「ふあ…あふぅ…」
朝、通学路を歩く姉妹
そんな中イリヤの欠伸がシロエの耳に届く。
「眠そうだね。お姉ちゃん」
「そりゃあね。昨夜あんなことがあったし」
「…やっぱり不安?」
「うーん」
…
……
………
「まず、わたしは遠坂凛。魔術師…まあ魔法使いって思っておいて」
カオスになっていた庭からイリヤの自室に移動した一同
凛が自分達の素性について説明する。
「まほーつかい?つまり魔法少女ってこと?」
「うわぁ、その年でそれはキツくない?」
凛が両手で姉妹にチョップを頭に落とす。
「「痛ぁ!?」」
「全然違うし、わたしはまだ16よ!…まあ見られたくないのは事実だけど」
(じゃあ何でチョップされたし…)
「これでも一応ロンドンの時計塔じゃ今期の主席候補なんだから」
「え、えーと時計塔ってのは…?」
イリヤが頭を抑えながら尋ねる。
「んー魔術を研究する大学みたいなところね。表向きは留学って扱いで去年からそこに通ってたわけ」
「うん?じゃあ何で日本に?里帰り?」
シロエがとぼけながら目的を聞き出す。
「そんなわけないでしょ。わたしたちはカードを回収するためにこの町に来たのよ。時計塔からの要請を受けてね」
凛は特に不審に思わずカードを取り出しながら話を続ける。
「
「めんこみたいに地面に叩きつけて遊ぶんじゃない?」
「めんこ?」
「知らないの、お姉ちゃん?こうカードを振りかぶって」
「やめんか」
カードを振りかぶったシロエの手を掴み暴挙を止める。
「まったく。これはおもちゃのカードじゃないの。
極めて高度な魔術理論で編み上げられた特別な力をもつカードなのよ。
悪用すれば町ひとつくらい滅ぼせるほどのね。
そんな危険物がこの冬木の町に眠ってるの」
「つまり…町に仕掛けられた爆弾を秘密裏に解体していく闇の爆弾処理班みたいな感じだね!?」
「この間名探偵コ○ンでやってたやつ?」
「そうそう!それ!」
「違うと言いたいけど否定しきれない…!
とにかく!その爆弾を処理するために特別に貸し出されたのがこのバカステッキってわけ」
「最高位の魔術礼装をバカステッキ呼ばわりとは失礼な人ですねー。
そんなだから反逆されるんですよ?
わたしたちにだってマスターを選ぶ権利があります!」
「本当ならわたしも無関係な人間を巻き込みたくはないけどコイツはわたしの言うことなんか聞きやしない」
…わたしが目的じゃなくて安心していたけど何か別の嫌な予感が
「だから解放されたかったらなんとかしてそのバカを説得するよーに」
「出会って間もないけどそれがすごく困難だってことはわかるよ…」
「…」
「でしょうね。だからせめてその説得が済むまでの間はわたしの代わりに戦ってもらうことになるから覚悟しておくように!」
「はぁ…戦って…。
…って、え?
ええ!?戦って!?」
…これか。別の嫌な予感。
…
……
………
「現実でこんなアニメみたいな展開になるなんて思わなかったよ。」
「不安ならやっぱり断ろう?戦いなんてさ…」
「うーん。でもそれを許してくれるとは思えないし」
「だったらさ、セラやリズに相談すれば」
「ええ!?いやいや信じてもらえないでしょ!?」
いや魔術師とか時計塔という単語を出せば高確率で信じてもらえると思う。
って言えれば楽なんだけどなぁ
「それにさ」
「それに?」
「想像とは違ったけど本当にファンタジーな出来事に巻き込まれてさ」
「…」
「正直アニメみたいでちょっとだけワクワクしてるんだよね。」
魔術の世界はそんなものじゃない。
そう言いそうになるのを必死に堪えた。
前世においてシトナイの使い魔として沢山の戦いに身を投じていた。
その中には当然魔術師との戦いも腐る程あった。
だからこそ断言できる。
魔術の世界は血塗れの世界
人道から大きく外れ常に何かを犠牲にして己の欲望を満たそうとする。
そういう世界。
だからこそ『イリヤ』は───
「えっと…。どうしたの?シロ?急に黙って」
「あっ、ううん。何でもないよ」
「?そう?」
…とにかくイリヤがちょっと履き違えていることはわかった。
このまま見送ったら最悪…
時計塔の魔術師と出来れば関わりたくなかったんだけど
…仕方ない、か。
「やっぱりわたしもついて行くよ」
「えっ。でもリンさんが」
「断ったらお姉ちゃんの魔法少女の姿の写真をお兄ちゃんに見せる」
「やめて!?いやそもそも写真なんて撮ってないでしょ!?」
「そんなのルビーに頼めばくれると思うけど」
「はいはーい。貴重なイリヤさんの初回変身シーン!
