【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】 作:hasegawa&friends
「なぁ、お前ズルくね?」
AM2時――――
帰れま10 in 泰山の開始から、8時間が経過。
「……何かね皆? なぜ私の方を見るんだ」
現在この場には、なにやら挙動不審な様子のアーチャー、そして彼を「じぃ~!」っと睨んでいる仲間達の姿がある。
いかなる時も動じず、冷静沈着が売りの弓兵。……だが彼は今、なにやらこの上ない居心地の悪さを感じており、みんなと目線を合わせないよう、「プイッ!」と必死に顔を背けている。
「ど、どうしたんだね君達?! そのように押し黙って……!
私に言いたい事でもあr
「――――その“白いヤツ”は何?」
スパッ! と一刀両断。
あたふたと狼狽えていたアーチャーが、たった一言でフリーズ。
「それだそれ! テメェの手元にあるヤツ!
何が入ってんだ、そのコップ! 吐けオラッ!」
「見た所……牛乳? いえヨーグルトでしょうか」
「なにやら、とても甘そうな飲み物ですねぇ。
ここ泰山にある物は、水以外はすべて辛く、赤い色だったと記憶しているが」
「たしか乳製品には、辛さを緩和させたり、胃の粘膜を保護する働きがあるんだったかしら?」
「ほう、面妖な。
ではなぜ斯様な物を、お主が持っておる?」
「■■■」(自分だけそんな物を飲んで、恥ずかしくないのかお前)
ちなみにだが、飲んではいない。アーチャーは手元に置いているだけである。
だがこの戦場ともいうべき修羅の場において、彼だけがヨーグルトという“救済”を持っているという状況だ。
それはあたかも、隙間風がピューピュー吹き込むオンボロ長屋ばかりのドヤ街で、そのド真ん中に何十億という豪邸を建てるが如き所業。
そんなの妬みを買うに決まってるし、「馬鹿にしてんのかオイ」と憎まれもするだろう。
身代金目当てで家族は誘拐されるだろうし、強盗も入りまくりである。放火だってされちゃうかもしれない。
「ち、違うんだ! 私が頼んだ物ではないッ!
しかし、その……魃さんがだね?」
「あぁ、彼女ですか。
そういえばあの子、料理をここへ運んで来る度に、ちょいちょい貴方の方へ行ってましたね」
「何してんのかと思えば、こんなもん貰ってやがったのかテメェ」
「贔屓でしょ、これ。
なんでアーチャーだけなのよ」
「■■■」(納得いかないのだが)
あの“裏メニュー”の一件以降、魃さんは事ある毎にアーチャーのもとへ寄って行き、そして何にも言わずに、スッとこれを差し出していた。
恐らくは、彼の胃や体調を気遣っての事だろう。先の桃饅頭のように頬をポッと赤らめ、モジモジと恥ずかしそうにしながら、ヨーグルト飲料の入ったコップをくれるのだ。
その様は、とてもいじらしく、年相応の娘さんにしか見えない。
まるで狂気のマッドサイエンティストみたいだった雰囲気は、恋する乙女に相応しい可憐な物へと変化。もうチャイニーズサイコの面影は、どこにも無い。
賭けても良いが、普段の彼女であれば、絶対こんな真似はしないだろう。
嬉々として客を地獄へ突き落とし、そのうえ蜘蛛の糸をハサミでチョキンし、「ぎゃー!」と落下していく者を見下ろしながら腹を抱えてゲラゲラ笑うのが、三度の飯より好きという人物だから。
けれど……今日初めてアーチャーという素敵な男の人と出会い、彼が見せたメンバー達への気遣いであったり、果敢に激辛料理に挑んでいく姿、そして紳士的で優しい人柄に触れた。
そうしている内に、まるで沈没船に纏わりつく強固なコケくらいの頑固さで狂気に囚われていたその心は、“恋”という感情によって春の陽気のようにあたたかく照らされ、夏場に飲むキンキンに冷えたコカ・コーラのように爽やかな物へと変化したのだろう。
さっきは勢いで「アタシと恋人になル?」とか言っちゃったけど……後で一人になって思い直してみたら、もう猛烈に恥ずかしくなってしまった。
あれ以降、魃さんは何度も客席に料理を運び、姿を見せてはいるけれど、でもとてもじゃないがアーチャーの顔を直視出来ずにいる。
照れとか、胸のドキドキとかで真っ赤になっている顔を、彼に見られるのが恥ずかしい! というのもあった。
そんな彼女の、精一杯の好意の表し方が、きっとこのヨーグルト飲料だったのだろう。
ここ泰山で出される、灼熱を思わせるアツアツの料理とは違い、これはほどよく冷やされており、とても清涼感のある飲み物。
彼女の心遣いや、「がんばってネ☆」という想いが込められているかのようだった。
けれど前述の通り……問題はこのヨーグルト飲料を“アーチャーだけに渡す”という事。
これにより、彼はいま針の
仲間達の冷たい視線に晒されているワケである。
「まさか、あのチャイニーズ・サイコを落としやがるとはよ。
とんでもねェな、うちの弓兵は」
「敵を射貫くのならいざ知らず、
お主の宝具はキューピットの弓か?」
「女の子たぶらかして、飲み物を貢がせるだなんて……。
軍師かと思ってたのに、貴方ホストだったの?」
「待ってくれ! 君達を差し置いて、自分だけ助かるつもりは無いッ!
