【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】 作:hasegawa&friends
近頃、コムギィコ共和国では、“ある噂”が立っている。
正確には、ヴァレー基地周辺の地域、であるのだけれど……。
「うえーん! 痛いよう、痛いよう! いっぱい擦りむいちゃったよぉ!」
その日、アルパカ
虫籠と網を持ち、お気に入りのベースボールキャップを被って、朝早くからカブト虫を捕まえようと、ひとりで頑張っていた。
おっきなのを捕まえて、友達に自慢しよう。虫相撲のチャンピオンになるんだ。
そんな希望に胸を膨らませながら、前日にハチミツを仕掛けておいたクヌギの木がある場所で、たくさんの甲虫を捕まえていた。
けれど、ふいに飛んで来た一匹の虫が、アルパカ彦くんの顔にぶつかった事で、思わず木から手を離してしまった。その途端、地面にドスンと落ちたのだ。
あまり高さが無かったから、それは良かったけれど、地面は平らではなく傾斜があり、しかも石や木の枝なんかが沢山あった。
地面にぶつけたお尻は痛いし、ゴロゴロと斜面を転がったので、身体中に擦り傷を作ってしまう。
しかも、最近買って貰ったばかりのお気に入りだったシャツが、ドロンコになってしまい、すごく悲しい気持ちになった。
「ついてないよう! なんでこんな目に合うんだよう! この森クソッタレだよう!
なんてファッキンで、ファッキンで、ファッキンな人生だよう!
今すぐ死にたいよう!」
アルパカ彦くんは、ひとりっきりの森の中、大声で泣く。
えーんえーんという声が、そこら中に響き渡り、森の動物たちがビックリしちゃうくらいに。
しかし、その時アルパカ彦くんの目の前に、空から降り立つ影がひとつ。
音も無くこの場に飛んで来て、すぐに泣いている彼へと寄り添った。
「あれっ……? お兄さんは誰? どこからやって来たの?」
その人は、空軍の緑色の軍服、そして飛行機乗りのシンボルである白いスカーフ姿だった。
キョトンとした顔のアルパカ彦くんを、柔らかな優しい顔で見つめてから、すぐに腰のポーチから道具を取り出した。
水で傷口の汚れを洗い、消毒をしてから絆創膏を貼る。テキパキと手早く、けど凄く優しい手つきで、すぐに手当てを終えた。
「えっ、これもらって良いの? うわぁ……とってもおいしそうだ!」
その後、おもむろに自分の顔のパンをちぎり、少年に手渡す。
それはたっぷり餡子が乗った、見ただけでグゥ~っとお腹が鳴ってしまいそうな程、美味しそうなアンパンだ。
アルパカ彦くんはすぐにパクっと噛り付き、うれしそうにもぐもぐ。
さっきまで泣いていた事なんて、もう忘れてしまったかのように、夢中でアンパンを食べる。
なんだろう? まだ子供であるアルパカ彦くんには、上手くは言えないけれど……。
それはとても“優しい味”というか、食べれば心が満たされていくような、ほっとする味。
これを食べる人のことを思い、「おいしくなあれ、おいしくなあれ」と願いながら作ったかのような、作り手の心が籠ったアンパンだった。
やがて、パンを食べてお腹がいっぱいになったアルパカ彦くんは、元気にお礼を言ってから、自分の家に帰って行った。
そして、今日あった事と、あのお兄さんにしてもらった事を、お母さんや友達たちに話した。
あとは、あの時もらったアンパンが、素晴らしく美味しくて、食べれば幸せな気持ちになる事。
あのお兄さんが、すごく優しくてカッコ良くて、まるでヒーローのようだった事。
その全てを、とても興奮気味に、語ったのだった。
ちなみに、これと同じような事が、最近この地域でよく起こっている。
誰かが泣いていたり、困っていたりすると、すぐに空からヒーローが飛んで来て、最後に美味しいアンパンをくれるのだという噂を、住民たちはよく耳にするようになった。
あの人は空軍の服を着ていたから、きっとヴァレー基地の傭兵さんであろう事は、すぐに分かった。
加えて、近頃ニュースや新聞などで、よくその人物のことが触れられていたので、皆その正体はすぐに分かった。
あの傭兵さんだ――――
いつもベカリから僕らを守ってくれてる、あのエースさんだ。
どこかファニーな戦闘機で、僕らの為に戦ってくれるだけでなく、困っている人がいればすぐに駆けつけ、助けてくれるのだ。
誰よりも強く、立派な人柄。そして柔らかな笑顔。
今コムギィコ共和国では、そんな話題で持ち切りだ。
僕らのヒーロー、真の英雄だとして、人々はアンパンマンの名を口にした。
「ハーイ! 調子はどう、ごはんパンマン?」
「あっ、お疲れっス塩パンマン先輩!
パトロール帰りっスか?」
もう夕飯時を向かえようかという、茜色に染まるヴァレー基地の格納庫。
愛機のFー15と向かい合い、額の汗を拭いながらレンチを握っていた青年に、塩パンマンが微笑みかけた。
彼女*1からポイッと投げ渡された缶コーヒーを、振り向き様に「おっとっと」とキャッチ。
軽く礼を言った後、ありがたく口を付ける。
「そそ、軽く3時間ばかり飛んで来たわ。
私この前、墜とされちゃったし……、新しい機体のローンも馬鹿にならないのよ。
貧乏暇なしって感じ」
「そうですよね……、戦闘機って何千万ドルもしますし。
いくら、ある程度は国に負担してもらえるとはいえ、乗り換えはお金かかりますよね」
「ま、命があっただけマシってものよ。私もメソパンもね。
とつぜん現れた所属不明機に墜とされちゃったのは、正直ムカつくけど……。
でもあんな状況から、生き残れたんだもの。文句なんて言ったらバチが当たるわ」
お金はまた稼げばいい、命あっての物種よ。
そう彼女(?)に言われると、なにやらこの缶コーヒーが、物凄く貴重なものに思えて来るから不思議だ。今度ランチでもご馳走させて頂こうと、ごはんパンマンは密かに心に決める。
「アンタの方はどう? いま“彼”と飛んでるんでしょう?
人事の上とはいえ、いきなり大出世じゃない!
