「ふあー…ふぅ」
朝
衛宮邸にて少女の欠伸が響く。
欠伸の主は
「…クロ。凄い欠伸だけどちゃんと寝た?」
「寝たわよー。…ちょーっと遅くなっちゃったかもしれないけど」
「…具体的に何時なの?それ」
「秘密ー」
クロエの就寝時間が気になったイリヤであったが
教えてくれなかったため仕方なくスルーする。
そしてそのまま廊下を歩きシロエの部屋の前を通りすぎようと
ガチャ
した時シロエの部屋の扉が開かれ
シロエが部屋から出てくる。
「「あっ…」」
クロエとシロエの視線が交わると同時に言葉が被る。
そして
「「………」」
二人は沈黙する。
「えっ…えーっと。おはようシロ」
「…うん。おはようお姉ちゃん」
空気に耐えきれなくなったのか
イリヤがシロエに挨拶し
シロエはいつも通りに返す。
しかし
「………」
「………」
クロエとシロエは二人共に無言のままである。
そして
「……おはよ」
「……おはよ」
クロエが気まずそうに挨拶をすると
シロエも同じように返す。
そして
「………」
シロエは無言のまま
逃げるように一人で下へと降りていった。
「…うーん」
そんな二人の様子に
頭を抱えたくなるイリヤであった。
…
……
………
「シロとクロがぎくしゃくしてる?」
時間は進み学校の休み時間
イリヤは美遊へと
クロエとシロエの様子について相談していた。
「うん…」
クロエが士郎達に受け入れてもらえた当日こそ嬉しそうだったシロエであったが
その笑みとは裏腹にクロエに対してどこか接しづらそうにしており
同じ家に住んでいるにも関わらず、出来る限りクロエを避けているようにイリヤには見えた。
そして、それを受けてクロエもシロエに対してぎくしゃくした対応を取ってしまっていた。
「原因は…言うまでもなくアレだよね」
「うん。多分だけどあの戦いの所為かなって…」
あのクロエとシロエの戦いから数日が経ったが
未だに戦う前のあの仲が良かった関係性に戻れていないのであった。
「…でも戦いになった理由ってクロの勘違いが原因だったんじゃ…?」
そう。そもそも戦いになった理由はクロエがシロエへの聖杯ではないかという勘違いが原因である。
「ならもう二人が戦い合う理由なんてないんじゃ?」
「うーん。そうなんだけど…。
やっぱりあんな風に戦った手前、二人共どうしても気まずいみたい」
あんな風に…。
殺意を漲らせたクロエと狂気に陥ったシロエ
その二人が互いを罵り合いながら醜く殺し合っていた様子…。
戦いから数日が経った今でも鮮明にイリヤ達は思い出せていた。
「……確かに気まずくなるかも」
「…だよね。だからねミユ」
「うん?」
「ちょっと相談なんだけど──」
…
……
………
時間はさらに進み放課後
「はあ…」
シロエは下駄箱に一人
溜め息を吐きながら靴を取り出していた。
あれからというもの
クロエと顔を合わせづらいシロエは
図書室などで時間を潰しわざと下校時刻遅らせていた。
その結果クロエだけでなくイリヤや美遊とも一緒に帰ることはなくなっていた。
「なにやってんだろわたし……」
いや
クロのことだけじゃない。
そもそもなんでわたしはまだ───
「シロ」
「ひゃっ!?」
考え事していたシロエの背後より
突如声がかかりシロエは変な声を上げる。
急いで振り返るとそこには
「ミ、ミユ?お姉ちゃん達と帰ったんじゃ…」
「シロを待ってた」
「わたしを…?えっ、こんな時間まで?」
時間は放課後になってから一時間近く経っていた。
故にシロエは訝しんだのだが
「うん。最近シロと一緒に帰れてなかったから…」
「ミユ…」
自身と帰るためだけに残ってくれていた美遊に対し
感謝と申し訳なさでいっぱいになるシロエ。
さらに言えば最近は一人で帰ることが多くなってきたため
「ありがとう…。じゃあ帰ろっか」
