【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】   作:hasegawa&friends

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 短いですが、ちょっとした番外編です。





AN-BREAD ZERO ―アンブレッド・ゼロ― Ⅳ

 

 

 

 ついに“円卓は”陥落した。

 ベカリ公国の力の象徴であり、全ての戦闘機乗り( エース )達にとっての聖域たるB7R。

 まさに一大決戦といえるこの空戦は、連合側の勝利に終わった。

 

 実質的なメイト(詰み)

 もはやベカリには、脅威と言える物は存在しない。

 この戦争の勝敗は、完全に決したのだ。

 

 

 この時期を境に、南ベカリでは厭戦ムードが漂い出している。

 ベカリ発祥の地であり、彼らにとっては聖地といえる北部……。その防衛線に使われ、数多の戦闘が行われた為なのか。

 住民たちが抱える不満は、すでに限界まで達していたのだろう。

 

 南ベカリの各都市は、次々に非武装宣言を行い、なんの抵抗も無いままで、連合軍へと明け渡されていった。無血開城である。

 ベカリ軍の方はと言えば、もう防衛拠点の構築すらも、ままならない状況。

 ただただ連合軍に追いやられるまま、北への撤退を繰り返すばかり。

 

 ベカリ戦争終結の足音は、刻々と近付いていた。

 

 

 そして、B7Rの空戦のみならず、この戦いにおいて大きな役割を果たした“鬼神”の存在。

 その凄まじいまでの活躍、彼という傭兵が紡ぐ物語に、私の胸は躍った。

 時に仕事を忘れ、TVのヒーローに憧れる少年のような心で、資料を読み耽ったほどだ。

 もっと知りたい、もっと見たいという気持ちが、私の指にページをめくらせた。

 

 この興奮を押えられなかったからこそ、私は絶え間なく銃声の響く、このような危険な土地にまで、今日も足を運んだのである。

 ここは内戦の続く、デラオイシ国境付近の町――――

 

 いま目の前にいる“片羽”の男も、未だその手にAKを握ったまま、私のカメラに向かって話をしてくれている。

 懐かしむように、大切な思い出に浸るように、悲喜こもごもの豊かな表情をして。

 

 

 

 ちなみにだが、私はこの人物と会う前にも、幾人かの者達にコンタクトを取り、インタビューを敢行してきた。

 彼らは皆、当時最強を誇っていた、元ベカリ空軍のエース達である。

 

 私は“鬼神”の足跡を追い、導かれるように国境を越え、様々な土地へ赴いていた。

 そして、これまで多くの貴重な証言を、ビデオカメラに収めた。

 

 連合軍やコムギィコにとっては、敵側であった兵士達。

 そんな彼らから見た、戦争という物、“鬼神”という存在――――

 当事者たちの声を、ここに記そうと思う。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

・INTERVIE ♯01

 

 “THE STRATEGIST” 【カロリー1000㌔オーバー菓子パンマン】氏

 

 

 元ベカリ空軍、第10航空師団、第8戦闘飛行隊「グリューン隊」隊長。

 ブt……いやフクロウの目を持つ男。

 各地の戦場で、臨機応変な戦略で功績を上げ、エースにまで成り上がった人物。

 

 

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 

 

 ハンバーグステーキうめぇwww バターをラードで揚げたヤツ超うめぇwww

 きっと今日の摂取カロリー、1万越えしてるw 成人男性4日分www

 

 いや~、連れて来てくれて、ありがとう記者さん! 安いファミレスとはいえ、こんな腹いっぱい食えるのは、ほんと久しぶりなんだ!

 ほら見ろよ、俺の膨らんだ腹を。サンタクロースの袋くれぇ、夢が詰まってるだろ?

 でもまぁ、俺たぶん早死にするだろうけどなw 高血圧だの糖尿だのでw

 

 おはw もう飛行機なんて乗れないw

 エースだった頃のスリムな体形、マジでカムバックwww

 

 さって、そんじゃあまたサラダバーにでも……って何? あの“鬼神”の話ぃ?

