【募】こんな小説を書けこの野郎【リクエスト】 作:hasegawa&friends
ゼクス!(むっつぅ!)
※お題として頂いた人物設定。一覧
・1.同じ種族で付き合うべきである主義の、バイキンマン。
・2,異種姦に興味のある、バタコさん、
・3,JAMおじさんに作られた謎な不思議生命体である自分たちに、生殖能力があるのか? 黴菌と結婚生活が成り立つのか疑問が尽きない、アンパンマン。
・4,主張も性癖もhasegawa様にお任せな、誰か。
以上の4名。
「ばいきんまん! タイミングを合わせてっ!」
「俺さまに命令するなぁッ!!」
アンパンマンの身体が金色の光を放ち、ばいきんまんの漆黒のオーラが天地をも揺らしていく。
「距離2000! 標的数300! ……行くよばいきんまん! 3,2,1っ!!」
「俺さまにぃッ! 命令するなぁぁ~~~ッッ!!」
二人が連れ立って、その場から飛ぶ。
その身は一瞬にして大地を駆け、瞬く間にマッハを超える。いくつもいくつも音速の壁を破り、そのソニックブームによって地面が抉れていく。
「「――――
世界が揺れる――――白一色に染まる。
眩い閃光が天をも貫き、雲に巨大な風穴を空けた。
◆ ◆ ◆
「あー疲れた疲れたっとぉ。
ただいまぁドキンちゃん~。俺さま帰ったよぉ~」
団地のアパートにある、ばいきんまんの部屋。
彼はダルそうにネクタイを緩めながら、器用に足の親指を使って革靴を脱ぐ。
「お腹空いたよ~ドキンちゃん。
帰るのが遅くなってごめんよ~」
スーツの上着を脱ぎながら、トテトテと廊下を歩く。今日の仕事の忙しさを思い返し、ふーやれやれとため息も付く。今日は劇場版の撮影で、すごく大変だったのだ。
そうこうしつつ、やがて彼はリビングの扉の前に辿り着く。するとなにやら、中から騒がしい音が聞こえてきた。
「おードキンちゃん、ただいm
「――――きゃー♪ しょくぱんまん様ぁ~! 素敵ぃぃ~~☆」
ガチャリとドアを開けた途端、目に飛び込んできたのは、
それはピンク色で、額には「しょくぱんまんLOVE」と書かれたハチマキ。手にはしょくぱんまんの顔写真がプリントされたウチワもある。
「L.O.V.E! ゴーゴー! しょくぱんまんっ☆
ダンディ! セクシィ! 負けるな! しょくぱんまんっ☆」
たった今仕事から帰宅したばいきんまん。30年以上も連れ添っている、自身の夫。
けれどドキンちゃんはそちらには目もくれず、TVに映る映像に夢中だ。
先日購入したブルーレイ【しょくぱんまんLIVE2021 in 横浜アリーナ】に首ったけなのである。
まぁ彼女は当日のライブにも、しっかり参戦していたのであるが。
「あ、ドキンちゃん? 俺さま帰ったよ。
今日のごはんは何かな? 俺さまもう腹ペコd
「レッツゴー! レッツゴー! がんばれ! しょくぱんまん☆
しょくぱんまん様ぁぁーー! 素敵ぃぃーー☆☆☆」
何度声をかけても、見向きもされない。
団地のアパートなのにピョンピョン飛び跳ねながら、元気にモニターの向こうに声援を送るばかり。その姿はとても愛らしくはあるのだが……。
「ちょ……ちょっとぉドキンちゃん! 俺さま帰ったんだけどっ!?
そんなの観てないで、こっち向いてよっ! もうお腹と背中がくっつきそうなのだ!」
「――――うっさいなぁっ! 邪魔しないでよぉばいきんまんっ!! おバカぁーーっ!!」
思わず大声を出せば、それ以上の声で怒鳴り返される。
そのあまりの理不尽さに、ばいきんまんは恐れおののいた。俺さま一家の主なのに。
「お鍋の中にカレー入ってるから、好きに食べたらいいじゃないっ!
もう9時だし、きっと冷めちゃってるけどねっ! 勝手にしなさいよぉっ!!」
グアーッ! っと喚き散らしてから、再びTVの方に向き直る。
コミカルにダンスを踊りながら、大好きなアイドル(しょくぱんまん)の映像を観る。
そんなドキンちゃんの姿に、愛するお嫁さんの姿に……ばいきんまんはもう何も言えなくなってしまった。情けないことに。
◆ ◆ ◆
「――――というワケで、なんとかしろお前ら。友達だろう」
「そんな偉そうに言うこと? 貴方の感覚どうなってるの?」
「うん、それは無いよばいきんまん……」
ようやく訪れた休日。お日様が元気に輝いている、とても気分の良い日より。
都内にあるクラシックな雰囲気の漂う喫茶店で、バタコさんとアンパンマンが苦言を漏らした。
「仕方ないだろう? 俺さまは、人に頭を下げるのが大キライだからな!
あ~っはっはっは!」
「あのね? 貴方が大御所役者じゃなきゃ、この場でぶっ飛ばしてるわよ?
