前回のように
むしろその逆
今までの敵で一番存在感があった。
「…何よ、あれ」
「本当に元は同じ人間ですの…?」
凛とルヴィアが絶句する。
しかし無理もない。
四人の前にいるのは筋骨隆々とした岩のような黒い肌に巨人と見紛う程の巨躯を持った大男であった。
圧倒的な威圧感を誇るその男をシロエは知っていた。
マスターから幾度となく聞いていた。
『イリヤ』の記憶にも一番鮮明に記憶されている。
『イリヤ』が最も信頼する英霊。
(やっぱり…最後はあなたなのね。バーサーカー…)
美遊には話さなかったがシロエが戦う理由はもう一つあった。
敵がバーサーカーだからだ。
シロエの予想通りバーサーカーが相手ならばどう足掻いても美遊達が勝てるわけがない。
瞬殺されるのが目に見えている。
何より…たとえ倒すべき敵であったとしても、バーサーカーに会いたかった。
それがシロエが戦いに参加した三つ目の理由であった。
(…皮肉な話ね。
まさかわたしがバーサーカーと戦うことになるなんて、ね)
そう思いながらシロエは剣を抜く。
それと同時に
「■■■■■■■■───ッ!!」
バーサーカーが咆哮を上げ襲いかかった。
シロエは『イリヤ』としての記憶からバーサーカーに関しての情報も持っている。
故に断言できる。
一撃でももらえば致命傷になりえてしまう。
よってシロエの取った行動は
「…くっ!!」
迫る右腕にギリギリで回避を行う。
続く振り回すように横から左腕が迫るがそれも剣で受け流す。
そして返す刀で剣を振るうが
「───!」
バーサーカーは仰け反りそれをかわす。
そして仰け反った状態のまま左腕を下から地面を抉りながら振り上げるが
「■!?」
シロエはそれを後ろへ大きく跳び、かわす。
先の攻撃は深く踏み込んでいなかったのである。
シロエの取った行動は回避による翻弄。
正直な話バーサーカー相手に接近戦を行うこと自体パワーが違いすぎて得策ではない。
しかし反撃を誰かに任せて回避にのみ専念すればその限りではない。
何より誰かしら足止めする必要がある。
よって導き出された答えが回避盾である。
しかし
(わかってたけど、こうして受けてみるとやっぱり重い!
一発避けるだけで戦慄が走る…!)
シロエの内心は冷や汗だらだらである。
しかしなんとか時間を稼ぎ距離を取った瞬間
「
美遊の魔力砲と凛とルヴィアの宝石魔術が襲いかかった。
三人の攻撃によりバーサーカーは爆発に巻き込まれるが
「効いて…ない…!?」
煙が晴れると無傷のバーサーカーがそこにはいた。
(三人の攻撃を合わせてもダメか…!)
「魔力砲が効いてる様子がありません!
すべて身体の表面でかき消されているような…」
「あれは対魔力じゃない…。
もっと高度な守り…?」
「まさか…!宝具…!?」
サファイアの分析から肉体そのものが宝具であるという結論に三人は行きつく。
「…間違いないでしょう。おそらくは一定ランクに達しないすべての攻撃を無効化する鋼の肉体…。
それが敵の宝具」
「違う」
しかしその結論に否定の声がかかる。
三人はその声の主、シロエを見る。
「シロ様?違う、とは?」
「確かにあの身体が宝具なのは合ってるけどその本質は違うところにある」
「本質…?」
そしてその本質についてシロエが伝えようとするが
「■■■■■■■■■■!!!」
敵が待ってくれるはずもなく再び襲いかかる。
「ちっ!!」
シロエが舌打ちしながら再び前に出て敵の動きに集中する。
回避はただでさえ精神を大きく削るのだ。
とてもではないが説明している余力はない。
先と同じように何発かシロエが回避している間に三人が攻撃の準備を整え
シロエが距離を取るのと同時に攻撃を叩き込む。
しかし
「…くっ!?」
まるで三人の攻撃などなかったかのように距離を取ったシロエをそのまま追うバーサーカー
その様子を見た美遊は
(ただの魔力砲じゃダメ。宝具には宝具!)
そう判断しランサーのカードを取り出す。
そうしている間にもバーサーカーの攻撃をギリギリでかわすシロエ
しかしシロエもまた見誤っていた。
バーサーカーの真名はヘラクレス
ギリシャ神話における大英雄であり、百戦錬磨の武人である。
(…右のストレート!右にサイドステップしてかわす!)
しかしその極めた武のほとんどが狂化によって失なわれている。
そしてその狂化により思考して動くことはできない。
シロエはそう判断していた。
故に
(っ!?フェイント!?狂化しているはずなのに…!?)
