プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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更新が遅くなり申し訳ありません。
今後も遅くなるかと思われますが続ける気はあるので気長に待ってもらえたらなと思います。


ドッジボール

 

 

「んっ。準備完了♪」

 

 

エーデルフェルト邸にて

ひとりの幼い少女が制服に身につけ登校の支度を整える。

美遊…ではない。

褐色の肌をしたイリヤやシロエと同じ顔

クロエである。

クロエがイリヤ達の通う小学校。その登校準備を整えていた。

何故こうなったかというと

時間は少し巻き戻る。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「どーゆーことっ!!」

 

 

学校帰りにエーデルフェルト邸へと直行したイリヤ達

応接間にて待っているとルヴィアが同じく学校から帰ってくるなりイリヤはテーブルを叩き声を荒げる。

 

 

「なんでちゃんと閉じ込めておかなかったの!?

おかげでわたしの学校生活が大変なことになったんだよー!?」

 

「イ…イリヤ冷静に…」

 

「そうだよ。コスプレ趣味とキス好きの従妹がいるっていう設定が生えただけじゃん」

 

「結構なことだよね!?それ!?」

 

「な、なんですの?」

 

 

学校から帰ってきて早々ルヴィアは困惑する。

 

 

「今日…クロが学校に現れたんです。

イリヤの従妹を名乗って…。来週転校してくるとまで」

 

「クロエ・フォン・アインツベルンっていう名前でね」

 

「あ、あとわたしの友達にかたっぱしからちゅ…ちゅーを!」

 

「はぁ、やれやれ…」

 

 

子供達の説明を聞き大方の事情を察したルヴィア

 

 

「地下倉庫の物理的・魔術的施錠は完全でしたわ。

それこそアリの一匹も通さないくらいに」

 

「ならどうして!」

 

「わたしが知りたいですわ。

どれほど厳重に閉じ込めてもあの子はそれをたやすく破る。

いったいどうやって…」

 

「そもそも監禁なんてする必要ないんじゃない?」

 

 

一同が頭を悩ましていると

件の少女であるクロエが先までイリヤ達が座っていた椅子に腰掛け、どこから用意したのか水蜜桃を食べていた。

 

 

「わっ…。いつの間に…!」

 

「ん~水蜜桃♪」

 

「あっいいなぁ。わたしにも頂戴」

 

「え~。どうしようかしら?」

 

「ちょっシロ!?」

 

 

クロエの登場に全く動じずいつも通りに振る舞う妹を見て呆れるイリヤ

 

 

「どうしてわざわざ閉じ込めようとするのかしら?

もうわたしは呪いのせいでイリヤに手出しできないし

誰かに害意があるわけでもないわ。

………ちょっとシロ。勝手に食べ始めないでくれる?」

 

「いいじゃない。減るものでもあるまいし」

 

「いや減ってるじゃない」

 

 

クロエの許可を待たずに椅子に座り食べ始めるシロエを見てクロエも呆れつつ突っ込む。

 

 

「わたしはただ普通の生活がしてみたいだけ。

10歳の女の子として普通に学校に通う…。

そのくらいは叶えてくれてもいいんじゃない?」

 

「うぬぬ…。おのれ此奴め戯れ言を弄するか!」

 

「イリヤ語調がヘン!」

 

 

イリヤは当然そんな提案は受け入れる気はなかった。

しかし

 

 

「──いいでしょう」

 

 

ルヴィアは違った。

 

 

「え。ちょっとルヴィアさん!?」

 

「許可なく屋敷を出ないこと。

他人に危害を加えないこと。

あくまでイリヤの従妹として振る舞うこと。

約束できるかしら?」

 

「…もちろん。それで学校に行けるなら」

 

 

イリヤの驚きの声を余所に話は進んでいく。

 

 

「ルヴィアさん!どうして…」

 

「交渉の一手ですわ。いいから任せなさい」

 

「モグモグ…水蜜桃うまっ」

 

「シロォ!いつまで呑気に食べてるのよ!?」

 

「まあまあそう言わずに。

美味しいよ水蜜桃?ほら」

 

