プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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おかしい…。
普通の日常回のはずなのに何故か急激に伸びて
ランキング入りしている…だと。

ランキング入りしていることに対して嬉しさよりも困惑が勝ってしまっているめんどくさい作者です。

それはそうと沢山の人が見てくださりありがとうございます。


姉の座(後編)

 

 

「あー。早く夏休みにならないかしら」

 

 

クロエが廊下を美遊とシロエの二人と歩きながら

とても待ち遠しそうに話す。

その理由は

 

 

「誕生会楽しみねーミユ。

シロもちゃんと祝ってよね?」

 

 

言うまでもなく誕生会である。

クロエにとっては初めての誕生会であるためその想いは一際である。

それに対し

 

 

「……うん」

 

 

美遊はクロエを見ながら若干の溜めと共に答える。

 

 

(……誕生会、か。アイリに拾われてからお姉ちゃんやお兄ちゃん、それにわたしの誕生会を何度か家でやってるけど…。

………未だに慣れないわね)

 

 

生前も白熊になってからも

そんな催しは一回も経験したことがなかった。

孤児院でも金銭面と子供の出入りの激しさから開かれることはなかった。

だから

 

『誕生日って祝うものなんですか…?』

 

………。

衛宮邸に来て最初のわたしの誕生会にアイリにそう聞いてお姉ちゃんに泣かれたっけ。

その後『イリヤ』としての記憶を漁ってみたら確かにお母様とキリツグが祝ってくれてて

もっと早く、もっとよく記憶を見ておけばよかったって後悔したんだよね…。

………回数も少ない上、幼い頃の記憶で朧気だったからあまり覚えてなかったんだけどね。

 

 

「…」

 

「……シロ?」

 

 

美遊の呼び声にシロエは

慌てていつもの笑顔を貼りつける。

 

 

「あ、うん。そう…だね」

 

「……?」

 

 

シロエの反応に若干の違和感を感じる美遊

と、そこに

 

 

「ん…?」

 

 

前方より縦長の影がこちらに向かって歩いてくる。

その影は───イリヤであった。

何故縦長なのか。

それは

長い銀髪がワックスでも使っているのか上へと螺旋状に逆立っているからである。

そしてその髪のあちこちに大きな花が差し込まれていた。

 

 

 

……

………

 

 

時間はほんの少し巻き戻り

美遊達がいる廊下の先ではざわざわ…と周囲がざわついていた。

その理由はひとつ。

当然イリヤである。

イリヤは先の珍妙な髪型のまま

廊下の真ん中を歩いていた。

目はぐるぐると渦巻き、まだ僅かに羞恥心があるのか顔を赤らめて

 

 

「よし!とりあえず見た目での威嚇効果はバッチリだな!」

 

「ウチのねーちゃんあんなんじゃないけどなぁー?」

 

 

廊下の角より覗き見ている雀花達

イリヤの珍妙な髪型は那奈亀の姉をイメージしたものらしい。

どうしてこうなった。

 

 

「ね、ねぇ本当にあれで合ってるの?」

 

「雑誌に載ってる髪型真似たんだから大丈夫だろー。できればガンプラも盛りたかったんだがな」

 

「ガンプラ!?髪型の話だよね!?」

 

 

唯一の良心である美々が友達の変わり果てた姿に再度確認するがあっさりと流される。

そんな話をしている間に

 

 

「おっと、さっそく前からシロクロが!」

 

(まとめた!?)

 

「ミユも一緒か!」

 

 

そして

 

 

「ん…?」

 

 

先の意味不明の光景へと繋がる。

 

 

「や……やぁ」

 

 

イリヤが右手を挙げて呼びかけるも

 

 

「「「……………」」」

 

 

クロエの目が死に

美遊の口が大きく開かれ

シロエの頭が処理落ちする。

 

 

「今だ!!」

 

「かましたれイリヤ!!」

 

 

角から見ている雀花と那奈亀の声に応えるかのように

 

 

「べっ…、別にあなた達のことなんて何とも思ってないんだからねっ!」

 

 

雀花の姉の特徴であるツンデレ(?)が炸裂する。

 

 

「「「ハイキタァァーーーーーー!!」」」

 

「テンプレだが威力十分だぜー!!」

 

 

ガッツポーズを取る三人

さらに

 

 

「休む間を与えるな!

