プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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戦う理由

 

 

「やっぱり学校には来ないかー…」

 

 

登校したイリヤたちは空席となっているクロエの席の前にいた。

無論イリヤにはこれ以上日常を侵食されずに済むという安堵はあったが

それと同時に

 

 

「またどこからかわたしの命を狙ってるのかな…」

 

 

少しびくつきながら射線の通る窓に注意するイリヤ

 

 

「シロもまた間違えられて襲われるかもしれないから気をつけてね」

 

「う、うん…」

 

感覚共有(のろい)がある限り、それはないと思うけど…」

 

「ほんっとアイツってば勝手だし何考えてるのかわかんないわ!」

 

「………それは…」

 

「……イリヤ。クロは」

 

 

言葉のつまったシロエの代わりに美遊がクロエについて話そうとしたその時

 

美遊目掛けて鞄が飛来してきた。

 

その鞄は美遊の顔面に直撃…することはなく

直前でシロエの手刀により床へと叩き落とされる。

 

 

「…ミユ、大丈夫?」

 

「う、うん。ありがとシロ」

 

「い、いったい何…」

 

「うみ"ーーーーー!!」

 

 

美遊の無事にイリヤとシロエが安心していると

鞄が飛んできた方向…教室のほぽ中心にて奇声が上がる。

いったい何が…?

三人が視線を向けると

 

 

「まだか!!夏休みはまだかー!!」

 

「またタツコの発作が出たぞ!!」

 

「もう待ってらんねぇ脱ぐぞー!!」

 

「ヤツを止めろー!!」

 

 

クラスの元気娘である龍子が机の上に立ち発狂していた。

三人がその様子を呆れた表情で見た後

イリヤが龍子へと後ろから近づき

 

 

「タツコ!ハウス!」

 

「ホウ!?」

 

 

龍子の頭に段ボールを被せる。

 

 

「…………」シーン

 

「おっ…おとなしくなったぞ!?」

 

「まさかこんな効果的な方法があったとは…」

 

(……ネコ?)

 

(というかなんで段ボールなんて持ってるのお姉ちゃん)

 

「もう…。なんなのいったい?」

 

 

美々とシロエが心の中で突っ込みを入れてると

イリヤが騒ぎの原因を聞き出す。

尚その後ろにて龍子は段ボールを頭に被りながらじりじりと後退りする。

どこへ行くタツコ

那奈亀がタツコに突っ込む。

 

 

「悪い悪い。ほら、前にみんなで海行こうって言ったろ?

夏休み初日って確かイリヤの誕生日だったよな?

だからその日にあわせて誕生会も一緒にやろうぜって話でさ」

 

「え、ほんと?」

 

 

雀花の謝罪混じりの説明にイリヤの顔が綻ぶ。

 

 

「美遊ちゃんも来てくれるんだよね?」

 

「う、うん…」

 

「わたし、タツコ、ナナキ、ミミ。

イリヤとシロと美遊。

あと──」

 

 

雀花が当日の参加人数を数えていくが

 

 

「クロも入れて八人だな」

 

「え"っ」

 

 

イリヤにとって予想外の名前が飛び出す。

 

 

「ア…アレも呼ぶの?」

 

(アレ呼ばわりはさすがに酷くない?お姉ちゃん)

 

(シロのゴキ◯リ呼ばわりよりかはマシでしょ)

 

(むぐぅ…)

 

「おいおいハブはないだろー」

 

 

やれやれといわんがばかりに雀花が溜め息を吐き出す。

 

 

「まぁいろいろ面倒起こすヤツだけどさ。友達だろ?」

 

「強敵と書いて友だぜ」

 

(いつまで被ってるんだろ。その段ボール…)

 

「取れよ。それ」

 

「今日はクロ休みみたいだな。

まぁ会ったら伝えといてよ」

 

「あー…。そうだね…」

 

 

うーん…。

友達……かぁ…。

 

 

イリヤの煮え切らない返事を

 

 

「………」

 

「………」

 

 

美遊とシロエは静かに見ているのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

授業が終わり時間は放課後

三人が下駄箱から靴を取り出し下校しようとする。

しかし

 

 

(………?何だろこの紙切れ?)

 

 

シロエが下駄箱を開けると紙切れが下駄箱の中に入っていた。

シロエは紙切れを広げてみる。

 

 

(………!)