「モガ!?……あっほんとだ。美味しい…。

って違う違う!!確かに美味しいけど!?」

 

 

水蜜桃を口に突っ込まれ流されそうになったが

ギリギリで踏み止まるイリヤ

 

 

「さて…。オーギュスト!」

 

「はいお嬢様」

 

「ほわっ!?」

 

 

瞬間移動の如く突如現れた執事にイリヤは驚きの声を上げる。

 

 

「戸籍・身分証のでっち上げと転入手続きを

美遊の時と同じですわ」

 

「承知しました。

14時間で終わらせましょう」

 

「なっ…なんか犯罪臭のする会話がっ!?」

 

(ミユの時と…同じ…?)

 

(戸籍が…ない?

魔術師から身を隠すために?

それとも…)

 

 

ルヴィアとオーギュストの小声でのやり取りに

イリヤはただ顔を引きつかせるだけだったが

クロエとシロエは内心訝しむ。

 

 

「ちょ、ちょっとわたしはイヤだからね!?

絶対問題起こすだろうしなんかボロも出すよきっとー!」

 

「その時は貴女たちでなんとかフォローなさい」

 

「だからなんで私がー!?」

 

 

思案しているためか黙っているクロエとシロエを尻目に

イリヤが抗議の声を上げるがルヴィアにあっさり却下される。

 

 

「え…なに?

なんの騒ぎこれ?」

 

「最近出番がありませんね遠坂様」

 

 

メイドの仕事をこなしていたため

今部屋へと入ってきた凛は会話に置いてかれて困惑しているのであった。

 

 

……

………

 

 

というわけで──

翌週ほんとに転校してきやがりました。

 

 

「クロエ・フォン・アインツベルンです。

シロと同じようにクロって呼んでね♪」

 

 

クロエ・フォン・アインツベルンと書かれた黒板を前に笑顔で自己紹介を行うクロエ

 

 

「イリヤちゃんの従妹なのです…。

みんな仲よくしてあげてね…」

 

 

その一方で顔を少し赤らめもじもじしながら紹介を行う藤村先生

 

 

「タイガー顔が乙女だぞ!?」

 

「ちなみにわたしの初めてのひとなの…」

 

「タイガー何言ってんだ!?」

 

(ああ…。どーして同じクラスになるのよもおぉ…!)

 

 

クラスが違うかもしれないという一抹の希望を抱いていたイリヤであったが

その希望は粉々に粉砕され頭を抱える。

 

 

「あ、席はいちばん後ろ。

美遊ちゃんの隣ね」

 

(やっぱり!?)

 

「はーい」

 

 

自身の近くの席を指定され身を強張らせるイリヤと美遊

しかしクロエは特に変わらない様子で美遊の隣へと移動する。

 

 

「今日からよろしくねー。ミユちゃん 」

 

「………………」

 

 

一方その様子を少し離れた席から見ていたシロエは

 

 

(………なんかここまで来るとハブにされてるような)

 

 

自分だけ三人から離れた席にいるため若干の疎外感を感じていた。

 

 

 

 

 

……

………

 

 

授業は進み体育の時間

 

 

「よーうクロちゃん。

ちょーっとツラ貸してくれんかいのぅ?」

 

 

体操服に着替えた雀花、龍子、那奈亀の三人が

着替え中のクロエへと絡む。

 

 

「え、なに。イジメ?」

 

「イジメじゃねー!尊厳をかけた果たし合いだ!!」

 

「忘れたとは言わせないよ!」

 

「先週俺たちの唇を根こそぎ奪いやがって!」

 

 

先週

言うまでもなくクロエが魔力供給という大義名分で通りキス魔を実行した時のことである。

 

 

「くっ。…いずれ時がきたら兄貴に捧げる予定だったのに!!」

 

「うっわそうだったのかタッツン!!

イリヤと同じだな!!」

 

「なに言ってんの!?なに言ってんの!!?」

 

「そうだよ。お姉ちゃんはもうミユとしちゃ」

 

「シィィィィィィィィィィロォォォォォォォォォォッ!!?」

 

 

龍子と同じく兄に捧げる予定発言への否定で手一杯だったところに妹のフォローに見せかけた追い討ちが入りそうになったが

ギリギリで叫ぶことによりシロエの発言をかき消すことになんとか成功するイリヤ

若干遅かった気はするが間に合った。間に合ったに決まっている。

という自己暗示にも似た切望をしながら

 

ほんっっっと、なにを言ってくれようとしてくれちゃってんのこの妹は……!!

