※
「胸部にさらし」→「胸部に黒い布のさらしを巻き」
修正しました。
「それで?相談ってなにかしら?」
時間は遡り
シロエ達がクロエの捕獲に成功し
地下室へと閉じこめ、イリヤとシロエが帰ろうとした時
シロエが凛に相談があると持ちかけ
イリヤは先に帰り
エーデルフェルト邸の一室にて
凛とシロエが向かい合っていた。
「…」
「?どうしたのよ?」
黙っているシロエを訝しむ凛
そしてシロエは
(…ごめん。リンさん)
心の中で一言謝った後
「…報酬」
「え?」
「報酬の話をしようかな。って思ってね」
凛へと交渉を始める。
「報酬…って」
「もちろん。今回クロを捕獲した報酬よ」
この少し前
凛達はクロエを捕獲し
クロエに襲撃の抑止力として呪いを付与
エーデルフェルト邸の地下室に監禁していた。
そしてそのクロエの捕獲を成功させたのは
紛れもなくシロエであった。
そしてその報酬をシロエは要求しているのである。
それに気づいた凛は僅かに目を見開いたが
すぐに冷静になり
「…随分と強欲なことね。イリヤを護りたいんじゃなかったのかしら?」
「もちろん護りたいよ?それは間違ってない。
でもね、それならわたしが独断でお姉ちゃんを護れば済む話。
リンさんの指示に従う義務はないよね?」
クロエを捕獲する際
シロエはクロエをおびき寄せるためにイリヤと一緒に宙吊りになり
おびき寄せた後も底なし沼へとクロエを叩きこんだ。
全部、凛の作戦である。
「でもそれだとリンさんも困るよね?
わたしに作戦を無視されて動かれたら」
「それは…」
無論、言うまでもなく困る。
シロエが独断で動くことにより作戦が台無しになる可能性が出てくるのだから
「っていうかわたし、別におかしなこと言ってないでしょ?
簡単に言っちゃえば労働に対する対価を要求しているだけなんだから。
魔術師云々じゃなくて人として当然の権利でしょ?」
「ぐっ…」
「…わたしはお姉ちゃんとは違う。
有耶無耶にしてなあなあで手を貸したりなんてしないの」
シロエがそう言い放つと
凛は目を閉じ、ため息をひとつ。
そして
「…わかったわよ。でも今、わたしに余裕は」
凛に今、金銭的余裕はない。
ないからこそメイドとして大嫌いなルヴィアの下で働いているのだから
しかしシロエもそれはわかっている。
否、わかっているからこそ報酬の話をした。
即ち
「『バーサーカー』」
「え?」
「『バーサーカー』のカードの所持権を要求するわ」
予想外の要求に凛の目が見開かれる。
「あんた…それは…」
「…回収任務が終わってなおカードがリンさん達の手元にあるということはカードの所持権はリンさん達にあるはず。
現にさっきもお姉ちゃんに『ランサー』のカードを渡してる」
「…あれは預けただけよ。必要なくなったら返してもらうつもり」
「それでも、リンさんの判断で預けたのであれば
今現在の所持権はリンさん達が握っているはず」
図星である。
時計塔において
カードの回収任務は大師父に委譲され
その大師父は凛達へと回収任務を言い渡した。
そして回収任務が終わった今
所持権は代理人たる凛達にあった。
少なくとも今は
「…」
「そもそも解析したいのなら
六枚もあれば事足りるでしょう」
これも間違っていない。
施されている術式は未だに解明されてはいないが
七枚全てがそれぞれ別々の術式が施されているわけではないのは確か。
同一の術式が使われている。
それならば七枚でも六枚でも大差はない。
解析においては、だが
凛は少し考えた後
シロエに答える前に
疑問に思ったことを口にする。
「…なんで『バーサーカー』なのかしら?」
「ん?」
「仮に…普通に考えたら礼装もなく出来るはずがないんだけど
そう、仮によ。
仮に『バーサーカー』のカードを
『セイバー』の聖剣や『ランサー』の魔槍でもなく
なんで『バーサーカー』を…」
「…」
凛は知らない。
カードの本来の使い方を
礼装を媒介として英霊の武具を召喚するのではない。
カードの真骨頂は英霊の力をその身に召喚し英霊自身になるということを
その真骨頂も含めれば『バーサーカー』のカードは決して『セイバー』や『ランサー』にも引けを取らない。
否、それ以前にバーサーカーは…。
「秘密…と言いたいところだけど………そうね」
「…」
「わたしはこの英霊…バーサーカーを知ってる」
シロエの発言に凛は目を見開く。
そして思い出す。
シロエはバーサーカーの宝具を知っていたことを
「バーサーカーは………大切な存在なの。
別の誰かに使役されてるのを見るのが苦痛になるくらいに。
……それがバーサーカーを選んだ理由」
「…」
詳細を語ろうとしないシロエであったが
シロエのその目はどこか憂いを帯びていた。
いつものふざけている様子は微塵もなく
戦闘中の冷たい無表情でもない。
シロエとの付き合いはまだ短い凛であったが
子供らしくない…シロらしくない表情であると
そしてなにより嘘は吐いていないと
凛はそのように感じた。
沈黙がしばらく続いた後
「………断るわ」
「…」
「確かに解析するのに七枚でも六枚でも変わらない。
所持権もわたしが持ってる。
でもね、それは日本にいる間の話」
日本での留学期間が終わり
時計塔に戻れば、カードは提出しなければならない。
「わたしたちの任務は七枚全てのカードを協会に持ち帰ること。
所持権の譲渡はできない」
「…そう」
