【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】 作:hasegawa&friends
「さて、これまでの流れを、一度おさらいしておきましょう」
司会進行役のセイバーが、「よいしょ」とフリップを取り出し、カメラの方へ向ける。
「七騎のサーヴァントが一巡し、現在の正解数は“4”。
泰山の人気ランキングTOP10は、残すところ後6品となります」
・第1位 麻婆豆腐 (ライダー)
・第2位 泰山式・
・第6位 ピリカラ(笑)餃子 (バーサーカー)
・第9位 杏仁豆腐 (キャスター)
……………………ランク外……………………
・18位 滅殺☆
・30位 ネオ四川風・みかんシャーベット
・45位 油淋鶏
・46位 唐揚げのチリソース風
・47位 若鶏のカシューナッツ炒め
・65位 石焼き麻婆炒飯
・72位
・73位 爆裂ゴッド麻婆
【計12品】
「ふむ、7騎中3騎が当てたか」
「だが12品も食って、当たったのは4だろ?
正解率で言やぁ、33%くれェだかんなぁ」
「たしか原典の番組では、序盤にこそ多く当てていた筈です。
その時々にもよりますが、5連勝くらいは普通にしていたような……」
弓・槍・騎の三名が「うむむ」と唸る。
誰もが腕組みをし、難しい顔で眉を歪めている。
「最初の方って、当てやすいのよね。
ファミレスで言う所の“フライドポテト”や“ハンバーグ”みたいな安牌を、とりあえず押えていけば良いのだし」
「そこにきて我らは、初っ端から三連続で外しておる。決して順風満帆とは言えぬよ」
「■■■」(安牌と言えるのは、麻婆麻婆くらいのものだった。それも既に使ってしまったからな)
いま考えると、あの石焼き麻婆炒飯が駄目だった時点で、もう絶望に叩き落されていたように思う。
ここには安牌といえるような料理が、ほとんど存在しない。激辛料理を旨とする泰山は、一般的な店とは根本的に性質が異なるので、中華の定番料理をおさえる~といったセオリーが通用しないのだ。
しかも、とにかく辛そうな物をいけば良いのかと思いきや、第9位に杏仁豆腐がランクインしたという例もあり、この店独特の特色がある事が窺える。
加えて、毎回のように見せられる魃さんのワイプ映像によると、なにやら泰山の品々には、それぞれにテーマというか……彼女の妙な拘りめいた物が見受けられるのだ。
それはしょーもないジョークだったり、嫌がらせだったり、純然たる悪意だったり。
時にはこちらをあざ笑うかのように、「バッカでー♪」と思考の裏をかいて来たりもするので、本当に質が悪い。
まるで、灯台の灯りもなく夜の海を往くような心細さ。
道しるべと言える物が存在しないまま、あと6つも正解しなくてはならない。
それに自分達は、既に14品もの料理を腹に収めているし、きっと今後もたくさん無駄な料理を食べさせられるであろう事は、想像に難くなかった。
「■■■」(今更だが、
「改めて見ると、ビックリよな。
激辛に四苦八苦しておる我らを、煽っておるようにしか見えぬ」
「そして結果的にだけど、三騎士は全員不正解っと。
確か貴方達って、
(((ぷいっ!)))
なにが「誉れ高き三騎士」だ。こっち向けよこの野郎。
そんな皆の視線から、頑張って顔を背ける剣・弓・槍の三人だった。
「確かに現状は厳しいですが……、でも悲観する事もないと思います。
とくに時間制限があるワケでもなく、それぞれのマスターもこの場に控えている。
それに、頼りになるバーサーカーがいてくれますから。安心して挑めます」
地母神の慈しみを思わせる、ライダーの柔らかい微笑み。
それを見て、一同もコクリと頷く。まだまだこれからだと気合を入れ直す。
確かに順調とは言い難いが、言ってもまだ一巡目。序盤である。
未だこの店の傾向も掴み切れず、まさに五里霧中といった感じではあるが、焦ることは無い。
頑張って食べ続けていれば、いつかは終わるのだし、ここから連勝を重ねていく事だって、決して不可能では無い筈だ。
「それに、私はまだ“エビマヨ”を頼んでいませんし。
きっとTOP10に入っていますから、実質あと5つです♪」
――――えっ、まだそれ言ってるの?
