきんまんは、強く確信している。

 

「ガルム1、三機撃墜ッ!

 よっし! 良いぞアンパ……じゃなかったSmile(スマイル)

 あー、ややこしいんだよなぁTACネームって……。ついいつものクセで」

 

 ――――別にいいよ? アンパンマンで。

 そう無線機から彼の声が届く。

 だが喋りながらもガルム1(アンパン機)は、次々に敵を撃墜していく。

 ヘッドオン*7し、自分のミサイルだけを確実に当てる。

 バレルロール*8を駆使し、四方八方からのミサイルを躱す。

 どれほどの数で纏わり付こうが、周りを取り囲もうが、決して彼を捉えることは出来ない。

 

 まるでこの“空”という空間で、唯一彼だけが特権を持っているかの如き動き。

 明らかに周りの匹夫どもとは違う、特別な者だけが魅せる(・・・)動き。

 華麗を絵に描いたような、その姿。

 

 当然だ。この空は、彼の物なのだから――――

 ここでは何人(なんぴと)たりとも、彼を倒すことは出来ない。

 彼の正義を、矜持を、犯すことなど出来るハズが無い。

 

 重い爆弾を抱えた爆撃機は元より、護衛で引きつれている数多の戦闘機(エース達)ですら、もう問題にならない。

 

「バカ言え、一応ここの決まりなんだ。

 少なくとも、これに乗ってる時はTACネーム(あだ名)で呼ぶさ。Smile(アンパン)

 問題行動で報酬減らされたら、俺さま困るもの」

 

 ――――お金が欲しいの? ぼくのをあげようか?

 ――――バカタレ、黙って戦え。

 そう雑談をしながらも、二人は息の合った動きで敵機を落としていく。白く染まった雪山に、黒い煙を上げた航空機が、次々と墜落していく。

 アンパンマン号・Raptorが縦横無尽に駆け、バイキンUFO・Eagleがその頭上を守る。

 あれだけ沢山いた爆撃機が、もう見る影も無く数を減らしている。護衛機なんてもう雀の涙だ。

 

「FOX2! フォックストゥー! ……っと。

 はーひふーへほぉ~っ!」

 

『良いぞガルム1、ガルム2。目標あと僅かだ。

 各員、作戦を続行せよ。さっさと片付けて、ホットウイスキーとしゃれこもう』

 

『まぁ金の分は、きっちりやらせてもらうさ。

 だがガルム隊の連中……、ちと張り切り過ぎなんじゃねえか?』

 

『おいおいGerm(ジャーム)Smile(スマイル)、俺らの分も残しておいてくれよ?』

 

 つえぇ。あんな変な戦闘機(?)なのに、強ぇ……。

 周りを飛んでいる傭兵仲間たちは、その活躍に呆れかえっている。なんなんだアイツらと。

 さっきまでの緊張感はどこへやら。あの作戦開始時の悲壮感は、いったい何だったのだろう? きっともう、誰もそれを憶えていないだろう。

 

「ナイッショー! いいぞSmile(アンパン)

 もう撃墜数10を越えたんじゃないか?

 今日一日で撃墜王(エース)だっ!」*9

 

 ばいきんまんの機体は、あんな丸っこいノッペリしたUFOで、アンパンマンにいたっては、自分の顔を模したようなファニーなデザインなのに……。

 でも一度(ひとたび)空を駆ければ、それは決してオモシロマッシーンではなく、まごう事無き“戦闘機(ファイター)”。

 誰もがその動きに驚愕し、また同時に畏怖と尊敬を抱く、その戦いぶり。

 

 ガルム隊――――Smile(アンパン)Germ(ばいきん)

 この空域、この戦場は今、彼ら二人が支配している。

 

『……こちらオット5、IFF*10不調。

 作戦遂行は不可能。作戦空域を離脱する』

 

 そして時折、敵であるベカリ側の無線も、こちらに聞こえてくる。

 彼らは皆、劣勢だの、作戦遂行は困難だのと、慌てふためいてる様子。

 

『敵爆撃機1機が、戦線を離脱中。……怖じ気づいたのか?』

 

「ここまで来といて、とんずらぁ~?

 ベカリの戦闘機乗り(ヒーロー)ってのは、ずいぶん腰抜けなんだなぁ~」

 

 当然だ、奴らは()()()()()()()()()()()()()()

 まさかこのような反撃を受けるとは、ここまで完膚なきまでにやられるとは、思ってもみなかったのだ。

 戯れのつもりで、死にかけのネズミをいたぶりに来たら、そこには二匹の虎が居た。何人でかかろうが、どんな手を使おうが、傷一つ付けられないほどに強力な虎が。

 

「ほいほいっと。()()は大事に抱えたまま、落ちてくれ。

 遠路はるばる、ご苦労さ~ん。風邪ひくなよぉ~」

 

 国境を越えてやってきた爆撃機の編隊が、その任務を果たす事なく墜落していく。まるで後生大事にしているかのように、基地破壊用の爆弾を抱えたままで。

 そしてベイルアウトした搭乗者たちのパラシュートが、次々に雪山へ降下していく。

 

 もう全ての護衛機が落とされ、また友軍を見捨てて逃げ去ったので、あとは()()()。もう生死を賭けた戦闘ではなく、単なる作業になり果てた。

 ヴァレー基地の傭兵たちの、独壇場――――

 

「よぉ、どうだアンパンマン! ()()()()()()()!!

 ……楽しいか? 楽しいだろう?! 楽しきゃ笑えぇぇ~~い♪」

 

 途轍もない轟音が空気を揺らす。バイキンUFO・Eagleの放ったミサイルにより、すり抜け様に敵機が爆散する。

 ばいきんまんの「あーっはっは!」という楽しそうな声が、コムギィコ共和国の空に響く。

 まぁアンパンマンの方は、相変わらず無言で操縦してるようだが、この程度でめげる彼ではない。メンタルは強い方だった。

 

「おーし! 最後の一機だぞっ!