 ちょっと待てよ、まだあのコーナーには、青々とサラダの森が生い茂ってるじゃねぇか。俺が取りに行くのを待ってやがる。

 それに今日は、あのスープバーを空にする、ひとりで全部飲み尽くすまで絶対帰らねぇぞって、心に決めて来たんだ。

 

 つー事で、あと3時間ほど、のんびり待ってちゃーくれないか?

 そうか……駄目なのか。こりゃ先に話しちまった方が良いな。

 ここのお代はアンタ持ちなんだし。機嫌を損ねて食いっぱぐれたら拙い。

 

 

 んじゃま、あの日の事なんだが……、実は円卓に向かう前から、()()()()()()()()

 未確認機がB7Rに侵入。その迎撃の為、俺たちグリューンが援護に向かったワケなんだが……、なんでも相手は、たった2機だっていうじゃねーか。

 いったい何を手こずってるんだか、ってな。

 

 まぁ、俺たち4機が着く頃には、もう終わってんだろう、と思った。

 こっちには相手の動きが丸見えで、事前に待ち構えてた、っていう状況なんだ。

 ソイツらが多少の腕利きだったとしても、泡吹くのは最初だけだろ? なんてったって、ベカリ空軍ってのは、戦闘のプロ集団なんだ。

 頭数だって、相手の何倍も揃えてたんだから。戦力比なんて考えるのも馬鹿らしい位に。

 状況を確認して帰るだけ、そう高を括ってたのさ。

 

 でも……冗談かと思ったぜ。

 いざ空域に到着してみたら、敵反応が2つとも残ってやがるじゃねーか。

 IFF*1がイカレちまったのかと、真面目に疑ったよ。

 

 確認してみたら、部隊の連中も、同じ反応を示してやがる。

 そこでようやく、「あぁ……こりゃ現実だ」ってな。思い知ったよ。

 

 

 内心はともかくとして、俺は飄々と指示を出した。

 では楽しませて貰うとするか、狩り(ハント)の時間だ――――と。

 どうだ、中々キマってるだろ? 昔はマジでイケメンだったんだよ。いまはブタみてぇに太ってるが。

 

 俺は隊長だし、動揺を表には出せない。

 それに、いつもこんな感じでやるのが、俺たち“荒くれ部隊”の流儀だったから。

 

 こっちは天下のベカリ空軍。相手は傭兵野郎で、たった二機。

 しかもヤツらときたら、俺たち4機を見ても、構わず突っ込んで来やがったんだよ。

 なんか嫌な感じがしてても、ここでイモ引くわけにはいかない。そんなのは戦闘機乗りじゃねぇ。ドッグファイト上等よ。

 

 

 俺は目を凝らし、まず状況を確認した。

 ここの地形、気流、相手の状態、機動、残弾数……。

 

 いけると踏んだ。

 こちらの目に狂いは無かった。それは今でも、確信を持って言える。

 あの状況であれば、誰だってそう判断するさ。

 だが……その予想を超えて、ヤツは飛んだって話だ。

 

 

 モゴモゴモゴ! ごっくん!

 ……いや失礼。冷めちまうと勿体ないんでな。話に戻るか。

 

 こんな事を言うのは何なんだが……、正直な話、少し荒さは感じたんだ。

 いや、“型にハマってない”と言うべきか? 自由な飛び方をするヤツだった。

 ウチの連中も、「面白いパイロットだ」って、喜んでたのを憶えてる。

 まぁ4機中2機を墜とされた時点で、そんなピクニック気分は、見事に消し飛んだがな……。

 

 いくら追い回そうが、数で取り囲もうが、ヤツは躱してみせた。

 チャフに驚いたのか、一度ケツを取れそうになった事もあったんだが……、結局はそのチャンスも、あの“片羽”に潰された。

 アイツの機嫌良さげな高笑いが、こっちの無線にも届いてて、正直ムカッと来たよ。

 イチャついてんじゃねーよお前ら、ここどこだと思ってんだ? B7Rだぞ? ってな。

 

 思えば……あの片羽を最初にやらなかった時点で、俺たちの負けは決まってたのかもな。

 聞く所によると、その後アイツは、もう手が付けられない存在になった、らしいじゃないか? あの空戦が最後のチャンス……だったのかもしれないぜ? 