たたみ掛けろ!」

 

 

雀花が缶ジュースをイリヤに投げ

イリヤはそれを左手でキャッチする。

そしてクロエ達三人へと向ける。

缶がイリヤの握力でどんどんへこむ。

 

 

「きばれイリヤ!!」

 

「できる…!お前ならきっとできる!」

 

「………ミユ、こっち」

 

「へ?」

 

 

処理落ちしていた頭をなんとか再起動に成功したシロエが

未だに唖然としている美遊の腕を引き

クロエの後ろにシロエ、美遊の順番で隠れる。

次の瞬間

 

ゴバッシャァァ!

 

缶がイリヤの握力に耐えきれず中身を勢いよくぶちまける。

シロエと美遊…は隠れていたため被害はなく

矢面に立っていたクロエに全て

 

 

「「「いよっしゃあああああーーーー!!!」」」

 

 

歓声を上げる雀花、那奈亀、龍子の三人

龍子の兄のイメージである力の誇示をやってみせたのだ。

違う。そうじゃない。

 

 

「はい、そしてシロクロの反応はーー!?」

 

「反応はーーっ!!」

 

 

頭からぐしょ濡れになっているクロエと

終わった?と言わんばかりにクロエの背後から顔を出すシロエの反応を見る。

 

 

「病院行けば?」

 

「お姉ちゃんが暑さのせいで…暑さのせいで!」

 

 

クロエが眉間に皺を寄せ心底不快そうに言い

シロエは姉が初夏の暑さにやられたと顔を青ざめる。

 

 

「「「パーーーーフェクツ!!!」」」

 

 

美々の弟の特徴である

妹(弟)に心配されるを完遂でき

一際大きな歓声を上げる四人。

尚、四人なのは美々がもうどうとでもなれと言わんばかりに涙目になりながらやけくそで一緒に歓声を上げているからである。

 

 

「っていうかシロ!なにちゃっかりミユを連れてわたしの後ろに隠れてんのよ!!」

 

「いやぁクロなら防げるかなって…。

ほら熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)とかで」

 

「こんな場所でしかもジュースを防ぐためにそんなもの使わないわよ!?」

 

「それでもクロなら…、クロならきっと何とかしてくれる…!!」

 

「わたしはどこの仙◯よ!?それに信頼してるんじゃなくて身代わりにしただけでしょうが!!」

 

「あっ、ベタベタするから今は近づかないでねクロ」

 

 

ブチィッ!!!

クロエの頭より血管がぶちギレる音がした。

 

 

「シロォーッ!!!」

 

 

クロエがシロエに向かって飛びかかるが

 

 

「おわっ!?」

 

 

ドッジボールで見せた天○の眼(エン○ラーアイ)を使いかわしていく。

 

 

「このっ…!避けるなぁッ!!」

 

「いや避けるよ!?っていうかなんでわたし!?

今回はどう考えても暑さで頭おかしい行動取ったお姉ちゃんが悪いじゃん!?」

 

 

グサッ!

 

妹の言葉がイリヤの胸に突き刺さる。

 

 

「やかましいッ!!!

あの精神がイカれてるバカは後よ!!

まずはあんたが先よシロォ!!」

 

 

グサグサァッ!!

 

二人目の妹(?)の言葉がさらにイリヤへと追い打ちをかける。

もうやめて、イリヤのライフはゼロよ。

 

その後シロエはその場から逃走。

クロエはそれを追っていき

その場に残ったのは

心配そうな視線をイリヤへと向ける美遊と

妹達から受けたダメージにより両手を床につき、へこんでいるイリヤの姿であった。

 

 

 

……

………

 

 

アホー

 

放課後になりカラスが外で鳴いている時刻

 

ずーーーーーん…

 

教室にて机に突っ伏し

ドン底までへこんでいるイリヤの姿がそこにはあった。

泣いているのか机には大きな水溜まりが出来ている。

 

 

「すまんイリヤ…。どこかで何かを間違えた…」

 

「何かじゃなくて全部だよね。全部間違えてたよね」

 

 

さすがに悪いと思ったのか雀花が謝るが

イリヤは落ち込み続ける。

 

 

「ごめんねお姉ちゃん…今日は暑かったね…。

保健室に行こう…おぶってあげるから」

 

