トレーナー宅にウマ娘が来たシリーズ   作:黒煙草

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ナリタタイシンが家にやってきた

「あのさ、いつも思うんだけど」

 

「どうしたドクターフィッシュでエロい声上げてたタイシン」

 

トレーナー室ではレース場が詳しく書かれている雑誌や、過去のウマ娘の戦績資料が山積みになっており、俺はそれに埋もれていた

 

「こ、声なんて出てないし!!」

 

「あーはいわかったから要件はなんだ?昼寝もせずに珍しいじゃないか」

 

時刻は昼休み、いつもならタイシンは屋上で寝るかトレーナー室のソファで寝るかの二択を選ぶ

 

それがどうした、今じゃ俺に問いかけてくるじゃないか

 

嬉しい半面、嫌な予感しかしない

 

「……トレーナー室、汚いけど」

 

「本が山積みになってるだけだろう」

 

「嘘でしょ!?床一面のゴミはなんなのあんた!?」

 

そんなことを言ってくるので当たりを見渡すと、菓子パンの袋や菓子袋、ペットボトルのジュースが散乱していた

 

「……これはだな、あれだ。栄養補給の末路だ」

 

「言い訳しない!ったく……私がやるから」

 

今なんて言った?

 

「え?」

 

「私がやるって……なによ?」

 

手は口よりも早し、テキパキとゴミが片付けられていく様を見て、俺は山積みの本の隙間から覗き見て呆然とする

 

「いや、意外と家庭的なんだなって」

 

「言いたいことあれば言ってみなさいよ、蹴り入れてやる」

 

「将来はいい嫁さんになるなって」

 

タイシンの蹴りが山積みの本を蹴散らすも、俺の鼻先1寸で止まる

 

「……もう二度と言いません」

 

「……あんたまさか、家も汚いんじゃないでしょうね?」

 

ギクリと、顔を強ばらせると、伸ばした足先が履いた上履きの靴で、おでこを弾かれる

 

「痛っ!」

 

「わっかりやすい顔……家じゃこれくらい汚くないことを願うだけね」

 

それを聞いて体も硬直する

 

「なん、つった?」

 

「家も汚いんでしょ?そうね……週末行くから」

 

「いや待て!俺のプライバシーとかは?!」

 

「あるわけないでしょ、家は把握してるから多少綺麗にしてなさいよ」

 

 

 

こうして、俺の家に週末、タイシンが来ることになった

なんで把握してるかは教えてくれなかった

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

ボロのアパートたが、最寄り駅から近くにあり、家賃3万と格安物件だ

 

というのも、なにやらお化けが出るとの噂で、この部屋を借りる際に不動産屋から大家までも

 

『やめとけ、死ぬぞ』

 

と、念を押されるほどだった

 

「お邪魔します」

 

「邪魔するなら帰ってくれ……」

 

関西ジョークをぶちかますも、冗談だと知ってるナリタタイシンは玄関先で止まる

 

「……?入らないのか?」

 

「週末に来るって私言ったよね?」

 

「そうだな」

 

「少しは綺麗に片付けたりするわよね?」

 

「それは人それぞれ、個人の主義だろ」

 

それを聞いたナリタタイシンは絶句した

こいつには何を言っても無駄だと

 

「……わかった、じゃあ教えてあげる」

 

ナリタタイシンはそう言って土足で上がった

 

「待て待て!?グラスワンダーやエルコンドルパサーなら帰国子女で土足で上がるかもしれんが!!」

 

「はぁ!?こんな生ゴミの匂いするベタついた床を靴下1枚であがらせる気なの!?信じらんない!!」

 

唯一綺麗と言われたLEDライトの光源で床を見ると、何やらテッカテカだった

 

「んー……?あぁそうだ、酒に酔い潰れて帰ってこれたけど、ゲロぶちまけて……牛乳拭いた雑巾で拭いたんだっけ」

 

「バ、バカァ!!ちゃんと水拭き乾拭きとかしないと、匂いも残るでしょ!!」

 

「そ、そうなんだな……」

 

「あと誰と酒飲んでたって?」

 

「…………1人だよ、そんなこと今は────」

 