「とはいえ、他に払える報酬がないのも確か。
だから『バーサーカー』のカードの貸与…つまりイリヤと同じね。
それを報酬にするってことでどう?」
「うん。いいよそれで」
妥協案を出した凛に対して
シロエはあっさりと了承する。
「…っていうか最初からそれが目的だったでしょあんた」
「あ、バレた?」
シロエは先までの怖いくらい真面目だった雰囲気を霧散させ
悪戯がバレた子供のような苦笑いを浮かべる。
そしてそんなシロエをジト目で見る凛
「…最初に通らないであろう無理難題を吹っ掛けて──」
「──本命である妥協案を引き出す若しくは提示して通しやすくする。
うん。交渉術の基本よね」
悪びれもせず、しれっとした様子で言うシロエ
「あんたねぇ…。
子供らしく素直に貸してほしいって頼みなさいよ。
姉を見習いなさい。姉を」
「えー。それだとリンさんに貸し作っちゃうじゃない」
「それのなにが問題なのよ?」
「ほら、レンタル料一日一万円とか言い出したり…」
「しないわよ!?子供相手にしかもどれだけの暴利よ!?」
「だってリンさんってお金にがめつ…あっ、ぶたないでぶたないで」
凛が拳を振り上げるのを見たシロエが慌てて頭部を守る。
「それに無理難題もそうなったらいいのにっていう願望がなかったといえば嘘になるし」
「……………はぁ」
先のバーサーカーのことを話していた際の
シロエらしくない表情を思い出し
振り上げた拳を下げ、溜め息を一つ吐く凛
そして
「確認するわよ。
カードの貸与期間はわたしが日本にいる間。
ロンドンに帰る時になったら速やかに返却すること。
それにカードを渡している間はわたしの指示には絶対服従。
それでいい?」
「……………うん」
凛は『バーサーカー』のカードを取り出し
シロエへと差し出す。
そして
シロエはそのカードを受け取った。
その時
カードから
大きくそれでいて懐かしい力を
シロエは感じた気がした。
ーーーーーーーーーー
ドッ!ガッ!ドゴンッ!!!
「………う…」
バゼットに地面へと叩きつけられ
気絶していた美遊が
激しい打撃音に
呻き声を上げ目を開ける。
「美遊様!」
「サファイア…?
………ッ!!敵は!?」
美遊は目を開けた数瞬後
なぜ気絶したのか思い出し
勢いよく起き上がる。
「落ちついてください!敵は…彼女は今」
サファイアの押し止めようとするも
美遊は状況の把握のため周囲を見回す。
そして視界に収める。
拳を振るうバゼットと
そして
「あれは…シロ、なの?」
そのバゼットと打撃戦をしているのはシロエであった。
しかしシロエはいつもの民族衣装ではなく
胸部に黒い布のさらしを巻き
両手首と両足首にはリストバンド
下半身は腰蓑を巻いた半裸の姿
長い銀髪はポニーテールにし
そして手には巨大な斧剣が握られていた。
いつもの白の衣装とは真逆の黒の衣装
そしてその姿はまるで
「バーサーカー…?まさか…!」
「はい。シロ様もカードを受け取っていたみたいです。
そして到着してすぐに美遊様と同じように
ミユは一瞬目を見開き驚いたが
毎回毎回ありえない模倣をくり出しているシロエであったため
すぐにその驚きを呑み込む。
むしろイリヤの方が
「嘘…シロまで…!!?」
と今も驚いているくらいである。
「ですので美遊様は治癒の方を…。
イリヤ様達も姉さんが治癒をしていますので」
「…戦況は?」
「戦況は──」
ーーーーーーーーーー
振るわれるバゼットの拳
凄まじい回転数の乱打を
シロエは悉く打ち落とし、若しくは斧剣を盾にし防いでいく。
(…っ!この少女……!!)
攻めているのは、手数が多いのはバゼットである。
間隙を縫ってシロエの斧剣が振るわれることもあったが
単発で終わっていた。
しかしそれでもバゼットの顔色は険しい。
その理由は
(戦い慣れている!!
エーデルフェルトの娘より…否!下手をすればわたしよりも…!!?)
確かに攻めているのはバゼットである。
しかしこれだけ攻め立てているにも関わらず
一発も攻撃が直撃しない。
そして敵の動きを見てみれば敵の力量くらいはバゼットは理解できる。
目の前にいる少女の動きは非常に戦い慣れていることに。
しかもそれらは訓練によるものではない。
明らかに実戦で研かれたものであると
バゼットは封印指定執行者である。
故に数多いるどの魔術師よりも戦闘経験は豊富であると自負していた。
しかし目の前の少女は…最低でも自分と同等の経験を積んでいるように感じた。
(年齢と戦い方が一致しない。
いったい………いや)
関係ないことだとバゼットは拳を振るいながら
思考を切り替える。
今重要なのは、その少女が目標であるカードを手中に収めているということ
目の前の少女が何であれ、なんとしても打倒しなければならない。
(幸いにも速度はわたしの方が上。ならば)
バゼットが攻撃を止める。
それに示し合わせたかのように
シロエが右手の斧剣を上段に振りかぶる。
しかし
バゼットはその瞬間
シロエへと一歩踏み込み
「…ふっ!!」
渾身の力で右ストレートを放つ。
イリヤやクロエを悶絶させた一撃が
シロエの左頬に突き刺さる。
が
ギロリ
シロエは意にも介さずバゼットを睨み付け
「なにっ!?」
何事もなかったかのように斧剣を上段より振り下ろす。
バゼットは咄嗟にサイドステップ。
斧剣をギリギリでかわす。
しかし
ガァンッッ!!!
