トレーナー宅にウマ娘が来たシリーズ   作:黒煙草

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今回のサクラチヨノオーに関しては、完全に黒煙草の妄想による性格です

アプリや漫画では登場していますが見てませんので「俺のちよちゃんはこんなこと言わねぇ!!」ってありましたらテメーが書け
星10付けてやる


サクラチヨノオーが家に訪問してきた

「お邪魔します」

「第一声待てやコラ」

 

家賃4万のボロアパートの2階角部屋一室にて

玄関前で桜色の肩出しガーディガンに白のノースリーブ、青のジーンズを履きこなすサクラチヨノオーが、茶の外ハネ短髪に飾られた桜のヘアピンを揺らしながら家に上がろうとする

 

何故かウマ尻尾は扇風機の如く回り

ウマ耳はぴくぴくと微振動している

 

「……では、失礼します」

「いや、だから上がらせねぇよ!?」

「母のマルゼンスキーが認めた男でも、私が確認しなければ気が済みませんから!」

 

そう、サクラチヨノオーは母であるマルゼンスキーが俺と付き合っていると聞き、事実を確かめるべく押し入ってきたのだ

表向きには調査と言いながらも、裏向きでは遊びと称して

 

普通に困る

というか俺はサクラチヨノオーのことを知らんし

貴重な休日を取られてまで部屋に上がらせたくはないし

寝たいし

 

「では最初に、外観を見た感想ですが」

「え?」

「何ですかこのアパート、ツタも生い茂ってますし所々ヒビも入ってますし、江戸時代からあったんです?」

「ちょ、おま!ここの大家のババア地獄耳なんだよ!」

「そうですかそれは失礼しまし────ん?」

 

ツーンとそっぽを向くサクラチヨノオーの眼の先にいたのは、1人の背の高い、シワが少しある程度の、腕を組んで仁王立ちする筋骨隆々の老婆だった

 

「こんにちは!おばあさん」

 

「おや、元気だねぇ!そこのボケカスに何か用かい?」

 

「おいババア!ボケカスはねぇだろ!!」

 

「うるさいよクソボケカス!家賃滞納してるの忘れてんじゃないだろうね!!」

 

「クソまで付けんなや!明日給料日つってんだろ!!」

 

「じゃあ明日学園に行くからの!!」

 

「は?おい、ま……!」

 

俺が瞬きしただけで大家のババアは消えた

 

「マジで消えるのはえーなクソババア……」

「大家さんに向かってクソババアは無いのでは?」

「てめぇもこのアパートのことボロクソ言ってただろ」

「この出来たて新築の立派な御殿に、私がそんなこと言いますか?」

 

サクラチヨノオーの良物件が如く褒め称える姿勢に、俺はドン引きした

 

「サイテーだな!お前サイテーだな!!」

「良いから上げてください、それともなんですか?か弱い少女を家にあがらせたくない理由でもあるんです?」

「理由の一つがそれなんだけどな!?あとウマ娘がか弱い言うなや!」

「それもそうですね、では────」

 

 

「中におる若奥さんにも宜しくのー!!」

 

 

「…………」

「…………」

 

急に降って湧いたように、大家のクソババアが再出現して大声を出した瞬間、サクラチヨノオーは俺を押し退けた

 

壁に激突してクレーターを作る俺を他所に、サクラチヨノオーは奥へ奥へと進んでいく

 

 

「むにゅ……ふぁ〜……騒がしいと思ったら、チヨちゃん、来てたのね」

「か、母さん!!何して────というかなんて格好してるの!?」

 

茶色の髪を下ろしているマルゼンスキーは、黒の下着姿で、毛布1枚を羽織っているだけだった

 

胸全体を隠すブラジャーだが、谷間部分が猫の形に切り取られている

 

いわゆる猫ランジェリーというものだ

 

「ん〜……?……にゃん♪」

「やめろマルゼン、それは俺に効く」

「急に湧いて来ないでくれません?なんでそんな血塗れなんです?あなたはスケベなことを考えると頭から血を噴出させるんですか?」

 

這い出てきた頭から血を流した俺を、サクラチヨノオーは見て嫌そうな顔をした

 

