何故こんなに長くなってしまうのか。
不思議ですねー。
「しかし、見事に潰れたものね」
文字通り潰れたエーデルフェルト邸の前にて
凛、ルヴィア、美遊の三人が
重機による倒壊した屋敷の撤去作業を眺めている。
「宝石や研究資料のほとんどは地下にあるから大した問題はないわ」
魔術師の生命線とも呼べるものは地下にあり無事なため
ルヴィアは強がりでもなんでもなく、事もなげに冷静に言う。
「家などいくらでも建て直せばいい。
所詮日本での仮住まいなど使い捨てですわ」
「アンタそれ日本のお父さん方に言ってみなさいよ」
ルヴィアの発言に軽くイラっとくる凛
その時
「もう工事始まってるんだね」
よく知っている声に三人が振り向く。
そこには
「本当にぺしゃんこになっちゃったのねー。
あははははははははは」
「お、奥様!笑うところではありません…!」
「やほーい」
「お見舞いに来ましたー」
満面の笑みのアイリとクロエ
アイリの発言に顔を引きつらせるセラ
若干の引き笑いのイリヤと
そして
「…こんにちは」
無表情のシロエ
その五人がいた。
「…」
昨日イリヤ達と顔を合わせなかったルヴィアが
凛と美遊から話は聞いていたものの
日常生活にて戦闘中のシロエの無表情を目の当たりにし
目を僅かに見開き深刻そうな顔をする。
「なんでもボイラーの爆発事故があったとか…。
ささやかですがお見舞いを…」
「すみません…」
(そういう辻褄になったのね…)
セラからのお見舞い品を受け取る美遊を見ながら
凛が内心苦笑いをする。
「ルヴィアさん怪我はもう大丈夫なの?」
「お陰様で…と言うべきかしら。
あの程度の損傷を引きずるほどヤワではなくてよ。
それよりもその、シロエの方は…」
「うんその、きっと…。まだ疲れてるみたいで…」
一晩が経過し
シロの顔色はよくなったものの表情は無表情のまま。
まだ疲れてるから…だとわたしは思うことにした。
だってそうしないと───
「…とにかく
今はあのマッシブ女にどう恩を返すか考えるのが楽しくて楽しくて。
シロエに煮え湯を飲まされたようですがまだまだ全っ然足りませんわ。
とりあえず屋敷の損害分を協会に請求しつつ回り回って奴の負債になるようネゴと根回しを…」
「いやぁお元気そうで何よりです!」
ルヴィアから出てくるどす黒いオーラに
顔を引きつらせるイリヤ
「そういや昨日ミユ達はどこに泊まったの?
まさか野宿?」
「ルヴィアがそんなことするわけないでしょ」
「新都の方にホテルを借りてて…。
しばらくはそこで寝泊まりするつもり」
「一棟丸ごと貸し切ろうとしたのに断りやがりましたので
オーギュストに株を買い占めるよう頼んだところですわ」
「なんでこんなバカが金持ってるのかしら!!」
ルヴィアの常識外れの行いに凛が噛みつく。
その時
「…ルヴィアさん」
ずっと無言だったシロエがルヴィアに声をかける。
「?なんですの?」
大抵は契約がある凛とやり取りをしているため
話しかけられたルヴィアは訝しむ。
しかし
「屋敷が倒壊したばかりでなんだけど
わたしをメイドとして雇ってもらうことって可能?」
その予想外すぎる問いに
ルヴィアだけでなくその場にいる全員が驚愕する。
(……あんなにメイド服を着るの嫌がってたのに…?)