 

「シロ?」

 

「どうしたの?」

 

 

いつまでも靴を取り出さないシロエを不審に思ったイリヤと美遊がシロエに話しかける。

シロエは紙切れをポケットにしまうと

 

 

「…ごめーんお姉ちゃん、ミユ。

そういえば師匠から頼まれ事されてたのすっかり忘れてたよ」

 

「えっ?そうなの?じゃあ終わるまで待ってよっか?」

 

「…」

 

「ううん。それじゃ悪いから二人は先に帰っててくれない?」

 

「う、うんそう?わかった。行こうミユ」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

……

………

 

 

シュワシュワシュワジジジジジミーンミーンミーン

 

 

初夏

もう少ししたら本格的に暑くなるこの時期

虫たちが元気に鳴き声を発す。

そんな中、小学校帰りの制服姿の少女が鞄を背負い歩く。

言うまでもなくシロエである。

学校の廊下を…ではない。

街中をである。

向かう方角は…海。

 

街中を過ぎ、林の中に入り

それでも歩き続ける。

そして

 

 

「……海、か」

 

 

海の見えるポイントへと辿り着く。

そして今朝の会話を思い出す。

 

 

「…お姉ちゃんやミユ、ミミたち、それにクロも。

みんなで仲良く遊びに行きたいな」

 

「それは無理じゃないかしら」

 

 

シロエの呟いた独り言に否定の言葉が入る。

声の方へと振り向く。

そこにいたのは

 

 

「ちゃんとひとりで迷わずに来れたようね。

えらいえらい」

 

 

無論クロエである。

クロエはアーチャーの赤い外套を身に纏い

海面から突き出た岩場に立っていた。

 

 

「…まあひとりで来てって、手紙に書いてあったからね」

 

「うんうん。一緒に書いた地図も役立ったみたいでなにより」

 

「いや地図は下手で大まかにしか読めなかったけど」

 

「…そして相変わらず一言多いわね」

 

 

唐突な罵倒にクロエが口元を引きつかせる。

 

 

「…なんでわたしを?」

 

「…」

 

「なんでお姉ちゃんでもミユでもなくわたしを呼び出したの?」

 

「そうね。

イリヤはともかく確かにミユかシロかどちらを呼び出すかで迷ったけど」

 

 

クロエは言葉を切ると

シロエの目をまっすぐに見つめる。

 

 

「やっぱり()()()()()わけにはいかないかなって」

 

「?」

 

「ま、とりあえず」

 

 

次の瞬間

シロエの視界からクロエの姿がかき消える。

そして

 

 

「座って話しましょ」

 

 

シロエの後ろに出現したクロエは

これまたいつの間に用意したのか椅子へと

両肩を押さえシロエを座らせる。

しかし

 

 

「あ、ご丁寧にどうも」

 

「………なんていうかこの間もそうだけど、もう少し驚きなさいよ。

まったく…驚かせ甲斐がないわね」

 

 

クロエは文句を言いながら椅子をもうひとつ用意…投影を行い自身も座る。

 

 

「いや結構驚いているわよ?

アーチャーに転移の能力なんてあったかなって」

 

「………ふーん。ところで」

 

 

シロエの発言を聞いたクロエは目を細めながら

 

 

「なんで()()()()()()()はずのアーチャーの能力をあなたが知ってるのかしら?」

 

「!」

 

 

そう。確かにシロエたちは黒化英霊と戦い、勝利することでカードを入手した。

しかしアーチャーとランサーのカードだけは別であり

シロエたちが戦い始める前から既にカードとして手元にありアーチャーとランサーとは戦っていない。

よってその能力についてわかっているのはおかしい。

 

シロエは内心しまったと思った。

完全に失言をしてしまったと

 

 

「……ライダー戦からわかってたことだけどやっぱり一般人じゃないのねシロは。

凛たちと出会う前から魔術(こっち)側の人間だった」

 

 

しかしそんなシロエの内心を知ってか知らずかクロエは続ける。

 

 

「正直ずっと一緒にいたのにとかそういった想いはあるわ」

 

(……()()()()()()()()()()

ということはやっぱり…)

 

「でもそれはいいわ。置いておいてあげる。

だから…」

 

 

クロエはシロエに向かって手を差し出す。

 

 

「わたしの側について。シロ」

 

 

数瞬の静寂の後

 

 

「…なんですって?」

 

 

シロエは眉間に眉を潜めクロエへと聞き返す。

 

 

「シロ。あなたは…気づいているんでしょう?

