プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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アインツベルン

 

 

ああ…。

そうだった…。

ママはこんな人だった…。

 

 

母親によって気絶させられたイリヤが

過去の記憶にあるアイリを思い出す。

 

 

やさしくていつも楽しそうに笑ってて

何があっても動じないけど…

 

 

ある時は暑いからとイリヤ達子供三人にホースを向けるアイリ

蛇口は勿論全開

イリヤ達三人は唐突に水浸しになった記憶

 

 

基本いい加減で大ざっぱでノリだけで動いてて

 

 

ある時は買い物中、鼻唄を歌いぶんぶんと買い物袋を振り回すアイリ

振り回す度、卵やトマト、豆腐などの食品が袋から飛び出し

同行していたセラ、イリヤ、シロエで必死に地面に落ちるギリギリでキャッチした記憶

 

 

突然現れてはその場の空気をぶち壊す…!

 

 

またある時は久しぶりに家族全員が揃った食卓にて

セラが作った鍋を囲んでいたが

野菜が少なくなってきたからと

野菜を切らずにまるごと鍋へとぶちこんだ記憶

 

 

今回も一番ややこしい時に現れてもーーーー!

いつもいつもママは…

 

 

そしてまた違う記憶がイリヤの頭の中に蘇るが

 

 

(……あれ?)

 

 

それは覚えのない…知らない記憶だった。

場所は今の民家とは似ても似つかない豪華な一室。

イリヤはそのベッドにて寝かされている。

そして室内にはイリヤの他にも二人の人間がいた。

それは

 

 

(ママ…?)

 

 

「────を捨てることになる。どういう意味かは君が一番…」

 

 

(おとーさん?)

 

 

「わかっています。その上で天秤を傾けたの。

もう…決めたことだから」

 

 

(ここどこ?なんだか豪華な部屋…)

 

 

身動ぎしたからか自身の手が視界に入る。

その手は

 

 

(うわっ、ちっちゃい手!)

 

 

「私に選択肢を与えてくれたのは貴方。

なら…イリヤにそれをあげるのはきっと私の役目だわ」

 

「…八ヶ月の生命が千年の悲願に勝るとはな」

 

 

(こっ…これ…わたしの手?)

 

 

その小さな手を見て

自身が本当に産まれて間もない赤ん坊の頃の記憶だと理解するイリヤ

しかし

 

 

(なに…?

こんな記憶…。わたしにはない)

 

 

「おかしいかしら?」

 

「どうかな…。けど

きっと間違いじゃ……ない」

 

 

(これって)

 

 

「さぁイリヤ。

おねむの時間よ」

 

 

アイリが寝かされているイリヤの横へと立つ。

切嗣と話しながら少しずつこちらへと近づいていたのだ。

そして

 

 

(もしかして)

 

 

「次に目覚めた時、あなたは生まれ変わるわ…」

 

 

(クロ(あいつ)の───)

 

 

アイリの手が眼前へと迫り

イリヤの視界は真っ暗になった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

お風呂から上がったシロエは

まだまだ目新しい自宅の廊下を一人歩いていた。

リビングへの扉を通り過ぎ

 

 

「───シロちゃんが笑ってくれない?」

 

 

ようとしたその時

自身の名前がリビングから聞こえ足を止める。

 

 

「うん……。いつもおにいちゃんのうしろにかくれてて、はなせなかったんだけどね…」

 

「うん」

 

「おにいちゃんがね、よーじをおもいだしたってどこかにいっちゃって…」

 

(……気を使ってくれたのねシロウ…)

 

「それでふたりになって、はなすんだけどね」

 

「…うん」

 

「ちゃんとへんじはしてくれるんだけど……。ぜんぜんわらってくれなくて………。

わたし…きらわれてるのかな……?」

 

 

イリヤの涙声がシロエの耳に届く。

 

 

「…うーん。そんなことないと思うわよ?」

 

「え…?」

 

「だってシロちゃん、私と話している時も笑わないもの」

 

「そう…なの?」

 

「うん。孤児院…えーと、家に来る前にいたところでもそんな感じだったもの」

 

 

そのやり取りを聞いていたシロエは目を伏せる。

イリヤのことが嫌いというわけではない。

しかし……。

イリヤの顔を見てるとどうしてもシトナイや『イリヤ』のことが頭に過ってしまい

結果どう接していいかわからなくなってしまうのである。

 

 

「…どうすればわらってくれるのかな?」

 

「うーん…。もう少し待っててあげてくれないかな?」

 

「まつ?」

 

「うん。きっと家に来たばかりでまだ緊張してるのもあると思うから」

 

「きんちょーって?」

 

「あー…。えーとね…」

 

 

そしてシロエは気づかれないうちにリビングの扉から離れていった。

 

 

 

 

 

図書館

シロエは椅子に座り本を読んでいた。

題名は『笑顔の作り方』。

およそ五歳児が読むべき本ではないため周りが奇異な目を向けてくるがそんなものは気にしない。

あの後試しに自室の鏡に『笑顔』というものをやってみたのだが

 

