プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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キス魔

 

 

「はあー」

 

 

衛宮邸の自室にて

ベッドへとダイブしながら溜め息をつくイリヤ

 

 

「なんばばぼぼーのいびいびばっばなぁ…」

訳:なんだか怒濤の一日だったなぁ…

 

「はい何て?

セリフしゃべる時はもっと気合い入れてください」

 

 

枕に顔を埋めながら言ったため

意味がわからない言葉となってしまい

ルビーが疑問を呈する。

 

 

「んーむ…。なんかいろいろ起こりすぎてわかんにゃい…」

 

 

イリヤは難しい顔をしながら

ベッドに置いてあるクマ(モヒカンと胸毛が生えているがクマである)のぬいぐるみを手に取る。

 

 

「いちばんわかんないのはあの黒いのだけど

リンさんとルヴィアさんのお兄ちゃんに対する反応がただ事じゃなかったのがすこぶる気になるわー…」

 

(修羅場フラグは立ちましたね…)

 

 

額に青筋を立てながらぬいぐるみの両腕を思いっきり引っ張るイリヤ

その様子を見て先の展開が楽しみで仕方がなくひとり笑うルビー

 

 

(でもそれよりもっと気になるのは──)

 

 

ある程度までストレスを発散した後

イリヤは先程の一連の出来事

美遊の異変について思い返す。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「えっと…」

 

 

時間は巻き戻り

美遊が士郎を前に「お兄ちゃん」と発言し

士郎とイリヤは困惑していた。

その時の美遊の表情は様々な感情が入り交じった複雑な表情をしていた。

しかし

 

 

「君は…、イリヤとシロの友達?」

 

「────……」

 

 

士郎のその言葉と共に

美遊の表情は一気に冷めていき無表情となる。

 

 

「…」

 

 

美遊のそんな様子を同じような神妙な顔で見ているシロエ

そして

 

 

「はい。クラスメイトの美遊…といいます」

 

 

感情を感じさせない抑揚のない声で挨拶をする美遊

 

 

「そ、そうだ。

ミユとお兄ちゃんって今まで会ったことなかったよね」

 

 

場の妙な空気をなんとかしたかったからか

イリヤが話の手綱を握ろうとする。

 

 

「はじめまして。俺は衛宮士郎。

苗字は違うけどイリヤとシロの兄だよ」

 

「失礼しました…。

わたしの兄に…似ていたもので……」

 

(兄…ね)

 

「そっか。君にもお兄さんが…」

 

 

その時だった。

美遊が突如として士郎の胸へと飛び込んだのは

 

 

「ミっ…!?」

 

「…」

 

 

驚愕の声を上げるイリヤと

いまだに黙って美遊の様子を見ているシロエ

そんな二人をよそに美遊は士郎の胸にしがみつく。

 

数秒の間そうしていた後

美遊は士郎から離れる。

 

 

「……失礼します」

 

 

そして美遊は一礼した後

衛宮邸を後にした。

 

 

「…………」

 

「……………………?」

 

「…」

 

 

美遊が玄関から出ていき

その足音が聞こえなくなるまで三人は無言であった。

そして

 

 

「おぼッ!?」

 

 

イリヤは士郎の左ボディを

シロエは右ボディを

それぞれ同時に殴る。

 

 

「お、お前ら…。何を…」

 

「なんとなく」

 

「同じく。(マスターなら殴ってるような気がしたし。…理由はわからないけど)」

 

 

そして二人は腹を押さえて踞る兄をよそに

それぞれの自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ミユのあの表情…。

いろいろな感情が渦巻いているように見えたけど

中でも一番大きそうな感情は「期待」。

それもただの期待じゃない。

ないとわかっているけどそれでも期待してしまう。

そういった風に見えた。

それだけお兄ちゃんがミユの兄と似ていたということ。

このことからお兄ちゃんとミユの兄はほとんど瓜二つと考えていい。

 

以前ミユが

他に行くところがなかったわたしをルヴィアさんが拾ってくれて…

と言っていた。

そしてわたしはその原因を魔術世界のゴタゴタのせいでは

と考えた。

 

つまりミユとミユの兄が離れ離れになったのは魔術世界のゴタゴタのせい?

