「ほら見たことですか」
衛宮邸
そのキッチンにて
セラが小学生の士郎を叱りつけている。
その理由は
「急に料理がしたいと言うからやらせてみれば…。
食材が無駄になりました」
「………」
士郎が調理に失敗したからである。
士郎とセラの目の前には
真っ黒の物体が皿の上にて鎮座している。
セラは溜め息を一つ吐くと
「……まぁいいでしょう。
これでわかりましたね?
料理はわたしの担当です。
メイドであるわたしに任せればいいんです」
セラは同じく真っ黒になった鍋に水を張りながら
士郎に苦言を呈す。
「…だいたい。
レシピもわからず何を作ろうとしていたんです?」
「………。
……に…」
ーーーーーーーーーー
「肉じゃが──ですか」
時間は元に戻り現在
高校生の士郎が
おいしそうな肉じゃがを鍋から皿の上へと移し
それをセラが半目で見ている。
「セラ…。じろじろ見られるとやりにくいんだけど」
「ならやめたらどうです。
わたしの仕事を奪っておいて図々しい」
「悪いとは思ってるよ。
ただちょっと事情があってさ。
今日の弁当は自分で作らないといけないんだ。
けど一人前だけ作るのも効率悪いだろ?だから…」
肉じゃがを弁当箱へと盛り付けながらの士郎の言葉に
「…はいはい」
セラはしょうがないかとばかりに
溜め息混じりに答える。
そこにイリヤ、クロエ、シロエの小学生組が
寝間着姿で二階から降りてくる。
イリヤが欠伸をしながら挨拶する。
「おふぁよー」
「あれ?朝御飯お兄ちゃんが作ってるの?」
「珍しいね。よくセラがオーケーしたね」
「ああもうすぐできるよ。
セラには…まあ無理言ってもらったんだ。
座って待ってな」
「「はーい」」
「あ、そうだ。お兄ちゃん」
イリヤとシロエは士郎の言葉に返事をし席へと行こうとしたが
クロエはなにかを思い出したかのように士郎へと続けて話しかける。
「今日、家庭科でパウンドケーキ作るの!
お兄ちゃんのためにおいしく作るから楽しみにしててね!」
クロエは笑顔を浮かべて士郎に言う。
「へぇ。お菓子の調理実習か」
(そういえば今日調理実習かぁ…。
……折角だし時間があったら
パウンドケーキ全然関係ないけど)
シロエがそう考えていると
「わ、わたしも作るから!
クロのよりおいしく!」
イリヤがクロエを押しのけながら
兄へと宣言する。
「はは。楽しみにしてるよ」
「ふーん…。それって勝負するってこと?
イリヤ料理得意じゃないくせに。
シロも得意じゃないから頼れないわよー」
「あれ?なんでこの流れでわたしまでディスられたの?」
「そ…そんなのクロも一緒でしょ!
条件は同じだわ!」
「フラグは立ったわね」
「フラグ!?」
「っていうかなんでそんなにムキに…?
………あっそうか。そういえばお姉ちゃんもクロもお兄ちゃんのことが好」
「シロォッ!!黙ってなさい!!!」
「朝から元気ねー」
小学生組の争いを寝ぼけた眼で見ているアイリとリズであった。
…
……
………
時間は流れ
場所は小学校の家庭科室
調理実習の時間である。
「こっ…このグループ分けは…」
A班 クロエ 美遊 シロエ 美々
B班 イリヤ 那奈亀 龍子 雀花
四人と四人、計八人がエプロンと三角巾(龍子は給食の白衣と幽霊の三角頭巾を着用している)を着用し向かいあう。
「おかしくない!?戦力の偏りがひどいような気が!」
「厳密なジャンケンの結果じゃない。
それにこっちにはシロがいるし」
「楽しい?妹をいじめて楽しい?」
「シロは良くも悪くもない50点にするだけじゃない!
こっちには一人マイナスの人材がいるんだけど!」
「ごじゅっ!?せめておいしいかまずいかで言って!?」
「はははは」
「マイナスはおめーのことだぞタツコ」
龍子が憤慨しているシロエを笑っていると那奈亀から突っ込みが入る。
と、そんなやりとりをしているうちに
「はーい。それじゃ各自調理開始ー」
「ううっ!」
藤村先生から調理開始の宣言がされ
イリヤが唸り声を上げる。
「しょうがない…。戦力に差はあるけどやるしかないわ」
「なんか知らんがクロに負けたくないんだな?」
「まーウチらに任せときなよ」
「みんなは料理に自信あるの?」
雀花と那奈亀の頼りになりそうな言葉にイリヤ少し驚きながら聞く。
「料理は食べること以外興味ない!」
「ダメじゃん!」
「図工以外オール2だが何か!」
「その見た目で!?」
「早くハンバーグ作ろうぜ!!」
「もうやだこの班ーっ!!」
「案の定何作るのかも把握してないな」
ーーーーーーーーーー
「シロ、砂糖の計量終わった?」
美遊はバターをかき混ぜ終えたボウルをテーブルに置きながら
次の材料の準備をしているであろうシロエへと目を向ける。
しかし
「…」
「…シロ?」
作業を既に終えたのか
軽量カップに入っている砂糖をボーッと見つめているシロエがいた。
その目は虚ろであり上の空のように見える。
「………」
「シロ!」
「っ!?…ご、ごめんミユ。ちょっとボーッとしちゃってた」
「…」
明らかに様子のおかしいシロエを心配そうな目で見る美遊。
そんな美遊を誤魔化すように
「え、えーと。材料なら全部計量し終えたよ。
薄力粉もふるいにかけたし…。
…心配しなくても何もしてないし全部指示通りの分量にしたから大丈夫!