 ――――勝負だアンパンマーン! アレを先に落とした方の勝ちだぁぁ~~っ!!」

 

 さっき報酬がどうとか「TACネームで呼ぶ」とか言ってたのに、もうこの有様。

 だが彼は楽しそうに、心からの笑みを浮かべながら、猛然と敵機に突撃していく。

 

 というか、勝負のダシに使われてる敵パイロットは、もうたまった物ではないだろう。

 この戦場を席巻していた二機が、同時にギューンと自分に向けてヘッドオンしてきたのだから。しかも彼が乗っているのは爆撃機であり、重い爆弾を抱えた機体では戦闘機(ファイター)に敵うワケもない。

 二人は瞬く間に接近して来て、ほぼ同時にミサイルを放ったのだが、それが機体に直撃するよりも随分と前に、彼は座席のレバーをグイッと引いてベイルアウト。

 あとに残された機体だけが、巨大な炎に飲み込まれていった。

 

「あー、同時か……?

 ちっきしょう引き分けかぁ~! くっそぉ、アンパンマンめぇ~!」

 

 ――――いや、君の方か早かったよ。ばいきんまんの勝ちだ。

 そうあっさりと勝負を譲られ、なんかばいきんまんは腑に落ちない気分になる。

 負けたら負けたで、もっと悔しがれ。そのどーでも良さそうな、平坦な声は何なんだ。このつぶあん野郎。

 

 だが、そうふてくされはするものの……、いま彼の胸は、確かに熱く燃えていた。

 久方ぶりの高揚感。そして得も知れぬ喜びが、まるで温泉を掘りあてたみたいに吹き上がる。

 こいつと、空を飛んだから。()()()()()()()()()()()()()()()

 その喜びによって、どうしても顔がニヤニヤしてしまうのを、抑えることが出来ない。

 

(いつ以来だろ? おっきな戦いの時は*11、たまに共闘したり、肩を並べて飛ぶ事もあったが……)

 

 けれど、それは過去の事。

 ほんとうに、もう記憶がかすんで()()()()()()()()()()、遠い昔の話なのだ。

 彼は噛みしめる。またこうやって、アンパンマンと飛べた喜びを。

 あの頃のように、正義の味方と悪者ってシチュエーションじゃないけれど……、確かに今、自分達は“戦った”のだから。

 

「まぁ良い! 今回はそういう事にしといてやる~う! ふーんだ!」

 

 プンプンしてるけど、どことなく嬉しそうに。

 喜びを噛み殺してるみたいに。

 

 

「また機会はあるさ、何度でもな。

 これからも頼むぞ――――相棒(バディ)

 

 

 

 彼がアンパンマンに笑顔を贈る。

 いま無線越しで、顔が見えないのをいい事に。

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「そう……、あの雪の日が、新しい始まりだった」

 

 一度は終わった、俺達の物語の――――

 そう薄暗い廃墟の中、固定カメラの前に座る彼が、回想する。

 

「最初の印象? そうだなぁ~。

 ま、流石って感じかな? 俺さまがライバルと認めるだけの事はある」

 

「あいつアンパンラプターに乗るのは、これが初めてだったんだけどな?

 でもしっかり操縦出来てたし、飛び方もすごく上手かった。

 元々アンパンマン号って、空も飛べるマシンなんだよ。陸海空ぜんぶいけるんだ。

 だから多少勝手の違いはあっても、昔取った杵柄ってヤツなんだろう」 

 

 これって、強くてニューゲームだよな! と彼がワケの分からないことを言う。

 

「というかあいつ、航空機が出来るような事は、()()()()()()()()()()()()

 シザース*12だの、スナップアップ*13だのも、息をするより簡単にこなすぞ?」

 

「だから、何をどうやって、どんな風に飛べば良いのかなんて、ぜんぶ身体で知ってる。

 アイツ生まれながらの、()()()()()()()()()

 

 そして彼は、もっとよく分からない事を言った。

 傍で聞いていても、私にはサッパリ理解出来ないことばかり。

 ただの人である私には。*14

 

 更に言えば、この【ベカリ戦争】にも、謎が多い。

 一般市民である我々が知っている事など、ほんの僅かでしかない。

 

 だがこの度、終戦から10年絶った現在、ようやく一部の情報が政府より開示された。

 私はすぐにその資料を入手し、もう目を皿のようにして読み漁ったが……それでは到底満足することが足りず、ついには出所不明な裏情報にも手を出した。

 ジャーナリストの魂に、火が着いたのだ。

 

 私がそこまで掻き立てられたのには、理由がある。

 僅かな情報を頼りに各国を飛び回り、今日もこのような紛争地帯にまで足を運んでいるのは、とても“単なる興味”というだけでは出来ない事だろう。

 

 いま私の身体を、この「なんとしても知りたい」という抗いがたい知的好奇心が、まるで赤い布に突進していく牛のごとく、突き動かしているのだ。

 

 

 隠された真実、忘れられた出来事、歴史から消えていった英雄。

 未だ世界には、これほどまでに戦争の爪痕が残っているというのに、誰も口にする事の無い“物語”。

 

 この戦争は、20××年のベカリ連邦法見直しに、端を発する――――

 

 

 

 

 

 

◆よく分かる! 当時の世界情勢!◆

(読むのめんどくさい人は、スクロールしてネ!)

 

 

 20××年当時。

 財政難に荒れるベカリ公国は、自国の領土であった東方諸邦の独立を許し、多くの国土を切り崩していた。

(いまアンパンマン達がいるコムギィコ共和国は、このときに誕生)

 

 しかし、それでもベカリの財政難は、決して収まる事はなかった。

 一方で、その流れに乗じてどんどん肥大化していく、隣国の巨大国家オイシーヤ連邦の存在。

 

 衰退していく国。すぐ近くにある脅威。そして貧困により失われていく、民族の誇り……。

 そんな泥沼化した経済恐慌の中で、ある極右政党が“強く正当なベカリを取り戻す”をスローガンとし、ベカリ政権を獲得した事が、全ての始まりだった。

 

 約7年後の、3月5日。

 コムギィコ共和国で天然資源が発見されたのをきっかけとし、ついにベカリ共和国は、隣国への電撃的な侵攻作戦を開始。同時に周辺各国へ宣戦布告した。

 無ければ奪え、そうしなければ我々は滅ぶとばかりに、過去には同じ国であったハズのコムギィコに、猛然と攻め入って来たのだ。

 

 【ベカリ戦争】の開戦である――――

 

 準備不足だった各国は、伝統ある強力なベカリ空軍の前に、軒並み敗走する。

 コムギィコ共和国も、わずか数日の内に、山岳地を除くほぼ全域を、占領下に置かれてしまった。

 

 そこで時のコムギィコ政府軍は、“外国人傭兵部隊”を組織することを決定。

 アンパンマン&ばいきんまんを擁するヴァレー空軍基地は、オイシーヤ連邦との連合作戦に、全ての望みを賭けた――――

 

 

 

◆ここまで!◆

 

 

 

 

 

 

 ……まぁいろいろ難しいことを言いはしたが。ようは、

 

『超強い国が、地下資源を目当てに侵略してきたゾ! こっちはもう風前の灯だ!