思わずみんな、ライダーの方を見る。
「俺ぁてっきり、酔っぱらって言ってんのかと……。マジかよお前」
「お、お主は本当に、海鮮を好いておるのだな。
いや……マヨネーズの方か」
「?」
ライダーがコテンと首を傾げる。
その姿はとても可愛くはあったが、でも今の皆からしたら、もう迷惑な話でしか無い。
「あとですね? “冷やし中華”も美味しいと思うのですよ。
キュウリやトマトがたくさん乗っていて、彩りも華やかですっ。
あ、マヨネーズもかかってますよ♪」
「どんだけマヨ推すのよ貴方!?(驚愕)」
うふふ♪ とライダーさんが嬉しそうに笑う。その無邪気で花のような微笑みが眩しい。
だがみんな、頭を抱えてしまっている。もう「どうしよっかなこの子……」ってなモンだ。
ここは泰山で、激辛のお店だというに。彼女は一貫して美味しそうな物、そして自分が食べたいと思える物を、素直にチョイスしているようだ。
エロい恰好してるし、クールビューティかと思っていたのに、意外と子供のようにピュアであった。
「アレか……君は白飯に、マヨをぶりぶりしちゃう方かね?
そしてロクにおかずを食べず、お母さんを困らせてしまうという……」
「■■■」(なんにでもマヨかける人いるよな。たまに『マジでか!?』ってなる時あるぞ)
「それどころか、直にマヨをチューチューする輩もいるそうだけど……貴方もそのクチなの?」
「えっ、そんなお行儀の悪い事したらダメです。
サクラに怒られますよ?」キョトン
こいつはライダーじゃなく、“マヨラー”のサーヴァントなのかもしれん。
なんか騎乗兵のワリには、いつも変な釘で戦ってるよな~と、前から思ってたんだ俺は。
そんな妙な疑念を抱く一同だった。「冬木の聖杯はクレイジーだぜ!」と。
まぁそれはともかくとして……、現状の確認を終えた七騎は、また気持ちを新たにし、改めて手元のメニュー表と向き合う。
むむむと眉間に皺をよせ、穴の開くくらい凝視。それぞれが次の注文や、情報の整理、今後の方針などに頭を悩ませていく。
しかし、そんな中……。
『――――ケ イ ネ ス 様 の ア ホ ォ ー ー ッ !!!!』
「「「 !?!?!? 」」」
突然遠くから響いた大声に、みんな「びくぅ!」と飛び上がる。
「――――ぎゃああああああああああ!!!!」ガッシャーン!
「「「 !?!?!? 」」」
続けざまに、誰かが店に飛び込んでくる音。
窓ガラスを突き破り、弾丸のような速度で椅子だの机だのをなぎ倒す。その後ゴロゴロと床を転がり、壁に激突した。
「なぜ貴方さまはッ! 我が忠節を分かって下さらないのかぁぁぁあああーーッ!!!!」
更に〈カランコローン♪〉と入店して来たのは、かの赤枝の騎士ことディルムッド・オディナ。
無茶苦茶な事を言いながら「ムキャー!」と怒り狂う彼が、「うおおおおー!」と雄たけびを上げて突進して来る。
つい先ほど、背負い投げをかまし、ここまでぶっ飛ばした
「主よッ! 分かって下さらないのなら、
貴方を殺して、俺も死にますッ! お供しますケイネス様ーッ!!」
……うっそだろオイ(震え声)
そう ( ゚д゚)ポカーン とする第五次サーヴァント達。
今も「うわー!」と泣き叫び、己の主の胸倉を掴んでガクガクしているディルムッドを見つめる。メニュー表を持ったままカチーンと硬直。
「――――じ ゃ か ぁ ー し い わ ボ ケ ェ ェ ー ー ッ !!!!」ゴツーン!
「「「 !?!?!? 」」」
そして! 突然カッと目を開いたケイネス・エルメロイ氏が、渾身の
噴き出す鼻血、割れる額、バタンと倒れ込む身体。
空気さえも揺らす、耳を疑うようなとんでもなく鈍い音が、ガラス片だの椅子だのが散乱した泰山に響く!
「貴様の忠義なんぞッ、知るっっっかあああぁぁぁ!!