美遊の申し出をシロエは素直に受け入れる。
「うん…。でも」
「ん?」
「寄りたいところがある。
…少し付き合ってほしい」
「え?う、うんいいけど」
美遊からそういった提案をするのは珍しいため
少し面食らうシロエであったが
深く考えずあっさり了承する。
…
……
………
通学路から少し外れた道
その道を美遊とシロエの二人が歩く。
「…ミユ」
その道すがらシロエが美遊に話しかける。
「ん?」
「この間は…ごめんね」
「?」
「怖い思いをさせちゃって」
その言葉で美遊は思い至る。
クロエとの戦闘中、シロエの様子が豹変したあの事を言ってるのだ、と
「ううん。わたしは別に…」
「もう…大丈夫だから」
「シロ…」
そのシロエの言い方に
状況こそまるで違うがイリヤとシロエの兄と会ったばかりの自身の様子と少し似ている気が美遊はした。
故に
「…うん。わかった」
美遊もまたあの時のシロエと同じように
何も聞かずにその言葉を受け入れる。
「…うん」
「…」
「…ミユ、ありがとう」
その美遊の対応に感謝しながら
シロエは美遊と一緒に歩くのであった。
…
……
………
「…シロ着いたよ」
「え?ここって…」
美遊が立ち止まり、それに倣いシロエもまた立ち止まる。
その場所は
「ショッピングモール…?なにか買い物でもするの?」
「…う、うん」
「そっか。じゃあ行こっか」
シロエはそう言い
ショッピングモールの中へと移動しようとするが
「……ミユ?」
「…」
美遊はその場から動こうとしない。
訝しむシロエ
「いったいどうし…」
「あーっ!?」
シロエが動かない美遊に話しかけようとした時
聞き慣れた声…イリヤの声がシロエの耳に届く。
「?お姉ちゃ…」
反射で声のする方向へと振り向こうした時
ピシリとシロエの動きが固まる。
何故ならそこには
「ミユ!シロ!」
大好きな姉と
「…」
現在凄まじく顔を合わせにくい姉
その二人がいたからだ。
「二人も買い物ー?」
「う、うん。奇遇だねイリヤ」
「そっかー。こんな偶然もあるものなんだね!」
「「…」」
「これはみんなで買い物するべきだよね!うん!!」
目の前で繰り広げられる茶番に
クロエもシロエと同じように連れてこられたのか
二人の目がどんどん白くなっていく。
(この行き当たりばったりな──)
(──頭の悪そうな計画を立てるのは)
クロエとシロエの視線が
首謀者であろう自身の身内へと注がれる。
「な、なに二人共?こっちをじっと見て…」
「…」
「…」
「グ、グウゼンダヨ?ホントダヨ?」
「イリヤ…」
イリヤの片言に美遊の顔がひきつる。
「…帰る」
「ちょっ!?シロ帰っちゃダメ!」
「シロエ おうち 帰る」
「E○みたいに言ってもダメ!!」
自転車のカゴに乗った地球外生命体の如く片言で喋りながら
腰にしがみついてくる姉を引きずり帰ろうとするシロエ
「いやホントに待って!
騙し討ちみたいになっちゃったのは謝るから!!
ね!?」
引きずられながらも必死に妹を引き止めようとするイリヤ
さらに
「シロ。帰っちゃ、ダメ」
「…ミユ」
美遊に手を握られ
シロエはようやく動きを止める。
しかし
「…わたしがいたら空気が悪くなると思うんだけど」
未だに帰ることに未練があるのか
どうにかイリヤと美遊を説き伏せようとする。
「そんなことない!」
「うん。シロがいてくれた方がうれしい」
しかし二人には全く通じない。
そこで
「…そもそもクロだってわたしと一緒にいるのは嫌でしょうに」
クロエに同意を求め人数差を埋めようとする。
ここ数日、只管にクロとの接触を避けてきた。
だからクロはわたしに対して良い印象を持っていないはず
そうシロエは思いクロエに話を振ったのだが
「…わたしは別に構わないわ」
「!?」
予想外の返事が届き
目を見開くシロエ
「ほらクロもいいって!