 

一方でその時のことを思い出したせいか美遊の頬が若干赤く染まる。

 

 

「初ちゅーの弔い合戦だ!!

ショーブしろコノヤロー!!」

 

 

聞こえなかったのかそれともクロエの所業の方が問題だと判断したのか

話題は変わらなかったことに心底安堵するイリヤ

 

 

 

 

 

……

………

 

 

そんなやり取りがあった後

場所は変わり運動場

龍子、雀花、那奈亀の三人とクロエ、イリヤ、美遊、シロエの四人が向かい合う。

これから喧嘩が始まる…わけではない。

 

 

「何かと思えばドッジボールか…(しょせんは小学生ね…)」

 

「ううう。なんでわたしまで…」

 

「あっ。人数の関係上、わたし抜けとくね」

 

「えっなにそれズルい!?それならわたしが」

 

「クロ組VS初ちゅー奪われまし隊!

勝負は一回きりだよ!」

 

 

イリヤがシロエに対し抗議しようとするが

それを遮り勝負の内容説明が始まってしまう。

 

 

「負けた方は勝った方の舎弟になること!!

公序良俗に反しない限り命令には絶対服従!!

アーユーオーケイ!?」

 

「舎弟ねぇ…。何を命令するつもりなの?」

 

「給食のプリンよこせ!」

 

「宿題写させて」

 

「お姉ちゃん呼びの卒業」

 

「夏コミでファンネルになって」

 

「なんだ、たいしたことな……。

って最後のなに!?

後どさくさに紛れてシロまで何を要求してるの!?

シロはこっちチームだし、それにその要求は絶対に却下!!」

 

「ちっ」

 

「舌打ち!?」

 

 

各々が小学生らしい(?)欲望に忠実な命令を発表する中

 

 

「ま、いいんじゃない?

それじゃわたしが勝ったら…」

 

 

クロエが命令を発表するが

 

 

「全員一日一回キスさせて」

 

「「「んなあぁッ!!?」」」

 

 

その命令にドン引く三人

 

 

「くっ………!良俗に反しまくってる気がするが──

よかろう!」

 

 

雀花がジャージの上を脱ぎ捨てる。

 

 

「栗原雀花!!」

 

「嶽間沢龍子!!」

 

「森山那奈亀!!」

 

「「「穂群原小(ホムショー)の四神とは俺たちのことだーーーー!!

簡単に勝てると思うなよ!!」」」

 

 

三人がそれぞれ決めポーズを取りながら名乗りを上げる。

名乗りを上げる三人の後ろには海亀、タツノオトシゴ、雀のビジョンが見える…気がする。

 

 

「…………。

四神?白虎は?」

 

 

クロエの素朴な疑問にハッとした表情になる三人

 

 

「虎を……ご所望かい?」

 

 

そんな三人に援軍がその姿を現す。

 

 

「初ちゅー奪われまし隊隊員NO.4!!

藤村大河参戦するわよコンチクショー!!」

 

「うおぉ待ってたぜタイガー!!」

 

(もういいから始めようよ…)

 

「あら?一人増えたことだしシロもこっちにまた戻りなさいよ」

 

「…まあいいけど(強化魔術は無しだから戦力にはなれないと思うよ?)」

 

(えー…。バレないように使っちゃいなさいよ)

 

(いやダメでしょ…)

 

 

 

 

 

……

………

 

 

「それじゃあ試合開始!

ボールは初ちゅー隊からです」

 

「略した!?」

 

 

審判役となった美々がホイッスルを片手に試合開始の合図を出す。

そしてそれと同時に

 

 

「ハッハー!先手必勝ー!!」

 

 

ボールを手にした龍子が

 

 

「うぉらーッ!!」

 

 

背負い投げの要領で

背中を思いっきり見えるくらいに

ボールをぶん投げる。

元気っ娘らしい投球である。

狙いはイリヤ

しかし当のイリヤは

 

 

「おっと」

 

 

避けるでも受け止めるでもなく

飛んできたボールに簡単に当たる。

ボールはそのまま地面を転がる。

 

 

「よっしゃあああ!!」

 

「イリヤちゃんアウト!

