「38度2分…風邪ではないようですが…
少し熱がありますね」
「んー確かにちょっと熱っぽいかも…」
セイバー戦の翌日
イリヤの顔が赤くなっていたため
セラが体温計で熱を測ってみたところ
案の定熱があった。
「…大事をとって今日はお休みしましょう」
「えー。セラ過保護すぎー」
「過保護で結構です。
まったくシロさんだけでなくイリヤさんまで…」
シロエの名前を出され
なんともいえない微妙な表情になるイリヤ
昨夜
シロエが黒い光に呑み込まれる姿を夢に見て
不覚にもシロエの名前を叫んで飛び起きてしまったのだ。
しかもシロエの目の前で
その時はシロエの無事を確認できてそれどころではなかったが
我に返った今では少し…いや、かなり恥ずかしいのであった。
そしてそのシロエも今朝は熱を出して学校を休んだのである。
細かい傷などは治癒魔術で自力で治したみたいだが
発熱に関してはルビーやサファイアには原因がわからなかった。
しかし
「あー…。原因は心当たりあるから気にしなくていいよ」
と、いつものようにあっけらかんと言ったので
イリヤはそこまで心配していなかった。
自分の突然の発熱とそこまで変わらないだろうと思ったのだ。
「とにかくイリヤさんも今日はお休みです!
お昼にはお食事を持ってきますので安静にしていてくださいね!」
「はいはーい…」
セラの心配性。
そう思いながらベッドに入るイリヤ
「ふぅ…。お休み…かー」
…
……
………
時間は過ぎ午後3時を回る。
「ひ…暇だッ!!」
朝から眠りっぱなしのイリヤはすっかり目が冴えてしまっていた。
「あーもー暇だわー!寝てるだけって意外ときつい!」
そう叫びながらベッドの上をゴロゴロ転がるイリヤ
「元気な病人ですねー。熱はもういいんですか?」
「もうなんともないよ…。もともと風邪でもないんだし全然平気。
ああ…暇って人をダメにするね…。
勉強とか仕事とかに縛られることでようやく人は人らしく生きられるんだわ…」
「その歳で老成した人生観をもつのもいかがなものかと思いますがー。
というか暇ならシロさんの部屋に行ってみればいいのでは?」
「えっ!?」
イリヤが小学生らしくない人生観を口にするのをルビーは突っ込みながら打開案を伝える。
しかしながらイリヤは昨夜の失態から何となく顔を合わせづらいのである。
「い、いやほらシロだって寝てるかもしれないし
もしそうなら起こしちゃったら可哀想というか」
「…イリヤさーん」
ルビーからジト目で見られているような気になるイリヤ
目なんてないのに
「う"っ…。だってあんな風に夢で飛び起きてシロに慰められて…」
「…慰められて?」
「姉の威厳がないじゃない!!」
「…イリヤさん」
「な、何よ」
「もともとないものを気にしてても仕方ありませんよ」
「ひどっ!?そんなことないもん!!」
ルビーの溜め息まじりの指摘にも姉としてそこは頑として譲らない。
とはいえこのままではなし崩しにシロエの部屋に行くことになりそうと感じたイリヤは
「そ、それよりミユさんはどうしてるのかな?」
話題転換を試みる。
「また雑な逸らし方ですね。しかし美遊さん、ですか。
なんなら直接聞いてみます?」
「直接…?」
イリヤが訝しむのを尻目に
ルビーの円形フォルムの天辺にアンテナが生える。
「ってうわ!なにその形態!?」
「24の
もしもーしサファイアちゃーん?
起きてますかー?」
(もうなんでもありだね。このステッキ…)
ピピピという電子音と共に妙な電波を飛ばすルビー
《どうしたの姉さん?》
《今の声…なに?サファイア》
「おおっ繋がった?」
《イリヤスフィール?…いやシロエ?》
イリヤかシロエか判断がつかない美遊
しかしそれも無理はない。
姿だけではなく声もそっくりなのだから
「あっイリヤだけど。いきなりごめんね」
《何か用事?》
「あ…ううん。用ってわけじゃないけど…。
今なにしてるのかなーって」
《今は家にいる。ルヴィアさんが今日は休養をとりなさいって…》
「あ、そうなんだ。じゃあわたしと同じだね。
何もすることなくて、もー暇で暇で…」
《そう…。…二人共、身体はなんともないの?》
「うん。ちょっと熱は出たけど今はもう平気。
シロは…部屋から出てこないから寝てるんじゃないかな」
《そう…》
「うん…」
《……………》
「……………」
話すことなくなったのか沈黙する二人
「ああもうじれったいですねー!