だとするならミユの兄も魔術関連に?

 

衛宮士郎とは本来であれば

正義の味方になることを目標とし、魔術世界に足を踏み入れ

別世界においては守護者…英霊にまでなった人。

この世界ではそういったことはなさそうだけど…。

 

いずれにしてもそんな「衛宮士郎」と良く似た名前が全く違う別人が

秘匿されていて普通なら一生その存在を知るはずのない魔術に触れた?

そんな偶然があるのかな…?

 

 

 

…………………………。

 

まさか

 

ある。

たったひとつだけ

同一人物だけど違う人物

そんな矛盾を解消する現象がたったひとつだけ

 

数多の世界でマスターと一緒に戦ってきたわたしは知っている。

世界はひとつだけではないということを

そして

世界が違えば同一人物であってもその在り方は大きく異なるということを

いわばお姉ちゃんと『イリヤ』の関係

すなわち

 

 

「平行世界……?」

 

 

……………。

なーんて、そんなわけないか。

そんな簡単に世界間の壁を越えられたら世界は大混乱だよ。

世界間を移動するには最低でも魔法に至るレベルの知識が必要なのに出来るはずがないよね。

 

っていうかそもそもミユと互いに事情は詮索しないって約束したんだから…。

 

馬鹿なことを考えるのはやめて寝よ。

 

 

 

 

 

……

………

 

 

「う~…ちょいと寝不足…」

 

「お姉ちゃん、速くしないと遅刻しちゃうよ?」

 

「ふぇーい」

 

 

次の日の朝

少し眠そうにしながら歯磨きをしているイリヤを

シロエが急かす。

そうして朝支度を整え

 

 

「「いってきまー…」」

 

 

いつもの通り二人で玄関をくぐる。

いつもと違うのは姉のイリヤが若干欠伸をしているところ

の、はずだった。

 

 

「ごきげんようシェロ。

家が向かいだなんてこれも運命。

今日からは是非もなく(ワタクシ)と一緒の車で…」

 

「「………」」

 

 

玄関をくぐると赤色のカーペットが敷かれ

カーペットの先には黒のリムジンといい笑顔のルヴィアがいた。

士郎を迎えに来たようである。

その普段と違う態度に無言になる姉妹

 

 

「……あら?」

 

「お兄ちゃんならとっくに朝練に行ったよ…」

 

「ここのところ毎日だよね」

 

「くうっ!相変わらずのナチュラルスルー…!」

 

 

悔しさと若干の恥ずかしさからか

顔を薄く赤らめながら舌打ちするルヴィア

 

 

「まぁいいですわ…。

せっかくですし貴女達だけでも送りましょうか」

 

「え」

 

「いいの?じゃあお言葉に甘えて」

 

「いやシロ。あの」

 

「ええ。構いませんわ」

 

「ええー…」

 

 

そんなやり取りがあり

 

 

「…………むむむ」

 

 

イリヤとシロエの姉妹はリムジンへと乗り込んだのだが

 

 

「なんでしょうこの微妙な空気は」

 

「おはよー、ミユ」

 

「お、おはよう」

 

「姉さん静かに…。刺激してはいけないわ。

シロ様も。挨拶は大事ですが空気を読んでください」

 

「えー…」

 

 

イリヤと美遊の間にある空気が若干重い。

シロエとしては昨夜の段階で一通り考えた末

追求しないという結論に達したためほぼいつも通りであったが

答えの出ていないイリヤと昨日変な態度を見せてしまった美遊は若干の気まずさがあった。

 

 

「昨日は…」

 

「はいっ!?」

 

「…うん」

 

「驚かせてごめんなさい。

もう…大丈夫だから」

 

(大丈夫…?)

 

「…そう。わかった」

 

(わかった!?)