これで三対一!シロも買い物に行くことに決定!!」
「…多数決って残酷だよね。
少数派の意見を有無を言わさず抹殺する。
まさに人類史における悪しき慣習」
「あーあー、聞こえなーい。
そんな後ろ向きな意見は聞こえなーい」
シロエの多数決に対する批判を
イリヤは耳を手で塞ぎ聞かなかったことにする。
「もー。いいから行くよ!」
イリヤは妹の手を引き
クロエと美遊と一緒にショッピングモールの中へ
「…そもそも何を買いに行くの?」
入ろうとしたが
シロエの疑問に足を止める。
「…イリヤ。あんたまさか」
「イリヤ…?」
まさかのノープランでは…?
とクロエは若干呆れた表情で
美遊は不安そうな表情で
それぞれイリヤを見る。
「…ノ、ノートとか買い足しに」
「それだったらみんなで来る必要なくない?」
「………なにか美味しいものでも」
「あと少ししたら晩御飯なんだけど」
「……………ふ、服とか」
「そもそも海に行く予定があるのに
お金使っちゃっていいの?」
どうにか即興でプランを組み立てようとするも
シロエとクロエの二人に悉く潰される。
そんな中
(海…)
会話の中で出てきた『海』の単語に
美遊は反応する。
「あーもうっ!!
じゃあどうすればいいっていうのよ!?」
「えー…。それをわたしに聞いちゃう?」
「うわぁ…、逆ギレ。
イリヤの計画性のなさが原因なのに…」
(そもそもシロとクロがぎくしゃくしてるのが原因じゃん!?)
「っていうか思いつかないなら帰っちゃえば」
「だからそれはダメだってば!!!」
「あ、あの!」
三人は言い合いをやめ
割り込んできた美遊に目を向ける。
「あの、ね。それなら──」
…
……
………
そうして美遊の提案でやってきたのは
「水着の下見かぁ。
そういえば見に行こうって話してたっけ。
その後の怒濤の展開ですっかり忘れてたよ…。
ごめんねミユ」
「う、ううん。最近本当にいろいろとあったし…」
「「…」」
いろいろとは言うまでもなくクロエの件である。
それがわかっている件のクロエと
美遊の提案故に逆らえないシロエの二人は何も言えなくなっている。
「よ、よーし。じゃあみんなで見て行こうか!」
無言でかつ微妙な表情の二人を引っ張るように
イリヤが先導して水着を見ていく。
そうして見ていくこと十分後
「クロはどんなのにするの?」
「うーん。そうねぇ。
やっぱり男を悩殺するようなセクシーなやつかしら」
「悩さっ!?」
クロエから不穏な言葉が飛び出し
イリヤは顔を赤らめる。
そしてそれと同時に嫌な予感がしたイリヤは
「…ちなみに誰を?」
「そんなのお兄ちゃんに決まってるじゃない」
「よーしいずれクロとはゆっくりと話をする必要がありそうだね」
イリヤはクロエに威嚇にも似た視線を送るも
クロエはそれをスルーし水着を見続ける。
イリヤは溜め息を吐き
「はぁ…。シロは?」
「わたしは…これかな」
「これは…」
イリヤは妹の手に取った水着を見て顔をひきつらせる。
なぜなら
「いや、スク水じゃん!?」
シロエの手にあるのは
何の変哲もない真っ黒な上下が繋がっている水着であった。
しかし
「スク水じゃないよ。競泳用水着だよ」
「大して変わらないよ!?」
「そんなことないよ。
競泳用水着を着るだけでタイムが縮むんだよ?
性能を見ればこれほど有意義な買い物はないと思う。
…100分の数秒程度だけど」
「性能じゃなくて見た目で決めようよ!?
後小さく付け加えたけど本当に気持ち程度じゃん!?」
「でも高いんだよねー。一番安いので二万円」
「にまっ…!?