はい、砂糖!」
「う、うん」
シロエから砂糖を受け取った美遊は逡巡するも
そのまま次の工程へと移る。
その様子をいつもの笑顔で見送ったシロエは
(…はぁ。やっぱり手持ちぶさたになるとどうしても
………やっぱり家から持ってきたアレでもやろ。
確か後は包むだけだったはずだし)
そう考えると
シロエは家から持ってきたタッパーから材料を取り出し作業に移る。
「っていうかミユの指示してきた分量、ミミのに比べてやけに多かった気が…。
……………ま、いっか。材料が足りないってこともなかったし」
ーーーーーーーーーー
一方イリヤの班では
「そう心配するなって。
お菓子作りは分量が命だけど
逆に言えばレシピ通りきっちりやれば誰でも作れるってことだろ?」
「そ…そうだよね。落ち着いてやれば大丈夫…!」
雀花が薄力粉をはかりの上に載せたボウルへと入れ
イリヤがはかりの数値を確認する。
「よし分量ぴったり!
んでこれをふるう…と」
計量を終えた薄力粉を粉ふるいに移し
雀花がふるいにかける。
サカサカサカサカ……
ふるいにかける。
サカサカサカサカサカサカサカサカサカサカ……………
ふるいに…
「なぁ…。こんな手順省略してよくね?」
「さっきレシピ通りにやるって言ったよね!?」
この工程に何の意味があるのかわからない雀花が面倒くさそうな顔で異議を唱えるがイリヤに諌められる。
一応注釈しておくと
圧縮されていた薄力粉に空気を含ませキレイに分散させたり、ダマを取り除くという意味がある。
ーーーーーーーーーー
(………よし。これで完成…と)
シロエはそれを完成させると
タッパーへと戻す。
尚、一見普通のタッパーに見えるが
その実シロエの魔術にて冷蔵庫並みに保冷性能に優れた超神秘的なタッパーである。
世の魔術師が見たら魔術の無駄遣いと卒倒しそうである。
「シロ」
「!?」
考え事をしないようにと
完全に作業に没頭していたシロエはビクッとしながら
声のした方へと振り向く。
そこには
「…ミユ?どうしたの?」
「えっと…」
シロの先の様子から
やっぱり何か悩んでいることがあるのかもしれない。
思い当たるのはクロとの戦い。
シロがおかしくなったのはあの戦いからだから。
そしてクロがシロに対してやったことといえば………シロの秘密の詮索。
つまりシロの悩みはシロが抱え込んでいる秘密に関係しているんじゃ…?
でも、それだとわたしにできることは……。
美遊はそこまで考察していた。
しかしそれが正しいのであれば
美遊にそれを聞いてあげることはできない。
美遊とシロエは秘密に関しては互いに干渉しないと約束したからだ。
故に
「ケーキの飾り付け…。手伝ってほしい」
「え?」
シロエの気を少しでも紛らわすために
美遊がシロエに手伝いを要請する。
それに対してシロエは一瞬訝しむも
美遊のお願いは滅多なことではないため
「……うん!わかったよ!」
またしても深く考えずに笑顔で了承した。
しかしその結果………
ーーーーーーーーーー
「次!えーとバターを混ぜるのね」
薄力粉のふるいを終わらせたイリヤ達は
バターを泡立て器にてかき混ぜ
「そしてバターがクリーム状になってきたら砂糖を投入…っと」
砂糖を投入する。
が
ザカザカザカザカ
とタツコが砂糖を投入しているイリヤの横から
正体不明の調味料を入れる。
「───」
イリヤの頭に空白が生まれ
タツコと視線が合う。
そして
「タツコがなんか入れたーーッ!!?」
「「お前何してんだコラァーッ!!?」」
イリヤが悲鳴を上げ
雀花と那奈亀が龍子にダブルアッパーをかまし
龍子は吹き飛ばされる。
「何入れた!?何を入れたんだ!?」
「ナ…、ナツメグ」
「ナツメグーッ!?」
泡を吹いている龍子を締め上げ
何を混ぜたか聞き出す。
「ハンバーグには…入れるだろ…」
「しまった!こいつ、まだハンバーグ作る気でいたんだ!」
「ナツメグとか余計な知識だけはありやがる!」
パウンドケーキにナツメグという暴挙に愕然とする三人
「くそっもう手出しできないようにラップ巻いとくぞ!」
「モゴゴガゴゴガ!」
「よい子は真似しないでください!」
ミイラ男(女)の如くラップでぐるぐる巻きにされる龍子。
尚、龍子なので問題はありませんが普通の人は窒息死するので那奈亀の言う通り絶対に真似しないようにしましょう。
「しかしいきなりなんてこった…!」
「コレどうするよイリヤ」
ラップで拘束された龍子がビチビチと跳ねるのを尻目に
三人は相談を行う。
「ナツメグって肉料理に使う香辛料だっけ?