バゼットが先まで立っていた地面が
真っ二つに割れた。
「っ!?……なるほど、圧倒的なまでの頑強さと破壊力。
それが『バーサーカー』の力というわけですか」
底の見えない地割れを見てバゼットは理解する。
一撃でもまともにくらえば終わりである、と
「……力」
「?」
「力が湧き上がってくる。次から次へとわたしの中から…」
ううん。それ以上の力を……感じる。
シロエはその溢れてくる力に口元を歪めながら
「負ける気がしない」
その言葉に多少なりともイラついたのか
眉間に皺を寄せバゼットが再び襲いかかる。
しかし先のように真正面からではない。
バゼットの攻撃は
「あれは…!(わたしの時と同じ…)」
イリヤに対して行った高速移動からの全方位攻撃である。
『バーサーカー』の破壊力を警戒したのだろう。
凄まじい速度による拳の嵐で反撃すら許さない。
それがバゼットの選択であった。
シロエの前後左右から拳がほとんど同時に襲いかかる。
しかし
ガガガガガガガガッ!
その全てに対しシロエは反応し叩き落としていく。
否、それどころか
ブォンッ!
一発、かわす。
再び叩き落としていき
またしてもかわす。
三発、四発とかわしていく量が増えていき
ついには
ダンッ
シロエもまたバゼットの速度についていく。
「「!?」」
その圧倒的な速度による連打に閉じこもることしかできなかったイリヤが
なにより意図せず一瞬で間合いを詰められたバゼットが
それぞれ驚愕する。
そして
(まず…)
横薙ぎに振るわれる斧剣
バゼットは咄嗟に思いっきり後ろへと跳ぶ。
結果
「ぐっ!!」
斧剣はバゼットに初めて当たる。
しかし
吹き飛んだバゼットは地面に四つん這いになり
なんとか踏みとどまる。
当たる瞬間に後ろへと跳んだため
衝撃を逃がすことになんとか成功していたのだ。
(…勝っている速度で撹乱しつつ持久戦に持ち込むつもりでしたが…まずいですね)
先のシロエの速さと
戦闘が始まったばかりのシロエの速さを
それぞれ思い出しながら
バゼットは確信する。
(
原因はわかりませんが間違いありません。
…いや、下手すれば)
戦闘が始まったばかりの時はシロエはバゼットの速度についてこれず防戦一方であった。
それがバゼットの攻撃をとうとうかわし、一瞬とはいえくらいつかれた。
これらのことからシロエの速度…否、全ての能力が時が経つにつれて上がって来ているとバゼットは感じた。
そしてそれは正しかった。
バーサーカーとシロエ…『イリヤ』の間には縁がある。
それも切っても切れないほどの強力なものである。
事実、シトナイはその縁を使いバーサーカー…その影ではあるが、それをいつでも召喚することが可能である。
そしてその縁によりシロエはバーサーカーの能力をこの場にいる誰よりも引き出すことが可能であった。
とはいえ、シロエは初めて
時間が経つにつれ徐々にバーサーカーの力に順応していっているのであった。
そしてなにより
バーサーカーの怪力により敵をねじ伏せる戦闘スタイルは
シロエの慣れ親しんだ白熊時代の戦闘スタイルとそこまで大差はなかった。
戦闘スタイルの酷似という要因もまたシロエが急速にバーサーカーの力に順応していっている要因となっていた。
(持久戦に持ち込めば確実に負ける。
今の段階で一撃で仕留めなければ…しかし)
バゼットの頭に次の策が浮かぶが
バゼットは躊躇する。
それをすれば目の前の少女を殺すことになる、と
しかし
「…来ないならこっちから行くよ」
シロエは斧剣を振り上げ、バゼットへと襲いかかる。
「………やむを得ないですね。任務を優先します」
バゼットはそんなものは私情である、と
あっさりと躊躇を棄てさる。
そして振り下ろされる斧剣
しかし
「《加速》」
バゼットが《加速》のルーンを刻むと同時
シロエの目の前からバゼットが超速で移動する。
遠目から見ていたイリヤ達にはかろうじて
バゼットが先とは比べものにならない速度で
シロエの背後へ回り込んだのを目で追えた。
さらに
「《硬化》、《強化》」
超速で回り込みながら《硬化》と《強化》のルーンを刻み
右手の手刀の威力を上げる。
バゼットのその険しい顔から殺気が漏れ出す。
「シ…!!」
その殺気を感じたイリヤは悪寒を感じ
シロエに呼びかけようとするも
「《相乗》…!!」
それよりも速くバゼットの手刀が
シロエの心臓を背後から
ガシッ
「な…に…!?」
バゼットが驚愕に目を見開く。
シロエは振り向くことなく
バゼットのくり出した必殺の一撃を
左手で掴んだ。
「ルーン魔術…ね。よりにもよってこの
そう言いながらシロエは振り向く。
バゼットは我を取り戻し
手を振り払った後、距離を取る。
シロエはルーン魔術を馬鹿にしたわけではない。
しかし
シトナイはとある世界において
大神オーディンの残した原初のルーンに触れている。
そしてその経験を共有しているシロエからしてみれば
バゼットのルーン魔術はどうしてもレベルが低いように感じてしまうのである。
「ルーン魔術は正直得意じゃないけど…見せてあげる。
ルーン魔術っていうのは…こうやるのよ!!」
シロエが《加速》のルーンを刻む。
次の瞬間
シロエの姿がかき消えた。
「!!?」
「消え…!?」
遠目から見ていたイリヤ達すらも消えたようにしか見えない圧倒的な速度
しかし驚愕した次の瞬間には
ドスッ!!