だが彼女、いつもこれをテーブルに置いた途端、すぐにテテテッと立ち去ってしまうんだ……」
「声をかける間もなく、ですか。
照れ屋さんですね」キュン
「いじらしいっ……! 魃さんにこんな一面があったとはっ!」キュン キュン
「■■■」(まぁ彼女のご厚意だしな。受け取っておけ)
ということで、アーチャーがヨーグルトを、グビグビと片付けていく。
一人だけ辛さから助かるという、そういった“ズル”にはならぬよう、何も料理を注文していない今のうちに、ぜんぶ飲んでしまう事に。
ちなみに先の4連勝から、もう2時間ほどが経過しており、そこからの注文には全てヨーグルトが付いてきたので、今アーチャーの手元は、沢山のコップでいっぱい。
この過酷な企画で、限界まで膨れていた彼のお腹が、魃さんの可愛らしい恋心によって、更にタプタプになった。
◆ ◆ ◆
【第4巡目、三十三皿目】 メデューサ(ライダー)
「■■■」(拙いな……。よくない流れだ)
それから更に1時間ばかり経ち、現在AM3時。
冬木の町はとうに眠りにつき、自分達の息遣いの音だけが、静かに響いている。
「
あの快進撃が嘘のようね」
「ああ、帳消しにされたな。……やっぱ甘くねェわ」
先の“麻婆ローラー作戦”以降、彼らは一度もTOP10を当てられずにいた。
小次郎・ヘラクレス・アルトリア・エミヤ・青タイツ。
その誰もが知恵を絞り、自分なりの理と自信を以って挑んだが、その甲斐虚しく玉砕。
第14位、16位と、惜しい所まではいきつつも、結局のこり2つという数を減らすことは出来なかった。
「この店にある“麻婆系”は、全て注文し終えたからな。
もう縋ることが出来るものは、何も無い」
「よもやラーメン系すらも、全くランクインしておらぬとは。
ほんに泰山は、中華のセオリーが通用せぬ店よな。これは参った」
「正直、手詰まりです……。霧の中を歩いている気分だ。
私の推理など、もはや目を瞑ってメニュー表を指さすのと、なんら変わり無いでしょう」
後たった2つ。だが全く当たる気がせず、先が見えない。
閉塞感が漂う。数々の試練を越えてきた英霊たる彼らが、いま無力感に打ちひしがれている。
それほどの難易度、それほどのツラさ。これが“帰れま10”。
手番は4巡目となり、食した品数は既に32を数える。
この企画の厳しさを、サーヴァント達はまざまざと思い知らされた。
「■■■」(なんだかんだで、既に泰山にある品の
――――なんなら残り31品、全て食い尽くしてみるか? 俺が引き受けても良い。
そう覚悟が宿る瞳で、彼が仲間達を見渡す。いざとなったら、任せておけと。
その頼もしい姿、この上ない心強さに、絶望に沈んでいた仲間達の表情が、少しだけ明るくなる。
結局のところ、やるしかない。やれる所まで。
たとえ何があろうが、出来ようが出来まいが、自分達は前に進むしか無いのだ。
いつか力尽きて倒れるか、ゴールテープを切るか。そのどちらかをするまで。
結果など関係無い。もはやどうでも良い事。
ただただ、戦う。
それのみが、いま己のすべき事であり、いつもそうしてきた自分達の生き方なのだから。
「皆さん――――聞いて下さい」
そんな中、ふと、
「顔を上げて欲しいです。落ち込むことなんて無いんです」
心の清廉さを感じさせる、彼女の美しい声が、皆を思考の底から引き上げる。
「私は、ずっと思っている。確信があります。
この袋小路を打破するには、
おーい……(呆れ)
ランサーの「まただよコイツ」という小さな呟きが、深夜の静寂の中でハッキリと響く。
「これまで、みんなでラーメン系を頼んできましたが、やはりこれがひとつもランクインしていないのは、おかしいですっ!
中華屋さんである以上、必ず入っているハズです!
なので、冷やし中華を注文しましょう! 今がその時なんですっ!」
「……」
「……」
「「「…………」」」
「えっ、なんでこんな空気になるんですかっ?!?!」ガーン
疲労感か、はたまた「もう勘弁してよ……」という倦怠感なのか、みんな無言で彼女を見るばかり。
誰もライダーの言葉に賛同せず、表情すら変える事もなかった。
「お前アレだろ? もう
「ち、違いますっ! 私は真面目に言っているのですっ!」
「■■■■」(わざとなのかと思っていたが……それ素でやっているなら、相当の物だぞ?)
「てっきり、ボケて空気を和ませようとしておるものと……よもや天然か?」
「ちーがーいーまーすぅ~~っ!!
本当に思ってるんですっ! 冷やし中華なんですぅ!」
ライダーが「ムキャー!」と怒る。
机を〈バーン!〉とやり、席から立ち上がってしまっている。必死だ。
「ほら! これ! 写真を見て下さい!
ここの冷やし中華は、とても彩り華やかですっ!
