【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】 作:hasegawa&friends
「――――何なのだこれは! どうすれば良いのだ!!」
某レッドドラゴンさんではない。これはアーチャーの声である。
彼が大粒の汗を流しながら、たった今この場に運ばれて来た“ナニカ”を凝視。アリエナイ物を見る目で。
「キャアアア!! 目がぁー! 目がぁぁーーっ!!」
「わぁぁぁあああ!!」
一番近くにいたキャスターが「ぎゃー!」と目元を押さえ、エビみたいに仰け反る。
その隣だったライダーは、思わずこの場から駆け出し、「ここから出して下さい!」と出入口の戸を叩く。
だがどれだけバンバンしようとも、それはビクともせず。なにか得も知れぬ力によって、鋼鉄のような硬度になっている模様。
即ち、どこにも逃げ場は無いという事だ。
痛い! 目が! 鼻が! 粘膜という粘膜が!!
ハッキリ視覚として捉えられるほど、濃密な“赤い瘴気”。
それが今、眼前の石鍋から、凄まじい勢いでモワァー! っと吹き上がっている。
全員、痛みで目に涙が滲み、鼻は絶え間なくグジグジ。喉なんて針で突かれているみたいにヒリヒリ。
それどころか……呼吸すらままならない! とても息など吸えない! 何の兵器だコレは!?
「おー、凄いはしゃぎようネ! トイザ〇スにでも来たみたいヨ。
喜んでもらえて、アタシも嬉しいアル☆」
「てめぇ
魃さんが「シュコー! シュコー!」言いながら、カラカラと笑う。
この場でただ一人、完全防備。これ君が作ったヤツなのに。
「こんなモンが食いたいなんて、イカレた連中ネw
頭おかしいのと違うカ?www」
「――――止めないで下さいサクラっ! ヤツを殺さなければっ!!!!」
主兵装である大きな釘で、自らの首をぶっ刺そうとするライダー。
きっとペガサスを召喚して、ベルレフォーンかまそうと思ったのだろうが、そこを桜に羽交い絞めにされる。「落ち着け」と。
いつもはお淑やかな地母神さんが、「ムキー!」と怒り狂う。その様は、ちょっと可愛く見えない事もなかった。
やがてそうこうしている内、ご機嫌な様子の魃さんが「てってけてー♪」と調理場に下がって行った。
この場に残されたのは、7人の英霊。そして得も知れぬ“赤いナニカ”が入った石鍋のみとなる。
気のせいか、なにやらこの場の空気の色さえも、赤黒くなってる気がする。戦火で赤く染まった空みたいだ。
「はい、というワケでございまして(司会進行)」
「待てぃ」
真顔のバーサーカーが、思わず普通の言葉で喋る。
キャラを投げ捨て、設定をかなぐり捨ててまで、セイバーを制した。
「何か思う所はないのか。我々に言う事は?」(■■■、■■?)
「旦那、逆になってんよ。逆」
かの大英雄が、我を失っている。ひどく混乱している様子。
いわば、それほどの状況であった。
いま彼らの目の前にあるのは、マグマのようにグツグツ煮え滾る、爆裂ゴッド麻婆なる物。
極限まで熱せられた石鍋、そして
もう「食わせる気があるのか?」と疑問を抱かざるを得ないような、ひどい有様。
これを一口でも食せば、口内を火傷する程度では済まない事は、容易に見て取れる。
加えてこの熱は、きっと耐え難い“痛覚”となって、ただでさえ辛い麻婆を存分に引き立てるだろう。
しかも、しかもだ。これ明らかに
とても600円かそこらとは思えない、いわゆる“愛情盛り”だったりもする。
これが紅洲宴歳館・泰山の心意気。
この魃、容赦はせんアル――――腹いっぱい食えヨ!