バゼットの心臓は
シロエの右の手刀により
背後から貫かれていた。
「ガッ…ハ」
血を吐くバゼット
その目は
信じられない、と語っていた。
「……もうおしまい?
ふーん、そうなんだ。つまんないの」
味方である美遊とクロエですら
ゾッとするような冷たい口調で
心底つまらなそうに言うシロエ。
そして、イリヤは妹が人を殺す瞬間を目撃し
怖さと同時にショックを受けた。
そんなイリヤ達を尻目に
シロエは右の手刀をバゼットの胸から引き抜く。
バゼットは胸から血を流しながら
その場に倒れ──
ダン!!
──そうになったがバゼットはその場に踏みとどまり
無数のルーンがバゼットを包みこむ。
そして
「!?なっ──」
振り向き様シロエへ右ストレートを放つ。
ガツンッ!!!
油断していたシロエはもろにもらい
その場から弾きとばされる。
が、両足を踏ん張りなんとか踏みとどまる。
きいた…というより驚いたという表情のシロエ
「なんで…なんで生きてるの!?」
クロエがありえないものを見たように声を上げるが
バゼットは答えない。
シロエがバゼットの心臓…左胸を見る。
空いたはずの左胸は塞がっていた。
謎は深まるかと思ったが
シロエは先のルーン文字から答えを得ていた。
「………なるほど、ね。
《蘇生》のルーンを刻んでいたのね」
「《蘇生》の…ルーン!?」
「そんなの…宝具クラスの
シロエの解説に美遊とサファイアが驚愕の声を上げる。
「…戦闘前に念のためにと用意したものですが
まさかこの戦いで使うことになるとは思いませんでしたよ」
バゼットがまたしてもシロエに襲いかかる。
乱打乱打乱打。
先の高速移動からの乱打とは違い
一発一発腰を入れ体重を乗せ
速度よりも威力を優先した乱打である。
先とはタイミングの違う乱打のせいか
シロエは斧剣を盾にしなんとか防御している。
「シ、シロ…」
イリヤ達にはそう見えた。
助けにいかないと、そんな考えがよぎる。
しかし、その時
「……………アハッ」
シロエから聞き覚えのある声が聞こえた。
「アハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」
シロエは狂笑の声を上げながら
斧剣を上段から振り下ろす。
当然、途中何発もバゼットの拳が突き刺さるも
それがどうした。
そう言いたげに斧剣は振り下ろされる。
「くっ!?」
バゼットはそれをバックステップし回避。
しかし
シロエは狂ったように笑いながら
斧剣を振り回す。
「っ。わたしの時と…同じ…」
「シロ…また…!」
クロエがシロエとの殺し合いを思い出し顔を歪め
イリヤは見たくない妹の姿に目を背けたくなる。
そんな中、美遊は
(…おかしい)
一人訝しんでいた。
クロの時はシロが精神的に追い込まれたからこその豹変だった。
だからこそわたしはシロは精神的に脆いんじゃないかって考えた。
でも今のシロは敵に追い込まれてるわけじゃない。
それに…
『この間は…ごめんね。
怖い思いをさせちゃって』
………シロは豹変したことを後悔していた。
なのに、なんで…。
美遊が訝しんでる間にも戦闘は続いていく。
バゼットのカウンターを鬱陶しそうにしながらも上段より振るわれる斧剣
バゼットはそれを当然回避する。
しかし斧剣が地面に突き刺さり
「むっ!」
シロエは突き刺さった斧剣を大きく振り上げ
地面が隆起し、シロエの姿を見失う。
バゼットはその隆起した地面を壊そうと
ぞくっ
した瞬間、悪寒がしたバゼットはその場に伏せる。
その瞬間
背後よりバゼットの頭上ギリギリを斧剣が横薙ぎに通過した。
(姿を隠した瞬間に回り込んだのですね。
危なかった…)
そして再度振るわれる斧剣。
バゼットは急ぎ立ち上がり回避をし
続けて振るわれる斧剣も回避しようとするが
「っ!!」
斧剣がバゼットの頭部を掠める。
いよいよシロエの斧剣がバゼットを捉え始めた。
バゼットの頭部より血が流れる。
(このままでは……。いや、ここは)
バゼットは手数を減らし
斧剣の回避に専念する。
ーーーーーーーーーー
(………なに、これ)
美遊の目の前ではシロエがバゼットを接近戦にて追い詰めつつあった。
しかし
(なんで…。シロが優位に立ってるはずなのに…。
いやな予感が…悪寒が止まらない…)
今にも敵を捉えそうなシロの斧剣
シロの斧剣の攻撃速度はどんどん上がっていって…
(……………上がる?
