【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】 作:hasegawa&friends
短いですが、ちょっとした番外編です。
ついに“円卓は”陥落した。
ベカリ公国の力の象徴であり、全ての
まさに一大決戦といえるこの空戦は、連合側の勝利に終わった。
実質的な
もはやベカリには、脅威と言える物は存在しない。
この戦争の勝敗は、完全に決したのだ。
この時期を境に、南ベカリでは厭戦ムードが漂い出している。
ベカリ発祥の地であり、彼らにとっては聖地といえる北部……。その防衛線に使われ、数多の戦闘が行われた為なのか。
住民たちが抱える不満は、すでに限界まで達していたのだろう。
南ベカリの各都市は、次々に非武装宣言を行い、なんの抵抗も無いままで、連合軍へと明け渡されていった。無血開城である。
ベカリ軍の方はと言えば、もう防衛拠点の構築すらも、ままならない状況。
ただただ連合軍に追いやられるまま、北への撤退を繰り返すばかり。
ベカリ戦争終結の足音は、刻々と近付いていた。
そして、B7Rの空戦のみならず、この戦いにおいて大きな役割を果たした“鬼神”の存在。
その凄まじいまでの活躍、彼という傭兵が紡ぐ物語に、私の胸は躍った。
時に仕事を忘れ、TVのヒーローに憧れる少年のような心で、資料を読み耽ったほどだ。
もっと知りたい、もっと見たいという気持ちが、私の指にページをめくらせた。
この興奮を押えられなかったからこそ、私は絶え間なく銃声の響く、このような危険な土地にまで、今日も足を運んだのである。
ここは内戦の続く、デラオイシ国境付近の町――――
いま目の前にいる“片羽”の男も、未だその手にAKを握ったまま、私のカメラに向かって話をしてくれている。
懐かしむように、大切な思い出に浸るように、悲喜こもごもの豊かな表情をして。
ちなみにだが、私はこの人物と会う前にも、幾人かの者達にコンタクトを取り、インタビューを敢行してきた。
彼らは皆、当時最強を誇っていた、元ベカリ空軍のエース達である。
私は“鬼神”の足跡を追い、導かれるように国境を越え、様々な土地へ赴いていた。
そして、これまで多くの貴重な証言を、ビデオカメラに収めた。
連合軍やコムギィコにとっては、敵側であった兵士達。
そんな彼らから見た、戦争という物、“鬼神”という存在――――
当事者たちの声を、ここに記そうと思う。
◆ ◆ ◆
・INTERVIE ♯01
“THE STRATEGIST” 【カロリー1000㌔オーバー菓子パンマン】氏
元ベカリ空軍、第10航空師団、第8戦闘飛行隊「グリューン隊」隊長。
ブt……いやフクロウの目を持つ男。
各地の戦場で、臨機応変な戦略で功績を上げ、エースにまで成り上がった人物。
……………………
…………
……
ハンバーグステーキうめぇwww バターをラードで揚げたヤツ超うめぇwww
きっと今日の摂取カロリー、1万越えしてるw 成人男性4日分www
いや~、連れて来てくれて、ありがとう記者さん! 安いファミレスとはいえ、こんな腹いっぱい食えるのは、ほんと久しぶりなんだ!
ほら見ろよ、俺の膨らんだ腹を。サンタクロースの袋くれぇ、夢が詰まってるだろ?
でもまぁ、俺たぶん早死にするだろうけどなw 高血圧だの糖尿だのでw
おはw もう飛行機なんて乗れないw
エースだった頃のスリムな体形、マジでカムバックwww
さって、そんじゃあまたサラダバーにでも……って何? あの“鬼神”の話ぃ?
ちょっと待てよ、まだあのコーナーには、青々とサラダの森が生い茂ってるじゃねぇか。俺が取りに行くのを待ってやがる。
それに今日は、あのスープバーを空にする、ひとりで全部飲み尽くすまで絶対帰らねぇぞって、心に決めて来たんだ。
つー事で、あと3時間ほど、のんびり待ってちゃーくれないか?