イ ケ メ ン は 死 ね ぇ ぇ ぇ え え え ー ー ッ !!!!」
ごっすん☆ ごっすん☆ ごっすん☆ ごっすん☆
かの有名な東方アレンジ曲の如く、ケイネスの頭突きが何度も何度も炸裂。血だの汗だのが激しく辺りに飛び散る。
「しっ……死にませぬッ! イケメンは死にませぬケイネス様!
これぞ、世界の
「黙れぇーッ!! 何がイケメンだ馬鹿者ォーーッッ!!
前髪のピョロリで誤魔化しておるが、貴様デコ助ではないかぁぁぁああーーッ!!」
「なっ!? それはお互い様ではありませぬかッ!
我ら“デコ助主従”に御座いますケイネス様ッ!」
「なんじゃあ!? だからお前やったんかぁーッ!!
確かに、自分と性質が近い英霊が呼ばれる~ってゆーけどォ!
私が最近、前髪の後退をすんごい気にしてるから、同じような悩みを抱えてたディルムッド・オディナが召喚されて来たんかァァーー!!」
「ザ ッ ツ ラ イ ト に 御 座 い ま す 我 が 主 !!(迫真)
お互い若ハゲだし、きっとこの人となら上手くやれる! 分かり合えるッ!
そう思い、俺は御身のもとへ馳せ参じました!!」キリッ
「ハゲてへんわッ! まだハゲてへんわッ!! 来んなボケェェーー!!!!
しょせん貴様など、cv緑川光のお蔭で、イケメン扱いされているだけであろうがッ!!
ホクロとか関係ないわ! 緑川光が声やってたら、みんなイケメンなんじゃー!!(暴論)」
お互いの胸倉を掴み、ガンガン殴り合う。
一方は歪んだ忠節を、もう一方は嫉妬と罵詈雑言を口にし、拳と共に思いの丈をぶつける。
「やめて二人ともっ!
「――――ちゃうわぁボケェェェーー!!!!」
「――――死ねボケェェェーー!!!!」
そこに颯爽とソラウ女史が登場。
だが二人共、即座に切って捨てた。歯牙にもかけずに。
「呼ばんかったら良かった! 召喚せんかったら良かった!」ボカスカ
「逃がしませんぞケイネス様! 一生ついていきます!」ドカバキ
「ああっ……! 美男子二人が、私を取り合っているわ!
なんて罪深い女なのかしら♪」クネクネ
非モテ魔術師と、拗らせた忠義者と、勘違い女――――
突然ドタバタやり始めたお三方を、サーヴァント達は暫しの間、ただただ見守った。
地獄だ。
◆ ◆ ◆
【ゲスト回、13皿目】 ケイネス陣営のみなさん
デデンデデン! バババババン、バンバン! ジャジャジャン☆ ピーッ♪(BGM)
1巡目を終えた所に現れたのは、かの第四次聖杯戦争で活躍したお三方、ケイネス陣営!
神童ケイネス・エルメロイ・アーチボルト氏。
二本の槍を自在に操る英霊、輝く貌のディルムッド。
魔力供給の担当であり、ご令嬢な魔術師、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリさん。
かの毛利元就が説いたとされる“三本の矢”の逸話のように、力を合わせてTOP10を当てられるのかぁ~!
・ナレーター: 言峰フルテンション綺礼
「コホン! ……いや失礼をしたな諸君。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが、ここに推参つかまつる」
「帰ってもらえんかね?(真顔)」
あれから10分ばかりの時が経ち、なんとか「キリッ!」と取り繕おうしたケイネスだが、普通に拒否される。
「お願いします、のんびりやりたいのです」
「私達は静かに暮らしたいのです。おねがいします」
「いや……セイバーにライダーよ、そんな深々と頭を下げずとも」
今日はお前達に会えるのを楽しみにして来たんだぞ? つれない事を言うな。寂しいじゃないか。
そうディルムッドに「ニコッ☆」と窘められるが、二人は未だにぶす~っとした顔。
先ほどのドタバタの事もあり、未だケイネス達を信用しきれない様子。
確かに同じサーヴァントとして、こうしてディルと会えたのは嬉しいのだけど……、でも昼ドラめいた騒動は御免だ。
せっかくみんなでごはん食べてるんだし、そーいうのは余所でやってくれと、ごきげんナナメである。
この人達がガッシャーン! と飛び込んで来たせいで、いま店中えらい事になってるし。台風でも来たかのような有様なのだ。
「ゴタゴタ言ってないで、中華もってきなさいよ下民共。こちとら上級国民よ?(威圧感)」
「オイこの女サイコパスだぞ。とんでもねェやつ来たな」
そして、この場でたった一人、我関せずで椅子にふんぞり返っているソラウさん。
ここには無いけれど、葉巻でも咥えてそうな雰囲気。マフィアの親分みたい。
「う~んと……そーねぇ。
アンタと、アンタと、アンタ! ちょっとこっち来なさ~い」
「「「 ? 」」」
順番にセイバー、アーチャー、アサシンが呼びつけられ、とりあえずは言われるままにテテテっと寄って行く。
「アンタ達、顔だけは良いみたいだから、
肩もんだり、お酌したり、うちわで扇いだりしなさい(札束を床に投げながら)」
「はっはっは、ソラウは
では諸君、彼女が言った通りにしたまえ」
サーヴァント風情には、身に余る光栄だろう?