 くそったれぇ~! なんとかベカリ公国に反撃しなくっちゃ!

 行け! とべ! アンパンマン!』

 

 とだけ憶えておけば、だいたい間違いない(確信)

 

 ここまでは、教科書にも載っている知識。

 今さら話すような事じゃなく、この世界に住む者であれば、誰でも知っているような事だ。

 しかし私は、今回手に入れた数々の資料の中に、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一人の傭兵に関する記述――――そこに(しる)された【(Daemon)】という暗号。

 

 情報としては不明瞭で、不十分なものが多い。

 だが、私はそれにこそ惹かれた。ジャーナリストとして、ミステリアスな魅力を感じた。

 この傭兵を通じて、ベカリ戦争を追いかける事にしよう。私はそう決めて、今日この場に立っている。

 

 その先には、何かがある。

 この戦争の隠された姿か、それともただのおとぎ話か……。

 

 どれほど探ろうとも、ついにその傭兵に会うことは出来なかった。そもそも存在自体が、非常にあやふやなのだ。

 ただ、“彼”と関わりのあった人物数人を、突き止めることは出来た。

 

 いま私の目の前にいる男。

 通称“片羽”は、その中の一人だ――――

 

 

 

「アンパンマンを傭兵にしたのは、俺さまなんだよ。

 ついでに言うと、あのアンパンラプターを作ったのも、俺さまだったりする」

 

 暫しの回想から我に返り、私は再び彼の話に、耳を傾ける。

 

「以前から、()()()()()()()()()傭兵をしてたんだ。

 その当時……いや()()()()()は、ずっと退屈しててな?

 ベカリとかオイシーヤとかを渡り歩いて、ずっと戦闘機に乗ってた」

 

「でも世界情勢がえらい事になって、故郷のコムギィコに戦火が及んだ時……、アンパンマンをヴァレー空軍基地に誘った。

 お前も傭兵をやってみないか? 退屈してるんだろ? って言って」

 

 視線を天井に向けて、彼は当時のことを思い出していく。

 先ほどのテンションとは違う。相棒との初陣を語っていた時とは打って変わり、その瞳に悲しみの色が宿っているように見えた。

 

「昔は……子供のころは、よくアイツと喧嘩をしたよ。

 俺さまたちは宿命のライバルだったから、ことある毎にアンパンマンと戦った。

 カバ男のお菓子を盗ったとか、てんどんまんの中身を食ったとか……、そんなつまらない理由で」

 

「まだこの世界が“夢の国”っていう名前で……、

 今みたく、()()()()()()()()()()()()、まだ世界がひとつだった頃の話だよ」

 

「けれど、いつしか大人になって……次第にそういう事も、無くなっていった。

 見た目はあんまり変わらなくても、俺さま達の精神は成長し続け、それに合わせるみたいに、時代も移り変わっていく」

 

「ポカポカと喧嘩するんじゃなく、別のことで勝負する事はあった。

 パン作りや料理で勝負してみたり、どっちか上手に椅子とか本棚とかを作れるか~とか、そういった事で戦うようになった。

 お互い、もう子供みたく掴み合いをするなんて、そんな年でも無かったんだ。

 でも楽しかったと思う。俺さまはずっと、楽しかったんだ」

 

「けど……そんな幸せな時代も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 アイツが天寿を全うして、墓の下にいった時……、そしてカバ男やバタコさんも結婚して、あの国を去っていった時、俺さま達の時代は終わった――――」

 

 彼が握るAKが、カチッと小さな音を立てた。

 無意識に力を込め、何かを耐えているような顔。どこか辛そうな表情に見えた。

 

「あいつは、()()()()()()()

 ジャムおじさんが死んでから、一度も笑ってる所を、見たことが無いよ」

 

「きっと、ジャムおじさんは“特別”だったんだよ。

 まごう事なき天才だった。パン作りに命を懸けた人だもの。

 ヤツは“心”を込めた。

 おいしくなぁれ、おいしくなぁれと願いながら、いつも一生懸命パンを作ってた」

 

「……でもアンパンマンには、()()()()()()()()()

 ジャムおじさんが居なくなってからは、自分で顔のパンを作ってるんだが……、でもヤツみたく命を吹き込むなんて事は、とても出来なかったんだ。

 きっと……家族の死っていう出来事も、影響してたのかもしれない……」

 

「心の込もってない、形だけのアンパン――――孤独な心で焼くパン。

 それが今のアイツの顔だ」

 

「……アンパンマンは、笑わなくなった。

 ずっと無表情のまんま、感情を表に出すことすらも、なくなった。

 もう、空も飛ばなくなってた……」

 

 必要ないのさ、そもそも“ヒーロー”なんて物は。

 国境が出来て、法律が出来て、治安維持はぜんぶ警察がやってる――――

 だから子供の頃みたく、アイツが空を飛ぶ必要なんて無い。パトロールなんてしなくて良い。

 そもそも、いつも悪さをしてた俺さまも、もう悪戯なんてする年じゃ無かったしな……と彼は語る。

 

「当時は、色々ちょっかいを出したよ。

 なに暗い顔してるんだ! なに腑抜けてるんだ! 元気を出せ!