 

 

友達と妹の短くかつよくわからないやり取りに困惑するイリヤ

しかもそのやり取りの後、この話は終わりとばかりにお互いに黙り込む。

 

 

「そ、そんな謝るようなことは何も…。

ミユのお兄ちゃんと勘違いしちゃったんだよね?

ミユにもお兄ちゃんがいたなんてちょっと意外ー。

あはははは。ねっ!シロ!」

 

 

沈黙に耐えきれなくなったのか。

話を広げようとするイリヤ

妹にも話を振ろうとするが

 

 

「そう…だね」

 

 

それだけ返しシロエは再び黙ってしまう。

まるでその話題には乗らないといった具合に

 

 

「はは…は……」

 

 

再び沈黙が襲う車内

 

 

「あの…、ミユ…」

 

「イリヤスフィール」

 

 

尚も言い募ろうとするイリヤにルヴィアが待ったを掛ける。

 

 

「誰にでも踏み込まれたくない領域というものがあるわ。

美遊にもそして…貴女の妹にもそれがあるとあの夜からわかっていたでしょう?」

 

 

あの夜…。

ライダー戦後のシロエの変貌について言っているのだとイリヤはすぐにわかった。

そして思えば、今ミユに対して抱いている感情はあの夜シロに対して抱いた感情と似ているとも思った。

 

 

「過去がどうであれ今は美遊・エーデルフェルト…。

(ワタクシ)たちにとってはそれで十分なはずでしょう?」

 

 

ルヴィアはイリヤに対しそう諭す。

 

 

「そう…だね」

 

 

イリヤはルヴィアのその言葉に自身を納得させる。

あの夜と同じく胸にあるモヤモヤを無視して

 

 

「そうそれに…貴女達の兄も士郎・エーデルフェルトになるかもしれませんし…」

 

 

ルヴィアのその発言にシリアスな空気が霧散する。

 

 

「「「は?」」」

 

 

子供達三人が

何言ってんだこいつ…。

という目でルヴィアを見るが

既に妄想の中にいるルヴィアは気づかない。

 

 

「ああ、そうなれば貴女達とも姉妹ということに…」

 

「えっ…ほ、本気!?

ていうかお兄ちゃんお婿さん!?」

 

「えーと…。ルヴィアさんがお兄ちゃんのことを好きっていうこと?」

 

「気づくの遅い!?昨日のあの空気でなんとなく察しようよ!?」

 

「昨日の空気…」

 

 

シロエが昨日の様子について思い出す。

ルヴィアさんがお兄ちゃんのことが好きなら

ほぼ同じ反応だったリンさんも好きということになるよね。

……………ん?

ならその二人に対して敵意を出していたクロとお姉ちゃんも…

 

 

「つまりリンさんも…クロもお姉ちゃんも、お兄ちゃんのことが好」

 

「ぶっ!!?やっぱり気づかなくていい!!!!」

 

 

唐突に自らの秘めた(クラスメイトにはバレバレ)想いが妹にバレ顔を真っ赤にしテンパるイリヤ

完全に藪蛇である。

しかしルヴィアはトリップ…自らの世界に入っているため気にも止めない。

 

 

「そうね今日から(ワタクシ)を「お姉様」と呼んでもよくてよ!

むしろ呼びなさいイリヤスフィール!シロエ!」

 

 

もの凄くいい笑顔でルヴィアは姉妹にそう言う。

 

 

「「「…」」」

 

 

そうだね。

わたしにとってミユはミユ…。

それにシロはシロ…。

それでいいんだ。

 

 

「無視してモノローグ始めましたよこの子!」

 

「ついでにお兄ちゃんが好きだという件もなかったことにしようとしてるね」

 

 

ミユが話したくないなら今無理に聞き出す必要はない。

きっといつか打ち明けてくれる。

その日を待とう…。

シロと同じように…。

なんだか少しさびしいけど

 

 

「新しいテク覚えましたね。イリヤさん」

 

「やったねお姉ちゃん!突っ込みが楽になるよ!」

 