「イリヤ…。きっと疲れが溜まって熱中症になったんだと思う。

シロの言う通り保健室で診てもらった方が…」

 

「お願いだから二人とも今はやさしくしないで。

やさしさは時に弱い心を傷つけるの…。

後、暑さは関係ない…」

 

 

イリヤは泣きながら

シロエと美遊の優しい申し出を拒否していると

 

 

「先帰るわよ」

 

「あっクロ…」

 

 

イリヤとシロエの行動が未だに許せないのか

クロエは眉間に皺を寄せながら

イリヤの声に反応せず一人教室から出ていく。

 

 

「ううう…。姉の威厳どころか人としてのランクが下がった気がするわ…」

 

 

イリヤの頭の中に

 

 

  ③クロ シロ

───バカの壁───

   ④イリヤ

 

 

という図が更新された。

 

 

「とにかく帰ろ?お姉ちゃん」

 

「うん…」

 

「あっシロちゃん。ちょっと待って」

 

 

シロエがイリヤに声をかけ

美遊を連れて三人で帰ろうとすると

美々に呼び止められる。

 

 

「悪いんだけど…。

これからイリヤちゃん達の誕生会の話し合いをするから少し残ってほしいの…」

 

「あ、うん。わかった。

…ミユ、お姉ちゃんのことお願いね。少しでもおかしな言動したら119番してね」

 

「(おかしな言動…)

…うん。任せて」

 

「任されないで!?

だからわたしは何ともなってないんだってばー…」

 

 

そして美遊は落ち込むイリヤを連れて教室から出ていった。

時折ふざけてるのか雀花達と話し笑顔を浮かべているシロエを見ながら

 

 

 

……

………

 

 

「なーんかめんどくさくなってきたな」

 

「えー…」

 

「ス、スズカちゃん…」

 

 

話し合いをはじめて十分後

雀花が早くもだれてきた。

尚、那奈亀と龍子は既に集中力が切れて遊んでいる。

 

 

「だってよー。

よくよく考えたら水着やらなにやらでただでさえお金使うのに

その上誕生会の準備までしてたら

どう足掻いても小学生のわたしらじゃお金が足りねーじゃねーか」

 

「それは…そうだけど」

 

「それに海に遊びに行くための理由付けみたいなものなんだしよー」

 

(本気だったんだ…。

誕生会にかこつけて親からお金もらって海で遊ぶって…)

 

「イリヤとシロのにーちゃんも来るんだろ?

もういっそ丸投げしちゃえば?」

 

「う、うーん…」

 

 

話し合いを速く終わらせたいからか

遊んでいた那奈亀が提案する。

 

確かにお兄ちゃんなら嫌な顔せずに引き受けそうだけど…。

 

シロエが唸っていると

 

 

「そ、そういえば!」

 

 

美々が行き詰まった話の流れを変えたく

話題転換を試みる。

 

 

「ん?どしたのミミ」

 

「えーとえーと…」

 

 

しかしながら普段から控え目の美々は

なかなか話題を思いつかない。

 

 

「あ、そうだ」

 

 

そうしてようやく思いついた話題。

しかしその話題は

 

 

「シロちゃんはイリヤちゃん達になにかプレゼントとかってするの?」

 

 

シロエにとって予想だにしない話題であった。

 

シロエの笑顔が固まる。

 

 

「…プレゼント?」

 

「シロちゃん?」

 

「誰が?」

 

「え?…シロちゃんが?」

 

「誰に?」

 

「イ、イリヤちゃん達に」

 

「何の?」

 

「え、えーと…」

 

「誕生日のに決まってんだろ!」

 

 

様子がおかしくなったシロエに対して

たじたじになる美々に代わり

龍子が元気良く答える。

 

 

「プレゼント…?わたしがお姉ちゃん達に……?」

 

 

呟くシロエを見て

首を傾げる四人

そんなにおかしなことかと

 

しかしシロエからしてみればそんなことは考えたこともなかったのである。

シロエが誕生日は祝うものだと知ったのはほんの五年前なのだ。

それより以前…生前も白熊だった頃も当然のことではあるがプレゼントなどしたことがない。

生前及び白熊時代の経験が却って仇になっているのである。

 

 

(ただでさえ誕生会なんて未だに慣れてないのにプレゼントなんて…)

 

「おいおい。そんなに変なことか?」

 

