【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】   作:hasegawa&friends

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 ゼクス!(むっつぅ!)



※お題として頂いた人物設定。一覧

・1.同じ種族で付き合うべきである主義の、バイキンマン。
・2,異種姦に興味のある、バタコさん、
・3,JAMおじさんに作られた謎な不思議生命体である自分たちに、生殖能力があるのか? 黴菌と結婚生活が成り立つのか疑問が尽きない、アンパンマン。
・4,主張も性癖もhasegawa様にお任せな、誰か。

 以上の4名。




しょくぱんまんに熱を上げるドキンちゃんに振り向いて欲しいバイキンマンが、アンパンマンとバタコさんと誰か(hasegawa様にお任せ)に協力を求める話。(MREさま 原案)

 

 

 

「ばいきんまん! タイミングを合わせてっ!」

 

「俺さまに命令するなぁッ!!」

 

 アンパンマンの身体が金色の光を放ち、ばいきんまんの漆黒のオーラが天地をも揺らしていく。

 

「距離2000! 標的数300! ……行くよばいきんまん! 3,2,1っ!!」

 

「俺さまにぃッ! 命令するなぁぁ~~~ッッ!!」

 

 二人が連れ立って、その場から飛ぶ。

 その身は一瞬にして大地を駆け、瞬く間にマッハを超える。いくつもいくつも音速の壁を破り、そのソニックブームによって地面が抉れていく。

 

 

「「――――アァァァンッ(ばいきんんッ)!!、ナッコォォォオオオーーーーッッ!!!!」」

 

 

 

 

 

 世界が揺れる――――白一色に染まる。

 眩い閃光が天をも貫き、雲に巨大な風穴を空けた。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「あー疲れた疲れたっとぉ。

 ただいまぁドキンちゃん~。俺さま帰ったよぉ~」

 

 団地のアパートにある、ばいきんまんの部屋。

 彼はダルそうにネクタイを緩めながら、器用に足の親指を使って革靴を脱ぐ。

 

「お腹空いたよ~ドキンちゃん。

 帰るのが遅くなってごめんよ~」

 

 スーツの上着を脱ぎながら、トテトテと廊下を歩く。今日の仕事の忙しさを思い返し、ふーやれやれとため息も付く。今日は劇場版の撮影で、すごく大変だったのだ。

 そうこうしつつ、やがて彼はリビングの扉の前に辿り着く。するとなにやら、中から騒がしい音が聞こえてきた。

 

「おードキンちゃん、ただいm

 

「――――きゃー♪ しょくぱんまん様ぁ~! 素敵ぃぃ~~☆」

 

 ガチャリとドアを開けた途端、目に飛び込んできたのは、法被(はっぴ)姿の女の子。

 それはピンク色で、額には「しょくぱんまんLOVE」と書かれたハチマキ。手にはしょくぱんまんの顔写真がプリントされたウチワもある。

 

「L.O.V.E! ゴーゴー! しょくぱんまんっ☆

 ダンディ! セクシィ! 負けるな! しょくぱんまんっ☆」

 

 たった今仕事から帰宅したばいきんまん。30年以上も連れ添っている、自身の夫。

 けれどドキンちゃんはそちらには目もくれず、TVに映る映像に夢中だ。

 先日購入したブルーレイ【しょくぱんまんLIVE2021 in 横浜アリーナ】に首ったけなのである。

 まぁ彼女は当日のライブにも、しっかり参戦していたのであるが。

 

「あ、ドキンちゃん? 俺さま帰ったよ。

 今日のごはんは何かな? 俺さまもう腹ペコd

 

「レッツゴー! レッツゴー! がんばれ! しょくぱんまん☆

 しょくぱんまん様ぁぁーー! 素敵ぃぃーー☆☆☆」

 

 何度声をかけても、見向きもされない。

 団地のアパートなのにピョンピョン飛び跳ねながら、元気にモニターの向こうに声援を送るばかり。その姿はとても愛らしくはあるのだが……。

 

「ちょ……ちょっとぉドキンちゃん! 俺さま帰ったんだけどっ!?

 そんなの観てないで、こっち向いてよっ! もうお腹と背中がくっつきそうなのだ!」

 

「――――うっさいなぁっ! 邪魔しないでよぉばいきんまんっ!! おバカぁーーっ!!」

 

 思わず大声を出せば、それ以上の声で怒鳴り返される。

 そのあまりの理不尽さに、ばいきんまんは恐れおののいた。俺さま一家の主なのに。

 

「お鍋の中にカレー入ってるから、好きに食べたらいいじゃないっ!

 もう9時だし、きっと冷めちゃってるけどねっ! 勝手にしなさいよぉっ!!」

 

 グアーッ! っと喚き散らしてから、再びTVの方に向き直る。

 コミカルにダンスを踊りながら、大好きなアイドル(しょくぱんまん)の映像を観る。

 

 そんなドキンちゃんの姿に、愛するお嫁さんの姿に……ばいきんまんはもう何も言えなくなってしまった。情けないことに。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「――――というワケで、なんとかしろお前ら。友達だろう」

 

「そんな偉そうに言うこと? 貴方の感覚どうなってるの?」

 

「うん、それは無いよばいきんまん……」

 

 ようやく訪れた休日。お日様が元気に輝いている、とても気分の良い日より。

 都内にあるクラシックな雰囲気の漂う喫茶店で、バタコさんとアンパンマンが苦言を漏らした。

 

「仕方ないだろう? 俺さまは、人に頭を下げるのが大キライだからな!