なに不器用な会話してるんですか!」
「そ、そう言われても…!」
「顔を見ないと話しづらいようならテレビ電話にもできますよ!」
そう言うと今度はルビーの下部からプロジェクターが生える。
「またなんか出た!?」
「プロジェクターです。サファイアちゃんが今見てるものをリアルタイムで映せます」
「ほんっと無意味に多機能ね…」
《え…テレビ電話!?あっ、ちょっと何を…》
「いきますよー」
《待っ…》
美遊が制止の声を上げるが
テレビ電話に切り替えるルビー
そして映し出されたのは
メイド服を着た美遊であった。
イリヤの目が点になり、一瞬の空白が生まれる。
そして
「メッ…メイド服ーッ!?」
「あらあらまあまあ…!
なんとも良いご趣味をおもちのようで」
「あっ、こっ…これは違う…っ!!
そのっ…わたしの趣味とかじゃなくて…っ
ルヴィアさんに無理矢理着させられてっ…!」
顔を真っ赤にし涙目になりながらも必死に弁明をしようとする美遊だが
その時、かちりと
イリヤの中で変なスイッチが入った。
「ミユさん…。今すぐあなたに会いたいわ…」
《は?何を…》
「うん、すごく会いたい。なんて言うか生で見たい。
来て、今すぐ来て!そのまんまの格好で来て!!」
その時のイリヤの息は荒く、目はぐるぐると渦巻いていた。
ルビーもこれには何も言えない。
《ちょ…》
「家は向かいでしょ!駆け足ーッ!!」
《はっ、はいぃっ!?》
…
……
………
数分後
「あの…。おじゃましま…」
覚醒したイリヤの勢いに負けた美遊が遠慮がちにイリヤの部屋のドアを開ける。
と同時に
「いらっしゃーい!」
「あうッ!?」
メイド服姿の美遊に抱きつくイリヤ
「すっごーい!ホントにメイド服だー!」
「あ…、ああああの」
「なんか良い生地使ってるし、縫製もしっかりしてるし…
本物?本物の小学生メイド?
ちょっと『ご主人様』って言ってみて!」
「え、普通は『お嬢様』じゃ…」
「いいから!」
「ごっご主人様ーッ!?」
余談ではあるがシロエの部屋はイリヤの隣である。
つまりは大きな音などは丸聞こえであり
「うるさーい!!何を騒いで」
これだけ騒げば乗り込んでくるのは当然である。
しかし
「い…る…」
イリヤと美遊にとってそのタイミングは最悪であり
その時シロエが見た光景は
メイド服を着た美遊に
鼻息荒く抱きつき今にも押し倒しそうな姉の姿
「「………」」
「………」
空気が凍る。
シロエが魔術を使ったわけでもないのに
完全に全てが停止していた。
そんな中シロエは徐にポケットへと手を伸ばす。
取り出したるは携帯電話
三桁の数字を押す。
短いコール音の後電話が繋がる。
「もしもし。警察ですか?」
「待ってえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
神速
恐ろしい速度でシロエの携帯を引ったくり
通話を切るイリヤ
「…お姉ちゃん。罪は償わなくちゃいけないんだよ?」
「違うから!何もしてないから!!」
「未遂でも罪に問われるんだよ?」
「する予定もない!
というかわたしが何をしたっていうのよ!!」
「自分の性癖を満たすためにミユさんにメイド服を着させたあげく襲おうと…」
「ち・が・う!!!このメイド服はね、ミユさんが好きで着てるの!!」
「わたしは好きで着ているわけじゃない!」
美遊が顔を真っ赤にしながら否定する。
「…と被害者は申していますが、被告人何か弁明は?」
「被告人はやめて!?だ、大体女の子が女の子を襲うなんてあり得ないでしょ!?」
シロエがその方面の知識に疎いことを思い出し
そんなことはあり得ないと反論する。
「可愛いものや美しいものが度を過ぎて好きな女性なら同性であっても襲い自分のものにして性欲を満たそうとすることがある。
……ってルビーから聞いたんだけど」
「ルゥゥゥゥゥゥゥビィィィィィィィ!!!」
「にゃははは」
知らない間に妹に汚れた知識を与えていたことに激怒するイリヤ
恥ずかしがってシロエと顔を合わせにくかったのは何だったのか。
そう思いながらもそれはそれとしてこのカオスを楽しむルビーであった。
…
……
………
「やー。ごめんね…。なんか変なテンションになっちゃって…」
「ごめんね。もう少し早く気づいていれば、お姉ちゃんの毒牙から」
「まだ言うか。っていうかシロ、熱は?」
「ん?もう平熱だよ」
「い、いえ別に…」
騒ぎに騒いだ一同は
ティーセットを運んできたセラに一喝され
なんとか静まった。
「それよりも…家の方に変な目でジロジロ見られたのが…」
「あー…、ゴメン。そのへんのことも考えなしでした」
「恥じることはありません。
メイド服は美遊様の正式な仕事着なのですから」
「正式な…、ってことはやっぱり本当にメイドさんなんだ?」
「お姉ちゃん、顔、顔」
またしてもおかしなテンションになりそうなイリヤをシロエが諌める。
「う…うん。一応侍女扱いでルヴィアさんの身の回りのお世話を…。
他に行くところがなかったわたしをルヴィアさんが拾ってくれて…、
生活の保護はしてあげるからそれと引き換えにメイドやカード回収の手伝いをしなさいって」
(い、行くところがない…?家族は…?孤児…?)