ワーおいしそうだなー♪
そうメニュー表片手に熱弁。選挙カーに乗ってるかのような演説ぶり。
いま我々に求められているのは、冷やし中華に相違ありません! 冷やし中華なのであります! そう頑張って説得。
まぁ案の定、みんなは冷めた目をしているけれど。冷やし中華だけに。
「――――でもこれ夏季限定のヤツでしょ? 期間が限られてるじゃないの」
そんな中、彼女の熱っぽい声とは裏腹の、とてもクールな声。
「TOP10を当てるなら、通常の品でしょ。
他のにした方が良いわ」
ツンと、ライダーの方を見もせずに。
キャスターが鋭く言い放つ。さも「くだらない」といった風な口調で。
「どれいくの? 早くしましょうよ。
思い付かないのなら、皆に決めて貰いなさいな」
うっ……とライダーが言葉に詰まる。そのまま黙り込んでしまう。
先ほどまでのように、怒られたり呆れられたりするではなく、切って捨てるような言葉。
ライダーの考えや、彼女自身を尊重する気が微塵も無い、ただただ端的で事務的な言い方。
その鋭利さと、まったく熱の無い声色に、ライダーは言葉を失ってしまった。
◆ ◆ ◆
もぐもぐ、ズズズと、皆が食事している。
寡黙に、ただひたすら、自分の取り分を片付ける事に集中。
その淡々とした姿。皆でご飯を食べているというのに、まったく楽し気な雰囲気が感じられない、作業のような行為。
「……」
ライダーが悲し気な瞳で、じっとみんなの方を見ている。
なにか言いたそうだが、口を開くことなく、ただただ仲間達の顔を。
『第ッ! ――――――22位ィィ!!!!!』
「もぉぉぉ-ーーっっ!!」
あの時、黙りこくってしまったライダーに代わりに、皆で意見を出し合って決めた“チャーシュー麺”は、案の定ハズレ。
これまで注文したどのラーメンよりも順位が低く、しかもこれを以ってラーメン系は全て注文し終わるという、考えうる限りで最悪の結末。
それどころか、以降の注文も連続してハズレ。誰がどのジャンルの何を注文しようが、結果は同じだった。
際限なく、成す術もなく、6、7,8と負けを重ねていったのだ。
このあまりに酷い状況に、思わずライダーが「ムキャーッ!」と声をあげた。
ぷんぷん! と音か聞こえてきそうなほど、子供みたいに頬を膨らませて。
いわゆる“激おこ”ってヤツだ。
「 マヨですっ! マヨですYO!! 」
自分の手番だったのに、自らの意見が通らない。許して貰えない。
そんな事がもう4回も続き、いい加減ライダーの堪忍袋の緒も切れた。
もう〈ブッチィ~~ン!!〉ってなモンた。
しかも、ライダーの意見を却下してまで注文したチャーシュー麺が外れてしまってから、みんな妙に彼女と目を合わさなくなったし。
こっちを見てくれなくないどころか、声すらかけてくれなくなったし。
謝れとは言わないまでも、なんか一言くらいあっても良いだろうに。
ちゃんとこちらの目を見て、時折「大丈夫ですか……?」と気遣ってくれたのは、同居人であるセイバーくらいのもの。彼女以外はみんな冷たかったのだ。
いくらライダーが「じとぉ~っ!」とかわいい顔で睨み付け、無言の抗議をしようとも、全然反応してくれないし。ガン無視だったし。
我関せずでやり過ごそうとする、事なかれ主義者共め。あんなにさっきまで仲良しだったのに。
特にキャスターなどは、もう当然のごとく「つーん」って感じのすまし顔で、ずっとメニュー表を眺めているし。どういう事ですか一体。
「 みんなイジワルですっ! そんなんじゃなかったですっ!
私の声を聞いて下さいっ! 耳を傾けて下さいっ! 」
ここです! ここにいますっ!
どうも、メデューサです! 反英雄のメデューサでございます! よろしくおねがいします!
そう本当に選挙カーみたいなテンション。「冷やし中華いきましょう!」と主張。
みんなライダーの得も知れぬ勢いに押され、ポカーンと口を開けてしまった。
だが……。
「――――ねぇ、
空気と共に、彼女すらも切り裂くような、キャスターの鋭い声。
「――――ワガママを言い、皆の意見を無視してまで注文するのよ?
貴方、責任取れるの?」
好き勝手な事ばかり。いい加減にして欲しいものね。
そうキャスターがフンと小さく鼻を鳴らず。
先ほどよりもハッキリとした態度で、「くだらない」と示す。
「あのね? 早く帰りたいのよ。
もう8時間もやっているのだし、みんな疲れてるの。
足を引っ張らないで頂戴」
迷惑よ、貴方――――
そう聞き間違いようの無いほどハッキリとした声が、ナイフのようにライダーの胸に刺さった。
「まったく、皆が甘やかすからいけないのよ。
あまり面倒な事をさせないで貰える? もうウンザリだわ」
そして、再びツンと顔を背け、メニュー表に向き直る。
その姿は言外に、「もう話はおしまい」と告げていた。
しかし……。
「きっ……キャスターだって、さっき外したじゃないですかぁ!
私はアレ、ぜったい無いと思ってたのにぃーっ!」ムキー!
「 っ!? 」
それで止まるライダーでは無かった。
先ほどまでとは違う。彼女は今“おこ”なのである。
「なんですかぁ! “生野菜の盛り合わせ”ってぇ!
そんなの食べてるから、ヒョロガリなんですよぉ! クタバレ!(直球)」
「 っ!?!?!? 」
止まらない。ベルレフォーンくらい止まらない。
もう目に涙を浮かべ、「わーっ!」と大きく口を開けて、ライダーは叫ぶ。
その子供みたいな癇癪の前に、暫し呆気に取られていたキャスターの顔が、次第にジワジワと赤く染まっていき、やがて火山のように噴火。
「――――なによっ! そんなにマヨ系食べたいなら、また一人で来ればいいでしょ!?
巻き込まないでよっ!!」キー!
「――――そっちこそ! お野菜なんて、どこでも食べられるじゃないですかーっ!
サラダとか白菜のクリーム煮とかぁ! ババ臭い物ばかり頼まないで下さいっ!!」ムキャー!
「■■■」(あの……いま
「彼はこの空気の中で、注文せねばならんのだぞ! 可哀想だとは思わんのかね!」
……
…………
………………
その後、バーサーカーが気力を振り絞って“牛肉とニンニクの芽炒め”を注文するも、あえなくハズレ。
皆、もう今日何度目か分からない、ため息をつく。
そして膨れたお腹をサスサスと気にしながら、ガックリ意気消沈。
そんな中、ふと横を向いたセイバーは、今ライダーがシクシクと涙を零している事に気付く。
「だって……みんな信じてくれないんですもの」クスン
キャスターと喧嘩しちゃうわ、マヨ系は食べられないわで、もうライダーの心はグシャグシャだ。
スンスンと鼻を鳴らし、ひっくひっくと泣く。
有名な英霊である彼女が、まるで子供のような姿だった。
「ねぇ。さっきからこの子、肘でゲシゲシしてくるのだけれど……」
「■■■」(俺もずーっと無言で睨まれてる……)
エグエグしながら、隣の席にいるキャスターの脇腹をこつく。
そして、こちらを無視して注文を決めたバーサーカーに、ジト目。
「ほら見て下さいっ! まだ一つも海鮮系がランクインしてないんですよ!?
そんなの納得いかないですっ!」
「なれど、エビマヨを頼む位ならば、ワンチャン“半チャーハン”いかぬか?」
「ヤですぅー! エ ビ マ ヨ が い い で す ぅ ~ ~ っ !!」ウエーン!