 

 “円卓の鬼神”の誕生は、半分俺らグリューンのせい、もう半分は片羽だなぁ。

 チキショウめ。もう二、三枚ステーキを頼んでいいか? ライス大盛りで頼むぞ。

 

 

 戦場では、たまにああいうのが現れる――――いわゆる“特異体”ってヤツだ。

 

 つーか……なんか()()()()()に乗ってやがったしな。

 見た目からしてもう、普通とは違うよ。ちょっと丸っこかったし。

 

 なぁ、いったいどこ製なんだアレ?

 こころなしか、Raptorに似てる感じはしたが……。

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

・INTERVIE ♯2

 

 “THE FALLEN” 【きなこ揚げパンマン】氏

 

 元ベカリ空軍、第5航空師団、第23戦闘飛行隊“ゲルプ隊”2番機パイロット。

 元兵士とは思えぬような童顔で、どことなく愛嬌のある人物。

 首都ディレクタス開放時、この空域に駆けつけ、ガルム隊と交戦。

 そして、今もそこにいる。

 

 

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 

 

 僕の書斎へようこそ。

 どうです、時計塔がよく見えるでしょう? この窓からの景色を眺め、のんびり紅茶を飲むのが、僕の趣味みたいな物です。

 

 今日は来て頂き、ありがとう。

 このディレクタスに住んでるのもあるけれど、昔の事を語れるような友人も、あまり居ないもので。

 ……まぁ僕ら元ベカリ兵は“戦犯”ですしね。おおっぴらに武勇伝を語るワケには、とてもいきません。

 

 自分のことを話すのはもちろんですが、貴方から話が聞けるのも、楽しみにしていた。

 今は僕も、家族を持つ身です。妻と子供がいて、責任という物が出来た。もう兵士じゃない。

 けれど、たまにはこうして過去を懐かしむのも、悪くないです。

 

 とりあえず、きなこと紅茶を用意しましたけれど、記者さんのお好みに合いますか?

 僕はこれを少しずつ舐めながら、紅茶を飲むのが好きなんですけど……、でも同じ趣向の人を、一人たりとも見た事がありません。どうやら僕だけみたいです。

 

 妻も子供も、みんな僕のこと「キチ〇イだ」と罵ります。

 何にでもきなこをかけないで! というのが、我が家で起こる夫婦喧嘩の、一番多い理由となっています。

 

 改心の出来だったという、妻のビーフシチュー。それにきなこを一袋、おもむろにブチ込んでやったら、妻は実家に帰ってしまいました……。

 仲直りをするのに、1週間もかかったんですよ?

 あの時はいろいろ大変でした。家庭崩壊の危機です。子供もいるっていうのに……。

 

 

 さて! もう10年になりますか、あの戦争から。

 

 “彼”と会ったのは、このディレクタスの空の上。

 あの日、もう嫌というほど聞かされたミサイルアラートが、まだ耳に残っています。

 

 その日は、南部での迎撃任務があって、その帰投中でね?