そうか……駄目なのか。こりゃ先に話しちまった方が良いな。
ここのお代はアンタ持ちなんだし。機嫌を損ねて食いっぱぐれたら拙い。
んじゃま、あの日の事なんだが……、実は円卓に向かう前から、
未確認機がB7Rに侵入。その迎撃の為、俺たちグリューンが援護に向かったワケなんだが……、なんでも相手は、たった2機だっていうじゃねーか。
いったい何を手こずってるんだか、ってな。
まぁ、俺たち4機が着く頃には、もう終わってんだろう、と思った。
こっちには相手の動きが丸見えで、事前に待ち構えてた、っていう状況なんだ。
ソイツらが多少の腕利きだったとしても、泡吹くのは最初だけだろ? なんてったって、ベカリ空軍ってのは、戦闘のプロ集団なんだ。
頭数だって、相手の何倍も揃えてたんだから。戦力比なんて考えるのも馬鹿らしい位に。
状況を確認して帰るだけ、そう高を括ってたのさ。
でも……冗談かと思ったぜ。
いざ空域に到着してみたら、敵反応が2つとも残ってやがるじゃねーか。
IFF*1がイカレちまったのかと、真面目に疑ったよ。
確認してみたら、部隊の連中も、同じ反応を示してやがる。
そこでようやく、「あぁ……こりゃ現実だ」ってな。思い知ったよ。
内心はともかくとして、俺は飄々と指示を出した。
では楽しませて貰うとするか、
どうだ、中々キマってるだろ? 昔はマジでイケメンだったんだよ。いまはブタみてぇに太ってるが。
俺は隊長だし、動揺を表には出せない。
それに、いつもこんな感じでやるのが、俺たち“荒くれ部隊”の流儀だったから。
こっちは天下のベカリ空軍。相手は傭兵野郎で、たった二機。
しかもヤツらときたら、俺たち4機を見ても、構わず突っ込んで来やがったんだよ。
なんか嫌な感じがしてても、ここでイモ引くわけにはいかない。そんなのは戦闘機乗りじゃねぇ。ドッグファイト上等よ。
俺は目を凝らし、まず状況を確認した。
ここの地形、気流、相手の状態、機動、残弾数……。
いけると踏んだ。
こちらの目に狂いは無かった。それは今でも、確信を持って言える。
あの状況であれば、誰だってそう判断するさ。
だが……その予想を超えて、ヤツは飛んだって話だ。
モゴモゴモゴ! ごっくん!
……いや失礼。冷めちまうと勿体ないんでな。話に戻るか。
こんな事を言うのは何なんだが……、正直な話、少し荒さは感じたんだ。
いや、“型にハマってない”と言うべきか? 自由な飛び方をするヤツだった。
ウチの連中も、「面白いパイロットだ」って、喜んでたのを憶えてる。
まぁ4機中2機を墜とされた時点で、そんなピクニック気分は、見事に消し飛んだがな……。
いくら追い回そうが、数で取り囲もうが、ヤツは躱してみせた。
チャフに驚いたのか、一度ケツを取れそうになった事もあったんだが……、結局はそのチャンスも、あの“片羽”に潰された。
アイツの機嫌良さげな高笑いが、こっちの無線にも届いてて、正直ムカッと来たよ。
イチャついてんじゃねーよお前ら、ここどこだと思ってんだ? B7Rだぞ? ってな。
思えば……あの片羽を最初にやらなかった時点で、俺たちの負けは決まってたのかもな。
聞く所によると、その後アイツは、もう手が付けられない存在になった、らしいじゃないか? あの空戦が最後のチャンス……だったのかもしれないぜ?
“円卓の鬼神”の誕生は、半分俺らグリューンのせい、もう半分は片羽だなぁ。
チキショウめ。もう二、三枚ステーキを頼んでいいか? ライス大盛りで頼むぞ。
戦場では、たまにああいうのが現れる――――いわゆる“特異体”ってヤツだ。
つーか……なんか
見た目からしてもう、普通とは違うよ。ちょっと丸っこかったし。
なぁ、いったいどこ製なんだアレ?