「…そもそも妹って姉にプレゼントするものなの?」

 

「「「えっ…」」」

 

 

『イリヤ』としての記憶を見ても姉妹なんていなかったからどうするのが『普通』なのかわからない…。

 

そういった理由からシロエは聞いたのだが

 

 

「え、えーともしかしてシロちゃんってプレゼントとかってしたこと…」

 

「…」

 

 

シロエが黙っていることにより

龍子以外の三人が察し気まずい空気が生まれる。

 

 

「う、うーん…。そう言われるとわたしもおねぇにプレゼントなんてはずくてしにくいけど」

 

 

そんな気まずい空気の中で

雀花が口ごもりながら話し

その内容にシロエが安堵しかけたが

 

 

「それでもプレゼントしようとそれとなく何が欲しいか聞いてみたんだけどよ。

そしたら『優秀なアシスタント』だもんなぁ。

仕方ねーからその日はベタとかトーンとか散々手伝ったんだよなぁ」

 

「…」

 

「わたしも…妹じゃなくて弟だけどヘアピンをプレゼントしてくれてうれしかったなぁ」

 

「俺も筋トレの握るやつを兄貴にプレゼントしたことあるぜ!」

 

「ハンドグリップな。っていうか誕生日に筋トレグッズて」

 

 

龍子のプレゼント内容に那奈亀が突っ込みを入れるが

シロエの耳には届いていない。

龍子までもが兄にプレゼントをしたことがあると聞き

若干のショックを受けたからだ。

 

 

「…」

 

「…ま、まぁ絶対にプレゼントしなきゃいけないってわけじゃないしな」

 

「う、うん。ごめんねシロちゃん」

 

「まぁ気が向いたら用意すればいいんじゃね?

…そんな重く考えんなって!」

 

「うん!こういうのは気持ちが大事だから、ね?」

 

 

そうして気まずくなったせいもあってか

話し合いは終了した。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

一方その頃

 

 

「そっか…。それであんな行動とってたんだ」

 

 

美遊と二人で下校していたイリヤは

美遊の誤解を解くべく一連の奇行の理由について説明をした。

 

 

「全部裏目だったけどね…。ノリで行動すると痛い目みるわ…」

 

「うん…」

 

 

イリヤの溜め息混じりの説明に美遊は

 

 

「でも、確かに。

クロには早めに釘を刺すというか…。鎖をつけとく必要はあるかもしれない」

 

 

ある意味では間違っていないとイリヤに伝える。

 

 

「えっ、どゆこと?」

 

「クロは精神的にかなり不安定な上に破壊行動で物事を解決しようとする傾向が強い。

その性質がすぐに変わるとは思えない…。

それに………ううん。

とにかく油断はしない方がいいと思う」

 

 

──あの時。

シロと対峙していたクロを見てミユは

クロの中に何かを見たのかな…。

心配のしすぎ…だといいんだけど

 

 

「それと…シロのことなんだけど」

 

「ん?シロがどうかしたの?」

 

「なにか…おかしいと思ったことはない?」

 

「え…。おかしいといえばシロはいつもおかしいし…」

 

 

妹のいつものふざけきった言動から

イリヤは深く考えずに美遊に返事をするが

 

 

「そのおかしいじゃなくて…なにかいつもと違うなって思うこととか」

 

「うーん…。別にいつも通りだと思うけど」

 

「そう…。なら、いい…」

 

 

美遊がイリヤに尋ねたのには無論理由がある。

昼休みにシロエの反応に違和感を感じた美遊はその後シロエを注意深く見ていた。

一見するとシロエはいつもと変わらないように見えた。

しかし言動の節々から言葉にはしづらいが小さな違和感のようなものを感じたのだ。

 

 

(まるで…そう。

何かを必死に考えないようにするために会話に混じっていってるような…。

それに……)

 

 

さらに美遊が思い出すは

クロと相対した時にシロの豹変した様子。

 

 

(……………。

クロは精神的に不安定だと考えたけど

もしかしたらシロはそれ以上に──)

 

 

美遊の今までのシロエに対する印象は

普段は引っ込み思案な面もあるが

賑やかでそれでいて表情豊かで

いつもとても楽しそうにイリヤと一緒に日常を過ごし

それでいて戦闘になれば誰よりも頼りになり、毎回先頭に立ち私達を引っ張ってくれる。

味方には底抜けに優しく、敵にはどこまでも容赦がない。

そういった印象であった。

 

だけど

誰よりも強いかわりに

本当は誰よりも脆いんじゃ…?