フェイントなど仕掛けてくるはずがないとそう思ってしまった。
そして
「まず…うあっ!?」
「シロ!?」
バーサーカーの横からの左拳がシロエに直撃した。
鈍い音と共に軽々と吹き飛ばされたシロエは
「がっ!?」
壁へと叩きつけられた。
その衝撃は凄まじく、激突した壁が崩れる程であった。
その様子を見ていた美遊はシロエの下に今すぐにでも駆け寄りたい衝動をなんとか堪え
「
背後からバーサーカーに心臓目掛けてゲイボルクを突き刺した。
ーーーーーーーーーー
「ん~~、はーー……。
やっぱりお風呂は落ち着くねぇ…」
シロエ達がバーサーカーと戦っているその頃
イリヤはのんびりとルビーと共にお風呂に入っていた。
「なんだかジジむさいですよ。イリヤさん」
「なにおぅ。お風呂は人類が産んだ至高の文化よ。
日本人に生まれてよかったと思う瞬間よねー。
あとはジャパニメーション観てるときとか」
「イリヤさんはハーフでしょう…。
というかその二つが同列というのも何か問題な気もしますが…」
「…」
「…」
珍しく会話が途切れる。
その原因についてイリヤはわかっていた。
わかっていながら呑気にルビーと会話することでその原因を直視しないようにしていた。
その原因は
(ミユとシロ…大丈夫だよね。
二人共強いもん。わたしなんかよりも、ずっと…)
言うまでもなく美遊とシロエのことである。
シロエが夜になり家から出ていくところをイリヤは窓から見ていた。
ただ黙って見送った。
自分とは関係ない理由でシロエは戦いに行ったのだと自分に言い聞かせて
(…何をやっているんだろう。わたし…)
そう心の奥底で自己嫌悪に浸っていた時
「イリヤどこー?こっちー?」
「あのっ、まだ入浴中で…」
「ん?」
浴室の外から声が聞こえてきたと同時に
こちらに近づく足音が聞こえた。
イリヤが訝しんでいると
「イヤッホウ、イリヤちゃーん!お・ひ・さー!!」
浴室の扉が開かれアイリが乗り込んできた。
突然のそして予想外の乱入者に噴き出すイリヤ
「マ…、ママ!?」
「うん!ただいまイリヤ♪
…あら何これ?お風呂でおもちゃ?」
そう言いながらルビーの羽部分をつまみ、持ち上げるアイリ
イリヤとルビーの内心はハラハラである。
「イリヤもまだまだ子供ねー」
「い、いやーそれほどでも…」
「長旅で疲れちゃったわー。ひさびさに一緒に入りましょうか」
そう言うが早く服を脱ぎ、その服とついでにルビーを脱衣室に放り投げる。
「ええっ、ちょっとママ!?」
「ほらつめてつめて」
「ちょっ…」
そして
「はーー。やっぱりお風呂は落ち着くわねぇ…」
「…」
あっという間にイリヤを股の間に挟む形で湯船に浸かるアイリ
「ず、ずいぶん急な帰宅だねママ…」
「んんー?私が急に帰ってきたら何かまずいことでもあるのかにゃー?」
「いやぁ…別に…」
「ま、一時帰国よ。
仕事がひと段落ついたから私だけ帰ってきたの。
切嗣はまだ向こうで仕事中だからすぐ戻らなきゃいけないんだけどね」
「そうなんだ」
「だから今はこうしてつかの間のスキンシップを…」
「ちょーっと過剰じゃないかな。これ…」
(シロと同じくらいね♪)
シロエ同様にイリヤの胸を揉み
二人共だいたい同じくらいという結論に達する。
「ねぇ、留守の間なにか変わったことあった?」
「えっ?ううん別に…」
「またまたー!あったでしょ?