外野にまわってください」

 

「ちょっとイリヤ!!

なに簡単に当たってるのよ!?」

 

「えー、だって…」

 

 

詰め寄るクロエを心底面倒臭そうな表情でイリヤは見ると

 

 

「わたし、別に勝つ意味ないし…。

ていうか、あなたが負けてくれた方が都合よさそう…」

 

「あー…。しししんちゅーの虫……」

 

「ミユもシロも適当に負けていいからねー」

 

「う、うん…」

 

「確かにメリットはないけど…。

あ、いやでも待った…」

 

 

一見確かにお姉ちゃんの言う通りメリットがないように見える。

しかし本当にそうなのだろうか?

今の状況はお姉ちゃんがボールに当たって外野に行って

それとは逆にわたしはまだ生き残って内野にいる。

これが意味することは…

 

 

「ここで最後まで生き残ったらお姉ちゃんの得意な運動でわたしの方が優れているということになるのでは…?」

 

「は?」

 

「学力だけではなく運動でも勝つことになったら

姉に勝る妹などいないという説は全くのデタラメということに…!」

 

「「はあ!?」」

 

 

シロエが訳のわからない持論を展開すると

イリヤだけではなくクロエも不快そうな声を上げる。

 

 

「なんでそうなるの!?

わたしさっきのはどう見てもわざと…」

 

「よーし下克上だ!!家庭内のヒエラルキーを覆すよ!!」

 

「聞きなさい!!!ここで勝ったからってわたしは…」

 

「そうよそうよ!イリヤごときに勝ったからって妹が姉に勝るなんて絶対に認めないわよ!!」

 

「わたしごときに!!?あ、あ、あなたねぇ…!!」

 

「ふーんだ。同じチームでかつ既にお姉ちゃんは敗退している以上…。

このわたしを止めることはできぬぅ!!!!」

 

「「ぐぬぬぬ…」」

 

 

某伝説の超サイヤ人の如くシロエが気力を身体中に漲らせると

イリヤとクロエは二人して悔しげに歯ぎしりする。

しかしそれに待ったをかける者達がいた。

 

 

「おいおいシロちゃんよ~」

 

「俺たちに勝てるつもりでいるのか?」

 

「学力はともかく体育の成績はいまいち地味なシロが!!」

 

「ふふんそうよ。それに今ではこのわたしが」

 

 

そんな藤村先生の言葉は最後まで続かなかった。

何故ならば

 

 

「へぶらっ!!!?」

 

「タッ…タイガァー!?」

 

「嘘…だろ?投げたのはあのシロだぞ!?」

 

「先生アウトー。外野にまわってください」

 

「意外と冷静だな美々!!」

 

「シロ…。あんたまさか…!」

 

 

魔術を使って身体能力を強化しているのでは?

そうクロエは邪推したが

 

 

「失礼ね。そんなズルいことしてないわよ。

これは…そうアレよ」

 

「アレ?」

 

「火事場のくそ力ってやつよ!!」

 

「全然火事場じゃないこんな場面で限界超えないでよ!?」

 

「おのれ、(タイガ)の仇ーッ!!」

 

 

外野にいるイリヤがシロエの覚醒に突っ込んでいたところに龍子が先と同じようにシロエに対しボールを投げるが

 

 

「何…だと?」

 

「かわしたぁ!?」

 

「ま、まぐれだろ!もう一度…!」

 

 

かわしたとは言えボールはそのまま外野へと出てしまったため

初ちゅー隊の攻撃はまだ継続している。

しかし

 

 

「あ、当たらない…だと?」

 

「な、なんで当たらないんだ!?