 あ~っはっはっは!」

 

「あのね? 貴方が大御所役者じゃなきゃ、この場でぶっ飛ばしてるわよ?

 このケーキナイフの切れ味を見せてあげましょうか」

 

「ぼくがキッズアニメのキャラじゃなきゃ、『やっちまうぞこの野郎』だよ?

 夜道に気を付けてね~」

 

 アニメや映画などを制作する会社であり、ジャムが社長として運営している、ジャムアニメーション。

 その同僚であり、重要な役職にある二人が、何でたまの休日にこんな所に呼び出されなきゃいけないんだ。何でこんなしょーもない話を聞かされなきゃならないのか。

 アンパンマンもバタコさんも、たいへんご不満な様子である。今すぐ帰りたい気持ちだ。

 

「私の腕力(かいなぢから)は知ってるでしょ? 捻り潰すわよ?

 その頭を引きちぎり、時速300㎞で地平線の彼方へ投げるわよ?」

 

「地面と同化するまで殴るよ? その養分で小麦を栽培するよ?」

 

「まぁ! 素敵ねアンパンマン♪

 私その小麦にツバを吐いてやるわ。パンを焼くことも無く」

 

「やめろ。子供の夢を壊すな。

 お前たちは国民的アニメのキャラだろうが。プライベートでも気を使わないか」

 

 目が怖い。こいつら本当にやりかねない。歴戦の殺戮者の目だ。

 その雰囲気を感じ取ったばいきんまんは、彼らの為に追加のケーキを注文した。心ばかりのお礼だ。

 

「とりあえず、なにとぞ何とかしろ(・・・・・・・・・)

 ドキンちゃんが冷たくて、俺さま困ってるのだ。夫婦仲が冷え切ってるんだぞ」

 

「面白い日本語ねぇソレ。……まぁ良いわ、考えてみましょうか」

 

「せっかく来たんだし、休日も潰されたしね。少しは建設的な話をしようか」

 

 オレンジジュースやコーラをじゅごごっ……! っと飲み干して、三人はお互いの顔に向き直る。

 本日のテーマは【どうすればドキンちゃんが振り向いてくれるか?】

 彼らの冷え切った家庭環境を、改善するための案を出し合う事。

 もう30年以上も一緒にやって来た仲間だし、なんだかんだと仲の良い三人なのであった。

 

「だいたい何なのだ! しょくぱんまんって!

 ドキンちゃんは細菌族だぞ!? なぁ~んでパン族なんかに惚れるんだっ!

 俺さまというものがありながらぁ~っ!」

 

「まぁしょくぱんまんって、カッコいいしね。

 戦ってる姿も、踊ってる姿も、その所作のひとつひとつがヒーローそのものよ。

 最近はアイドルとしても成功してるみたいだし」

 

「確か、横浜アリーナを満員にしたんでしょう?

 僕もお祝いのお花を贈ったけれど、大成功だったみたいだね♪」

 

「バカ野郎ぉ! いくらカッコ良くてもっ! アイツはパンなのだっ!

 なんでドキンちゃんがパンに惚れる?! おかしいだろそんなのぉ~!」

 

 もう30年も一緒に住んでるのに、彼女はばいきんまんになんて見向きもせず、しょくぱんアイドルに夢中。それがおおいに気に喰わない。

 確かにイケメンかもしれないが、パンなどに惚れて何とする? 何にもなんないじゃないかと喚き散らす。

 

 それに出来ればだが、ライブやグッズにお金を費やし、家計を圧迫するのもやめて欲しい。ばいきんまんは小金持ちであるが、それこそ散財してたらキリがないのだ。

 たまにネットオークションとかで、目が飛び出るほど高い買い物をしてたりするし。

 しょくぱんまんが使ったペットボトルに30万円の値が付くなんて、俺さまビックリだよと。

 

「異種間の恋愛って、よくある事よ? 特に私達の業界ではね。

 私も以前から、おむすびまんと連絡を取り合ってたりするし。彼のこと好きよ?

 とっても素敵な人だと思うわ♪ 強いし、とても紳士だもの♪」

 

「あ、そうなんだバタコさん。ぼく知らなかったよ。

 確かに異種間の恋愛って、よく聞くよね」

 

「駄目だぁッ!! ダメだダメだダメだぁ~っ!

 異種間の恋愛など認めぇ~ん! おんなじ種族同士でくっつくべきなんだぁ~!

 それが自然な在り方なんだぁ~!」

 

 ちなみにであるが、ここは“現代日本”である。

 彼らは今、私達の住んでいるのと同じ世界にある喫茶店で、仲良くダベっているという事を、ご承知願いたいと思う。

 彼らは人間社会に溶け込み、役者であったり会社の重役であったりと、しっかり地に足のついた仕事をしている。この世界で共に生きているのである。

 

 もちろん、この世界でも彼らが出演する【それいけ!アンパンマン】はしっかり放映されており、国民的アニメとして全国の人々に認知されている。いわば彼らはちょっとした有名人であると言えよう。

 

 それはともかくとして、あいかわらず彼は「ダメだダメだ!」と喚くばかり。

 いわゆる“古い考え”とか“個人的な趣向”という物を、ただ感情的に叫んでいるだけに思えた。そこには他人を納得させうる理由や、順序立てた理屈など無かった。

 

「そういえば……ぼくずっと気になっていたんだけど。

 異種間の恋愛とか結婚って、いったいどんな物なの?

