プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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養子

 

 

秋も終わりこれから一層寒くなっていくであろう11月の下旬

冬木市の一角にある小さな孤児院

その院長である男は朝目を覚ました。

 

 

「う~。寒くなってきたな。そろそろストーブも出すか」

 

 

男は一人文句を言いながら布団から出る。

孤児院の仕事をこなすために

ポストの確認から始まり、子供達の服を干し、朝御飯の支度…

それらは別段特別な事では無くもはや何度も何度も繰り返し行ってきたため習慣と化している。

 

だからこそ、それを見た時思考が一瞬止まってしまった。

 

それは初っぱなのポストの確認時だった。

ポストの下に段ボールが置かれていた。

男は最初ポストに入りきらない大きな荷物でも届いたのかと思い軽い気持ちで段ボールへと近付いた。

そこにあったのは

 

 

「…赤ん…坊?」

 

 

段ボールの中には小さな赤ん坊が厚い布にくるまれて入っていた。

赤ん坊はこんな寒空にも関わらずすやすやと眠っていた。

そして赤ん坊の上には手紙が置かれている。

男はこんな寒い中、外にいさせたら死んでしまうと孤児院の中に入れる。

そして

躊躇したが他にこの赤ん坊について知ることが出来るものはないと自分に言い聞かせ、手紙を手に取り中身を読み始める。

 

 

「・・・ふざけやがって…!!」

 

 

手紙を読んだ男は手紙を破り捨てたい衝動に駆られるが必死に押さえ込む。

わかったことはこの子の名前はシロエだということ

そして実の親に捨て猫みたいに捨てられたということのみであった。

 

 

「自分の子供を何だと思ってやがる。ったく」

 

 

といっても目の前で寝ている赤ん坊には何の罪も無い。

そして偶然(・・)にもつい先日一人里親が決まり、孤児院を出ていったため余裕は十分にある。

何よりこの仕事をしている以上、捨て子の受け入れはよくある事なのだ。

もっとも今回のように顔も会わせず捨て猫のように置き去りにするケースはなかったが

 

男は赤ん坊…シロエを孤児院に受け入れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

………

 

 

それから年月は経ち

 

 

「ここに私達の家族になる子がいるのね」

 

「ああ。そうだ」

 

 

孤児院の前に一組の夫婦がいた。

 

女性の方は長い銀髪に色白の肌、名をアイリスフィール・フォン・アインツベルン。

男性の方は短い黒髪に無精髭を生やしている、名を衛宮切嗣。

 

二人はこれから家族になる子供…士郎に会いに来たのである。

切嗣は既に顔を合わせているが、アイリスフィール…アイリは初対面であり、どんな子なのか非常に楽しみにしている。

二人はそのまま孤児院の中へと入り、院長と話をする。

アイリの方を見て少し目を見開いたが、特に何も言わず待合室へと通される。

 

 

(…?反応が妙だったが何だったんだ?)

 

 

切嗣が訝しむ中、院長からここで待つように言われ待合室を後にする。

 

そして、数分後

院長が士郎を連れて戻ってきた。

士郎はまず切嗣の方を見て挨拶をし、続いてアイリの方を見て

 

 

(…またか)

 

 

驚いた表情をする。

その後、アイリと士郎は互いに自己紹介をし養子に迎えるべく話を進める。

尚、その間もアイリの方をちらちらと見ている。

そして、養子の話は無事終わり

 

 

「…あの。アイリスフィール…さん?」

 

 

我慢しきれなくなったのか士郎がアイリに話しかける。

 

 

「アイリでいいわよ。親しい人は皆そう呼んでるから」

 

「えっと…じゃあ、アイリ…さん」

 

「うん。なあに?」

 

「アイリさんはその…シロエの母親なのか?」

 

「士郎!」

 

「でも院長!」

 

 

事前に黙っているように言われていたのか院長が注意をするが士郎が反発する。

 

 

「えっと、シロエっていうのは?」

 

「…シロエはこの孤児院にいる俺より六つ下の女の子だよ。いつも一人でいるから遊んであげているんだ」

 

「(イリヤと同い年か)…そう。それで私が母親って何で思ったの?」

 

「それは…」

 

 

士郎が院長の方を見る。

何か言いにくい事情があるのだろうか?