そうにこやかに笑うケイネスと、だるそうに椅子に腰かけるソラウ。
「あ、申し訳ありませんお二人とも。少し待っていて下さいね?」
「――――おいホクロ野郎、テメェどーいうこった?」ゲシゲシ
「――――なんとか申せお主。黙っておっては分からぬ」ゲシゲシ
ソソクサと店の隅っこに連れて行かれたディルムッドが、第五次のサヴァ達に取り囲まれる。カツアゲされてる中学生みたく。
「ちょっとぉー、早くしてくれな~い?
あたし喉乾いちゃったー! なんか持って来てよぉー!」
「なにをモタモタしている。アホのソラウがこう言ってるぞ?
まったく使えないな、下賤の輩というのは」
「■■■」(お前よくアイツらに仕えてるな。でも殺すぞ?)ゲシゲシ
「後であの人達、蟲蔵にぶち込みますから。ゾウケンも喜びます」ゲシゲシ
「なぜ連れて来た? 人間の屑ではないか、君のマスターは」ゲシゲシ
七騎がかりで脛を蹴られるディルムッド。そしてのほほんと声をあげているソラウ&ケイネス。
主従の対比が物凄い事になっている。
「屑だと……? 何を言っている、
とても仕え甲斐があって、俺は満足だ」キッパリ
「貴公も狂っていたのか……。無念だ
そっけない所とか、女の尻に敷かれてる情けなさとか、容赦なく騎士の矜持に唾を吐かれてる感じが、たまらんのだ!(迫真)
そうディルがフンスフンスと熱っぽく語る。
この出会いは運命だ。ケイネス様にお仕えすることが出来て、俺は幸せ者だなと、真顔で言ってのけた。
「実はな? 俺のマスターを自慢したくて、ここへやってきた所もあるんだ。
どうだ、羨ましいかセイバー?
でもやらんぞ。ケイネス様は俺だけの物だ」キッパリ
「すいません、涙がちょちょ切れそうです」
「■■■」(ヤツはもう駄目だ、そっとしておこう)
自分が今ツライって事が、分からない。
不幸なんだって事が、理解出来ない。
こんなの月姫の琥珀さんと一緒じゃないか。しかも彼には遠野志貴くんのように、心を救い上げてくれる人すら居ないのだ。
ディルがエへへと笑う。少年のように照れ臭そうに――――
コイツに真実を教えることに、いったい何の意味があるのだろうか?
ここで世間一般の常識や、正しさを振りかざしても、仕方ないのではなかろうか?
なぜなら、彼はいま
じゃあもう、それでいーんじゃないかって……。
たとえウソでも幻でも、ディル自身が満足してるのなら、もうほっといてあげるのが世の情けってモンかもしれない。
士郎くんという素晴らしい少年や、愛しの葛木先生、そして凛、桜、イリヤといった素敵なマスターを持つ第五次の者達は、もう何も言えなくなってしまう。
まぁ言峰という、ある意味
槍の英霊ってゆーのは、不憫なヤツばっかりだ。どうしてなのだろうか。
「ケイネス様ッ! 俺がこの者達に代わり、酒をお注ぎします!」
「うむ。では
そしてディルムッドが主の下へ。
ニッコニコしながら、子犬のように嬉しそ~に駆け寄っていく。
「あら、ディルムッド様がやって下さるのですか?! まぁどうしましょ♪」
「お前じゃねーよッ! 箱入りクソ女がぁぁぁーーッ!!