それってつまり攻撃が
そして美遊は気づく。
悪寒の正体…バゼットの狙いに
しかし
ブォン!
シロエはバックステップしたバゼットに対して
そのまま追尾せずに斧剣を構える。
とうとう…バーサーカーの力がシロエに順応した。
シロエから恐ろしいまでの威圧感が放たれる。
「ルビー、これって…」
「ええ。シロさんの力が先ほどとは比べものにならない程に高まってます。
おそらく…」
「ダメッ!!!」
イリヤとルビーがシロエから感じる圧倒的なまでの威圧感とその力に戦いていると
美遊が焦った様子で叫ぶ。
美遊の様子に訝しむイリヤであったが
すぐにその理由を理解する。
ゴツン
バゼットの方から物音が聞こえ
イリヤは視線をシロエからバゼットへと移す。
そこには
鉄球を右拳にくっつけたバゼットの姿
さらに
「
その言葉と共に鉄球より現れる一振りの剣
嫌でも思い出す。
美遊が宝具を放とうとして返り討ちにされた
宝具を殺す宝具を
幸いにも
ミユの時は天馬が対象になったけど
今のシロは───
「ダメッ!!!シロ止まって!!!!」
「ま、まずいですよ!!!」
次の攻撃を放ったら最後
どうなってしまうのか明確にイメージ出来てしまったイリヤとルビーも慌てて止めようとするが
既に遅く
「
地面を踏み砕き
バゼットとの間合いを一瞬にして詰め
バーサーカーの力を
シロエの限界まで引き出した
九連撃の叩き潰しが
バゼットへと襲いかかる。
本物の
『ヘラクレス』としての
宝具である『
まだまだ同時といかず、速さも力も足りないが
それでも
『バーサーカー』としての能力を
シロエの限界まで引き出し、くり出されたそれは
充分に大技と呼んでいいほどの
圧倒的なまでの速さと力
しかし
その、刹那
「
バゼットが右を振り抜き
シロエの攻撃が停止され
シロエの心臓を
ーーーーーーーーーー
全てがスローモーションにイリヤには見えた。
シロエの圧倒的な速さによる突進からの攻撃が停止し
そして
シロエの左胸には
天馬と同じように小さな風穴が空いている。
「シ……、シ…ロ…?」
認めたくない。
その一心で妹の名を呼ぶイリヤ。
しかし
そんな姉の呼び声に答えることなくシロエは
ゆっくりと膝をつき
そのままうつ伏せに倒れた。
「………シローーーッ!!!」
イリヤの悲痛な叫び声が響く。
「……なかなか手こずらせてくれましたが…これで」
バゼットがイリヤの叫びに顔を一瞬しかめた。
次の瞬間
ガガッ!!
美遊とクロエがそれぞれ
魔力の刃と双剣を
左右からバゼットへと叩きつけた。
しかしバゼットはそれを両手を使い受け止める。
「無駄です。貴女達ではわたしには…」
「黙りなさい!!よくも…よくもシロを…!!!」
「許さない…!!!」
クロエと美遊から憎しみの眼差しを向けられるバゼットであったが
バゼットは封印指定執行者である故に
それらの感情を向けられるのは慣れていた。
とはいえ、子供からこういった感情を向けられるのは気持ちのいいものではない。
バゼットは内心嘆息しながら
クロエと美遊に向き直る。
そして
そのバゼットの行動が
全ての明暗を分けた。
クロエと美遊に向き直る。
即ち、シロエから目を逸らしてしまった。
シロエの
次の瞬間
ガガガガガガガガガァンッッ!!!
高速の九連撃がバゼットを背後から襲った。
「なっ、ガアアアアアアアアァァッッ!?!?」
縦横無尽に襲いかかる九つの連撃
それによりバゼットは絶叫を上げながら
地面に叩きつけられるように倒れる。
それをやったのは当然
「何故…フラガは…フラガは確実に貴女の心臓を貫いたはずです。………なのに、何故」
バゼットは息も絶え絶えになりながらも疑問の声を上げる。
「………」
シロエは答えない。
ただ振り下ろした斧剣の重量に従うかのように身をくの字に曲げている。
「……………美遊様、バーサーカーの宝具は」
「あ…」
シロエに代わりサファイアが
同じく驚いている美遊に伝え
それにより美遊は得心がいく。
焦りからすっかり忘れていた。
バーサーカーの宝具は蘇生能力であるということを
時間を遡り、敵の宝具発動前に敵の心臓を貫く
一見無敵に見える強力な宝具であるが
弱点はある。
例えば
『ランサー』の
心臓を貫いたという結果を確定した上で放つ魔槍は
たとえ使用者が死のうと敵をひとりでに貫く。
そして
『バーサーカー』の
理屈は至って単純。
心臓を貫かれ死の瞬間、蘇生能力が発動し
死亡を免れたのだ。
バーサーカーと戦った経験のある美遊は
納得と共に安堵した。
しかし
シロエの選んだ行動は
そんな生易しいものではなかった。
シロエはその身体を起こす。
すると
左胸の周りに
無数のルーン文字が浮かんでいた。
見覚えがあった。
先のように身体全体ではなく、左胸のみにルーンが浮かんでいるという違いはあるが
それは
「《蘇生》の…ルーン!!?