絶対まずいぞ」
「ううう…」
「バターの予備はもうないって言われたしどうしたら…」
三人が途方に暮れていると
「あはははっ。無様ねイリヤ!」
「!!こっ…この声は!」
その笑い声にイリヤが振り向く。
「クロ!!」
そこには窓際にて椅子の上に立ち腕を組み
決め顔をしているクロエがいた。
「いや声とか以前にわかるだろ」
「何の演出だこれ」
雀花と那奈亀が謎の演出に突っ込みを入れる。
「パウンドケーキにナツメグ?
あなたらしい滑稽な味に仕上がりそうでよかったじゃない」
「うううううッ…!
そ…そっちはどうなのよ!?」
「どうって言われてもねぇ…」
クロエが自身の班のテーブルへ行く。
そこには
「こんな感じですが」
五段重ねの巨大なケーキが鎮座しており
その周りで
「シロ。上はどう?」
「大丈夫。ミユの指示通り出来てる」
美遊が下部を
シロエが椅子を使い上部の
生クリームをそれぞれ絞り袋にて絞り出し装飾を行っていた。
というか最早パウンドケーキというより
「ウェディングケーキ!?」
イリヤが驚愕に口を大きく開ける。
シロエも最初こそは驚いたものの
美遊のためとすぐにその驚きを呑み込み
美遊は持ち前のスペックの高さを
シロエも使い魔としての矜持からか美遊の指示の下で、美遊とほとんど変わらないスペックを
それぞれ発揮してしまっていた。
そしてどんどん夢中になってしまいこの現状が生まれた。
尚、美々もその巨大かつ完成度の高すぎるケーキを前に唖然としている。
「材料が余ってたし
シロと一緒に作業してたら楽しくてつい…」
「同じく…」
「あれは余りじゃなくてみんなの分の予備よ!
勝手にこんなんしちゃってからにー!」
藤村先生がケーキを作り出した美遊と
深く考えずに指示通り材料を計量したシロエの肩をガクガクと揺さぶる。
「ちなみにパウンドの方はミミが作成済み。
地味だけどそつのない仕事をするいい子ね」
「あ…ありがとうございます…(地味…)」
「シロも足を引っ張るかと思ったけど
余計なことをさせずにちゃんとした指示を明確に出せば
機械みたいに正確な仕事をしてくれるし完全にプラスになったわ」
「んー?今からでもその余計なことをしてみようかなぁ?」
「オーケー、とりあえずその両手に持ってる試験管とフラスコをしまいましょう?
話はそれからよ」
「料理は化学だよクロ!」
「その意見は賛成だけどあんたのは度が過ぎてるのよ。
なによその中に入ってるいかにもヤバそうな色の液体は?なんか泡が立ってるし。
むしろそれでよく毎回50点の料理になるわね」
「いいよシロ!やっちゃって!」
「任せてー。バリバリ」
「やめんか」
イリヤのGOサインに呼応し
怪しげな試験管とフラスコを両手にパウンドケーキを持つ美々の下へ行こうとする妹を後ろから羽交い締めにするクロエ
「っていうかクロだけ何もしてないじゃない!
人に任せっきりでずるいー!」
「人を使うのも能力のうちだわ。
それにわたしにはシロを止めるっていう重要な仕事があるし。
…だから暴れないでもらえるかしら?シロ」
「HA☆NA☆SE!!」
「あんたはどこのア○ムよ。
とりあえずその試験管とフラスコは没収」
某カードゲームの王様の如く
羽交い締めにされてるシロエが手足をばたつかせるが
特に意味はない。
「お兄ちゃんがどっちのケーキを気に入るか…。
結果は見るまでもなさそうね!」
「………ッ!」
(そういう勝負か…)
クロエがシロエの持つ試験管とフラスコを没収しながら
勝利を確信し笑みを浮かべると
イリヤが悔しげな表情でクロエを睨み付ける。
そしてその二人のやり取りを見て雀花が勝負になった経緯を察する。
「イリヤ。残念だけど諦めよう。
雀花が今のナツメグ入りの生地という酷い現状と
それをやり直すための予備が美遊とシロエに使われてしまっていることから
諦めようとイリヤを説得しようとするが
「クロに負けるのは悔しいだろうけどさ
また次の機会に──」
「待て、スズカ」
「?
ナナキ…?」
那奈亀が雀花の肩に手を置き待ったをかける。
その理由は
「白旗を揚げるのはまだ早い」
「早い?なに言ってる。
こんな状況じゃどうすることも…」
「ヤツの目を見ろ!
ヤツは…、イリヤは…」
ゴゴゴゴゴ…
イリヤが凄まじい威圧感を放っている(気がする)。
そしてそのイリヤの両目には
「まだ勝負を…諦めていない!!!」
『兄』という文字が刻まれていた(ように見えた)。
ダンッ!