それにアンタにとっては、憧れの人と組めたワケだし」
「あはは、そっスね! まぁなんとかやれてますよ♪
Smileさんの足を引っ張ってやしないか~って、戦々恐々ですけど」
あの日、塩パンマンとメソポタミアパンマンは撃墜され、なんとかベイルアウトには成功したものの、暫く入院をする羽目となってしまった。
そして彼の相棒であった
ゆえに、ごはんパンマンと彼がチームになったのは、必然とも言える人事。
まだ年若い戦闘機乗りにとっては、願っても無い機会であり、これが決まった当初は、思わず飛び上がりたい位に喜んだものだった。
まぁそのチャンスのキッカケが、ばいきんまんのMIAという、まごう事なき不幸な出来事であったのには、彼をしても閉口せざるを得なかったが。
しかし、生来ポジティブな性格のごはんパンマンだからこそ、こんな悲しい状況下であっても「がんばろう」と、すぐに気持ちを切り替える事が出来たのだ。
そういう意味では、この人事は正解だったと言える。
新しいガルム2となったのが、ごはんパンマンであったからこそ、相棒を失ってしまった彼を支える事が出来たのかもしれない。
まぁ……彼とチームを組んで、少しばかり経つのだが、未だに
お喋り好きなごはんパンマンが、いくら無線で話しかけようとも、彼が返答をくれた試しは無い。これまで一度たりとも無かった。
一応、面と向かって会っている時には、喋らないまでも
自身が作っている美味しいアンパンを、毎朝のようにくれたりもして、それが最近の楽しみになっている、ごはんパンマンなのである。
まだ組んで間もないけれど、連携もしっかり取れていると思うし、空戦ではたくさん助けて貰っている。めちゃめちゃ頼りになる。(自分は僚機なので、本当はこっちが助けなきゃいけないんだけれど、それはともかくとして)
あの苛烈な戦いぶりによって、周りからは“鬼神”なんて呼ばれ方をしているそうだが……、でも別に怖いとは思わない。優しい人だというのは、少し接してみれば、すぐに分かる事だ。
有り体にいって、彼には「とても良くして貰っている」という印象がある。
別に嫌われてるワケじゃ無い、というのは、ちゃんと理解しているのだ。
ポジティブなごはんパンマンは、そう捉える事にしていた。
「まぁホント言うと……飯に行ったりダベッたり出来る間柄になれたらな~って、思うんスけどね。
まだまだ、後ろに付いて飛ぶだけで、精一杯って感じッス」
「うーん……、まぁ仕方ないトコあるんじゃない?
平気そうにはしてても、彼は
きっと思う所はあるでしょうし」
「ですです。僕なんかが気を使ったり、無遠慮に踏み込むのも、なんか違う気がしますし。
今はただ、Smileさんの僚機として、しっかり飛ぶことのみっスよ」
「そうね。今はまだ、ズケズケ行くべきじゃ無いわ。時間をかけなさいな。
それに男同士の会話なんて、どーせロクなもんじゃ無いでしょ?
酒とか、女とか、風俗とか、しょーもない話ばかりだもの。
せっかく“鬼神”の僚機になれたんだし、勉強させてもらえばいいわ♪」
苦笑しながら、ポンと肩を叩かれる。
けれどごはんパンマンは、まだどこか憂いを含んだ表情。
「はい……、Smileさんから見たら、僕はペーペーもいいトコだ。
形だけは
ガルム2になれたからって、調子こいてらんないっスよ。
僕なんて、きっと彼の
「……いやアンタ、そんなコトは……」
「いいんスよ先輩。分かってるんス。
とてもじゃないけど、僕じゃ相談に乗ったり、支えたりとかは、出来ないから。
いつかSmileさんと、そんな風になりたいけど……まだまだ先は遠いみたいだ。
だから僕、早く強くなります――――
頼りがいのあるヤツになってみせますよ! ぜったい!」
先日、ベカリ北東部の海岸“アンファング”において、ベカリ残党部隊の掃討作戦が実行された。
この日は、ベカリ暫定政府による降伏文書の調印式があり、
数か月にも及んだ、ベカリ戦争が終わる。
世界中の人々が待ち望んだ瞬間が、ついに訪れたのだ。
しかし、それに納得しないベカリ残党部隊は、陸海空すべての戦力をアンファングに集結。調印式の阻止を目論んだ。
決して負けを受け入れず、終戦を拒む彼らは、強固に抵抗を続けた。
連合軍は、現在の政局を踏まえ、その鎮圧のために傭兵部隊を派遣。
極秘の単独任務として、アンパンマンらガルム隊に、ベカリ残党部隊の掃討を命じた。
“鬼神”と称される彼の活躍もあり、作戦は無事に成功。残党部隊は壊滅する。
調印式はつつがなく執り行われ、その様子はTVやラジオにより、世界に向けて放送された。
ベカリ戦争の終結が、高らかに宣言されたのである。
これは、七つの核が地上を焼いてから……ばいきんまんが彼の下を去ってから、半月がたった日の事だった。
あれから多少人数の変動はあったものの、ヴァレー基地の傭兵達は、未だこの外国人部隊に所属し、空を飛び続けている。
停戦条約が結ばれたとはいえ、未だ国境線の緊張状態は、予断を許さない状況。
そして、ベカリ残党軍が見せた、あの大規模な終結の意図についての調査は、未だ続けられていた。
この平和を確固たる物にする為、そして国防の要として、まだコムギィコの傭兵たちには、やるべき事が沢山ある。
新生ガルム隊として、彼の僚機として配属されてから、もうごはんパンマンは、いくつものミッションを共にこなしている。
先の終戦の日の作戦に加え、それが終わってからも、いま現在に至るまで。
たとえ国境線の監視任務や、訓練のような物であっても、彼と共に飛べる喜びを噛みしめながら、懸命に操縦桿を握った。
少しでも早く、彼の背中を守れるよう、頼りになる相棒になれるよう、ごはんパンマンは日々努力を積み重ねている。
いつの日か、真の意味で彼の隣に並ぶこと。それが目標だ。
しかし、ポジティブなごはんパンマンをしても、ときおり胸が締め付けられるような気持ちになる事があった。
格納庫で一人、ただじっと愛機を見つめている、彼の姿を見た時……。
何をするでもなく、静かに夜空を見上げている、彼の姿を見た時……。
あの微かではあるけれど、柔らかな笑顔が、どこか寂しそうな笑みに思えた時……。
ごはんパンマンは、得も知れぬ憐憫のような感情を抱くのだ。
あんなにも凄く、誰よりも強い彼を「かわいそう」だなどと、自分などが言って良いはずがないのに。
以前よりも精力的にパン作りに打ち込むようになり、それを基地の皆だったり、近隣の街の人々に配ったりしているようだった。
近頃は、彼に関する噂も、よく聞くようになった。
困った時にはピューっと飛んで来て、僕らを助けてくれるヒーローだとして、この国に住む者達の間で、有名になっているという。
同じ傭兵として、彼の隣を預かる者として、とても誇らしい気持ちだ。
何より、相も変わらずの無口ではあれど……自分達に
これは、以前なら有り得なかった事だ。この基地にいる誰もが、彼の笑った所など、これまで一度も見たことが無かったんだから。
陽気でお気楽な自分が、彼と共にいる影響なのだろうと、ヴァレー基地の者達は解釈した。
よくやった、とっつき安くなったよと、そう仲間達に感謝された事もある。