このケーキナイフの切れ味を見せてあげましょうか」
「ぼくがキッズアニメのキャラじゃなきゃ、『やっちまうぞこの野郎』だよ?
夜道に気を付けてね~」
アニメや映画などを制作する会社であり、ジャムが社長として運営している、ジャムアニメーション。
その同僚であり、重要な役職にある二人が、何でたまの休日にこんな所に呼び出されなきゃいけないんだ。何でこんなしょーもない話を聞かされなきゃならないのか。
アンパンマンもバタコさんも、たいへんご不満な様子である。今すぐ帰りたい気持ちだ。
「私の
その頭を引きちぎり、時速300㎞で地平線の彼方へ投げるわよ?」
「地面と同化するまで殴るよ? その養分で小麦を栽培するよ?」
「まぁ! 素敵ねアンパンマン♪
私その小麦にツバを吐いてやるわ。パンを焼くことも無く」
「やめろ。子供の夢を壊すな。
お前たちは国民的アニメのキャラだろうが。プライベートでも気を使わないか」
目が怖い。こいつら本当にやりかねない。歴戦の殺戮者の目だ。
その雰囲気を感じ取ったばいきんまんは、彼らの為に追加のケーキを注文した。心ばかりのお礼だ。
「とりあえず、
ドキンちゃんが冷たくて、俺さま困ってるのだ。夫婦仲が冷え切ってるんだぞ」
「面白い日本語ねぇソレ。……まぁ良いわ、考えてみましょうか」
「せっかく来たんだし、休日も潰されたしね。少しは建設的な話をしようか」
オレンジジュースやコーラをじゅごごっ……! っと飲み干して、三人はお互いの顔に向き直る。
本日のテーマは【どうすればドキンちゃんが振り向いてくれるか?】
彼らの冷え切った家庭環境を、改善するための案を出し合う事。
もう30年以上も一緒にやって来た仲間だし、なんだかんだと仲の良い三人なのであった。
「だいたい何なのだ! しょくぱんまんって!
ドキンちゃんは細菌族だぞ!? なぁ~んでパン族なんかに惚れるんだっ!
俺さまというものがありながらぁ~っ!」
「まぁしょくぱんまんって、カッコいいしね。
戦ってる姿も、踊ってる姿も、その所作のひとつひとつがヒーローそのものよ。
最近はアイドルとしても成功してるみたいだし」
「確か、横浜アリーナを満員にしたんでしょう?
僕もお祝いのお花を贈ったけれど、大成功だったみたいだね♪」
「バカ野郎ぉ! いくらカッコ良くてもっ! アイツはパンなのだっ!
なんでドキンちゃんがパンに惚れる?! おかしいだろそんなのぉ~!」
もう30年も一緒に住んでるのに、彼女はばいきんまんになんて見向きもせず、しょくぱんアイドルに夢中。それがおおいに気に喰わない。
確かにイケメンかもしれないが、パンなどに惚れて何とする? 何にもなんないじゃないかと喚き散らす。
それに出来ればだが、ライブやグッズにお金を費やし、家計を圧迫するのもやめて欲しい。ばいきんまんは小金持ちであるが、それこそ散財してたらキリがないのだ。
たまにネットオークションとかで、目が飛び出るほど高い買い物をしてたりするし。
しょくぱんまんが使ったペットボトルに30万円の値が付くなんて、俺さまビックリだよと。
「異種間の恋愛って、よくある事よ? 特に私達の業界ではね。
私も以前から、おむすびまんと連絡を取り合ってたりするし。彼のこと好きよ?
とっても素敵な人だと思うわ♪ 強いし、とても紳士だもの♪」
「あ、そうなんだバタコさん。ぼく知らなかったよ。
確かに異種間の恋愛って、よく聞くよね」
「駄目だぁッ!! ダメだダメだダメだぁ~っ!
異種間の恋愛など認めぇ~ん! おんなじ種族同士でくっつくべきなんだぁ~!
それが自然な在り方なんだぁ~!」
ちなみにであるが、ここは“現代日本”である。
彼らは今、私達の住んでいるのと同じ世界にある喫茶店で、仲良くダベっているという事を、ご承知願いたいと思う。
彼らは人間社会に溶け込み、役者であったり会社の重役であったりと、しっかり地に足のついた仕事をしている。この世界で共に生きているのである。
もちろん、この世界でも彼らが出演する【それいけ!アンパンマン】はしっかり放映されており、国民的アニメとして全国の人々に認知されている。いわば彼らはちょっとした有名人であると言えよう。
それはともかくとして、あいかわらず彼は「ダメだダメだ!」と喚くばかり。
いわゆる“古い考え”とか“個人的な趣向”という物を、ただ感情的に叫んでいるだけに思えた。そこには他人を納得させうる理由や、順序立てた理屈など無かった。
「そういえば……ぼくずっと気になっていたんだけど。
異種間の恋愛とか結婚って、いったいどんな物なの?