イリヤが以前暴走した時には
当然のことだがシロエは着ることを嫌がっていた。
…結果として無理矢理にイリヤは着させたわけだが
それはともかく、そんなことがあったにも関わらず
シロエが考えを一変させたことにイリヤ達は尚のこと驚いていた。
「………可能といえば可能ですが、何故?」
「お金が必要な状況になった。ただそれだけ」
ルヴィアの当然の問いにシロエは短く返す。
そんなルヴィアとシロエのやり取りに
「シ、シロさん!?いきなり何を言ってるのですか!?」
正気に返ったセラが慌ててシロエを諌める。
「すみません。シロさんが突然…」
「セラ。黙ってて」
「シロさんッ!!」
シロエの言葉にセラは少しムッとし
シロエを叱ろうと
「聞こえなかったのかしら?黙りなさい、セラ」
「っ!?」
するもシロエから発せられる圧力にセラを口をつぐむ。
(…なんですか、これ。
真剣な時の奥様を相手にしているような…。
これではまるで…)
まるで本物のアインツベルン本家として命令をされて───
セラは困惑しながらもその圧力に屈してしまい押し黙る。
(あのセラが黙っちゃうなんて…)
セラを黙らせたことにより衝撃を受けるイリヤ
「…別に断ってくれても構わないわ。
他を探すだけだから」
シロエは押し黙ったセラを無視し
ルヴィアへと再度問いかける。
誰もがシロエから感じる妙な圧力になにも言えないでいた。
「…私からもなんとかお願いできないかしら?」
しかしアイリは別であった。
シロエのその様子を神妙な顔でしばらく見ていた。
そして事態はさらに悪化していると、そう感じていた。
しかし、そうして考えて出した結論がこれであった。
「奥様!?」
「ママ!?どうして…」
(理由はわからないけど今のあの子はとても不安定よ。
いつもはあったあの慎重さがなくなっているくらいにね)
普段のシロエはふざけきっていたものの
常に一線は引き、本当に危なそうなことには敏感に反応していた。
幼い頃はイリヤの後ろにくっついていきながらも
危なそうなことには後ろからイリヤの手を引き注意をよく促していたことをセラもイリヤも覚えていた。
しかし今のシロエにはその慎重さがないようにアイリには見えた。
さらに、言うまでもないことだがシロエはまだ子供である。
そんなシロエを雇ってくれるであろう場所は
当然その危ないものばかりである。
中にはまともなのもあるかもしれないが
それは小学生の小遣い稼ぎレベル。
おそらくだがシロエの求めているものではない。
慎重さをなくしたシロエが危ない仕事だらけの中で働き口を探す………。
悪い予感しかしない。
というか今のシロエでは危ないと気づいた上で引き受けるまであり得る。
それだけは絶対に避けなければならない。
よって
(この場で断ったとしてもシロは私達に隠れて働き口を探す。
それならいっそ信頼できる人に預けた方がいいでしょう?)
(そ、それは…)
(うーん…)
アイリの小声での説明に
セラとイリヤが唸る。
そもそも何故お金が必要なのか。
アイリはその理由に関してもなんとなく嫌な予感を感じてはいたものの
今のシロエを説得することは困難と判断した。
「…悪いけどお願いできない?シロのことを」
アイリが重ねてルヴィアへと頭を下げてお願いする。
「お義母様!?頭をお上げください!
お任せください!シロエのことはこの
「まだ続いてたのそれ!?」
以前通学中のリムジンの中で士郎を婿に迎える妄想をルヴィアはしており
それがまだ続いていたのかと
イリヤが突っ込みを入れる。
しかし
そんなイリヤを尻目に
「…では、今後とも宜しくお願い致します。ルヴィアお嬢様」
シロエがスカートの前で手を重ね
お行儀良くルヴィアへと一礼する。
無表情ではあるが、その姿は
いつもの騒がしい姿からは想像できないほどに気品に満ちており
まるで本物の貴族のようであった。
普段からは到底考えられないシロエの立ち振舞いに
唖然とする一同。
しかもぎこちなさはなく、妙に堂に入っている。
(…メイド服を着た時のセラに少し似てるかも)
いずれにしても
あのセラを黙らせた件といい
妹のことがますますわからなくなるイリヤ
実際のところシロエは
セラはセラでも
『イリヤ』としての記憶にあるセラの振る舞いを模倣しただけなのだが
「…ええ、こちらこそ宜しくお願い致しますわシロエ。
けれど」
「…?」
「確かにその振る舞いは正しいのですが、止めなさい。
こちらの調子が狂ってしまいます。
…いつも通りの接し方で結構です」
「…そう。わかったルヴィアさん」
そんなやり取りがあったが
それはそれとして
シロエを雇うにしても
肝心の屋敷が潰れたままであるため
一先ず研修を行うために
シロエに滞在しているホテルへと通うように話をしていると
「というかそんなわざわざホテルなんてとらなくても」
アイリが話に割って入る。
心配そうにしているイリヤを安心させるように
後ろから抱きながら話すが
「みんなウチに泊まればいいのにねぇ」
「「「えっ!?」」」
「!!」
その言葉にイリヤ、セラ、凛が顔を引きつらせ
ルヴィアが衝撃を受ける。
「おっ、奥様!いくらなんでも三人は…!