こころなしか、Raptorに似てる感じはしたが……。
◆ ◆ ◆
・INTERVIE ♯2
“THE FALLEN” 【きなこ揚げパンマン】氏
元ベカリ空軍、第5航空師団、第23戦闘飛行隊“ゲルプ隊”2番機パイロット。
元兵士とは思えぬような童顔で、どことなく愛嬌のある人物。
首都ディレクタス開放時、この空域に駆けつけ、ガルム隊と交戦。
そして、今もそこにいる。
……………………
…………
……
僕の書斎へようこそ。
どうです、時計塔がよく見えるでしょう? この窓からの景色を眺め、のんびり紅茶を飲むのが、僕の趣味みたいな物です。
今日は来て頂き、ありがとう。
このディレクタスに住んでるのもあるけれど、昔の事を語れるような友人も、あまり居ないもので。
……まぁ僕ら元ベカリ兵は“戦犯”ですしね。おおっぴらに武勇伝を語るワケには、とてもいきません。
自分のことを話すのはもちろんですが、貴方から話が聞けるのも、楽しみにしていた。
今は僕も、家族を持つ身です。妻と子供がいて、責任という物が出来た。もう兵士じゃない。
けれど、たまにはこうして過去を懐かしむのも、悪くないです。
とりあえず、きなこと紅茶を用意しましたけれど、記者さんのお好みに合いますか?
僕はこれを少しずつ舐めながら、紅茶を飲むのが好きなんですけど……、でも同じ趣向の人を、一人たりとも見た事がありません。どうやら僕だけみたいです。
妻も子供も、みんな僕のこと「キチ〇イだ」と罵ります。
何にでもきなこをかけないで! というのが、我が家で起こる夫婦喧嘩の、一番多い理由となっています。
改心の出来だったという、妻のビーフシチュー。それにきなこを一袋、おもむろにブチ込んでやったら、妻は実家に帰ってしまいました……。
仲直りをするのに、1週間もかかったんですよ?
あの時はいろいろ大変でした。家庭崩壊の危機です。子供もいるっていうのに……。
さて! もう10年になりますか、あの戦争から。
“彼”と会ったのは、このディレクタスの空の上。
あの日、もう嫌というほど聞かされたミサイルアラートが、まだ耳に残っています。
その日は、南部での迎撃任務があって、その帰投中でね?
ようやく終わったかと思えば、突然ディレクタスへ飛べと、指令を受けたんですよ。
まぁあの頃の戦況じゃ、とくに珍しい事ではありません。
どの部隊も、まったく手が足りていなかった。
補給も整備もままならない状態で、みんな出撃を繰り返していましたから。
疲労はありました。もうどれだけきなこを舐めようとも、回復しない日もあった。
ちなみに、僕は愛機のコックピットに、きなこを常備していました。いつでも舐められるように。
Gできなこ飛び散るからやめろ! と隊長に怒られましたが、こればっかりは如何ともし難いです。
僕きなこ揚げパンマンですし。みんなが水を飲むのと、同じ事じゃないですか。
そりゃー持ち込むってものです。常に舐めたり、顔にまぶしたりしないと。
いつも僕の
たまにドッグファイト中に、きなこが目に入り、空戦もままならない時がありました。
もしかしたら……きなこを持ち込んでさえいなければ、あの“彼”に撃墜される事も無かったのやもしれません。一緒に飛んでた隊長が死ぬ事もなかったかも……?