 

 

「私が説明します。

端的に言いますとアイリさんあなたに似ているんです。

約5年前この孤児院に当時赤ん坊だったシロエが捨てられていました。他にあったのはシロエという名前と事情があり育てられないということが書かれた手紙のみ。親についての情報は何もありませんでした。

しかし…」

 

「私にあまりにも似ているからもしかしたらと」

 

「はい。その通りです。

しかしそれは違うと私は考えています。

子供を捨てておいて養子を取るなんて理屈に合わないですから。

よって士郎にも口止めしておいたのですが…」

 

 

そう言い非難がましい目で見る院長

 

 

「だ、だって想像以上に似てたもんだから、それに万が一っていうこともあるだろ?」

 

「えーと。残念だけどシロエっていう子のことは知らないかなぁ」

 

「そ、そんなぁ…」

 

 

聞かなくてもいいことを聞いてしまったと肩を落とす士郎。

それを見かねたアイリが

 

 

「あっ。でもシロエちゃんのこと興味が出てきたかな。院長、シロエちゃんに会うことは出来ますか?」

 

「構いませんけど…」

 

「よかった。連れてきてもらっていいですか?」

 

「わかりました」

 

 

士郎を連れて待合室を後にする院長。

正直ただの興味本位のつもりだった。

親と間違えられるほどに似ているという捨て子に対する興味。

それにこれから家族になるシロウとの壁を少しでも取り払えたら

そんな気持ちから会おうと決めた。

 

そして待合室のドアが開かれた。

 

 

「─────イリ…ヤ?」

 

 

驚愕した。

私というより、五歳になったばかりの私の娘イリヤに瓜二つだったから。

唯一違いを挙げるなら瞳の色が青色ということと銀髪に光が当たると若干青がかって見えることくらい。

何も知らない人が見たら双子だと勘違いするかもしれない。

そう思わせるくらい似ている。

 

イリヤと呼ばれた少女は少し眉を潜め

 

 

「あの…、わたしシロエっていいます。イリヤではないです」

 

「あっ!えっとごめんなさいね。あまりにも私達の娘…イリヤに似ていたものだから…」

 

「そうなんですか?…それであなた達は?」

 

「……私はアイリ、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。こっちは」

 

「……僕は、衛宮切嗣。よろしく、シロエちゃん」

 

 

知ってるんだけどね。

 

わたしはマスターの使い魔…もっといえば分身も同然。

だから『イリヤ』としての記憶や性質も持ち合わせてる。

そして幼い頃…幸せだった頃にお母様とキリツグが幾度となく出てきていた。

その上で考える。

 

わたしの身の上を話していいものかどうか。

 

『イリヤ』としての記憶と、マスターからの話を加味するのなら、話してもいい……………のかな……?

けど………ネックとなるのは、やっぱり時計塔を始めとした魔術師達。

今のわたしは神霊の使い魔。

そしてマスターである神霊達から沢山の加護をもらい半ば精霊と化している。

その上、英霊の座にいるマスターと現在進行形でパスが繋がっており、おまけに神代の魔術知識をマスターから譲り受けている。

 

…うん。魔術師からしたらこれ以上ない程の実験材料にしか見えないだろうね。

それだけならまだしも最悪、材料にされた後パスを辿られてマスターを引きずりおろされる可能性だってある。

…現代の魔術師にそこまで出来るとも思えないけど可能性はゼロじゃない。

ゼロじゃない以上マスターを守る使い魔として話すわけにはいかない。

 

目の前のアイリ達には悪いとは思うけど、情報の漏れを防ぐ意味合いもある。

 

他にもいろいろと考えが過ったものの、結論として話さないことを決めるシロエ。

 

もっとも

 

 

「…シロエちゃん?どうしたの?急に黙り込んじゃって」

 

 

その結論に達するまで一分近くかかったが

前世があるとは言え白熊だからね、しょうがないね。

 

 

「はっ!?…いえ。なんでもありません」

 

「…そう?じゃあ」

 

 

その後、いろいろ質問してくるアイリ。

趣味とか何でもない質問の中に

「アインツベルンって知ってる?」

などといったこちらを探るような質問をとばしてくるが全部知らないと答えた。

そして

 

 

「じゃあ最後に、シロウのことはどう思っている?」

 

 

と最後の質問をしてくる。

 

 

「…とても優しい人。普段一人でいるわたしを気にかけて、輪の中に入れようとしてくれる。血は繋がってないけどお兄ちゃんって呼んでる。…幸せになってほしいと思う」

 

「…そう。わかったわ。ありがとう」

 

 

そして院長に連れられ待合室を後にした。

 

 

……

………

 

 

「どう思う?彼女の事」

 

 

孤児院からの帰り道、切嗣がアイリに尋ねる。

 

 

「…何か隠している事があるのは間違いないけど

でもそれは、私達には害をなさないと思う」

 

「それはいつものカンかい?」

 

「ええ。そうよ」

 

「…君のカンは良く当たるからな。信じるさ。いつも通りに」

 

「ふふ。ありがとう」

 

 

切嗣からの信頼に微笑むアイリ

 

 

「…ねえ。キリツグ」

 

「…わかっているさ。あの子も引き取りたいって言うんだろう?」

 

「ええ。話してみてわかったけどあの子自身はとてもいい子だし何か抱え込んでいるみたいだけど、イリヤにそっくりのあの子に誰にも何も打ち明けることが出来ずに一人でいて欲しくないの」

 

「…」

 

「お願い。キリツグ」

 

 