すっごーく変わったことが!」
「えっ…ええっ!?」
イリヤは魔法少女稼業がバレたのではと内心焦る。
脱衣室にいたルビーも同様である。
「ほら、ウチの目の前に建った豪邸!」
(あ…そっちね)
しかしそんなことはなかったためイリヤは安堵する。
「ちょっと見なかったうちにあんなのが建っちゃうなんてねー。
一瞬帰り道間違えちゃったかと思ったわ」
「あはは…」
「セラから聞いたけどイリヤとシロのクラスメイトが住んでるんですってね」
「…」
話題が胸中を埋め尽くしている美遊のことになりイリヤの口数が減る。
「なんていう子なの?」
「ミ……ミユ…」
「ミユちゃんかー。転校生なんだよね。友達にはなれた?」
「…うん」
「ね、どんな子?」
「どんな…って…、えっと…。
ミユは…なんていうか静かな子。
会ったばかりのシロに雰囲気が少し似てたと思う。
しゃべることにあんまり慣れてないのかも」
そう。今でこそふざけ倒していて面影がまるでないが
家に来た当初のシロエは口数がものすごく少なかったのだ。
イリヤが遊んでいる時も誘われない限りは絶対に交じらず外からただ静かに眺めていた。
そしてその雰囲気が今の美遊にどこか似ていた。
「ふーん」
「あ、でも運動も勉強もすっごいんだよ。
一気に一番になっちゃった。
勉強でなら勝てそうなのシロくらいなの」
「なんでもできる子なのね。
シロといえば…帰ってくる途中で会ったわ」
「えっ!?」
「シロ言ってたわよ。
『わたしのせいでお姉ちゃんを落ち込ませちゃった』って」
「違う!」
予想外の妹の言葉に思わず言葉を荒げてしまうイリヤ
しかしすぐに冷静さを取り戻し
「…違うのママ。シロは何も悪くないの。悪いのは…」
そう言いながらもイリヤは俯き
「…悪いのはわたしなの。
ミユとシロと三人でやろうって決めたことから
わたし、逃げちゃったの」
そうまるで懺悔をするようにイリヤは言葉を紡ぐ。
それをアイリは静かに聞く。
「…思えば最初からミユはわたしのことなんてアテにしてなかった。
シロはアテにしないどころかわたしの助けばかりをしてくれた。
…二人共すごいよ。二人ならきっと…わたしがいなくても大丈夫…。
そう思って、わたしは…」
そうイリヤはアイリに語った。
わたしがいても何もならない。
またシロの足を引っ張ってしまうだけ
だから逃げ出した。
きっとそれが正しいと思って
でも何故か心が痛くて
「ほんとうにそう思う?」
「えっ…?」
自分の独白を静かに聞いてくれていた母からの切り返しにイリヤは困惑する。
「だってあなた、全然「大丈夫」って顔してないじゃない。
ほんとは心配でしょうがないんでしょ?」
「それは…」
「それなら手伝ってあげればいいだけじゃない。
どうしてそうしないの?」
「だって…だってまた失敗したらシロの足を…」
「失敗なんて誰だってするものよ。
重要なのは同じ失敗を繰り返さないようにすること。
そうして少しずつでも前に進んでいけばいいの」
「…」
アイリにそう諭されるが未だイリヤの顔は晴れない。
アイリの声が響かなかったわけではない。
しかし
「そんなに──自分の力が怖い?」
ーーーーーーーーーー
「よくやりましたわ!これで…」
バーサーカーの心臓を美遊の持つゲイボルクが完全に貫いていた。
その様子を見て歓声を上げるルヴィア
誰もがこれで終わったと思った。
「ぐっ…はあはあ。
…ダメ!逃げて、ミユ!!」
シロエ以外は
瓦礫から這い出たシロエからの声に訝しむ一同
しかしすぐにその言葉の意味に気づくこととなった。
心臓を貫かれたはずのバーサーカーが動き出し背後にいる美遊に向かって左拳を横薙ぎに叩きつけた。
ゴギ
嫌な音を響かせ美優もまた壁へと叩きつけられる。
「■■■■■■■■■■───ッ!!!」
咆哮を轟かせるバーサーカー
それと同時に美遊の空けた胸の穴は瞬く間に塞がれていく。
「美遊!!」
「カッ…カハッ…」
「なんてこと…!!
確かに心臓を貫いたはずなのに…!!
シロ、あんたが言ってた本質って…まさか!」
「…蘇生、能力。それがあの、はあ、宝具の本質。
12回殺さないと、死なない」
「じゅっ!?」
ふざけるなと
それが凛とルヴィアが抱いた感想である。
シロエが何故それを知っているのか、なんて疑問は敵の宝具のインパクトの前に呑み込まれた。
「撤退よ!あんな相手じゃ勝ち目がない…!!」
負傷したシロエは凛が、美遊はルヴィアがそれぞれ抱き抱え
階下へと逃げ込む。
「ビル内まで空間が続いてて助かったわ…。
あの図体ならここまで入ってこられないはずよ!」
そうしてバーサーカーから距離を取った後
シロエと美遊を地面に降ろし
凛とルヴィアの二人で敵が来ないか警戒しながら
「ここでいいわ、サファイア!」
凛がサファイアに命じ鏡面界からの脱出を謀る。
「はい、限定次元反射路形成!