 

なにやら不穏な言葉が聞こえた気がしたけど

きっと気のせい。

そんな発言はない。

ないったらない。

 

 

 

……

………

 

 

「イリヤアアアッ!!!」

 

 

イリヤ達三人はルヴィアのリムジンに揺られて登校。

そしていつも通り教室へと足を踏み入れた。

すると那奈亀、龍子、雀花、の三人がイリヤへと勢いよく詰め寄った。

 

 

「はい!?」

 

 

登校してすぐの事態に

イリヤが困惑した声を上げる。

 

 

「てめこらどういうアレだオアーッ!?」

 

「まさかとは思ったけどイリヤやっぱ…!」

 

「あんたの性癖は自由だけど人を巻き込まないでくれる!?」

 

「え!?え!?え!?」

 

 

三人共に微妙に顔を赤らめながらもイリヤを責めたてる。

しかしイリヤにはなんのことだかまるでわからない。

 

 

「なに!?なんの話!?

わたしなんかしたっけ!?」

 

「「「なんか…だと…」」」

 

「え…」

 

 

知らぬ間に地雷を踏み抜いてしまったのか

三人の重圧が増していく。

そして

 

 

「「「人に無理やりチューしといてすっとぼけてんじゃねぇーーーーッ!!」」」

 

「はーーーーーっ!!?」

 

 

イリヤは驚愕した。

当然である。

登校するなり、いきなりキス魔呼ばわりされたのだから

 

 

「ちゅー…?無理やり…?

3…4マタ…?」

 

「ミユ誤解しな…、今なんで3から4に増えたの!?」

 

 

三人の中で一際迫って来ている龍子をどうにか抑えるイリヤ

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよみんな!

何のことか全然わかんない!」

 

「そうだよ!いくら何でもそんな…」

 

「シロ…」

 

 

イリヤと三人の間に入り

三人を押し止めようとする妹を見て

少し感動するイリヤ

 

 

「お姉ちゃんがそんなことするわけ…」

 

 

そう。お姉ちゃんの日頃の行いを考えればそんなことをするはずがない。

お姉ちゃんは友達のいないわたしをいつも気にかけてくれた。

ミユと友達になれた時だって…。

ミユのメイド服姿に変なスイッチが入ってミユを襲おうとした。

 

 

「するわけが…」

 

 

その後

あろうことか妹であるわたしのパジャマを剥ぎ取ろうとした。

 

 

「する……わけ……」

 

 

またある朝は

起こしに来たミユに対して

抱きついて無理やりキスをした。

 

 

「……………」

 

「…シロ?」

 

「………お姉ちゃん」

 

 

そして

 

 

「刑務所に入っても毎日面会に行ってあげるからね!」

 

「シロオオオオォォォォォォォォォッッ!!?」

 

 

こ、この妹は…!

そっちがその気なら…

 

 

「わ、わたしじゃなくてシロかもしれないじゃない!」

 

「ちょっ!?可愛い妹を売るなんて…!姉の風上にも置けないよ!」

 

「どの口が言うの!?姉を売ろうとする妹のどこが可愛いのよ!!」

 

「シロじゃないぞ。たぶん」

 

「え!?なんで!?」

 

 

雀花がイリヤのシロだったのでは?説をあっさりと否定する。

 

 

「そりゃチューされた時、瞳の色なんて一番目に入るし」

 

「あ……」

 

「お姉ちゃん…。そこまで追い詰められて…。

大丈夫。わたしはお姉ちゃんからこの身を売られてもいつかお姉ちゃんが改心してくれる日が来るって信じてるから…(笑)」

 

「なにその悪い姉から酷いことされてる幸薄い妹的な台詞は!?

っていうか笑ってるでしょ!?どう見ても!!