イリヤが缶を机に叩きつけるように置く。
その缶の中身は
「コ…ココアパウダー…?」
「棚にあったわ」
イリヤが強い瞳で説明を行う。
「ナツメグが混入してしまったのは確かに大きな痛手。
どんなに悔やんでもそれは消せない。
料理には引き算なんてないから。
でも…」
そこまで説明されて雀花が察する。
「そうか…!
味を──足すことなら…!!!」
イリヤがココアパウダーに計量スプーンを突っ込み
ナツメグ入りの生地に加えていく。
「強力なココアの風味でナツメグの風味を覆い隠そうってわけか!」
「しかし…可能なのかそんなこと!?
言ったはずだぞイリヤ!
お菓子作りは分量が命!
目分量でのアレンジなんて…!」
「違うわ…」
雀花の不可能だという言葉にイリヤが異を唱える。
「料理は化学?分量が命?
違うわスズカ…。
もっと、もっと大切なことを忘れてる」
イリヤがその大切なことを伝える。
「料理は愛情、でしょ?」
イリヤの聖女のような笑みを浮かべての言葉に
「「イッ……、イリヤァァァァァァ!!!」」
雀花と那奈亀の二人が胸を打たれ涙を流す。
「ついでにシナモンも見つけたんだけどどうかな!?」
「いったれいったれー!!」
「ハチミツあったぞイリヤ!」
「ナイスナナキー!」
三人が次から次へと材料を足していき
ついに
「というわけで生地完成!
どうにかそれっぽくなったわ!!」
完成した生地は多数の材料を混ぜたからか濃い黒色になっていた。
パッと見はチョコ味に見える。
「そろそろオーブン入れないと間に合わないわよー」
「まずい、急げ急げ!」
「あとはドライフルーツを入れるだけね!」
ドライフルーツをザラザラと急いで入れ
「よし!いざオーブン…」
笑顔でオーブンへと向かおうとした。
その時
ザカザカザカザカ
ラップでぐるぐる巻きになっている龍子が
ラップの隙間から腕を出し
またしても何かを入れる。
「─────」
イリヤが笑顔のまま止まる。
そして
「タツコがまたなんか入れたーッ!?」
「「お前ぇぇぇぇぇ!!!」」
イリヤが涙を流しながら悲鳴を上げ
雀花と那奈亀が怒り龍子に連続で蹴りを浴びせる。
「何入れた!?今度は何入れたー!?」
「フ…フリ○ク」
「フリ○クーッ!?」
龍子が首を絞められながら何を入れたか白状する。
「ミントの風味を…足そうかと…」
「また余計な知恵をまわして!!」
「こいつの知恵は悲劇しか生まんのか!?」
龍子がガクリ…と力尽きる。
「イリヤちゃん!時間!」
「うあああん。もうこのまま出すしかないー!!」
イリヤが泣きながら
タツコのバカーーーーー…
と生地を提出する。
そしてその様子を
(哀れねイリヤ…)
クロエが哀れみ
美遊とシロエがとなんとも言えない表情で見ていた。
…
……
………
調理実習が終わり
美遊が教室に戻ろうとすると
「ミユ」
自身の名前を呼ばれ振り向く。
そこに居たのは
「…シロ?どうしたの?」
「えっと…」
シロエはいつものふざけてる態度とは違い
何か言いたそうに口をモゴモゴとさせる。
「?」
美遊は訝しんでいると
「あの……こ、これ!!」
「これは…」
シロエは恥ずかしいのか顔を赤らめながらも
美遊にタッパーを…調理実習中に完成したそれを差し出す。
「これを…わたしに?」
「……うん。その、家族とミユに作ったからまずはミユに…って」
シロエのしどろもどろの言葉に
唐突だったせいか美遊は
タッパーの中のそれを凝視する。
「…」
「あっ…。でも、食べたくなかったなら別に…」
無言の美遊に不安を感じたのか
シロエは眉を下げタッパーを
「…ううん嬉しい。ありがとうシロ」
戻そうとするが美遊が微笑みながらシロエの手を止める。
気落ちして戻そうとしたところに美遊の手が触れビクリとするシロエ
「食べてみていい?」
「!う、うん!」
美遊はシロエからタッパーを受け取り
蓋を開けそれを口に入れた───。
…
……
………
「へぇ。よくできてるじゃないか」
時間は進み
学校が終わり衛宮邸に帰宅した三人
そして士郎の前にはイリヤとクロエ達がそれぞれ作った
パウンドケーキが入っているビニール袋が置かれている。
「焼き加減もちょうどいいし初めてとは思えないよ」
リビングにて
ビニール袋越しにパウンドケーキを見て
士郎が見た目の評価を行う。
「あははっ♪」
「あは…は…」
言うまでもなく喜んでいる前者がクロエの反応であり
顔が引きつらせている後者がイリヤの反応である。
「でも作ったのはクロじゃなくてミミむぐっ」
「はいはい。いつも通り黙ってましょうねシロ」
あっさりと暴露しようとした妹の口を塞ぐクロエ
「予想外に食べられるものにはなったから。
その…『当たり』さえ引かなければ大丈夫かと…」
「?」
トラブルの割りには意外と食べられるものにはなったけど…。
所詮『意外と食べられる』レベル…。
ミミが作ったのに敵うわけないよ。
シロも今回ばかりは全然戦力になってたし…。
(せめて
イリヤが両手を組み、祈りを捧げていると
「どっちがおいしいか判定してお兄ちゃん!