勿論記録してますよー。ほらこの通り!」
そう言うとルビーの中から写真が印刷機のように出てくる。
そこには昨夜のお風呂にて撮影したと思われるイリヤの魔法少女姿が
「うあぁぁぁぁぁッ!!」
写っていたように見えたが奇声を上げたイリヤが凄まじい速度で写真をルビーから取り、破いていく。
「消して!今すぐに!」
「えー。嫌ですよ。マスターのおちょく…記念すべき第一歩となる最初の変身なのに」
「今おちょくるって言った!おちょくるって!」
「とにかく!消す気はありません」
「ぐぬぬ…」
悔しそうな顔をするイリヤ
いや試しに言ってみただけなんだけど本当に多機能だねルビー
「それで?ついて行っていいよね?」
「…もう勝手にして」
わたしが笑顔で言うとイリヤは少し疲れた声で返事した。
…
……
………
放課後
授業が終了し廊下には帰ろうとしている生徒で溢れている。
「ルビー、シロ、お待たせ!」
「やけに元気だね。どうしたの?」
「うん!帰って魔法の練習をしようと思って」
「おっ、やる気ですね。イリヤさん!」
下駄箱に到着し箱を開ける。
すると一枚の紙が下駄箱から床に落ちる。
「ん?手紙?」
「おおっ!もしやこれは…!?」
「
今時こんなピュアなことする子がいるとはー!
さあさあ早く中身を!」
「お、落ち着いてルビー!ここは冷静にいくべきところよ…!」
ラブレター(?)をもらいテンションが上がる二人
そんな中
「ねえ、アレって何?」
シロエのみ状況について行けず?マークが浮かんでいる。
「何?っていやいやシロ珍しく察しが悪くない?」
「そうですよ、シロさん。下駄箱に!手紙!といったらラブレターに決まっているでしょう!」
ルビーがはっきりと口にし、イリヤが顔を赤らめる。
「ラブレター…って何?」
………。
こいつマジか。
そういう空気が流れる。
「…へ?シ、シロ、それは冗談で言ってる?」
「?」
(あ、これマジなやつだ)
シロエは元を正せば猟犬である。
当然人間の文化なんて知る機会など無く
それでいて知識だけはシトナイから転生時に受け取っているため学力は大人並にある。
しかしそれが災いして学校の教師は学力に目がいき特に教えたりすることがないと判断。
結果、学力はあっても人間社会における常識的な知識、特に恋愛関連を全く持たずここまで来た。来てしまった。
妹が恋愛の基礎の中でも常識の部類に入る知識を持っていないことに驚愕していると
「ラブレターっていうのはですねー」
「ま、待ってルビー!」
「もう何ですかイリヤさん」
「いや、ルビーが教えると余計ないかがわしい知識まで教えそうな気がして」
「…ソンナコトナイデスヨー」
「…やっぱりわたしが教える!」
大切な妹の純情を守るため姉が立ち上がる。
というか今までシロエに教えたりすることが全くなかったためノリノリである。
「こほん。えーとね、ラブレターっていうのは…」
…
……
………
「え、と。つまりお姉ちゃんを好きな人がこの手紙を書いて下駄箱に入れた…ってこと?」
「言葉にすると凄い恥ずかしいけど、うん。それで大体合ってる」
「ではでは長くなりましたけど開けてみましょう」
「う、うん」
シロのことで有耶無耶になっていたけど本当にわたしにラブレターが…!と改めて緊張しながら手紙を開ける。
〈今夜0時 高等部の校庭まで来るべし