しかし……それは決して自分の力などでは無い事を、ごはんパンマンだけは、知っていた。
もし何か理由があるとしたら、それはあの
彼が心を開き、お互いに分かり合い、誰よりも信頼していたのは、相棒であったあの人だ。
ほかの誰でも無い。彼を変えることが出来るのは、きっと
ごはんパンマンは、そう強く確信している。
どうすれば、
思えば近頃は、そんな事ばかり考えている。
◆ ◆ ◆
穏やかに日々は過ぎていった。
あの戦争が終結し、早数か月の時が経とうとしていた。
――――。
パタン、と小さな音を立てて、背後の扉が閉まる。
夜の11時。今日の予定をすべて終えたアンパンマンが、兵舎にある自らの部屋に帰って来た。
――――。
ベッドまで歩き、何気ない仕草で手荷物を置く。
その後、窓の方へ向かい、カーテンを開け放つ。
照明のスイッチが押されていない、暗い部屋。そこに柔らかな月明りが差し込んだ。
――――。
暫しの間、窓の外を見つめる。
遠くに見える山々、沢山の民家の灯り、そして頭上に輝く星々。冬の星座。
その光景を、何をするでもなく眺める。
映画を観る観客のように、世界になんら関与しない傍観者のように。
さして、物を思うこともないまま。
――――ふぅ。
やがて、小さくため息を漏らした後、アンパンマンは部屋の方へ向き直る。
目に映るのは、簡素な机の上に乱雑に置かれている、表彰状やメダル。
あと適当に床に積み上げられた、綺麗に包装されたまま開けた様子のない、贈り物の箱の数々。
ベッドの上には、先ほど彼が置いた、大きな花束と紙袋がある。
これは、今日コムギィコにある小学校を訪れた時に、子供達から贈られた物だった。
彼への感謝が書かれた寄せ書きや、折り紙で一生懸命作ってくれたお手製の勲章、皆で撮影した集合写真などの、プレゼントが入っている。
この部屋には、ほとんど私物が無く、家具も必要最低限の物だけ。
だから目に映るのは、そんな誰かからのプレゼントや、これまでの功績を称える品々ばかり。
『ボク大きくなったら、アンパンマンみたいなヒーローになる!』
今日、キラキラした瞳で興奮気味に告げられた、子供たちの言葉。
それがふと、思い返される。
『おいしいパンをありがとう! まもってくれてありがとう!』
『アンパンマンはすごい! かっこいいよ!』
『どうやったら、アンパンマンみたいになれる? つよくなれるの?』
感謝と憧憬。そんなたくさんの笑顔に囲まれた。
あたたかい光景が、そこにあった。まるで昔に戻ったのように。
けれど……それを思い返すアンパンマンの顔は、“無”だ。
何の感情も浮かんでいない、無表情だった。
――――っ。
自分でその事に気が付き、いけないと思ったのか。
アンパンマンは壁にかけられた鏡の前に立ち、じっと自分の顔を見つめる。
――――……っ。……っ。
ニコッ、ニコッと、微笑んでみる。
意識して表情筋を動かし、笑顔を形作る。それを何度も繰り返す。
これは、
ここ数か月の間、毎日おこなっている事だった。
人と会う時のため。
心配をかけぬよう。
安心してもらえるように。
この努力により、彼は以前の鉄仮面ではなく、笑うことが出来るようになった。
その場の状況や、必要に応じて、表情を動かせる。自らの感情とは関係なしに。
優しい顔で、ニッコリ微笑むことが出来る――――たくさん練習をしたから。
今では、こうして色のない表情に戻るのは、一人の時だけになった。
英雄として祭り上げられ、とても忙しくなってしまった今では、自分の部屋にいる時のみだ。
いつも外では薄い笑みを浮かべており、誰が見ても良い印象を抱く、優しい顔で人々に接している。
そうする事が、出来ていた。
『無くしてないぞ? 絶対にあるから。
自らの魂を探せ――――』
ピクン、とアンパンマンの表情が固まる。
ここ半年ほどは、何度もこの言葉が、ふとした時に頭に浮かんで来るのだ。
その度に彼は、こうして硬直してしまう。
朝にパン作りをしている時も、そう。
ある日、いつものように作業をおこなっている最中に、ふとばいきんまんの事が頭をよぎり、手を止めてしまった事があった。
そう言えば、ばいきんまんの作るお酒は、すごくおいしかったな――――
飲む人のことを想い、とても丁寧に作られてた気がする――――
その事に気が付いた時……、とつぜん彼の作るパンが、劇的に変化した。
ばいきんまんがやっていたように、“誰かを想って作る”。……たったそれだけの事で、とても美味しくなったのだ。
今では基地の仲間達の他、近隣の住民たちへも配るようになり、みんなとても喜んでくれている。いつも美味しそうに食べてくれる。
いま自分の周りには、たくさんの笑顔が咲くようになった。
みんなに美味しいと言われ、心から喜んでもらえるパンを、作れるようになっていた。
なんの工夫もしてなければ、作り方を変えたワケでもない。
――――。
アンパンマンが鏡から離れ、冷蔵庫の方へ向かう。
氷や炭酸水を取り出し、置いてあったウイスキーのボトルと一緒に、テーブルに運んだ。
――――……。
暫くした後、月明りだけが差し込むこの部屋に、なにやら不満げに表情を歪める彼の姿があった。
――――ぜんぜん違う。似ても似つかない。
たった今作ってみたお酒に対して、辛辣な評価を下す。
以前飲んだ“あのハイボール”に比べたら、一緒にするのはおこがましいくらい、美味しくないと感じた。
別にお酒なんて、飲む方では無かったし、作り方だって見様見真似だ。
上手に作れないのは、仕方ない事かもしれない。
またアレを飲んでみたい――――そう思い、たまに作ってみるのだが……。
でもいくら記憶を探ろうとも、あの時作ってもらった味を再現することは、出来なかった。
◆ ◆ ◆
「ああ……結局ひとりかぁ。
まだまだ道は長いっスねぇ……」
深夜。酔っ払い共の馬鹿笑いが響く、場末の酒場。
ごはんパンマンは一人カウンターに座り、ちびちびとビールを飲んでいた。
「思い切って、飲みに連れてって下さいよ! と言ってはみたものの……。
まさか封も切ってない給与袋を渡され、そのまま立ち去られるとは。
どーすんスか、このお金……。ドンペリの風呂にでも入れってゆーんスか」
未だ会話のない関係に、ついに業を煮やし、アンパンマンに声をかけてはみたのだが……、なんかただ純粋に「この子はお酒が飲みたいんだね」と解釈されたっぽい。
自身の憧れであるガルム1は、金だけポンと渡してから、ニコニコと去っていったのだった。
そして、今日に限って塩パンマンもメソポタミアパンマンも、なにか予定があったらしく、付き合って貰えなかった。
いつもは彼女持ちである彼を、黙ってても飲みに連れまわすというのに。タイミングが悪かったのだ。
こんな大金を渡されては、ひとりで使い切るなど出来ようハズも無い。
なんてったって、彼はヴァレー基地のエース。この国の英雄たる人の給与なのだ。その額は傭兵であるごはんパンマンをしても、目玉が飛び出さんばかりの物だった。
どんだけ稼いでるんですか
「たしか、余った金を返すのって、失礼に当たるんだっけ……?