(なんかつっこまない方がいい話題ですね…)
(…あの敵への対応力とわたしへの警戒。間違いなく魔術世界のゴタゴタが原因でしょうね)
美遊のメイドとカード回収をすることになった経緯を聞き、三者三様考えを巡らせる。
「そ、そうなんだー!
でもすごいよね。メイドと魔法少女の両立なんてレアキャラ過ぎ!
昨日の二人目の敵もミユさんとシロの二人が倒しちゃったんだし…
ほんとすごいと思う!」
「!そう…だね」
「…」
そう。あの時気を失っていたリンさんとルヴィアさん、そしてイリヤにはミユさんとわたしの二人でセイバーを打倒した。
そういうことになっている。
本当のところはイリヤが倒しているのだけど…
その当の本人であるイリヤはあの戦闘を覚えていないようだった。
最後の方にはわたしも手を出したけど
それは宝具を放たれてボロボロにされた腹いせの意味合いが大きく
実際にはわたしの手がなくてもあの魔力量ならセイバーに打ち勝っていたと思う。
とはいえ、あの魔力はどこから出てきたのか?
この世界のイリヤは『イリヤ』とは違い魔術を知らず普通の子供として育てられた。
だから魔術とは無縁と考えていたけど…
…『イリヤ』と同じで小聖杯の機能は持っている?
そこに今まで溜め込まれてばかりで全く使われてなかった魔力が解き放たれた?
…筋は通ってる気はするけど
「シロさん、シロさん」
「…うん?どうしたのルビー?」
「考え事も結構ですがあれを止めなくても?」
「あれ?」
シロエはルビーの指した方向を見る。
そこには
鼻息を荒くして目をぐるぐる渦巻いたイリヤが涙目の美遊をうつ伏せでベッドに押し倒していた。
「あ…」
「…お姉ちゃん?何をやっているのかな?かな?」
「いやあのこれは…。ついムラムラと…」
シロエが笑顔で威圧するとイリヤは美遊から離れる。
「メイドさんに悪戯してはいけませんよー。
そういった行為は業務内容に含まれません!」
「軽率でした…」
「じゃあミユさんに何か言うことは?」
「スイマセンでした。へんなスイッチのせいなんです」
そう言い土下座するイリヤ
「いやそんな…。イリヤスフィールも悪気があったわけじゃ…」
そう言いあっさり許す美遊
しかしその言葉、正確には呼び方に引っ掛かりを感じるイリヤ
「えーっと前から思ってたんだけど」
「?」
「な…なに?」
「『イリヤスフィール』って呼ぶの長くない?」
「え…?」
突然の話題転換に美遊は戸惑う。
「『イリヤ』でいいよ。友達はみんなそう呼ぶし…。
本名で呼ばれるのなんか恥ずかしい」
「友達…?」
「え"、違うの!?わたしの片思い…!?友達未満!?」
「あ、いや!そうじゃなくて…」
ショックを受けるイリヤを見て美遊は慌てて否定する。
「…そ、それならわたしも…、その、呼び捨てでいい…」
「───!」
美遊からの返答に顔を綻ばせるイリヤ
そして右手を差し出し
「うん!それじゃあらためてよろしくねミユ!」
「こ、こちらこそ…よろしく…イリヤ」
その右手を掴みイリヤと美遊は握手をする。
その様子を蚊帳の外からただ見ているシロエ
悲しいかな人間に転生して十年以上経つにも関わらず、イリヤのように友達を作ることはできないでいた。
雀花達に関してもイリヤが間に入らなければ、今のような関係になることはできなかったと確信を持って言えた。
だからこそイリヤの積極性がシロエには時折とても眩しく感じられていた。
そんな妹の視線に気づいたイリヤは薄く苦笑いを浮かべシロエを手招きする。
「ほら、シロも」
「あ…」
イリヤに手を引かれ美遊の前に立つシロエ
「シロエ?」
「ごめんねミユ。
シロってば昔からこうやって友達を作るのが苦手で…。
もしよければ『シロエ』のことも『シロ』って呼んでほしいな。
それでシロとも友達になってほしい。
ねっ、シロ」
「う…うん」
いつものふざけた様子でも戦闘中の無表情でもない。
歳相応で少し引っ込み思案のシロエがそこにはいた。
そんなシロエの様子に少し驚いたものの美遊は
「…うん。シロも…よろしく」
そう返答しシロエもまた美遊と握手を交わす。
その様子を満足気に見るイリヤ
そして
「よーっし!じゃあさっそく身体を拭いてもらおうかなー!」
その空気を自らぶち壊す。
服を脱ぎ捨てパンツ一枚になるイリヤ
「どうしてそうなるのッ!?」
ズザッと美遊はイリヤから距離を取る。
「病人のお世話もメイドの仕事でしょー!