そんな声が聞こえてきそう(ぜんぜん嬉しくない)
「大丈夫、私に任せろ。
これを注文した者として、責任をもって平らげて見せよう。
わー美味しそうダナー(震え声)」
「お主は命がいらぬと申すか」
「何が貴方をそうさせるの? 白目を剥いてまで」
騎士の誇り、王の矜持。
そんなモンがあるのかは知らないけれど、とにかくセイバーが覚悟を決め、料理と対峙。
いま中華特有の回転テーブルに置かれているのは、前述の通り【爆裂ゴッド麻婆】
泰山の代名詞とも言える麻婆豆腐、そして実際に食した経験をもつセイバーをしても“最強”と称する一品である(悪い意味でだが)
一見すれば、それは赤ワインが入ったビーフシチューを思わせるような色合い。
だがその主成分は、主に唐辛子や山椒などのスパイス類であり、たとえ似たような見た目であっても、その趣きは大きく異なる。
今も石鍋の熱によって、地獄みたいにボコボコいってるし、すごく毒々しく見える。
味付けに使用するどころか、もう原型のまま「えーい!」とブチ込まれた、大量の唐辛子。
今もこの場に瘴気を放ち続けている、容器から溢れんばかりに煮え立つ、赤黒い
この具材の中で、唯一純白を誇っていたハズの豆腐は、「くーれないッ! に染ぉーまったッ! こーのおーれーをぅ♪」とばかりに、すでに哀れ堕天使の如く、血と同じ色に変貌している。
これは正に、音にきく“紅赤朱”――――その具現である。
いま士郎がグルメ番組よろしく、頑張ってこのクソッタレな料理を「じぃ~」っとブツ撮りしてくれているのだが、恐らくどんな角度から撮ろうとも、これを美味しそうになんて見せられないだろう。無駄な努力である。
そんな(ある意味で)天下一品とも言える、中華料理店・泰山が誇る外道マーb……いや爆裂ゴッドなんたら。
セイバーが取り分け用の匙を入れ、サッサと自分の皿へよそっていく。
「最初は私から行きます。
注文をした者が、食レポを担当する。これも帰れま10の習いだ」
後に貴公らも、一口分とはいえ食べる事となる。
私の姿を見て、心の準備をしておくと良いでしょう。
右手にレンゲ、左手にお皿を持ったまま、彼女はグルッと周りを見渡し、戦友たちの顔を確認する。
「では、頂きます」
こんな事を思うのはなんだけど……、綺麗だった。
彼女の所作、その丁寧な手つきに、食に対する誠実さが現れている。思わず誰もが見入ってしまった程に、美しい姿だった。
彼女が持つ、食に対する愛情は、これほどまでに深く、尊い。
その瞳は、真っすぐ眼前の料理へと向けられている。微塵もブレること無く。
パクリと、いま彼女が麻婆豆腐を一口。
静かに、そして厳かな表情で、暫し目を瞑って咀嚼する。
食べ物を頂くこと……、いや“命”という物に、敬意を払うように。
食材を生み出してくれた人達、これを作ってくれた者に、感謝しながら。
「――――ひ゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛! か゛ら゛い゛ぃ゛ぃ゛~~っ!!」
だがそんなモン、
じわじわと、ではなく〈ギューン!〉と辛さが襲い来た途端、彼女は仰け反って天を仰ぎ、恥も外聞もなく叫んだ。
「あ゛ーっ! あ゛ーっ!!
シロウ! シロォーーウ! うえぇぇぇ~~ん!!(ガン泣き)」
立ち上がり、即座に士郎の胸にダイブ。
そのまま「うわーん!」と縋り付く。大声で泣く。
「味の対界宝具や~っ! エヌマエリシュや~っ!
痛いでふシロウ! お口がヒリヒリしまふっ!
あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ !!(絶叫)」
「……」
「……」
「「「…………」」」
えーんえーん! ぐすっ! ひっくひっく!
止めどなく続く、アルトリアさんの泣き声。まるで子供のようだ。
それをドン引きしながら見守るサーヴァント達。目からハイライトが消えている。
「エッチしましょう! エッチしてくれたら治りますのでっ!
ささっ、奥に行きましょうシロウ♡ えへへ♪」
「――――そこを動くなテメェ。行かせねェよ?(真顔)」
6人がかりで「むんず!」と肩を掴み、グイッと座らせる。
なすがままストンと席に着いたセイバーを、無言で見つめ続ける一同。目が怖かった。
「食えよセイバー、まだ残ってんだろうが」
「たんとおあがりなさい。見ててあげますから」
「早くしたまえ、後がつかえている」
「鼻からねじ込んであげましょうか。食べやすいかもよ?」
「この扱いである」
食事中にエッチしてはいけません! 真面目にやりなさい! そう言わんばかりの威圧感。
セイバーの【カリスマ:B】が地に落ちた瞬間だった。Eマイナスくらいになってる。
その後、シロウによしよしと撫でてもらいながら、なんとか自分の取り分をモゴゴッと食べ進める。
その間も「うぎゃー!」とか「エクスカリバー!」とか、散々喚いていたのだが、みんな素知らぬ顔であった。はよ食えバカってなモンだ。
「というか、どんだけ甘やかしてたのよ坊や。マロングラッセ並じゃないの……」
「坊主と会えて良かったなぁオイ。こいつアホだもんよ」
「もし出会わなければ、どうなっていた事やら。
セイバーはシロウに感謝すべきです」
「■■■」(大事にしろよ……本当に)
未熟なマスターだと思っていたけれど、もしかしたらこの士郎こそが、第五次で一番の功労者なのかもしれない。
彼が一生懸命、捨て身で頑張ったからこそ、優勝も出来たし、今のセイバーがあるのだ。
もし聖杯戦争に“がんばったで賞”があるとしたら、それは間違いなく士郎に贈られるだろう。
今もセイバーを「子犬の飼い主か!」ってくらい、ドロドロに甘やかしてはいるが……、彼のこれまでの努力と苦労を想い、少し評価を改める一同だった。
よくあのサヴァで勝てたわね、エライわこの子と。
「ふぅ……。とりあえずは、こんなものでしょう」
暫くして、コトッとレンゲをテーブルに置く音がした。
ガヤガヤと雑談に興じていたサヴァ達が、手番であるセイバーの方へ、改めて向き直る。
「ご馳走様でした。
辛みのある食べ物など、あまり馴染みがなかったが、意外と良いものですね」キリッ
「セイバー、セイバー、顔面
血圧が上がり赤になるならまだしも、それを軽く通り越しての紫!