贔屓しないで公正にね!
勝った方にはキス!」
「キッ…!?ちょっと勝手に…!」
「そ、それわたしも…!?」
「あっ、シロは嫌なら別に断ってもいいわよ」
「えっ、えっ。じゃ…じゃあ…。
いやでも、別に、お兄ちゃんが嫌いっていうわけじゃないし…」
「シロ!?惑わされちゃダメ!!」
顔を赤くし明らかに迷っている妹を
同じく顔を赤らめながら急ぎそっちの方向へ行かないように諌めるイリヤ
そんな三人を尻目に
「はは公正に…か。
安心してくれよクロ。
俺は…」
三人を家族としてしか見ていない士郎は
冷静に袋を開け
「料理に関して嘘は許さない」
超がつく程の真面目な顔でパウンドケーキをかじる。
((ああ…!不必要に真剣な顔のお兄ちゃんもステキ…!))
その様子に胸を打たれるイリヤとクロエ
(…ナニコレ)
そんな三人の様子を見て
却って冷静になるシロエであった。
そうして二つのパウンドケーキを味わい終わり
「うん。まずクロとシロの方だけど…。
すごくよくできてる」
「ホント!?」
「…」
「一つ一つの工程を丁寧に重ねたんだろう。
仕上がりにムラがない。
食べる人に対する想いが感じられる味だ」
「えへへー」
(ヌケヌケと……!)
(食べる人に対する想い…ねぇ)
士郎の評価にクロエは喜び
イリヤはクロエを厳しい目で見て
シロエは若干白い目をする。
しかし
「…でもこれは俺じゃなくて別の誰かのための味だ」
士郎の評価はまだ終わらない。
クロエの表情が固まる。
「一般的なものに比べ若干甘味が強く
またイリヤの方には入ってるラム酒漬けのドライフルーツが入っていない。
たぶん俺よりもっと小さい子向けの…。
例えばそうだな──」
そして
士郎が総評を下す。
「『姉が弟のために作ったお菓子』ってところか」
「………っ!」
(…結局バレちゃってるし)
完全に見抜かれてしまったクロエが冷や汗をかきながら目を見開き
シロエが内心呆れる。
「ふっ…。さすがね刑事さん…。
そうよ…。それはわたしじゃなくてミミが作ったもの」
クロエの言葉からようやく観念したかと
イリヤは思ったが
「けどそれが何だって言うの!?
おいしければ誰が作ったっていいじゃない!」
全然そんなことはない。
刑事ドラマの崖際に追いつめられた犯人の如く
開き直るクロエ
「お…往生際が悪いわよ犯人ーっ!!」
「いや何の犯人?」
突っ込みが不在のため普段はボケ役のシロエが珍しく突っ込む。
「それはどうかな」
士郎が懐から警察手帳…ではなく
「イリヤのケーキ…?」
イリヤのパウンドケーキをクロエに突きつける。
「なに?まさか、そっちの方がおいしかったって言うつもり?」
「いや味に関しては正直言って
おいしくはなかったです」
ゴン!
兄の言葉にダメージを受けるイリヤ
「フリ○クは何かの間違いだと思いたいな」
ゴゴン!!
祈り空しく『当たり』入りを引いていた事実に
更に大ダメージを受けるイリヤ
おいしくなかったおいしくなかった…。
床に両手をつき涙を流すイリヤ
「あ、いや悪い。はっきり言い過ぎた」
「………一応お姉ちゃんの名誉のために言っておくけど
フリ○クやら何やらが混ざってるのはお姉ちゃんと同じ班員の子の暴走が原因であって
お姉ちゃん自体はいたってまともに調理してたよ。
…ぶっちゃけるとお姉ちゃん一人で調理してたらおいしく出来てたと思う」
「シ…、シロォ…」
妹のフォローに感涙にむせび泣くイリヤ
「そっか。教えてくれてありがとなシロ。
でも…おいしいとかまずいとかそういうことじゃないんだよ」
「?」
「…二人とももう覚えてないかな」
ーーーーーーーーーー
「──肉じゃが?」
時間はまた遡り
小学生の士郎をセラが叱っている。
「確か日本の家庭料理…でしたね。
どうしてそんなものを…」
「だってセラの料理洋食ばっかだし」
「なっ…そっ…、それの何がいけないのですっ!!」
不満顔の士郎の指摘にセラが憤慨する。
「だいたいそれならそうと直接言えばいいでしょう!
こんな当てつけのようなことをされては不愉快です!
そもそもあなたは長男としての自覚が…」
「もういいよ!
料理なんて二度とやらない!」
セラの説教に士郎が反発する。
「シロウ!」
「それでいいだろ!