「こいつの旦那になるヤツぁ、苦労すんだろな……」
「■■■」(同意だ)
◆ ◆ ◆
【第5巡、三十七皿目】 アルトリア・ペンドラゴン (セイバー)
「つーん」プイッ
「つーん」プイッ
隣の席ながら、お互いに背を向けて座る二人。
ライダーとキャスター、ただいまガチ喧嘩中。
「大女」ボソッ
「前向き根暗」ボソッ
「止めたまえよ君達……人様の店だぞ」
「■■■」(空気の悪いこと悪いこと)
お互いに思う所があり、一歩も歩み寄る気配が無い。
これちゃんと修復出来るのかな? 今後に影響出ちゃわないかな? と心配になるサヴァ達である。
後で士郎くんに言って、またサラダ油を持って来させよう。ヌルヌルオイル相撲の二回戦だ。
そんな風に、みんなが仲直りの算段を頭の中でしていた時……。
「さて、私の手番ですね。気合を入れ直さなければ」
まるで、この雰囲気がなんでもないかのように。
いつも剣道場で見せる、凛とした空気を漂わせたセイバーが、瞑想のために閉じていた瞼を開く。
これまでに無い……というか今まで見せたことの無い“真剣な表情”で、皆の顔を見渡した。
そういえば、彼女は今日の企画、一度も当てていなかったように思う。
先の麻婆ローラー作戦は、アーチャーの手番から始まった物だったし、その後にした注文でも、普通に外していたから。
そんなセイバーが今、この泥沼の9連敗という厳しい状況下で、再びスポットライトを浴びる。
これまで司会進行の役目ゆえか、己の手番の時以外は、妙に口数が少ない彼女ではあったが、その存在感には微塵も陰りは無く。
最強のサーヴァントとしてのカリスマ、そして王たる威厳を讃えた瞳で、仲間達を真っすぐ見つめている。
「脂っこい物を食べましたし、少し口をサッパリさせたいですね。
ライダーよ、
「 !?!? 」
「「「 !?!?!? 」」」
おおッッ!! とこの場が湧き上がる。
まったく予想していなかった彼女の言葉に、一同は驚愕。目を丸くする。
「マジかよ……。
いくらお前、同居人だからってよ……」
「何を言うランサー、私が食べたいと思ったまで。
他に理由などあろう筈もない」
――――私の意思、私の“責任”を以って頼もう。ゆえに、任せて頂いて構いません。
そう「自分で全部食べる」と宣言。
迷いのない瞳で、彼に言ってのけた。
「私は二度目になるが、ここの冷やし中華は“最高”です。
例によって物凄く辛いが、こちらもマヨネーズが良い感じに緩和している。
むしろ、また食べたいと思っていた程だ」
「それに、冷やし中華を片付ければ、今度こそラーメン系の品をコンプリート出来ます。
これを以って、ラーメン系の是非というモヤモヤに、終止符を打っておくのも良いでしょう」
夏季限定ということもあり、冷やし中華は皆の中で除外されていた。
これを頼まずとも、ラーメンは終了したと見て良いだろうと、勝手に判断していたのだ。
だがやはり、やるなら徹底的にやろう。何の憂いなく、前に進む為に。
そうセイバーは提案し、己自身で実行してみせるつもり。
たった一人、誰にも迷惑をかけずにだ。
そんな彼女の誇り高い姿は、ライダーの目にはどう映っているのだろう? いま何を思っているのだろうか?
ふと気になったランサーが、おずおずとそちらに顔を向ける。
「なぁライダー。
これもし当たったら、お前……どうするよ?」
だが、平然。
そこにあったのは、いつもと変わらぬライダーの姿。
眼帯のせいで表情が窺いづらく、どこか不機嫌そうにすら見えてしまう、クールな彼女だった。
「えっ、
「「「 するのっ!?!?!? 」」」
けど内心は違った。もうお祭り騒ぎだ。
分かりにくい表情をしていても、メチャメチャ喜んでいるご様子。
「ギュッってして、抱っこして、チューするんです。
3年くらい離さないかもしれません」
「「「 マジでっ!?!? 」」」
どんだけ嬉しいねん、どんだけセイバー好きやねん。
サヴァ達は恐れおののく。
「よ、よおセイバー。アイツああ言ってっけども……」
「
「「「 望むのッ!?!?!? 」」」
ふんす! と息を荒げ、セイバーはキリッとした顔。
必ず貴方を救ってみせる、待たせて済まなかったと、なんか白馬の王子様みたい。
「そういえば、私はまだやっていませんでしたね。
魃店長! 泰山特製・冷やし中華を――――えええエクスカリバァァーーッ!!(だみ声)」
「素敵ですセイバー! ダイテ!」キャッキャ
「なんだこれオイ……」
……
…………
……………………
そして、10分後――――
「貴方はああ言ってくれましたが……やはり私も食べます。
半分こしましょうかセイバー」
「分かった、共に食べよう友よ」
向かい合い、ギュッと手を握り合う二人。
彼女らのまわりの空間だけ、なんかキラキラしてる。少女漫画みたくお花とか幻視しちゃう。
やがて魃さんの手により、この場に冷やし中華が運ばれて来た。
セイバーとライダーが「うふふ♪」と微笑み合いながら、二人でいっしょに料理を取り分けていく。それはとても楽しそうで、すごく幸せな光景に思えた。
「ふむ……やられたな。
どうやら機を逸してしまったらしい」
アーチャーは少し苦笑しながら、その場であたたかく見守る。
おせっかいをやいたり、空気を読んでフォローを入れるのは、貧乏くじめいた自分の役割かと思っていたが……今回ばかりはセイバーに手柄を取られてしまったようだ。
「別に手伝っても構わんのだが……それは無粋という物か。
百合の間に挟まるヤツは、
「なに言ってるの貴方?」
胸をピョンピョンさせながら、黙ってただ見守る。それが“作法”だとアーチャーは語る。
錬鉄の英霊は、弁えている方であった。
「おいひいでふ、おいひいでふ」モキュモキュ
「きゅうりシャキシャキです。たまごフワフワです」モキュモキュ
泰山の料理だというのに、なんと二人とも笑顔で食べている。
これは友情のパワーなのか、マヨの恩恵か、それとも“百合補正”なのか。
とにもかくにも、セイバー&ライダーはペロリの冷やし中華を完食。
同時にお箸を置き、ニコッと笑顔を交わした後、パンッと軽くハイタッチ。
やったぜ私達と喜びを分かち合う。
「ごちそうさまでした。辛いけど美味しかったです!」
「ですっ!」
「それではいってみましょうっ!