任侠映画とかでは、こういうのってもう『とっとけ』って感じだし。
いくらなんでも“粋”すぎますよ、Smileさん……」
「まぁこれは、今度先輩たちと飲む時にでも、有難く使わせて頂きますけれども。
二人とも、いまお金ない時期だし。きっと喜んでくれるなー。
でも僕が求めてるのは、貴方との絆的な……ですね?」
ブツブツ呟きながら、ビールと共に柿ピーを頬張る。
お金はタンマリあるのだし、もっと良い物を頼めば良さそうなものだが、なんか得も知れぬ感情があり、いつものスタイルを貫く事にした。
ヒーローを志しはすれど、意外と小市民なごはんパンマンなのだった。
「――――よぉ
突然この場に響いた声。こちらに投げ掛けられた言葉。
ごはんパンマンは、一瞬それを理解出来なかった。あまりにも唐突だったから。
「なぁ、
敵ぶっ殺して稼いだ金で、酒かっくらってよぉ! いい身分だなぁオイ!」
固まった身体を、無理やり動かす。
振り向けば、そこに泥酔した様子の中年達が、こちらを見て馬鹿笑いをしている姿。
「言えよ、何人だ? 何人殺したよ?」
「人殺しも、こんなトコ来るんだなぁ! 普通のヤツみてぇによぉ!」
「狂ってやがるぜ、好き好んで人を殺すなんざ。
俺たちには理解できねぇもんでよぉ、教えてくれや坊主。どんな気分なんだ?」
ニヤニヤと笑いながら、距離を詰めて来る。
椅子に座っているごはんパンマンを、三人の男が取り囲む。酒くさい息を撒き散らして。
これまでも、稀にこういう事はあった。
普通に暮らし、世界情勢や戦場のことなど知りもしない人々が、兵士である彼を好き勝手に罵るのだ。
人殺し。お前は俺たちとは違う。この野蛮人めと。
中には、この戦争によって被害を受けた者が、その悲しみと憎悪をぶつけて来る事もあった。
傭兵とはいえ、この国のために戦ったはずの、彼らに対してだ。
戦争という物を憎み、ぜんぶ一緒くたにして、さも自分は平和主義者だとばかりに。
その胸にある勘違いの“正義”を、高らかに掲げて。
「ッ!!」
視界が真っ赤に染まる。
思考が怒りで埋めつくされ、言葉すら出なくなる。
だがごはんパンマンは、ただ膝元で拳を握りしめるのみ。
この者達に、言い返すことは出来る。理不尽に抵抗することは簡単だ。
ただ怒鳴り散らし、この酔っ払い共を叩きのめせば良い。戦闘機のパイロットというのは、選ばれた兵士だ。その肉体の屈強さは、他とは比べ物にならない。
しかし、思う――――それをして
この酔っ払い共……何も知らないような者達に対して、自分達の信念を叩きつける事に、何の意味があろう?
分かりはしないし、理解されようとも思わない。相手は哀れなほどに、程度の低い連中なのだ。
彼らを殴れば、ただ自分の気が済む、というだけ。
ただ怒りを発散する為に、この力を使っても良いのか? 平和の為にと鍛えてきたハズの力を、こんなにも下らない事のために使うのか?
それを、兵士である自分は、許せるのか。
この誇りを、自ら汚してしまうような事、出来ようハズもない。
やがて、物言わぬごはんパンマンに業を煮やしたか、それとも無視をされたと感じたのか。
男達は無理やり彼を立たせ、表の路地裏へと連れ出した。
三人で取り囲み、無抵抗の彼を殴る。
笑いながら、罵りながら、機嫌良さそうに嬲る。
それは、丈夫な彼がピクリとも動けなくなるまで、延々と続いた。
「おい、こいつヴァレー基地の傭兵だろ? 飛行機乗りだぜ」
「なら腕をへし折ってやろうぜ。
二度と飛行機なんて乗れなくしてやる」
「そりゃいい! もう人殺しも出来なくなる!
世界が平和になるってもんだ!」
「おうよ、こいつは今まで、散々殺してきたんだ。
罪を
一人が馬乗りになり、うつ伏せに組み伏せた彼の腕を、まっすぐに伸ばさせる。
そして、その肘のあたりを目掛け、もう一人が足を振り下ろそうとした、その時……。
「――――ぐっべ!?!?」
吹き飛ぶ。
片足を上げたまま、顔面を殴打された男の身体が、路地裏の壁に激突した。
とても大きく、重い衝撃音が、路地裏に響く。
「お……おい何だアンタら!? 一体どういうつもりだ!!」
「関係ねぇだろ! すっこんでろッ! ぶちのめされてぇか!!」
オロオロと戸惑いながらも、威勢の良い怒声を放つ。
いま、突然この場に現れた、二人の人物へ向けて。
ごはんパンマンは、何十分も殴打され続けて朦朧とする意識の中、懸命に頭を持ち上げて、その姿を見た。
「いや、無関係じゃねぇのさ。
そいつは身内でよ、イジメてもらっちゃー困るんだわ。
なぁ……
おでんパンマンと、アンパンマン――――
いま二人が、その瞳に怒りを宿しながら、男達の方へゆっくり歩いていった。
◆ ◆ ◆
「なんでも、金だけ渡したって言うじゃねーか。
何してんだ馬鹿、付き合ってやれよって、無理やりコイツを引っ張って来てみりゃー、この有様だ」
やがて、
おでんパンマンが、ごはんパンマンに軽く手当てを施しながら、やれやれとため息をついた。
「災難だったなぁ
そうでなきゃ、連中が無事でいた事に、説明が付かねぇ。
あんな酔っ払い共、お前さんなら片手で捻れるってのに……」
まったく、真面目というか、堅物というか……。
そう呟き、その場から立ち上がる。
「兵士の力は、民を守るためにある、ってか?
分からん事もねぇし、ご立派な考えだとは思うが、次からはもっと上手くやれ。
それで飛べなくなっちゃ、本末転倒だ」
よぉ、帰るわ
そうポンと彼の肩を叩き、おでんパンマンが背を向けて去って行く。
荒くれだが、面倒見がよく、人情に厚い戦闘機乗り――――
ごはんパンマンは悔し気に目を伏せながらも、そんな彼に感謝する。
そして、この薄暗い路地裏は、二人だけになる。
未だ壁に背を預けて座り込む、腫れ上がった顔のごはんパンマンと、無言でそれを見つめているアンパンマン。
暫しの間、静寂の時間が流れる。どこかの店から洩れているカラオケの音や、遠くから聞こえる犬の鳴き声だけが、静かに響いていた。
「手間をかけさせちゃって、すいません……。
次からは、こんな事ないようにします」
彼からの視線に耐えかねたのか、ごはんパンマンがグッと歯を食いしばり、俯く。
「情けないっス。自分の未熟さを思い知りました。
戦闘機乗りって言ったって……こんな事すら自分で収めることも出来ない。
ヒヨッコって言われても、仕方ないっス」
「カッコ悪いとこ、見られちゃいましたね。お恥ずかしい限りっス。
やっぱ
まだまだ理想には遠いっスね」
そんな事は無いと、言いたかった。
君は立派だ、カッコ悪くなんて無い――――アンパンマンには今の彼が、とても尊く見える。
しかし、なぜぼくの口は動かない?