こんなもの…」
士郎が肉じゃがの失敗作が載っている皿を乱暴に掴んだ。
その時だった。
横から小さな手が伸び
黒い物体をつまみ
「あっ…」
ぱくっ
と五歳のイリヤが口へと運ぶ。
背が低く皿へと手が届かないためか机の上へと乗っている。
「イリヤ…」
「お嬢さ…」
士郎とセラが声を掛けようとし
「…」
先まで一緒に遊んでいたのか
衛宮邸に来て間もないシロエが
イリヤと同じように机の上に乗り
姉の後ろから無言かつ無表情でその様子を見ている。
そして
「
イリヤの顔をしかめての一言が小学生の士郎にダメージを与える。
「…失敗作だよ」
「お嬢様。こんなコゲたものを食べてはいけません。
これは捨てるところだったんです」
セラが皿を下げようとするが
ぱくっ
「あっまた…」
「~~~~…!」
「お嬢様…?」
食べては悶絶するを繰り返すイリヤ
さらに
「…」
「シロさんからもなにか言って…」
イリヤの後ろにいたシロエがイリヤの横へと無言で移動する。
セラは止めてくれるのだと安堵しかけたが
ひょいっ……ぱくっ
「!?」
「シ、シロさん!?」
姉と同じように手でつまみ口に入れる。
一瞬動きが止まるが何事もなかったかのように
無表情かつ無言で食べはじめる。
そんな妹を横目にイリヤも顔をしかめ涙目になりながらも再び口に入れ悶絶するを繰り返す。
「お二人ともやめてください!これは捨て」
「すてちゃ…だめ」
「…」モグモグ
セラが二人を止めようとするが
イリヤがむせながらも拒絶し
シロエは特に何も返さずに黙々と食べ進めていく。
「おいしくないけど…シロといっしょに…たべる」
「…うん」
そんな二人の様子を士郎はなんとも言えない表情で見ていた。
ーーーーーーーーーー
「『料理は愛情』
…ってよく言うけどさ」
過去の回想を終えた士郎が話を続ける。
「それは作る側だけのことじゃなくて
食べる側にも同じことが言えるんだよな」
士郎はイリヤの頭に手を乗せ
「だから…イリヤが一生懸命作ったんだってことはちゃんと伝わったよ」
そのまま額にキスをする。
「おにっ…」
瞬間イリヤの顔が真っ赤に染まる。
そして
「このロリコン&シスコーン!!」
「ぐぼら!?」
セラの掃除機での振り下ろしが
士郎の頭部に直撃した。
「いつかやると思ってましたよ!!
変態!!変態!!」
「ちがっ…これは勝者へのキスで…」
「HENTAI!!」
途端に騒がしくなるリビング
しかし
ホワワ~~ン
夢心地のイリヤの耳には届かない。
そんなイリヤの背中にタックルをする敗北したクロエ
それに我に返ったイリヤが怒りクロエの腹部に頭突きをする。
それに対してクロエはイリヤを押し倒し
喧嘩は激しさを増す。
「リズ!!リズー!!
そこの変態の関節という関節を締め上げなさい!!」
「おっけー」
「やめっ…げごがががが!!」
一方でシロエは
(なんでだろう…?
お姉ちゃんが褒められて、よかったはずなのに…。
なんだか……モヤモヤする)
自身の中に込み上げてくるなにかがわからず首を傾げているのであった。
…
……
………
「まったく…」
ようやく怒りが治まったのか
セラが関節技によりボロ雑巾と化した士郎から
眉間に皺を寄せながらも離れる。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「お、おう…。なんとかな…」
シロエの呼びかけに士郎が覚束ない足取りで立ち上がりながらも応える。
「…………パウンドケーキじゃないんだけどね
これ作ってみたの。…食べる?」
「ん?お前これ…」
最初に美遊に上げたお陰からかそこまで緊張せずに
シロエが士郎にそれを載せた皿を差し出す。
「あ、セラ、リズちょっと待って。
みんなの分もあるから」
リビングから出ていこうとするセラとリズを呼び止める。
「うん?なになに?」
喧嘩を終えたばかりで微妙にボロボロになっているイリヤとクロエが
妹の呼びかけに反応し集まる。
そして妹が持つ皿の上には
「これ……大福?」
求肥で包まれた手のひらサイズの白く丸い物体が皿の上へと鎮座していた。
現在不在である切嗣を除いた人数分用意されていた。
「この大福、シロが作ったのか?
求肥も全部?凄いじゃないか」
「夜な夜なキッチンで何をやってるのかと思いましたけど…。
言ってもらえれば、わたしが作りましたのに」
「あはは…。気まぐれってことで許してよセラ。
それに大福…と言っていいかどうかわからないけど…。
まあ食べてみてくれればわかると思う、よ」
「え、なにその不安にさせるような言い回しは」
「お兄ちゃん達食べるのちょーっと待った!」
「な、なんだよクロ」
調理実習で現れたフラスコやら試験管やらを見てしまったクロエが顔を引きつらせながらも
士郎達が口に運ぼうとするのを一旦止める。
あれを見てしまった以上、求肥の中身がどうしてもおぞましいものが入っているのでは?と勘ぐってしまうのである。
イリヤもあれを見たため、どうすべきか葛藤している。
「ミユもおいしいって言ってくれたけど…」
「ミユが…?」
先に美遊にも渡していたことに驚きながらも
それなら大丈夫…?