まるで…そう!こっちが投げる前からかわす動作(モーション)に入っているような…!」

 

(…考えられるのはシロが魔術を使ってることだけど。

それはさっき否定してたし…。うーん…)

 

 

初ちゅー隊だけではなく外野にいるイリヤまでも驚愕する。

そんな中

 

 

「視線」

 

「へ?」

 

 

美遊が何故か解説を始める。

 

 

「おそらくシロは相手の視線や呼吸、筋肉の動きから弾道を予測。

そしてその予測結果から相手がボールを投げる前に動くことにより低い運動能力でも完璧にかわすことを実現している」

 

「それなんて天○の眼(エン○ラーアイ)!!?」

 

○帝の眼(○ンペラーアイ)…?」

 

 

某バスケ漫画のラスボスの能力を再現している妹に対して突っ込みを入れるイリヤだったが

美遊には伝わらず頭に?マークが浮かぶ。

しかし初ちゅー隊にはバッチリ伝わったようで

 

 

「おいおいおい冗談じゃないぞ!?

未来予測とかどんだけ頭いいんだよシロのやつ!!?」

 

(まぁ、バーサーカーの攻撃に比べたら読みやすいし。

使い魔になってからの戦闘経験とかも使ってるけど…。

魔術は使ってないからいいよね)

 

「一体どうすれ」

 

「ほいっ」

 

「ばー!!」

 

 

シロエのかわしたボールを地味にキャッチしていたクロエが

龍子の顔面にボールをぶち当てる。

 

 

「龍子ー!?」

 

「うぉぉノーバンキャッチ!!」

 

「あれ?クロいいの?勝つことになっても…?」

 

「…冷静に考えてみたらイリヤが下になるだけで、わたしには何の影響もないわけだし」

 

「まぁそうだね」

 

「ってわけで勝ちに行くわよ!シロ!!」

 

「……うん!!」

 

 

そして再開するドッジボール

といっても展開自体は一方的であり

初ちゅー隊はどんどん人数を減らしていく。

初ちゅー隊も反撃しようとするもシロエにはかわされクロエには容易く受け止められる。

 

 

「むーーーーっ…」

 

 

そんな二人の様子を外野から頬を膨らませ不満そうに見ているイリヤ

無論シロエの下克上が成りそうだというのもあるが理由はそれだけでなく

 

 

(なによ二人共……。

楽しそうにしちゃって…)

 

 

そう。イリヤの目から見ると二人は笑顔で心底楽しみながらドッジボールをしているからである。

 

 

(『ただ普通の生活をしてみたい』…だっけ?

なら別にわたしたちと同じ学校じゃなくてもいいじゃない。

シロもシロだよ。

いつもなら初対面の子とは打ち解けるのに時間が掛かるくせに。

なんでよりにもよって今回に限っては…)

 

 

はーっ。と溜め息を吐くイリヤ

そこに

 

 

「乗っ取られますよ」

 

 

イリヤの髪に潜んでいたルビーが顔を出す。

 

 

「いっ…いたのルビー!?」

 

「イリヤさんの髪に潜むのは極めましたよわたし」

 

 

周りの子に見られないように慌ててイリヤは自身の体でルビーを隠す。

 

 

「やる気がないのはいただけませんねーイリヤさん。

生活が順調に侵食されてきてるというのに見てるだけとは」

 

「う…、うううう…」

 

 

ルビーの言葉に汗をかき追い詰められていくイリヤ

そして

 

 

「それにこのまま行きますとクロさんにシロさんの姉という立場も取られちゃいますよ?」

 

「!?」

 

 

その言葉でイリヤの表情が固まる。

 

 

「おっと話してる間に…」

 

「あいたっ!」

 

「雀花ちゃんアウトー」

 

 

イリヤとルビーが話してる間にいつの間にか戦況は加速していた。

 

 

「くそおぉぉ!

なんでウチのクラスのカタカナ苗字はみんな強いんだ!?

学力極振りのシロだけはいけると思ったのに!!」

 

「酷くない!?これまでも周りがアレだっただけで体育は別段普通だったけど!?」

 

「まずい!内野はもう龍子だけだ!」

 

「嶽間沢流武闘術を今に伝える嶽間沢家の末っ子だけだ!」

 

「見よう見まねで武術を習うも才能がなくててんで弱っちいタッツンだけだぁー!!」

 

「前言撤回!わたしよりも酷い扱いされてる子がいた!!」

 

(不要な個人情報かダダ漏れてる…)

 

 

一人になってしまったからか龍子はあうあうあうと涙目になっている。

 

 

「うおおちきしょーやってやらぁー!!