でもきなこが無ければ、僕は元気が出ないんだし。
とても難しい問題ですねぇコレは。
とにかく、僕らゲルプ隊の二機は、すぐディレクタスへ飛んだ。
けれど、時既に遅し。
友軍の駐留部隊はもう撤退済みで、街には鐘の音が鳴り響いていた。何度も何度も。
まるで、この街が歓喜の声を上げているかのような、そんな印象を受けました。
とても多くの、街中の人々が、表に出ていました。
そして民衆の見上げる先には、“彼”の機影があった。
皆、声を張り上げ、腕を天に突き上げていました。大きく円を描きながら、ディレクタスの空を優雅に飛ぶ、彼の姿を見つめて。
その様には、歴史書に出てくる偉大な指導者や、神様を前にしてするような、崇拝にも似た感謝の心が、見て取れました。
この街の誰もが、人生で最高の瞬間を迎えたかのように、とても良い顔をしていた。
いわば僕は、そこに水を差しに来た、お邪魔虫というワケですね。
ベカリ公国のため、任務のためとはいえ、心苦しさは無かったかと言われれば、否定は出来ません。
でも僕は、兵士です。やるしか無いですから。
もう手遅れか? まだ間に合うのか? ……そんな疑念を打ち消すように、機体を飛ばしました。
“彼”の印象ですか? そうですね……、ただひたすらに強かった、としか。
ひとつ言えるのは、明らかに格上の相手だった、という事です。
機体や技量はもちろんなのですが、何より“存在”としての格の違いというか……、そういう物を感じました。
いや、思い知らされた、と言うべきでしょうか?
見透かされているような気がした……。
いくら知恵を絞ろうとも、技巧を凝らそうとも、常に“彼”は一手先を潰しに来るんです。
交戦中、僕は何度も「次に何をしたら良いのか分からない」という状態に陥りました。
戦闘機動は、悉く見破られ、僕は手を打ち尽くしたんです。
あと、これは“彼”だけの事では無いのですが……。
ガルム隊は、コンビネーションがとても上手かったのを、憶えています。
僕らゲルプ隊は“
隊長と共にある時、僕はどんな任務でも、どんなパイロットが相手だろうと、怖くはありませんでした。
けれど、
僕らが磨き上げた連携術よりも、ガルム隊の方が上手だった。これが何よりもショックでした。
きっと二人の間には、僕には想像もつかない程の、強い信頼があるのではないでしょうか?
そうでなくては、あのコンビネーションは説明がつかない……。
僕らゲルプ隊が目指した、一個の生物としての連携術。その理想が、目の前にありました。
たまに混線で、彼らの対話が無線に届いていたのですが、恐らくあの隊の頭脳は、“片羽”の方なのだと思います。
片羽が合図を出し、声をかけ、鼓舞する。チャンスメイクをする。
それに“彼”は、見事に応えて見せた。決して裏切る事をしなかった。
確かに“彼”は、類を見ない程に卓越したパイロットですが……、そこには常に“片羽”の力があったんです。
彼があそこまで自由に飛べるのは、
片羽の戦闘機動は、ぜんぶ彼を活かす為の物。その為の立ち回り方。
同じ二機で飛ぶ者として、僕にはそれ分かる。
“彼”は、いったいどれほどの強い信頼を、あの僚機から受けていたのでしょう?
親兄弟でも、双子でも、とてもああはいかない。……ただただ脱帽する他ありません。
あ、そうだ! でもそこまでの連携術を持ちながら、“彼”は単独で僕の相手をしてくれたんですよ!
彼らの力の前に、隊長が墜とされ、僕が一機だけになってしまった時……、まるで示し合わせたかのように、“片羽”がその場を離れて行きました。
その場には、僕と“彼”だけになった。……いや、あえてそうしてくれたんです。
一対一になりました。それは当然、僕側に有利に働きます。
絶望的かに思われた状況に、僅かな光が差し込んだ。
二機同時にかかられ、成す術無く墜とされるのではなく、存分に力を奮える状況になりました。
なぜ彼らは、あえて有利を捨てたのか? それは今も分かりません。
相棒を失った事で、怒り狂うように操縦する僕の姿に、何か思う所があったのかも。
でもその時僕は、彼らに対する敬意と共に、この上ない感謝の気持ちが湧きました。
それが余裕から来る行為で、僕が舐められているから、という可能性もあるのですが……、でも何故でしょう? とてもそんな風には思えなかった。
彼が操る機体から、「来い」という声が聞こえてくるかのような……、そんな雰囲気を確かに感じたんです。
屈辱は無い。
僕は“滾る”想いでしたよ。
操縦席で一人、彼に「ありがとう」と呟きました。
そして、決して無様な飛び方は、彼には見せられない。だから全力でいきました。
まぁさっきも言った通り、僕の戦闘機動は全て見破られ、最終的には成す術無く、墜とされましたけどね。ここディレクタスの地に。
でもどこか、僕には清々しさがありました。
手心を加えられた上で、完膚なきまでに負けたっていうのに、おかしな話ですよね?