 ぼくは社長(ジャムおじさん)から恋愛禁止を言い渡されてるし……よく知らないんだ」

 

 ここでアンパンマンが疑問を提示する。少し話の流れが変わった事で、うるさかったばいきんまんも大人しくなる。

 

「ん? 別に普通よ? なんの問題もなく恋愛できるし、結婚だって出来るわ♪」

 

「うむ。俺さまは反対派ではあるけど……、それ自体は普通に可能なことだぞ」

 

「そうなの?」

 

 キョトンとした顔のアンパンマン。対して「なにを当たり前なことを」といった風な二人。

 これまでアンパンマンは仕事に忙しかったので、どうやら“世間一般”の事情には疎いようだった。

 

「ならさ? 例えばだけど、カバ男くんがネコ美ちゃんと結婚したとするよね?

 この場合は、どんな風になるのかな」

 

「とりあえず、役所に申請を出すぞ。

 婚約や、籍を入れる事。それと種族変更(・・・・)の届け出なんかを出すんだ」

 

「種族変更ッ?!?!」

 

 おもわず大きな声を出し、席から立ち上がってしまう。

 他にお客さんもチラホラいるんだし、アンパンマンは慌てて口を塞いで座り直した。

 

「何をおどろいているのだ?

 人間だって、国際結婚をするだろう? それと同じ事じゃないか」

 

「ちゃんと申請して、その資格が認められれば、種族は変更出来るわ♪

 たとえばカバ男のお父さんって、元々は“アヒル族”の人だったの。

 でも結婚をする際に、お嫁さんと一緒のカバ族になったのよ。

 以前聞いたことがあるわ♪」

 

「み……見た目とか、顔はどうするの?

 アヒルだった人がカバになるなんて、いったいどうやったら……?」

 

「そんなの、マスクを被り直すだけ(・・・・・・・・・・)、に決まってるじゃないか。

 被ってたアヒルのマスクを脱いで、新しいカバのマスクを装着すれば、それでいっちょ上がりなのだ。なんにも難しくないぞ?」

 

「ぶっちゃけ、全ての動物族は、マスクを外せばただの人間よ(・・・・・・)

 厳密にいえば、分類としては“妖精”なんだけど……、見た目は人間と一緒なの。

 この世に産まれ落ちたその日から、一生マスクを被って過ごすという、キン肉マン方式ね。

 素顔を人に見られたら死ぬわ」

 

 いま明かされる衝撃の真実――――

 カバ男くんの顔はマスクだった! 中身はだたの人(妖精)だった!

 伊達にみんなてんどんマンとか、カツ丼マンとか、名前に“マン”(人間)が付いているワケではないのだ! マスク脱いだら普通なのだ!

 

「だから、被ってるマスクさえ変更してしまえば、その日からカバにもアヒルにもなれる。

 もちろんみんな、首の下は人間と一緒だから、普通に夫婦生活だって出来るわ」

 

「俺さまが言っているのは、種族の習わしとか、伝統とか、血筋とかの事だぞ?

 同じ種族同士くっついた方が望ましい! その方がぜったい分かり合えるし、役所に行って面倒な申請をしなくて済むぞ! って話なのだ」

 

「でも私、とても興味深々だわ♪

 今までカバとして生きて来た人と、アヒルとして生きて来た人が夫婦になるんでしょう?

 当然持っている常識なんかも違うし、生活習慣もしきたりも違ってくるハズよ?

 異種間の結婚って、いったいどんな風になるのかしら?」

 

「そこら辺はまぁ、人間社会における“国際結婚”と似たような物だぞ?

 一緒に生活しながら、お互いの違いを理解し合い、時には戸惑ったりしながらも、少しづつ歩み寄っていく。そうやって一緒に生きてくんだよ」

 

 そうのほほーんと語り合う二人。対して絶句するアンパンマン。

 思えば自分達がいるこの世界には、人間の他に、もう目もくらむような数の多種多様な種族がいる。動物族とか、食べ物族とか、無機物族とか。

 きっとだが、例えばカバ男くんが結婚適齢期となり、そしてお嫁さんを探そうとしたとしても……自分の家族以外に同じカバ族の女の子を見つける事は、けっこう大変な事だと思う。

 彼の通っている学校には、自分しかカバ族の者が居ないし、先ほども言った通り、もう数えきれないほど沢山の種族が、同じ国で一緒に暮らしているのだから。

 

 ゆえに、この“異種間の恋愛”というのは、実はとてもとてもポピュラーで、当たり前の事であったりする。この世界の状況を鑑みれば、ある種の必然である。

 

 ばいきんまんが言っているのは、「せっかく同じ細菌族同士が一緒にいるのに、なにパン族にうつつを抜かしてるんだ!」という事である。

 この世界の事情を鑑みれば、元から細菌族であった二人が出会い、そして結婚まで漕ぎ着けられたのは、とても幸運な事だったりするのだ。

 

「じゃ……じゃあ仮にさ? ぼくもカバになれたりするのかな?

 カバ族の人と結婚する事になったら、ぼくもカバのマスクを」

 

お前は無理だよ(・・・・・・・)。だってアンパンじゃないか」

 

「アンパンマン? そもそも貴方は、私達“妖精”とは違うの。ヒーローなのよ。

 ある日とつぜん空から降って来た【いのちの星】が、ジャムおじさんの焼いたパンに宿り、そうして誕生したのが貴方よ♪

 だから顔をあんまん(・・・・)とか、うぐいすパン(・・・・・・)に代えることは出来ても、私達のようにマスクを被り直す~という事は出来ないわ」

 

 なんとなしに聞いては見たが、どうやら自分は例外であったようだ。

 ちなみにであるが、これはアンパンマンだけの事でなく、同時期にバイキン星から卵の状態でやってきたという“ばいきんまん”も同じ。

 彼ら二人、そしてカレーパンマン達などのパン族は、例外なのだ。

 この世界においては【特別な存在】であると言える。

 

「えっ。じゃあぼくは、だれかと恋愛したり結婚したりって……出来ないのかな?」

 

「別に、するだけならいくらでも出来るぞ?