ぼくは社長(ジャムおじさん)から恋愛禁止を言い渡されてるし……よく知らないんだ」
ここでアンパンマンが疑問を提示する。少し話の流れが変わった事で、うるさかったばいきんまんも大人しくなる。
「ん? 別に普通よ? なんの問題もなく恋愛できるし、結婚だって出来るわ♪」
「うむ。俺さまは反対派ではあるけど……、それ自体は普通に可能なことだぞ」
「そうなの?」
キョトンとした顔のアンパンマン。対して「なにを当たり前なことを」といった風な二人。
これまでアンパンマンは仕事に忙しかったので、どうやら“世間一般”の事情には疎いようだった。
「ならさ? 例えばだけど、カバ男くんがネコ美ちゃんと結婚したとするよね?
この場合は、どんな風になるのかな」
「とりあえず、役所に申請を出すぞ。
婚約や、籍を入れる事。それと
「種族変更ッ?!?!」
おもわず大きな声を出し、席から立ち上がってしまう。
他にお客さんもチラホラいるんだし、アンパンマンは慌てて口を塞いで座り直した。
「何をおどろいているのだ?
人間だって、国際結婚をするだろう? それと同じ事じゃないか」
「ちゃんと申請して、その資格が認められれば、種族は変更出来るわ♪
たとえばカバ男のお父さんって、元々は“アヒル族”の人だったの。
でも結婚をする際に、お嫁さんと一緒のカバ族になったのよ。
以前聞いたことがあるわ♪」
「み……見た目とか、顔はどうするの?
アヒルだった人がカバになるなんて、いったいどうやったら……?」
「そんなの、
被ってたアヒルのマスクを脱いで、新しいカバのマスクを装着すれば、それでいっちょ上がりなのだ。なんにも難しくないぞ?」
「ぶっちゃけ、全ての動物族は、マスクを外せば
厳密にいえば、分類としては“妖精”なんだけど……、見た目は人間と一緒なの。
この世に産まれ落ちたその日から、一生マスクを被って過ごすという、キン肉マン方式ね。
素顔を人に見られたら死ぬわ」
いま明かされる衝撃の真実――――
カバ男くんの顔はマスクだった! 中身はだたの人(妖精)だった!
伊達にみんなてんどんマンとか、カツ丼マンとか、名前に“マン”(人間)が付いているワケではないのだ! マスク脱いだら普通なのだ!
「だから、被ってるマスクさえ変更してしまえば、その日からカバにもアヒルにもなれる。
もちろんみんな、首の下は人間と一緒だから、普通に夫婦生活だって出来るわ」
「俺さまが言っているのは、種族の習わしとか、伝統とか、血筋とかの事だぞ?
同じ種族同士くっついた方が望ましい! その方がぜったい分かり合えるし、役所に行って面倒な申請をしなくて済むぞ! って話なのだ」
「でも私、とても興味深々だわ♪
今までカバとして生きて来た人と、アヒルとして生きて来た人が夫婦になるんでしょう?
当然持っている常識なんかも違うし、生活習慣もしきたりも違ってくるハズよ?
異種間の結婚って、いったいどんな風になるのかしら?」
「そこら辺はまぁ、人間社会における“国際結婚”と似たような物だぞ?
一緒に生活しながら、お互いの違いを理解し合い、時には戸惑ったりしながらも、少しづつ歩み寄っていく。そうやって一緒に生きてくんだよ」
そうのほほーんと語り合う二人。対して絶句するアンパンマン。
思えば自分達がいるこの世界には、人間の他に、もう目もくらむような数の多種多様な種族がいる。動物族とか、食べ物族とか、無機物族とか。
きっとだが、例えばカバ男くんが結婚適齢期となり、そしてお嫁さんを探そうとしたとしても……自分の家族以外に同じカバ族の女の子を見つける事は、けっこう大変な事だと思う。
彼の通っている学校には、自分しかカバ族の者が居ないし、先ほども言った通り、もう数えきれないほど沢山の種族が、同じ国で一緒に暮らしているのだから。
ゆえに、この“異種間の恋愛”というのは、実はとてもとてもポピュラーで、当たり前の事であったりする。この世界の状況を鑑みれば、ある種の必然である。
ばいきんまんが言っているのは、「せっかく同じ細菌族同士が一緒にいるのに、なにパン族にうつつを抜かしてるんだ!」という事である。
この世界の事情を鑑みれば、元から細菌族であった二人が出会い、そして結婚まで漕ぎ着けられたのは、とても幸運な事だったりするのだ。
「じゃ……じゃあ仮にさ? ぼくもカバになれたりするのかな?
カバ族の人と結婚する事になったら、ぼくもカバのマスクを」
「
「アンパンマン? そもそも貴方は、私達“妖精”とは違うの。ヒーローなのよ。
ある日とつぜん空から降って来た【いのちの星】が、ジャムおじさんの焼いたパンに宿り、そうして誕生したのが貴方よ♪
だから顔を
なんとなしに聞いては見たが、どうやら自分は例外であったようだ。
ちなみにであるが、これはアンパンマンだけの事でなく、同時期にバイキン星から卵の状態でやってきたという“ばいきんまん”も同じ。
彼ら二人、そしてカレーパンマン達などのパン族は、例外なのだ。
この世界においては【特別な存在】であると言える。
「えっ。じゃあぼくは、だれかと恋愛したり結婚したりって……出来ないのかな?」
「別に、するだけならいくらでも出来るぞ?