なぜ石のように固まったまま、言葉を紡ぐことが出来ないのか。言ってやれないのか。
そのもどかしさが、胸を焦がす。
「
何も考えられなくなって、衝動的にアイツらを殴りそうになった。
あの時、僕に出来るのは、それを必死で抑え込むことだけでした」
「言葉が出なかった。アイツらに言い返す言葉が、思い浮かばなかった……。
だって、守るだのなんだの言ったって、所詮僕がやってる事は、“殺し”なんだから」
「どんな理由があれ、それを否定する事は、しちゃいけない。
自分が奪ってきた命を、“仕方ない”なんて……。
そう簡単に考え、軽く扱ってしまっては、いけないような気がする」
「理屈で言えば、帳尻は合ってるのかもしれない。
僕も敵も、等しく命という物を賭けて、戦ったんだ。
その結果として僕が勝ち、これまで生き残ってきたのなら……。
それは誰に恥じる事もなく、悔やむ事でもありません」
「でも……忘れちゃいけない、と思う。
命を奪ったっていう、その事だけは、ちゃんと背負わなきゃいけないと思う。
もしそれを忘れてしまうなら……、僕は兵士じゃなく、畜生に落ちます」
「だから、
そして誇りを以って空を飛ぶ、コムギィコの
どちらかじゃなく、その両方なんだって、思うんです」
立ち上がり、ニコッと微笑む。
顔は大きく腫れ上がり、血だって滲んでいる。だがそれでも「自分は大丈夫だ」と示すように、笑ってみせた。
「あの時は、ただ何も考えずに、反論しちゃいましたが……。
今なら僕、
僕みたいな、考え無しの若造に腹を立てるのも、当然ですよ」
これが戦争だ――――理想で空を飛ぶな。
そう一喝していた彼の姿が、頭に浮かぶ。
「口は悪いし、言い方もキツかったけど、あの人は
ちゃんと受け止めて、でも苦しくて、なんとかしたくて……。
きっと、そんな葛藤があったんじゃないでしょうか?」
「同じガルム2って言ったって……、まだまだ背中は遠いや。
いつも考えるんです。この状況なら、Germさんはどう飛ぶかなーって。
どうやったら、あの人みたいにやれるのかなーって、手本にさせて貰ってます。
まぁ……お人柄に関しては、僕とぜんぜん違いますし、手本に出来ませんけれど」
パンパンお尻を叩き、こちらに向き直る。空元気だとしても、しっかり前を向く。
アンパンマンは、その姿を「眩しい」と感じた。
とても真っすぐで、いい子だ。未熟さはあれど、もう立派な飛行機乗りだと思う。
だが……それを伝える事が出来ない。口を開くことが出来ない。
空っぽの、何もない心じゃ、こんなにも眩しい存在に対して、かける言葉など。
あまりにも――――自分とは違いすぎて。
「僕、強くなりますよ!
まだまだ操縦も下手だし、頼りないヤツだとは思うんスけど……。
でもメチャメチャ頑張って、強くなってみせますから!」
「誰にも負けないくらい。迷わずに済むくらい。
そんで、みんなを守れるくらい――――
その一言が、胸に突き刺さった。
ドンという衝撃と共に、巨大な砲弾が自分を木っ端みじんに粉砕するような感覚。
目の前が真っ暗になるのを、感じた。
違う、違う、違う。
ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう。
虚ろな意識、自分が自分でなくなるような感覚の中で、その言葉だけが頭を駆け巡る。
そうじゃない。
ぼくは、君が思うようなモノでは無いんだ。
違うんだよ……。
この子の眩しさが、アンパンマンを照らす。
何もない空虚さを、伽藍洞の心を、ツマラナイ存在を。
今、まざまざと、はっきり照らし出す――――
助けて。
助けて。
助けて。
叫ぶ。アンパンマンの心が悲鳴を上げる。
真っ暗闇の恐怖が、彼を包む。
打ちのめされ、心の器が壊れる。
どこまでも続くような、深い穴の中に、落ちていく。
どうすればいい? どうすればぼくは、まっすぐ立てる?
パンを焼いた。人々に尽くした。ありがとうと言われ、たくさんの笑顔に囲まれた。
「探せ」と君が言ってくれたから、頑張ってみた。
君と同じように、ぼくも頑張ろうと思った。
でも違う……これは
ただ外側を装ってるだけ。何も変わってはいない。
ライバル、ともだち、魂の片割れ、相棒……。
どうすれば、君の隣に立てる? 君に褒めて貰える?
寒い……、寒いよばいきんまん。
凍えるくらい寒くて、もう動けない。
どうして? 何もないのに。
からっぽのハズなのに、痛くてたまらないんだ――――
◆ ◆ ◆
「ベカリ軍の上級将校らによる、クーデターが発生したようだ」
その日、ガルム隊を含むヴァレー基地の傭兵達は、作戦会議室に集められていた。
「彼らは“国境無き世界”を名乗る組織を立ち上げ、既に先日、メールンを爆撃した。
ここは知っての通り、かのベカリ戦争で停戦条約が凍結された都市だ」
この基地の指令である“カロリーメイトパンマン”による説明を受ける一同。
関係ないが、せっかく考えられた栄養バランスが、パンに挟むことによって、崩れてやしないか? 大丈夫なのか?
そうツッコミたい気持ちはあれど、誰も問う者はいなかった。こんな真面目な雰囲気の中では、仕方ないのかもしれない。
「この爆撃には、コードネーム“XBーO”と呼ばれる巨大ガンシップが使用された。
ヤツらはこんな物まで持ち出し、今後も大規模な反乱をおこなっていくであろう事は、想像に難くないだろう。
諸君らには、この“XBーO”の追撃作戦を……」
あの戦争から、はや半年あまりが過ぎたが、ここに来てクーデターの発生。
消えたと思っていた争いの炎が、また再燃しようとしている。
またやっかいな、と呆れた顔をする者もいれば、塩パンマンのように「お仕事ねー!」と張り切る者もいる。
どこか退屈だった日々との別れに、感慨深そうな顔をする傭兵もいれば、ごはんパンマンのように「平和が壊される」という危機感を持ち、表情を硬くする若者もいた。
だがアンパンマンの心情は、窺えない。彼は静かに目を閉じ、黙って説明を聞くのみ。
動揺も、憤りも、高揚も、何も無い。
いつものように、言われた事をやる、やるべき事を成す、という姿勢に見えた。
ただ、早く何かに打ち込んで、何も考えずにいられたら。
何かしたい、止まっていたくない、退屈な時間がつらい。
……そんな彼の心境は、誰にも見て取ることは、出来なかった。
だが、その時。
「ん? 待て……! 管制塔より緊急入電だッ!」
弛緩していたこの場の空気が、一気に張り詰める。
指令の緊迫感に満ちた声によって。
「――――所属不明機が、当基地に接近中!
全機、直ちにスクランブルだ! 格納庫へ走れッ!!」
唐突に、彼の苦しみは終わる。
空虚な時は終わりを告げ、有無を言わさず、争いがやってきた――――
◆ ◆ ◆
窓を突き破り、そのまま飛ぶ。
一刻も早くと時を惜しみ、格納庫へ。アンパンマン号・Raptorのもとへ。
サイレンが鼓膜を震わせる。
周囲には、いくつもの爆撃音が響き、敷地内のあらゆる施設が崩れていくのが見える。
炎と、轟音と、血――――
瓦礫に潰され、爆発で吹き飛び、死んでいく人達。
さっきまで元気で、今日も朗らかに挨拶をしてくれた同僚達が、変わり果てた姿で地に伏している。永遠に失われた。
風を切り、マントをなびかせて飛ぶ。
矢のように空を駆け、瞬く間に辿り着く。
滑空したまま格納庫へ飛び込み、瞬時にキャノピーの開閉ボタンを押し、愛機へ乗り込む。
ベルトや、酸素マスク、固定具。そんなゴチャゴチャした物が、今は煩わしいくて仕方なかった。
『警告! 周囲に強力なECMを確認! 総員、第一種警戒態勢!』
『当基地に接近する
急げ! 総員配置に付け!!』
いくつものスイッチを入れ、エンジンを点火。
ゆっくりと機体が動き出す振動を身体に感じながら、フットペダルとスティックを操り、格納庫の外へ出る。
戦闘機はマッハを超える速度で空を飛ぶが、陸で動かすこの瞬間だけは、緩慢だ。
もどかしさや、焦燥感に耐えながら、滑走路を進み、離陸の為に既定のポジションへ。
その間も、引っ切り無しに無線は鳴り続け、被害の報告が飛び交っていた。
『管制塔! こちらガルム2っス! いま状況はどうなってるんスか!?』
『不明機……いや
来るぞ! 非戦闘員は退避だ! すぐ退避し……」
次の瞬間、とてつもない轟音が、連続して空気を震わせた。
いま遥か上空を飛ぶ、まるで山のように大きな航空機から、数え切れぬほどの爆弾が投下され、次々に基地を破壊していく。
その巨大な機影は、ヴァレー基地を容易く日の光から覆い隠し、まるで夜のように暗くする。
空気どころか、大地をも揺らす凄まじいエンジン音で、悠然と上空を飛び、腹から破壊の種を撒き散らした。
『あれは……メールンをやった“XBーO”だ!