しかし……あの凄まじいパイロットに、全部受け止めて貰った上で、負けたんです。もうぐうの音も出ませんよ。
ただただ「凄かったなぁ」っていう憧れだけが、僕の胸にあります。
あの空戦は、僕の大切な思い出であり――――また誇りでもあるんです。
あれがあったからこそ、今も胸を張って生きていける。自分が戦闘機乗りであった事に、誇りを持てる。
まぁ僕は敗軍の兵ですし、反省をすべき立場の戦犯ですから、これを誰かに自慢したりは出来ませんけど。
でも今日だけは、許して頂きたく思います。僕は凄いパイロットと出会ったのだと。
それが、僕の“彼”に対する印象でしょうか。
僕らは敵同士でしたから、人柄なんて知りませんし、純然たる戦いの感想でしかありませんけどね。
一体どんな人物なんでしょう?
僕に分かるのは、彼がとても
後は……そうですねぇ。彼の戦闘機の趣味は、
あんな変な飛行機は、見た事ありません。何であんなファニーな戦闘機に乗ってたんでしょう?
どことなく丸みをおびてて、なんか顔が書いてありましたもん。
一つだけ文句を言えるとしたら……、アレだけは正直、やめて欲しかったです。
あんなのを前にしたら、誰だって闘志が抜けちゃうというか。笑ってしまうというか。
貴方は、そんな変な飛行機に撃墜される者の気持ちを、考えた事ありますか? と問いたい。
これは、私があの戦いを人には言いづらい、理由のひとつでもあります。
たとえどんなに凄くても、僕はあんなふざけたヤツに負けたのか……、という屈辱がですね?
◆ ◆ ◆
・INTERVIE ♯03
“THE MAN WHO LIVED FOR BATTLE” 【すいとんパンマン】氏
元ベカリ空軍、第22航空師団、第4戦闘飛行隊“シュネー隊”隊長。
こねた小麦粉を茹でた物を、更に小麦粉で包むという、よく分からんパンの男。
連合軍のB7R攻略作戦時、援軍としてこの空域に駆けつけ、ガルム隊と交戦。
出世には興味を示さず、ただの戦闘機乗りとしての生き方を、貫いた人物。
現在は、民間機のインストラクターとして飛んでいる。
……………………
…………
……
すいとんのレシピか? まずは薄力粉と片栗粉を……って違うか。
分かってるよ、“彼”の事だろう? 私が生涯で出会った中で、最高のパイロットだ。
ちなみに、私の生涯で最高の料理は、もちろんすいとんだ。
まずは薄力粉と片栗粉を……って何? 別に良い? 戦後かって?