「お前がやったからな……お前がやったからな!?」

「2回も言わなくても理解してますし、わざとですから」

「にゃんにゃん♪チヨちゃん、私似合ってないにゃん?」

 

サクラチヨノオーは眉間を指先で押し、次にドヤ顔の俺と顔を見合わせる

 

「なんですかこの可愛い生き物」

「だろ?下着がキツくなったって言うから、買いに行った時に、『これが流行りだ』って押し切って買ったんだ」

「そうよ〜、最先端の流行りに私はノってるのよ〜……ふにゅ」

「トレーナー、あなたは策士であり変態でもあります」

「よせよ、照れるぜ」

「特に一緒に下着ショップに買いに行ったところが最高に最低です」

「上げるか落とすかどっちかにしろ」

「にゃん♪」

 

そう言い残して、マルゼンスキーはキングサイズのベッドに突っ伏した

 

「いやちょっと、何流そうとしてるんですか!」

「な、何がだよ……」

「なんですかこのキングサイズ!?新築同然の蔦が生い茂るボロ高層マンションアパートの一室に入るわけないじゃないですか!!」

「混ざってる混ざってる、どんなアパートだよ」

 

俺は一呼吸置き、天を仰ぐ

 

「なぜ天を見て呆けてるんです?脳みそでもクモ膜下出血りましたか?」

「脳みそクモ膜下出血りませんでしたよ!なんだその言い回し!?……天井外して上からぶっ込んだんだよ」

 

二階建てのボロアパートの角部屋ということもあり、俺はジェスチャー含めて

 

「カパッと外して

ズドンと落として

カチャッと閉めた」

 

と説明した

 

「その説明で分かるジン類とウマ娘はゼロだと思います」

「まぁ待て、俺もわかってないんだ。実行犯はマルゼンスキーだしな」

「母のお金の全振りがこんな男に……くっ!」

「え、何?姫騎士でも目指してんのチヨちゃん?」

「貴方にチヨちゃんと言われたくありませんし、目指してません」

 

サクラチヨノオーは二度寝したマルゼンスキーに毛布を被せ直した

ちょうど下着が隠れるように被せたので絶妙にエロい

 

「ちょっと、どこ見てるんです」

「エロいよな」

「何を当たり前のこと言ってるんです?」

「そういや家じゃどうなんだ?マルゼンと一緒に暮らしてるんだろ?」

「そんなの恐れ多くて出来ませんよ。母は基本一人暮らしですから、家事の手伝いにしに行くくらいです」

「それで普段も知ってるわけか」

「普段はこんなじゃありませんよ」

 

二度寝したマルゼンスキーを見たサクラチヨノオーは顔を訝しむ

 

「いつも早起きしてご近所さんの挨拶から家事炊事まで、ソツなくこなす自慢の母ですよ」

「……いやいや、俺の家じゃこんなだぜ?」

 

二度寝したマルゼンスキーを見た俺はジョークだなと思えた

 

「それが不思議なんですよ、まさか心許した人の家ではこんな堕落した姿に……普通なります?」

「知らね。チヨちゃんはコーヒー要るか?」

「チヨちゃんって呼ばないでと言いましたよね?砂糖多めで」

「はいよ」

 

俺はアパートの外にある井戸からバケツで水を引っ張りあげ、ペットボトルに満たすと家に戻り、コーヒーを作る

 

「すいません何してるんです???」

「コーヒー作ってんだよ」

「井戸から汲み上げる工程の意味あります!?」

「ばっか、お前、あの水やべーんだぞ」

「ここ都会ですよ!?井戸の水なんてろくな事ありませんて!!」

「ここの地下に龍脈あってよ、あの井戸に流れてる水は霊水なんだよ」

「この土地だけバグってません?」

「意外とバグってんだよここ、土地を巡って裁判にも発展してるからな」

「嘘でしょ……」

 

そうなると筋骨隆々の老婆の姿も、何となく察したサクラチヨノオー

 