泰山特製・冷やし中華、何位ですかぁー↑」
「かぁー↑」
手を繋ぎ、二人で元気に司会進行。
もう誰も入ることの出来ない、彼女達だけの世界を形成。
そんなゆりゆりした空間に、どぅるるるるるる……! というドラムロール音が鳴り、次第に緊張感が張り詰めていく。
セイバーとライダー、そしてこの場にいる誰もが両手を額の前で重ね、キリストだの主だのブッダだのに、見境なく祈る。
頼む、頼む、頼む……! 来い来い来い! お願いっ!
『第ッ! ――――――
「「「 う お お お お ぉ ぉ ぉ ぉ お ッ ッ !!!! 」」」
そして、今日一番の大歓声が、深夜の泰山に木霊した。
◆ ◆ ◆
泰山特製・冷やし中華は、ウチの人気メニューのひとつアル!
夏場はみんな、こればっかり頼みやがるナ♪ ラーメン屋もかくやというイキオイ☆
まぁコレ……
――――いつから冷やし中華が、夏季限定だと錯覚していタ?
先入観で物を見ていると、死ぬゾ!
これに関しては、ただただ“美味しい”ってゆーのが、人気の秘密ないカ?
以前ラーメン系のTV番組で紹介されたモンだから、激辛どうこうじゃなく純粋に「冷やし中華が食べたい!」て人が、店に来てくれたりするのナ♪
確かに唐辛子は使かてるケド、アタシが冷やし中華好きだてゆーのもあテ、メチャ気合入れて開発したからネ! 麺もマヨもぜんぶ自家製アル!
自分でゆーのもなんだケド、クオリティ高いと思うヨォ~?
だてこれ、辛いのだいきらいなアタシが食べても美味s…………げふんげふん!
とにかくぅ! 泰山自慢の一品アル♪ みんな食いに来いヨー☆
……後でここ編集しといてね士郎クン? お願いナ?
・ワイプ: 謎の中華少女、魃さん
◆ ◆ ◆
「 ラ イ ダ ァ ァ ァ ア ア ア ー ー ッ ッ !!!!」
「 セ イ バ ァ ァ ァ ア ア ア ー ー ッ ッ !!!!」
騎士王さまがドドドドっと駆け寄り、そのままピョーンとライダーに飛びつく。
コアラみたいにガッチリしがみ付いた。
「やりましたねセイバー! 貴方は真の英雄ですっ!
あぁ……ありがとう御座いますセイバー! だいすきですっっ!!」
「おぉライダーよ! 我が
貴公のぬくもりが、我が理想郷だ! もうその手を離さん!!」
ぎゅーーーっっ☆☆☆ と聞こえてきそうな程の抱擁。
花が幻視されるどころか、ハートマークが乱舞している。
「おいおい……
いいのかコレ」
「うむ、子犬くらい熱烈だな。
それほど嬉しかったという事さ」
「粘膜接触と言えど、キス程度でアカBANはされぬだろうて。
私は一向に構わぬ」キリッ
某ジャンプ漫画みたく〈ズキューーン!〉ではなく、チュッチュと小鳥がついばむみたいな、慈しむキス。
なんか可愛さと微笑ましさが先に来て、ぜんぜんエロくないのが不思議。
二人とも純粋な子達なので、きっとそれが良かったのだろう。なかよし!(閉廷)
「あ、そう言えばキャスター。
貴方さっき、
「っ!?」
ふいにライダーが、騎士王さまをお姫様だっこしたまま振り向き、額に冷や汗を浮かべるキャスターへと向き直る。
「いい事がありましたし、もう気にしていません。
けれど……出来たら貴方から、一言あればと思うのですが」
「……っ」
じとぉ~っとした目。声に怒気や嘲りは感じられないが、代わりに得も知れぬ真剣さがある。
一応、ケジメ。こういうの、タイセツ。
ライダーはじーっと彼女の方を見つめ、返答を待つが……。
「あーら、私なにか言ったかしら~~ん? キャハ☆」
「 ッ!? 」
「「「 !?!?!? 」」」
野郎っ、しらばっくれやがった!!
しかもアイドルみたいなぶりっぶりの声出しやがって! うわキツっ!(直球)
「ちょ、ズルいですキャスター! さっきあんなにもっ……!」
「えー、私もこれ推してたけどぉ~? ちゃんと伝わらなかったぁ~?
なにぶん、冬木に来たばかりなものでぇ~。日本語はまだ不得手ですのぉ~。
あーゴメンネゴメンネー(軽)」
「わっるい女だなぁ、オイ」
「■■■」(そらコルキスの魔女とか言われるわお前)
「というか、大丈夫なのかね?
これ旦那さんも見ているのだが……」
◆ ◆ ◆
「さて、これにてハッピーエンド……、といきたい所ではありますが」
歓喜の渦にのまれ、皆が束の間の“ゆるゆり”を堪能した後。
「如何にも。まだ“めでたしめでたし”とはいかぬ。
全て当てねば帰れま10……とな」
★泰山の人気メニューTOP10★
・第1位 麻婆豆腐 (騎)
・第2位 麻婆ペヤング (狂)
・第3位 麻婆茄子 (槍)
・第4位 麻婆麺 (弓)
・第5位 麻婆春雨 (騎)
・第6位 ピリカラ餃子 (狂)
・第7位 ???