こんなのもう、死者がする顔だ!(ドン引き)
「あのぅ、キリッはともかくとして……大丈夫なのですかセイバー?」
「どこを見ておる!? お主
「ちょ……ちょっと横になるかね?! いったん休みたまえよ!」
「言ったハズだ、私には
これしきで倒れていたら、円卓の者達に示しが付きません(タラコのような口)」
あぁランスロット、ここに居たのですね……。さぁモードレッド、共に食事を……。
そうなんか妙なことを口走り始めた彼女を、総出で取り囲んで介抱。
脈を計ったり、口をゆすいだり、氷嚢を当てたりして労ってやる。
というか……
「なぁランサーよ、君は先ほど『命までは獲られない』と言ったな?」
「……」
「ならば、この惨状は何かね?
毒も化学兵器も効かない我々……だが唯一の“特効”が、この激辛やもしれんぞ」
ふらっと一人この場を離れたアーチャーが、自分の席に戻る。
そして、おもむろにレンゲを手に取った彼は、何気ない仕草で「ぱくっ!」と麻婆を食べた。
「――――カ プ サ イ シ ン ッ !!!!」ブフゥ!
「!?!?」
「「「 !?!?!?!?!? 」」」
ガバッと真上を向いて、絶叫。
そのままバターン! と後ろにひっくり返る。白目を剥いたままで。
「やべェ! 一撃だ! ひとくちでコイツを折りやがったッ!!」
「忍耐の人ですよ!? 守りと精神力において、アーチャーに勝る人なんて……!」
「なによこの麻婆! ホントにマグマでも入ってるわけ!? ウソでしょ?!」
「リン! 彼が倒れました! メディィィックッ!!」
セイバーの呼びかけに応じ、向こうの方から「グゥアー!」っと走ってきた遠坂が、即座に魔術を展開。
ぐぬぬっ……! と額に汗しながらも、全力で魔力を流し込むことで、いま消滅しかけているアーチャーの身体を、なんとか現世に繋ぎ止める。
「彼は料理人……美食家でした。
ゆえに、味覚と精神が耐えられなかったのでしょう。
このような物が、
「「「死ぬなぁーッ! アーチャーーッッ!!」」」
セイバーがうんちくを垂れるが、みんなそれどころじゃない。
いま生死の淵にいる彼を助けようと、いろいろ必死だ。
「大丈夫だよ、遠坂。
俺もこれから、頑張ってくから」キラキラ
「拙いッ! 双剣使いの顔が、いつかの少年の如く!!」
「すんごい爽やかな顔! 今にも消え去りそうっ!!」
◆ ◆ ◆
その後のことは、語るまでもあるまい。
ただただ、皆がひと口づつ、この麻婆を食べただけの事。
クーフーリンが泡を吹いて倒れ、メデューサが歌舞伎みたいに髪を振り乱して錯乱。
メディアは魔術による味覚遮断を試みたものの、その甲斐虚しく撃沈。
小次郎は「ふふっ」とニヒルな笑みを浮かべたまま硬直し、そのまま10分ほど動かなくなった。
そしてヘラクレスの宝具である“
「皆、大義でした。
このアルトリア・ペンドラゴンが、しかと見届けたぞ」ホクホク
「今すぐ第六次やらない? この子を消し炭にしたいの」
各々が、スタッフとしてこの場に控えていたマスターに治癒してもらい、なんとか事なきを得た。
まぁみんな、目に精気が無いというか、すごくグッタリしているけれど。
精も魂も尽き果てた……みたいな顔で、「じとぉ~!」っとセイバーを睨む。
というかアレは、もう辛いとか痛いとか、そういう次元じゃなかった。
人間、本当に駄目な物を口にしたら、“絶句して硬直する”。
レンゲを動かすとか、何かを考えるとか、もうそういった事も出来ず、意識が真っ白になるのだ。突然雷に打たれたみたいに。心臓をドゴンと殴られたように。
苦しむとか、悶絶するとか、それが出来ている内は
この泰山の爆裂ゴッド麻婆なる料理は、それを軽くピョインと凌駕する。
味覚や嗅覚などの五感――――そのすべてが全力で『逃げろ』と告げるのだから。