 ようやく終わったかと思えば、突然ディレクタスへ飛べと、指令を受けたんですよ。

 

 まぁあの頃の戦況じゃ、とくに珍しい事ではありません。

 どの部隊も、まったく手が足りていなかった。

 補給も整備もままならない状態で、みんな出撃を繰り返していましたから。

 

 疲労はありました。もうどれだけきなこを舐めようとも、回復しない日もあった。

 ちなみに、僕は愛機のコックピットに、きなこを常備していました。いつでも舐められるように。

 

 Gできなこ飛び散るからやめろ! と隊長に怒られましたが、こればっかりは如何ともし難いです。

 僕きなこ揚げパンマンですし。みんなが水を飲むのと、同じ事じゃないですか。

 そりゃー持ち込むってものです。常に舐めたり、顔にまぶしたりしないと。

 

 いつも僕のターミネーター(Su-35)は、きなこ塗れです。掃除が大変だから止めろと、よく整備兵さんに怒られました。

 たまにドッグファイト中に、きなこが目に入り、空戦もままならない時がありました。

 もしかしたら……きなこを持ち込んでさえいなければ、あの“彼”に撃墜される事も無かったのやもしれません。一緒に飛んでた隊長が死ぬ事もなかったかも……?

 

 でもきなこが無ければ、僕は元気が出ないんだし。

 とても難しい問題ですねぇコレは。

 

 

 とにかく、僕らゲルプ隊の二機は、すぐディレクタスへ飛んだ。

 けれど、時既に遅し。

 友軍の駐留部隊はもう撤退済みで、街には鐘の音が鳴り響いていた。何度も何度も。

 まるで、この街が歓喜の声を上げているかのような、そんな印象を受けました。

 

 とても多くの、街中の人々が、表に出ていました。

 そして民衆の見上げる先には、“彼”の機影があった。

 皆、声を張り上げ、腕を天に突き上げていました。大きく円を描きながら、ディレクタスの空を優雅に飛ぶ、彼の姿を見つめて。

 その様には、歴史書に出てくる偉大な指導者や、神様を前にしてするような、崇拝にも似た感謝の心が、見て取れました。

 この街の誰もが、人生で最高の瞬間を迎えたかのように、とても良い顔をしていた。

 

 いわば僕は、そこに水を差しに来た、お邪魔虫というワケですね。

 ベカリ公国のため、任務のためとはいえ、心苦しさは無かったかと言われれば、否定は出来ません。

 でも僕は、兵士です。やるしか無いですから。

 もう手遅れか? まだ間に合うのか? ……そんな疑念を打ち消すように、機体を飛ばしました。

 

 

 “彼”の印象ですか? そうですね……、ただひたすらに強かった、としか。

 ひとつ言えるのは、明らかに格上の相手だった、という事です。

 機体や技量はもちろんなのですが、何より“存在”としての格の違いというか……、そういう物を感じました。

 いや、思い知らされた、と言うべきでしょうか?

 

 見透かされているような気がした……。

 いくら知恵を絞ろうとも、技巧を凝らそうとも、常に“彼”は一手先を潰しに来るんです。

 交戦中、僕は何度も「次に何をしたら良いのか分からない」という状態に陥りました。

 戦闘機動は、悉く見破られ、僕は手を打ち尽くしたんです。

 

 

 あと、これは“彼”だけの事では無いのですが……。

 ガルム隊は、コンビネーションがとても上手かったのを、憶えています。

 

 僕らゲルプ隊は“(つがい)”と称される程、コンビでの戦闘に長けていました。信頼で結ばれていると自負していましたし、いつも二人で任務をこなしていたから。

 隊長と共にある時、僕はどんな任務でも、どんなパイロットが相手だろうと、怖くはありませんでした。

 

 けれど、()()()()()()

 僕らが磨き上げた連携術よりも、ガルム隊の方が上手だった。これが何よりもショックでした。

 きっと二人の間には、僕には想像もつかない程の、強い信頼があるのではないでしょうか?