 

「………怖い」

 

 

どうやっても威圧的な獰猛な笑顔しか出来なかったのである。

それもそのはず

『笑顔』など前世において獲物に対して威圧する目的でしか使っていなかったからである。

無論マスターからもらった知識にもそんなものがあるはずもない。

よって仕方なく図書館にて関連書籍を検索し片っ端から読んでいるのである。

 

 

「笑顔を自然と作るにはコミュニケーション…人との会話が重要…。

……会話の仕方がわからない」

 

 

シロエは本を閉じ、椅子から立ち上がりまたしても本を探す。

数分後

別の本…『コミュニケーションの大切さ』を手に取り同じように読んでいるシロエの姿があった。

 

 

「会話を円滑に行うには…まずは相手の趣味に合わせた会話を行うこと…。相手が理解できない話は厳禁。

イリヤの趣味…好きなものは、アニメ…」

 

 

イリヤがTVアニメを食い入るように見ていたことを思い出すシロエ

ページをめくる。

 

 

「冗談を言ったりふざけたりすることにより場の空気を柔らかくし相手が話しやすい空気を作り出す…」

 

 

先の情報と合わせてシロエは思案する。

 

 

「アニメのキャラクターの言動をそのまま真似ればイリヤも話しやすい…?」

 

 

更にページをめくる。

 

 

「……時には怒り、反目し合い対立することも重要…?」

 

 

対立………敵?

敵なら殺さないといけないけど……。

 

 

使い魔として戦っていた時の経験からか

すぐに物騒な方向へと思考が行ってしまうシロエであったが

 

 

「………よくわからない。とりあえず置いておこう」

 

 

シロエは本を閉じ、片付けると図書館を後にした。

 

 

 

 

 

帰宅したシロエはイリヤの好きなアニメのDVDを片っ端から見ることにした。

そして自身の頭の中にどんどん記憶していく。

 

 

「……ケンカしてる。これが対立…?」

 

 

TVの中でキャラクターが喧嘩している様子を見るものの

なぜそれが必要なのか理解できないシロエ

 

 

「よくわからないけど必要なら………ある程度まで話せるようになって

イリヤの様子を観察しながら実践していくべきかも」

 

 

そうして一通り見終わる頃には数週間が経っていた。

 

 

「…一通り記憶できた。

会話はこれでなんとかなる…はず。…でも」

 

 

シロエには一つ懸念があった。

それは

 

 

「この言動を再現しても自然と笑える…?」

 

 

答えは否であるとシロエは思った。

ならどうするか。

 

 

「なにか……見本とかあればいいのに」

 

 

その時シロエの頭にある考えが浮かんだ。

見本ならあるじゃない。

うってつけなのが

それもすぐ身近に

 

 

 

 

 

数ヶ月後

 

 

「シーロー。あーそーぼっ!」

 

 

姉からの遊びの誘いに

 

 

「…うん!」

 

 

笑顔で答えているシロエの姿がそこにはあった。

 

会話の内容のほとんどはイリヤが理解できるように好きなアニメのことを

言動は普段はマスターを基にして柔らかく、時々ふざける時にはアニメの中のキャラクターを模倣し

そうやって距離が縮まったら時には反発して取り返しがつくくらいの喧嘩を行う。

取り返しがつくかどうかの判断はイリヤの価値観によるため、イリヤの様子を常に確認しながら一線を越えないようにする。

 

そして笑顔は……イリヤの笑顔をそのまま模倣した。

イリヤの笑顔の際の顔の筋肉の動きを観察、記憶として保存。

その後鏡の前でミリ単位でイリヤの笑顔を再現、調整する。

 

そうしてイリヤの不安を消し去ることに成功したシロエ。

しかし言動全てが計算ずくであり

『笑顔でいなければならない』という強迫観念のもとに造られた

ハリボテである笑顔を貼りつけただけのシロエの心は

 

 

常にどこか虚ろであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

(…………)

 

 

クロの記憶を垣間見ていたイリヤが

意識を覚醒させその瞼を開く。

しかし

 

 

(………ん?)

 

 

妙に息苦しい。

というよりここは……。

 

水中であった。

 

 

「んばーーーっ!!」

 

 

イリヤはその息苦しさから急ぎ水上へと浮上する。

そして

 

ザッパァ!