ぶっちゃけ今でも相当キツキツなんですよ!?」
「あららーだめなの?」
セラとアイリのやり取りが聞こえたのか
「どうぞお気遣いなく。
私は実家が別にあるので大丈夫です。
ルヴィアもホテルの方が気を遣わないでしょうし…」
凛がやんわりと断り
ルヴィアにもそれを求めようとするが
「…」
「………ルヴィア?」
ルヴィアは凛へと返事を返さずに
口を半開きのまま無言である。
その時ルヴィアの脳内では
宿泊→同衾→既成事実→妊娠→責任婚
という意味不明な流れが形成されていた。
ルヴィアの顔が赤くなっていく。
「いけませんまだ早すぎますお義母様!!」
「何がよ!?」
「というか順番が逆でしてよお義母様ッ!!」
「だから何の話してんのよアンタはーッ!!」
「でも本人達の同意の上であるならば多少本来の手順と異なってもそれはそれでー!!」
「ああもう、いいから黙れ!!永遠にー!!」
…
……
………
「──まぁそんなワケで」
場所は変わり衛宮邸
「ミユだけ泊まってもらうことになりましたー」
「お、お世話になります…」
「一日だけだけどねー」
「…」
イリヤ達小学生組が美遊のお泊まりを家族に報告する。
…シロエのみ無言ではあるが
尚、美遊のお泊まりに伴いシロエの研修も明日から
美遊が帰宅する際に一緒にホテルへと案内された後に行うこととなった。
無論泊まりではなく通う形である。
…美遊のお泊まりに合わせた理由は
美遊のこともあるがシロエのことも
ルヴィアが気遣った上での判断である。
「話は聞いてるよ。大変だったみたいだね。
…シロのこともよろしく頼むな」
「
「…お兄ちゃんミユには手出さないでね」
「なっ…「は」ってなんだよ「は」って!
イリヤの中で俺そういうキャラ!?」
ーーーーーーーーーー
「…バゼットの件ですけど。
大師父が関与していない別部署の独断専行のようですわ」
一方その頃
美遊を衛宮邸に預けたルヴィアと凛は
帰り道の途中にある人気の少ない林の中で
ルヴィアはリムジンを背に、凛は木を背にし
解散する前に現在の状況を軽く話し合っていた。
「でしょうね。
…といってもあのジジイのことだから知ってたところであえて無視してそうだけど」
「…もしかしたら」
ルヴィアが目を細め、その疑念を口にする。
「カードが封印指定カテゴリに入るかも…」
「冗談でしょ?