それこそ氷のように───。

 

美遊の頭に疑念がよぎる。

しかしだからといってクロエのように警戒するわけではない。

シロエはイリヤと同様に美遊にとっては大切な友達なのだから

故にもしそうだとしたら心配の要素の方が勝っていた。

しかし

 

 

「?」

 

 

そんな美遊の考えを知らずに

イリヤはただ訝しむ。

 

 

(………一番一緒にいるイリヤが気づかないなら気のせい…なのかな)

 

 

そしてそんなイリヤを見て美遊も気のせいだと思うことにするのであった。

 

 

 

……

………

 

 

家までたどり着いたイリヤは

エーデルフェルト邸へと入っていく美遊を見送った後

自身の家の玄関へと移動する。

 

 

「ちょっと前までクロが何考えてるかわかんないって思ってたけど

考えてみればミユだって同じくらいわからないよね…」

 

「そりゃそうですよ。わかったらエスパーです。

それを言ってしまったら妹とはいえシロさんだってわからないでしょう?」

 

「えー。そんなことないよ。

『キャスター』のカードを回収した時だってシロはわたしの考えを読み取ってくれたじゃない」

 

 

キャスター戦の際

シロエはイリヤの意図を視線のみで読み取り

それを実行した結果

三人の連携によりキャスターを打倒することに成功した。

 

その記憶を呼び起こしながらイリヤは玄関ドアの前へとたどり着く。

 

 

「だから同じようにわたしだってシロの考えていることなら、なんだって───」

 

 

そうして玄関ドアへと手を伸ばす。

その時だった。

 

 

『わたしのことなんてなに一つ知らないくせに』

 

 

エーデルフェルト邸にて妹の言葉が頭によぎったのは

玄関ドアへと伸びていたイリヤの手が止まる。

 

 

「─────」

 

「イリヤさん?どうかしました?」

 

「あ、ううん。なんでもないよ」

 

 

………?

なんで今思い出したんだろ。

あれはわたしじゃない…クロに対して言った言葉なのに。

 

 

「…まぁ、思ってることをすべてペラペラ話してしまう自白剤的なものならわたし作れますけど」

 

「物騒なのはやめてよねホント…」

 

 

イリヤが頭を振り、妹の言葉を追い出すと

玄関ドアを開け

 

 

「ただいまー」

 

 

自宅へ入りリビングに行くと

 

 

「ん、おかえり」

 

 

さっき帰ってきたばかりなのか制服のまま

ソファーに腰掛けプリンを食べながら

イリヤに返事をするクロエがいた。

 

 

「ああっプリン!しかも高いやつ!

自分だけずるい!」

 

「うるさいなぁ」

 

 

帰ってきて早々に文句を言うイリヤに

クロエは面倒くさそうな視線を向け

 

 

「イリヤの分もあるわよ」

 

「えっ」

 

 

ビニール袋から同じプリンを取り出し

イリヤへと渡す。

 

 

「これ…クロが買ったんだよね?

どうしてわたしの分まで…?」

 

「そこまで意外そうな顔されるのも不本意だわ」

 

 

意外そうな顔をしているイリヤに対してクロエは

 

 

「…一応。これでも感謝してるの」

 

「か、感謝…?」

 

 

感謝しているのだと伝える。

イリヤはその言葉の意味がわからず聞き返す。

 

 

「あの時は本当に終わりだと思った。

勝手に生み出されて

勝手に封印されて

ワケもわからず復活して

なのに何も成さずに消えていくんだ……って」

 

「ク…」

 

 

クロエの気持ちを聞き

イリヤは心配そうに声をかけようとするが

 

 

「そんなの冗談じゃないわ!」

 

 

その心配はいらなかった。

 

 

「迂闊にも弱気になって諦め発言しちゃったけど…。

冗談じゃない。

そんな簡単に消えてたまるもんか」

 

 

クロエの顔はすっかり立ち直っており

絶対に消えないという意思を感じた。

そんなクロエの様子を見たイリヤは苦笑いを浮かべる。

 

 

「はは…。わたしとしてはもうちょっと弱気でいてくれてもよか」

 

