「オーーーーーーーーーーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ」
エーデルフェルト邸
そのロビーにてルヴィアが高笑いを上げる。
何がそんなにおかしいのか。
それは彼女の足下に倒れている凛が原因だろう。
いつものようなラフな服装ではなく
メイド服を着込み、水浸しとなり倒れている。
近くには水が入っていたであろうバケツが転がっている。
尚凛は怒りにその身を震わせている。
「………」
近くの柱の影には美遊がルヴィア達のその様子を見て
呆れと困惑が入り交じったような表情を浮かべている。
「ホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ」
どこまでも止まらないルヴィアの高笑いに
凛のこめかみに青筋が大量に量産されていく。
そして
…
……
………
「やってられっかーー!!」
「なにーーーッ!?」
「強盗ーーーッ!?」
場所は変わり衛宮邸
そのイリヤの自室にて
イリヤとシロエの姉妹が仲睦まじく遊んでいたのだが
そこにメイド服を着た凛が窓ガラスを割り飛び込んで来たたのである。
さながらダイナミックエントリーである。
もっともイリヤ達からしてみればパッと見、押し込み強盗と間違えても不思議ではない。
結果イリヤとシロエは互いが互いを庇おうとし抱き合う形となる。
その後すぐにそのメイドの正体が凛だとわかり安心することとなったが
「あーーー。ッたく!」
そんな姉妹の心情など知ったことではないとばかりに
凛はベッドに勢いよく腰掛ける。
「冗談じゃないわよホントに!!」
「ど、どうしてわざわざ窓から…」
「ムシャクシャしてやった!!あとで直してあげるわよ!!」
「反省の色無しですね。この若者は」
「っていうかこんな音聞かれてたらどうする気だったの?」
「他に誰もいないことくらい事前に調べてあるわよ!!」
「調べるくらいなら最初から玄関から入ろうよ…」
イリヤは自室の窓が割られ風通しが凄まじく良くなってしまい少しへこみ
シロエはそこまでして窓から入る意味とは…?と困惑している。
「それで何なんですかその格好は?
とうとう頭がイカれ…」
例の如くルビーが笑い声を漏らしながら凛をおちょくろうとするが
その言葉は最後まで言い終えることはなかった。
次の瞬間
「これ以上わたしをイラつかせない方が身のためよ…?」
カッター、ボールペン、ドライバー、ハサミ、コンパス
イリヤの勉強机から拝借したであろう文房具がルビーを床へと固定する。
あまりの早業にルビーは身動きひとつ取ることはできない。
「ヒエッ…」
「イ、イエス元マスター…」
(いつもより残虐性が高い…!!)
そのヤバさを前にシロエとイリヤは戦慄き
ルビーは軽口を閉じる。
「好きでメイド服なんて着てるわけじゃないわよ!
こんな機能性の低いヒラヒラの服…。
でも『これを着ないと働かせない』ってアイツが言うから…!」
「えーっと…。情報が断片的すぎてわかりづらいんだけど…」
「でもさお姉ちゃん。リンさんが着ているメイド服ってよく見たらミユが着てたやつと…」
そう。凛が着ているメイド服は
以前美遊が家に来た時に着てたものとデザインが全く一緒なのである。
それが意味することは即ち…
「おっ、さすが鋭いですねシロさん。
それに対してニブいですねぇイリヤさんは」
「むっ…」
「そう。つまり端的に言えば凛さんは…」
妹よりもニブいと言われ少しむくれたイリヤを尻目に
ルビーは結論を言う。
「金のためにプライドを売ったわけです。ですね?」
「くっ…!
そうよ…。今のわたしはお金が必要なの…!」
ルビーの推察が正しいとばかりに凛は呻き
理由を語り始める。
ーーーーーーーーーー
カード回収任務が終わってから……
自分の宝石箱を見て愕然としたわ。
(宝石が、一個もねえ)
宝石のない宝石魔術師なんて弾の入ってない銃と同じこと…
(やっちゃった…。
ルヴィアのヘリを落とす時に全弾使ったんだわ…!)
凛は頭を抱えるも
(このままじゃろくに魔術研究すらできないわ…。
お金を…、お金を稼がなきゃ…!!)
すぐに金策を講じようと動き出す。
…
……
………
そうしてやってきたコンビニ
(と言ってもなー…。
そうそう割のいいバイトが見つかれば世話がないんだけども……)
その雑誌コーナーにて求人情報誌をめくりながら溜め息をつく凛
(とにかく仕事は選んでられないわ。
埋蔵金発掘でも人体操作系魔術の実験体でも…。
ん?)
凛がヤバい方向に思考が行きそうになった時
ひとつの求人が目に止まる。
ハウスメイド★未経験者歓迎
業務内容:屋敷内の清掃全般
応募年齢:16~20歳(学生可)
(メイド…?