ただ“種族変更”が出来ないっていうだけで。なんにも問題ないぞぉ~」
「まれにだけど、今はそういう夫婦もいるらしいわ。
これは人間社会においても、実質的には夫婦でも別の性を名乗る人達がいるのと同じね♪
誰しも自分の考えだったり、それぞれのライフスタイルがあるのよ♪」
二人が「うふふ♪」と微笑み、笑顔を交わし合う。
未だアンパンマンは戸惑っている様子だが、彼らはもう「当然っ!」といったような具合だ。
「なっ、なら
ぼくとかカバ男くんとかは、ちゃんと子供を作れるの!?」
「はぁ? 何を言ってるんだお前は。出来るに決まってるだろう。
そうじゃなきゃ、子孫繁栄も出来ず、俺さまたち滅んじゃうじゃないか」
「異種間での、夜の営みかぁ~。うふふふ、異種姦♪」
お前が世間知らずなのは知ってたがな? でもよく考えて物を言え。
ばいきんまんは「はぁ……」とため息をつき、呆れたような顔をする。
まぁバタコさんに関しては、一人どこか遠くへと意識を飛ばしてるけど。
「いいかアンパン野郎? よぉ~く聞け? 一度しか言わないぞ」
「う、うん」
「赤ちゃんは、
愛し合ってるお父さんとお母さんが「赤ちゃんを授かりますように」と願いながら、一緒のベッドで手をつないで眠れば、神様がそれを叶えてくれるんだよ」
「常識よね♪」
「!?!?!?」
アンパンマンは漫画みたいに「ガーン!」と驚く。
ばいきん&バタコは「うんうん」と頷くばかりである。
「まさかお前は、この俺さまに生殖器がどうとか、精子卵子とか、性行為はどうやるとか、そういう事を言わせるつもりか?
ここをどこだと思ってるんだ。
「う、うん……。ごめんよばいきんまん……」
場をわきまえろ、つぶあん野郎――――
そんな彼の正論パンチにより、この話題はうやむやとなった。
◆ ◆ ◆
「クソがぁ~! ドキンちゃんのバァーーカ! メシマズ嫁ぇ~!
みんなドキンちゃんが悪いんだぁ~!!」
すっかり日も暮れて、夜の8時。
ばいきんまん達は店を変え、今は彼いきつけのお寿司屋さんにいる。
彼ら三人の他に、ようやく仕事を切り上げてこちらにやって来てくれた、ある友人を仲間に加えて。
「なんで分かってくれないんだろうな?!
俺さまはこんなにもドキンちゃんを想っているのにっ! すごく愛してるのにっ!
いつも仕事がんばってるし、ごはんも食べさせてるし、不自由させて無いじゃないかぁ!
なぁ~んで俺さまと同じくらい、愛してくれないんだぁ~!」
このお店に入り、少しお酒が入った途端、もう烈火の如く愚痴を吐き出していく。
アンパンマンもバタコさんも、流石にちょっとゲンナリしてきた様子。長年の友人であるから付き合ってやるが、正直もう帰りたい気持ち。
たとえここが高級なお寿司屋さんで、美味しい物がたくさん食べられるとしても、こんな愚痴を聞かされながらでは味わうことも出来ない。
「家事は下手だし、料理はたまにレトルトで済ますし、俺さまに労いの言葉もなぁーいっ!
ドキンちゃんに比べれば、こっちの方がよっぽど努力してる! いつもしてあげてるっ!
なのになんでぇ! 俺さまに優しくしてくれないんだぁ~! バカぁ~~っ!」
怒るかと思えば泣き、泣くかと思えば怒る。ばいきんまんはお酒のパワーで、ただいま絶好調であった。
まぁこういう愚痴も、たまに少しだけであれば、良い発散にもなるんだろうが……それにしてもやりすぎのように思える。
なんと言ってもお店に迷惑がかかるし、なにより見苦しく見えてしまう。
たとえばいきんまんからしたら、正しいことを言っているつもりだとしても、それでは周りにも理解されないだろう。
「ううっ……! 俺さまもう食べるしかないっ! お刺身で心を慰めるしかないぞっ……!
たとえドキンちゃんがダメなお嫁さんで、パン族にうつつを抜かす常識知らずでも、お刺身は俺さまを裏切ったりしないからなぁ~! ううぅ~……!」
なにやら拘りがあるのか、自分でやりたい性分なのか。
ばいきんまんは“おろし金”を店主に持ってこさせ、自分でゴリゴリとわさびを削る。
ばいきんまんはお子様舌なので、辛い物は苦手なのだが……ことお刺身に関してはワサビを付けて食べるのが好き。
なのでちまちま作らせるのではなく、自分で沢山けずって沢山食べたいので、いつもワガママを言って持ってこさせるのだ。
「ほぉ~ら見ろみんな! わさびの富士山が出来たぞっ! 見事な腕前だろう?