………っていうか」
妹の持つ水着の値段に驚愕しつつも
それ以前の問題点を指摘する。
「なんで二人共そんなに離れて水着を見てるの…?」
「「…」」
「ほらクロこっちに…」
「競泳用水着なんて見るだけ時間の無駄じゃない?」
「じゃ、じゃあシ…」
「わたしにクロが選ぶようなセクシーな水着を着ろ、と?」
「……………あーーーーーーっ!!!もうっ!!!!」
ここまで頑なな二人に
自宅での様子も含めとうとうイリヤがキレる。
「二人共いい加減にしてよ!!!
あれはクロの勘違いだったんでしょ!?
二人が敵対する理由はもうないじゃない!!!」
「イ、イリヤ落ち着いて…」
美遊に宥められ
イリヤは息を少し切らしながら
「お願いだから…仲良くしてよ…」
若干涙声で二人に懇願する。
二人が戦うことになった大元の原因はクロエによる勘違いである。
しかし引き金を引いたのはイリヤの不用意な一言だった。
故にイリヤには二人の現在の関係に罪悪感を抱いていた。
「「…」」
クロエとシロエはイリヤの様子を見た後
互いに顔を見合わせる。
が、気まずそうにシロエはすぐに顔を背けてしまう。
その様子を見たクロエは溜め息をひとつ吐き
「シロは、さ…。わたしと家族になるのは嫌?」
「………そんなことない」
気まずそうにしながらもクロエの問いをなんとか否定するシロエ
「クロがママやお姉ちゃん達に受け入れてもらえたのはうれしい。
本当に………うれしかった。でもね………」
「…わたしに勘違いされて襲われたのが許せない?」
「違う…違うのクロ。
わたしは…」
シロエはクロエと目を合わせることができずに続ける。
「わたしはクロを……殺そうとした」
シロエのその言葉に場は沈黙する。
その沈黙を破るようにイリヤが
「で、でもそれはクロの勘違いが原因で…」
「勘違いする要因となったのはわたしが…わたしの素性を話そうとしなかったから」
シロエを庇おうとしたイリヤであったが
他ならないシロエによりそれは一刀両断される。
「…殺そうとしたことは悪いと思っている。謝るべきだとも。
でも、わたしは未だに『それ』を話そうという気は………ない」
シロエは僅かに逡巡したが
ない、と断言する。
「…根本の原因となった事柄を話す気はないのにただ許してほしいっていうのは都合がよすぎる」
「それ、は…」
イリヤは妹がなぜクロエにあんな態度を取ってしまっていたのか理解し押し黙ってしまう。
しかし
「だから…。だからわたしは…」
「いいよ。許す」
当のクロエから予想外の言葉があっさりと飛び出す。
「……………は?」
「許すって言ってんのよ」
「なん、で……。わたしはクロを…」
「それを言っちゃったらわたしだってシロを殺そうとしたじゃない」
「でもそれはわたしが」
「そりゃもちろん話してくれないのは寂しいけどさ。
確認もせずにあんたを追いつめたわたしにも否はあるのは確かでしょ」
「で、でも…」
「あーもーっ!でももへったくれもない!!」
いまだに言い淀む妹に対し
クロエは頭にチョップを落とす。
「痛あっ!?」
「ほら!罰がほしいって言うならこれでおしまい!