来なかったら殺す帰ります〉
「…」
「…」
「…なるほど。ラブレターとはつまり相手を脅迫してでも手中に収めようという覚悟の下書かれた手紙…!」
「いや、違うから!?というかリンさんでしょ。この手紙」
「…ん?女性であるリンさんが、同じく女性であるお姉ちゃんにラブレターを…?」
「ラブレターから離れて!?」
「いやー、別におかしくないですよシロさん。世の中には女性同士で育む禁断の恋というものが」
「ルビー、DA☆MA☆RE!!」
…
……
………
深夜0時
町が寝静まり静寂に包まれている時間
穂群原学園高等部の学内にて小さな影が二人分動いていた。
「ちょっとお姉ちゃん、歩くの早いって」
「だってこんな格好、誰かに見られたら」
シロエは私服なのだが、直前まで魔法の練習をしていたためイリヤは既に魔法少女に転身している。
よって恥ずかしがってどうしても早歩きになってしまうのだが
「こんな時間に人なんていないって。ほら落ち着いて」
「うー。シロはいいよね。そんな心配しなくていいんだから」
「やはりここはシロさんもゲスト登録で一回魔法少女になってみては?」
「丁重にお断りします」
話しているうちに凛の待つ校庭にたどり着く。
「お、ちゃんと来たわね。ってシロも一緒?」
「その、どうしてもついて行くって…」
「うん。だってお姉ちゃん心配じゃない」
凛はシロエもついて来たことに顔をしかめ少し悩んだ後
「はあ、仕方ない…か。その代わりわたしの指示には従ってもらうからね」
「うん」
「ってか何でもう転身してるのよ?」
「さっきまでいろいろと練習していたんですよー。
とりあえず基本的な魔力弾射出くらいは問題なくいけます。
あとはまぁ…タイミングとハートとかでどうにかするしか」
「…正直かなり不安だけど、今はあんたに頼るしかないわ。準備はいい?」
「う…うん!」
「…」
(…シロ?)
黙っているシロエを見て不審に思うイリヤだが
緊張しているのだろうと思い特に気にしないことにする。
「カードの位置は特定してあるわ。
校庭のほぼ中央…。歪みはそこを中心に観測されてる」
「中心…って何もないけど?」
「カードがあるのはこっちの世界じゃないの。ルビー」
「はいはーい。それじゃあいきますよー」
ルビーのいつもの軽い口調と共に膨大な魔力が溢れ、地面に魔法陣が浮かびあがる。
「わっ!?」
「!?」
「半径2メートルで反射路形成!境界回廊一部反転します!」
「えっ…な…なにをするの?」
「カードがある世界に飛ぶのよ。
そうね…無限に連なる合わせ鏡この世界をその像のひとつとした場合──それは鏡面そのものの世界」
光が溢れ世界が反転する。
光が収まるとそこは
「鏡面界。そう呼ばれるこの世界にカードはあるの」
パッと見では元いた高等部の校庭と何ら変わりはない。
しかし絶対的に変わっている部分があった。
「な…なにこの空…?」
「空に…光?」
そう、まるで囲碁の目の如く格子状の光が空一面に広がっているのだ。
「詳しく説明しているヒマはないわ!構えて!」
そう凛が言うと同時、校庭の中央に魔力が渦巻く。
そしてその渦から一人の女性が現れる。
黒い衣を身に纏い
長い紫の髪
目には不気味な意匠の眼帯
知っている顔だった。
『イリヤ』の記憶にあった。
生前、聖杯戦争にて『イリヤ』の敵となった英霊
(ラ、ライダー!?)