 

しかしそんなイリヤの言葉は途中で途切れる。

その理由は

 

 

(───『弱気』?あれ、そういえばシロって…)

 

 

クロエの『弱気』というキーワードが

イリヤの頭に何かがかすめる。

 

 

「…どうしたのよ?」

 

「…ううん。なんでもない」

 

「とにかくちゃんと責任はとってよね」

 

「責任…って?」

 

 

クロエとの会話に意識を戻すイリヤ

 

 

「…なんだかんだで相性は最高だったみたいなのよね。

一番効率が良かった」

 

「は?」

 

「だから!」

 

 

意味がわからず聞き返すイリヤに

クロエは顔を赤らめ

 

 

「わたしが在るためには魔力が必要なの!

魔力は何もしなくても少しずつ消費されていくの!

いつかはまた(ゼロ)になっちゃうの!」

 

「つ…つまり…」

 

 

恥ずかしいのかソファーをべんべんと叩きながらのクロエの言葉に

イリヤは嫌な予感がしながらも先を促す。

 

 

「また、魔力供給……。

よろしくってこと」

 

 

クロエは顔を赤らめ口元を手で隠しながら

イリヤにお願いをする。

 

 

「あーー……………」

 

 

そんなクロエにつられ

イリヤも顔を赤らめ視線を逸らす。

 

 

「い…いいけど!それは別にいいけど!

どうしてそんなに照れてるのよ!?」

 

「な…なにがー!?」

 

「シロとかミユとかミミとか

ちゅーちゅー吸いまくってたくせに

急にしおらしくならないでよねー!」

 

「う…うるさいうるさい!

こっちにもいろいろあるのよ心の整理とか!

とにかくプリン食べたんだから応じなさいよね!」

 

「あっこれそういう取引!?

シロと似たようなことしないでよ!

二人とも汚いー!!」

 

 

そんな二人の言い争いを

 

 

「んっふふー」

 

 

階段に隠れ聞いているアイリ

そんなアイリにセラが話しかける。

 

 

「盗み聞きですか。奥様」

 

「人聞き悪いわー。親として見守ってるだけよ」

 

 

口元に人差し指を立て

気づかれないようにとセラに言うアイリ

そんなアイリにセラは溜め息を一つ吐き

 

 

「『クロさんもシロさん同様。

イリヤさんと同じように家族として接する』

ただそれだけでよろしいのですね?」

 

「ええ。それでいいわ。

()()()()()はあの子が決めることだから」

 

「……シロさんに続いてクロさんまで…。

クロさんに関しては事情を把握した上での判断みたいなので構いませんが。

シロさんは…」

 

「…」

 

「青眼のホムンクルスなんて普通はありえません。

しかも製造元も不明。

……以前から言っていますが早急に、それこそ無理にでも事情を聞き出すべきだとわたしは」

 

「セラ、そんなことはわかってるの。でもね」

 

 

アイリが真剣な顔でセラを見る。

 

 

「今それをしようとしたらあの子は間違いなくこの家を出ていくわ」

 

「…っ」

 

「あの子がこの家に来て五年とちょっと。

今さら他人に戻るには情が湧きすぎてる。

セラだってそう思っているはずよ」

 

「それは……」

 

 

アイリの言う通りであった。

出会った最初こそは警戒していたセラであったが

五年という歳月を共に家族として過ごしたことでシロエに悪意はないなど当の昔にわかっていた。

そしてイリヤと共に笑って過ごしている姿は最早当たり前の光景となっていた。

今さらシロエのいない生活など違和感しか出てこないであろう。

しかし…大切な家族だからこそ話してほしいという想いも無論あるわけだが

セラはその想いをどうにか呑み込むと

 

 

「…わかりました。

それが奥様の判断であるなら…」

 

 

そんな母親とメイドの階段でのやり取りを知らないイリヤとクロエ

 

 

「むー……」

 

 

イリヤがプリンを口に運ぶと

なにかを考えこむかのように唸る。

 

 

「なに?味に不満でもあるの?」

 

「ううん。そうじゃなくて…。

なにか引っかかるものが…」

 

 

クロエが「贅沢な…」と半目でイリヤを見る中

イリヤが違和感の元である

 

『たまにプリンとか買ってきてくれたり…』

 

雀花が放った言葉へとたどり着く。

 

 

「こっ…これ姉的行動じゃない!