クソッタレがッ! 先手を打って来やがったか……!』
『司令部へ! こちらガルム2!
第二、第三滑走路に直撃弾! これじゃあ離陸できないッ!!』
恐慌状態に陥るヴァレー基地の者達。
誰もがヒステリックに声を荒げ、叫び、助けを求める。
その間も、巨大なガンシップとその編隊による攻撃は続く。
突然の理不尽に晒され、瞬く間に、あまりにも簡単に死んでいく者達。優しかった人達。
その光景を、アンパンマンは操縦席でひとり、何も出来ずに見守るほか無かった。
ただ握り潰さんばかりの力で、操縦桿に手を添えている事しか出来ない。
――――この光景は何だ? どうして基地が燃えている? 何故?
現実感が伴わない光景の中、ただ時だけが過ぎていく。
煩いくらいに聞こえている、けたたましいサイレンの音が、これが決して
『
いま作業員たちが、総出で瓦礫の除去をおこなっている!』
『ガルム隊だけで構わん! 彼らを空に上げるんだ!
消火も救助も後だ! 作業を急げッ!!』
『頼んだぞガルム隊! XBーOを墜とせッ!!
お前たちに全てを託すッ!!』
やれ。お前がやらねばならぬのだ――――
ふと、いつか聞いた言葉が、思い起こされた。
強く信じ、全てを託してくれた、大切な友達の言葉だ。
その瞬間、アンパンマンがパッと目を開く。朧げだった視界が戻り、己の内へと埋没していた意識が、一気に開かれる。
前を見、空を睨むことが出来る。飛べるようになる。
『――――オールグリーン! ガルム隊、発進せよ!』
管制塔からの声。それと同時にアンパンマン号・Raptorが走り出す。
ジェットエンジンにより瞬く間に加速し、曲線を描いて空へ。
いまアンパンマンが、まっすぐ前だけを見つめ、飛び立って行った。
◆ ◆ ◆
『おい
見た目はファニーだし、なんか謎技術が満載の戦闘機だが……、そいつをイジくってる時が、俺の一番の幸せなんだ。
だから……また整備させろ。無事に戻って来いよ』
聞き慣れた声。いつも整備や補給を手伝ってくれている、同僚の男からの無線だった。
染み入るようにその声を聞き、ふとコックピットの上部に視線をやると……恐らく彼が勝手に取り付けたのであろう、ある“飾り”が目に入った。
これは、前にアンパンマンが小学校の子達に貰った、お手製の勲章。
カラフルな折り紙で作られたそれは、とても愛らしく、このアンパンマン号にピッタリに思えた。
たとえ苦しい状況にあっても、これを見ればさぞ心が熱くなり、戦う勇気が湧くことだろう。子供らの声援があれば、きっと生きて帰ることが出来る。
そんな、あの整備兵の心遣いだったのだろう。
しかし……先ほど飛び交っていた無線の中に、確かに聞いた。
あのガンシップ部隊の爆撃により、いま基地周辺の街が、
これを作ってくれた子供達の上に、爆弾が降り注いだのだ。
争いや思想とは、何の関係もないハズの人々が、戦争の悪意に晒され、標的となった。
今は、考えない。
操縦桿を握ることのみに集中し、全てを振り切るように飛ぶ。
殺人的なGによって、身体がシートに押し付けられる。
首を動かす事も、声を出す事も出来ないほどの圧力。
目玉が奥にめり込み、眼球が歪むのを感じる。視界が白くかすみ、ハッキリしなくなる。
それでも、スロットルを緩めない。
一刻も早く、敵部隊に追いつくこと。それだけを思った。
『
生体反応は……無いみたいです』
暫く飛んでいる内、二機はベカリの国境を越え、あの七つの核が放たれたという土地の上空へ差し掛かる。
眼下には、何も無い荒野。ただ白い雪に覆われた土地だけが広がる。
あの日の出来事が、フラッシュバックする。
光、原子雲、そして別れの光景が、脳裏をよぎる。
だが、それに浸っている場合ではない。即座に意識を切り替え、眼前の空を睨む。
戦いに備えて、集中力を高めていく。
『警告! レーダーに所属不明機を捕捉!
前方約30マイル*3、ヤツらだ!
ガルム隊、作戦行動に移れ!』
『了解、やるしかないっスね
二機が連れ立って飛ぶ。
いつもの如く、無線からは何の返答も無いが、それでもごはんパンマンの胸は高鳴っていた。
彼と並んで飛べるこの瞬間を、宝物のように感じながら、決して遅れぬようスロットルレバーを握る。
また彼の戦いが見られる。共に戦うことが出来る――――
こんな状況下であっても、その耐え難い喜びが、止めどなく溢れ出す。
約半年ぶりとなる、実戦。訓練や国境線の警備ではなく、命の取り合いが始まろうとしている。
自らの誇りをかけて行う空戦。
そこに身を置ける喜びを、久方ぶりに思い出しながら、眼前の敵部隊へ突貫していった。
『エスパーダ1より、エスパーダ2へ。
これより迎撃に向かう。“鬼神”を阻止するぞ』
『エスパーダ2、了解。
行きましょう、貴方に続くわ』
巨大な山脈が、そのまま空に浮かんでいるかのようなガンシップ“XBーO”。
ようやくそれに追いつき、攻撃を行うべく接近を試みた時……その背後から敵戦闘機が姿を現した。
敵部隊の進行方向とは真逆。
真っすぐこちら側へ向かってくるのは、ドラケン*4とラファールMの二機だ。*5
迷いなくこちらへ向かってくる姿は、親鳥を守るという不退転の意思の表れ。
機体越しにでも感じるその闘志に、一瞬ごはんパンマンは呑まれ、身を硬くする。
しかし、すぐにあの二機が、先ほど基地をやった機体だと気付くと、恐れを怒りで掻き消すように機体を操り、向かってくる敵機とヘッドオンをする態勢を取った。
『アイツらだ……! よくも僕達の仲間を! 絶対に許さないッ!!』
ロクに敵を見ることもせず、ただその怒りのみで、立ち向かおうとする。
それは実に勇敢で、若い彼らしい姿勢ではあるが……、怒りに赤く染まった瞳では、状況を見渡すことは出来ない。
気持ちだけでは、事を成すことは出来ないのだ。
――――ガルム2,旋回して側面からだ。
『……っ!?!?』
唐突に聞こえた、アンパンマンの声。
これまで決して口を開かなかった彼の、初めての指示――――
その衝撃は、いったい如何ばかりか。
ごはんパンマンが感じた驚きは、どれ程の物だっただろう。
『りょ……りりり了解ッ!