・第8位 冷やし中華 (剣)
・第9位 杏仁豆腐 (魔)
・第10位 麻婆定食 (魔)
皆が改めてランキング表を見る。
残るはひとつ。“第7位”。
ラッキーセブンといえば聞こえは良いが、これはセイバー達が30皿以上食べても当てられなかった、難攻不落の城塞なのだ。
正直言って、もうすっからかんだ。
知恵も気力も、閃きもアイディアも。この9時間ほどで、とうに搾り尽くしている。
その反面、みんなお腹だけはパンパンに膨れているけれど。
これほど沢山の量を食べ、一般成人男性の何日分というkcalを摂った筈なのに、いま自分達は絵に描いたような“グッデグデ”。それがどこか不条理に思える。
ここにいる大半の者達が、既にありとあらゆる「これ以上は無理だ」というサインを、自らの身体から受け取っていた。
なんてったって、ここは頭オカシイ事で県内外に名を馳せる激辛料理の店、“泰山”なのだから。
唇から口内、喉、食堂、胃腸、その全部が痛い。
ついでに言えば頭痛や吐き気もするし、もう9時間くらいブルブル手が震えっぱなしだ。
冗談抜きで「よく意識たもってるな私……」って感じである。サーヴァント万歳。
「それで、どうしますかアーチャー? 次は貴公の手番だ。
この勢いを以って、
凛とした声、セイバーの問いかけ。
ちょっとだけしおらしくなったキャスターから「ごめんなさいね……」と謝罪を受け、お互いにペコペコ頭を下げ合っていた二人が、ハッとこちらを向く。
「万策尽き果て、矢も折れた今、もう偉そうな事は言えんよ。
この場で唯一、生きた目をしているのが
彼女の表情が \ぺっかー/ と輝く。
分かってくれた! 分かり合えた! 我が世の春キマシタ! そう尻尾をブンブンする犬みたく喜んでる。「ほわわ~ん♪」と幸せそうな顔。
「だがよぉ……いくら自信あるからって、あんまグイグイくるヤツは
「ッ!?!?」ガーン
でも叩き落された。絶望という奈落に。
槍の英霊が放つ“刺し穿つ棘”が、ライダーを直撃。
「気の強ェ女は好きだぜ? ……だがコイツのは違ェ感じがすんだよ。
当てたのはスゲェけど、ぶっちゃけ俺ァ、
ようは、何回言うんだコイツ――――という事である。
第一巡から今に至るまで、ひたすらライダーの“マヨ推し”を聞かされたし。
確かに、彼女の意見を却下し続けたこちら側にも、非はあろう。
だがライダーはなまじ良い子であるため、協調性があるというよりも主体性が無く、自分の意見を出したり引っ込めたり。
そしていつまでもウジウジし、根に持ち、それをズルズルと引きずるタイプだ。
そんなのと一緒にいたら、やっぱ空気悪くなっちゃうし、やるならやるで先ほどのセイバーみたく、ちゃんとした説得力と意思を示した上で、スパーンと注文して欲しいものだ。
人の意見に流されておきながら、いざ外したとなれば「ほれ見たことか!」とワーワー騒ぎ立てる。やっぱりそういうのは良くないと思うんだ(正論)
しかも、本気とも冗談とも取れないテンションで「エビマヨエビマヨ」言うものだから、これはボケなのか真面目に言っているのかが非常に分かりづらかった。
正直ライダーが発言する度に、みんな「もういいよ」って感じの顔してたし。
またしょーもないボケ言ってるなぁ……。寒いんだよお前。おもしろくねぇっつの。
サヴァ達は決して言わなかったけれど、これまでずーっとそんな気持ちでいたのだ。
なにこの謎のエビマヨ推しと。
「――――ええ、私もそう思うわ」キリッ
「 キャスター!?!? 」
そして、ここに来てキャスターの裏切り。
さっきあんなにペコペコしあったのに、もう手の平クル~してきた。
第五次のキャスター、マジとんでもねぇな! そう皆は驚愕。
「そもそもコレ、セイバーの手柄だし?
彼女の勇気ある英雄的行動があったからこそ、第8位を当てることが出来たのよ。
あまりドヤ顔しないで頂けますこと? お里が知れましてよ(目逸らし)」
「 私を見て下さいキャスター! あの友情は幻だったのですか!? 」
肩をガックンガックンされるも、キャスターは「おほほ☆」と笑うばかり。まったく悪びれていない。
「こんな子供っぽい娘に付いていくのは、私のプライドが許さない。
この子を蹴落とす為なら、鬼にも邪にもなるわ」キッパリ
「嘘だと言って下さい!
根暗女同盟を結成すると、約束したじゃないですかっ!!」
◆ ◆ ◆
【第5巡、四十皿目】 メデューサ(ライダー)
「予想は付いちゃいたが……、案の定こうなっちまったか」
「あぁ、決着の時だ(白目)」
あれから順当にアーチャー&ランサーが外し、手番が彼女に周った。
今ライダーが、〈ゴゴゴゴ……!〉と瞳に闘志を宿しているのが分かる。超めんどくさい。
「ライダー、ここで見ています。ご武運を」
「任せて下さいセイバー。貴方が信じてくれる限り、私は倒れない」
引き続き、ゆりゆりする二人。
ギュッと手を取って見つめ合い、またチュッチュしそうな勢い。
彼女らのまわりにだけ、いっぱいバラの花が見える。
「おほほのほー☆
エビマヨ頼むのはいいけれど、もし外したらどーしてくれるの~~ん???」
この女……だいぶハジケてきたな。
反英雄たる彼女の悪性に、仲間達はドン引きだ。
「どうなのかしらーん? 騎乗兵の英霊さーん♪
ここでハッキリ言って貰いたいものねー!」ウケケケ!