有り体に言って、普通に“生命の危機”というヤツを感じた。
「年賀状出さねェからな、おめぇ」
「今度BBQをしようか。我々
「もうセイバーとは遊んであげません。
固い蓋とかあっても、開けてあげませんから」プイッ
「私を孤独という名の檻に入れる気か。
昔を思い出します」
ならば、こちらから新年のあいさつに出向こう。
独自に開催地を調べ上げ、すぐ隣で肉を焼こう。
ビンを開けてくれるまで、お腹をクークーいわせながら、無言でプレッシャーをかけよう。
そう「地獄の果てまで追いかけます」宣言をするセイバー。私から逃げられると思うなと、自信満々で告げる。さそり座の女か。
「これで我々は、めでたく“同じ釜の飯を食った仲”となった。
私と貴公らゎ……ズッ友だょ……!!」
「本当に殺すぞ?(威圧感)」
「見よ、もう御仁が“■■■”を使うのを、放棄しおった」
「それだけの事をしたのよ? 分かってるの?」
メンバー達の苦言も意に介さず、ひとりホクホク顔。
こいつの精神はどうなってる。いったい何があったんだブリテンで。そう驚愕せざるを得ない。
「怒るのも良いだろう、その憤りは当然だ。……でも気付いていますか?
貴公らは、この帰れま10における
ふいに、セイバーがニヤリ。とても誇らしげな笑み。
それを見た途端、一同はハッとして彼女の声に聞き入る。
「少しだけ耐えられるという事は、永遠に耐えられるという事――――
これは空手道の精神を表す言葉らしいが、貴公らはどうだ?
……既に頭の中に、“勝てるイメージ”が浮かんでいるのでは無いですか?」
木っ端とは言いません、だが後は全て格下。
貴公ら英雄が、これまで成してきた偉業に比べれば、恐れるに足るまい。
すでに御身は新兵ではなく、ひとつ戦いを越えたまごう事なき戦士だ。
そうセイバーが、強い信頼を込めた瞳で、戦友たちの顔を見る。
山頂は遥か遠く……だが我らは確かに、一歩を踏み出したのだ! 確実な一歩をと!
「無事完食しました! それでは結果発表に参りましょうっ!
この爆裂ゴッド麻婆……何位ですかぁー↑」
高らかに響く声。
司会進行役のセイバーが、別室でモニターしている綺礼に向けて、元気よく訊ねる。
果たして! 泰山の人気ランキングTOP10に、爆裂ゴッド麻婆は入っているのかぁー?!
セイバー達が原点の番組よろしく、手を祈りの形にして目を瞑る中で、ドラムロール音が響く。
デケデケデケデケ……!
『第ッ! ――――――
「えっ」
「えっ」
「えっ」
◆ ◆ ◆
爆裂ゴッド麻婆は、この日のために考案した“新メニュー”アル!
ウチのお品書きには、以前から麻婆豆腐があるケド、この爆裂ゴッド麻婆は
いわばパワーUPバージョンだネー!
開発するにあたり試食をさせた言峰と、三日前からいたセイバーちゃん以外、まだ誰も食ったこと無かたヨ♪
だから、泰山の全メニュー73品の中で、ぶっちぎりの最下位!
実質的な圏外と言えるネ☆
・解説のワイプ: 謎の中華少女、魃さん
◆ ◆ ◆
「……」
「……」
「「「…………」」」
静寂。静まり返る泰山の客席。
あんなに頑張って、死ぬ思いまでしたのに、あの料理はTOP10に無かった。まったくの無駄骨。
それどころか、「あーーっはっは! 騙されたアルなぁ! バッカでー♪」みたいな魃さんの声が、今も調理場の方から聞こえている始末。
越えた? 第一歩? 勝てるイメージ?
そんな物ありはしなかったのだ!
「……えーっ、コホン」
そして、とりあえずこの沈黙を打破すべく、当事者であるセイバーが咳払いをひとつ。
「この素晴らしい麻婆豆腐を、第五次の皆で食べられた事、私は嬉しく思う。
それは決して――――間違いなんかじゃないんだからっ!」キリッ
今度こそ叩かれました。
(続くのかね!)