ケイネス様から離れろ! 離婚しろ! 死ねッ!!!!(辛辣)」
なにこの関係性――――こわい。
あれから何年経ったのかは知らないが、だいぶ三角関係を拗らせた様子のケイネス陣営であった。
◆ ◆ ◆
ここいらで、少し三人の関係性を、整理してみたく思う。
どうやら第四次の戦いでセイバーが感じていた物とは、随分と変化しているようだから。
まずは、この陣営のリーダーであるケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
彼は有り体に言って、もう色々と
当時は婚約者であり、現在はめでたく妻となった筈のソラウに対して、もう耳を疑うような酷い呼び方をしていたり、遠慮なく「ボケェー!」と言ったりしている。
こっちを向いてくれないソラウへの鬱憤が貯まり過ぎて、それがメルトダウンしちゃったっぽい。
まぁ今も好きは好きなのだろうし、妻として大切にはするけれど、言いたい事はハッキリ言うぞ! それが今のスタンスであるらしかった。
そして、前からいけ好かなかったディルに関しても、その鬱憤を胸の内に仕舞っておく事を止め、遠慮なくぶちまけているようだ。
あの聖杯戦争も、敗北という形で幕を閉じたのだし、もうこんなヤツに気を遣うことも、手を借りる必要もないとばかりに。
だが傍目から見ていると……なのだが。
ボカスカと主従で殴り合っているその姿は、
思い通りいかない事にイライラし、自らのサーヴァントに不満を募らせ、いつも額に青筋を浮かべていたあの頃とは、まさに雲泥の差だ。
かのトムとジェリーで有名な言葉に、「
あれからなんだかんだあれど、ケイネスはケイネスなりに、己のサーヴァントとの付き合い方を確立したのかもしれない。
では次にディルムッドに関してだが、彼の方も
前は“騎士の在り方”というものを重んじ、たとえ何があっても黙って忠義を尽くすばかりであったが……。
対して今はもう「うわー!」とばかりに、己の好意や願望を、遠慮する事なくケイネスにぶつけているようだ。
以前の彼は、ある意味“自分の理想”ばかりを見ていたように思う。
それを叶える事だけを考え、ちゃんと目の前にいる人に、目を向けていなかったのだ。
ゆえに当然ながら、己の主であるケイネスとの関係性は、決して良い物とはならなかったのだろう。
サーヴァントだから、マスターだから。騎士だから、主だから――――
そんなふうに頑なで、ただただ真面目であるだけのディルムッドでは、ケイネスと理解し合えるハズもない。
上手くいかず、軽んじられ、騎士の在り方すらも侮辱され、ディルはいつもウジウジしちゃってた印象があるが……、でも現在はそれなりに
先ほどの喧嘩のように、おもいっきりポカポカ殴り合った後、いつもケイネスは「ふんっ!」と口では言いつつも、ちゃんとディルが負ってしまった擦り傷を治してくれたり、ポイッとアクエリを投げてよこしたりと、さり気なく労ってくれる。
ようは、
ケイネスが何を思ってやっているのかは、定かではない。
ツンデレなのか、上司としての管理術なのか、はたまた殴り合ってスッキリした事へのお礼なのか。ディルには知る由も無かった。
けれど、たとえそれが何であろうとも、ディルは嬉しい。今すごく幸せなのだ。
お互いにモヤモヤしていたあの頃よりも、殴り合いの喧嘩をしている今の方が、ずっとケイネスを近く感じる。
“我が主”ではなく、“ケイネス”という人間そのものと接しているという、その実感があるだ。
なんたって、これも立派なコミュニケーション。前はそれすら無かったワケだから。
それに、ケイネスよりかけられる辛辣な言葉や、彼の魔術師的な傲慢さにも、今ではだいぶ慣れてきた感じ。
長く付き合っていく内に、彼の人間性に対する理解が深まっていったのだろう。
なぜ騎士の忠節を理解してくれないのか~と、時折そう憤ることはあれど、彼だって魔術師の在り方という物を理解しようとしなかったのだから、これは“お互い様”。
今なら過去の自分の間違いが分かる。俺は身勝手だったのかもしれんと、そう反省しているディルムッドなのだ。
むしろ最近は、ケイネスからぞんざいな扱いをされるのが、
酷いことを言われるほど、想いが届かなければ届かぬほど、「これはやり甲斐がある!」と謎の闘志を燃やしたりもする。
いつかケイネス様と、最高の主従になるぞーっ!(フンス)
……そう決意を固める、明後日の方向に前向きな、赤枝の騎士なのだった。
そして最後、ソラウ女史についてであるが、
箱入り娘というか、ぶっちゃけ世間知らずなので、どこか周りと感覚がズレているのだ。