嶽間沢死すとも初ちゅーは死せ…」

 

 

龍子が特攻を仕掛けようとした時、それを止める手があった。

その手の主は

 

 

「イリヤ…?」

 

「はぁ…」

 

 

龍子が訝しむとイリヤは溜め息をひとつ吐く。

そして

 

 

「選手交代!

タツコに代わって、わたしが戦うわ!

そしてあなたに一対一の一球勝負を申し込む!!」

 

「…はい?」

 

 

姉の突然の宣言にシロエの頭に?マークが浮かぶ。

 

 

「この勝負…乗るよね?」

 

「いや突然どうしたのお姉ちゃ」

 

「ずいぶん横暴だなぁ。うん。

でも、まいいわ。乗ってあげる。

奴隷(舎弟)が増えるだけだもの」

 

「えぇー…。なにこの展開…」

 

「わたしが負けたら好きにすればいいわ。

でも、あなたが負けたら…」

 

 

自身を無視して進む展開にげんなりしている妹を尻目にイリヤは要求を突きつける。

 

 

「学校を出てってもらう!!」

 

((((な、なんか重い勝負になってきたぞ!?))))

 

「イリヤ!あ、あの…」

 

「お姉ちゃん。ちょっと落ち着いて…」

 

 

イリヤの様子がいつもと若干違うことに気づいた美遊とシロエが止めに入ろうとするも

 

 

「ごめんねミユ。ちょっと下がってて。

それとシロ」

 

「ん?」

 

「シロのお姉ちゃんはわたしだけだからね!!!」

 

「???う、うん?」

 

 

突然の姉宣言に頭に?マークが大量生産されるシロエ

そして混乱する妹を余所に

 

 

「…そうだよね。自分の日常は──」

 

 

ボールを右手に持ち

 

 

「自分で、守らなきゃ!!」

 

 

クロエへと投げつける。

 

ズドオッ!!

 

 

「いっ…、たぁ…!」

 

 

クロエはなんとか受け止めるものの痛みに顔をしかめる。

 

 

(なに?この重さ…!?)

 

 

凡そ小学生女子が投げていいボールの重さではなかったためクロエが怪訝に思う。

それこそまるで魔術で強化しているような…!

ってまさか!

 

 

「卑怯とか言わないでよね。

もともとあなた自身が反則みたいなものなんだから」

 

 

そう言ったイリヤの頭にはピョコッと羽が生えていた。

魔法少女へと転身した際にも生えていた羽である。

しかしながら服装は体操服のまま。

即ち

 

 

「(衣装替えなしの転身…!)なるほど全魔力を身体強化にまわしてるのね。

けっこう大胆なことするなぁイリヤってば。

シロもやらなかったっていうのに」

 

「勘違いしないでよね。わたしは相手があなただから使ってるだけ。

いつもの友達が相手ならシロと同じで使おうだなんて思わない」

 

「ま、いいわ。それならこっちも遠慮なく」

 

 

クロエもまた先のイリヤと同じように右手にボールを持つと

 

 

「ぶっ飛ばしてあげる!」

 

 

イリヤへと投げつける。

 

ドバッシィィィン!!

 

アーチャーのカードの力の影響か

凄まじい音を立てて受け止めるイリヤ

風圧で先まで戦っていた雀花達四人の髪がなびく。

 

 

「ふっ…ふふふ…」

 

「フフ…フフフフフ…」

 

 

二人の暗く攻撃的な笑みと共に攻撃はどんどん加速していく。

 

 

((((な…、なんだこの殺戮空間(キリングゾーン)…))))

 

 

一般人の初ちゅー隊がそう評するのも無理はない。

攻撃の速度は天井なしにどんどん加速していき

もはやどっちがボールを持っているのかすらわからない。

一般人ではない美遊とシロエはどうしよう…とばかりにオロオロしている。

 

 

「毎度毎度わたしの邪魔ばっかして…。

だいたいあなた意味わかんないのよ!」

 

「わかろうともしてないくせによく言うわ!