「だれと?限界ギリギリなのに1人で帰って来れるわけないわよね?」

 

「……桐生院さんと、デス」

 

「そう、わかったわ」

 

何がわかったのかは別として、ナリタタイシンは持ってきたリュックから掃除用具を取り出す

 

「軍手に、雑巾に……タワシ?おいおい、俺の家を傷物にする気か?」

 

「もう傷だらけよ!!2人で生活していくんだから最低レベルでも綺麗にしなきゃでしょ!!」

 

「あ、あァそうだな……?」

 

「はい!あんたの分!!」

 

「えぇ、俺もやるの?」

 

「つべこべ言わない!!」

 

 

 

軍手を渡され、渋々ながら液体の残るコーヒー缶やカップ麺の容器を分別して片付けていく

 

「それ!燃えないゴミ!!」

「えー?1/15スケール ナリタタイシンスタミナ練習服verは萌えるぜ?」

「バカっ!恥ずかしいから捨てて!」

 

新しいダンボールを作り、側面に『萌える』と書くが、タイシンは俺の頭を掴む

 

「燃えないゴミはそっち!!」

「あがががが!!わがっ、わがっだがあ”!」

 

 

 

 

 

「小さい頃のタイシンのアルバム、やっぱ可愛いなぁ」

「!?!?!?!!!???」

「何驚いてんだよ。俺とタイシンが出会って『末脚が武器だ』って言ったろ?あん時に小さい頃の資料動画とか必死に探したんだぜ?」

「それは分かったわ……な、なんでアルバムがここにあるの?関係ないでしょ?」

「お前のかーちゃんから貰った」

「ふ、ふふ……なんで?」

「資料にどうぞって……おいまてなんで握りこぶし作って振りかざしおいやめろバカ俺が死────」

 

 

 

 

「手を進めなさい、古い資料は捨てて、アルバムは私が回収するから」

「ふぁい……マウントとる必要ないだろ……」

「なんか言った?」

「いいえ……」

 

 

 

────────────

 

時間はあっという間に過ぎて、俺はタイシンと買い物していた

 

場所はナイスネイチャが裏で支配する商店街だ

周りにスーパーがないということは、そういう事なのだろう

 

「なぁタイシン、今日は寿司頼んで奮発するから、手作りとか、そんなのいいから」

 

「は?殺すよ?」

 

「えぇ、俺殺されんの?」

 

「今日のためにトレーナーの為のコース料理考えてきたんだから────あ、おじさん魚ちょうだい」

 

「お、若いのに頑張るねぇ!隣の旦那のために料理振る舞うのか?」

 

「ええそうよ、そこの目が爛々と死んだキスちょうだい」

 

「ほいよ、2尾で150円だ」

 

「お、おいおいおっさん!」

 

「なんだにーちゃん?こんな美人な子に不満でもあんのか?殺すぞ?」

 

「物騒な商店街だな!?いや、一尾150円て────」

 

値札にはそのように書かれていたが、魚屋のオッサンはふっと笑う

ムカつくなこいつ

 

「馬鹿野郎おめぇさん、俺がわけぇ頃なんて戦争終わりで食えるものも限られてんだ。だが今はどうだ?」

 

「あ、話長くなりそうならもういいです」

 

「おう!気ぃつけて帰れよ!」

 

本当に中断してくれて俺はほっとする

 

「あの後絶対、今の奥さんとの惚気聞かされるところだったわよね」

 

「胸焼けが止まんねぇよ……さっさと帰ろうぜ」

 

「待ちなさい、あとはネギと豆腐と味噌と油揚げよ」

 

「お、その具材で何ができるかわかるぜ?」

 

「へぇ、当ててみなさい」

 

「バカにすんなよ?味噌汁だ」

 

「違うわよバカ、エビチリよ」

 

俺は一瞬、具材を再度頭の中で確認して聞く

 

「エビ……エビチリ!?どうやって???どういう事なの!?」

 

「いやあんたね、ふざけるのも大概にしてくんない?……はぁもういいわ。ちゃっちゃと買って帰るわよ」

 

「いや!?エビ、エビチリってなんだよ?!」

 

「うっさい!殺すわよ!!」

 