だ、だいたい私今来たばっかで…」

 

 

イリヤが反論を重ねながら後退ると

先生である藤村大河にぶつかる。

 

 

「イリヤちゃん?」

 

「あ、せんせ…」

 

 

しかしその藤村先生もまた様子がおかしい。

黒の瞳は深淵のように暗く涙がはたはたと流れ落ちている。

まさか…

 

 

「わたし…ファーストキスだったの…。

責任とってくれる…?」

 

「せんせえぇぇぇッ!!?」

 

 

そのまさかが当たってしまいさらに絶叫を重ねるイリヤ

 

 

「だから、わたし知らないってばー!!」

 

「あっ」

 

 

自らの潔白を叫びながらイリヤはその場から逃げ出す。

 

 

「おのれイリヤ!!」

 

「喪女のファーストキスまで奪うとはなんたるキス魔!!」

 

「喪女言うな!!」

 

「逃がすな追えーッ!!」

 

「ひーっ!!」

 

 

逃げるイリヤに追いかける四人

その時

 

ガガガガンッ

 

柄の長いコートブラシが多数

床へと突き立てられ一種のバリケードのようになる。

そしてそのバリケードの前には

 

 

「ミユ…。シロ…」

 

「行ってイリヤ。ここはわたしたちが食い止める」

 

「まあ真面目な話をすると十中八九()()()の仕業だと思うから。

お姉ちゃんは()()()を捜しておいて」

 

「う、うん!わかった!!」

 

「上等だー!!」

 

「お前らも穢してやんぜー!!」

 

 

イリヤは美遊とシロエにその場を任せ走り出す。

 

 

「うおらーっ!」ガゴーン

 

「ああ…相変わらず頼もしいミユ…!

それにシロ。信じてくれててよかったよぉ…!」

 

「尊い犠牲になりましたねぇ」

 

 

後ろから戦り合っている音が耳に届くがイリヤは止まらず走り続ける。

犠牲(?)となった友達と妹の想いに涙しながらも

そして

走っているうちにイリヤは屋上まで来た。

 

 

「ね…ねぇルビー…。シロの言ってた()()()ってやっぱり…」

 

「まあ昨日の今日ですしありえますね。

たぶんまた…」

 

 

イリヤが屋上の入口にて息を整えていると

 

 

「イ…イリヤちゃん…?」

 

「はえっ!?」

 

 

唐突に自身の名を呼ばれたイリヤはそちらを振り向く。

そこにいたのは

 

 

「イリヤちゃん…だよね?目が赤いし…。

どうしたの?なんか怖いよ…」

 

「ふふ…でも逃げないのね。ミミは」

 

 

美々を壁へと追いやり

差し迫る褐色肌のイリヤ…クロの姿がそこにはあった。

 

 

(やっぱりクロ(こいつ)かーーーッ!!!)

 

 

ある程度予想していたとはいえ

またしても脱獄してよりにもよって学校に来ていたため

イリヤがずっこける。

 

 

(またこのパターン!?

いったい何が目的なのよアイツはーーッ!!!)

 

「なんか着々とイリヤさんの生活が壊されてきてますねー」

 

 

自身の姿でやりたい放題しているクロに頭を痛くさせながら床をばんばん叩くイリヤ

 

 

「表じゃ優等生の顔して…。でも本当は好奇心いっぱい。

いけないことにも興味があるんでしょう?」

 

「イっ…イリヤちゃ…」

 

 

クロがその身体を美々へと密着させ

美々は顔を赤らめる。

 

 

「ちょー…っ!」

 

「あっ…」

 

 

覗き見しているイリヤに凄まじく嫌な予感が過る。

そしてその予感通りに

クロは美々の両腕を抵抗できないように押さえると

 

 

「んっ…」

 

 

その唇を重ねた。

その刺激の強い様子を陰から見ているイリヤが顔を赤くし口を大きく開ける。

 

 

