プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

39 / 66
八枚目

 

 

「あーっ、もう!!

この避難路無駄に長すぎるわよ!!」

 

 

凛は悪態をつきながらも避難路を走り抜け

 

 

「あった!出口…!!」

 

 

ようやく出口へとたどり着く。

梯子を登り、地上へと出る。

 

 

(………走ってる途中から思ってたけど

静かすぎる…。まさか───)

 

 

地上に出ても案の定と言うべきか

あれだけ響いていた戦闘音が聞こえずに

静まりかえっていた。

凛の頭に最悪の展開がよぎる。

 

避難路の出口は門付近の茂みの中であった。

凛は焦る気持ちを抑え避難路の出口から

門へと移動し、置きっぱなしとなっているトートバッグを回収。

その後、急ぎ戦闘が行われていたであろう玄関前へと移動する。

そして

ようやく戦場へとたどり着いた凛は

予想外の光景に驚愕し目を見開く。

 

 

「───嘘、でしょ…?」

 

 

凛はイリヤ達がバゼットに襲われていることを危惧していた。

最悪あの宝具を使われてしまい殺されてしまっていることまで考えていた。

それなのに──…。

 

目の前には案の定というべきか

イリヤ達四人がいた。

四人ともどこかしら殴打された痕が残っているが

五体満足無事であった。

…いつもの騒がしさがないのが少し気になるところではあるが

しかし、それ以上に

 

 

「バゼットが………負けた?」

 

 

その四人の子供達の付近にて倒れているバゼット

見るからにボロボロの上、ピクリとも動かない。

完全に気を失っている。いや、下手をすれば…。

とにかく先まで行われていたであろう戦闘にて敗北したことは伺える。

…信じられないことだけど

 

そんな凛の驚愕が聞こえたのか

イリヤ達が凛の方へと振り向く。

 

 

「凛さん…!!」

 

「リン…!」

 

「よがっだ…。生ぎでたんだ…」

 

 

顔に喜色を浮かべ安堵する三人

イリヤなどは涙目である。

しかし

 

 

「…」

 

 

シロエだけは無表情のままであり

無事だった凛に対してなにも言わないどころか

視線すら投げかけない。

明らかに様子のおかしいシロエに対して訝しみつつも

 

 

「……そりゃこっちの台詞。

ルヴィアも無事よ。ギリギリね」

 

「よかった…。ルヴィアさんも…」

 

 

凛の言葉に対して

ルヴィアと最も関わりの深い美遊が安堵する。

そんな中、凛は倒れているバゼットへと近づく。

 

 

「……生きてる…みたいね。ギリギリで、だけど」

 

 

凛はバゼットが生きていることを確認する。

パッと見では死んだと言われてもおかしくないほどボロボロだったためである。

 

 

(仕掛けた呪術が発動された形跡はない…。

正真正銘、真正面から実力で…)

 

 

自身がなんとか仕掛けることができた呪術を

使用されずに打倒されてしまい

凛の心中に複雑な気持ちと戦慄が入り交じる。

 

 

「正直、まさかバゼットに勝つとは思わなかったわ…。

あなた達四人で倒したの?」

 

「あ、えっと」

 

「わたし」

 

 

凛の疑問にイリヤが答えようとした時

それを遮り、無言だったシロエが初めて口を開く。

 

 

「わたしがやった。

お姉ちゃん達はなにもしてない。

ただ見てただけよ」

 

 

なんの感情も感じさせない声で

淡々としかしはっきりと断言する。

 

 

(………間違ってはないけど。

そこまではっきり言われると…)

 

 

シロエにはっきりと断言され

少しへこむイリヤ達

 

 

「……………そう」

 

「あの…凛さん。この人ですけど…」

 

 

凛がシロエへと視線を向けていると

美遊がバゼットをこれからどうすべきか指示を乞う。

 

 

「んー…、そうね。

とりあえずこいつと交渉しなきゃいけないから

まずは治療するわ。かなり重傷みたいだし…。

最低限の治療が終わったらそれから拘束して交渉ってところね。

…起きるまで時間かかりそうだけど」

 

 

バゼットの怪我の度合いを見て

治癒魔術を使ったとしても目覚めるまで時間が掛かりそうと

内心嘆息する凛

しかし

 

 

「…」

 

 

シロエが無表情のまま

重傷のバゼットの前へと立つ。

 

 

「…シロ?」

 

 

先の戦闘を見ていた所為で不安そうな声を出すイリヤ

美遊達や凛も訝しむ中

シロエは右手を倒れているバゼットへとかざす。

次の瞬間

 