妹の仕出かした事の一つや二つ許してあげれなくて何が姉よ。
…だいたいあんたは真面目過ぎるのよ。
ここは普通にわたしの所為にしとけばいいって言うのに…」
「クロ…」
その言葉にシロエはようやくクロエの顔を見る。
そして
「ごめん…なさい…」
「…うん。わたしもごめんね」
二人が謝り合い今までの気まずい空気が霧散したことを感じたイリヤは笑顔を浮かべていた。
ようやく元に戻ったと
しかし
「本当に…ごめん…。
話せない分わたしに出来ることがあればなんでもするから…」
シロエのその発言により
「ん?今なんでもするって言った?」
流れがおかしな方向へと変わっていく。
「…?う、うん言ったけど。
あ、いや待った。嫌な予感がするからやっぱり今のなしで」
「却下。自分の発言には責任を持たないとね」
「い、いやでも罰ならさっきのチョップで許してくれるって…」
「確かに許したわよ。
でも…それはそれ。これはこれ」
凄まじく嫌な予感がするシロエはどうにか回避しようとするもクロエはそれを許さない。
「前々からやってみたかったことがあったのよねー」
「ク、クロ!わたしたち姉妹だよね!妹にそんな酷いことしないよね!?」
「知らないのシロ?姉は妹をいくら弄んでも許される生き物なのよ?」
「なにその横暴な権限は!?」
「…ねぇクロ。その…あまり変なことは…」
「変ってなによ?」
「例えばその…魔力供給…みたいな」
イリヤが魔力供給の件を思い出し
さすがにそれは妹の教育的にも止めなければ
と思いクロエに忠告するが
「あ、それもいいかもしれないわね」
「クロ!?」
「冗談よ冗談。
ほら、ついてきなさい」
「う、うぅ…」
実際、後ろめたさは確かにあるため
シロエはクロエに抵抗せずについていく。
その姿はまるでドナドナされる子牛のようであった。
…
……
………
万が一のことを考えイリヤと美遊も同行し
ついた場所は
「…ヘアアクセサリーコーナー?
それにこれは…試着用サンプル?」
「前々から思ってたのよねー。
イリヤと顔が似てるのは仕方ないにしても髪型くらい変えたらどうなのって」
クロエが右にまとめた自身の髪を弄りながら言う。
「い、いやでも…ずっとこの髪型だし今さら」
「あー。確かにそれはあるかも」
「お姉ちゃん!?」
ストッパー役だったイリヤがあっさりと了承し
シロエが悲鳴を上げる。
「まあまあ。思ったよりもマシな要求でよかったじゃない」
「うっ…。そ、それはそうだけど…」
「うん…。わたしも試しにならやってみてもいいんじゃないかなって思う」
「……ホント多数決って残酷よね」
美遊も賛成してしまいシロエに逃げ場がなくなり
渋々了承する。
「よーし。じゃあまずは…」
クロエがヘアゴムを手に取り
シロエの左側の髪をまとめていく。
「できた!どう?わたしとお揃いよ」
イリヤが髪をまとめず
シロエは左をクロエは右をそれぞれ髪をまとめることで
さらに三つ子感が増していた。
しかし
「………却下」
「!?
なんでよ!?」
「だって名前の件といいこれじゃわたし
クロのパチモンみたいじゃない!」
「気にしすぎよ!誰もそんなこと思わないわよ!」
「わたしもそう思うけど…」
イリヤがクロエに同意し
またしても多数決の暴力に呑み込まれそうと感じたシロエは
「…仮にそうだとしても。今度はクロとの区別がつきにくくなるでしょ」
「あー…。それは一理あるかも」
「ぐぬぬ…」
イリヤが中立になったことにより
クロエが悔しそうに歯ぎしりする。
「じゃあそういうシロは何かあるんでしょうね?」
「えっ。うーん…」
シロエは数瞬考え込んだ後
左側のヘアゴムを外す。
そしてもう一つヘアゴムを手に取ると
両サイドの髪の先端へとくくりつける。
まあつまりは
「っていうか戦闘の時と同じでよくない?
二人とも被らないし」
主であるシトナイと同じ髪型ということで
シロエもこれならと乗り気ではあったが
「「却下」」
二人の姉から同時に否定される。
「!?