これをお醤油にササッと溶かしてな? こうやってお刺身につけてぇ……うぅぅん旨いッ!!」
食べてる時だけは、こちらに矛先が来なくて済む。でも願わくば、もう少し静かに食べてくれないかなぁ……。
アンパンマンもバタコさんも、せっかくのお寿司やお刺身だというのに、あまり味わうことが出来ずにいた。
「どうした三人ともぉ~! 俺さまの奢りだぞぉ~う? 食え食えぇ~!
ほらっ、俺さまが削ったワサビを分けてやろうっ!
こうやって醤油に溶かしてだな?」
「あはは……」
もう苦笑するしかない。アンパンマンはされるがまま、言われるがままになっていた。
しかし……その時。
「――――酔っ払いの泣き言っていうのは、滑稽だねぇ。
そんなだから、嫁さんに愛想をつかされるんじゃないのか?」
そう言い捨てる強い声が、ばいきんまん達がいるこの場に響いた。
「おっ……お前っ!
「山岡さんっ! いったいどうしたのよっ?!」
ばいきんまん達と同じ座敷に座り、共にテーブルの料理を囲んでいた、もう一人の男。
彼の名は山岡士郎――――制作会社こそ違えど、アンパンマンと同じくアニメスターであり、【美味しんぼ】という作品の主人公を務める男だ。
「なんだとぅ! もういっぺん言ってみろ山岡ぁー!
俺さまのどぉ~こが、情けないんだぁ~!
何にも間違ったこと言ってないじゃないかぁ~!」
「ばいきん先輩にとっては正論でも、奥さんにとってそうとは限らない……、って話だ。
たとえ誰より仕事が出来ても、好きな時に寿司が食えても、それが
「なっっっ!?!? なぁぁ~~にぃぃ~~っっ!!!!」
思わず立ち上がり、バイキンメカを呼び出そうとする。アンパン&バタコに必死こいて止められるが、もう怒りは留まることを知らない。大噴火だ。
「――――明日、付き合って貰えますか?
映画もクランクアップしたし、暫くお休みが貰えるんでしょう?
ばいきん先輩に、ぜひ見せたい物があるんだ」
山岡さんはそう言い捨て、踵を返して店を出て行った。
後に残されたのは、もう大爆発しちゃったばいきんまん。そして心配そうに彼の背中を見守る、アンパンとバタコのみだった。
◆ ◆ ◆
「あの野郎ぉーー!! いったい俺さまを、どぉ~~こに連れて行くつもりだぁ~!!」
後日、あれからケータイに届いた集合場所に集まったばいきんまん達。
未だ怒りが収まらない彼を宥めながら、山岡が来るのを待っていた。
「つまんない物だったらぁ、たぁーだじゃおかないぞぉ~~っ!
もうお寿司つれてってやんないしぃ! さり気なくアイツの上司に電話して、フォロー入れてやったりとかしないからなぁ~!」
えっ、めっちゃ良い先輩じゃない? この人って悪役じゃなかった?
そうは思うんだけど、もう何も言える雰囲気じゃない。ただただ二人は、怒り狂うばいきんまんを見守るばかりだ。
「――――お待たせしました先輩。
車を用意しましたので、出発しましょうか」
「おぉー! 来たなぁー! やぁーまぁーおぉーかぁ~~~っ!!」
ぷんぷん肩を怒らせながら、ドシドシ近寄っていく。
それでも開けて貰った後部座席へと、素直に乗り込む辺りが、みんながばいきんまんを憎めないでいる理由なのかもしれない。
◆ ◆ ◆
「おや珍しい、見学ですか?
どうぞどうぞ見てやって下さい。自慢の子達ですから」
やってきたのは、伊豆地方の山奥。
車で数時間も走り、山道での軽いウォーキングをこなした後、ばいきんまん御一行が辿り着いたのがここ、“荘田わさび園”と書かれた田園であった。
「えっ、これわさび畑なのかっ? 山岡が俺さまに見せたかったのって……」
「そうです。ばいきん先輩が大好きな、わざびを作っていらっしゃる農家さんですよ」
昔は辛い物が苦手だったが、こうして会社務めをするようになり、お酒を嗜むようになってから、ばいきんまんはワサビが大好きになった。
美味しいお刺身に、ワサビをたっぷり溶かしたお醤油を付けて食べる。この珠玉の時こそが、今ばいきんまんがもっとも癒される時間だ。
「おぉっ! 山岡ッ! お前やるじゃないかぁ~っ!
まさかわさび農家を見学できるなんてぇ~! 俺さま初めてだぞぉ~っ!」
山岡さんの肩をパシパシ叩き、早くもご機嫌なばいきんまん先輩だ。
いっちゃ悪いが、ちょろい人であった。
「うわぁ~、なんて綺麗なんだぁ~!
これ全部、わさび畑なのかぁ~?!」
いま彼らの眼前にあるのは、見渡す限りの田園風景。美しく、そして丁寧に栽培された、青々としたわさび畑の光景である。
「わぁ……大きい!