フォン

 

バゼットを中心に青白い魔法陣が浮かぶ。

 

 

「「!?」」

 

「シ、シロ!?」

 

「ちょ、ちょっと!?あんたなにを…」

 

 

その魔術の詳細がわからない凛達が慌てるが

 

 

「………え?」

 

 

イリヤが間の抜けた声を出す。

それもそのはず

イリヤの目の前で

バゼットの

傷付いた内臓が

潰れた肉が

裂けた皮が

見る見るうちに

どんどん元に戻っていったのだから

 

 

「あ…あんた……これ……」

 

「…抵抗される可能性を考慮して左腕の骨折はそのままに。

残りは全部完治した。

次、拘束術式を発動」

 

 

あまりに速い治癒速度に唖然とする凛を尻目に

シロエは拘束の準備を始める。

しかしその時

シロエは一瞬、嫌悪の表情をすると共に躊躇するも

すぐにその感情を棄て去り、無表情に戻す。

 

そして

バゼットの付近の空中に魔法陣が二つ浮かび

その魔法陣から現れたのは

 

 

「氷の…鎖?」

 

 

氷で出来た鎖であった。

二つの魔法陣それぞれから現れた氷の鎖は

バゼットの手足へと伸び

両手は後ろ手に、両足は閉じた状態で

それぞれ巻きつかれる。

そうしてバゼットは拘束される。

 

 

(鎖……)

 

 

自分で生み出した鎖とはいえ

鎖といえばバーサーカーを捕らえたあの鎖を

そしてあの大っ嫌いな英霊を思い出すため

シロエは無表情の裏側でなんとも言えない気分となる。

 

 

「……………拘束完了。最後、意識の覚醒」

 

「ま、待ちなさい!!」

 

 

自身が唖然としている間に

どんどん進行していく状況に

凛がようやく我に返り

慌ててシロエを止める。

 

 

「…どうかした?」

 

「どうかした?じゃないわよ!?

いろいろと突っ込みたいことは山積みだけど!

とりあえずわたしを無視してどんどん先に進むなぁ!!」

 

 

大声で突っ込む凛

叫び終えると肩で息をしているほどである。

 

 

「?」

 

「なに不思議そうな顔してるのこの子!?」

 

「治療と拘束、どこかに不備でもあった?」

 

「ないわよ!

術式は相変わらずわからないけど結果だけみたら完璧よ!!

左腕の骨折だけ残してるところも含めてね!!!」

 

「…?」

 

 

じゃあなにが問題なのか。

本気でわからないとばかりに

無表情のまま首を傾げるシロエ

 

そんな妹を見て

とどめを刺さなかったことに安堵しつつも

変わらず無表情であることに複雑な気持ちになるイリヤ

 

と、その時

 

 

「………う、ぐっ…」

 

 

凛の叫びがバゼットの耳に響いた所為か

バゼットが顔をしかめながら

ゆっくりと目を開ける。

 

 

「…っ」

 

「…意識の覚醒。結果的にだけど完了」

 

「…あー、もう。いいわよそれで」

 

 

突っ込むのも疲れたとばかりに

肩を落とす凛

そして

気を引き締め直し

バゼットへと話しかける。

 

 

「お加減はいかがかしら?バゼット」

 

「…最悪、ですね」

 

「そう。それはなによりだわ」

 

 

バゼットは左腕の骨折の痛みに顔をしかめつつも

手足を軽く動かし

両手足の拘束の確認をする。

そうして自身の力では

拘束から抜け出せないことを認識する。

バゼットは溜め息をひとつ吐くと

 

 

「…要求はなんですか?」

 

「あら、随分と素直ね」

 

「敗北した以上、勝者の要求に耳を傾けるくらいの分別はついているつもりです。

…とはいえカードを諦めろ、などといった要求は

さすがに上層部が納得しないでしょうけど」

 

「話が早くて助かるわ。

でも…そうね。

話に入る前にまずは…イリヤ」

 

 

凛はすぐには本題に入らずに

イリヤを呼ぶ。

 

 

「…」

 

「イリヤ?」

 

「…へ!?わ、わたし!?」

 

 

妹の様子ばかりを気にしていたイリヤが

突然の呼び出しに慌てて返事を返しながら前に出る。

シロエの様子といい、子供達の様子がどこか変なことに訝しむ凛

 

 

「…なにがあったか知らないけど、しっかりしなさい」

 

「…うん」

 

「じゃあ、バゼットの首の裏に手を当ててみて」

 

「あ、やっぱりあれってリンさんが…」

 