悪魔みたいに笑う。アンリマユはここにも居たらしい。
これまで味わって来た苦渋とか、身体的なツラさとか、あと報われない生前の恨みつらみとかも、全部ひっくるめて解き放つ。
ライダー全然関係ないのに「責任とってよ」と。
だが、なにやら静かな表情をしたライダーが、覚悟の滲んた目で、彼女に向き直る。
怖いのに必死に耐えているかのように、グッと手を握って震えているようにも見える。
「つ、
一瞬、時がフリーズ。
外国風の言い回しをすれば「あ、いま妖精が通ったね?」って感じ。
「怖いけど……我慢しますっ。
私のこと、つねっても良いです。グイッってやって下さい……」
ぎゅーっと目を瞑り、ぷるぷる身体を震わせる。
その哀れなほどの怯えようから、ライダーが
子供か。
「では司会進行役として、私が“立会人”を務めましょう。
キャスターよ、彼女はこう言っているが……。
もし見事に当てた場合、貴方はどうするのですか?」
厳粛に、ハッキリした声で問う。
カリスマ:Bを誇るサーヴァントが纏う、有無を言わせぬ空気。
思わずキャスターは息を呑み、彼女と同じくプルプル身を震わせ始める。
「つ、つねって良いわよ……?(冷や汗)」
なんだこれ――――
みたいな事ではあるが、なんとキャスターも
私つねられちゃう! コワイ! なんて事なの!
そう本気で思っているっぽいのだ。めっちゃ足震えてるし。
「すまぬ、さして見とぅないのだが……」
「なにを見せられるんだ我々は。面白いのかソレ」
そうは思うも、時計の針は進み、やがてライダーが元気な声で「魃さーん!」と呼ぶ。
「では注文しますっ!
この【君をぶち殺すエビマヨ】というのを――――頼みまフォォォ~~~ン!!!!(赤面)」
「どっちだオイ。分かんねェよ」
「■■■」(そんな頑張らずとも)
◆ ◆ ◆
帰れま10in泰山、ライダーの記念すべき四十品目は、彼女の念願であった【君をブチ殺すエビマヨ】
マヨの純白のヴェールではなく、マグマのような赤黒いソースを纏った海老が、所狭しと皿にひしめいているぞ!
新鮮な海老と、何故か大量にぶち込まれている各種スパイス、そして自家製マヨネーズのハーモニー!
泰山の隠れた拘りである、厳選した素材を使用した、ここでしか食べられない珠玉の一品!
果たしてライダーは、みんなに反対され続けたエビマヨで、キャスターとの勝負に勝つことが出来るのかぁ~!?
・ナレーション: 言峰フルテンション綺礼
……
…………
……………………
「おっ――――お い し い で す っ !!」テッテレー
代表者のライダーが、パクッとひとくち食べた途端、勢いよく椅子から立ち上がる。
「ものすごく美味しいっ! 信じられないくらいっ!
私の目に狂いはありませんでしたっ!
ヒィィーーハァァーーッ!!!!(赤面)」
「照れるんだったら、やんなよ」
「唐辛子もかくやという程、赤面しとるな」
「■■■」(それ正解した時にするヤツだからな?)
仲間達からツッコまれるも、ライダーは輝かんばかりの笑み。
自分にとっての改心の一品を引き、「悔い無しっ!」と言わんばかりの姿。
引っ込み思案も、恥ずかしがり屋もかなぐり捨て、某小杉さんみたく雄たけびを上げた。
「よかったですライダー。幸せそうな貴方を見られて、私は嬉しい」
「結果はともかく、ここに来て君の“一番”を引いたのだな。
おめでとうと言わせて貰おう」
剣と弓の両名にあたたかく祝福され、ライダーがテレテレ。
まぁキャスターだけはぶすっとした顔でいるが、余計なことは言わずにじっと静観している。
「ひとつ取っても構わぬか?
それほど美味いのなら、無理をおしても食う価値があろう」
「俺もだ、手伝うぜ。
早く結果も知りてェしな」
「み……皆さん」
気が付けば、皆が中華テーブルをクルクル。順番にエビマヨをよそっていた。
てっきり一人で食べなきゃいけない物と思い込んでいた彼女は、暫し放心。ポカーンと仲間達を見つめる。
「先ほどは手を出さなかったが、今回は別だよ。
君一人では行かせん、第五次の仲間じゃないか」
「■■■」(然り、共にやろうライダー。一蓮托生だ)
みんなが和気あいあいと、笑顔で「うめぇうめぇ」と言い合う。
彼女が信じ続けたエビマヨを、嬉しそうに頬張っている。
その姿、この笑顔こそ、きっとライダーが一番欲しかったものだ。
外しても良い、駄目でも良い。
仲間と一緒なら、失敗の悔しさだって分かち合える。喜びは倍になる。
ライダーは、知らぬ内に自分の目から、涙が零れていることに気付く。
あれっ……? とグジグジおめめを拭う彼女の手を、隣で寄り添うセイバーが、優しく握った。
「……仕方ないわね。片棒を担いであげるわ」
そして、ついに静観していたキャスターが動く。
メンドクサそうな顔をしつつも、自分の方へ中華テーブルをまわし、ちょちょいっとエビマヨを取り皿に入れる。
「勘違いしないでね? 後で文句を言われるのが嫌なだけよ。
けれど……私も背負ってあげる。
勝つのも負けるのも、みんな一緒が良いわ」
安心なさい。当てようが外そうが、もう文句は言わない。
この帰れま10、最後までやりとげましょうライダー。
そうバツが悪いそうに苦笑。だがとても優しい顔で、キャスターが言ってくれた。
「根暗女同盟……どうしますか?」
「ええ、良いわよ。
こんど喫茶店にでも行って、二人で悪だくみしましょっか♪」
そう茶目っ気のある顔で微笑み、仲直りの印としてエビマヨをパクッ!
辛い辛い言いながらも、ちゃんと食べてみせた――――
「さて、完食いたしました。
現在TOP10は、残りひとつですので、これを当てれば当企画【帰れま10in泰山】は終了となります」
沢山の笑顔に囲まれる中、セイバーがコトッとお箸を置き、神妙な顔でカメラの方を向く。
「しかしっ! もし外せばっ! …………つ ね ら れ ま す っ !!!!(迫真)」
「雰囲気を出さなくて良い。早くしたまえよ」
わなわなと身を震わせ「コワイですねー、恐ろしいですねー」とばかりに告げるが、みんな白けた顔。しょーもな。
「それでは参りましょう!