バッチリ援護しますよ! 任せといて下さい
思わず、呼び捨てにしてしまった。
僚機として、相棒として認められた! 僕を頼ってくれた!
あの彼から“ぼくを助けて”だなんて……こんな
ごはんパンマンの胸に、火山の噴火のような喜びが込み上げる。高揚感で顔が真っ赤に染まる。
あ……あわわわ! あわわわわ! ともう内心はお祭り騒ぎだ。
出来る事なら、今すぐ「ひゃっほーい!」とベイルアウトレバーを引き、空に飛び出したい位の気持ち。
でもそれをしたら戦えないので、ぐっと我慢して操縦桿を横に倒す。
先ほどまでの進路を捨て、機体を90度傾けて急旋回をおこなった。
『こちらAWACS。残念ながら、基地および周辺都市の被害は、甚大だ。
ここでやらなければネクストは無いぞ。また更なる被害が出ることだろう……』
『ガルム隊! 敵護衛機を全て墜とし、XBーOを破壊せよッ!
このガンシップは、ヤツらの力の象徴たる物だ。
“国境無き世界”とやらを黙らせるには、それしか無い!』
――――
冷たく、短い……だが決意を感じる声。
その応答と共に、ガルム隊は交戦を開始。
アンパンマン号・Raptorの胴体から、ミサイルが放たれていった。
◆ ◆ ◆
その戦いぶりに、我を忘れて見入る。
もちろん、彼が強いのは知っていた。この国で最高の戦闘機乗りだという事も。
けれど……、これは完全に想像の遥か上。
自分が持っていた印象は、まったく的外れな過小評価。
その凄まじい戦いぶりは、これまで想像していた物とは比べ物にならない程、苛烈な物だった。
『よぉエスパーダ隊、さっさとコムギィコの
鬼神だか何だか知らないが、たった二機で何が出来る? 目障りな蠅でしかない』
最初は、そんな
その声に鼓舞されるように、エスパーダ隊の二機も、果敢に向かって来たと思う。
しかし、たった一度のコンタクト――――
真正面から交差し、すり抜け様に放ったRaptorのミサイルが、エスパーダ2を爆散させた時……、この空域にいる誰もが凍り付き、言葉を無くしたのが分かった。
数の有利、楽観した空気、XBーOというガンシップの力。
そんな有りもしなかった“優勢”は一瞬で吹き飛び、誰もが息を呑みながら刮目。この空域を飛ぶたった一機の戦闘機に釘付けになった。
『エスパーダ2,状況を報告しろ! エスパーダ2!!』
そんな悲鳴のような声。僚機が墜とされたという事実を受け入れられず、ただひたすらに叫ぶエスパーダ1。
それを他所に、アンパンマン号・RaptorがスプリットSによる方向転換を悠々と終え、即座に残りの片割れに迫った。
『……ッ! な、何なんだお前はッ! いったいどういう……』
困惑しながらも、即座に反応出来たのは、一流の戦闘機乗りたる証か。
エスパーダ1のドラケンは、すぐに回避行動を取り、かの者から放たれたミサイルを躱して見せた。
親鳥を守る。ここで“鬼神”を阻止する。
そんな、先ほどまで抱いていた決意など、とうに吹き飛んでいる。
エスパーダ1は、ただ迫りくる攻撃を回避するだけで精一杯。剥き出しの生存本能のみが、この男を支配していた。
『……ひっ!?』
そんな短い、言葉にならない声が、彼の最後の通信となる。
一瞬、視界の端に捉えたRaptor。クリーム色のふざけた機影が見えたと思った、次の瞬間に、エスパーダ1の機体は粉砕。
悪魔のような理不尽さで降り注ぐ、Raptorの
その残骸は火を噴いて、あたかも先ほど話に出た“小蠅”のごとく、地上へ墜ちて行った。
一瞬だった。
物を思ったり、考えたりする暇すらなく、敵のエース達が撃破される。
先ほど「援護して」と言われたが、果たしてそれを自分は成したのだろうか? 何かしただろうか? ごはんパンマンは、そんな事をぼんやりと考え、放心するしかなかった。
『おい、やられたのか!? エスパーダ隊が2機とも!?!?
冗談はよせよ! すぐ確認しなおせ!』
敵側の通信。それはとても無意味で、どこか寒々しく聞こえた。
たった今、自分はエスパーダ隊が
憎き相手とは言え、混乱している敵の様子を見て、ただただ哀れに感じる。
さっさと逃げろ。なりふり構わず。……そんなアドバイスでも贈ってやりたい気分だ。
『待てガルム1,その航空機は友軍だ! サピン軍機だ!
交戦を止めよ、いま彼らとコンタクトを取る!』
『こちらコムギィコ空軍、第六航空師団。
サピン機に告ぐ、直ちに攻撃を中止せよ。こちらコムギィコ空軍だ』
先ほどのエスパーダ隊、そして今XBーOを護衛している戦闘機の群れは、全て友軍の物だと判明。
同じ連合軍として、ベカリ公国を相手に戦ってきた、サピン空軍所属の者達だった。
それが今、躊躇なくこちらを攻撃をし、行く手を阻もうとしているという有り得ない状況。
『駄目か……止むを得んな。
ガルム隊へ、サピン軍機との交戦を許可する! 必ず生き残れ!』
苦虫を噛み潰すような、AWACSからの声。
交戦を中止し、AWACSが通信を投げている間も、彼らは構う事無くこちらに攻撃をおこなっていた。
警告への応答すらなく、取り付く島もない。
即座にAWACSは、ガルム隊の生存と、XBーOの破壊を優先。交戦許可を出す。
状況は不透明で、何一つ分からない。だが目の前の戦いに打ち勝つことを選んだ。
『了解ですっ! じゃあ遠慮なく!
さっきの二機ならともかく、こんなヘタッピ達に負けるものか!
鎧袖一触……でよかったっけ? とにかくそんな感じっスよ!』
許可が出た途端、これまでのフラストレーションを一気に開放するように、ごはんパンマンは猛然と敵機に襲い掛かる。
攻撃は当たったり外したりしたが、確かに彼もガルム2として奮闘し、この空戦に貢献していった。
けれど、それはかの“鬼神”に比べたら、端数と言えるほどの戦果でしか無い。
ごはんパンマンが「こなくそ!」と一機を追い回している間に、彼は次々に敵機を撃墜。
まるで一定のリズムでドラでも叩いているかのように、この空に爆発音を響かせていた。
無駄なく、効率よく、外さず、素早く――――
そんな人と人との戦いにおいては、余裕があれば心がける程度の物でしか無い、理想。
だがもし仮に、それが
今まさにごはんパンマンが目にしている光景が、現実の物として実現するだろう。
あれ? こんな簡単だっけ?
ミサイルとか機関砲って、
絶えることなく続く
その空戦をポカンと見つめている内、ごはんパンマンの胸に疑問が湧く。
おかしいな、こんなだっけ? 戦闘機って、こんなこと出来たっけ?