 ただ“種族変更”が出来ないっていうだけで。なんにも問題ないぞぉ~」

 

「まれにだけど、今はそういう夫婦もいるらしいわ。

 これは人間社会においても、実質的には夫婦でも別の性を名乗る人達がいるのと同じね♪

 誰しも自分の考えだったり、それぞれのライフスタイルがあるのよ♪」

 

 二人が「うふふ♪」と微笑み、笑顔を交わし合う。

 未だアンパンマンは戸惑っている様子だが、彼らはもう「当然っ!」といったような具合だ。

 

「なっ、なら子供は(・・・)?!

 ぼくとかカバ男くんとかは、ちゃんと子供を作れるの!?」

 

「はぁ? 何を言ってるんだお前は。出来るに決まってるだろう。

 そうじゃなきゃ、子孫繁栄も出来ず、俺さまたち滅んじゃうじゃないか」

 

「異種間での、夜の営みかぁ~。うふふふ、異種姦♪」

 

 お前が世間知らずなのは知ってたがな? でもよく考えて物を言え。

 ばいきんまんは「はぁ……」とため息をつき、呆れたような顔をする。

 まぁバタコさんに関しては、一人どこか遠くへと意識を飛ばしてるけど。

 

「いいかアンパン野郎? よぉ~く聞け? 一度しか言わないぞ」

 

「う、うん」

 

「赤ちゃんは、コウノトリさんが運んで来るんだ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 愛し合ってるお父さんとお母さんが「赤ちゃんを授かりますように」と願いながら、一緒のベッドで手をつないで眠れば、神様がそれを叶えてくれるんだよ」

 

「常識よね♪」

 

「!?!?!?」

 

 アンパンマンは漫画みたいに「ガーン!」と驚く。

 ばいきん&バタコは「うんうん」と頷くばかりである。

 

 

「まさかお前は、この俺さまに生殖器がどうとか、精子卵子とか、性行為はどうやるとか、そういう事を言わせるつもりか?

 ここをどこだと思ってるんだ。喫茶店だぞ(・・・・・)?」

 

「う、うん……。ごめんよばいきんまん……」

 

 

 場をわきまえろ、つぶあん野郎――――

 そんな彼の正論パンチにより、この話題はうやむやとなった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「クソがぁ~! ドキンちゃんのバァーーカ! メシマズ嫁ぇ~!

 みんなドキンちゃんが悪いんだぁ~!!」

 

 すっかり日も暮れて、夜の8時。

 ばいきんまん達は店を変え、今は彼いきつけのお寿司屋さんにいる。

 彼ら三人の他に、ようやく仕事を切り上げてこちらにやって来てくれた、ある友人を仲間に加えて。

 

「なんで分かってくれないんだろうな?!

 俺さまはこんなにもドキンちゃんを想っているのにっ! すごく愛してるのにっ!

 いつも仕事がんばってるし、ごはんも食べさせてるし、不自由させて無いじゃないかぁ!

 なぁ~んで俺さまと同じくらい、愛してくれないんだぁ~!」

 

 このお店に入り、少しお酒が入った途端、もう烈火の如く愚痴を吐き出していく。

 アンパンマンもバタコさんも、流石にちょっとゲンナリしてきた様子。長年の友人であるから付き合ってやるが、正直もう帰りたい気持ち。

 たとえここが高級なお寿司屋さんで、美味しい物がたくさん食べられるとしても、こんな愚痴を聞かされながらでは味わうことも出来ない。

 

「家事は下手だし、料理はたまにレトルトで済ますし、俺さまに労いの言葉もなぁーいっ!

 ドキンちゃんに比べれば、こっちの方がよっぽど努力してる! いつもしてあげてるっ!

 なのになんでぇ! 俺さまに優しくしてくれないんだぁ~! バカぁ~~っ!」

 

 怒るかと思えば泣き、泣くかと思えば怒る。ばいきんまんはお酒のパワーで、ただいま絶好調であった。

 まぁこういう愚痴も、たまに少しだけであれば、良い発散にもなるんだろうが……それにしてもやりすぎのように思える。

 なんと言ってもお店に迷惑がかかるし、なにより見苦しく見えてしまう。

 たとえばいきんまんからしたら、正しいことを言っているつもりだとしても、それでは周りにも理解されないだろう。

 

「ううっ……! 俺さまもう食べるしかないっ! お刺身で心を慰めるしかないぞっ……!

 たとえドキンちゃんがダメなお嫁さんで、パン族にうつつを抜かす常識知らずでも、お刺身は俺さまを裏切ったりしないからなぁ~! ううぅ~……!」

 

 なにやら拘りがあるのか、自分でやりたい性分なのか。

 ばいきんまんは“おろし金”を店主に持ってこさせ、自分でゴリゴリとわさびを削る。

 ばいきんまんはお子様舌なので、辛い物は苦手なのだが……ことお刺身に関してはワサビを付けて食べるのが好き。

 なのでちまちま作らせるのではなく、自分で沢山けずって沢山食べたいので、いつもワガママを言って持ってこさせるのだ。

 

「ほぉ~ら見ろみんな! わさびの富士山が出来たぞっ! 見事な腕前だろう?