こんなに大きなワサビ、私はじめて見ましたっ!」
「ははは、こいつは5年物ですよ。ワサビの中でも第一級品ですね」
実際に目の前で収穫されたワサビを、バタコさんが感嘆の声を上げながら見つめる。
とても立派で、大きい。なによりも大地の生命力を感じる、見たことが無いくらいに上質なワサビ。
「えっ、ここまで成長するのに、5年もかかるのかっ!? すごい手間暇じゃないかっ!」
「いやぁ。ここまで育てないと、“本当のワサビの味”は出ないんです。
まだ細くて小さいのを、スーパーとかで売ってるのを見かけますが……あんなのはねぇ」
すこし苦笑しながらも、荘田さんは嬉しそうに語る。
自らが丹精を込めて育てたワサビなのだ。きっとみんなが目を輝かせ、掛け値なしに褒めてくれてるのが嬉しいのだろう。
「ワサビ畑~とは言うけど、本当は田んぼなんだな……。
一面に水が流れてて、その中にワサビは植えられてるのかぁ……」
「ええ。でも普通の田んぼとは違い、とても水が澄んでるでしょう?
この綺麗な水こそが、ワサビの生命なんです」
「ねぇばいきんまん? 下が泥じゃなくて、小砂利が敷いてあるみたいだ。
だからこそ、田んぼの水が濁らないんだね。すごく綺麗な水だよ」
「綺麗な水に、綺麗な地質、そして澄んだ空気……。
この環境で育つからこそ、ワサビの香気はあんなにも清冽なのね♪」
初めて見た、わさび畑の光景。
そして庄田さんの愛情を感じる、とても手間暇のかかった丁寧な仕事。美しくて立派で、とても美味しそうなワサビ。
「嬉しいです、みなさんは本当によく見て下さっている……。
まるで自分の育てた娘を、褒めて頂いてるみたいだ……。
ありがとう。頑張ってやって来たのが報われるよ」
庄田さんはほのかに涙を滲ませながら、ばいきんまん達に「ありがとう」を繰り返す。
正直こんな立派な仕事をする農家さんに頭を下げられるのは、「こちらこそです!」と恐縮しちゃっていけない。でも凄く温かな時間だった。
「よっし! せっかく来てくれたんだ、ワサビを好きなだけ持っていくと良い!」
「ええっ! いや悪いよ親父さんっ! 俺さまこんな立派なワサビ貰えないよっ!
せっかく5年もかけて育てたのにっ!」
いやいやいやっ! って感じで、ばいきんまんがプルプル首を振る。
いま目の前にあるワサビ達が、一体どれだけの手間暇と愛情をかけて育てられた事か。そんなのを好きなだけ~なんて、とても許される事じゃないと、ワサビ大好きなばいきんまんは固辞しようとするが……。
「まかせといて。さぁ、いちばん良いのを選んであげよう。
ぜひ美味しく食べておくれ――――」
本当に幸せそうな庄田の横顔を見て、もう何も言えなくなってしまうのだった。
◆ ◆ ◆
「えっ、これ何だ? 変な皮みたいのが貼ってあるけど……」
あれから帰路に着き、夕食時を迎えた。
ここは昨日も彼らが来た、あのいきつけのお寿司屋さんである。
「これは“
板に張り付けて、おろし器として使うんです」
昨日と同じように、今ばいきんまんの前にあるテーブルには、沢山のお刺身が並んでいる。
山岡は彼の隣に座り、自身が持ってきたサメの皮を使ったおろし器を使い、今日庄田さんから貰って来たワサビを摩り下ろして見せる。
「おぉ! 綺麗な緑色だなっ!
そんで、ねっとりとねばりがある! 普通のと全然違うよ!」
これは、もちろん庄田さんのワサビが素晴らしい物だという証拠。でもこのねっとりとしたねばりが出るのは、山岡が持ってきたサメの皮の効果である。
「同じように、この店で使っている金属製のおろし器で摩り下ろした物が、こちらです。
ばいきん先輩、どうぞ。見比べてみてくれますか?」
「お……おぉ。さっきのヤツみたいにねばりは無いなぁ~。
普通にコンモリしてる、いつも見る感じのヤツだ」
小皿に貰い、少しだけつまんで食べてみる。
これは、間違いなく物凄く美味しいワサビである事が分かった。
……けれど、何故だろう? どこか少しだけ
「では次に、このサメの皮で擦った物を。
違いを比べてみて下さい」
山岡の指示通り、今度はねっとりねばり気のある、サメ皮を使った方を口に運ぶ。
その瞬間――――ばいきんまん達の鼻に、衝撃が突き抜けた。
「うおぁぁぁあああーーーーッッ!!!!
これは辛いッ! 辛いぃぃぃいいいッッ!!! 鼻にツーンと抜けるぅぅぅ~~!!」
「きっ……効くわぁぁ~コレッ!? 強烈よぉー!!