馬鹿、な…!!
この戦闘中に…模倣したというのですか!?」
本来
死亡するほどの大ダメージを受けた場合
しかし
シロエとバーサーカーの場合は話が違う。
『イリヤ』とバーサーカーの間にある強い縁
それをシロエの…神霊級の魔術で殊更に強調、繋がりを強くすることで
「嘘…!?でも一体いつ…」
「……………。
シロさんが地面を隆起させて
彼女がシロさんを見失いました。
おそらくあの時に…」
イリヤの疑問にルビーが解説を行い
そのルビーの解説を聞いたバゼットが愕然とする。
あの行動は騙し討ちするための目眩ましではなかった。
そしてあの一瞬で《蘇生》という宝具級のルーンを刻むことは自分にはできない、と
自身が長い時間をかけて研きあげた魔術の全てを
模倣…否、模倣どころか悉く上をいかれ
あげく
切り札である
バゼットの心にかつてないほどの絶望が満たされる。
そしてよぎってしまう。
勝てない。
目の前の少女に勝つことはできない、と
圧倒的なまでの理不尽に心が折れかけるバゼット
シロエはそれを狙った上で
バゼットの全てを否定するために
次々とバゼットの模倣を行った。
もっとも
「■■■■■■■■■■■■■■───ッ!!」
今のシロエにそこまでの理性は残っていないが
咆哮を上げるシロエ
バゼットだけではなくイリヤ達も身を硬くする。
そしてその咆哮を聞き、思い出す。
まさしくバーサーカーである、と
「っ!?サファイアこれって…」
「………美遊様の想像通りかと。
バーサーカーの狂化がシロ様の理性を…奪っています」
サファイアの説明で
シロエの狂笑を聞いた時の違和感を美遊は思い出す。
あの時の違和感はこれだったのだ。
カードの影響で理性が徐々に失われていったのだと
「そんな…」
呆然とする美遊を尻目に
シロエは斧剣を地面へと突き刺した後
倒れ伏すバゼットの左足を右手で鷲掴みにする。
そして
ズドンッ!!!
バゼットを地面へと叩きつける。
まるで美遊がバゼットにやられたように
地面が衝撃で割れる。
「ぐっ…う」
バゼットは身体を《硬化》させ、なんとか耐える。
しかし
ドゴンッ!!!
シロエはさらにバゼットを叩きつける。
衝撃でバゼットが奪ったカードが辺りに散らばる。
そして目標であるカードを見たためか
「こっ、の…!!」
バゼットの目に戦意が戻る。
バゼットは左足を掴んでいるシロエの手を振り払うべく
左足を振り回すもシロエの手は離れない。
「っ!手を…離しな、さい!!」
バゼットは足を掴まれながらも左拳をシロエへ振るう。
しかし
先の九連撃と
《硬化》しているとはいえ地面への叩きつけ
それらのダメージと足を掴まれながら一撃のため
先の拳よりも遥かに鈍い。
パシッ
案の定シロエの左手に止められる。
否
それどころか
ボキィッ!!!
バゼットの左腕がおかしな方向に曲がる。
左腕が折れた。
「あっ、ガァッ!!?」
その腕は偶然か
バゼットがイリヤの骨を砕こうとした手と同じ腕であった。
凄まじい激痛がバゼットを襲うが
ガゴンッ!!!
そんなもの知ったことではないとばかりに
シロエはバゼットを無慈悲に地面へと叩きつける。
「あ────」
激痛により《硬化》の維持を出来なくなっていたバゼットは
シロエのその一撃により
完全に気を失う。
もはや完全に勝負はついた。
誰の目からもそれは明らかであり
そしてそれは正しかった。
しかし
ゴォンッ!!!
シロエは気を失ったバゼットをさらに叩きつける。
ドゴンッ!!!
何度も
ガァンッ!!!ズドンッ!!!
何度も何度も
バギィッ!!!メキィッ!!!ドギャアッ!!!
何度も何度も何度も何度も何度も何度も
「もう、いい……。もういいよシロッ!!!」
あまりに残虐な光景を目の当たりにし
言葉を失っていたイリヤであったが
慌てて焦った声で妹に呼び掛ける。
しかし
メキャアッ!!!
聞こえていないのか
シロエはただ只管に叩きつける。
「シロッ!!!本当に死んじゃうよ!!?」
「殺す気なのよ」
「…………え」
クロエのさらりとした言葉に
イリヤの背筋が凍る。
「…今のシロはバーサーカーの狂化の影響を受けて
元々あったあの人への怒りが増して、我を忘れてしまっている。
…最低でもあの人が死ぬまで止まらないと思う」
「そん…な…」
美遊の説明を聞き、絶句するイリヤ
美遊とクロエの二人もバゼットへの怒りがあり
また、魔術世界の残酷さを多少なりとも理解している。
なにより今のシロに割って入ったら最悪こちらも標的となり、大切な二人を危険に晒すことになるかもしれない。
バゼットのためにそんな危険を冒す気にはなれなかった。
グチャアッ!!!