 これをお醤油にササッと溶かしてな? こうやってお刺身につけてぇ……うぅぅん旨いッ!!」

 

 食べてる時だけは、こちらに矛先が来なくて済む。でも願わくば、もう少し静かに食べてくれないかなぁ……。

 アンパンマンもバタコさんも、せっかくのお寿司やお刺身だというのに、あまり味わうことが出来ずにいた。

 

「どうした三人ともぉ~! 俺さまの奢りだぞぉ~う? 食え食えぇ~!

 ほらっ、俺さまが削ったワサビを分けてやろうっ!

 こうやって醤油に溶かしてだな?」

 

「あはは……」

 

 もう苦笑するしかない。アンパンマンはされるがまま、言われるがままになっていた。

 しかし……その時。

 

 

「――――酔っ払いの泣き言っていうのは、滑稽だねぇ。

 そんなだから、嫁さんに愛想をつかされるんじゃないのか?」

 

 

 そう言い捨てる強い声が、ばいきんまん達がいるこの場に響いた。

 

「おっ……お前っ! 山岡ぁ(・・・)!!」

 

「山岡さんっ! いったいどうしたのよっ?!」

 

 ばいきんまん達と同じ座敷に座り、共にテーブルの料理を囲んでいた、もう一人の男。

 彼の名は山岡士郎――――制作会社こそ違えど、アンパンマンと同じくアニメスターであり、【美味しんぼ】という作品の主人公を務める男だ。

 

「なんだとぅ! もういっぺん言ってみろ山岡ぁー!

 俺さまのどぉ~こが、情けないんだぁ~!

 何にも間違ったこと言ってないじゃないかぁ~!」

 

「ばいきん先輩にとっては正論でも、奥さんにとってそうとは限らない……、って話だ。

 たとえ誰より仕事が出来ても、好きな時に寿司が食えても、それが良き夫である(・・・・・・)とは限らないんだ」

 

「なっっっ!?!? なぁぁ~~にぃぃ~~っっ!!!!」

 

 思わず立ち上がり、バイキンメカを呼び出そうとする。アンパン&バタコに必死こいて止められるが、もう怒りは留まることを知らない。大噴火だ。

 

 

「――――明日、付き合って貰えますか?

 映画もクランクアップしたし、暫くお休みが貰えるんでしょう?

 ばいきん先輩に、ぜひ見せたい物があるんだ」

 

 

 山岡さんはそう言い捨て、踵を返して店を出て行った。

 後に残されたのは、もう大爆発しちゃったばいきんまん。そして心配そうに彼の背中を見守る、アンパンとバタコのみだった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「あの野郎ぉーー!! いったい俺さまを、どぉ~~こに連れて行くつもりだぁ~!!」

 

 後日、あれからケータイに届いた集合場所に集まったばいきんまん達。

 未だ怒りが収まらない彼を宥めながら、山岡が来るのを待っていた。

 

「つまんない物だったらぁ、たぁーだじゃおかないぞぉ~~っ!

 もうお寿司つれてってやんないしぃ! さり気なくアイツの上司に電話して、フォロー入れてやったりとかしないからなぁ~!」

 

 えっ、めっちゃ良い先輩じゃない? この人って悪役じゃなかった?

 そうは思うんだけど、もう何も言える雰囲気じゃない。ただただ二人は、怒り狂うばいきんまんを見守るばかりだ。

 

「――――お待たせしました先輩。

 車を用意しましたので、出発しましょうか」

 

「おぉー! 来たなぁー! やぁーまぁーおぉーかぁ~~~っ!!」

 

 ぷんぷん肩を怒らせながら、ドシドシ近寄っていく。

 それでも開けて貰った後部座席へと、素直に乗り込む辺りが、みんながばいきんまんを憎めないでいる理由なのかもしれない。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「おや珍しい、見学ですか?

 どうぞどうぞ見てやって下さい。自慢の子達ですから」

 

 やってきたのは、伊豆地方の山奥。

 車で数時間も走り、山道での軽いウォーキングをこなした後、ばいきんまん御一行が辿り着いたのがここ、“荘田わさび園”と書かれた田園であった。

 

「えっ、これわさび畑なのかっ? 山岡が俺さまに見せたかったのって……」

 

「そうです。ばいきん先輩が大好きな、わざびを作っていらっしゃる農家さんですよ」

 

 昔は辛い物が苦手だったが、こうして会社務めをするようになり、お酒を嗜むようになってから、ばいきんまんはワサビが大好きになった。

 美味しいお刺身に、ワサビをたっぷり溶かしたお醤油を付けて食べる。この珠玉の時こそが、今ばいきんまんがもっとも癒される時間だ。

 

「おぉっ! 山岡ッ! お前やるじゃないかぁ~っ!

 まさかわさび農家を見学できるなんてぇ~! 俺さま初めてだぞぉ~っ!」

 

 山岡さんの肩をパシパシ叩き、早くもご機嫌なばいきんまん先輩だ。

 いっちゃ悪いが、ちょろい人であった。

 

「うわぁ~、なんて綺麗なんだぁ~!

 これ全部、わさび畑なのかぁ~?!」

 

 いま彼らの眼前にあるのは、見渡す限りの田園風景。美しく、そして丁寧に栽培された、青々としたわさび畑の光景である。

 

「わぁ……大きい!