 

 

「「「はーっ…はーっ…」」」

 

 

イリヤだけではなく

クロエとシロエもまた今水上へと浮上したのか

イリヤの両隣で息を荒く吐く。

三人共に全裸であった。

 

 

「こ、ここは…?」

 

「…ルヴィアさんの家の大浴場…みたいだよお姉ちゃん」

 

「大浴場?なんで…」

 

「それはまあどう考えても…」

 

 

イリヤの疑問に対してシロエが答えようとした時

 

 

「おはよう。二人のイリヤちゃんにシロちゃん」

 

 

この状況へと持っていった件の人物

 

 

「お湯だけど頭は冷えたかしらー?」

 

「なぜお風呂に…」

 

「裸の付き合いってやつね」

 

 

アイリが姿を現す。

そしてその隣には美遊もいる。

二人はタオルを身体に巻いている。

 

 

「ママ……。

あなたって人はまたこういう突拍子もないことを…」

 

「頭が冷えた…というか温度差に頭がついてこないわ…」

 

「っていうかわたしに関しては気絶する前に頭は冷えたって言った気が…」

 

 

どこまでもマイペースを貫く

母親に子供達が次々に苦言を呈す。

 

 

(…家出一日で帰ってくるハメになるなんて)

 

 

クロエが自身が破壊した壁を見ながら内心溜め息を吐く。

尚、クロエとシロエが戦闘中に負った怪我や傷はアイリが治療したのか全て綺麗になくなっていた。

 

 

「なんだかママがいない間にずいぶんとヘンなことになってたみたいね。

だいたいのことはミユちゃんとステッキちゃんから聞いたわよー」

 

「ゲロっちゃいました」

 

「ごめんイリヤ、シロ…」

 

「仕方ありません」

 

 

アイリがルビーの羽をうにうにと弄りながら話す。

 

 

「はーもう…。

友バレに続き親バレとか…」

 

「………」

 

(……お姉ちゃんの魔法少女化は前に帰ってきてた時には気づいていた疑惑があるけど)

 

 

イリヤが給湯口となっている像の台座に頭をゴンとくっ付けながら愚痴り

クロエとシロエはアイリに猜疑的な目を向ける。

しかし

 

 

「というわけで……」

 

 

アイリはその視線を無視しホワイトボードを持ってくる。

ホワイトボードには

 

 

「『おしえて!アイリママ』のコーナー!

子供たちからの質問に何でも気分次第で答えるわよー」

 

 

そしてそのホワイトボードを

 

 

「そい」

 

(入れた!)

 

(入れた…!)

 

(入れちゃったよ…)

 

 

浴槽の中へザボンと入れる。

そしてアイリもそのまま浴槽へと浸かる。

 

 

「…………なら聞くわママ」

 

 

イリヤを意を決したかのようにアイリに話しかける。

 

 

「ん?」

 

「…」

 

「…前みたいにごまかさないでちゃんと教えて。

知りたいの。

わたしは…()()?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「…まさか母親が来るとはね」

 

 

場所は変わり書斎

メイド服姿の凛と眼鏡をかけ読書をしているルヴィアがそこにはいた。

 

 

「強引な人だったわ…。とりあえず大浴場に案内したけど」

 

「まぁクロを捕まえてくれたことには感謝ですわね」

 

 

感謝していることは本当である。

しかし今は

 

 

「あの方、魔術師?」

 

「…イリヤとシロの家のこと調べたわ」

 

 

そして凛が調べたことをルヴィアへと報告する。

 

 

「シロに詮索しないと言った以上正直調べるのに気は引けたけど状況が状況だし…。

……()()()()()()()()()()()()わけだけど。

イリヤの大きすぎる魔力容量。

シロの理解不能な完成度の高い魔術。

魔術の名門出でもないとおかしいわよね」

 

「では名門だったと?

けどアインツベルンなんて名前は…」

 

「調べるのに苦労したわ。

アインツベルン──。

表向きはドイツの古い貴族。

でもその本体は…どの協会にも属さず他家との関わりの一切を絶った単一の魔術一族よ。

魔術体系も方式も一切不明。

その歴史は…千年を超えるらしいわ」

 

「イリヤスフィールとシロエはそこの娘?

だからシロエはあんな魔術を…」

 

 

そこまで言いかけてルヴィアは気づいた。

おかしい、と

しかしそれを口にする前に

 

 

「…それだけど。イリヤは確かに正真正銘アインツベルン家の娘だったわ。

でもシロは違う。シロは五年前この国の孤児院からアインツベルンに引き取られたみたいなの」

 

「───は?」

 

 

凛からその報告を聞いたルヴィアは思わず口をポカンと開ける。

 

 

「待って。待ちなさい。それだと尚更…」

 

 

凛とルヴィアが何を問題としているのか。

元来魔術師が養子を取るのは珍しいことではない。

魔術とは一子相伝。

親から子へと脈々と魔術を教導することにより、その家系の魔術師は存続されていく。

それに例外はない。

故に重要になるのは子供の魔術の資質。

魔術を受け継ぐには才能が必要であり、その才能目当てで魔術師は養子を取るのだ。

よってアインツベルンが養子を取るのもおかしくはないのだが

 

 

「…ええ。それだと()()()()()()()()()()()()()のはおかしい」

 

 

そう。養子を取るのはあくまで実子に魔術の才能がなかった場合の話である。

イリヤの魔術容量を考えるにとてもではないが才能がなかったとは思えない。

いや、そもそも魔術の才能を調べるのにも魔術に触れているはずなのだ。

 

 

「…イリヤスフィールが嘘をついていた…?いや、しかしそんな様子は…」

 

 