わたしの正体に…」

 

「!…それは」

 

「そして…気づいた上でリンたちに言わないでいてくれた」

 

「…」

 

「もちろんミユもいずれこっちに引き込むつもり。

でも何より、あなたはずっとわたしを気遣ってくれた。

…正直な話あなたを傷つけたくない。

姉妹として一緒にいたい。

……お願い」

 

 

しかしシロエは

 

 

「………ごめん。それは出来ない」

 

「………そっか」

 

 

クロエは心底残念そうに

そして寂しそうに手を引っ込める。

 

 

「…クロ。きっとお姉ちゃんは深く考えずにあんなことを言っちゃったんだと思うの」

 

 

クロエの説得が失敗に終わり

今度はシロエがクロエを説得しにかかる。

 

 

「自分の言った意味を理解したらもうあんなことは言わないと思う。お姉ちゃんとクロ、二人で冷静に本心から話し合えば」

 

「やめて」

 

 

だがそんなシロエの説得もまたクロエにピシャリと止められる。

 

 

「アイツの弁護なんて聞きたくない。

うっかり零れ出た言葉でもアレがあいつの本心であることに変わりはない」

 

「………クロ…」

 

 

お互いに説得が失敗に終わり

沈黙が場を支配する。

 

 

「………シロ。あんたがこっちに来る気がないならわたしとあんたは戦うしかないわ」

 

「…どうしても?」

 

「くどい。わたしはあんたを殺さないといけない」

 

「それは……敵対したから?」

 

「それもあるわ。でもそれだけじゃない」

 

「それだけじゃ…ない?」

 

「ええ。実を言うとね最初にイリヤを狙った時、シロも殺す対象に入っていたのよ」

 

「…え?」

 

 

つまり………。

お姉ちゃんと見分けがつかないから一緒に狙われたんじゃなくて

私個人にも殺す理由があったと…そういうこと?

 

 

「まあもっと言えばイリヤはメインターゲット。シロはサブターゲットと言ったところかしら」

 

「…それはどうして?」

 

「どうして…ね。簡単に理由を言うなら──」

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしはね、あんたの()()()()()()に用があるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────。

 

静寂

先の気まずい空気とは別の沈黙が場を支配する。

シロエのクロエを気遣う表情が消え失せ

氷のように冷たく、不気味なまでの無表情が顔を出す。

 

 

「………それが何を意味しているのかわかってるの?」

 

「あら?何かしら?」

 

「興味本位で触れていいことじゃないって言ってるのよ」

 

 

ライダー戦にて

シロエはそれを話すくらいならば死を選ぶと明言している。

つまりはそれを聞き出すには最低でも命を賭ける覚悟が必要である。

シロエは暗にそう言っているのである。

しかし

 

 

「…ええ。もちろん興味本位なんかじゃないわ」

 

「そう」

 

 

シロエがそう短く呟いたとほぼ同時に

 

 

「っ!?」

 

 

いつの間に椅子から立ち上がったのかシロエが

民族衣装へと変身しながら一瞬にしてクロエとの距離を潰し

クロエ目掛けて上段より大剣を振り下ろす。

クロエは後ろに跳び回避。

結果クロエが座っていた椅子が真っ二つになる。

 

 

「も~…。イリヤもシロも短気すぎるわ」

 

「…」

 

 

クロエの軽口にシロエは何も返さず

大剣を消し腰の剣を抜剣。

クロエへと斬りかかる。

もはや気遣う素振りなど微塵も残っていない。

クロエは双剣を投影しシロエの斬擊を受け止める。

鍔迫り合いになる二人。

 

 

「なんでそこまで頑なに秘密にしようとするのかしら?