「ヤのつくヒトとか、首相までも狙うんだぜ?」

「防衛本能が、あのお婆さんを強くしたんでしょうか?」

「毎晩ここの住民を襲いに来るのを阻止してるって噂を聞いたが、嘘か誠か……俺以外だけど」

「家賃滞納が響いてるのでは?」

「……そ、そんなはずないだろ。最近頻度が減ってるし」

「母さんが寝泊まりしてるから、お婆さんは力入れてるのでは?」

「…………あのクソバ……大家さん……神様仏様大家様……」

「母さんに頼んで今からでも払います?私も多少稼いでますし……幾らです?滞納金」

 

俺は震える指で4本出す

 

「40万です?10ヶ月くらいなんですね」

「400万だ」

「…………母さん!!ここから出ましょう!!コイツろくな人間ではないですよ!!」

「待ってくれ頼む!!マルゼンスキーだけが俺の生命活動維持装置なんだ!!」

「最低!!死ね!!母をなんだと思ってるんですか!?10年近くもここにいて恥ずかしくないんです!?」

「俺はヒモになりてぇんだ!!あと8年と1ヶ月だからな!!」

「死ね死ね死ね!!むしろ殺す!!あなたを殺せば母は辛い想いしなくて済みます!」

 

 

 

 

「こーら、チヨちゃん。殺すとか言っちゃダメですよ……コーヒー美味しいわぁ」

「若いもん2人が乳繰り合りおぅて、賑やかだのう……うむ、ボケカスにしてはコーヒーだけはいっちょ前だの」

 

 

 

 

俺とサクラチヨノオーは声のした方向を見ると、さっきまで寝ていたはずのマルゼンスキーが私服に着替えて鎮座しており、クソ大家様と共にコーヒー啜っていた

 

「あ、ご、ごめんなさい!!」

「勝手に上がんなやクソ大家、マルゼンも顔洗ったか?」

 

あたふたとベッドと今いるマルゼンスキーを、首が千切れんばかりに見比べるサクラチヨノオーと、勝手にコーヒーを啜るクソババアを見た俺は指摘する

 

「ふふ、身なりは既に済ましてあるわ」

「クソは余計じゃのぉ、しゃぁまんすぅぷれっくすを決められたいのかボケカスは?」

 

ゾクリとトラウマを思い出した俺はそそくさと台所に向かう

 

「御二方……こ、コーヒーのおかわりは?」

 

「もういいわぁ、おめめバッチグーよ!」

「ワシは一つ」

 

「はいよ……サクラチヨノオー、そこ座ってろ」

「う、うん……」

 

やっと座れることに安堵したのか、初対面の婆さんと母であるマルゼンスキーのその隣に正座するサクラチヨノオー

 

盆にコーヒー2つと角砂糖の入った瓶を載せてちゃぶ台に置くと、サクラチヨノオーは疑問をぶつける

 

「あんなキングサイズのベッドに似合わないちゃぶ台……和と洋が殺しあってません?」

「別々の部屋だからいいじゃねぇか」

 

「ダーリン♡今日も素敵ね」

「うむ、カフェインが脳を覚醒させるのぅ」

 

「ねぇ、もしかしてだけどトレーナーがここに存在できるのってコーヒーしか無くない?」

「俺コーヒーだけの存在かよ……冗談だよな?」

 

大家に顔を向けると当然じゃろ?みたいな顔をしてきた

 

「俺もうこのボロアパートから出る!!コーヒーだけの存在だなんでやだ!!」

 

「おぅ、勝手にせんかい。ボケカスがおらんでもコーヒーくらい飲めるわい」

 

「oh......コーヒー以下の存在でしたか」

 

「おばあちゃん、もぅ、そんなこと言って。ダーリンの見えない所で『奴のコーヒーはジジイを思い出す』とか褒めてたじゃない」

 

「それ俺褒められてんの?死んだ奴と並べられていい顔すると思うか?普通?」

 

「勝手に殺すでない、ジジイは今世界旅行中じゃ」

 

「はっ!愛した婆さん置いて1人旅行かよ、ありえねぇな!」

 

「世界平和を願って、国境を無くす団体に参加中って聞いたぞぃ」

 

「やべー団体じゃねぇか!!リーダーはあれか!?猫みたいな短髪巨乳の委員長みてーなやつだろ!!」

「なんですかその漫画みたいなキャラクター」

「サクラチヨノオー、お前は知らなくていい情報だ」

「???」

 