今時どこの金持ちよ…。
ったくこの不景気に──
えっと時給は…)
時給:1万円
………。
一瞬の空白。
そして
「いちまんんんんんーーッ!!?」
驚愕し思わず叫ぶ凛
(ななななにこの額は!?日給…じゃないわよね。
えっマジで!?)
更に備考には
備考
黒髪ロング 身長159センチ B77W57H80
ツリ目で赤い服が似合う女性は時給5000円アップ
その怪しすぎる求人に凛は
「天職だわ…」
目を¥マークにしてくいついてしまう。
今にして思えばその内容はあまりにも…
あまりにも都合がよすぎたわけだけど…
その時のわたしは目が曇っていた。
もちろん即応募
即面接
そして即日採用を勝ち取ったわ!!
けどね──
…
……
………
場面は変わり
凛の働き先の
浮かれてたわたしは重大なことに気づいてなかった…。
「あらあらあらあら…。
ソレが新しく入ったハウスメイド?」
その嫌になるほど聞き覚えのある声に
凛は顔を青くさせる。
「はい。お嬢様」
執事と思われる白髪白髭の老人が返事をするが
凛の耳には届かない。
「そう……。
とぉーーーってもよく働いてくれそうですわねぇ…」
なぜならそこには悪魔のような笑みを浮かべているルヴィアがいたからだ。
そこは
獣の家だった。
「いい人材を確保したわねオーギュスト。
みっちりねっとりバッキバキに教育してあげなさい!」
(や……)
「承知しました。
足腰が立たなくなるまで仕事を叩き込むといたしましょう」
(や……)
「ホーーーーーーーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッ!!」
(やられたああああぁぁぁ!!!)
ーーーーーーーーーー
「…というわけで」
時間と場所は戻り
メイド姿の凛が振り返り用の紙芝居を片手に
目元の涙をハンカチで拭う。
「職場環境は最悪だけど
背に腹は代えられない凛さんは泣く泣くメイドをやっていたのでした」
「はぁ…。トントン拍子の転落人生…」
「リンさん詐欺とかに騙されやすそう…。
うっかリンさんって呼んでいい?」
「いいわけあるかぁ!!」
「なんて面白…痛ましいお話なんでしょう」
イリヤとシロエは若干呆れた表情をし
ルビーは笑うのを堪えている。
「そっか……。そんなにお金に困ってたんだね……」
「くうっ……!
子供にこんな目で見られる日が来ようとは…!」
「お姉ちゃんダメだよ。
同情するなら金をくれ!!!!
ってお金をせびられちゃうよ」
「シーロー…。アンタもルビーの二の舞になりたいのかしら……?」
元々イライラしていた所にシロエの弄りが入り
文房具を手にした凛が笑顔でシロエの下へとゆっくりと向かう。
その姿はまるで幽鬼のようである。
「よ、幼児虐待反対!」
「幼児は自分のことを幼児とは呼ばないのよ。
それにこれは虐待じゃなくて躾よ」
シロエはその重圧から逃れるようにイリヤの後ろへと隠れる。
「ちょっシロ!?わたしの後ろに隠れないでよ!?」
「ほぉう…イリヤ。庇おうっていうならあんたごと…」
「いやいやいやいや別に庇ってるわけじゃ「うっかリンさんなんて怖くないもん!大切な妹を守るために、かかってきなさい!!」ちがっ!?わたしそんなこと言ってな」
「いい度胸じゃない…」
「い、いやあああぁぁぁ!?」
…
……
………
「子供から巻き上げるほど落ちぶれていないわよ。まったく…」
「ハイ。ソウデスネ」
「なんで…わたしまで…」
姉妹は仲良く(?)頭に三角定規や分度器それにタンコブをつけながら凛の話の続きを聞く。
イリヤがシロエを睨んでいるように見えるのはきっと気のせいである。
「でも、こうして逃げてきたってことは…」
「まあ、そういうことだろうね…」
「だいたい予想つきますね」
「仕事内容と給料についてはなんら文句ないわ。
というかあの時給のためなら大概のことは我慢するつもりでいたのよ。
でもね…」
凛はルビーを掴み
そして
「なんなのよあのオーギュストとかいう執事はッ!!
わたしのやること全部にイチャモンつけて!!
窓枠ツツーって指でなぞって
『貴女の国ではこれで掃除をしたと言うのですか?』
とか言っちゃって!!
リアルであんなことするやつ初めて見たわよッ!!」
「あ"あ"あ"あ"」
「わあ…」
「姑みたいだね…」
羽を左右へと引っ張りかつ噛みつく。
それによりルビーが呻き声を上げる。
今までのイライラを発散しているかのようである。
「ううん。でも耐えたのよわたし。
仕事だもの。お金をもらうためだもの。
これくらいで負けちゃいけないって…」
(緩急激しいなぁ…)
(ジェットコースターか何かかな?)