これでも二人は魔術師名門の当主なのだ。

だからこそ断言できる。

イリヤスフィールと出会った時のあの反応

魔術の世界を軽く見ていたあの反応は完全に一般人のそれだと

 

 

「…イリヤに隠れてシロに魔術を教えていた。

…っていう可能性もないでしょうね」

 

 

イリヤとシロエの二人はいつも一緒だったと凛は聞いていた。

シロエのあの魔術の完成度を見るにとてもではないが隠れながら修得していたらあの完成度にはならないだろう。

更に言えばイリヤに秘密にする理由がない。

 

 

「…となると残る可能性は一つしかないわよね」

 

「……まさか」

 

「シロの魔術の修得に()()()()()()()()()()()()()()()

イリヤとシロ。二人には一般人としての教養しかしていなかった。

それしかないでしょう」

 

「そんな…。ではいったいどこで…」

 

 

そうなってくると怪しいのは…

 

 

「ちなみに孤児院も至って普通。

魔術師の魔の字も出てこなかったわ。

もっと言えば赤ん坊の頃に孤児院に預けられたみたいよ」

 

「それでは魔術を修得した時期も場所も全部不明ではありませんの!?」

 

「ええそうよ。ぜーんぶ不明。

アインツベルンについて調べたけどシロに関してはわからないことが増えただけね」

 

 

だから詮索しないという契約を結果的に破らずに済んだのだとルヴィアは理解する。

何もわからなかったのであれば調べなかったのと一緒なのだから…。

 

 

「まあそもそもアインツベルンも十年くらい前からほとんど活動してないみたいよ。

噂ではなにか大規模な儀式を起こそうとしてたらしいけど」

 

 

凛がシロエのことは一先ず置いておき

アインツベルンについて続けて報告する。

 

 

「まぁ事実を知るはイリヤとシロのママ(あのひと)のみね。

シロのことももしかしたら何か知ってるかもしれない。

とは言え聞いたところで教えてくれるわけ…」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「…つまりね」

 

 

場所は戻り大浴場

 

 

「聖杯戦争。

…あなたはそう呼ばれる儀式の(かぎ)となるべく生まれたの」

 

 

件のイリヤとシロエの母親のアイリがその大規模儀式について説明していた。

 

 

「聖杯…」

 

「戦争…?」

 

 

美遊の目が驚愕で見開き

イリヤが困惑し

クロエは目を閉じて静かにその説明を聞いていた。

そしてシロエは

 

 

(………ミユ?)

 

 

美遊の反応に訝しんでいた。

 

ミユは聖杯戦争の単語を聞いて驚愕していた。

そう。()()していた。

普通、そんな聞いたことのない単語を耳にしたのならお姉ちゃんのように困惑する。

けど、驚愕したということはその単語に聞き覚えがあって

この場面でそれが出てきたということにミユは驚いてる。

 

シロエには美遊の反応がそのように見えた。

それはつまり─────と

 

 

「イリヤにはある程度の範囲で『望んだことを叶える』力があるわ。

いくつか覚えがあるんじゃない?

それは願望機としての機能の一作用よ」

 

 

シロエが美遊について考えている最中にも話は続いていく。

 

 

「そうよ。わたしはそのために生まれた。

生まれる前から調整され続け

生後数ヶ月で言葉を解しあらゆる知識を埋めつけられたわ。

なのにあなたはそれを封印した。

機能を封じ、知識を封じ、記憶を封じた」

 

(やっぱりあの夢は…)

 

 

クロエの言葉を聞き、イリヤは先に見た夢の内容を思い出す。

正に封じる瞬間であったあろうあの記憶を

 

 

「普通の女の子として生きる?

それもいいわ…でも

どうしてわたしのままじゃいけなかったの?」

 

 

クロエがその激情に拳を握りしめる。

 

 

「すべてをリセットして1からやり直しなんて都合が良すぎる。

でも誤算だったわねママ。

封じられた記憶はいつしかイリヤの中で育って()()()()()()()()

そして──ついに肉体を得たわ。

だからわたしは…居場所を得るためにイリヤとそして」

 

 

クロエはシロエを睨み付ける。

 

 

「シロを狙った」

 

「──え?」

 

 

今の今までシロエはイリヤと間違えて襲われていたのだと思っていたイリヤが困惑の声を上げる。

 

 

「な、なんでシロを…?

わたしだけならまだわかるけどなんでそこでシロが出てくるの!?」

 

「決まってるでしょ。それはシロが…わたしという聖杯を奪われた後にアインツベルンが私の情報(データ)を基にして()()()()()()()()()()だからよ」

 

「「!!?」」

 

 

クロエのその言葉を聞いたイリヤと美遊が驚愕に目を見開き急ぎシロエの方を見る。

 

 

(シロが…わたしを基に新しく造られた聖杯!?)

 

 

しかしシロエはただ無表情でその視線を受け止める。

 

 

「……なんでそう思うの?」

 

「魔術に対する深い知識!

それを扱う圧倒的な才能!

そして聖杯(わたし)と寸分違わない全く同じ顔!!