ど、どうして!?」
「戦闘時と同じとかつまらないじゃない」
「つまらないとかそういう問題!?」
「わたしも。
日常と戦闘とでちゃんと分けてもらいたいというか…。
ごっちゃにしてほしくないかな」
「むむむ…」
イリヤからそう言われ
渋々ではあるがシロエは受け入れヘアゴムを外す。
「でもじゃあどうしろっていうのよ…」
げんなりするシロエ
とそこに
「ミユ?」
「…今度はわたしがやってみていい?」
「う、うん。もちろんいいけど…」
美遊まで参加するとは思っていなかったため
シロエは少し驚いたがすぐに了承する。
そうして美遊が手に取ったのはヘアピン。
黒色で細長の簡素なヘアピンである。
それを四つ取り出すと
二本一組にしシロエの両サイドの髪にそれぞれ取り付ける。
ただし先のように髪の先端ではなく
上部…それも二本のヘアピンを✕印にし。
そして
「…できた」
「………あのー…。ミ、ユ?」
「うん。かわいいと思う」
「いや確かにかわいいとは思うけどこれは…」
シロエがなぜ言い淀んでいるのか。
それは
「………ねぇあれって」
「………うん。どこからどう見てもご○うさのチ○だよね」
シロエの髪と目の色も含めて
某木組みの町在住の喫茶店の娘にしか見えないのである。
妹キャラ(?)であるため尚のことである。
「ミユはこのこと…」
「知らずにやってると…思う」
美遊による完全な善意による行動に困り果てているシロエ
それを見ながらイリヤと話していたクロエの脳裏に閃光が走る。
「…ねぇシロ」
「?どうしたのクロ?」
「ちょっと耳貸して」
「?」
訝しむ妹の耳に口を近づけ
クロエはある命令を出す。
それを聞いたシロエは顔を赤くさせ
「やだ!!絶対やらない!!!」
「あれー。なんでもやるって言わなかったかしら」
「い、言ったけど!限度ってものが…」
「じゃあやっぱりわたしと同じ髪型を…」
「それもやだ!!!」
「あーもー。わがまま言わずにどちらか選びなさい!!」
「う、うう…」
「この命令が終わったらさっきの発言はチャラにしてあげるから…ね」
「ううううううぅぅぅぅぅぅ」
いったい何を命令したのか。
イリヤと美遊が止めるべきか悩んでいると
シロエが顔を上げ
顔を赤らめ
涙目かつ上目遣い。
自身の身を守るかのように両手を胸の前に持ってきて
途轍もなく恥ずかしそうにか細い声で
「お姉ちゃんの……ねぼすけ」
──────。
時が止まる。
シロエは心底恥ずかしかったのか
顔をこれ以上なく真っ赤にし俯く。
何だこのかわいい生き物。
「こ、これは……。
命令したわたしが言うのもなんだけど凄い破壊力ね…」
(シ、シロかわいい…!)
クロエがその破壊力に戦慄し
元ネタを知らない美遊ですら友達であるシロエのそのかわいさに理性を失いかける。
そう普段冷静な美遊ですら…である。
即ち
「シ、シロォォォォォーーーーーーーッ!!!」
イリヤが我慢できるはずがない。
イリヤは勢いよく妹に抱きつく。
「あうっ。お、お姉ちゃんなにを…」
「わたしにも!!わたしにも言って!!!」
「はぁ!?絶対にやだ!!もうやらない!!!」
「言うまで離さないよ!!!!」
イリヤの目はグルグルと渦巻き
鼻息も荒く、妹を万力の如く抱き締める。
梃子でも動かない。そういう印象を与える。
「だってわたし、お姉ちゃんとは約束してないもん!
やる義理がないじゃない!!」
「いいから言うの!!今すぐに!!!」
「いーやーだー!!!」
もはや誰が見ても正気を遠くへと放り投げていた。
完全にスイッチが入ってしまっている。
「そうだ!!カフェ店員の服…はないから。
代わりにミユのメイド服を着せて」
「それをやったらもう絶対に口を利かないからね!!?」
…
……
………
時間は飛んで
その日の夜
衛宮邸にて
「………ね、ねえシロ。お菓子あるけど一緒に食べる?」
「…」
「こ、この漫画面白いよ!貸してあげる!」
「………」
「な、なにかしてもらいたいこととかって…」
「……………」プイッ
「ク、クーロー…。どうにかしてー…」
「いや、知らないわよ」
クロエとシロエの仲は改善されたが
代わりとばかりにイリヤとシロエの仲がしばらく険悪になったのであった。
尚、シロエがメイド服に着せ替えられたかどうかはシロエの今の様子が全てである。