確かに英霊の力を引き出せる強力なアイテムだけど…。
その程度で協会が『禁忌』と見なすとは思えないわ」
「可能性があるというだけですわ。
カードの解析を進めてみないとわからないでしょうし
バゼットが撃破された真相を協会が知ったら封印指定に入ったとしてもおかしくはありません」
「…協会が真相を知ることはないわ。
バゼットが報告しない限りは、ね」
逆に言えば
協会が真相にたどり着いたのであれば
それはバゼットが契約を反故にしたということになる。
「それに封印指定に入るとしたらカードよりも下手したら…」
「…」
二人の脳内に嫌な光景が過る。
無論そうならないように全力で手回しするつもりではあるが
「…あの子が突然働きたいって言い出した理由。
………わかってるわよね?」
「…無論ですわ」
凛にとってシロエは
契約の下に協力関係を結んだ間柄である。
一度協力関係を結んだ以上はこちらの都合で見捨てたりはしない。
なによりあのバゼットを相手に一枚もカードを渡さずに完全に優位な状態で交渉できたのはシロエのお陰。
紛れもなく大殊勲である。
…というよりバゼットの襲撃しかり時計塔内部のゴタゴタは本来であれば凛が対処しなければならないことである。
それに巻き込んでしまったのであれば凛には責任がある。
責任がある以上はなにがなんでも守らなければならない。
それにシロエに貸しているカードの件もある。
ここで協会がシロエになにかしらのアクションを起こした場合
凛がシロエと契約した
『カード回収に力を貸してもらう代わりに協会へは報告しない』
に抵触する可能性が出てくる。
無論、報告したのは凛ではないと突っぱねることはできるが
ならばそれを証明してみせて、と返されたらどうしようもない。
したことよりも、してないことを証明するのは不可能に近いのだから
そしてシロエが契約を反故にされたと判断されたら
貸している『バーサーカー』のカードを返却しない恐れが出てくる。
というより間違いなく返却しないだろう。
シロエは『バーサーカー』のカードを欲しがっているのだから
………いろいろと理由をつけたけど、決してそれなりの付き合いから情が湧いたりしたわけではない。
とにかくそういった理由から
「…一応釘を刺しとくけど、あの子を売るような真似をしたら」
シロエを庇い、ルヴィアに釘を刺す凛であったが
「見くびらないでくださる?」
ルヴィアが眉間に皺を寄せ、凛を睨む。
「あの子は美遊の友達。
それがなかったとしてもこの
身内を売るような真似はエーデルフェルトの名に懸けて絶対に致しません」
「……そう。ならいいわ」
「それにここでシロエを射止めればシェロを…」
「あんたの身内発言はともかく、その裏にあるすっごい打算まみれの思惑を信じることにするわ」
身内発言も嘘ではないだろうが
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。
私欲に忠実なルヴィアであれば裏切ることはないだろう
ということにしておく凛
「コホン…。シロエのこともそうですが、問題は…」
「ええ…。八枚目…よね」
シロエの話題を切り上げ
二人は新たに発覚した八枚目について話し合う。
「八枚目…。あまり信じたくない話ですけど」
「まず間違いないわ。…問題はこれまでみたく地表にあるんじゃなくて地中深くにあるってことと……」
「時間、ですわね。カードが地脈から魔力を吸い上げ続けていたとしたらいったいどれほどの…」
「想像もつかない怪物になってたりしてね。
だからこそバゼットを従わせておきたかったのだけれど…」
「貴女の話を聞く限りでは難しそうですわね。
上層部の判断を仰ぐとなると尚のこと」
「…とにかく現状ではまだ回収にとりかかれない。
態勢を整えて万全の状態で臨みましょう」
「そうですわね…。───ふふ」
真剣に話し合っていたところに
ルヴィアが突如吹き出したため凛が訝しむ。
「?何よ?」
「いえなんだかこれって…仲間同士の会話みたいだと思って」
そのルヴィアの発言に
凛は顔をしかめる。
「………「みたい」ってねぇ」
そして溜め息を吐きながら
「一応建前上あんたとわたしは同じ任を受けた仲間でしょうに」
「そうですけど
貴女とこんな会話をしているのが少し不思議で
まるでシロエの言っていたことが本当だったかのよう──」
ルヴィアが言葉に詰まったかのように無言になる。
凛もまた無言であり、蝉の鳴き声だけが辺りに響く。
「……らしくないかしら」
「──…」
喧嘩するほど仲がいい。
シロエが以前から言っていた通り
二人の仲は喧嘩をする度に仲良くなっていき
そして今
ルヴィアがそれを認めた…。
かのように表面上はみえたが
(今度はなに企んでやがるこのアマ!!)