ここまでの条件が揃っていて全て偶然で済ませられるわけないでしょ!!」

 

「で、でもシロは孤児院から連れてきたってママもお兄ちゃんも…」

 

「そんなの魔術で記憶を弄ればいくらでも辻褄を合わせられる!

…ママに関しては共犯かもしれないけどね」

 

 

記憶を弄って辻褄を合わせる。

一見すると強引に思えるクロエの主張だが実際はそうでもない。

というのも魔術師が起こした大規模事件を隠蔽したりする際、魔術師が一般人に対してよく使う手法だからである。

そしてそれをアイリ達が行ったとそう言っているのである。

 

クロエは言い募るとシロエと一緒にアイリも睨み付ける。

しかしアイリは無言でシロエの方を見る。

シロエがどういう返答をするのか待っているかのようであった。

そしてそのシロエはというと目を閉じ眉一つ動かさない。

先のクロエの言葉に対して深く思案している。

そのようにイリヤ達には見えた。

そしてゆっくりと目を開け

 

 

「……どうしてわたしまで殺そうと思ったのか。

疑問に思っていたのだけど、そういうわけね」

 

「…ええ。あなたがいる限り、わたしはアインツベルンに帰れない。受け入れてもらえない。だからわたしは」

 

「クロは馬鹿だね」

 

「なっ!」

 

「勝手に一人で結論を出して先走っちゃって。

わたしのことなんてなに一つ知らないくせに…ね」

 

 

妹からの突然の罵倒にクロエは言い返そうとするが

その後に続いた言葉に押し黙る。

 

 

「…知ってるわよ。だってイリヤとシロは…わたしとシロはずっと一緒にいたんだから」

 

「……………知ってるというならこれからわたしが言うことも嘘かどうかなんてすぐにわかるよね?」

 

「は?いったい──」

 

「聞きなさい。特別に教えてあげる」

 

「…何?」

 

 

そしてシロエが宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしはここのアインツベルン本家とは一切関係性はない。

聖杯なんてないし、足を踏み入れたことすらない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────。

静寂が場を支配する。

 

 

「これは…嘘じゃ、ない」

 

 

シロエはそう締めくくる。

 

 

「…わかった?

だったら必要ない殺意も無駄な詮索も止めなさい」

 

 

……………どういうこと?

シロは聖杯のことを知っていた。

アインツベルンのことも知っているはず。

アインツベルンだけならまだしも聖杯のことまで知っているのなら、アインツベルンの関係者に決まっている。

さらにはわたしと同じ容姿にあの魔術…。

それら全てを考慮して出した結論だった。

だから、理屈の上では今の宣言は当然嘘ということになる。

なのに

今までシロと過ごしてきた経験が、直感が叫んでいる。

今のシロの言葉に嘘や虚言は一切ない…って

けど、それならシロの秘密って一体……

 

 

そして美遊はシロエの

 

『ここのアインツベルン本家とは一切関係性はない』

 

という言葉に引っ掛かりを覚えた。

もっと言えば『()()()』という部分に。

まるでこことは違うアインツベルンを知っているように聞こえる。

 

(こことは違う…つまりこの世界ではない。

イリヤと同じ顔。でも血の繋がりはない)

 

そうして思い出すは自身の兄と瓜二つだったイリヤとシロの兄。

 

(………………まさか)

 

その二人の関係と同じ。即ち

 

(わたしと同じ………違う世界からの……!?)

 

そこまで考えた美遊であったが

 

(でも…それだとあの腕は一体…。いやそもそも…)

 

それだけではシロエが戦闘中に見せていたあの腕についての説明がつかないことに気づいた。

それになによりも

 

(シロと約束したんだった。互いに詮索はしないって…)

 

 

クロエと美遊がシロエの発言について思考していると

 

 

「……シロちゃんの言ってることは多分本当よ?

アインツベルンの本家の記録を見たけど

シロちゃんの製造記録なんてどこにもなかったもの」

 

「!」

 

「……やっぱり調べたのね。ママ」

 

「ええ。聞かないって…言ってくれるのを待つとは言ったけど、調べないとは言ってないからね。

…ダメだったかしら?」

 

「…………ううん。別に構わないわ」

 

 

どうせわたしが言わない限りはわかりっこないだろうしね…。

そうシロエは心の中でつけ加えた。

そしてアイリの言葉を聞いたクロエが

 

 

「…いいよ。完全に納得はできてないけど呑み込んであげる。

そして…普通の生をイリヤに歩ませるなら、それもいい。

けど…シロの件がわたしの誤解だったっていうなら

わたしには魔術師としての生をちょうだい。

わたしをアインツベルンに帰して!」

 

 

そんなクロエの願いは

 

 

「アインツベルンはもうないわ」

 

 

無慈悲にも容易く砕かれる。

 

 

「………え?」

 

「もうないの。

もう…聖杯戦争は起こらないわ」

 

 

アイリの言葉を聞いたクロエの目から光が完全に消える。

そして

 

 

「なに…それ……。それじゃ…」

 

 

クロエの感情に比例し

 

 

「クロ…!?」

 

「…」

 

「わたしの居場所はどこにあるのよ!!」

 

 

凄まじい量の魔力が吹き出し始める。

 

 

「全部奪われた!全部失った!