「んんッ……!!

~~~…ッ!!」

 

 

しかしそれ以上に顔を真っ赤にさせる美々。

例の如く舌も中に入れ濃厚なキスをするクロ。

その濃厚な初体験に美々の目が涙目となる。

そして

 

 

「ふぅ…」

 

 

事が終わるとそこには

白目となり身体は火照っており

口からは涎を垂らしている美々の姿があった。

 

 

「んー…。

やっぱり一般人じゃ何人吸ってもあんまり溜まらないなぁ…」

 

「この…」

 

 

しかしそんな台詞はもはやイリヤには聞こえていなかった。

イリヤは物陰から飛び出すと

 

 

「名誉毀損変態女ーッ!!!」

 

「おオッ!?」

 

 

クロの左頬に跳び蹴りをくらわした。

 

 

「ふぇぶっ」

 

「ミミ!?ミミ大丈夫!?」

 

 

クロが落下防止用のフェンスに顔面から激突するが

そんなことよりも美々のことを気遣うイリヤ

 

 

「しゅごーい…。パンジーがいっぱいら…」

 

「き、気絶してる…。

そんなにすごいちゅーなの!?」

 

 

どんな夢を見ているのか。

美々は意味不明の寝言を呟きながら目を回している。

 

 

「急な魔力低下によるショック症状よ。

すぐ治るわ」

 

 

クロが顔を左手で押さえながら美々の症状について説明する。

 

 

「痛いわね…。

あなた、わたしに対して手加減なさすぎない?」

 

 

その顔はフェンスの痕がくっきりと残っている。

クロはこめかみに青筋を浮かべながらイリヤに苦言を呈する。

しかしイリヤはそれに取り合わない。

それよりも気になる言葉があったからだ。

 

 

「魔力低下…?」

 

「ははー。なるほど」

 

 

クロのその言葉でルビーはクロの行動の理由を理解する。

 

 

「単なるキス魔かと思ってましたが魔力を吸い取ってたんですねー。

美遊さんとシロさんとのやつもそれ目的でしたか」

 

「そういうこと。

昨日の戦闘でちょっと使いすぎちゃったからねー。

補給してたの」

 

 

クロはあっさりとルビーの推察を肯定する。

 

 

「できればミユともう一回したいなー。

あの子とは相性いいみたい。

シロも相性は良かったんだけど」

 

「魔力を溜めてなにするつもり?」

 

 

クロが昨日の美遊とシロとの絡み合い(意味深)を思い出しながら語っていたが

イリヤがそれを一刀両断する。

 

 

「ルビー!」

 

 

ルビーを手に取り転身を行う。

 

 

「いい加減にして!

あなたが現れてからロクなことがないわ。

お兄ちゃんも…、シロも…、友達も…、ミユも…。

これ以上わたしの日常を壊さないで!」

 

「………」

 

 

イリヤのその叫びを静かに聞いたクロは

 

 

「与えられた日常を甘受してるだけのくせに」

 

 

ぽつり、と言い返す。

 

 

「え…なに…?」

 

「悪いことは全部わたしのせい。

わかりやすくていいわね」

 

 

クロの言い返した言葉の意味がわからずイリヤは聞き返すがクロは答えない。

 

 

「……ルヴィアさんの家に戻って!

言うこと聞かないなら…」

 

「力ずくで?

ミユもシロもいないあなたにそれができるのかしら?」

 

「~~~…っ!!」

 

「あっイリヤさ…」

 

 

クロの挑発にイリヤは太股のカードケースより『Lancer(ランサー)』のクラスカードを取り出しルビーへとかざす。

昨日凛から念のためにと渡されたカードである。

 

 

「ちょっとヤバいですよイリヤさん!

コレは手加減できないガチ宝具です!」

 

「いいわ試してみたら?

…それがあなたの望みなら」

 

「………!」

 

 

Lancer(ランサー)』のカードを前にしても挑発を続けるクロにイリヤはルビーの制止の声を聞かず

 

 

限定(インク)──」

 

投影(トレース)──」

 

 

限定展開(インクルード)をしようとする。

そしてそれに応戦するようにクロは投影を開始しようとしたその時

 

 