物は同じ、庄田さんのワサビなのにっ、なんでこんなにも違うのっ……?!?!」
天井を仰ぎながら、後ろに仰け反る。それほどの破壊力と、突き抜ける清涼さがあった。
「バタコさんの言う通り、これはどちらも同じワサビ。
庄田さんがお作りになった、この国で最高のワサビですよ」
ふぎゃー! とか言いながらも、目に涙を浮かべて「おいしぃーっ!」
そんなワケの分からない状態となっている皆に向かい、山岡が説明を始める。
「最初に食べた金属でおろした方は、
一方サメ皮でおろした方は、きめが細かく、ねっとりしている。
この差が問題なんです」
「そういえば……よくよく比べてみると、金属でやった方は、黒っぽいのが交じってるなぁ。
わさびの皮まで摩り下ろしてるから、それが混ざってるのかぁ」
「でもサメ皮の方は、ちゃんと外側の皮を剥いてから、丁寧に摩り下ろしてたから……。
もう全然見た目も色も違うよ~! すごく鮮やかな緑色だものっ!」
ばいきん&アンパンが、コクリと頷き合う。
その味、感じ方のみならず、見た目さえもこんなに違う。
どちらが美味しくて、どちらが正しいのかなんて、もう考えるまでもない。
「ワサビの細胞の中に含まれている有効成分は、そのままでは全然辛みを発揮しないんです。
難しい事を言うと、ばいきん先輩は眠ってしまうでしょうし……。説明は省きますが……。
ようは、一般的な
「えっ……でもここって、すんごく良いお寿司屋さんだぞ?
こんな高いお店なのに、正しいやり方をしていない、って事か?」
「残念ながら、先輩の言う通り。
一流と言われる店であっても、普通のおろし金で皮ごとすりおろしてる店の方が、もう圧倒的に多いんです。……おろし金という名前がついてて、みんなこれでやってる、これが常識だから、とね」
ひと手間かけて皮を剥き、サメ皮のようなキメ細かい物で、とても丁寧におろせば……、たとえ少量であっても先ほどのばいきんまん達が感じたように、もう突き抜けるように効く。ワサビの真価を十二分に発揮出来る。
その方が使用量も減るんだし、経済的にも良いと思いますがね、と山岡は語る。
「それと……ばいきん先輩?
いちどワサビを醤油に溶かすのではなく、
「えっ」
よ~し早速このワサビでぇ~! とばかりにお刺身を食べようとしていたばいきんまんを、山岡の一言が制する。
なのでしぶしぶながらも動きを止め、言われた通りのやり方をして、刺身を口に運んでみた。
「うぉぉ! うおわぁぁぁーーーーーーーッッ☆☆☆
効いたっ! 効いたぞぉぉ~~っ!
ワサビの心地よい味がしてぇ! 酸味が舌の上を走るッッ!! 強烈にぃぃ!!
そして香りがツーンと鼻に抜けてぇぇ! これは……これは辛いと言うよりも、
こりゃ美味しいぞぉぉぉおおお~~~うっっ!!」
これは、今まで知らなかったかったやり方だ。
ただなんとなしに、「そういう物だろう」と思い込んでいた自分のやり方は、実は間違いだったのだ。
こんなにもワサビを活かせる方法があったのかと、ばいきんまんは正に「目から鱗っ!」という心境。めちゃめちゃ刺身おいしい! ワサビがこんなにも効いてるっ!
「ワサビの辛み成分は、揮発性なんです。
またまた詳しい説明は省きますが……とにかく醤油で溶いてしまうと、せっかくのワサビの辛みや香りが、ほとんど飛んでしまうんだ。
先輩はワサビが大好きで、今日こんなにも最高のワサビに出会った。
けれど間違ったやり方をしては、とてもワサビの本当の良さなんて、知ることが出来なかったでしょう」
「うん山岡っ! お前の言う通りだぞっ!
俺さまこんなにも美味しいワサビで、美味しくお刺身を食べたの、初めてだものッッ!!」
パクパク! パクパク! と凄い勢いでお刺身を食べていく。
このワサビをちょこっと摘まみ、お刺身に乗せる~というのはひと手間かかるが、その苦労さえも愛おしい。これによってとても美味しくなるんだから。
むしろワクワクするくらいだった。
「同じように――――人との接し方にも、
俺達の種族はこうだから、みんなこうしてるから、こういう物だから……。
そんな思い込みや、先入観の押しつけでは無く、先輩の奥さまにとっての正しい接し方、というのがあるんじゃないでしょうか?」
その言葉に、ばいきんまんは「ハッ!」とした顔で、お箸を握っている手を止める。
いま山岡さんは、とても真剣な……でも優しい表情でこちらを見つめている。
「先輩も見たでしょう?
まるで自分の娘のように、愛情を込めてワサビを育てている庄田さんの姿を」
「先輩の愛が、庄田さんに負けているだなんて、俺には思えない。
先輩は心から奥さんを愛し、とても大切に思っているって事は、この場の全員が知っています」
「けれど、今日のワサビの付け方のように、
いくら愛していても、それが凝り固まった考えでする間違ったやり方であるなら、本当の意味で奥さんを大切にする事は、出来ないんじゃないですか?」
カタンと、お箸が落ちる音。
今ばいきんまんの脳裏には、自らが愛する大切なお嫁さんが、愛らしい笑顔を浮かべる姿が浮かんでいる。
「それが普通だとか、こうするべきだとか、そういうんじゃなく……。
一度しっかりと、【奥さん自身を見てあげて下さい】
彼女は“妻”という生き物じゃなく、ドキンちゃんという名の女の子です。
彼女を一人の人間として、見てあげて下さい。
そして、彼女にとって一番よい接し方……、一番よい愛し方を、考えてあげて下さい」
◆ ◆ ◆
「ねぇ、どうしたのぉ~ばいきんまぁ~ん?