それは残念だよ記者くん。腹持ちも良いっていうのに……。まぁまた別の機会にしようか。
“彼”の印象は、そうだなぁ……
氷のように冷たく、炎のように苛烈。そして死神のように容赦なく、気が付けば背後にいる、という感じか。
思えば、あの時の私は、ずっと目を見開いていたような気がするよ。
瞬く間に部下が墜とされて行った。手練れであり、我が軍の最精鋭であったハズの部隊が、有り得ないスピードでやられていった。
機械のような正確さ、信じられないほどの効率。まるで打合せの上で動いてるみたいに、綺麗にこちらを撃墜していくんだ。
映画じゃあるまいし、やられる為の脚本など、私たちが飲むワケ無いけどね。
思えば……あれは
氷の刃のように鋭くて冷たい、彼の怒りが表れていたのかも。
実を言うと、彼と交戦する直前に、私たちは彼の僚機を嬲るようなマネを、してしまったんだよ。
リトルスクールの子供が、ひとりを大勢で取り囲んで、遠くから石を投げつけてイジメるような……そんな醜い行為をしてしまった。
いくら私たちの戦術が、遠距離ミサイルでのアウトレンジ攻撃による物だったとしても、勝つための行いだったとしても……。明らかに部下たちの声には、愉悦の色が滲んでいたよ。
安全な場所から、一方的に弱者を攻撃する快感を、彼らは感じていた事だろう。
きっと、その行為に対する報復なのだろうね。あの時の“彼”の戦い方は。
普通ならば、戦いにおいては
しかし……彼は例外だった。怒りをそのまま力に変えていた。
怒りの感情と暴力的な思考が、矛盾なく自己の中で融合し、凄まじいまでの合理性を産み出した。
もう一秒でも早く、こちらの命を奪おうと、私たちが生きている事が許せないと……、そう言っているかのような姿だったよ。
恐怖を感じた。私はハッキリと恐れたんだ。
数十秒後の、自分が撃墜されているシーンが、アリアリと脳裏に浮かんでいた。
そして、その予言は見事的中。
自身が思い描いた光景をトレースするみたいに、私は地上へと墜ちて行ったんだ。
決して抗えない死の運命と……、いや
まぁ彼は死神などではなく、“鬼神”と称されたようだがね。
歯が立たなかったよ。力を振るう前に、一方的にやられた。
まるで巨大な岩が落ちて来たような、有無を言わさない圧倒的な力で、圧し潰されたんだ。
彼のミサイルに被弾した瞬間、私は咄嗟にベイルアウトのレバーを引き、なんとか機体から脱出した。
炎に包まれ、バラバラに粉砕した自機と共に降りた先は、“円卓”の足元だ。
そこは途方もなく広くて、見渡す限り何も無い、荒野だったよ。
茫然としたね。先ほどの戦いで受けたショックと、この地に落ちたという現実、その両方に。
ここは電波干渉が厳しく、無線も救難信号も、ろくに届かないような場所なんだ。
もうね? 絵に描いたような“絶望”だよ。こんな所じゃ火も起こせないし、すいとんだって作れない。いくら腹持ちが良いと言っても、食べられないんじゃあね……。
ただただ私は、ポカーンと呆けるばかりさ。
それと同時に、「ああもう終わりだな」と感じた。
生きて帰れるのかは別として……、長かったパイロット人生も、ここらが潮時だとね。
だが、その時……、頭上で轟音が響いた。
あいつの機体がいたんだ。
綺麗だった――――太陽の光に照らされ、悠々と飛ぶ姿が、神々しく見えた。
あいつは天に、私は地に。それはまさに勝者と敗者を表していて、どこか彼が手の届かない、特別な存在のように思えた。
彼こそが、空に選ばれたパイロット……、真の戦闘機乗りなのだと。
でもね……? 私はその姿に、
堪らないほどの悔しさが、得も知れぬ力を生んで、私は捜索隊を待つこともせず、その場を駆け出したんだ。
なんとかして、基地に帰ろうとした。
とにかく、早くこの場に戻って、もう一度あいつと戦いたかったんだ。
まぁ結局、丸三日もかかってしまったがね?
衰弱し、ヘロヘロになって基地に戻った私は、とりあえずすいとん食べてから、ぐーすか眠ったよ。腹持ちも良かった。
そんなこんなで、生還を果たしたワケだが、もう私が飛ぶ機会は無かった。
……戦争は終わりつつあった。既に大勢は決していたから。
彼とまた戦うことは、ついに叶わなかったな。
お前は特別じゃない、そんなの認めない、お前だけではない――――
もしかしたら私は、そうあいつに言いたかったのかも、しれない。
お前は孤高の存在では……いや
私がいる、お前と肩を並べてやる――――そんなトップエースとしての、意地だったのだろう。
まぁ……いま思えば、最初からあいつの隣の席は、埋まっていたような気がするけどね。
“彼”には、あの片羽がいる……だから孤独などでは無い。
この広い空で、一人っきりになる事はないんだ――――
ああ、まったくもって、余計なおせっかいだったよ。
こりゃあ、馬に蹴られて死んでしまう所だったかな?