今さら和平交渉のつもり!?
どんだけ味方ヅラしようが、あんたにはカードを奪って逃走した前科があるのよ!
つーか、それ以前に絶対あんただけは生涯信用しないっての!!
シロのことで僅かでも裏切る素振りを見せてみなさい。
っていうか裏切れ。
その時があんたの最後よ!!
「ま、たまにはそんなものもいいんじゃない?」
内心では凄まじい罵倒をしながらも
それをおくびにも出さず、柔らかく微笑み
友好的な言葉を吐く凛
「ふふ。そうですわね」
それを受けルヴィアも微笑む。
(やれやれ…)
しかし
(まんまと絆されてますわこのメス豚!!)
その微笑みの裏で極悪人の如くニタつくルヴィア
仲間?冗談じゃないわ!
クロやバゼットに仕込んだ呪術はもともと
シロエのことは無論、身内として扱いますが
貴女は別。
貴女のような卑劣で下衆な女…利用するだけして海に棄ててあげますわ!!
イリヤスフィールとシロエのことは
「なんだか少し照れますわね…」
こっちも負けず劣らずの罵倒を心の中で凛へと叩きつけながら、照れくさそうに笑みを浮かべる
「ふふ」
「ふふふ…」
「うふふふふ…」
「ふふふふふふふふふ…」
蝉の鳴き声に交じり
二人の怖い笑い声が辺りに響く。
若干のホラーである。
ーーーーーーーーーー
「ク、クロ…」
場所は戻り衛宮邸
そのイリヤの自室
美遊が恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「ん?なーにミユ?」
「いや、その…これは」
美遊が恥ずかしそうにしている理由はその服装にあった。
美遊はその身に、膨らんだスカートにフリルやレースを幾重にもあしらった黒の装い…所謂ゴスロリ服を纏っていた。
あの後
美遊はイリヤ達三人と共にイリヤの自室へと移動した。
無論、遊ぶためにである。
そして遊びの内容が服の着せ替えとなったのだ。
…何故ゴスロリ服を持っているのかは甚だ疑問ではあるが
それはそれとして
クロエにゴスロリ服を着せられ恥ずかしがる美遊
その美遊の髪を楽しそうにツインテールにまとめるクロエ
そして美遊の姿にスイッチが入りかけのイリヤは黒のネコミミを手に
(ど、どうしよう!?ミユは大切な友達だし、いやでも…!)
美遊へと装着させようかと迷っている。
(ここでミユにネコミミを着けたらシロからまた怒られ───)
イリヤが美遊と友達になった時のことを思い出し
妹へと視線を移すが
「…」
シロエは無言のまま、ただその場に佇んでいる。
先のような近寄りがたい圧力は消えているが
無表情である。
(シロ…)
ミユを部屋に連れてくる時
シロは自分の部屋へと戻ろうとした。
昨日と同じように、無言で…。
なんとなく一人にしてはいけないって思ったわたしは
戻ろうとしたシロをわたしの部屋へと連れていった。
連れていった時、特になんの抵抗もなかった。
だからいやってわけじゃないとは思うんだけど…。
「…えーい!」
「!」
イリヤは持っていたネコミミを
シロエの頭へとスポッとはめる。
「…お姉ちゃん?」
「うん!かわいい!この際だからシロもいろいろ着てみようよ!」
「わたしは…自室に行けば自分の服あるし…」
「セール品で買ったやつが二、三着だけでしょー。
しかも飾り気がないワンピースばっかり!」
「だってその方が簡単に着れるし…」
「女の子なんだからもっとおしゃれしようよ!