「キモッ!?な、なんか出てきた!?」
「報告通りね…。実体化した!くるわよ!」
凛の警告と同時にライダーがこちらに接近し手に持った杭を振り下ろす。
「わわっ!?」
各々でその攻撃をかわす。
そして凛が宝石を三つ取り出し
「
宝石を投げつけ魔術を発動。
宝石が爆発する。
(宝石魔術!でもそれくらいじゃ…)
煙が晴れると懸念の通り無傷のライダーがいた。
「やっぱ魔術は無効か…!高い宝石だったのに!」
そう言うと凛はシロエの腕を掴み
「へ?」
「じゃ後は任せた!わたしたちは建物の陰に隠れてるから!」
校舎の方へと去っていった。
「ええっ投げっぱなし!?…おひゃあッ!?」
ライダーの杭の投擲を紙一重でかわす。
杭の柄には鎖がついておりライダーは杭を引き戻す。
「かすった!今かすったよ!」
「接近戦は危険です!まずは距離を取ってください!」
「キョリーーー!」
持ち前の足の速さでライダーから離れるイリヤ
「…逃げ足だけは最強ね。アイツ」
「お姉ちゃん、足はクラスで一番速いから…」
「とにかく距離を取って魔力弾を打ち込むのが基本戦術です。攻撃のイメージを込めて私を振ってください!」
「あーもー。どーにでもなれーッ!!」
ライダーにルビーから放たれた魔力弾が襲いかかり命中した。
「スッ…スゴッ!?なにコレ!?」
煙が晴れると今度はダメージを負いボロボロになったライダーがいた。
「追撃です!相手は人じゃありません!遠慮は無用ですよー!」
「たーーーッ!!」
しかしライダーの高い敏捷性により魔力弾はかわされる。
「うえっすばしっこい!」
「砲撃から散弾に切り替えましょう。イメージできますか?」
「やってみる!特大の──散弾!!」
辺り一面に小さな弾が当たり校庭が土煙に包まれる。
(イリヤ、それは…!)
「バカ!範囲広げすぎよ!あれじゃ一発あたりの威力が落ちる!反撃に気をつけ…」
煙が晴れるとそこには
眼前に赤い魔法陣を携え
強大な重圧を放つライダーがいた。
イリヤでもわかった。あれはヤバいと
「“宝具”を使う気よ!!逃げて!!」
「イリヤさん退避です!!」
「ど、どこに!?」
「とにかく敵から離れてください!」
「早くこっちへ!ダメ元で防壁を張るわ!」
目前の危機に平静さを失なう一同
しかしいやだからだろうか
凛は気づかなかった
凛の側にいたはずの少女が
トン…
軽い足音と共にイリヤとライダーの間に移動したことに
「シ………シ…ロ?」
見慣れた自分にそっくりな妹の後ろ姿に困惑の声を上げるイリヤ
シロエはそれに答えず右手をゆっくりとライダーに向ける。
次の瞬間
ライダーが
凍った。
「…はあ!?」
「こ、こおっ…ええッ!?」
凛とイリヤが驚愕の声を上げる。
しかし無理もない。
文字通り凍ったのだ。一瞬にして。
ライダーの立つ地面から首もとまで氷付けになっている。
ライダーは氷から逃れようともがくが一向に抜け出せる気配はない。
「イリヤさん!今のうちに!」
「う、うん!」
シロが何をしたかわからないけど危機は去り敵が身動きできない今がチャンスなのは間違いない。
そう考えイリヤはルビーを構えるが
「クラスカード『ランサー』
敵の背後に自分と同じくらいの小さな影が現れ
「
赤い槍がライダーを貫いた。
「「「!?」」」
ライダーは血を吐くと一枚のカードとなり
「『ランサー』
対象撃破クラスカード『ライダー』回収完了」
現れた小さな影──少女の手に収まった。
少女は青を基調としたレオタードのような衣装に蝶の羽を思わせるマントを身に纏い長い黒髪をポニーテールにしている。
年齢はイリヤやシロエと同じくらいだろう。
「え…だ…誰?」
しかしイリヤの疑問は
「オーーッホッホッホ!!」
突如聞こえてきた高笑いに流されてしまう。
「わっ!?なに?」
「このバカ笑いは…」
「無様ですわね遠坂凛!まずは一枚!
カードをいただきましたわ!」
高笑いと共に現れた女性は
青を基調とした派手な服を着て
長い金髪を何度もロールさせていた。
魔法少女になり初めての戦闘は思っていたより殺伐としていて
その戦闘中突如として現れた自分と同い年くらいの謎の魔法少女
何とか戦闘を無事に済ませたかと思ったら派手な女性が出てきて、と
イリヤの頭はパンク寸前であった。
そしてなにより
イリヤはシロエの方を見る。
突然の乱入者にも関わらず無表情で俯いて何も反応を示さない。
まるで何かに怯えているように見えた。
小さい頃からずっと一緒だった妹
それが不思議な力を使い
そして今、見慣れない俯く姿に少し心配になるイリヤだった。