いっつも帰ったら、ソファーでぐーたらしてるのにぃ~」
あの山岡たちと共に、美味しいワサビに舌鼓を打った、その日の夜から……。
ばいきんまんは唐突に部屋の片付けや、お風呂の掃除、そして料理のお手伝いなどをするようになった。
「なんかばいきんまん、すごく
いっつも家では、難しい顔してたのに……。
忙しい忙しい~って、ダルそうにしてたのに……」
けれど今のばいきんまんは、家でも笑顔を絶やさない。
それは決して無理やりな笑みでは無く、まるで「君と一緒にいるのが幸せだ」という感謝を、ドキンちゃんに伝えるかのような、幸せそうな笑みだった。
ドキンちゃんは、料理がそんなに上手じゃなかった。
なら俺さまもやるから、一緒に勉強してみないか? 一緒に上手になろうよ!
たまには外食したりして、美味しい料理を研究するんだ。そうして学んだ料理を、また二人で作ってみたらいいよ♪
ドキンちゃんは、手先が不器用だった。だからマフラーだって編めないし、ばいきんまんの服のほつれをお裁縫で直してあげる事も出来ない。
なら俺さまもやるよ。一緒に練習しよう。ちょうどもうすぐ冬だし、それに向けてお互いにマフラーを編み合わないか?
俺さまはオレンジを編むから、ドキンちゃんは紫を編んでよ。
分からない所や、苦手な所は教え合って、一緒に作ってみようよ♪
あれだけ熱心だった、しょくぱんまん(アイドル)のおっかけは、次第にしなくなった。
確かにしょくぱんまんは好きだけど……でも今はそれより、やりたい事がある。
彼と一緒に食べに行ったあのチンジャオロースを、自分達で再現してみたいのだ。
彼と一緒に編んでいるマフラーを、少しでも可愛く、しっかりと作りたいのだ。
そんな風に、毎日たくさん楽しい事があるから。
家に一人きりでいるばかりじゃなく、やりたい事や、練習したい事、また夫の為にしてあげたい事がいっぱい出来たから、ドキンちゃんは今とても充実しているのだ。
そして……暫く月日が経った、ある日の晩のこと。
「た……ただいまぁ、ドキンちゃん」
ここ数か月の間、いつも出来るだけ早く、規則正しい時間に帰って来るようにしていた彼が、いつもよりほんの20分ばかり遅く帰って来た。
ケータイに連絡をしてくれてたし、それは別に良い。
けれど今、彼がさっさと靴を脱いで上がって来る事もせず、なにやら後ろで手を組んでモジモジしている姿に、ドキンちゃんは「キョトン?」と首を傾げた。
「えっ……えっとぉ! 今日俺さま達、結婚記念日だよっ!?
これ買って来たんだっっ!」
もう「どうぞっ! お納め下さいっ!」とばかりに頭を下げながら、花束とケーキとシャンパンを差し出す。
こんな物を買ってくる事など、この30年の間、一度も無かったのだ。
それどころか「彼は結婚記念日を憶えていたんだ……」という驚きに、ドキンちゃんはポカンと口を開けてしまった。
「ゴメン……今まで一度も言った事なかったけど、『愛してるよ』
俺さまといてくれて、俺さまと一緒になってくれて、ありがとう――――」
えへへとハニカミながら、感謝を告げる。
まっすぐで、彼らしい不器用さで、ドキンちゃんへの愛を口にした。
古い考えの人間であり、今まで頑なに「男が台所に立てるか!」とか「女はこうするモンだ!」とか言い張っていた彼が。
仕事や責任を果たしてさえいれば、それで愛情が伝わると思い込んでいた彼が。
いつも妻としての義務や、こうあるべきという考えばかりを、押し付けていた彼が。
今、しっかりとこちらの顔を見て、微笑んでくれている――――
「いやぁーーん☆ もう貴方ったらぁ~~~ん☆☆☆」
「ほげっ!?!?」
いきなり飛び掛かられて(抱き着かれて)、ばいきんまんは変な声が出た。
「やだもー☆ もぉおーーう♪
すきっ♡ すきっ♡ すきっ♡」
「ほっ……ほわぁー! ほわぁぁぁあああーーっ!!
助けてぇ~っ!」
そうして団地の一室に吹き荒れる、嵐のようなキスの雨――――
あの日、アンパンマンは「ぼくらに生殖能力はあるの?」とか言ってたけど……、その答えを今夜ドキンちゃんに見せてやろうと思う、ばいきんまんであった。
◆スペシャルサンクス◆
MREさま♪