今の日常を維持するため?」

 

「…さあね」

 

「もしそうなら止めておきなさい。

この戦いに何の意味もないわ」

 

「…?」

 

「イリヤは()()()()()()()()()()。そう言ってるのよ」

 

「─────」

 

 

シロエが自身の正体を隠している理由

それは無論、主であるシトナイのためである。

下手に魔術師などに伝わってしまった場合には、シロエだけに事は収まらず最悪シトナイにもその手が伸びてしまうかもしれない。

それだけはなんとしても避けなければならない。

故に情報の漏洩を防ぐために誰にも何も言わずにいた。

 

よってクロの日常の維持という推測は間違っている。

そう。間違っている、はず。

なのに……………。

 

『お姉ちゃんはわたしを受け入れない』

 

その言葉を聞いたシロエの胸は何故かズキリと酷く痛んだ。

 

 

「…せいっ!」

 

「!?」

 

 

クロエの言葉に隙が生まれたシロエの剣をクロエは弾き返す。

シロエが僅かに後方へと吹き飛ぶが、すぐに体勢を立て直し着地する。

 

 

「………いったい…なにを、言って…」

 

「……可哀想なシロ。

あいつの言った言葉の意味を()()()()()では理解してはいなかったのね。

わたしが受けた傷ばかりを気にして…」

 

「本当の…意味?」

 

「いえ、理解したくないだけなのかしらね。

ほら思い出して。

昨日イリヤが言った言葉。

イリヤの望みを」

 

 

お姉ちゃんの望み……。

それは───

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ピーマン抜きでお願いします!」

 

 

一方その頃衛宮邸

シロエより一足先に帰宅したイリヤは

食堂の椅子からキッチンにて晩御飯を調理中のセラに対し自身の苦手なピーマンを抜くように要求していた。

 

 

「ピーマンの肉詰めからピーマンを抜いたらただの肉でしょう」

 

「肉でいいじゃない肉で!シロだっていやだって言うかもしれないじゃない!」

 

「却下です!大体シロさんが嫌いなものはタマネギやニンニクでしょうに」

 

 

※犬にタマネギやニンニクは有害です。

シロエは擬人化により影響はありませんが決して真似しないようにしましょう。

 

 

「あとはカフェイン系やぶどうとかも(※くどいようですがこれらも有害)ダメでしたか。最終的には全部食べてもらいましたけど。

シロさんが頑張っている以上イリヤさんにも頑張って食べてもらいます!」

 

「う~…。(涙目のシロに無理矢理食べさせてたくせに~)」

 

 

……

………

 

 

「はぁ…。世の中思い通りにはいかないね…」

 

 

自室へと戻ったイリヤは鞄を床に降ろし

溜め息を吐きながらベッドに腰を下ろす。

 

 

「ピーマンくらいのことで世の中語られましてもー」

 

「いやピーマンじゃなくて」

 

「クロさんのことですか」

 

「……」

 

 

ルビーに悩んでいたことをピタリと言い当てられたイリヤは言葉に詰まる。

思い返すは雀花の

 

『まぁいろいろ面倒起こすヤツだけどさ。友達だろ?』

 

という言葉。

 

 

「……みんなはなんだかんだでもう友達だって思ってるんだよね」

 

「純粋かつ単純でいい子たちですねー」

 

 

イリヤは仰向けにベッドへと寝転ぶ。

 

 

「誕生会かー…。呼んだらアイツ来てたのかな」

 

「何を終わったことみたいに言ってるんですか。

今からでも誘ってあげればいいでしょう」

 

「居場所もわからないのにー?」

 

 

イリヤは左手をひらひらさせ

 

 

「アイツが今どこにいるのか。

正体がなんなのか。

何を考えているのかも。

ぜーんぶわかんないよ」

 

 

さもお手上げかのように言う。

かと思えば上半身を起こし

 

 

「あれちょっと待って?

わたしの誕生日ってことは設定上アイツも誕生日とかそういう…」

 

「うーんそうですねー。

不可解な存在ではありますが…。

クロさんが昨日怒った理由は、わかる気がしますよ」

 

「えっ…?」

 

「というかシロさんもその辺りは気づいていたみたいですけどねー」

 

「シロも…?」

 

 

イリヤはシロエの今日の様子を思い出す。

そういえば何かを言いたそうにしていたと、そのように思う。

それに下駄箱で別れた時も…

 

 

「イリヤさん言いましたよね。

『元の生活に戻りたい』って」

 

 

昨日のクロエが怒る直前

凛から自らの望みを聞かれ

あまり深く考えずにそんなことを言ったことをイリヤを思い出す。

 

 

「それってクロさんに消えろと言ってるのと同じではないですかね?」

 

「!ちがっ…」

 

 

ルビーから自身の発言した意味について諭され咄嗟に否定しそうになったが

 

 

「………」

 

 

違う…。とは言えない……かも

 

 

「そうだねそれじゃ確かにアイツが怒るのも当然…」

 