 そんな風に、いろいろ連れまわしたりもした。

 無理やり外に連れ出して、二人で遊んだりした」

 

「けど……無駄だったよ。

 アイツは一度も笑わなかった。いつも何も言わず、俺さまの後に付いて来るってだけ。

 何年かやったけど……いつしか俺さまは、()()()()()

 

「こいつはもう駄目だ、腑抜けてしまった、もう相手にする価値なんて無い――――

 そうアイツを見限り、国を飛び出した。

 国境を越えて、“新しくなった世界”ってヤツを、見て周るようになった」

 

「傭兵稼業も、それで始めた事だ。

 ……別に俺さまが本気だせば、余裕で小国くらいは滅ぼせるんだけど……。

 でも“戦闘機”で相手してやった。色んなヤツに交じって、いち傭兵として空を飛んだ。

 そうしないと、対等になれない――――退屈を紛らわせないから」

 

「世界征服とか、何かを変えるとか……、そーゆう事にはもう、興味が湧かなかった。

 ――――俺さまの時代は、()()()()()()()()()()

 だから惰性みたく戦闘機に乗って、ただただ退屈を紛らわす為に、戦ってたんだ」

 

 ジュポっと音を立て、ジッポの火を着ける。

 片羽のばい菌と呼ばれた英雄が、いま気だるそうにタバコを吹かし、力なく瞼を閉じている。

 その姿は憂いを含み、見る者に切なさを感じさせる。

 歴戦の英雄(エース)であり、数々の死線を潜って来たハズの戦士が見せる、どこか悲しい感情の吐露だった。

 

「コムギィコが侵攻された時、数十年ぶりに国へ帰った。

 ちょうど空軍が“外国人部隊”を組織しようとしてたからな。

 俺さまはバイキン星の出身だ! と言い張って、部隊に入った。

 傭兵としての実績は挙げてたし、なんの問題もなかった(と思う)」

 

「ジャムおじさんの墓参りをして、ドキンちゃんの方にも花を添えて。

 そしてある日、気まぐれにアイツの家に行ったんだ。

 もうボロボロで、当時のあったかかった面影なんて微塵もない、あのパン工場へ……」

 

「アイツはそこに居た。

 ずっとずっと一人で……パンを焼いてたんだ。

 誰とも会わず、誰とも関わること無く、相変わらずの無表情で」

 

「ついて来い! って引っ張ってやった。

 アイツは文句も言わず、トコトコついて来た」

 

「今度は俺さまという“悪党”じゃなく、敵兵という名の“一般人”との戦いだ。

 あの頃とは違い、正義を背負ってヒーローとして戦うんじゃない。

 ただ国境によって敵味方に別れただけの連中を、政治家が掲げるよく分からん“大義”とやらの為に、殺していくんだ」

 

「それでもアイツは、()()()()()()()()()

 俺さま達は、もう正義の味方でも悪党でも無い。子供でも無い。

 楽しい時間は、とっくに過ぎたんだ。

 もう何もかも、終わってしまっていたから――――」

 

 

 

 

 ――――どうだアンパンマン! 久しぶりの空は!!

 ――――楽しいか? 楽しいだろう?! 楽しきゃ笑えぇぇ~~い♪

 

 ふいに、先ほど聞いた彼の言葉が、思い出された。

 この男は、一体どれほどの想いをもって、その言葉を口にしていたのだろうと。

 

Smile(スマイル)っていうTACネームな? あれ俺さまが付けたんだ。

 胸のニッコリマークのワリには、お前いつもブスッとしてんなぁ! っていう皮肉だよ。

 どうだ、いいセンスだと思わないか? 中々やるもんだろぉ~?」 

 

 ――――笑え、笑ってくれ。あの頃みたいに。

 ――――簡単だ。ほらこうやるんだよ。もう一度お前と……。

 

 彼の表情から、そんな言葉が頭に浮かんて来たのは、果たして私の気のせいなのだろうか?

 陽気だ。とても明るい。……でも彼は、いま自分が()()()()()()()()()()()()()、気が付いているのだろうか?

 私にはもう、知る由もない。

 

「あれから、色んなトコ行ったなぁ~。

 アルロン地方へ、補給路の奪還に行ったり、フトゥーロ運河で戦域攻勢作戦をやったり。

 いつもアイツと二人、並んで飛んだ。

 いろんなモノと戦ったよ」

 

 

 

 彼が言うには、アンパンマンは入隊してすぐに、頭角を表していったという。

 誰よりも多く撃墜し、誰よりも自由に空を飛んだ。その空域を支配した。

 

『こいつら……コムギィコから来やがったのかよ!?』

 

『聴いてねぇぞ! こんな戦闘機乗り(エース)がいるなんて!』

 

『第1守備隊が撃破された!

 全軍、なんとしてもあの二機を叩け!」

 

『支援要請はしたのか!? 繋がるまで続けろ!

 本部からの指示はどうした!?』

 

『状況報告! 施設の損害を確認!

 たったあれだけの戦闘機に、なにをやってる!』

 

『またやられた。このままじゃ、なぶり殺しだぞ……!』

 

 いつも無線から、敵の狼狽した声が聞こえてきた。

 逃げ惑い、恐れおののき、たった二機の戦闘機を茫然と見つめる無力な連中の声が、とても心地よかった。

 

『お前たちは何だ! 戦闘機乗りだろう! 飛ばなければ何の価値のない連中だ!

 勇気のないヤツは置いていく! 悔しければ喰らいつけ! しがみつけ!

 分かったなクソ野郎共!? よし行けッ!!』

 

 片羽は言ってやったという――――勇気()()が、ヤツらの取柄だと。

 

 そもそも、他ならぬ俺たちに対して“勇気”を誇るか? いまアンパン号・Raptorに乗っているのは、いったい誰だと思っているのかと。

 技術や能力はもとより、()()()()()()()、俺たちには及ばない。

 いつも彼は、軽く「はーひふーへほぉ~!」と口ずさみながら、鼻歌交じりで敵を殲滅した。

 すぐ隣を飛ぶ、憎らしいばかりに心強い、相棒の機影を見ながら。

 

「けどまぁ……いくつか死線も潜ったよ。

 なんてったって、俺さま達はいつも二機で組んでたからなぁ~。

 多勢に無勢だろ……って感じることも、まぁたまにはある。

 ヴァレー空軍基地の司令部は、頭がおかしいんだ」

 

 まっ! だからこそ、俺さま達の撃墜数が伸びるんだけどな。

 そうニヤリと、どこか愛嬌のある笑みで、片羽は語る。

 たとえヒヤリとする事があろうと、いま彼が生きているという事が、勝利の証なのだ。

 

 

「いちばんヤバかったのは……やっぱ()()()()()()()()()