 そうでなくては、あのコンビネーションは説明がつかない……。

 僕らゲルプ隊が目指した、一個の生物としての連携術。その理想が、目の前にありました。

 

 たまに混線で、彼らの対話が無線に届いていたのですが、恐らくあの隊の頭脳は、“片羽”の方なのだと思います。

 片羽が合図を出し、声をかけ、鼓舞する。チャンスメイクをする。

 それに“彼”は、見事に応えて見せた。決して裏切る事をしなかった。

 

 確かに“彼”は、類を見ない程に卓越したパイロットですが……、そこには常に“片羽”の力があったんです。

 彼があそこまで自由に飛べるのは、()()()()()()()()()()()()

 片羽の戦闘機動は、ぜんぶ彼を活かす為の物。その為の立ち回り方。

 

 同じ二機で飛ぶ者として、僕にはそれ分かる。

 “彼”は、いったいどれほどの強い信頼を、あの僚機から受けていたのでしょう?

 親兄弟でも、双子でも、とてもああはいかない。……ただただ脱帽する他ありません。

 

 

 あ、そうだ! でもそこまでの連携術を持ちながら、“彼”は単独で僕の相手をしてくれたんですよ!

 彼らの力の前に、隊長が墜とされ、僕が一機だけになってしまった時……、まるで示し合わせたかのように、“片羽”がその場を離れて行きました。

 その場には、僕と“彼”だけになった。……いや、あえてそうしてくれたんです。

 

 一対一になりました。それは当然、僕側に有利に働きます。

 絶望的かに思われた状況に、僅かな光が差し込んだ。

 二機同時にかかられ、成す術無く墜とされるのではなく、存分に力を奮える状況になりました。

 

 なぜ彼らは、あえて有利を捨てたのか? それは今も分かりません。

 相棒を失った事で、怒り狂うように操縦する僕の姿に、何か思う所があったのかも。

 

 でもその時僕は、彼らに対する敬意と共に、この上ない感謝の気持ちが湧きました。

 それが余裕から来る行為で、僕が舐められているから、という可能性もあるのですが……、でも何故でしょう? とてもそんな風には思えなかった。

 彼が操る機体から、「来い」という声が聞こえてくるかのような……、そんな雰囲気を確かに感じたんです。

 

 屈辱は無い。

 僕は“滾る”想いでしたよ。

 操縦席で一人、彼に「ありがとう」と呟きました。

 そして、決して無様な飛び方は、彼には見せられない。だから全力でいきました。

 

 

 まぁさっきも言った通り、僕の戦闘機動は全て見破られ、最終的には成す術無く、墜とされましたけどね。ここディレクタスの地に。

 でもどこか、僕には清々しさがありました。

 手心を加えられた上で、完膚なきまでに負けたっていうのに、おかしな話ですよね?

 

 しかし……あの凄まじいパイロットに、全部受け止めて貰った上で、負けたんです。もうぐうの音も出ませんよ。

 ただただ「凄かったなぁ」っていう憧れだけが、僕の胸にあります。

 あの空戦は、僕の大切な思い出であり――――また誇りでもあるんです。

 あれがあったからこそ、今も胸を張って生きていける。自分が戦闘機乗りであった事に、誇りを持てる。

 

 まぁ僕は敗軍の兵ですし、反省をすべき立場の戦犯ですから、これを誰かに自慢したりは出来ませんけど。

 でも今日だけは、許して頂きたく思います。僕は凄いパイロットと出会ったのだと。

 

 

 それが、僕の“彼”に対する印象でしょうか。

 僕らは敵同士でしたから、人柄なんて知りませんし、純然たる戦いの感想でしかありませんけどね。

 

 一体どんな人物なんでしょう?

 僕に分かるのは、彼がとても()()()()()だって事だけです。

 

 

 後は……そうですねぇ。彼の戦闘機の趣味は、()()()()()()()()()

 あんな変な飛行機は、見た事ありません。何であんなファニーな戦闘機に乗ってたんでしょう?