 こんなに大きなワサビ、私はじめて見ましたっ!」

 

「ははは、こいつは5年物ですよ。ワサビの中でも第一級品ですね」

 

 実際に目の前で収穫されたワサビを、バタコさんが感嘆の声を上げながら見つめる。

 とても立派で、大きい。なによりも大地の生命力を感じる、見たことが無いくらいに上質なワサビ。

 

「えっ、ここまで成長するのに、5年もかかるのかっ!? すごい手間暇じゃないかっ!」

 

「いやぁ。ここまで育てないと、“本当のワサビの味”は出ないんです。

 まだ細くて小さいのを、スーパーとかで売ってるのを見かけますが……あんなのはねぇ」

 

 すこし苦笑しながらも、荘田さんは嬉しそうに語る。

 自らが丹精を込めて育てたワサビなのだ。きっとみんなが目を輝かせ、掛け値なしに褒めてくれてるのが嬉しいのだろう。

 

「ワサビ畑~とは言うけど、本当は田んぼなんだな……。

 一面に水が流れてて、その中にワサビは植えられてるのかぁ……」

 

「ええ。でも普通の田んぼとは違い、とても水が澄んでるでしょう?

 この綺麗な水こそが、ワサビの生命なんです」

 

「ねぇばいきんまん? 下が泥じゃなくて、小砂利が敷いてあるみたいだ。

 だからこそ、田んぼの水が濁らないんだね。すごく綺麗な水だよ」

 

「綺麗な水に、綺麗な地質、そして澄んだ空気……。

 この環境で育つからこそ、ワサビの香気はあんなにも清冽なのね♪」

 

 初めて見た、わさび畑の光景。

 そして庄田さんの愛情を感じる、とても手間暇のかかった丁寧な仕事。美しくて立派で、とても美味しそうなワサビ。

 

「嬉しいです、みなさんは本当によく見て下さっている……。

 まるで自分の育てた娘を、褒めて頂いてるみたいだ……。

 ありがとう。頑張ってやって来たのが報われるよ」

 

 庄田さんはほのかに涙を滲ませながら、ばいきんまん達に「ありがとう」を繰り返す。

 正直こんな立派な仕事をする農家さんに頭を下げられるのは、「こちらこそです!」と恐縮しちゃっていけない。でも凄く温かな時間だった。

 

「よっし! せっかく来てくれたんだ、ワサビを好きなだけ持っていくと良い!」

 

「ええっ! いや悪いよ親父さんっ! 俺さまこんな立派なワサビ貰えないよっ!

 せっかく5年もかけて育てたのにっ!」

 

 いやいやいやっ! って感じで、ばいきんまんがプルプル首を振る。

 いま目の前にあるワサビ達が、一体どれだけの手間暇と愛情をかけて育てられた事か。そんなのを好きなだけ~なんて、とても許される事じゃないと、ワサビ大好きなばいきんまんは固辞しようとするが……。

 

 

「まかせといて。さぁ、いちばん良いのを選んであげよう。

 ぜひ美味しく食べておくれ――――」

 

 

 本当に幸せそうな庄田の横顔を見て、もう何も言えなくなってしまうのだった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「えっ、これ何だ? 変な皮みたいのが貼ってあるけど……」

 

 あれから帰路に着き、夕食時を迎えた。

 ここは昨日も彼らが来た、あのいきつけのお寿司屋さんである。

 

「これは“(サメ)の皮”ですよ。

 板に張り付けて、おろし器として使うんです」

 

 昨日と同じように、今ばいきんまんの前にあるテーブルには、沢山のお刺身が並んでいる。

 山岡は彼の隣に座り、自身が持ってきたサメの皮を使ったおろし器を使い、今日庄田さんから貰って来たワサビを摩り下ろして見せる。

 

「おぉ! 綺麗な緑色だなっ!

 そんで、ねっとりとねばりがある! 普通のと全然違うよ!」

 

 これは、もちろん庄田さんのワサビが素晴らしい物だという証拠。でもこのねっとりとしたねばりが出るのは、山岡が持ってきたサメの皮の効果である。

 

「同じように、この店で使っている金属製のおろし器で摩り下ろした物が、こちらです。

 ばいきん先輩、どうぞ。見比べてみてくれますか?」

 

「お……おぉ。さっきのヤツみたいにねばりは無いなぁ~。

 普通にコンモリしてる、いつも見る感じのヤツだ」

 

 小皿に貰い、少しだけつまんで食べてみる。

 これは、間違いなく物凄く美味しいワサビである事が分かった。

 ……けれど、何故だろう? どこか少しだけ物足りない(・・・・・)という気がした。これは最高のワサビなんだという期待値や先入観が、そうさせたのだろうか?

 

「では次に、このサメの皮で擦った物を。

 違いを比べてみて下さい」

 

 山岡の指示通り、今度はねっとりねばり気のある、サメ皮を使った方を口に運ぶ。

 その瞬間――――ばいきんまん達の鼻に、衝撃が突き抜けた。

 

「うおぁぁぁあああーーーーッッ!!!!

 これは辛いッ! 辛いぃぃぃいいいッッ!!! 鼻にツーンと抜けるぅぅぅ~~!!」

 

「きっ……効くわぁぁ~コレッ!? 強烈よぉー!!