何も…何も残ってない!」

 

 

魔力が浴槽の湯を巻き上げ

周囲をその圧倒的な魔力により威圧する。

 

 

「クロ!やめて…!」

 

「…」

 

 

美遊がクロエに呼び掛けるが

シロエは何も言わない。

というよりも言えない。

今のクロエの状態からこれほどの魔力を放出すれば

この後どうなってしまうのかわかっている。

しかし

 

(わたしはクロを…殺そうとした)

 

そんな自分が今のクロエに何を言えばいいというのか。

そして、その他にも……胸の中に渦巻く様々な思いからシロエは何も言えずにいた。

 

 

「イリヤさん危険です!転身を…」

 

 

ルビーがクロエを危険だと感じ転身を進めるが

 

 

「…………」

 

「イリヤさん!?」

 

 

イリヤは強い眼差しで魔力と共に感情を吐き出すクロエを見る。

 

 

「なんてみじめで無意味なの。

誰からも必要とされてないなんて。

こんな…、こんなことなら最初から…っ」

 

 

クロエが感情を爆発させていると

 

ドクン

 

胸の内から響く大きな心音と共に

目の前の視界がぶれる。

そして

クロエの身体が光と共に融け始めた。

 

 

「そっか…。使い過ぎちゃったか」

 

 

自身の崩壊していく両手を見ながら

クロエは覚る。

 

 

「な…」

 

「…っ」

 

魔力(いのち)が切れたわ」

 

 

美遊が驚き

シロエが顔を歪める中

クロエは全てを諦めたかのように考える。

 

あっけないな。

こんなことならやっぱり

あそこでシロに殺されてた方が意味があったかなぁ…。

しょせんニセモノの存在。末路はこんなものか。

あーあ…。

結局わたし

何がしたかったんだろう…。

もう、鼓動も、聞こえ…

 

正に今にもクロエが消える。

その瞬間であった。

 

 

「─────え…?」

 

 

イリヤが消え行くクロエに対して唇を重ねたのは

顔を赤らめ口をポカンと開ける周囲の一同

 

 

「(魔力…供給?)どうして…」

 

「勝手に──。勝手に出てきて

勝手にきえないでよ!」

 

 

魔力の放出が完全に鎮まり

身体の崩壊が止まる。

唖然とした表情でイリヤを見るクロエ

 

 

「……正直言うとね。

ママの話を聞いても、わたしあんまりショック受けてないんだ。

おかしいよね。

自分が魔術の道具として生まれてきたなんて…。

世界観が変わっちゃうくらい大変なことなのに」

 

「…………」

 

 

イリヤの独自をアイリは無言で聞いていた。

 

 

「でもわたしが平静でいられるのはきっと…。

()()が傷ついているから」

 

(名前…初めて呼んで…)

 

「わたしが負うはずだったものを

あなたが代わりに負ってくれてたんだ」

 

 

そして

 

 

「……ごめんね」

 

 

イリヤの目から涙が溢れた。

 

 

「今だけじゃなくて昔からずっとそうだったんだね」

 

 

クロエの目にも涙が溜まる。

しかしその時

クロエの身体が再び崩壊を始める。

 

 

「!?どうして!?魔力は供給したのに…」

 

「……供給ではダメなんです。

崩壊は止まりません…!」

 

 

ルビーの言葉に慌てるイリヤ

 

 

「もういいわ…。

消える時に泣いてくれる人がいるなら意味はあったわ」

 

 

クロエの全てを諦めたような言葉に

 

 

「………っ!!

こんな時まで強がらないでよ!!」

 

 

イリヤが噛みつく。

 

 

「意味とか無意味とかそんな理由で決めないで!

欲しいものがあるんでしょう!?

だったら…願ってよ!

()()()()()()()()()()…!」

 

 

イリヤの涙を流しながらの訴えに

 

 

「わたし…は…」

 

 

クロエの押し殺していた願いが溢れだす。

 

 

「家族が欲しい」

 

 

兄である士郎や妹のシロエの姿が思い浮かぶ。

 

 

「友達が欲しい」

 

 

一番の友達である美遊の姿が思い浮かぶ。

 

 

「なんの変哲もない普通の暮らしが欲しい……でも

それより、何より」

 

 

そして

 

 

「消えたくない…!