ガゴン

 

ドタドタドタ

 

 

そんな音が響く。

音がした方を向くと

 

 

「イリ……ヤ……?」

 

 

階段室の扉が開かれ

美遊、シロエ、藤村先生、雀花、龍子、那奈亀の六人が一斉に倒れ込むように屋上へと入ってきた。

尚、藤村先生は勢いあまり顔面からダイブし床へと激突してしまっている。

魔法少女へと転身してしまっているイリヤは見られてはならないものを見られてしまいおおよそ女の子がしてはいけないような顔をしている。

 

 

「なんだそのかっこー!?」

 

「コスプレ!?学校で!?そんなステキ趣味が…!」

 

「え、ていうかイリヤと…シロ?いやいやシロはここにいるしいったい…!?」

 

「あ…ああ…。あああああああ!!」

 

(とうとうイリヤさんの処理能力を超えた事態に…)

 

 

各々がイリヤの姿と三人目のイリヤやシロと同じ顔をした存在に驚愕する。

そしてイリヤはパニックになり、まともに言葉を発することができない。

涙目になり首をぶんぶんと横に振っている。

 

 

「ご、ごめんイリヤ。抑えきれなかった」

 

「冷静に考えたら二対四とか無理があるよー(魔術使うわけにいかないから身体能力が低いままだし…)」

 

「シロちゃんがこっちにいる以上どっちかが別人…部外者でしょう!?

どういうことか説明しなさい!

そしてわたしにキスした方は謝罪と賠償をー!!」

 

「おちつけタイガー!」

 

 

床に顔面をぶつけた時に出たのか鼻血を垂らしながら藤村先生が暴れ出す。

そしてそれを雀花、龍子、那奈亀の三人が抑えようとする。

 

 

「あばばばばミユー!シロー!

どぼすれば…、どぼすればー!」

 

「サファイア!記憶消去とか…」

 

「できなくもないですがあまりオススメは…」

 

「うーん…。ここから誤魔化そうとするのは不可能な気が…」

 

「ぞんなー!」

 

「コホン!」

 

 

イリヤ、美遊、シロエが今のうちにどうするか話し合っていると

クロが咳払いをひとつ立て注目を集める。

 

 

「皆さん。

お騒がせしてごめんなさい。

わたしは──」

 

 

その場にいる全員がクロを見ている。

事情をある程度知っているイリヤ達はこれ以上何を言い出すのか戦々恐々している。

 

 

「クロエ・フォン・アインツベルン。

イリヤの従妹です」

 

 

絶句するイリヤ達をよそに

クロ改め従妹(?)のクロエは続ける。

 

 

「来週から転校してくる予定なのでその下見に…と思ったんですが

ちょっと挨拶が日本じゃ過激だったみたい。

みんなごめんね」

 

「んっ…、な…っ」

 

「えぇー…。名前…」

 

 

汗をかきながら口をパクパクさせ言葉が出せないイリヤと

自分とほぼ同じ名前を名乗ったクロエに対して口元を引きつかせるシロエ

 

 

「イリヤに従妹がいたのか…。

すご…、シロも含めて三人並ぶと三つ子みたいじゃん」

 

「っていうか名前までシロと似てるのか…。

実は名付け親が同じだったりして…」

 

「そんなわけないでしょう。

………こっちは孤児院の時からこの名前なんだから」

 

 

クロエにこのまま任せておくと妙な設定が生えかねないと

シロエが慌てて間に割って入る。

 

 

「うふふ、そうね。偶然よ偶然」

 

「がっ…外国じゃいつもこんなチュッチュしてるのか!?」

 

「ええ。そりゃもちろん」

 

「まじでか!」

 

 

こんにゃろう。

とうとう公然とわたしの生活を侵食し始めました。

もうどうしたらいいのか……。

もう…もう……。

うんとりあえず

 

一度逃げてから考えよう。

 

 

「あっ。イリヤが脱兎のごとく!」

 

「待て!その服もっとよく見せれー!」

 

 

その後イリヤは持ち前の逃げ足でクラスメイトから逃げきることに成功した。

 

 

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