いくらケイネス&ディルムッドに「ボケェェェ!!」と言われようが、そんなの全く気にせずに、気持ち悪い顔でニコニコしている。
妄想や、願望や、夢。そんな“自分の世界に生きている”といった感じ。
もっと言うと、
これもひとえに、ずーっとお城みたいな屋敷の中
勘違いされがちだが、彼女は夫たるケイネスの事を、
それどころか、たとえ親に決められた結婚だとしても、ケイネスの妻となる事に不満はなく、むしろ凄い魔術師である彼を、内心では好意的にとらえている程だ。
ソラウは彼に対し、いつもそっけないように見えるが……、これはあくまで“令嬢”としての態度。親にそうあれかしと仕込まれたゆえである。
わがままや、傲慢さ、高飛車な態度。これらは全てソラウ本来の性質ではなく、令嬢として高貴さを持たせる為だったり、女としての価値を高める為に、後天的に付加された性格だ。
たとえケイネスに対して「つーん!」とした態度を取ってはいても、これは“そういう物”的な立ち振る舞いに過ぎず、彼女本来の性格としては、むしろちょっと内気なくらい。
夢や希望に想いを馳せる、純粋な女の子。それがソラウさんなのである。
それに加えて、第四次の時にディルムッドという超絶イケメンと出会い、今まで感じた事のなかった恋慕に胸を焦がしたからこそ、少し夫のことを蔑ろにしちゃってた~というワケだ。
恋する暴走特急といえば、多少は聞こえも良くなるだろうか?
いつもは髪をイカついオールバックにしてるから、誰も気付かないのだが……、実はお風呂の後とかに髪を下ろしているケイネスって、とってもカッコ良い。
すごく端正な顔をしているのが分かるし、声だって素敵。なにより心から自分を想ってくれている人。
ソラウ的には、十二分に“アリ”と言える男性だ。
彼女は夫であるケイネスの事を、実は
まぁそんな夫とサーヴァント……いわば“イケメン”の二人が、最近は仲良くドタバタやっているワケである。
それを見て、いつもソラウの胸は、キュンキュンしぱなっしであった。
――――いいじゃな~い。なんか
ツンデレの主と、健気な従者とか、とってもナイスな組み合わせよ(鼻血)
そう彼女が想像の翼をファッサー! とさせちゃった事は、想像に難くないだろう。
彼らが男同士、毎日とっくみ合いの喧嘩をしているのも、ソラウ的には「眼福ッ!!」って感じ。
むしろベッドの上でやってくれないかしら? あたしの事は気にしなくていーのよ? ってなモンである。
あれから自分の世界に生き、何を言っても全く話が通じない(おかしくなってしまった)ソラウに対して、ケイネス&ディルの両名も、今では歯に物を着せない物言いをするようになった。
コイツはダメだ、もう気を使っても仕方ない。これからは楽に付き合っていこう、みたいな。
ゆえに、時にはアホだのクソ女だのといった、けっこう酷い言い方……もといツッコミを入れていたりするのだが……。
まぁ例によってソラウは、乙女の妄想にキュンキュンする事で忙しいので、それを全く気にしていないのだった。
いくら彼らが「BLとちゃうわ!」と反論しようとも、全く聞く耳を持たない困ったちゃん。それが今のソラウ嬢である。
……以上が、なんだかんだあって劇的に変化した、お三方の近況である。
これまで挙げてきた全ての要素が重なり、現在ケイネス陣営の人間関係は“とっても良好”と言っても差し支えない(白目)
はっちゃけたケイネス、拗らせたディルムッド、夢見るソラウ――――
いわば
なかよし!(ヤケクソ)
「あ、店員さん。“やおい定食”をひとつお願いするわ」
「――――あるかぁボケェェェーーッッ!!!!」
「――――死ねボケェェェーーッッ!!!!」
プリップリのやつ持って来なさいよ、早くしてよ。
そう麻薬中毒者みたいに虚ろな目のソラウに、ツッコミを入れるケイネス&ディル。
「ちなみに“プリップリ”というのは、男の子のおしりをイメージしているわ。
たしか中華には、桃饅頭というのがあった筈。
それ頼めば、あたし幸せになれる気がする。半日はエロ妄想が出来r
「帰って下さらない?(真顔)」
キャスターが素の声で懇願するが、例によってソラウはそしらぬ顔。
「おほんっ! では我々も注文していこうと思う。
誉れ高き時計塔の魔術師に、手を貸してもらえるのだ。光栄に思うがいい亡霊共」
「本当に居座る気なんですね。もうどうにでもして(レイプ目)」
「■■■」(誰が呼んだんだコイツ等……。あんまりだろう)
ライダー達の諦観の表情を気にする事無く、ケイネス陣営の三人が、機嫌良さそうにメニュー表を開く。
こんな小汚い店に、わざわざ来てやったのだ。感謝してもらいたいものだな! プンプン!