「なんだ。気づいていたのね」

 

 

イリヤもなんだかんだで頼りになる。

 

自身が仕掛けた布石に気づいてくれていたイリヤに

凛は口にこそ出さないが内心感嘆する。

 

 

「「?」」

 

 

凛の仕掛けた布石に気づけなかった

美遊とクロエが訝しむが

 

 

「…」

 

 

シロエは変わらず無表情のまま

その瞳はなにも映していないように見える。

 

そうしてイリヤがバゼットへと近づいていく。

バゼットは一瞬抵抗するべきか逡巡するが

この状況では抵抗は無意味だとすぐに諦める。

 

そして

横倒しになっているバゼットの

首筋…呪印へとイリヤが手を当てる。

次の瞬間

 

ギギィン!

 

バゼットを中心に

眩い光と共に

地面に魔法陣が浮かぶ。

 

 

「ぐうッ…!!」

 

 

バゼットの呻き声と共に

呪印がバゼットの身体全体に広がる。

そして

光が収まると

バゼットの身体全体に広がっていた紋様が消え

首筋に仕掛けられた呪印が

焼きついた音を立てていた。

 

 

「これって…」

 

「…首筋になんらかの魔術の発動を感知。

いったい何を……」

 

 

イリヤがこの見たことのある現象に呟きを漏らし

初見のバゼットは凛に問いただす。

 

 

「『死痛の隷属』。

主人(マスター)の受けた痛みを奴隷(スレイブ)にも共有させ

主人(マスター)が死ねば奴隷(スレイブ)もまた命を落とす…。

とある貴族が用いていた古い呪いよ」

 

「呪術…ですか。

協会の魔術師ともあろう者が…」

 

(わたしのお腹のと一緒のやつじゃない)

 

 

クロエは自身に仕掛けられた呪術と同じものであるということに気づき

なんとも言えない表情をする。

 

 

「…痛みと、死の共有と言いましたか」

 

「そう。つまりこれでフラガラックは使えない!!」

 

 

フラガラックは

相手の切り札より後に発動し

時間をさかのぼって

相手の心臓を貫く。

 

『切り札発動前に使用者は死んでいる』

という事実を後付けでつくり

発動の事象そのものをキャンセルする魔剣…。

だけどもし、相手の死と同時にバゼットも死ぬとしたら──?

 

『フラガラックを撃つことにより

フラガラックを撃つ前にバゼットが死ぬ』

という矛盾……!!

因果の葛藤(コンフリクト)が発生する…!!

 

…と長々とリンが得意気に説明したが

 

 

「…ねぇリン」

 

「なによクロ?」

 

「フラガラックなら…」

 

「…こんなもの使わずともフラガラックなら破られました」

 

 

バゼットが苦々しげに

認めたくなさそうにしながらも

口にする。

 

 

「へ?」

 

「うん。シロがあっさりと」

 

「ど、どうやって!?」

 

 

凛にとっては寝耳に水

フラガラックを撃たれた時点で死は確定。

イリヤ達に負傷はあっても生きている時点で

フラガラックを使わせずになんとか打倒したのだと

凛は考えてしまっていたのだ。

 

しかしそうではないとわかり

凛は慌ててシロエの方を見る。

シロエは無表情のまま、なにも瞳に映さずに口を開く。

 

 

「敵の《蘇生》のルーンを模倣した」

 

「《蘇生》の…ルーン!?

そんな宝具級の魔術…。

しかも模倣って…」

 

 

バゼットがそんなものを使用できたことにも驚いたが

それ以上にそれをあっさり模倣してのけたシロエに対しては呆然としてしまう凛

 

 

「…っていうかそれならそうと早く言いなさいよ!?

なんで言わないのよ!?」

 

「………聞かれなかったから」

 

「聞かっ!?」

 

 

凛に噛みつかれても

いつものようなオーバーリアクションではなく

無表情に淡々と話すシロエ

そんなシロエを心配そうに見るイリヤ達

そしてそんな普段とまるで違う様子に

完全に調子を崩される凛

 

 

「…はぁ、もういいわよ。

まるっきり無駄ってわけじゃないし」

 

 

凛は溜め息を零しながら

バゼットへと再び向きなおる。

 

 

「つまりこれであんたは

シロだけじゃなくイリヤにも

フラガラックを使えなくなったってこと」

 

 

バゼットに印象付けるように言う凛

それもそのはず

バゼットに説明した呪術の効果はハッタリなのだから

死を伝えるなんてできるはずもなく

痛みにしても伝えられる限界値がある。

挙げ句、解呪が得意な魔術師にでも依頼すれば簡単に解呪することすら可能である。

 