 どことなく丸みをおびてて、なんか顔が書いてありましたもん。

 

 一つだけ文句を言えるとしたら……、アレだけは正直、やめて欲しかったです。

 あんなのを前にしたら、誰だって闘志が抜けちゃうというか。笑ってしまうというか。

 

 貴方は、そんな変な飛行機に撃墜される者の気持ちを、考えた事ありますか? と問いたい。

 これは、私があの戦いを人には言いづらい、理由のひとつでもあります。

 

 たとえどんなに凄くても、僕はあんなふざけたヤツに負けたのか……、という屈辱がですね?

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

・INTERVIE ♯03

 

 “THE MAN WHO LIVED FOR BATTLE” 【すいとんパンマン】氏

 

 元ベカリ空軍、第22航空師団、第4戦闘飛行隊“シュネー隊”隊長。

 こねた小麦粉を茹でた物を、更に小麦粉で包むという、よく分からんパンの男。

 連合軍のB7R攻略作戦時、援軍としてこの空域に駆けつけ、ガルム隊と交戦。

 

 出世には興味を示さず、ただの戦闘機乗りとしての生き方を、貫いた人物。

 現在は、民間機のインストラクターとして飛んでいる。

 

 

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 

 

 すいとんのレシピか? まずは薄力粉と片栗粉を……って違うか。

 分かってるよ、“彼”の事だろう? 私が生涯で出会った中で、最高のパイロットだ。

 

 ちなみに、私の生涯で最高の料理は、もちろんすいとんだ。

 まずは薄力粉と片栗粉を……って何? 別に良い? 戦後かって?

 それは残念だよ記者くん。腹持ちも良いっていうのに……。まぁまた別の機会にしようか。

 

 

 “彼”の印象は、そうだなぁ……()()()()()()

 氷のように冷たく、炎のように苛烈。そして死神のように容赦なく、気が付けば背後にいる、という感じか。

 

 思えば、あの時の私は、ずっと目を見開いていたような気がするよ。

 ()()()()。交戦中は、ずっと驚きっぱなしだった。

 瞬く間に部下が墜とされて行った。手練れであり、我が軍の最精鋭であったハズの部隊が、有り得ないスピードでやられていった。

 機械のような正確さ、信じられないほどの効率。まるで打合せの上で動いてるみたいに、綺麗にこちらを撃墜していくんだ。

 映画じゃあるまいし、やられる為の脚本など、私たちが飲むワケ無いけどね。

 

 思えば……あれは()()だったのかもしれない。

 氷の刃のように鋭くて冷たい、彼の怒りが表れていたのかも。

 

 実を言うと、彼と交戦する直前に、私たちは彼の僚機を嬲るようなマネを、してしまったんだよ。

 リトルスクールの子供が、ひとりを大勢で取り囲んで、遠くから石を投げつけてイジメるような……そんな醜い行為をしてしまった。

 いくら私たちの戦術が、遠距離ミサイルでのアウトレンジ攻撃による物だったとしても、勝つための行いだったとしても……。明らかに部下たちの声には、愉悦の色が滲んでいたよ。

 安全な場所から、一方的に弱者を攻撃する快感を、彼らは感じていた事だろう。

 

 きっと、その行為に対する報復なのだろうね。あの時の“彼”の戦い方は。

 普通ならば、戦いにおいてはクール・アズ・キユーク(  冷静沈着  )が鉄則だ。怒りは思考を鈍らせ、時として仲間の命をも危険に晒すからね。

 しかし……彼は例外だった。怒りをそのまま力に変えていた。

 怒りの感情と暴力的な思考が、矛盾なく自己の中で融合し、凄まじいまでの合理性を産み出した。

 

 もう一秒でも早く、こちらの命を奪おうと、私たちが生きている事が許せないと……、そう言っているかのような姿だったよ。

 恐怖を感じた。私はハッキリと恐れたんだ。

 数十秒後の、自分が撃墜されているシーンが、アリアリと脳裏に浮かんでいた。

 

 そして、その予言は見事的中。

 自身が思い描いた光景をトレースするみたいに、私は地上へと墜ちて行ったんだ。

 