鏡界回廊一部反転!」
サファイアの言葉と共に地面に魔法陣が浮かぶ。
しかし
「
美遊とシロエの二人が魔法陣の外に出ていった。
「「え…?」」
そして凛とルヴィアは困惑の声を上げながら鏡面界から脱出していってしまった。
「なっ…!美遊様!?シロ様!?いったい何を…!」
二人は互いに顔を見合せる。
移動中治癒魔術を使っていたとはいえ二人共ボロボロである。
「なんで脱出しなかったの?ミユ」
「それはこっちの台詞」
「…」
「…」
どうやら互いに自分だけ残る算段だったようである。
そうして無言で見つめ合った後、観念したかのようにシロエが話し出す。
「…まだ試していないことがある。
ただそれをやるのに誰かに見られたくなかった」
「…シロも?」
「シロ「も」?ってことはミユも…?」
「うん」
そう。二人共同じく持てる全ての力を出したわけではなかったのだ。
そしてその力を使うのに人目が邪魔だというところも
「…案外似た者同士なのかもね。わたしたち」
「…そう、かも」
「なら…これからやることは互いに見なかった。ってことにしない?」
「うん。わかった」
美遊はシロエの提案を了承し
『
「カード…?」
「…どうしてできたのかはわからないけど、以前イリヤがやってみせた。
これが、カードの本当の使い方」
困惑するサファイアを尻目に美遊はカードを地面につける。
そして
「───告げる!」
その言葉と共にカードを中心に魔法陣が浮かぶ。
「汝の身は我に!
汝の剣は我が手に!
聖杯のよるべに従いこの意この理に従うならば応えよ!」
その時、轟音と共に天井を壊しながら上階よりバーサーカーが美遊とシロエがいる階へと降ってきた。
「!!美遊様、シロ様、敵が…!!」
「誓いを此処に!
我は常世総ての善と成る者!
我は常世総ての悪を敷く者──!」
しかしそれに構わず美遊は詠唱を続ける。
シロエはというと目を閉じ、だらりとただその場に佇んでいる。
「汝三大の言霊を纏う七天!」
バーサーカーが右拳を振り上げる。
狙いは詠唱に脅威を感じたのか美遊である。
「美遊様!」
「抑止の輪より来たれ天秤の守り手──!」
バーサーカーの右拳が美遊に向かって振るわれる。
が
横から突如として美遊とバーサーカーの間に
そして
「
美遊の詠唱が完了し
美遊の姿が魔力の光に包まれる。
そして光が晴れた時
青を基調とした衣の上に腰と脚部、前腕部に銀色の鎧を身に纏い
そして右手には黄金に輝く聖剣が握られている
セイバーの姿を模した美遊の姿がそこにはあった。
しかしその美遊の表情は
「……シ、シロ。それは一体…」
驚愕一色へと染まっていた。
シロエがその華奢な手でバーサーカーの攻撃を止めたから
ではない。
シロエの両腕が
白く巨大で毛むくじゃらの熊のような両腕へと
変貌していたからだ。
ーーーーーーーーーー
「───告げる!」
ミユの詠唱が聞こえてくる。
しかしわたしはそれを頭から追い出し
目を閉じ、自分の中へと意識を集中させる。
あの時
セイバーの宝具をまともにもらってわたしが無事だったのには理由があった。
結果その反動で次の日熱を出してしまったけれど
それに見合うだけの価値はあった。
…轟音にサファイアの悲鳴
敵が目の前に来たみたい。
急がないと
話が逸れたけど
セイバーの宝具を目前にわたしは
久しぶりに「死」を予感した。
そしてそれを目の前にして
かつてのわたしを思い出し、発現することができた。
即ち、必要なものは
野生の本能
わたしは目を開ける。
わたしの両腕が華奢な少女のものではなく
かつての圧倒的なパワーを秘めた白熊のものへと変貌していた。
やっぱりというべきかマスターの術式に逆らっていることになるから
身体の一部のみ
しかも制限時間もあるみたい。
本能でそれがわかる。
でも今はそれで十分。
わたしはバーサーカーからミユへの攻撃を片手で受け止める。
「
そうしているうちにミユの詠唱が完了し
ミユの姿がセイバーのものへと変わる。
そっか。ミユのやりたかったことってあの日イリヤがやった…
「……シ、シロ。それは一体…」
ミユの目が見開かれ驚愕の声を上げる。
しかしわたしはそれに答えず
バーサーカーの右拳を受け止めている左腕を前方へと振るう。
「■ッ!?」
驚愕の声を上げながらバーサーカーはその巨体を後方へと吹き飛ばされる。
「…行くよ。バーサーカー」