 あんたも知ってるんだろ? 何人かに話を聞いたって言ってたし。

 俺さま達の聖地であり、住処であり、また墓場でもある――――あの“円卓”のコト」

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

『ガルム隊へ、こちらイーグルアイ*15

 作戦開始。【B7R】に侵入し、周辺の状況を探れ』

 

 その日の任務は、ばいきんまん&アンパンマンという、ガルム隊二機のみの参加。

 ベカリの制空権下にある国境空域B7Rへと侵入し、強行偵察を行え、という物だった。

 もし敵勢力とコンタクトした場合は、交戦を許可する――――諸君らの実力が試される時だ。

 ブリーフィングでは、なんかそんな風に言われてた記憶がある。

 

 国境という、ベカリにとって絶対防衛戦略空域。ここには多数の航空部隊が配備されていることだろう。しかもこのB7Rの特性として、強度の磁場による通信混線も起こるという。

 その強力な敵戦力は元より、戦闘すら非常に困難な場所、という事だ。

 

 ちなみに、かの地で発生しているという磁場の原因は、土地に眠る膨大な地下資源にある。

 ベカリ公国によるコムギィコ侵略は、この地下資源を狙った物であり、そしてここB7Rにおいては、古より多くの血が流れて来た歴史がある。

 

「ガルム2了解(ラジャー)。まだ感度良好だな」

 

 眼下に広がる荒野。地平線の先まで何もない、土色の景色。

 ばいきんまんは無線に応答しながらも、注意深く周囲の警戒する。

 

「管制機以外は、俺さま達だけ……。けどその方がやり易いかもな~。

 パッと行って、パッと帰って来れるし」

 

 そう軽口を叩いてはいるが、今朝からばいきんまんの様子がどこかおかしい事を、アンパンマンは感じ取っていた。

 彼はアンパンマンよりも以前から、長年傭兵として戦闘機乗り(エース)をやっている。過去には一時期とはいえ、ベカリ空軍やオイシーヤ空軍にも所属していたというし、当然この空域のことは知っているのだろう。

 

「B7R……俺さま達にはお似合いの場所、お似合いの任務だ。

 バイキンEagleとお前さんのRaptorなら、まぁ問題ないさ」

 

 

 

 B7R――――通称“円卓”。

 それは戦闘機乗りに与えられた舞台であり、また墓場でもある。

 

 絶対防衛戦略空域であるB7Rは、各国のエースが制空権をめぐり熾烈に飛び交う、他とは比べ物にならない死地。

 たとえベイルアウト(緊急脱出)出来たとしても、磁場による通信障害により、救助は極めて困難。しかも川や湖どころか、木の一本すら生えていない土地。

 すなわち、ここでの撃墜は“死”を意味する。退路が存在せぬ潜水艦乗りのように。

 

 ベカリだろうがコムギィコだろうが、条件は皆同じだ。

 生まれた国も、階級も、肌の色も、全てがここでは意味を成さない。上座も下座もない。

 戦闘機乗りにとって、ある種の究極的な平等が与えられる場所。

 そして、自らの矜持を賭けて挑む決死の舞台――――それが“円卓”だった。

 

 

 お似合いの場所? とんでもない。あそこはまごう事なき、()()()()()

 戦う意義や、守るべき矜持や、愛国心――――

 そんな物でもない限り、好き好んで赴くような場所じゃない。こちとら金で雇われてるだけの傭兵なのだ。

 

 ばいきんまんに関して言えば、この傭兵という職業に誇りを持ってはいる。いま自分を生かしてくれている、大切な物なのだと。

 だが他の傭兵連中には、明らかに荷が勝ちすぎる場所。しかもアンパンマンなどは、ただ言われてほいほいついて来ただけの者だったりするし。

 流れに身を任せて傭兵となり、もう2週間ほどは共に空を飛んでいるが……、未だにばいきんまんには、彼が何を考えているのかなど、これっぽっちも分からずにいる。

 

 敵を撃墜しようが、任務を達成しようが、こいつはニコリともしない。

 いつも無言のまま報酬を受け取り、それを使うことも無く、ただあてがわれた宿舎の部屋へと帰るだけ。

 自分はパン(食べ物)だからと、同僚から飲みに誘われても、決して付き合うことをしない。ただ朝起きたらパンを焼き、Raptorいじって任務に行っては、帰って寝る――――それを繰り返す日々。

 そこには熱も感じなければ、意思や意義など微塵もない。……戦いの中で人を殺すことすらも、なんとも思っていないように見えた。

 

 

 ――――どうしたの? なにか心配事?

 ふいに、無線からアンパンマンの声が聞こえた。恐らくは、いつも煩いばいきんばんが黙り込んでいるのを、不自然に思って問いかけたのだろう。

 ばいきんまんはハッと我に返り、ワチャワチャと辺りを見回す。再び警戒態勢に入る。

 

「なんでもないぞぅ!

 それよりどうだアンパンマン、傭兵稼業ってヤツは?

 楽しくやってるかぁ~?」

 

 ガッハッハと意味もなく高笑いし、誤魔化すように問い返す。

  

「良いもんだろ? 空を飛ぶのは!

 俺さまが連れて来てやったんだからなぁ! 感謝しろよ~う!」

 

 ――――別に感謝はないよ。これ忙しいし、とても疲れるもの。

 アンパンマンが、まるでバイトをし始めたヒキコモリみたいな事を言う。実際その通りではあるのだが。

 

 もう少し、のんびりしたいかな? パンを焼いていたいよ。

 なに言ってるんだぁ! お前おひさま好きだろぅ? 外に出てナンボだろーが! 

 そんな風にワーワー言いながら、並んで空を飛ぶ。

 たとえ任務中であろうとも、二人はいつもこんな感じだ。緊張感がない会話であった。

 

「まぁ空のドライブだと思って、気楽にやれぇ~!