そうかと思えばルビーを放り出し沈む凛
「でも、あの金バカだけは我慢ならなかった…」
「怖ッ!!」
(いつものように喧嘩するほど仲が良いなんて言ったら殺されそう…)
ルヴィアとのやり取りを思い出し
眉間に深いしわと大量の青筋を立てる凛
目はイラついて白目になっている。
「パワハラにも限度があると思うのよね……。
まぁ詳しくは省くけど
・ケツキック
・雑巾バケツ
・高笑い
・身体的特徴に関する不適切な発言
このへんのキーワードから察していただけるかしら」
(なんて簡単な読解問題だろう…)
(もはや問題じゃなくて答えな気が…)
「でまぁ結果として──」
凛はふっと笑い顛末を語る。
と言っても簡単である。
廊下にあった壺でルヴィアの脳天をぶん殴ったと
「カッとなってやっちゃったわ」
「お…殴殺事件だーッ!?」
「110番した方がいい?」
「人の頭蓋はツボよりも薄いですよ凛さん!」
「大丈夫よ。どうせあいつは殺しても死なないやつだし。
ていうか死んでてくれてたらそれはそれで問題ないわ。
それと警察呼んだら逃げる前に呼んだやつ八つ裂きにするから」
「法的に大問題だよッ!!」
「ていうかさらっと脅しを付け加えてきたよこの人…」
凛はイリヤのベッドに
はーやれやれ。と言わんばかりに寝っ転がる。
「……ま、もとからうまくいくはずなかったってことね。
話せて少しはスッキリしたわ。
突然悪かったわね」
(スッキリしたのは虐た…躾をしたからでは…?)
「それは別にいいけど…」
「これからどうするんですかー?」
「どうするも何も…。
これでわたしはクビだろうし他のバイトを探すしかないわね」
「それでいいんですか?」
イリヤ達を心配させまいと凛は苦し紛れの笑顔で言ったが
それに待ったの声がかかる。
声をかけたのは
「「ミユ!」」
ミユであった。
メイド姿で凛が割った窓から入ってくる。
「おじゃまします…。
お金が必要なんですよね?
…ここ以上に高給なアルバイトは見つからないと思います」
「…わかってるわよ。
でも、これ以上あのバカの相手はやってられないの!」
「
「え………?」
凛が声した方へと振り返る。
そこには
窓枠にもたれ掛かっているルヴィアがいた。
「ルヴィア…。あんた、どうして…」
「………。
恥ずべきは…
(なんでみんな窓から入ってくるの…?)
(ていうかガラスの破片が散乱してて危ない気が…)
「貴女との確執からつい辛く当たってしまいましたけど…。
ようやく気がついたのです。
こんな形で貴女を屈服させても何の意味もないということに!」
「!」
あのルヴィアが自身の否を認めている姿に凛が目を見開き驚く。
「貴女との決着はいつか必ず…正々堂々とつけてみせますわ。
けど、それと仕事は別のこと。
もう私情を挟むような真似はしないと誓いましょう。
だから……
帰ってきなさい遠坂凛!」
「………………」
その真摯な言葉に凛は
「…廊下の掃除がまだ終わってなかったわね」
「凛さん…」
「ったく。
これで逃げたらまるでわたしが仕事放棄しただけのダメ人間じゃない。
やるわよ。
仕事は仕事。
…
そう言ってリンさん達は帰っていきました。
割られた窓ももと通り。
魔術ってすごいなぁ。
シロもこんなことができるのかな?
これで一件落着…。
といけばいいんだけれど……
「シロ、ルビー…。見たよね」
「ええ見ちゃいましたね」
「人の性根はそう簡単には変わらないってことだね…」
去り際に見せたルヴィアさんの邪悪な笑みは
『こんな面白い玩具を手放してなるものか』
と雄弁に語っていました。
「また近いうちに窓割られそうな気がするよ…」
「今度は鉄板でも入れときましょうかね」
「それは窓って言えるの…?」
「ていうか今回わたしたち何もしてなくない?」
「完全に脇役だったね…」
「まぁまぁ二期では活躍できますよ。きっと」
「「二期ってなに…」」
ベランダにて黄昏る姉妹とステッキ
「それはそうとシロ。あとで説教ね」
「ゑ?」
それはそれとして巻き込まれた恨みは忘れていないイリヤであった。
ーーーーーーーーーー
一方その頃
エーデルフェルト邸
「はああああっ!?560万!!?」
「貴女が割った壺の代金ですわ!
オーホッホッホッ!!」
「373時間はタダ働きですね…」
こうしてエーデルフェルトにて
働くメイド遠坂凛が誕生した。
尚しばらくはタダ働きの模様