そう時折「イラッ☆」とする声が聞こえてくるが、仲間達はもう貝のように口を閉ざし、ただただ嵐が過ぎ去るのを待つばかり。早く終わってくれと願いながら。
「時にディルムッドよ。一応訊ねておくが、貴様は何が良いと思う?」
「はっ! 俺はこの“
「ほっほーう、如何にも貴様らしい、凡愚の考えだ。
おおかた『パプリカやピーマンの彩りが綺麗だな~』とか思い、食いたくなったのであろう?
よかろう頼もうじゃないか(即決)」
――――優しッ!?
なんだかんだ言いつつも、従者の顔を立ててるじゃん!
そう思うサーヴァント達だったが、ここで口を挟むとややこしい事になりそうなので、静観を貫く。
「ではソラウよ。先ほど君は桃饅頭のことを言っていたが、それが良いのかな?」
「いえ、あたし上流階級だし、やっぱ“あわびのうま煮”を食ってやろうかなって。
これ
「あっはっは! 馬鹿の発想だッ!!
笑い過ぎて涙が出てきたよソラウ!
よしそれも頼もう(即断)」
――――いい人なんじゃないの!? ケイネス優しくない!?
内心「なんだコイツ!?」と思いつつも、引き続きお口チャックマン。
みんな頑張って耐える。
「では一人一皿という事で、私は“八宝菜”にしようかな?
これは沢山の野菜や肉を、とろみのあるタレで炒めた物だ。うずらの卵も入っているんだぞ。
どうかねディルムッド、ソラウ」
「えぇ……
「貧乏臭いったらありゃしないわ。なによウズラって」
――――報われねェ! ケイネス頑張ってるのにっ!!
もう叫びそうになる一同だが、必死で歯を食いしばる。
「もし、店長のお嬢さん?
青椒肉絲と、あわびのうま煮と、八宝菜の三品を頂こうか。
あとソラウの土産用に、桃饅頭を包んでくれたまえ。
こやつは遠慮して言わなかったが、ディルムッドは焼売も好物なので、それも一緒に頼むよ」
――――気が利く! 行き届いてるッ! そして鋼のメンタル!!
なにこの世界観。「お前らどーなっとんねん」と叫びたくなるサーヴァント達であった。
◆ ◆ ◆
関係無いけれど、こいつら普通に飯を食うテンションで、ここへやって来たらしい。
「 なんだこの赤黒い料理はッ!? 鼻がヒリヒリする!! 」
「 お下がりくださいケイネス様! ここは俺がッ!! 」
「 いやぁぁぁッ!! 目がッ、目がぁぁぁあああ~~ッッ!! 」
駄目だコリャ(白目)
もう今日何度目か分からないため息をつき、サーヴァント達が下を向く。
「こっ……これは私の知っている八宝菜ではなぁ~い!!
誰の差し金だッ?! このケイネス・エルメロイ・アーチボルトの命を狙う、何者かがいる!?」
「ご安心を! たとえ何が来ようとも、お守り致します!