 こぉ~んな偵察任務なんかぁ! 俺さまにかかれば、ちょちょいっと終わら……」

 

 だが、突然。

 

『――――レーダーに敵性反応を確認! 警戒せよ!!』

 

 管制機からの、空気を切り裂くような声。

 

『敵影多数! まっすぐこちらへ向かっている! 注意しろ!!』

 

「……」

 

 ばいきんまんが、あんぐりと口を開ける。

 さっきまでの歓談ムードが、一瞬で消し飛んでしまい、まだ状況に心が追いついていない。ポカーンとした顔だ。

 

『……なんだ、IFFの故障か……? 反応は2つだけです……』

 

『……二機だと? ……そんなハズは……』

 

 そして無線から、ノイズまじりに“知らない声”が聞こえる。

 恐らくは、今こちらへ迫っている敵戦闘機の通信が、混線により届いているのだろう。

 

(2つ“だけ”? じゃあヤツらは、()()()()()()()()()()、ってことか?)

 

 これ偵察任務だろ? こっそり行って調べて来い、って事だろう?

 でも情報筒抜けじゃないか!! バレとるがな! 俺さま達が来るの!!

 ばいきんまんはタラ~っと冷や汗を流す。

 

 しかもここは“B7R”。ヤツらの絶対防衛戦略空域、この世で一番ヤバい場所だ。

 きっとハチの巣を突いたみたいに、ワラワラやって来るに決まってる! ……こっちは二機なんだぞ!?

 

『敵部隊接近! ガルム隊、交戦を開始せよ!』

 

「……Damn it!(くそったれぇ~!!)」

 

 何が偵察だ! なにが「気楽にやれ」だ! ゴリゴリのピンチじゃないか!

 そう毒づくも、状況は変わらない。もう目視で確認出来る距離まで、数える気が起きないほどの敵編隊が迫っている! まっすぐこちらに来る!

 

 ――――まったく。君といると、ロクなことが無いね。

 そうボソッと、アンパンマンの嘆息が聞こえた。

 来いと言うから来てみれば、なんだよこの状況はと、呆れているような声色。

 

「文句は後で聞く……。今はあっちを何とかするぞ」

 

 けれど……何故だろう? 勇気が湧いてくるのは。

 いつも通りのぶっきらぼうで、そっけない態度なのに、アンパンマンの声を聞いただけで、なにやら闘志が湧いてくるのだ。

 たったの二機……だが一人では無いッ! ()()()()()()()()()()()!!

 

 ――――どうした、ビビッったのか? やられるんじゃないぞ~う。

 ――――そっちこそ。早く片付けてしまおう。

 そう無線越し、二人が示し合わせたように、コクリと頷き合う。

 

 

「ガルム2より、ガルム1へ――――()()()()()

 

 

 ――――了解(ラジャー)

 そう短い応答が、無線に届いた。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

『さて、機体の性能テストでもさせて貰うか』

 

 最初、敵無線からそんな声が届いた。

 

『墜とせ。撃墜するんだ』

 

 だがアンパンマンが一機、二機と墜とした時、ヤツらの声色が変わった。

 

『よく狙え。引き付けて撃つんだ』

 

『くそっ! 外したッ! 何やってるんだ!』

 

 三機、四機……次々に敵が墜ちていく。敵部隊がその数を減らしていく。

 

『集中しろ……! 焦るな! 何をやってる!』

 

『相手は二機だぞ! 落ち着いて対処しろ!』

 

 そして、こちらの撃墜数が6を越えた時、明らかな焦りの色が、敵無線から伝わった。

 

「よぉSmile(アンパン)? 気分はどうだ」

 

 ――――最悪。ミサイルアラートがうるさい。

 

「そのワリには、えらく()()()()()フライトじゃないか。

 まるでこの空に、“お前だけの法律”があるみたいだ」

 

 お前だけが躱し、お前だけが当てる。

 お前だけが飛び、お前だけが生きる――――

 この空で唯一、お前だけに許された特権。お前が定めた法。それを弱者達に押し付けるみたいに、地に墜としていく。誰もかれも区別なく、コイツに従わされていく。

 

 格の違いとか、コイツの方が強いとか……そんなレベルじゃない。

 こいつは“特別”だ。ほかのヤツとは、存在としての次元が違う。

 ヤツらは訓練をし、戦闘機に乗ることで、ようやく()()()()()()()()()連中。

 だがこの空は元々、誰の物なのか? それを思い知りながら、元の場所に帰っていくのだ。

 慣れ親しんだ地面に――――お前にはそこが似合いだ。

 

「ほ~ら、後ろを取られたぞー。

 がんばれよ坊主(キッズ)。一生懸命、逃げるんだ。

 でないと……、()()()()()()()()()()()!」

 

 火の玉になる。爆散して落ちていく。

 ミサイルが食いつき、死に追いつかれ、彼の人生が終わった。

 だがもし生きていたのなら、彼は家に帰り、ママにこう伝えるだろう。「空にはとても怖いオバケがいる」と。

 もう二度と、近づいたりしませんと――――

 

 あれだけ周りにいた敵戦闘機が、今はもう片手で数える程。

 ガルム隊の二機により、次々にその数を減らし、この土地に()()()()を増やしていく。鉄屑の残骸が、ヤツらの墓標だ。

 

「行きがけの駄賃だ、とっとけ」

 

 すり抜け様、ばいきんまんの放つミサイルが、また敵機を炎で包む。

 たった二機の強者が、我が物顔で空を進んでいく。最強と謳われた歴史ある空軍の者達を、まさに蹴散らしながら。

 鎧袖一触という言葉が、これほど似合う光景も無いだろう。

 

『周囲に敵影なし。敵編隊の殲滅を確認。

 ガルム隊、このままB7Rへ突入せよ!』

 

「ガルム2了解。……アンパンマン、“円卓”へ向かうぞ」

 

 無線からは無音。だが彼が頷いたような気配を感じた。

 二機は同時に加速。身体にかかる凄まじいGに耐えながら、空に雲を引きつつ前進していく。まさに飛び込んでいくように。

 

『――――警告! エリアB7Rに高速で侵入する機影あり! 警戒せよ』

 

「敵の増援、恐らくは本隊だな。……こっから本番ってトコか」

 

 ようやくかの地に侵入を果たし、そして管制機の連絡が来てすぐ、前方に敵編隊の機影を確認。

 横並びで飛ぶ四機の戦闘機(ファイター)。そのどれもがグリーンの迷彩色で統一されている。

 

『状況把握。相手は二機のみ』

 

『了解。では楽しませてもらうとするか。狩り(ハント)の時間だ』

 