もはや肉塊が潰れる音が響き
鮮血が地面に、シロエの顔と身体に飛び散る。
また、幾度に及ぶ叩きつけにより
シロエの立つ地面は深いクレーターが出来ていた。
「■■■■■■■───ッ!!!」
しかしシロエは止まらない。
シロエは咆哮を上げながら
虫の息のバゼットを上段から
「ダメェッッ!!!」
叩きつけようとしたが
イリヤがシロエの背後から
背中へと飛びつき、止めようとする。
「イリヤ!?」
「なにやってるのよ!危な…」
「わたしは!!」
本当は
シロがこの人を殺そうとしていることなんて
シロの戦いを見てればわたしでもわかった。
でも
だからこそ、思った。
「わたしはシロが
だれかを殺すところなんて見たくない!!!」
魔術師がどうとか
バゼットに対する感情すらも関係ない。
ただ
妹が人を殺すところを見たくない。
そんな本当に
一般人じみた理由で
妹を…命を賭けてでも止めようとするイリヤ
しかしそんなイリヤの叫びに心を動かされたのか
「…っ!!」
美遊が動き出し
「ミユ!?…あーっ、もう!!」
一拍遅れてクロエが動き出す。
美遊が右腕を
遅れてクロエが左腕を
それぞれが止めるべく
シロエの腕に取り付く。
「シロ!落ちついて…。自分を取り戻して…!」
「らしくないわよ!
いつものおちゃらけたあんたは
どこに行ったのよ!?」
美遊とクロエもまた
シロエに必死に取り付きながら、呼びかける。
「■■───」
そんな三人の声が届いたのか
シロエの動きが鈍くなる。
よし、これなら──!
シロエの反応に光明を見出す三人
しかし
「■■■■■■■■■■───ッ!!」
次の瞬間
シロエは三人を振り払うべく
その場で一回転
「きゃっ!?」
「くっ!?」
「うっ!?」
三人はそれぞれ別の方向に振り払われる。
しかし、手加減してくれたのか
怪我は三人共に一切なかった。
振り払われたイリヤが急いでシロエに視線を戻すと
再びバゼットを地面へと叩きつけようとする妹の姿
「お願いだから元に戻ってよシロ!!!!」
イリヤの必死で悲痛な叫び声が木霊した。
その時だった。
シロエの
胸から
光が溢れだした。
「!?な、なに!?」
「いったい…!?」
「なに…あれ…!?」
それは白い、どこまでも白い
新雪のような
穢れを全く知らない無垢な
神聖さすら感じる
純白の光であった。
それがシロエの胸から溢れだし
シロエを呑み込もうとしていた。
(シロがまたなにか魔術を…?
………いや違う…?)
美遊が
シロエがまたなにか魔術を使ったのか
と考えたが、すぐに否定する。
その理由は
「■ッ!?■■■ッ!!?」
シロエもまた驚愕し
その驚愕からバゼットをその場に落としている。
さらに光を振り払うかのように暴れているからである。
(ならあの光は…いったい…)
美遊が訝しんでいる中で
イリヤは
あの光は敵ではない。
そのように感じた。
確かにあの光からは途方もない大きな圧力のようなものを感じる。
しかし、それと同時に
害意が微塵も感じられなかった。
シロエに悪影響を与えるどころか、むしろ
そっと柔らかく包み込んでくれるような
そしてなにより、この場を収めてくれるような
希望の光のようにイリヤは感じた。
「■■■■■■■■■■■■───ッ!!!!」
シロエが一際大きな咆哮を上げる。
まだ終わってない。まだ敵は生きている。といわんばかりに
すると
純白の光の膨張は止まり、徐々に収縮していく。
イリヤは本能で感じた。
あの光を消してはいけない、と
そして思い出す。
先日、妹が不安定な雰囲気になった時
妹が取った行動を
「………シロ」
イリヤは
先のように力いっぱいしがみつくのではなく
シロエの正面から歩み寄り
優しく、ゆっくりと
妹を自らへと抱き寄せる。
「…ありがとね。わたしの…わたしたちのためにそんなに怒ってくれて」
「■──」
光の収縮がゆっくりと止まる。
「でももう、大丈夫。もう…わたしたちを傷つける怖い人はいないから」
そして再び
光がどんどん膨張していく。
「だから……ゆっくり、目を閉じて」
「───」
シロエの目が
狂気に染まった目が
躊躇いながらもゆっくりと閉じられる。
と同時に
膨張した光が
遂に
二人を呑み込んだ。
「イリヤ…!シロ…!」
そして
光の膨張が止まり
気が気でない美遊達からすれば
あまりにも長い数秒の後
光は徐々に弱くなり
光が晴れると
そこには
まず見えたのは
先と変わらない
魔法少女姿のイリヤ。
そして
私服姿のシロエが
安らかな顔で
『バーサーカー』のカードを手に握りながら
抱きしめるイリヤにもたれかかるように眠っていた。
「………良かった」
ーーーーーーーーーー
(…封印指定執行者
バゼット・フラガ・マクレミッツ)
シロエの
(まさか………)
イリヤは眠っているシロエを
地面へと寝かし
膝枕をし、妹の様子を見ている。
美遊とクロエは地面へと散らばっている
カードを集めている。
そんな中ルビーは
(まさか本当に……彼女に勝ってしまうとは……)