とイリヤが思うところであったが
(でもミユのことだからシロの作ったものってことで無理した可能性もあるんじゃ…)
(う、うーん…。ない…とは言いきれないかも)
友達への…イリヤとシロエへの想いが半端ではない美遊であれば
たとえおいしくなかったとしても無理をして笑顔でおいしいと言う美遊の姿がイリヤ達には簡単に想像できた。
「………食べて…くれないの?」
「うっ…。いや、えっと」
「別に…食べたくないなら……食べなくてもいいよ。
それに気にしなくてもいい。日頃のわたしの行いが原因だし…」
「う…、うそうそ!冗談だよ!!
食べる!!食べるよ!!!」
明らかにしょんぼりとした妹を見て
イリヤが慌ててシロエが引っ込めようとした皿から
大福らしきものを手に取る。
…一見すると完全に普通の大福。
ただただ真っ白な求肥に包まれている。
いやそもそも、そもそもよ。
調理実習のあの液体を見たから及び腰になってるだけで
シロの料理はいつも50点なんだから
食べれないほど酷いなんてことはないはず…!
それに…
イリヤが自己暗示しつつ、ちらりとシロエを見る。
不安げな表情で妹が見ている。
姉として
大切な妹のために
ここで退くわけにはいかない──!!
イリヤは覚悟を決め大福らしきものにかぶりついた。
(………あれ?)
イリヤの口内に濃厚で上質な
濃厚ではあるがそれでいてくどくない。
覚悟していた妙な薬品の味など微塵もない。
つまりは
「…イ、イリヤ?大丈…夫?」
「…おいしい」
「へ?」
「おいしい!おいしいよこれシロ!!」
「ほ、本当…?」
「うん!全然50点じゃない!
甘くてすごくおいしい!!」
イリヤの反応に目を見開くクロエ
「イリヤ…。あんたミユと同じように無理して…」
「いないよ!?ホントにおいしいんだって!!」
「まさか味覚が…」
「破壊されてもないから!?
いいから食べてみてよ!お兄ちゃん達も!」
イリヤに促され
士郎達と少し逡巡したクロエが
大福(?)を口に入れる。
「う、嘘…」
「これは…ホワイトチョコか?
ホワイトチョコを求肥で包んで…。
うん、確かに甘くておいしいな」
士郎がかぶりついた箇所から覗くホワイトチョコを見ながら解説する。
セラとリズも同様の感想のようである。
皆の反応を見て安堵するシロエ
「…悪かったわよ。食べずに決めつけちゃって」
「………ううん。不安にさせるようなことを言っちゃったわたしも悪かったし」
クロエの謝罪を聞き
シロエもクロエに謝る。
「雪見大福ならぬ雪見ホワイトチョコ…かな。
名前を付けるなら」
「雪見ホワイトチョコ…」
「うん。いいんじゃないか。
…しかし」
「うん?」
「この雪見ホワイトチョコ、調理実習より前から作り始めてたんだよな?
なんでまた…?」
「それは…」
理由は…ある。
それは、慣れるため。
わたしはお姉ちゃん達に誕生日プレゼントを用意することに決めた。
だけど、いきなり誕生日プレゼントを渡すのはわたしには少し……いや、かなりハードルが高いんじゃ…?って思った。
…決して初めての誕生日プレゼント渡しにビビってるわけじゃない。決して。
とにかく、それならまずは軽い料理でも振る舞って慣れておこうという結論になった。
でも、それを言うわけにはいかないから…
「…まあセラにも言ったけど気まぐれだよ気まぐれ」
「…そっか。ありがとなシロ」
「うん!」
士郎からの言葉に顔を綻ばせるシロエ
「しかし本当に美味いなこれ。
ホワイトチョコも求肥も両方ともよくできてるしそれに…」
しかし
「シロの
士郎のその言葉にシロエの顔が笑顔のまま固まり
シロエの中でなにかが鎌首をもたげる。
(愛情…?)
そんなものはない。
わたしが料理を振る舞うと決めて何を作ろうかと考えた時
自然と頭に浮かんのがこの雪見ホワイトチョコだった。
求肥とホワイトチョコの詳しいレシピも含めて思い浮かんだ。
おそらくだけど…ここにいるのが
これを作って大切だと思う人達に配っていたからだと思う。
つまりは雪見ホワイトチョコは
わたしはただそのレシピ通りに従って作っただけ
だから仮にお兄ちゃんが愛情を感じたのであれば、それは
わたしじゃない。
使い魔が……『道具』が愛情なんて───
───ダメ。
考えたらいけない。
それ以上考えを進めたらわたしは
「…シロ?」
「!」
幸いというべきか笑顔のまま固まった所為で表情は崩れていなかったものの
突然無言になったシロエを訝しみ声をかけるイリヤ
そんな姉の言葉に意識を取り戻すシロエ
しかし
「…」
「えっと…どうかした?」
平常心を取り戻せずいつものようにテンションを高く返事をすることができない。
そこに
「ん、なんだ?どうかしたかのか?」
「いや、えっとシロが」
先まで雪見ホワイトチョコを食べていた士郎が
心配そうな表情をしたイリヤに話しかける。
その時だった。
トッ…
シロエが士郎の胸に飛び込み、抱きついたのは
「へ?」
「シッ…!?」
「なっ…!?」
士郎が困惑の声を
イリヤとクロエが驚きの声を上げる。
そしてイリヤにはその光景に見覚えがあった。
美遊だ。
美遊が士郎と初めて出会った時にした行動と全く同じだったのだ。
あの時と全く同じ光景を不意に
しかも妹が再現し唖然とするイリヤ
(…お兄ちゃんの顔を見たらミユのこと思い出して
つい同じ行動を取っちゃったけど………。
……なるほど。確かにこれ落ちつく…………)
驚き唖然とする一同を余所に平常心を取り戻していくシロエ
「え、えーと…。シロ?」
「それはそうとお兄ちゃん」
「あ、ああ」
「心音がどんどん早くなっていってるけど…。
もしかしてわたしに欲情してる?」
「「!?」」
「は、はあ!?なに言って…」
イリヤとクロエの目つきが鋭くなり
士郎が吃ったその時
「このロリコン&シスコンパート2ーッ!!!」
「へぶうッ!!?」
士郎の顔面にセラの跳び蹴りが飛来した。
衝撃でシロエから士郎が離れる。
「あなたまた性懲りもなく、しかも今度は違う妹を…!」
「なんでさ!?抱きついたのはシロであって俺はなにも」
「シロさんに抱きつかれて鼻の下を伸ばしていたでしょう!