 

イリヤが自身の発言の意味を知り反省していると

 

 

「いえ、それは理由の半分かと」

 

 

ルビーからその発言には更にまずい部分があったと指摘される。

 

 

「半分?」

 

 

そう。その半分まではシロエも理解していたことであった。

しかしもう半分については気づかなかった。

いや、本能的に避けてしまっていた。

 

 

「そう。…拡大解釈かもしれませんが、それは──」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「イリヤは言ったわ。『元の生活に戻りたい』

それは、つまり」

 

 

場面は戻り

クロエがシロエに対し

イリヤの発言の意味について語っていた。

そして

 

 

 

 

 

「わたしたち全員の出会いを否定したのよ」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いたシロエの頭の中で何かが崩れるような音がした。

 

 

「イリヤの生活が変わってしまったのは

リンやルビー、ミユたち…所謂『魔術と関わった人達』と出会いそれに関わってしまったからよ。

出会いがなければ、わたしがこうして存在することもなかったでしょうね」

 

 

しかしそんなシロエの心情など知らず…いや知った上でクロエは畳み掛ける。

 

 

「魔術の世界は狂気と妄執渦巻く血塗れの異界(せかい)

…イリヤも無意識でそれを感じ取ってるのかもね。

だからその象徴たるわたしを避けようとする」

 

 

足元が崩れていく感覚がする。

お姉ちゃんが戦線を離脱した時と同じ…いや、今はそれ以上に寒い。

 

 

「『元の世界』…。

それは魔術世界と関わりのなく、わたしはもちろんミユやそして…シロ、あなたのいない生活のことよ」

 

 

そんな中クロエがシロエの方を見る。

 

 

「…いえ。正確に言うならイリヤが求めてるのは魔術と関わりのない『普通の』妹。

そしてそれはシロ、あなたじゃない」

 

 

その目はどこまでも憐れみで満ちていた。

 

 

「…酷い話よね。本当に。

あれだけ必死に、文字通り身を削ってまでイリヤを護り続けていたのに…。

………ねぇ」

 

 

クロエが転移を行いシロエのすぐ背後に現れる。

 

 

「そんなイリヤとの日常を守ることに意味なんてないでしょ。

シロは───、なんのために戦うの?」

 

 

そして更にシロエを揺さぶる。

あわよくばこちら側へと引き入れるために。

 

 

「なんの……ために……?」

 

 

シロエの身体は震え、その言葉もまた震えていた。

 

そうして思い返すはバーサーカー戦。

バーサーカー相手にミユと一緒に戦い

そしてピンチになった時

お姉ちゃんが助けに来てくれて

わたしは胸の奥が暖かくなった。

次の日の朝、お姉ちゃんは恥ずかしがっていて

わたしも本当は少し恥ずかしくて、ついふざけちゃったけど

まるで本来の…魔術と関わりのあるわたしであっても受け入れてくれたみたいで………暖かった。

 

 

 

 

 

でも

 

それらが全て

 

わたしの勘違いだった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………ふん。

 

 

 

 

 

「それが、なに?」

 

 

 

 

 

ゴォアッ!!!!!

 

圧倒的なまでの冷気の渦がシロエを包み込む。

突然の出来事を前にクロエはシロエから距離を取る。

 

 

「たとえあなたが正しくて

お姉ちゃんがわたしを拒絶しても構わない」

 

 

───もしも。

もしもこの場にいたのがミユだったのなら…。

それでもお姉ちゃんのために戦っていたのかもしれない。

けれど……わたしには

 

 

「わたしには()()()()()よりも絶対に、命を捨ててでも護らなきゃいけないものがあるんだから」

 

 

胸が酷く痛む。呼吸もしにくく苦しい。

わたしの中のなにかが悲鳴を上げている。

けどそれがどうした。そんなものは全て無視する。

それこそ他人事のように───。

 

 

「わたしがあなたと戦う理由?そんなの──」

 

 

冷気の渦が晴れる。

そこには

 

 

「あなたがわたしの()()に触れようとした。

ただそれだけよ」

 

 

両腕を白熊の腕へと変貌させたシロエがいた。

 

その姿を見たクロエは当然驚いた。

しかしその驚き以上に胸を占める感情があった。

それは

 

 

「そう…。()()()わ。シロ」

 

 

『哀しみ』であった。

 

 

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