というかもう……
あいつが一機撃とす度に、片羽の「ひゃっはー!」とか「いいぞー!」みたいな歓声が、こちらの無線にも届いたんだ。
嬉しそうに応援していた。満面の笑みで歓声を上げてる姿が、容易に想像出来たよ。
あのね……?
今どきの女の子でも、あんなはしゃぎ方はしないよ。
聞いててちょっと恥ずかしくなった位だ。コイツどんだけ“彼”が好きなんだよ、って。
二人そろって、なんか
どんだけ仲良しなんだお前ら。ペアルックかと。
もしかしたら、あの恥ずかし気も無い
もうね、圧倒されてしまったから。空戦中なのを忘れてしまうほどに。
あの日の円卓は、二人のダンス会場と化していた……ように思う。
観客たちは皆、赤面しながら
……
…………
……………………
◇ ◇ ◇
「どうだぁ~? 凄いだろ~う?
アンパンマンっていうのは、凄いヤツなんだ~っ!」
片羽が「ガッハッハ!」と機嫌良さげに笑う。
あの時のすいとんパンマン氏ではないが、流石に私も、そろそろお腹いっぱいという心地だ。
「流石は俺さまのライバルだな! 誰もアイツには敵わなーい!
もう並みいるエース達を、ちぎっては投げ! ちぎっては投げ!
あーーっはっはっは! はーひふーへほぉ~う♪」
何故だろう? いま私の胸に「来なきゃよかった」という想いが湧いているのは。
まさか傭兵の取材に訪れて、惚気話を聞かされるとは、夢にも思わなかった。
事実は小説よりも奇也。人生とは驚きの連続だ。ちょっとゲンナリしている私である。もう帰ろうかな~とか思う。
「任務をこなし、場数を踏むたびに、アイツの強さが際立っていったよ。
瞬時に状況を見極め、瞬く間に戦況を変える――――空の申し子だ」
「強い。ひたすらに強い。
鬼神なんて呼んじゃうのも、……まぁ分からん事もない。
ムカッとはくるけど……」
「ま、そんなのと並んで飛ぶこっちは、大変だな。
俺さまだから、何とかなってたようなモンだぞ?
さぁ褒めろ、ジャーナリストの坊主。遠慮はいらないぞ~う?」
我慢だ、我慢のしどころだ。
私は必死に、自分に言い聞かせる。せっかく掴んだ取材のチャンスなのだから。堪えなくてはならない。
実際に、当時の彼は、周辺各国で知らぬ者が居ない程に、有名な傭兵であったらしい。
その実力はおりがみつきだし、だからこそあの“彼”と並んで飛ぶことが出来たのだから。
これは決して自信過剰ではなく、純然たる事実であるのだから。とりあえず懸命に愛想笑いを浮かべて、パチパチ拍手を送ってみた。
それが功を奏し、彼もまた機嫌良さそうに笑う。……言っては悪いが、ちょろい男だと思う。
「最初は、俺さま達二人。
だが気が付けば、いろんなヤツがあいつを見てた。
まさに、ヒーローを見るような目で……」
「出撃のたび、日を追うごとに、見送りの人数が増えてたなぁ~。
傭兵連中だけじゃないぞ? 整備兵もだ。
子供達からのファンレターも、たくさん届いてた。
いつも守ってくれて、ありがとーってな」
ふいに、片羽が目を閉じて、ふーっと息を吐く。
さっきまでとは違う、静かな顔。しみじみと何かを思いながら、それを自嘲しているかのような。
「みんな、あいつの姿を、目に焼き付けようとしてた。
キラキラした目で、憧れを抱いた。
こいつの行く先を、見届けたいと」
「一緒だった。
本当は、もう少しだけ見ていたかったよ……俺さまも」
(つづくぞ!)
◆スペシャルサンクス◆(オリジナルヒーロー協力)
・砂原石像さま♪ (カロリー1000㌔オーバー菓子パンマン)
・ケツアゴさま♪ (きなこ揚げパンマン)