 物は同じ、庄田さんのワサビなのにっ、なんでこんなにも違うのっ……?!?!」

 

 天井を仰ぎながら、後ろに仰け反る。それほどの破壊力と、突き抜ける清涼さがあった。

 

「バタコさんの言う通り、これはどちらも同じワサビ。

 庄田さんがお作りになった、この国で最高のワサビですよ」

 

 ふぎゃー! とか言いながらも、目に涙を浮かべて「おいしぃーっ!」

 そんなワケの分からない状態となっている皆に向かい、山岡が説明を始める。

 

「最初に食べた金属でおろした方は、きめ(・・)が荒いでしょう?

 一方サメ皮でおろした方は、きめが細かく、ねっとりしている。

 この差が問題なんです」

 

「そういえば……よくよく比べてみると、金属でやった方は、黒っぽいのが交じってるなぁ。

 わさびの皮まで摩り下ろしてるから、それが混ざってるのかぁ」

 

「でもサメ皮の方は、ちゃんと外側の皮を剥いてから、丁寧に摩り下ろしてたから……。

 もう全然見た目も色も違うよ~! すごく鮮やかな緑色だものっ!」

 

 ばいきん&アンパンが、コクリと頷き合う。

 その味、感じ方のみならず、見た目さえもこんなに違う。

 どちらが美味しくて、どちらが正しいのかなんて、もう考えるまでもない。

 

「ワサビの細胞の中に含まれている有効成分は、そのままでは全然辛みを発揮しないんです。

 難しい事を言うと、ばいきん先輩は眠ってしまうでしょうし……。説明は省きますが……。

 ようは、一般的な目の粗い(・・・・)金属のおろしでは、ワサビの真価を発揮できないという事です」

 

「えっ……でもここって、すんごく良いお寿司屋さんだぞ?

 こんな高いお店なのに、正しいやり方をしていない、って事か?」

 

「残念ながら、先輩の言う通り。

 一流と言われる店であっても、普通のおろし金で皮ごとすりおろしてる店の方が、もう圧倒的に多いんです。……おろし金という名前がついてて、みんなこれでやってる、これが常識だから、とね」

 

 ひと手間かけて皮を剥き、サメ皮のようなキメ細かい物で、とても丁寧におろせば……、たとえ少量であっても先ほどのばいきんまん達が感じたように、もう突き抜けるように効く。ワサビの真価を十二分に発揮出来る。

 その方が使用量も減るんだし、経済的にも良いと思いますがね、と山岡は語る。

 

「それと……ばいきん先輩?

 いちどワサビを醤油に溶かすのではなく、刺身の上に少し乗せる(・・・・・・・・・・)というやり方で、食べてみて貰えますか?」

 

「えっ」

 

 よ~し早速このワサビでぇ~! とばかりにお刺身を食べようとしていたばいきんまんを、山岡の一言が制する。

 なのでしぶしぶながらも動きを止め、言われた通りのやり方をして、刺身を口に運んでみた。

 

「うぉぉ! うおわぁぁぁーーーーーーーッッ☆☆☆

 効いたっ! 効いたぞぉぉ~~っ!

 ワサビの心地よい味がしてぇ! 酸味が舌の上を走るッッ!! 強烈にぃぃ!!

 そして香りがツーンと鼻に抜けてぇぇ! これは……これは辛いと言うよりも、旨い(・・)ッ!

 こりゃ美味しいぞぉぉぉおおお~~~うっっ!!」

 

 これは、今まで知らなかったかったやり方だ。

 ただなんとなしに、「そういう物だろう」と思い込んでいた自分のやり方は、実は間違いだったのだ。

 こんなにもワサビを活かせる方法があったのかと、ばいきんまんは正に「目から鱗っ!」という心境。めちゃめちゃ刺身おいしい! ワサビがこんなにも効いてるっ!

 

「ワサビの辛み成分は、揮発性なんです。

 またまた詳しい説明は省きますが……とにかく醤油で溶いてしまうと、せっかくのワサビの辛みや香りが、ほとんど飛んでしまうんだ。

 先輩はワサビが大好きで、今日こんなにも最高のワサビに出会った。

 けれど間違ったやり方をしては、とてもワサビの本当の良さなんて、知ることが出来なかったでしょう」

 

「うん山岡っ! お前の言う通りだぞっ!

 俺さまこんなにも美味しいワサビで、美味しくお刺身を食べたの、初めてだものッッ!!」

 

 パクパク! パクパク! と凄い勢いでお刺身を食べていく。

 このワサビをちょこっと摘まみ、お刺身に乗せる~というのはひと手間かかるが、その苦労さえも愛おしい。これによってとても美味しくなるんだから。

 むしろワクワクするくらいだった。

 

 

「同じように――――人との接し方にも、正しいやり方(・・・・・・)があるんじゃ無いですかね?

 俺達の種族はこうだから、みんなこうしてるから、こういう物だから……。

 そんな思い込みや、先入観の押しつけでは無く、先輩の奥さまにとっての正しい接し方、というのがあるんじゃないでしょうか?」

 

 

 その言葉に、ばいきんまんは「ハッ!」とした顔で、お箸を握っている手を止める。

 いま山岡さんは、とても真剣な……でも優しい表情でこちらを見つめている。

 

 

「先輩も見たでしょう?