ただ

生きていたい…!」

 

 

クロエの涙まじりの声に

聖杯が、応えた。

 

その時一条の光がエーデルフェルト邸から上空へと立ち上った。

 

 

 

 

 

……

………

 

 

「…こうしてクロも消えずに済んでめでたしめでたし、かぁ」

 

 

大浴場

誰もいなくなった浴槽に浸かりながら

シロエは呟く。

 

 

(結局お姉ちゃんが全部解決しちゃったなぁ。

うん…本当に強くなった。

………わたしなんてもういらないんじゃないかってくらいに)

 

 

最初はクロを引き止めるつもりだった。

でもクロがわたしの秘密を…わたし(マスター)のことを知りたがっていると勘違いして

わたしはクロを…殺そうとした。

視野を狭めて頭の中を殺意で埋め尽くして。

しかも最終的には殺せなくて……。

 

 

「………ホント。わたし、何やってるんだろ」

 

 

そうシロエが呟いた。

その表情は誰も見たことのない物憂げな表情をしていた。

その時

 

 

「シーロちゃん♪」

 

「っ!?ひゃあっ!?」

 

 

後ろからアイリが話しかけシロエが変な声を上げる。

そして

 

 

「びっ、びっくりしたぁ。

もうっ。急に話しかけないでよママ」

 

 

シロエのその表情はいつも通りの感情豊かな表情となっていた。

 

 

「あはは。ごめんごめん」

 

「…っていうかお姉ちゃん達と一緒に上がったんじゃないの?」

 

「んー。シロちゃんと一緒でもう少しゆっくり浸かろうかなって」

 

「………ふーん」

 

 

アイリがシロエの隣へと移動し湯に浸かる。

 

 

「………わたしのこと調べたのね」

 

「……ええ」

 

「他に何かわかったことってある?」

 

「そうねー。シロちゃんの身体がイリヤちゃんと同じ()()()()()()()()()()()()()()()()()で出来てるっていうことくらいかしら?」

 

「……健康診断の時の血液採取から割り出したのね」

 

「ええ。後は部屋に落ちてた髪の毛からかしら」

 

 

突然のアイリの爆弾発言にも関わらずシロエは動揺せずに話を進める。

 

 

「それなのにアインツベルン本家の製造記録にはわたしのことなんて一切書かれていない。

よくそれで追い出そうと思わ」

 

「ニコォ」

 

「……な、なんでもないです」

 

 

先のおしおきの恐怖が残っているシロエは震えながら発言を撤回する。

 

 

「…でも、ありがと」

 

「ん?」

 

「さっきの局面でそれを言ってたら

多分クロはわたしのことを信じなかったと思うから」

 

「んー。そんなことはないと思うわよ?」

 

「え?」

 

「シロちゃんは何も知らないくせにって言ったけど

知らなくても嘘を吐いているかどうかなんてすぐにわかるわよ。

…だって家族なんだから」

 

「……………」

 

 

シロエが言葉に詰まっていると

 

 

「他には?なにか言いたいことってある?」

 

 

アイリが話題転換をする。

しかしその言葉の裏から出来れば自身のことを話してほしいという願望が詰まっているとシロエは感じた。

 

 

「……そうね。ママの望んでることじゃないだろうけど」

 

「うん?」

 

「聖杯戦争」

 

 

アイリの表情が若干ではあったが固まる。

 

 

「ここ最近で聖杯戦争が起こったとか若しくは起こりそうだとか

そういったことってある?」

 

「……?

さっきも言ったけどアインツベルンはもうないの。

だから聖杯戦争なんて起こってないし起こらないわ」

 

「…そう」

 

 

シロエがそんなことを聞いたのには当然理由があった。

クラスカードである。

聖杯戦争における七つのクラスが表示され英霊の力が宿っているカード。

しかもその英霊は『イリヤ』の参加した第五次聖杯戦争と同じ英霊。

とてもではないがカードが聖杯戦争と無関係だとは思えない。

しかし

 

 

(おそらくだけど聖杯戦争止めるために世界中を飛び回ってるアイリが言う以上

本当に起こっていないのでしょうね)

 

 

ならばあのカードは一体…?

そこまで考えた時

ふと、シロエの頭の中に美遊が平行世界から来たのではないかという予測をかつて立てていたことを思い出した。

結局その時は最低でも魔法に至るレベルの知識が必要であるため、そんな簡単にできるはずがないという結論に達したが

 

 

(あのカードがこの世界ではない違う世界のものだったとしたら…?)

 

 

少なくともアイリの話には辻褄が合う。

そしてミユの方も…。

 

 

(ミユが聖杯戦争の勝利者で聖杯の力を使ってカードと一緒にこの世界にやってきた…?

確かにそれなら可能かもしれないけれど…)

 

 

だけど、一つだけおかしな所がある。

それはミユが一人であったということ。

ミユには家族が…少なくとも兄が一人いるはず。

その兄を置いて一人で…?