倒れているバゼットを見ながら
改めて驚愕していた。
バゼット・フラガ・マクレミッツ。
単騎で英霊に匹敵する戦闘力を持つ正真正銘の怪物。
接近戦に長け、発動させれば必殺の能力を持つ宝具を操る。
勝機などない、とルビーが言ったのはイリヤに限った話ではない。
美遊やそしてシロエが加勢しようと
勝てるはずがない、と
全員の戦闘力を把握していると
思い込んでいたルビーは
そう思った。
しかし結果は
シロエが、しかもほぼ一人で
絶対に勝てないと判断していたバゼットを
打倒してのけた。それも完膚なきまでに
シロエの力をルビーは完全に見誤っていた。
(シロさん……。あなたはいったい……)
いよいよもってシロエの力そして正体に
ルビーが不可解さを感じていると
美遊とクロエがカードの回収を終え
「イリヤ。シロの様子は…?」
美遊がイリヤに尋ねる。
「…大丈夫。顔色もいいし、本当にただ眠ってるだけだと思う」
「…イリヤは?あの光に触れてなんともない?」
「あ、うん。わたしも特になんともないよ」
「そう…。良かった…」
イリヤの答えに美遊が
不可解な現象に頭を悩ますものの
一先ずは安堵する。
「それで?どうしようかしら?」
「え?どうって…」
「いやこの状況よ。どう収拾つけるのかってこの惨状」
この状況…。
爆撃でも受けたのかというくらいのボロボロの屋敷
屋敷の残骸に押し潰されたと思われる安否不明のリンさん達
そしてそれを引き起こした現在瀕死の
「と、とりあえず救急車と警察を…」
「…一般人としては当然っちゃ当然の対応だけど
なんて説明する気よ?」
「う、うーん…」
この惨状をたった一人の女性が素手で引き起こし
その女性をまだ小学生である妹が殺しかけた。
…うん。どう考えても信じてもらえないだろう。
「…とりあえずこの人に治癒魔術を」
美遊が意見を言おうとしたその時
「………ん。ううん…」
イリヤに膝枕されていたシロエが
身動ぎした後、その目をゆっくりと開ける。
「あれ…わたし…」
「シロ!」
「良かった、目が覚めて…。
身体はなんともない?」
「身体…?えーと…」
三人が喜びの声を上げる中
シロエは上半身を起こし
なにが起きたのか思い出すべく
起きたばかりの頭を回転させる。
「シロ。まだ寝てた方が…」
「………あぁ、そっか。わたし」
そして次第に思い出す。
なにが起きたのか
「バーサーカーの……」
思い出してしまう。
またしても殺せなかったという事実を
「狂、化…に」
そしてたどり着いてしまう。
何故殺せなかったのか。
その理由に
「や……ら………れ……………て………………」
その目はどんどん見開かれ
それに比例するように
顔色も青ざめていく。
「……シロ?」
明らかに様子がおかしくなっていってる妹を
当然、心配し声をかけるイリヤ
そんな姉を首を動かし至近距離で視界に収めるシロエ
「いったいどうし───」
ドンッ
「─────────────え?」
イリヤが間の抜けた声を上げる。
なにが起きたのか理解できない。
理解したくない。
シロがわたしを
突き飛ばされたイリヤに怪我はない。
ただ尻餅をついただけである。
しかし、そんなことよりも
信じられないのだ。
目の前で起きたことが
それは
ずっと一緒にいた妹の
初めての、そして明確な
『拒絶』だった。
「………………………シ……………シ、ロ…?」
場の空気が凍りつき
美遊もクロエも驚愕で一言も口を利けない中で
辛うじて一番驚愕しているであろうイリヤが妹に声をかける。
「─────」
しかし
当のシロエの顔色はさらに悪い。
顔は青ざめ、冷や汗をかき
目はこれ以上ない程に見開いている。
自分が何故そんなことをしたのか
否、自分がなにをしたのかすらわからない。
そんな迷いしかない表情であった。
「──────────あ」
シロエが
自分が突き飛ばし尻餅をついている姉へと
右手を伸ばそうとする。
突き飛ばされたのはイリヤの方にも関わらず
まるでシロエの方が助けを求めてるかのように
三人には見えた。
しかし
パシッ
シロエはその伸ばしかけた右手を左手で押さえ込み
目をギュッと強く瞑る。
……………。
そうして長い十数秒の沈黙
「……………シ、シロ?」
沈黙に耐えきれず
イリヤが再びシロエに声をかける。
その声にシロエはゆっくりと目を開ける。
「…ごめんなさい。まだ狂化の影響が残ってたみたい。
…もう大丈夫だから」
戦闘中と同じ
冷たさすら感じる無表情で
淡々と謝罪をするシロエ
冷や汗はなくなり、顔色も元に戻っている。
「……そ、そうなんだ!」
妹の言い訳にしか聞こえない言葉に
イリヤはシロエとは逆に笑顔で
謝罪を受け取る。
「わたしなら大丈夫。ちょっと驚いただけだから。
だから気にしなくてもいいよ」
イリヤは立ち上がり
安心させるように笑顔で
妹へと近づきながら言うが
「…うん」
シロエは変わらず無表情で返事をする。
シロエはバゼットを打倒した。
にも関わらず
場は勝ったとは思えない
重苦しい空気が漂うのであった。