卑劣!こっそり姉ポイント稼いじゃってー!」

 

「はぁ!?何言ってるの!?

そんなポイント制度知らないし!」

 

「姉の座は渡さないんだからー!!」

 

 

イリヤがプリンをテーブルに置き

口喧嘩の勢いから立ち上がる。

 

 

「…でどちらを姉と見なせばいいのでしょう」

 

「うーん。それもあの子たちで決めることね~」

 

 

そんな二人のやり取りを見ているセラとアイリ。

と、そこに

 

 

「ただいまー」

 

 

シロエが帰ってきた。

シロエはリビングを通りすぎようとする際に

イリヤとクロエが言い争っているのを見ると

暗かった顔をフッ…と口元を緩める。

そして二人に近づく。

 

 

「あっプリン落ちてる。ラッキー」

 

「あーッ!!?」

 

 

シロエがテーブルに落ちているプリンを拾い上げると

イリヤが声を上げシロエへと噛みつく。

 

 

「ちょっとなに勝手に人のもの取ろうとしてるの!?」

 

「お姉ちゃんのものはわたしのもの。わたしのものはわたしのもの」

 

「なにそのジャイアニズムは!?そんなわけないでしょ!?

それに落ちてるんじゃなくて置いておいたの!」

 

「でも話の流れからしてお姉ちゃんプリンいらないんでしょ?」

 

「うぐっ!?」

 

 

プリンは無論欲しいが姉の座は渡したくない。

イリヤが唸っていると

 

 

「ほら、欲しいの?欲しくないの?

速くしないと食べちゃうよー?」

 

「ぐぐぐ…」

 

「はい5秒前、4、さ」

 

「……………欲しい」

 

「うん?聞こえないよ?

3、2、い」

 

「欲しい!欲しいわよ!!これでいいでしょ!?」

 

 

イリヤは顔を赤くしシロエを睨み付ける。

そんな姉の様子を見たシロエはこの辺りが限度かなと

 

 

「冗談だよ。ほら」

 

「あ…」

 

 

姉の手の平にプリンを載せ

そのまま制服から着替えるべく二階へと

 

 

「待ちなさい」

 

 

行こうとしたがクロエに呼び止められ

シロエは足を止め振り向く。

 

 

「ん?クロのプリンは取ってないけど」

 

「そんなの見ればわかるわよ。

そうじゃなくて………ん」

 

 

クロエはビニール袋からプリンを取り出し

シロエへと差し出す。

無論クロエやイリヤの食べかけではない。

梱包がしてある新品のものである。

シロエの頭に空白が生まれる。

 

 

「…えー、と。クロそれは?」

 

「プリンよ。それこそ見ればわかるでしょ」

 

「………二つも食べると晩御飯食べれなくなるよ?クロ」

 

「なんでそうなるのよ…。

あんたの分よシロ」

 

 

クロエのその言葉に

シロエの笑顔の仮面にひびが入る。

 

 

「…シロ?」

 

「?どうしたのよ?」

 

 

イリヤとクロエが訝しむ。

しかしシロエからして見れば

先のプレゼントの話題からのこの展開にどうしても困惑せずにはいられないのである。

 

 

「これを…わたしに?」

 

「ええ。そうよ」

 

「………わたしなにかしたっけ?」

 

「いやイリヤの分も買ったのに

あんたの分だけ買わないとか気が引けるでしょ」

 

「…」

 

 

シロエは黙りこみプリンを凝視する。

そんな妹を見かねたのかイリヤが

 

 

「よかったじゃない。もらっておこう?シロ」

 

「………うん。そう、だね。

……………ありがとクロ」

 

 

そうしてプリンをもらうシロエ

そんな妹を見たイリヤは

 

 

(おかしいな。

シロのことだからてっきりテンション高くしながら

喜んで受け取ると思ったんだけど…)

 

 

イリヤの訝しみを他所にシロエは

 

 

(………やっぱりプレゼントを用意するべき…ううん。

用意したい。

わたしは……。

お姉ちゃんやミユ、クロ達に喜んでもらいたい)

 

 

誕生日のプレゼントを用意することを一人決めるのであった。

 

 




なんで戦闘回より日常回の方が長くなるのでしょう。
これがわからない。
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