 

 

 

 

 

んで

 

朝ということもあり、コーヒーだけに留まらずベーコンエッグとパンも焼いて朝食を済ませた俺とマルゼンスキーは腹を空かせたサクラチヨノオーを見やる

 

「ワシは朝一番に飯と汁を食い終わったからの」

 

「ババアてめぇには聞いてねぇ」

 

その一言で乱闘が始まる横で、マルゼンスキーはサクラチヨノオーに問いかけた

 

「チヨちゃん食べてないの?」

「は、はい……来る前にバナナ1本齧った程度なので」

 

「年頃の女の子が無理に減らすことないわよ〜、ダーリン!もう1人前追加よ!」

 

 

乱打の応酬を大家のババアから全て受け、顔が原型を留めていない俺にマルゼンスキーは注文した

 

「そんな!別にいいですか────(グゥゥー!!

ギュイィィイイン!!

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨)

……あぅ」

 

「あらあら、そんなお腹減らしちゃって♪」

 

「ウマ娘って腹減るとあんな音が鳴るのか?」

 

「未だ解明されとらんからの、ウマ娘自体」

 

「うぅ〜……!」

 

唸るサクラチヨノオーを他所に俺は台所に立って同じメニューを量多めに作り、サクラチヨノオーの眼前に置いた

 

「い、頂きます……」

「遠慮なく食え、自分の寮だと思って遠慮なく食え」

 

「少なくないかの?あとでミカンでもやるかね」

 

「むぐっ!け、けっこうでふ!!」

 

「よく噛むのよチヨちゃん♪」

 

「ムグムグ」

 

「マルゼンスキー、これからどうする?」

 

「また寝たいのだけれど、予定があったの思い出したわ」

 

「そうか。一旦帰るか?」

 

「ドレスコードがダーリンの家にあったはずよ」

 

「新調した方がいいじゃろ、この男の部屋は犯罪臭に満ちておるぞ」

 

「やーねぇ、そんな事ないわよ。ねぇチヨちゃん?」

 

「もがっ?」

 

「口の中にかきこみ過ぎて言葉すら失われんぞ」

 

「もががー!」

 

「”そんな事ないっ”って、あなたもダーリンのことよく分かってるじゃない!」

 

「多分違うこと言ってんじゃねぇかな?」

 

「もがが!?」

 

「タッちゃんに乗って行くけど、ダーリンも来るかしら?」

 

「俺ぇ?ちと眠たいから────」

 

「眠たい事言ぅてんじゃないよボケカス、雑草ぬきの約束したじゃろうが」

 

「……ってことだ」

 

「おばあちゃん、私から雑草抜きの機械でも買って────」

 

「やめろ!マジやめろそれは!!」

 

マルゼン一族からの支援なんざ、一生返すに返しきれんわ

しかも老い先短ぇババアにそんなことしたら骨と皮しか火葬できねぇよ

 

内蔵とか使い道あんのか?

 

「気持ちだけで十分じゃよ、あとこのボケカスを自由に使わせてくれるだけで満足じゃ」

 

「良いようにパシられてるだけだがな、俺は」

 

「そぅ?おばあちゃんがそう言うならそれでいいけれど……」

 

しょんぼりするマルゼンスキーに、大家のババアはニコリと顔を向ける

 

「お主にも助けられとるからのぅ」

 

「なんかやったのかマルゼン?」

 

「色々ありすぎて……どれか分からないわ」

 

何やらかしてんだ、このマイワイフは

 

「そろそろ時間じゃろ?準備せぬか」

 

「あ、いけない!ごめんなさいねおばあちゃん」

 

「……ふふ、口よりも手を動かさんかい。ボケカスはこっちで準備じゃ」

 

「────……いや、ババア残れよ」

 

「ワシは────」

 

「ドレスコード、着飾ってやんな」

 

そう言い残して玄関でスリッパを履くと、俺は黒紙のタバコを咥えて外に出た

 

 

 

マルゼンスキーとサクラチヨノオー、そしてババア────ニジンスキーが部屋に残った

 

 

 

 

 

 

1つ、煙を吹き出して天を仰ぐ

 

「孫の顔見れてよかったじゃねぇか」


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