それでも凛がバゼットに呪術を発動させたのは

これからする要求を少しでも通しやすくするためである。

…シロエがフラガラックを破ったことをあらかじめ凛が知っていればここまではやらなかったかもしれないが

 

 

「…」

 

 

そんな凛を無言で見るバゼット

凛はハッタリが通じなかったかと

内心冷や汗をかいているが

そんなことはなく

 

 

(……確かにこれでフラガは封じられた…。

しかしそんなもの死なない程度に殴れば)

 

 

ハッタリがバレるどころか

脳筋的思考により解決させようとする。

しかしそれには大きな問題がある。

 

 

(…いや、あの青目の少女がそれを許すとは思えませんね)

 

 

いずれにせよシロエを打倒しない限りは

カードの完全回収はできない。

 

何の感情も感じられない

無となっているシロエを見ながら

バゼットはその脳筋的考えを捨てる。

 

 

「…それで?ここまでのことをしてまで通したい要求とはいったいなんですか?」

 

「…そうね。本題に入りましょう」

 

 

凛はハッタリがバレていないことに内心安堵しながら

肩にかけたトートバッグに手を突っ込む。

 

 

「まあ、見てもらった方が速いわね」

 

 

そうして取り出したのは一枚の用紙

用紙には黒色の太い線がうねうねと画かれている。

 

 

「──それは?」

 

「この町の地脈図。

以前地脈の正常化を行ってね。

その経過観察のため撮ったレントゲン写真みたいなものよ」

 

 

バゼットだけでなく

なにも聞かされていない子供達四人も

訝しみながら地脈図を見る。

とはいえ

 

 

(────立方体?………まさか!)

 

 

凛がなにを言いたいのか理解したのはシロエだけであったが

シロエの目が驚愕で見開かれる。

 

 

「わかるかしら?左下の方…」

 

「…………!」

 

 

拘束されて横倒しになっているバゼットの目が

凛の示す地脈図の左下へと釘付けとなる。

 

その左下には

細くなっている地脈の真ん中

そこに四角い図形が画かれていた。

 

 

「地脈の収縮点に…正方形の場…?

まさか…」

 

「前任者ならわかるわよね。

正確には正方形ではなく立方体。

虚数域からの魔力吸収…。

そう──」

 

 

その立方体を見たバゼットもまた感づくが

凛が宣告する。

 

 

「八枚目のカードよ」

 

 

その宣告に

バゼットが

イリヤ達が

驚愕に目を見開く。

 

 

八枚目──。

カードの英霊はわたしが参加した第五次聖杯戦争と同じだった。

数も同じ七騎。

でも例外が…八騎目がいた。

十年前行われた第四次聖杯戦争。

その生き残りの英霊。

わたしの大っ嫌いな金色の英霊。

バーサーカーとわたしを殺した英霊。

わたしを殺して、感覚はもうなかったけど心臓を…抉り取られた。

あいつが───ここにいる?

 

 

「八枚目──」

 

「地脈の本幹のど真ん中。

協会も探知できなかったんでしょうね。

カードの正確な場所を知っているのはわたしだけ。

地脈を探ることができるのも冬木の管理者たる遠坂の者だけよ」

 

 

凛が地脈図を畳みながらバゼットへと

持ちうる情報の差を明確にさせる。

 

 

「さて、ここまで言えば要求もわかるわよね?」

 

「…」

 

「八枚目のカード回収に手を貸しなさい。バゼット」

 

 

八枚目の存在が確認できたのはついさっきである。

それまで八枚目は放置されていた。

魔力が湧き出てくる地脈のど真ん中で

最低でも二ヶ月弱という長期間に渡り。

間違いなく最難関。

過去に行ってきたカード回収よりも遥かに。

それ故に凛が少しでも戦力が欲しいと考えるのは当然であった。

 

 

 

その後

リンさんの要求に

バゼット…さんは現場判断を超えていると判断。

協会の指示を仰ぐ必要がある、と。

最低でも八枚目を回収するまではこれ以上手を出さないことを約束に

拘束を解き、協会と連絡を取らせてほしいと要求。

この場で即答しなかったバゼットさんにリンさんは苦い顔をした。

 

 

「ただで拘束を解くのは面白くないわね。

状況はこっちが完全に有利なんだから」

 

「…でしょうね」

 

「だからもう一つ要求するわ。

シロ…この子のことを協会には報告しないこと」

 

「っ。それは…」

 