気に入ったのがあったら一着くらいならあげるから、ね?」
「あ、じゃあわたしも何着か貰」
「クロはたくさん持ってるでしょ!?」
イリヤとしては
シロエに元気になってほしいがために
このような提案をしたのだ。
よってクロから
ケチー。
という苦情が出ても気にしない。
「でも悪いし…」
「妹が遠慮しないの!
ほら、この間の雪見ホワイトチョコのお礼!」
「雪見ホワイトチョコ…?」
「…この間ミユにもあげたあれ。
…チョコを求肥で包んだ」
「あ…」
そのシロエの説明で美遊は思い出す。
あの本当に美味しかった真っ白な甘味を
そして同時に思う。
(わたしもなにか……お礼を……)
とは思うもののなにも用意していない。
というかシロエと同じくホテルに戻っても私物がほぼなにもないと言ってもいい。
どうしよう……。と内心焦る美遊
後で渡すという発想が出てこないほどに焦る。
そして
「シ、シロ…。わたしからも…これ、お礼…」
「?」
「これって…」
焦ったミユがシロエに渡したものは
「ヘアピン…?」
「これってミユがいつも身につけてるやつ…?」
美遊の前髪を左右に留めている
髪留めが二つ
シロエへと差し出されていた。
「う、うん…。いつもつけてるもので悪いんだけど…」
「…」
「……やっぱり、いや…?」
「……いやじゃないけど」
「いいの?ミユのは」
イリヤの疑問に美遊は
「わたしのは予備があるから大丈夫」
と、答えるものの
「…」
シロエは無言のまま髪留めを凝視している。
その理由は
(…『道具』がプレゼントを貰うって、どうなんだろ)
などと考え、なかなか受け取らない。
不安になっていく美遊
と、そこに
「ミユもこう言ってるし、貰っとこう?シロ」
イリヤがシロエの手を取り受け取らせる。
「……………うん。……ありがとう、ミユ」
……………。
『道具』を飾りつけたりすることだってあるんだし…。
これもそれと同じ………。
うん、おかしくない。全然おかしくない。
と、内心で自分に言い聞かせながら受け取るシロエ
それを知らない美遊は受け取ってくれたことに内心安堵する。
「よーし!せっかくだからわたしがつけてあげる!」
そうイリヤが宣言し
妹の髪を弄り始める。
ネコミミを取り外し
あーでもない。こーでもない。と
そして
「できた!」
出来あがったのは
「これって…わたしと…」
「…ミユと同じ髪型…?」
後ろ髪はそのまま流して
前髪のみ髪留めを二つ共使い左右へと留める。
後ろ姿は変わらずイリヤと同じだが
前から見ると美遊と同じ髪型となっている。
「いやー…。なんていうかこのヘアピンを見てたらやっぱりミユの髪型がしっくり来ちゃってて」
このイリヤと美遊を足して二で割ったような髪型にシロエは
「…うん。いいんじゃない」
「!うん!これならこの間クロが言ってた見分けもつきやすくなったし!」
「う、うん…!」
美遊もここまで考えて渡したわけではないが
大切な友達が自身と同じ髪型をしてくれて
恥ずかしさよりも嬉しさが勝っている。
「……むー」
それを外野から見ていたクロエは
(わたしの髪型はいやだって言ったくせにー…)
と頬を膨らませていた。
…
……
………
「し、士郎さん…これは…!」
晩御飯
美遊の目の前のテーブルには
豪勢な食事が置かれている。
見ただけでおいしいということが伝わってくる。
「イリヤ達の友達がせっかく泊まるっていうんだから、腕によりをかけて作らせてもらったんだ。
…シロもこれから迷惑かけるみたいだしさ」
「い、いえ!迷惑だなんてそんな…!