駄々ばかりこねて子供みたい!

それで本当に姉なの!?」

 

「あ、姉の前に子供だもん!

あなただってそうじゃん!」

 

「ほんと幼稚…。それじゃお兄ちゃんもシロも苦労するわ!」

 

「う…、うるさいうるさい!

あんたなんか…」

 

 

恋心を抱いている兄を引き合いに出され

シロエの姉としての尊厳を傷つけられ

イリヤの堪忍袋の緒が切れる。

怒りで涙目になったイリヤはその右手のボールを

 

 

「わたしの偽者のくせに!!」

 

「…っ!」

 

 

今までで最大の力を持ってクロエへと投げつける。

凄まじい音を立ててクロエへと近づくボール。

対するクロエはそのボールを受け止める…でもなく

フラ…と力を抜いた状態でただ立っている。

 

 

「クロ…!?」

 

「…」

 

 

クロエのその様子に美遊は驚き

シロエは神妙な面持ちとなりクロエの様子を見ている。

 

 

「偽者…ね」

 

 

ボールが間近へとなった時ようやくクロエが動き出す。

といっても受け止めるわけではない。

右拳を振りかぶり

 

 

「それはどっちかしら、…ね!!」

 

 

ボールへと叩きつける。

 

 

(跳ね、返し…)

 

 

イリヤの渾身の力を込めたボールは跳ね返され

 

 

「ほぎゃっ…!!」

 

 

イリヤの顔面へとクリーンヒット

イリヤは気を失いそのまま地面へと仰向けに倒れる。

 

 

「イッ…イリヤァァーッ!!」

 

「ちくしょおおおーッ!!

イリヤが負け…」

 

 

途端にざわつき始めるもはや観衆と化した初ちゅー隊

しかし

 

 

「忘れ…てたわ…」

 

 

クロエもまた鼻血を出しながら地面へと仰向けに倒れる。

 

 

「痛覚…共有…」

 

「ク…クロ…!?」

 

「相討ち!!相討ちだ!!」

 

「ノーコンテストだーーーッ!!」

 

「い、いいから早く保健室へ!」

 

「イリヤしっかりしろー!」

 

「頭を揺らさないで!呼び掛けながら慎重に…!」

 

「つーかなんでクロ倒れてんだ!?」

 

 

 

 

 

……

………

 

 

「………。

……ヤ。

リヤ…」

 

 

暗闇の中、自身を呼ぶ声にイリヤは意識を覚醒させる。

すると

 

 

「イリヤ。気がついたか」

 

 

そこにいたのは兄である士郎であった。

 

 

「お兄ちゃん!?」

 

 

場所は保健室

そのベッドに寝かされていたイリヤは飛び起きる。

 

 

「体育の授業中倒れたって聞いてさ。

びっくりしたよ」

 

(あ…アレで気絶しちゃったのか…)

 

「でもたいしたことないみたいだな。よかった」

 

「あ、うん…。心配かけてごめん」

 

「まったく…。顔は大事にしろよ?女の子なんだからさ。

どうする?セラに電話して迎えにきてもらうか?」

 

「い、いいってそんな…。過保護すぎー」

 

 

そんな兄妹の会話をベッドを隔てるカーテン越しに聞いていた美遊

イリヤが無事だったのを確認したからか、それとも士郎に対する沸き上がる感情のせいか、イリヤに話しかけることなく保健室を後にする。

するとそこには

 

 

「…」

 

「…」

 

 

無言で壁にもたれ掛かっているクロエとシロエがいた。

ドッジボールの時とは打って変わり二人の間にとても重い沈黙が流れており、美遊もつられて話しかけることができない。

 

 

「………ごめんね」

 

「…なんであんたが謝るのよ」

 

「だって…、辛そうに見えたから…」

 

「……………そう見えたとしても。

尚更あんたが謝る必要なんてない」

 

 

クロエはシロエの頭をポンポンと撫でると保健室から一人離れる。

その背中はとても寂しそうに見えた。

 

 

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