 決して抗えない死の運命と……、いや()()()()()()()()()()()()()

 まぁ彼は死神などではなく、“鬼神”と称されたようだがね。

 

 

 歯が立たなかったよ。力を振るう前に、一方的にやられた。

 まるで巨大な岩が落ちて来たような、有無を言わさない圧倒的な力で、圧し潰されたんだ。

 彼のミサイルに被弾した瞬間、私は咄嗟にベイルアウトのレバーを引き、なんとか機体から脱出した。

 炎に包まれ、バラバラに粉砕した自機と共に降りた先は、“円卓”の足元だ。

 そこは途方もなく広くて、見渡す限り何も無い、荒野だったよ。

 

 茫然としたね。先ほどの戦いで受けたショックと、この地に落ちたという現実、その両方に。

 ここは電波干渉が厳しく、無線も救難信号も、ろくに届かないような場所なんだ。

 もうね? 絵に描いたような“絶望”だよ。こんな所じゃ火も起こせないし、すいとんだって作れない。いくら腹持ちが良いと言っても、食べられないんじゃあね……。

 ただただ私は、ポカーンと呆けるばかりさ。

 

 それと同時に、「ああもう終わりだな」と感じた。

 生きて帰れるのかは別として……、長かったパイロット人生も、ここらが潮時だとね。

 

 

 だが、その時……、頭上で轟音が響いた。

 あいつの機体がいたんだ。

 

 綺麗だった――――太陽の光に照らされ、悠々と飛ぶ姿が、神々しく見えた。

 あいつは天に、私は地に。それはまさに勝者と敗者を表していて、どこか彼が手の届かない、特別な存在のように思えた。

 彼こそが、空に選ばれたパイロット……、真の戦闘機乗りなのだと。

 

 でもね……? 私はその姿に、()()()()()()()()

 堪らないほどの悔しさが、得も知れぬ力を生んで、私は捜索隊を待つこともせず、その場を駆け出したんだ。

 

 なんとかして、基地に帰ろうとした。

 とにかく、早くこの場に戻って、もう一度あいつと戦いたかったんだ。

 

 まぁ結局、丸三日もかかってしまったがね?

 衰弱し、ヘロヘロになって基地に戻った私は、とりあえずすいとん食べてから、ぐーすか眠ったよ。腹持ちも良かった。

 

 

 そんなこんなで、生還を果たしたワケだが、もう私が飛ぶ機会は無かった。

 ……戦争は終わりつつあった。既に大勢は決していたから。

 彼とまた戦うことは、ついに叶わなかったな。

 

 お前は特別じゃない、そんなの認めない、お前だけではない――――

 もしかしたら私は、そうあいつに言いたかったのかも、しれない。

 お前は孤高の存在では……いや()()()()()()()()()、そう知らしめたかったんだ。

 私がいる、お前と肩を並べてやる――――そんなトップエースとしての、意地だったのだろう。

 

 まぁ……いま思えば、最初からあいつの隣の席は、埋まっていたような気がするけどね。

 “彼”には、あの片羽がいる……だから孤独などでは無い。

 この広い空で、一人っきりになる事はないんだ――――

 

 ああ、まったくもって、余計なおせっかいだったよ。

 こりゃあ、馬に蹴られて死んでしまう所だったかな?