これほど正確に、早く、苛烈に、動けるものなのか!?
これが
ごはんパンマンは、なんかお目目がグルグルしてきた。
彼の操縦が、動きの理屈が、まったく理解出来ないのだ。いわゆる“ヤムチャ状態”というヤツだった。
強ぇ! 上手ぇ! 速ぇ!
そういうのは分かるのだけれど、……でもそれはなぜ凄いのかというのは、まったくと言って良いほど分からない。
まるで大道芸や手品を見ているような感覚。「すごいな~、不思議だな~」ってなモンであった。
『気化爆弾、投下! 命中だ!』
やがて、もう呆けながら操縦桿をグイグイ動かしていた~という
十機以上もいた護衛機を瞬く間に墜とし、ついにXBーOを捉えたアンパンマン号・Raptorが、攻撃を開始したのだ。
下から降る雨のような対空砲火。それを潜って真上を取ったRaptorが、腹に格納していた気化爆弾を投下。
XBーOの背で大爆発を起こし、その巨大な炎が機体全体を覆った。
『すごい……凄いです
もう僕、それしか言えない感じになってますが……とにかくパねぇっス“鬼神”!』
思わずヒャッハー! と声を上げた。
威勢の良い爆発音が響き、その衝撃によって空気が揺れるのを、機体ごしにも感じた。
ごはんパンマンのテンションは、もう天元突破だ。
なんか先ほどから何もしていない気がするけれど……そんなのも気にせずに声援を送る。
Smileさん頑張れ! やっちまえアンパンマンと、嬉しそうに歓声をおくる。
もう僚機ではなく、TVを観てる少年そのものの姿だ。
『Bブロック閉鎖! 総員、消火作業を急げ!
ダメージコントロールはどうなってる!?』
『ガルム1,ヤツの
XBーOの操縦席を狙い、操舵を奪うんだ!』
敵ガンシップと、AWACS。双方の頭脳の通信が飛び交う。
だが、同じ頭脳であっても、その優劣は歴然。
攻める側と、守る側。成し遂げようとしている者と、地へ墜ちようとしている者。
『ハハ……! どんなデカブツも、ガルム1に睨まれたら終わりさ!
やっちゃって下さいSmileさん! 僕しっかり見てます!!』
カッコいい! なんてカッコいいんだ“ヒーロー”は!
僕の憧れた人は、こんなにも凄い! こんなにも強い! 誰にも負けないっ!
ごはんパンマンは目を輝かせる。操縦桿から手を放し、もう拍手してしまっている。
だって、いま自分の思い描いていた理想が……“憧れ”がそこにあるんだから。
こんな風になりたい――――いつか僕も。
そう強く決意する事、この光景を目に焼き付けるのに、少年は忙しいんだから。
そして、美しい軌道を描いて機体を翻し、またすぐさまXBーOの上を取ったアンパンマンが、再び気化爆弾を投下。命中――――
『よし! これでXBーOは丸裸だ!
いけガルム1! トドメを刺してしまえッ!!』
『ヒャッハー! Smileさぁぁーーん!
いっけぇぇぇえええーー!!』
想いを託すような、AWACSの激。
目をキラキラさせている少年の、楽しそうな声援。
それが耳に届くのと同時に、アンパンマンがスイッチを押し込む。
Raptorの翼から放たれた最後のミサイルが、真っすぐXBーOに向けて、放たれていった。
戦う理由は無い――――
もうここに、君は居ないから。
ぼくは未だ、からっぽのままだから。
でも……今だけは戦う。
この戦いだけは、ぜったいに勝とう。
これが最後でも良い。
ここで終わっても構わないって……思ってた。
でも、あのガンシップだけは絶対に墜とそうって、そう決めていたんだ。
一人で飛ぶのは不安だ。目の前は真っ暗で、何も見えない。
一体どう飛べば良いのか、ぼくはどうやって飛んでいたのか、ぜんぜん分からなくなってる。
今日はそれを、嫌ってほど思い知ったなぁ……。
だからもう、
ただただ、強く戦うこと、果敢に飛ぶこと。
今日はそれだけを思い、戦っていた。
上手くいったのなんか、たまたまだよ。
生き残ったのなんて……、本当に偶然でしか無かった。
ぼくは今日、懸命にでは無く、
あの子達のために、死ねるのなら……、それで良いと思ったんだ。
全部あげる――――
ごはんパンマンに。これを作ってくれた子供達に。
こんなつまらないぼくでも、君達の役に立てるのなら、ぼくの全部をあげたい。
その瞳が、眩しかった。
憧憬のこもる、キラキラした目が、辛かった。
ぼくはそうじゃないんだって、叫びたくなった――――
でも、例えぼくは空っぽでも……、君達が描くその“夢”だけは、間違いにしたくない。
憧れや、こうなりたいという願い。それを無価値な物にするワケにはいかない。
綺麗だ。尊い物だ。
君達の想いは、決して間違いなんかじゃ無い。
何かを目指し、その為にがんばる――――それはとても素敵なことのハズだ。
だから、証明するよ。
ごはんパンマンに、子供達に、ちゃんと見せてあげる。
君達の前では、ぼくは強くあらなければいけない。
君達がぼくを信じるのなら、それを本当にしなきゃいけない。
たとえ、からっぽの心でも、まっすぐ立たなくてはいけない。
何のために生まれて、何をして生きるのか――――魂の在処。
ぼくは確かに、それを知っていたハズ。
君がいたからこそ、見つける事が出来たんだ。
“ヒーロー”は、逃げたりなんかしない。
みんなのために戦い、立ち向かうのが、ヒーローだから。
◆ ◆ ◆
『XBーOに命中弾! やったぞ! ガルム1がやった!!』
ごはんパンマンの嬉しそうな声が響く。
それと共に、多くの歓喜の声が、無線から聞こえてきた。
いまアンパンマンの眼下には、操舵を完全に失い、黒煙を上げてゆっくりと落下していく、巨大なガンシップの姿。
メールンを破壊し、仲間と市民の命を奪ったXBーOは、アンパンマンの手によって撃墜されたのだった。
『我々の死は、志の死ではない。……あと……任……たぞ。……ばい……ま』
最後に、恐らくガンシップからの物であろう、途切れ途切れの声が入った。
だが、いま喜びの中にいる者達は、それを気にする事は無い。
ただただ、ガルム隊の無事と、アンパンマンの力を称える声が飛び交っていた。
誰もが、この後に起こる出来事……すぐ目の前に迫る脅威に、気付くこと無く。
『ん、なんだろコレ……? 無線で信号が送られて来てます』
ふいに、ごはんパンマンの不思議そうな声が、彼の耳に入る。
『解読してみますね、ちょっとお待ちを!
えっとぉー、なになに~?』
そして、読み上げる。
棒読みで、そのままを口にしたごはんパンマンだったが……、その後すぐ、驚愕に息を呑む。
『“
……って! コレって!?!?!?』
時が止まる。
ガルム両機の間にある空気が、凍り付くのが分かった。
しかし、少しばかりの沈黙の後、時が動き出した時……。
いま薄く目を開ける彼が感じたのは、からっぽのハズの心に、小さく火が灯っていく感覚。
そして、無くしたと思っていた“勇気の鈴”が、再びリンリン音を立てはじめた事――――
(つづくぞ!)