おまけに妹によ、よ、欲情なんて…!」
「だからそれはシロが勝手に」
「えっ、お兄ちゃん酷い…。わたしにはなんの魅力も感じないっていうの…?」
「い、いやそんなことはないぞ。シロは純真でかわいいし、とても魅力が」
「シ~ロ~ウ~!!」
「ま、待て!今のはシロを励ますために…ギャアァァァァァッ!!?」
士郎を床に背負い投げで叩きつけそのまま寝技へと移行するセラ
「死ぬ!さっきの痛みが引いていないところにこの十字固めは死ぬって!?」
「リズー!!ロープを持ってきなさい!!
このいやらしいことを考えてる変態を縛り上げるのです!!」
「ラジャー」
「あははは。さて…」
シロエは兄の様子に笑いながらも背中に突き刺さる殺気に反応し
「逃げよっと」
「「逃がすかぁッ!!!」」
姉二人から逃亡を図る。
…ぎこちないけど少しずつ廻り始めたクロとの生活
シロも含めて苦労は倍増したけど…
こんなのも悪くないかなって思えてきた。
けど
何か…
何か漠然とした不安がいくつもこびりついていて
こんな生活がいつまでも続くはずがない。
…心のどこかでそう思っていた。
そんなイリヤの不安を肯定するかの如く
ちょうどその頃、冬木の最寄り空港に
ショートヘアで凛としたスーツ姿の女魔術師が
日本へとやってきた。
…
……
………
「そういえばなんで今朝、自分でお弁当作ったんです?」
「ちょっとした弁当勝負があってさ…。
一応勝ったぞ」
「ほう。これが勝者の姿ですか」
「………」
尚セラが言う士郎の姿は
ロープでぐるぐる巻きにされ
頭をセラが左足でぐりぐり踏まれている姿である。
一方の小学生組は
「このっ…ちょこまかと逃げて!」
「そんな大振りの攻撃なんて当たらないよーだ!
クロは所詮…料理対決の"敗北者"じゃけェ…!!」
「ハァ…ハァ…。
取り消しなさいよ……!!
今の言葉……!!」
「のらないでクロ!!戻って!!」
「あいつ、わたしをバカにした……!!」
制止するための肩に置かれたイリヤの手を振り払うクロエ。
なんだこの茶番
「ミミが作ったパウンドケーキを自分が作ったと偽りお兄ちゃんに提出。
だけどお兄ちゃんにあっさり見抜かれお姉ちゃんに軍配が上がる。
戦力は圧倒的に勝ってたのに自業自得で負けるなんて
実に空虚な結末じゃあありゃあせんか?」
「やめなさい……!!
わたしは誰よりもお兄ちゃんを想ってる!!」
クロエが左拳を振りかぶり
左拳に火が灯る(ように見える)。
「お兄ちゃんを手に入れるのはこのわたし!!
この時代の名が!!!
"クロエ"よ!!!」
そしてその左手の火拳をシロエ目掛けて
「ってなにやらせんのよ!?」
「いや、のってきたのクロじゃない」
「あんたが振ってきたから仕方なくのっただけよ!」
「えー。その割りには一番ノリノリだったように見えたけど。
ねぇお姉ちゃん」
「えっ。わ、わたし?う、うーん…。確かにやけに長く付き合ってくれるなぁって思ったけど…」
「…今までクロって振り回す側だと思ってたけど
実は振り回されたい願望でもあるのかな?
所謂ツンデレとか構ってちゃんとかっていう」
「あー、それはあるかも」
「よーし二人ともそこに並びなさい。
二人まとめて張っ倒してあげる」
「え?わたしも?」
「きゃー♪怖ーい♪」
「あんたらぁッ!!!」
「な、なんでわたしまでー!?」
雪見ホワイトチョコはFGOのバレンタインイベントにおけるシトナイからのチョコ(概念礼装)です。
知ってるかもしれませんが一応注釈しました。