あの子シロエの抱えているもの

シロエは何かに怯えているようにも見えた。

それはつまりあの子が抱えているものには敵がいるということで

シロエを受け入れるということはその敵を相手にする可能性が出てくる。

それでも…いやだからこそ

 

 

「…僕も同じ気持ちだよ。アイリ」

 

 

見てみぬ振りは出来ない。

受け入れないという選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

………

 

 

キリツグとアイリに出会い数日後

何故かわたしにも養子の誘いが来た。

理由はわからないけど、お兄ちゃんと別れたくなかったから特に反対せずにいた。

するとトントン拍子で話が進み、わたしもお兄ちゃんと一緒にキリツグとアイリの養子に入ることになり

 

お兄ちゃんには「衛宮」の姓が

わたしには「アインツベルン」の姓がそれぞれ与えられた。

 

そして院長に世話になったお礼を言い、

切嗣は仕事でいないためアイリに車で連れられ

 

 

「着いたわよ~。ここがこれからあなた達の家よ」

 

 

そう言われ車から降りた先は

住宅地であった。

そして目の前にはどこにでもあるような二階建ての一軒家

 

正直予想外だった。

マスターから聞いた話ではお城に住んでいたと聞いたからだ。

『イリヤ』の記憶からしてもそれは間違いない。

…キリツグと話した時も違和感を感じたけど

……………この世界って

 

わたしが訝しんでいると知らない家で緊張していると思ったのか、お兄ちゃんがわたしの手を引き、アイリに続いて家の中に入る。

 

家の中には三人の人間がいた。

三人の内二人はメイドであるセラとリズ

そして最後の一人は

 

 

「わたしイリヤ!

イリヤスフィール・フォン・アインツベルンっていうの!

あなたのおなまえは?」

 

 

セラとリズに次いで自己紹介をする自分にそっくりなわたしに興味津々なイリヤ。

普通なら気持ち悪いとかそういう事を思って近付かないんだろうけど、そこは幼少期特有の好奇心が上回っているのだろう。まだ自我が芽生えて間もないだろうからね。

 

うん。アイリから事前にどんな子か聞いていて正直半信半疑だったんだけど

違和感がキリツグ以上にヤバい…。

だってわたしの中でイリヤって言ったら記憶の中にあるあの『イリヤ』を指すわけで

こんな風に裏表が無く純粋な好奇心のみで動くって

 

そんなの普通の子供みたいじゃない…!

 

…普通の子供でしたね。この世界のイリヤは、はい。

とそれより速く返事をしないと

 

 

「…シロエ。シロエ・フォン・アインツベルン…ということになる」

 

「シロエちゃんかぁ。

うーん…うーん。

…シロってよんでいーい?」

 

「犬の名前…!?」

 

 

孤児院のテレビで見た某幼稚園児が主人公のアニメ、クレヨンし○ちゃんが頭によぎる。

 

 

「…だめ?」

 

「う…」

 

「…」

 

「…」

 

「その呼び方でいいです」

 

「わーい!これからよろしくねシロ!」

 

 

その目は卑怯でしょう。

あんな目されて断ったら完全に私悪者じゃない…。

 

そんなわたしとイリヤのやり取りを微笑ましく見ているアイリ。

お兄ちゃんはわたしとイリヤが話に聞いていた以上に瓜二つで驚愕している。

 

そんな中

 

 

「じゃあこれで今日からイリヤちゃんは妹でありお姉ちゃんだね」

 

 

アイリが追加の爆弾を投下する。

 

 

「…はい?わたしが一番下?え、何で?」

 

「だって院長から聞いたけどシロエちゃんの誕生日って孤児院に来た日…11月20日でしょ?」

 

「そう…だけど」

 

「対してイリヤちゃんの誕生日は7月20日。同い年だけど誕生日が早い方は…ね?」

 

「────」

 

 

マスター…『イリヤ』の生前の誕生日をわたしの誕生日となるように送ってくれたことに嬉しく思います。

それは主人から想われている証拠みたいなものですし、使い魔にとってとても名誉なことです。

そう名誉なことなのです。

ですからそれが原因で妹になったとしても不満なんてありません。

ないったらないのです。

 

とシロエが自己暗示していると肩に手がおかれる。

その手の主は

 

 

「…イリヤ?何でそんなキラキラした目でこっちを見てるの?」

 

「おねえちゃん」

 

「へ?」

 

「おねえちゃんってよんで?」

 

 

子犬が餌を待ちかねているかの如く目をキラキラさせるイリヤ。尻尾がついていれば確実にぶんぶん振り回しているだろう。

 

 

「いや、あの誕生日が早いと言ってもたった4ヶ月だし」

 

「おねえちゃん」

 

「生まれた年は同じだし」

 

「おねえちゃん」

 

「それにわたしとしてもイリヤって呼び」

 

「おねえちゃん」

 

「…」

 

「…」

 

 

そしてシロエは

 

 

「…………………………………………………お姉ちゃん」

 

 

抵抗することを止めた。

 

 

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