「それくらいのことならあなたの一存で出来るはずよ。

理由は…言わなくてもわかるわよね?」

 

 

バゼットさんは目を瞑って考えこんだ後

溜め息と共にこれを受け入れた。

ルビーとサファイアを手にしたリンさんとルヴィアさんが想像以上に手強く

八枚目の存在もあり撤退させられたということにするみたい。

そして

 

 

「じゃあ、拘束を解いてもらえるかしら?シロ」

 

 

バゼットさんと交渉していたリンさんがこちらへと振り向く。

 

 

「………シロ?」

 

 

シロの返事がない。

わたしは隣にいるシロを見る。

八枚目のインパクトに呑み込まれていたわたしは

その時初めてシロの異変に気づいた。

 

顔面は蒼白

俯きながらも目は見開かれ

とてつもない量の冷や汗をかき

その身体は震えていた。

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

 

動悸と共に

何故かはわからないけど

シロは左胸を…心臓を押さえていた。

 

 

「どうしたのシロ!?しっかりして!!」

 

「!?」

 

 

わたしが慌ててシロに触れながら声をかけると

シロはビクンと身体を震わせた。

 

 

「……あ」

 

 

シロは注目されていることに今気づいたみたい。

けど、話の流れはちゃんと聞いていたみたいで

シロは震える手でバゼットさんに右手を向け

バゼットさんを拘束していた氷の鎖は消える。

そんなシロの様子を一瞥するとバゼットさんは

ケースとスーツの上着を右手で回収し

左腕を庇いながら門から出ていった。

 

バゼットさんが門から出ていく頃には

シロの表情は無表情に戻ってたけど

顔色は変わらず悪いまま。

正直心配だった。

それともう一つ

 

 

「八枚目のカード…?

そんなもの、あるはずない……」

 

 

ミユもシロほどじゃないけど

顔色が悪く、呆然としていた。

 

 

「……?」

 

 

あれはいったい…?

 

 

イリヤは美遊のことも無論心配ではあったが

妹のこともあり、なにより

その呟いた言葉に訝しむのであった。

 

 

 

……

………

 

 

「なっ…三人ともどうしたんですか!?」

 

 

イリヤ達三人が帰宅すると

玄関にて出迎えたセラが驚きの声を上げる。

その理由は

 

 

「泥だらけじゃないですか!」

 

 

三人とも髪は乱れ

身体はあちこち汚れていたからである。

 

 

「えーっと…」

 

 

イリヤがセラに言い訳をしようとしたが

 

 

「…」

 

 

シロエは三人を玄関に置き去りにし

リビングへと向かい

無表情かつ無言のまま

そのままリビングから二階へと

上がっていってしまう。

 

 

「あ…」

 

「シロさん…?」

 

 

シロエの様子がおかしいことにセラは訝しむが

一先ず置いておき

イリヤ達へと向き直る。

 

 

「どこで遊んで来たんです?」

 

「…いやーちょっとミユん家までね」

 

 

その後

セラの追究をクロエがかわし

先のシロエもそうだったが子供達が疲れていることをセラは察すると

あっさりと追究をやめた。

 

 

 

……

………

 

 

「ふぅ…」

 

 

イリヤが自室のベッドの枕へとうつ伏せに倒れこむ。

その隣にはクロエもまた同じように倒れこんでいる。

 

 

「………せまい。どいてよ…」

 

「あなたがどきなさいよ…」

 

 

上半身はシャツ一枚。

下もパンツ一枚という格好で言い合う二人だが

疲れからさすがにいつものような元気はない。

 

イリヤとクロエが顔を横に向けると

二人の視線が交わり

 

 

「!」

 

 

クロエが顔を赤らめ

プイッとそっぽを向く。

 

 

「な…なにその反応!?やめてよねなんか気持ち悪い!!」

 

「う…うるさいなぁ!早くどっか行きなさいよ!!」

 

「ここはわたしの部屋なのーッ!!」

 

 

クロエは言い返そうと考えるも

疲れの方が勝ったのか

何も言い返さずに顔を赤らめたまま

部屋から出て行く。

 

 

前任者と

八枚目のカード

シロが来てくれなかったら勝てなかったかもしれないし

シロのこともそうだけど…ミユのことも…

不安はたくさんあるけど

ようやくわたしは…わたしたちは

自分達の手で

自分達の日常を守れた…はず、だよね?

シロ、クロ。

 

 

ベッドへと横になりながら

電灯に手のひらをかざしながら

イリヤはまるで

自分へと言い聞かせるかのように

そう思うのであった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。