ライダー魂の注文、【君をぶち殺すエビマヨ】――――何位ですかぁー↑」
みんなの脳裏に、これまでの事が走馬灯のように浮かぶ。
つらかった事、マズかった事、そして辛かった事(ろくなモンがねぇ)
でも確かにあった幸せ。みんなで喜びを分かち合ってきたという思い出が、強く心を揺さぶる。
ドルルルルル……というドラムロール音が鼓動を早め、緊張がこの場を支配する。
仲間達は固唾をのみ、覚悟を決めた戦士の表情で、静かに耳を澄ませる。
そして……。
『第ッ! ――――――
この帰れま10における、最後のナレーションを聞いた。
◆ ◆ ◆
アタシの作るマヨネーズ美味すぎワロタ――――
これが第7位にランクインしてるのは、つまりそーいう事アル。
正直、アタシより上手にマヨネーズ作れるヤツ、生まれてこのかた見たこと無いヨ。
こちとら中華の人なのに……、神様はアタシに無駄な才能をくれたネ☆
これ【君をぶち殺す~】みたいな仰々しい名前付けてるケド……、一種のカムフラージュに近いカナ?
セイバーちゃんも言てたアルが、この料理に関しては、たとえ辛くてもバッチリ美味しくしてるアル。
前に言てた「比較的食べやすい」てゆーのも、あながち間違いじゃないゾ♪
辛く出来るヨ……?
口に入れた瞬間死ぬくらい、貴様を黄泉平坂に叩き落すくらい、も~と辛く出来るアル。
でもアタシ、マヨだけは――――マヨだけは
どーしても、無茶できんかたヨ……。
アタシのマヨに対する愛情、そしてこの非情になり切れない甘さが、ランクインの秘密アル……。
アタシって、キュー○ーの人にしつこく「入社してくれ」って言われちゃうくらい、恐らく世界で一番美味しいマヨネーズ作るカラ、このエビマヨだけ食いに来るお客さんも、いっぱい居るヨ♪
もちろん、子供さんがいる家族連れが来た時は、唐辛子とかは抜いて作たげるゾ☆
・ワイプ: 謎の中華少女、魃さん
◆ ◆ ◆
「「「 ――――う お ぉ ぉ ぉ お お お お お ッ ッ!!!!!! 」」」
本日一番を更新するほどの、皆の歓喜の雄たけび。
やったー! と元気に万歳するライダーを、セイバーがギューッと抱きしめる。
「うっそだろオイ。
地母神……いや“女神”じゃねーか」
「■■■」(ふたつとも当てたぞ、信じられん……)
神! 救いの女神!
この殺伐とした
「いや、心底恐れ入った……感服だ」
「コ○ン君でも、こうはいかんぞ?
推理うんぬんではなく、純粋さの勝利か……」
驚愕。ただただ恐れおののく。
男達は茫然とした顔で、「ヒィーハァー!」言っている彼女を見守る。
自分達の不甲斐なさ、信じてやらなかった後悔……確かにそういうのはある。
でも今は喜ぼう! 子供のようにはしゃいでいる、あの子を祝福しよう!
あの子に幸あれ! 英霊に誉あれ! サーヴァントに栄光あれ!
帰れま10 in泰山、完ッ!!!!
「はい、ということで御座いまして(司会進行)
見事ライダーが当ててくれましたので、締めに参りましょう!」
喜びの空気に満ち溢れる泰山の客席に、清々しい顔をするセイバーの声。
思えば色々あったけれど、彼女もたくさん頑張ってくれたと、皆は心の中で感謝する。楽しかった思い出を胸に。
「それではライダー! 今日のラストです!
――――つ ね っ て 下 さ い っ!!!!(いい笑顔)」
「っ!?!?」
ガーン! と仰け反るキャスター。この場の雰囲気との対比が凄い。
「ほ……ホントにやるのソレ!? あんなに幸せな空気だったのにっ!」
「
コルキスの魔女に鉄槌を下すのだ」
「はい、セイバー」ヌラァ…
怪力:Bのスキルを持つ大女が、ズンズン歩みを進める。
キャスターはオロオロと狼狽え、思わず身をすくめたが、時はけして戻らず、現実は動かない。
ようは「吐いたツバは飲めない」というヤツだ。
「ちょ! 嘘よねライダー!?
やったりしないわよね!? 一緒に喫茶店いくんでしょ?!」
「そうですね、ベルレフォーンと書いて『これが私の怒りだ』と読みます。ご堪能ください」
ぜんぜん話がかみ合わない中で、向かい合う。
悠然と仁王立ちする
今、彼女が力強く腰を落とし、パンチを繰り出す時の花山薫みたいなポーズに。
「――――でもできませんっ! 出来ようハズもないっ!」
「えっ」トゥンク…
突然、ライダーが彼女を抱きしめる。
殴るのかと思いきや、その勢いを以ってキャスターに飛び着き、そのまま「~♡」とハグした。
「トモダチです! なかよしなんです!
今日は私、とっても楽しかったですっ!」ギューッ!
「え……ええライダー! 私もよっ! とても楽しかったわっ!」ギューッ!
「……」
「「「…………」」」
なんだコレ――――みたいな顔の一同。
そしてメリーゴーランドみたく周って「キャッキャ☆」している二人。
あまりの唐突な展開に、みんな理解が追い付かなかった。「え、つねるんじゃないの?」と。
「次回はバゼットいきつけの牛丼屋で、帰れま10をお送りします。さよーならぁー!」ノシ
「待てぃセイバー。これでは終われん終われん」
まぁみんな思う事はあれど……、言うのは無粋という物だ。
ここは黙ってカメラに手を振ろう。笑顔でお別れしようじゃないか。
百合だし(尊い)
~おしまい~