「大声で殺害予告しないで!!俺が悪かったから!!………………エビチリ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

質素な黒曜石の机に並べられる料理の数々

ご飯、卵スープ、エビチリ、漬物……

 

「本当にエビチリだ……」

 

「サッサと食って感想ちょうだい」

 

タイシンが急かすので問題児のエビチリから食べる

 

「酸味の聞いたソース……エビは本当にエビだ……なぁ本当にどうやって……」

 

「美味しいか美味しくないか!それでいいでしょ!!」

 

「お、美味しいです……」

 

「よし!」

 

めちゃくちゃガッツポーズしたタイシンを見て、俺はつぶやく

 

「方法はともあれ、タイシンはいい奥さんになるなぁ」

 

「!」

 

ウマ尻尾が扇風機のごとく大旋回し、ウマ耳が跳ね上がるとタイシンはそっぽを向く

 

「そ、そんな事ないけどぉ?昨日一生懸命慣れないことに頑張っただけだしぃ?豆腐からエビの再現とかあんまし努力してないしぃ?」

 

「あぁ、これなら将来も引く手あまただろうな。素敵な旦那さん捕まえれるよ」

 

 

 

 

一瞬、飯が冷めた

箸を突き刺すも、折れるほどに

 

 

 

 

「あ、あれ?」

 

ゴミ屋敷から綺麗になったことで風通しが良くなったのだろうか、豪風が食卓を過ぎていった気がした

 

「いま、なんつった?」

 

「え?」

 

タイシンの怒気を含んだ問いに、俺は慌てて先の言葉を思い出し、繰り返す

 

「じゃ、『邪魔するなら帰ってくれ?』」

 

「それ朝!!さっき!!!」

 

「えと、えと……エビチリ」

 

「それいつ?!ついさっきよ!!」

 

「引く手あまた……か?」

 

「もうボケないとは思ったけど3回目で出てきたわね!」

 

「ええ……それが、どうかしたのか?」

 

俺にはよく分からなかった

タイシンが俺に好意を寄せてるとは思えないし、なんたってウマ娘だ

レースに控え、練習漬けの毎日にそんな余裕はないはず

そして俺もトレーナーだ、練習メニューに試行錯誤する毎日なのだから恋沙汰なんて暇はない

 

意味が、分からない

 

 

「〜〜っ!!もういい!寝る!!」

 

既に敷いてある布団にタイシンは潜り込む

 

俺は黙って食器を机に放置し────

 

「水に浸けて!!」

 

「あっはい」

 

台所の水に浸けた

 

 

 

 

 

 

 

週末故に明日も学園は休み

俺はリビングにある綺麗になってしまったソファからスマホで時間を確認すると二度寝をした

 

「バカ、バカバカバカバカ、くそぼけトレーナー……」

 

二度寝どころじゃなかった

 

台所から響くまな板と包丁が刻む奏音

食欲をそそる炊飯器からの飯の匂いと、鍋からクツクツと湧き出る味噌汁の匂い

 

タイシンは朝食を作っていた

 

 

 

「……もう帰ってるのかと」

 

「朝帰りとか勘違いされるでしょ…………おはよ」

 

機嫌は上々か、少し不貞腐れているが……俺は質素な黒曜石の机の前に座る

 

「……アンタふざけてるでしょ」

 

「え、飯運んでくれるんでしょ?」

 

「自分で運びなさい!ここまで家で堕落してると思わなかったわ……」

 

そんなこと言われると多少頭にくるが、作ってもらったからにはそれなりに手伝う、というのはタイシンの主義だろう

 

俺も合わせなければ、主義に反するか

 

「常識だから」

 

「心読むなよ」

 

飯を貪り、汁を喉に通す

 

うん、いい嫁さんなるな

 

「まぁ、ありがとうなタイシン」

 

「ほんとよ、くそぼけトレーナー」

 

「俺はタイシンがいないとダメだな」

 

「……っ!えぇそうね。家も汚くするしご飯もカップ麺に済ませるし……私がいないとダメね」

 

なにか引っかかったが

 

 

 

 

俺の休みはタイシンとの付き合いで潰れた

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