 まるで自分の娘のように、愛情を込めてワサビを育てている庄田さんの姿を」

 

「先輩の愛が、庄田さんに負けているだなんて、俺には思えない。

 先輩は心から奥さんを愛し、とても大切に思っているって事は、この場の全員が知っています」

 

「けれど、今日のワサビの付け方のように、大切にするやり方(・・・・・・・・)を知らなかった。

 いくら愛していても、それが凝り固まった考えでする間違ったやり方であるなら、本当の意味で奥さんを大切にする事は、出来ないんじゃないですか?」

 

 

 カタンと、お箸が落ちる音。

 今ばいきんまんの脳裏には、自らが愛する大切なお嫁さんが、愛らしい笑顔を浮かべる姿が浮かんでいる。

 

 

「それが普通だとか、こうするべきだとか、そういうんじゃなく……。

 一度しっかりと、【奥さん自身を見てあげて下さい】

 彼女は“妻”という生き物じゃなく、ドキンちゃんという名の女の子です。

 彼女を一人の人間として、見てあげて下さい。

 そして、彼女にとって一番よい接し方……、一番よい愛し方を、考えてあげて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「ねぇ、どうしたのぉ~ばいきんまぁ~ん?

 いっつも帰ったら、ソファーでぐーたらしてるのにぃ~」

 

 あの山岡たちと共に、美味しいワサビに舌鼓を打った、その日の夜から……。

 ばいきんまんは唐突に部屋の片付けや、お風呂の掃除、そして料理のお手伝いなどをするようになった。

 

「なんかばいきんまん、すごく笑うようになったね(・・・・・・・・・)

 いっつも家では、難しい顔してたのに……。

 忙しい忙しい~って、ダルそうにしてたのに……」

 

 けれど今のばいきんまんは、家でも笑顔を絶やさない。

 それは決して無理やりな笑みでは無く、まるで「君と一緒にいるのが幸せだ」という感謝を、ドキンちゃんに伝えるかのような、幸せそうな笑みだった。

 

 ドキンちゃんは、料理がそんなに上手じゃなかった。

 なら俺さまもやるから、一緒に勉強してみないか? 一緒に上手になろうよ!

 たまには外食したりして、美味しい料理を研究するんだ。そうして学んだ料理を、また二人で作ってみたらいいよ♪

 

 ドキンちゃんは、手先が不器用だった。だからマフラーだって編めないし、ばいきんまんの服のほつれをお裁縫で直してあげる事も出来ない。

 なら俺さまもやるよ。一緒に練習しよう。ちょうどもうすぐ冬だし、それに向けてお互いにマフラーを編み合わないか?

 俺さまはオレンジを編むから、ドキンちゃんは紫を編んでよ。

 分からない所や、苦手な所は教え合って、一緒に作ってみようよ♪

 

 

 あれだけ熱心だった、しょくぱんまん(アイドル)のおっかけは、次第にしなくなった。

 確かにしょくぱんまんは好きだけど……でも今はそれより、やりたい事がある。

 彼と一緒に食べに行ったあのチンジャオロースを、自分達で再現してみたいのだ。

 彼と一緒に編んでいるマフラーを、少しでも可愛く、しっかりと作りたいのだ。

 

 そんな風に、毎日たくさん楽しい事があるから。

 家に一人きりでいるばかりじゃなく、やりたい事や、練習したい事、また夫の為にしてあげたい事がいっぱい出来たから、ドキンちゃんは今とても充実しているのだ。

 

 そして……暫く月日が経った、ある日の晩のこと。

 

 

 

「た……ただいまぁ、ドキンちゃん」

 

 ここ数か月の間、いつも出来るだけ早く、規則正しい時間に帰って来るようにしていた彼が、いつもよりほんの20分ばかり遅く帰って来た。

 ケータイに連絡をしてくれてたし、それは別に良い。

 けれど今、彼がさっさと靴を脱いで上がって来る事もせず、なにやら後ろで手を組んでモジモジしている姿に、ドキンちゃんは「キョトン?」と首を傾げた。

 

「えっ……えっとぉ! 今日俺さま達、結婚記念日だよっ!?

 これ買って来たんだっっ!」

 

 もう「どうぞっ! お納め下さいっ!」とばかりに頭を下げながら、花束とケーキとシャンパンを差し出す。

 こんな物を買ってくる事など、この30年の間、一度も無かったのだ。

 それどころか「彼は結婚記念日を憶えていたんだ……」という驚きに、ドキンちゃんはポカンと口を開けてしまった。

 

 

「ゴメン……今まで一度も言った事なかったけど、『愛してるよ』

 俺さまといてくれて、俺さまと一緒になってくれて、ありがとう――――」

 

 

 えへへとハニカミながら、感謝を告げる。

 まっすぐで、彼らしい不器用さで、ドキンちゃんへの愛を口にした。

 

 古い考えの人間であり、今まで頑なに「男が台所に立てるか!」とか「女はこうするモンだ!」とか言い張っていた彼が。

 仕事や責任を果たしてさえいれば、それで愛情が伝わると思い込んでいた彼が。

 いつも妻としての義務や、こうあるべきという考えばかりを、押し付けていた彼が。

 

 今、しっかりとこちらの顔を見て、微笑んでくれている――――

 

 

 

「いやぁーーん☆ もう貴方ったらぁ~~~ん☆☆☆」

 

「ほげっ!?!?」

 

 いきなり飛び掛かられて(抱き着かれて)、ばいきんまんは変な声が出た。

 

「やだもー☆ もぉおーーう♪

 すきっ♡ すきっ♡ すきっ♡」

 

「ほっ……ほわぁー! ほわぁぁぁあああーーっ!!

 助けてぇ~っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして団地の一室に吹き荒れる、嵐のようなキスの雨――――

 

 あの日、アンパンマンは「ぼくらに生殖能力はあるの?」とか言ってたけど……、その答えを今夜ドキンちゃんに見せてやろうと思う、ばいきんまんであった。

 

 

 

 







◆スペシャルサンクス◆

 MREさま♪


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