ご奉仕してー!」
「わ…わたしが従事してるのはルヴィアさんであって…。
っていうかあなた恥じらいはないの!?」
「お姉ちゃん…。今度こそ警察に…!」
姉の暴走を止めるべくシロエが動こうとするが
「ふっふっふ。忘れたの?携帯は既にわたしの手中よ!」
「…しまった!?」
「っていうかシロも熱出して汗かいたでしょ?お姉ちゃんが脱がしてあげる!!」
「お姉ちゃん!?…ちょっ…やめてーッ!?」
シロエのしおらしい姿を久しぶりに見たせいか
イリヤの暴走が収まる気配がない。
「やれやれですねー」
「いいからおとなしく…」
その時であった。
「オーーッス!見舞いにきたぜー!
元気かー?いや病気か!」
ドアが開いてクラスの友達である美々、雀花、龍子、那奈亀の四人が部屋に入ってきた。
そして再び凍る空気
四人が目にしたものは
抱きつかれた上押し倒されて顔を真っ赤にしているメイド服の美遊
上は脱がされ涙目になりながらも下を死守しようとしているシロエ
そして
美遊の上に跨がりシロエのパジャマの下を膝下まで脱がしているパンツ一枚のイリヤの姿であった。
そして時は動き出す。
「は、裸…ッ!?メイド服!?ってか襲われとる!?」
「美遊さん!?なんでここに…」
「てめーら、いつの間にそんな仲に!プレイか!プレイなのか!」
「ちょっと写メ撮らせてもらうねー」テレ~ン♪
「やっ…やめてー!!」
…
……
………
時間は過ぎ夕方
「本日はお忙しい中お見舞いを賜りましてありがとうございました」
そう言いお辞儀をするセラ
ただし風変わりなアインツベルン式メイド服を身に纏っている。
(な…なんだこれは…メイドか?
ドイツのメイドはこうなのか…?)
(はー。今日はメイドデーだったのかー…)
(なにそのシステム…)
見たことないメイド服に若干引きつつ帰宅するべく玄関へと向かう。
「道中お気を付けてお帰りくださいませ」
そして五人が玄関をくぐり家から出ていく。
「で、その格好はなに?セラ」
「わたしが間違っていたのです。お嬢様…。
長年仕えてきたせいでなぁなぁになっていましたが…わたしはあくまでメイド!
これが本来の姿なのです!」
「美遊のメイド服に感化されたんだね…。
わたしその服あんまり好きじゃないんだよねー…。堅苦しくて
もっとフリフリの着ようよ」
「……わたしもあまり好きじゃないかなー(『イリヤ』のアインツベルンでの様子を思い出すし)」
「必要ありません。この服はアインツベルン家の正統なメイド服で…」
二人の批判を一刀両断し自分が着ているメイド服がどれだけ重要なものが説明しようとするセラ
しかしそこに
「お、なにそのカッコ。ヘンな服」
「わたしたちの制服です!
なにサッパリ忘れ去ってるんですかっ!!」
「ただいまー。ってうおっ!?
セラが懐かしい格好してる!」
「む、帰りましたか…。いいでしょう。
不本意ですが、お帰りなさいませ。シロウ様」
士郎が帰宅しセラは渋々ではあるがお辞儀をする。
「俺の帰宅は不本意なのか…」
「今までは自由にさせてきましたが…シロウ様は当家の長男!
今日からは毎晩それにふさわしい教育を受けていただきます!」
「なにそれ!?なんで急にそんなやる気になってるんだよ!?」
兄が犠牲…ゲフンゲフン…セラを食い止めてくれている間にイリヤとシロエは二階へと避難する。
「美遊さんの残した爪痕は意外と深かったようですね…」
「メイドパワー恐るべし…だね」
「メイドパワーとはいったい…うごごご」
「あ!話は終わってませんよシロウ!」
「勘弁してくれー!」
そんな感じでイリヤとシロエは美遊と友達になれた。
そしてまた夜が来た。