 敵の無線。とても冷淡で、こちらをあざ笑うかのような。

 きっとヤツらの脳裏には、今こちらの二機を()()()()()()()光景が、アリアリと浮かんでいるんだろう。

 崖から落ちそうになっている者を、安全な場所から見下ろすような、愉悦の色が声に滲んている。

 

「グリューン隊? ホーネット*16が来やがったか……。

 これはちょっとばかし……アレかな?」

 

 機体の性能だけじゃない。ヤツらは()()()()と一目で分かる。

 今までの者達とは、もう比べ物にならない。この円卓の番人であり、“狩り”に手慣れたヤツらだ。

 相手は四機で、こちらは二機。単純な戦力差でも倍。

 ヤツらの「楽しませてもらう」という言葉、そしていま愉悦に口元を歪めているのは、当然の事と言えるだろう。

 だが……。

 

『――――ガルム隊へ、撤退は許可できない。迎撃せよ』

 

「だろうな」

 

 落ち着いている。確かに手汗でベチョベチョだし、冷や汗だってかいているけど、それより高揚感が勝っている。しっかりと敵を睨むことが出来る。

 すぐ隣を飛ぶ、相棒の息遣いを感じることが出来る。

 

 ――――もう疲れたの? 少し休んでるかいGerm(ばいきん)

 ――――バカ言え、すっこんでろSmile(アンパン)

 ばいきんまんが、ギュッと操縦桿を握る。

 くっくっくと笑い、ニィヤ~っと嬉しそうな顔で。

 

 

「上等、報酬上乗せだ。

 ガルム2、交戦開始――――目ん玉ひっくり返してやるッ!」

 

 

 ガルム隊の二機が、示し合わせたように左右へ別れる。

 大きく円を描き、敵編隊を挟撃するように、一気に襲い掛かる、

 

『ヤツら、突っ込んできますよ』

 

『ふっ、コムギィコの傭兵風情が。選択を誤ったようだな』

 

 そして、グリューン四機も各自散開。

 自信に満ちた口調、統率力の高さを感じさせる動きで、二機を迎え撃つ。

 だが……。

 

This is the Round Table.(   ここは円卓   )

 Dead men's words hold no meaning(    死人に口なし    )――――」

 

 直撃する。ばいきんまんの放つミサイルが。

 グリューンの一機が黒煙を上げながら、まるで羽虫のように墜落していく。

 それを機に、明らかに敵の飛び方が変わる。

 先ほどまでの余裕は消し飛び、慌てて気合を入れたかのように、小刻みに機体を動かし始めた。

 

「黙って来い。お前らに余裕なんて無いんだ」

 

 身の程を知れ、()()()()()――――そう言わんばかりの一撃。

 そして、すぐさま始まるドッグファイト。早くも一人が脱落し、五機が激しく入り乱れる空戦。命の獲り合い。

 

『グリューン各機、射出装置グリーン。ファックしてやれ』

 

Smile(アンパン)、奴らは蜂だ。

 ブンブン飛び回って、獲物を仕留める。

 ケツの一刺しに気を付けろ?」

 

 一機を追い回せば、それを囮にもう一機が回り込む。

 後ろを取ろうとすれば、即座に他の機体がそれを阻止してくる。

 手練れだ。奴らは手慣れている。まるで脳を共有する一個の生物のように、的確にこちらを追い詰めてくる。

 獰猛だが、理性的。チェスを連想させる理詰めの立ち回り。数の有利を存分に活かしている。

 

 どんだけロックしてくるんだ! どんだけ上手いんだお前ら!

 そう歴戦の傭兵である彼をしても、驚愕せざるを得ない。

 いくら3機がかりとはいえ、これほどアンパンマンに対して打ち込んでくるとは! 追い回すとは!

 一機一機は大した事ない。だがチームでの戦いが上手い! これが“円卓”に住む戦闘機乗り(エース)の狩りか!  

 

『ほう……面白いパイロットだな。型にはまらない飛び方だ』

 

『ああ。ここまで楽しませてくれるヤツは、久しぶりだ』

 

『機体のデザインも、なんか変ですし……。あれ本当に戦闘機ですか?』

 

 うるさいっ! 聞こえてるぞグリューン! 文句あるかぁ!

 そう怒鳴りつけたいのだが、今それどころじゃない。ミサイルを振り切るので精一杯だ。

 馬鹿にしやがって! あれ俺さまが作ったんだぞう! カッコいいだろうが!

 

「って……気を付けろSmile(アンパン)! ケツを取られるぞッ!」

 

 アンパンマンの放ったミサイルが、グリューン機の背面に迫る。

 だが空中に射出されたチャフ*17により、ミサイルが明後日の方向へ逸れる。

 

 そして攻撃後の隙を見計らい、別の一機がアンパンマン号・Raptorに迫る。

 当の彼は、なぜ攻撃が逸れたのかが分からず、動揺で次の動きに移れずにいた。

 

「――――バカたれぇぇ~っ! ボサッとしてると死ぬぞぉーッ!」

 

 割り込むようにして、機銃を放つ。

 アンパンマンを狙っていたグリューン機が、慌てて回避行動を取り、Raptorの傍から退避していく。

 しかし、それを黙って見逃すバイキンUFO・Eagleではない。

 

「足元すくわれたマヌケは、お前の方だッ! ――――そぉいっ!!」 

 

 爆散。緑色の機体がバラバラになる。

 必勝を期していたであろうグリューン機は、ばいきんまんのミサイルまでは振り切る事が出来ず、撃墜される羽目となった。

 

「おいガルム1よ! まだまだトーシロだなぁお前ぇ!

 俺さまが全部相手してやろうかぁー? あーーっはっはっは!」

 

 ――――クスッと、小さな笑い声が聞こえた。

 無線を通じて、アンパンマンの笑った声が聞こえた……ような気がしたのだ。

 ばいきんまんは思わず放心してしまうが、即座に「いかんいかん」とブンブン首を振る。さっき二人も間抜けを見たばかりなのに、今度は自分とか洒落にならないと、慌てて気を引き締める。そして即座に残りの二機を捕捉。

 

『こざかしい……! お遊びはここまでだ! 本気でかかれ!』

 

「遅いんだよバカ。もう終わりだぞ?」

 

 二対二。すなわち同等。

 ならばもう、こちらが負ける道理は無い。

 先から言っている――――お前たちとは「存在としての次元が違う」と。

 

「チャフだのフレアだの、うっとーしい程ばら撒きやがって。

 けど……そんだけだな。

 延命や時間稼ぎをするだけじゃ、アイツは墜とせないぞ」

 

 そう言ってる間に、アンパンマンのミサイルが敵機に刺さる。

 フレアを出すことを見越しての、ディレイをかけた連続攻撃。二羽目の燕が貫くようにして敵機を捉えた。

 

『くそっ! なんだこの二機はッ!! やるじゃねぇか!』

 

「強がりも良いけど、ベイルアウトの準備は出来たか?