 

 

 というかもう……()()()()()()()()()

 あいつが一機撃とす度に、片羽の「ひゃっはー!」とか「いいぞー!」みたいな歓声が、こちらの無線にも届いたんだ。

 嬉しそうに応援していた。満面の笑みで歓声を上げてる姿が、容易に想像出来たよ。

 

 あのね……? ()()()()()()()

 今どきの女の子でも、あんなはしゃぎ方はしないよ。

 聞いててちょっと恥ずかしくなった位だ。コイツどんだけ“彼”が好きなんだよ、って。

 

 二人そろって、なんか()()()()()()()()()()()

 どんだけ仲良しなんだお前ら。ペアルックかと。

 

 もしかしたら、あの恥ずかし気も無い()()()()()()()()、私たちが成す術無くやられた原因だったのかもしれない……。

 もうね、圧倒されてしまったから。空戦中なのを忘れてしまうほどに。

 

 あの日の円卓は、二人のダンス会場と化していた……ように思う。

 観客たちは皆、赤面しながら退場(ついらく)していったのさ。「ご馳走様」ってね。

 

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「どうだぁ~? 凄いだろ~う?

 アンパンマンっていうのは、凄いヤツなんだ~っ!」

 

 片羽が「ガッハッハ!」と機嫌良さげに笑う。

 あの時のすいとんパンマン氏ではないが、流石に私も、そろそろお腹いっぱいという心地だ。

 

「流石は俺さまのライバルだな! 誰もアイツには敵わなーい!

 もう並みいるエース達を、ちぎっては投げ! ちぎっては投げ!

 あーーっはっはっは! はーひふーへほぉ~う♪」

 

 何故だろう? いま私の胸に「来なきゃよかった」という想いが湧いているのは。

 まさか傭兵の取材に訪れて、惚気話を聞かされるとは、夢にも思わなかった。

 事実は小説よりも奇也。人生とは驚きの連続だ。ちょっとゲンナリしている私である。もう帰ろうかな~とか思う。

 

「任務をこなし、場数を踏むたびに、アイツの強さが際立っていったよ。

 瞬時に状況を見極め、瞬く間に戦況を変える――――空の申し子だ」

 

「強い。ひたすらに強い。

 鬼神なんて呼んじゃうのも、……まぁ分からん事もない。

 ムカッとはくるけど……」

 

「ま、そんなのと並んで飛ぶこっちは、大変だな。

 俺さまだから、何とかなってたようなモンだぞ?

 さぁ褒めろ、ジャーナリストの坊主。遠慮はいらないぞ~う?」

 

 我慢だ、我慢のしどころだ。

 私は必死に、自分に言い聞かせる。せっかく掴んだ取材のチャンスなのだから。堪えなくてはならない。

 実際に、当時の彼は、周辺各国で知らぬ者が居ない程に、有名な傭兵であったらしい。

 その実力はおりがみつきだし、だからこそあの“彼”と並んで飛ぶことが出来たのだから。

 これは決して自信過剰ではなく、純然たる事実であるのだから。とりあえず懸命に愛想笑いを浮かべて、パチパチ拍手を送ってみた。

 それが功を奏し、彼もまた機嫌良さそうに笑う。……言っては悪いが、ちょろい男だと思う。

 

「最初は、俺さま達二人。

 だが気が付けば、いろんなヤツがあいつを見てた。

 まさに、ヒーローを見るような目で……」

 

「出撃のたび、日を追うごとに、見送りの人数が増えてたなぁ~。

 傭兵連中だけじゃないぞ? 整備兵もだ。

 子供達からのファンレターも、たくさん届いてた。

 いつも守ってくれて、ありがとーってな」

 

 ふいに、片羽が目を閉じて、ふーっと息を吐く。

 さっきまでとは違う、静かな顔。しみじみと何かを思いながら、それを自嘲しているかのような。

 

 

「みんな、あいつの姿を、目に焼き付けようとしてた。

 キラキラした目で、憧れを抱いた。

 こいつの行く先を、見届けたいと」

 

「一緒だった。

 本当は、もう少しだけ見ていたかったよ……俺さまも」

 

 

 

 

 

 

(つづくぞ!)

 

 

 

 

*1
敵味方識別装置




◆スペシャルサンクス◆(オリジナルヒーロー協力)


・砂原石像さま♪ (カロリー1000㌔オーバー菓子パンマン)
・ケツアゴさま♪ (きなこ揚げパンマン)


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