そんなことする理由が思い浮かばない。

いやそもそも何故世界の移動を…。

そこまで考えてシロエは

 

コツン

 

自身の頭を軽く叩いた。

 

 

「ど、どうしたのシロちゃん?」

 

「う、ううんなんでも…」

 

 

聖杯戦争について考えていたはずなのに

いつの間にかミユについて思考しちゃってた…。

詮索しないと約束したのに。

 

……………うん。まあもういいや。

どっちにしてもわたし(マスター)を裏切る思考をしちゃったわたしはもう……

 

 

「………シロちゃん」

 

「……………」

 

「シロ!!」

 

「!な、なにママ」

 

「あのね…。出来れば話してほしいの。

シロの抱えているものを全部」

 

 

それを聞いたシロエは訝しむ。

今まで直接聞いてくることなんてなかったのに

何故今になって…と

 

 

「…話してくれる気になるまで待ってくれるんじゃなかったの?」

 

「ええ。その方がシロの負担が少ないかなって思ったから。

でも今のシロを見てると…」

 

 

そして心の底から心配そうな顔でシロエを見る。

 

 

「話す前にその抱えているものに押し潰されちゃいそうな気がするの」

 

 

シロエはアイリの言葉を静かに聞くと

 

 

「……………お風呂先に上がるね」

 

 

浴槽から立ち上がる。

それは

アイリの優しさに甘えないという意思表示であった。

 

 

「…シロ。今まであなたがイリヤのことを気遣って常に笑顔でいてくれてたことを私は知ってる。

それだけじゃない。時には怒ったりしてイリヤに不安を感じさせないようにした。

でもね…」

 

 

立ち上ったシロエに対して

アイリが諭すように話す。

 

 

「あなたは哀しんだことはない。

私達に弱音を吐いてくれたことは今まで一度もない。

強がることはもちろん大事よ。それも一つの強さだし。

だけどそれだけじゃダメなの。

それだけだといつかどうしようもなくなる時が必ず来る。

それだけは…忘れないで」

 

 

そして

 

 

「……………ありがとう。ママ」

 

 

そのままアイリの横をすり抜け

大浴場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダメ、だったかぁ」

 

 

一人残されたアイリが呟く。

思い返すは先のシロエの表情

それは

 

 

「やっぱりシロの心を開くことができるのは──」

 

 

今にも消えてしまいそうな儚い表情であった。

 

 

 

 

 

……

………

 

 

ガチャ

 

場所は変わりエーデルフェルト邸の一室

その部屋の扉が開かれる。

 

 

「お風呂ありがとう。

とてもいいお湯だったわ」

 

 

そうしてに入ってきたのはお風呂上がりのアイリ。

後ろから同じくお風呂上がりのシロエと美遊の二人がなんとも言えない表情で後を着いてくる。

そんなアイリにメイド服姿の凛が応対する。

 

 

「イリヤとシロがいろいろとお世話になっていたみたいね。

今度必ずお礼はするわ」

 

「いえお気遣いなく…。

イリヤたちを巻き込んだのはこっちの方ですし」

 

 

凛はそう返すと

この場にいない今回の事件の中心と言っていい二人

 

 

「それで…イリヤとクロは?」

 

 

イリヤとクロエについて言及する。

 

 

「ああ、そのことなんだけど───」

 

 

 

 

 

……

………

 

 

アイリが事の顛末を凛に伝え

場所はさらに変わり衛宮邸

 

 

「「「─────」」」

 

 

士郎、リズ、セラの三人が驚愕で口と目をこれ以上ない程開ける。

というのも

 

 

「というわけで

今日から一緒に暮らすことになったクロエちゃんです」

 

「よ…、よろしく…」

 

 

イリヤに瓜二つの女の子がシロエとは別にもう一人

家族として紹介されたからだ。

 

 

「イリヤの従妹だって?」

 

「は、初耳なのですが!」

 

「細かい気にしないのー」

 

 

士郎とセラの異議を

柔らかい笑みで一蹴するアイリ

 

 

「しかしそっくりすぎるぞ?

シロといい、やっぱり隠し子」

 

パァン!

 

「ぶべらっ!?」

 

 

シロエも含めて二人共に隠し子では?

という士郎の勘繰りはセラの張り手でかき消される。

 

 

「あはは…」

 

「お兄ちゃん…」

 

 

イリヤとシロエの二人はその様子を見て苦笑いする。

 

 

終わってみれば簡単なこと──

こうしてクロはわたしたちの家族になった。

本当にわたしは…わたしたちはバカだったなぁ。

最初からこうしてればよかったんだ。

でも──心残りは、ある。

 

 

イリヤはシロエの方をチラリと見る。

その顔はクロエが士郎達に受け入れてもらえて嬉しいのか笑みを浮かべていた。

 

 

シロ……。

クロの推測が間違っててくれたのにはホッとしたけど

なんだかんだで結局話してはくれなかったなぁ。

あそこまで怖がるシロなんて初めて見たけど

今はもう元に戻ってるみたいだし…。

また、ミユと同じようにいつか話してくれる日を待てばいいよね?

 

これからも多分いろいろ苦労するだろうけど

きっとなんとかやっていける…よね。

クロ、シロ?

 

 

 

 

 

しかし

イリヤは知らなかった。

この日の妹への対応の選択を

後悔する日が来ることを───

 

 

 

 

 

それはそうと

 

 

(不必要にお兄ちゃんには近づかないでよね……)

 

 

士郎に対して恋慕の視線を向けるクロエに闘争心を燃やすイリヤであった。

 

 

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