 ……おいSmile(アンパン)、ラスト一機だぞ?

 どっちが墜とすか勝負だぁぁ~~っ!」

 

 再び左右に別れ、挟撃。

 グリューン隊の最後の一機は、悲鳴が聞こえてくるかのような急上昇をした後、二発のミサイルによって炎に包まれながら、地上へ落ちていった。

 ばいきんまんが飛ぶ後方に、遥か遠くの方でフワフワ浮いている、小さなパラシュートを見つける事が出来た。

 

 

 

「ああ……こりゃ明らかに、お前のが先だぁ~。

 一瞬遅れちゃったんだよなぁ~。

 あーんな必死こいてスナップアップ(急上昇)してくるとは、俺さま思わなかったぞ……」

 

 ばいきんまんが「ガックリ!」と落胆してすぐ、遥か上空を飛ぶ管制機からの通信が入る。

 ベカリの増援、全機撃墜を確認――――任務完了。

 それを聞いた途端、またばいきんまんは力が抜けたように、グッテ~っとシートに沈み込んだ。

 

『たった今、連合軍作戦司令部より、入電が来た。

 ――――連合軍海上部隊は、進軍を開始。貴隊の活躍に感謝する、……だそうだ』

 

「海上部隊ぃ~? なんだそりゃ。

 そんなコト俺さま、一言も聞かされてないぞぉ~?」

 

 このような作戦、ブリーフィングには無かった……と思う。

 恐らくはガルム隊を二機のみでB7R内に突っ込ませ、それを陽動として海上部隊を進軍させる、というのがこのミッションの本願だったのだろう。

 それに気が付き、またばいきんまんが「もうどうにでもしろ」とばかりに、力なく天を仰いだ。

 

「はいはい……なるほどなるほど。

 俺さま達は偵察じゃなく、“捨て駒”だったってワケね~」

 

 もう文句を言う元気も、怒鳴り散らす力も無い。こちとら疲労困憊なのだ。

 先ほどまでは死ぬ思いをしてたし、ようやくそれから解放された安堵感で気が抜けて、もう渇いた笑いしか出なかった。

 これはもう、よっぽど報酬を上乗せして貰わないと、ワリに合わない。

 こちとら金で雇われた傭兵なのだ。労いの言葉より、誠意を見せて頂きたいものだ。今日は高い酒でも飲まないと、やってられるか。

 

 

Yo buddy( よぉ相棒 )――――You still alive( まだ生きてるか )?」

 

 

 

 

 

 

 長年各国を巡って身につけた英語を使い、何気なくそう言ってみる。

 ふーっと脱力し、気の抜けた声で。

 共に死地を潜り抜けた、戦友に対して。

 

 ――――ばいきんまん、……ありがとう。

 

 そして、万感の想いが込められているかのような、短い応答――――

 まさかそんなのが返って来るなんて、夢にも思わなかったものだから……、ばいきんまんは慌ててワチャワチャと姿勢を正し、目をひん剥きながら無線機を二度見してしまった。

 え、なにソレ? どゆこと? ……みたく。

 

 

「うっ……うるさぁ~~い!

 俺さまはお礼を言われるのがぁ! だぁーーいっきらいだぁ~~っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

(つづくぞ!)

 

 

 

 

*1
航空機のパイロットに付けられる、非公式の愛称。あだ名

*2
バイキンUFOの空戦仕様Ver。戦闘機であるF-15C Eagleという機体を基にして(なんとなくイメージして)、ばいきんまんにより開発された。良好な加速・上昇などの飛行性能を有する。中射程空対空ミサイルと爆弾を装備

*3
機体からの緊急脱出。パラシュート降下で地上へと降りる

*4
空戦仕様のアンパンマン号。戦闘機であるF/A-22A Raptorを基にして(なんとなくイメージして)作られた。ステルス性が高く、スーパークルーズ(超音速巡航)が出来、STOL(短距離離着陸)が可能。固定装備としてM61A2機関砲を持つ。ちなみにラプターとは“猛禽類”のこと。

*5
左右へ急旋回し、敵の攻撃やロックを回避する機動戦術。

*6
真下へ向けての急降下。ちなみに、エンジンを全開にしてダイブする事を【パワーダイブ】と言う。

*7
敵機と正面切って向き合った状態。

*8
螺旋状に回転しつつ直進する機動戦術。

*9
エースとは、多くの撃墜機数をあげたパイロットに贈られる称号。基本的に5機以上撃墜した者がこう呼ばれる。中でも撃墜機数上位者は“トップ・エース”と称される

*10
敵味方識別装置

*11
劇場版のこと

*12
左右へ連続してジンクを行うテクニック

*13
急激に角度を変えて急上昇する技術

*14
ちなみに人型ではあるが、彼も“妖精”という種族である。この世界では彼のようなヒューマン型や、アニマル型の妖精が大半を占めている。アンパンマン達のように生身で空を飛べる者は、非常に稀と言える。

*15
管制官を務める人物。【AWACS】と呼ばれる、大型の全周囲レーダーを装備した空中管制機“E-767”に搭乗している。敵の捜索や追尾を行うと共に、友軍機の指揮管制を担当。

*16
F/A-18Cと呼ばれる機体。ホーネットとは“スズメバチ”を意味する。

*17
金属片など、電波を反射する物体を撒布することで、レーダーを妨害する為の物






 何話かに分けての投稿となります。
 今回のものは、軽い“連載”のつもりでやりますゾ♪

 ただ、この続きの投稿には、かなりのお時間を頂いちゃう事になるかと存じます(マジ)
 どうか……! どうかのんびり待っていて下さいっ……! 私がんばって書くからネ!


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