赤枝の騎士の名にかけてッ!!」
「……(無呼吸)」
大惨事。ケイネス陣営がパニックに陥っている。
ケイネスが「くっそぉー!」と髪をかき乱し、ディルが槍を構えてキョロキョロ辺りを見渡し、ソラウさんは口から涎を垂らして机に突っ伏している。
ここにいる誰もが通った道ではあるのだが、もう見てらんない。
というか……やっぱ魃さん容赦ねぇな。
お土産用に包んでくれた桃饅頭や焼売さえも赤黒かった所を見ると、一切の手心を加えること無く、全力で作りやがったらしい。
たとえゲストだろうが、一見さんだろうが、外国人だろうが、あの人は皆殺しにつもりで中華鍋を振っているんだろう。
いったい何が彼女をそうさせるのだろうか? ちょっと気になったけれど、今はそれどころじゃない。
「なんという悍ましさ……。
話に聞く聖杯とやらも、きっとここまでではあるまい」
ディルムッドが背中で主を守りつつ、ズラリと並んだ三品と対峙。
「だが恐れるものか! 見ていて下さいケイネス様!
俺がこの料理を、全て食べきってご覧に入れますッ!!」
「きっ……貴様! ディルムッド?!」
覚悟を決めた顔で、ディルが席に着く。その姿にケイネスは目を見開いている。
彼には理解出来ないのだ、騎士の在り様という物が。
貴方を守る、貴方の為に戦うという、ディルムッドの何よりも大切な
「ただ、その前にひとつだけ、お願いしたき事が御座います……我が主よ」
邪悪な中華料理と対峙するディルムッドが、ふと彼の方を向く。
「もし、これを全て完食した暁には……、今度こそ認めて頂きたいのです。
我が忠節と、騎士の誇りを――――」
一瞬、この場が静まり返る。
彼の決意の籠った声に。その眩しいまでの男気に。
きっとソラウが起きていたら、またワーキャー騒いでいた事だろう。それくらい赤枝の騎士はカッコ良く、雄々しかった。
「これ以上の言葉は無粋。
しかと示しますゆえ、どうか」
いま彼が、両手にそれぞれお箸を握る。
その様はまさに、戦場を駆ける二槍使いその物。
眼前の料理を残らず殲滅せんとする、ディルムッド・オディナの本気! 誇り高き戦士の姿!
「――――フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ、推して参るッ!
ご照覧あれケイネス様! イ ケ メ ン は 死 な な い ッ ☆」ニカッ
~1分後~
「……」チーン
「あ、ダメみたいですね(察し)」
セイバーの悲しい声が、静寂に吸い込まれて消えた。
◆ ◆ ◆
八宝菜も、青椒肉絲も、あわびのうま煮も、唐辛子とかの各種スパイスによて、魔改造された一品アル!
当然、泰山の例に漏れず、物凄く辛いネ☆
本来そーゆう料理じゃないような気がするケド、細かいことはいーんだヨ! あっはっは♪
いつも思うけど、外人共がウチの料理で悶絶してるのを見るのは、とても気分イーアル!
えらそーに人種差別してても、しょせん四川風中華の前じゃ無力ネ♪
おーこら! アジア人なめんなヨ! たらふく食てけ白人共☆
・ワイプ: 謎の中華少女、魃さん
◆ ◆ ◆
『第ッ! ――――――35位ィィ!!!!!』
『第ッ! ――――――26位ィィ!!!!!』
『第ッ! ――――――60位ィィ!!!!!』
そんな言峰のナレーションも、耳を傾けること無く……。
「不愉快だッ! 二度と来るかこんな店ぇーッ!!」
「お待ち下さいませケイネス様ッ!? お待ちをーーッ!!」
ケイネスが〈バーン!〉とテーブルを叩き、店を立ち去って行く。
気絶したソラウ嬢を背負い、アワアワと狼狽えるディルムッドも後を追う。
「クッソ……! 日本にはロクな思い出が無い! どーなっているんだこの国は!
おいディルムッドよ、フィッシュ&チップスを食いに行くぞ! 口直しに付き合え!!」
「はっ……! はい仰せのままにッ! どこまでも付いていきますケイネス様ッ!!」
ケイネスが「プンプン!」と肩を怒らせて歩き、それにディルが甲斐甲斐しく付き従う。
なにやら、とても嬉しそうな顔。元気な犬みたいに喜んで。
「一体なんだったのかね、あの者達は……」
「分かりませんアーチャー。
でもどうか、
そして、取り残された第五次のメンバー達。
嵐のような時間が過ぎ去った後も、彼らは暫くの間、その場で呆け続ける。
余談だが、ケイネスらが残しちゃった料理は、後でセイバー達がおいしく頂きました(血涙)
(アンリミテッド・つづき・ワークス!)