シロと一緒に働けるなんてむしろ楽しみで…」
「ははは。まあシロのことよろしく頼むな。
他のももうすぐできるからそのまま座って待っててくれ。
…イリヤ、運ぶの手伝ってくれるか?」
「う、うん!」
目の前の料理に目をキラキラさせている美遊を尻目に
イリヤがキッチンへと向かう。
「…なぁイリヤ」
「?どうしたのお兄ちゃん?」
キッチンで手伝っていると士郎から声をかけられ
イリヤは訝しみながら返事をする。
「シロのことだけどさ、なにかあったのか?」
士郎がそう聞くのも無理はなかった。
クロエが美遊に話しかけているその隣にて
シロエは無表情かつ無言で俯いている。
料理を見ているように見えるが、違う。
その瞳はなにも映してはいない。
いつもとはかけ離れた姿に士郎が訝しむのも当然であった。
「………多分疲れてるんじゃないかな」
「疲れ?なんでまた」
「あー…えっとね。昨日遊んでた時にちょっとはしゃぎ過ぎたみたいで、あははは」
イリヤのその言葉に
士郎は訝しみながらも一旦の納得をすることとした。
イリヤからもシロエに対する不安を抱いていることが伝わってきたがために
…
……
………
「ミーユ♡」
「きゃっ!?」
お風呂場
浴槽にてクロエが美遊へと抱きつこうとし
美遊が悲鳴を上げ、それを避けてクロエから離れる。
「…お姉ちゃん」
「な、なに?」
「うちの浴室に小学生とはいえ四人はさすがに無理があると思う」
浴槽に美遊とクロエ、洗い場にイリヤとシロエ。
エーデルフェルト邸の大浴場であれば余裕であるが
一般家庭である衛宮邸ではシロエの言う通り確かに無理があった。
よくこれでクロエの抱きつきを美遊は避けれたものである。
「まあまあいいじゃない。
ミユが泊まりにくるなんて初めてなんだし」
シロエは狭そうだと三人とは別で入ろうとしたのだが
今のシロエを出来るだけ一人にしたくないという理由から
四人で入浴という力業にイリヤは討って出たのだ。
「…」
「あははは…」
それに対して不満を漏らしたシロエであったが
イリヤがそれをなだめるとシロエはまたしても無言になってしまう。
とそのやり取りを横目で見てたクロエが
「とおっ!」
「!」
浴槽から飛び出し、そのままの勢いでシロエへと後ろから抱きつき今回は成功する。
突然の抱きつきに僅かに目を見開いたものの変わらず無表情であったシロエだったが
「うーんシロ。さすがに小学生だから仕方ないとはいえ、リズと比べたらまだまだちっちゃいわねー」モミモミ
「!?」
シロエの慎ましやかな胸を揉み始める。
以前エーデルフェルト邸の大浴場にてリズの胸を揉み、その大きさを思い出しながら妹の胸を揉むクロエ
シロエは姉の突然の暴挙に無表情をなんとか保ちつつも顔が僅かに赤くなり
(いつも通りに喧嘩をする…?いやでも…。
っていうかお姉ちゃんやミユ、それにクロだってわたしとそこまで変わらな…。
いやそうじゃなくて…)
どうしていいかわからずオロオロする。
「あ、う…」
「お姉ちゃんが大きくしてあげる♡」
無表情の妹の僅かな反応が面白いのか
クロエは妹の胸を揉みながらも
その指を───
「う…あ、ん…んんっ…」
「あら。ずいぶんとかわいい喘ぎ声を出すわね♪」
「~~ッ」
顔をさらに赤く染め上げ、涙目となり
無表情が崩れかけるシロエだったが
「ほらほら…。抵抗しないなら、もっとすごいことを…」
クロエは止まらない。
むしろ嗜虐心からスイッチが入ってしまったのか
いつものように抵抗しない妹をいいことに
いつまで耐えられるかなー、と
クロエの行動がさらにエスカレート
「………はっ!な、な、な…、なにやってるのクロォーーーッッ!!?」
しそうになった時
隣で突然繰り広げられていたアレな展開に
フリーズしていたイリヤが
涙目となっている純真無垢な妹をクロエの毒牙から救い出すべく
慌ててクロエを羽交い締めにし
そのまま引き剥がそうとするが
「こ、の…!シロを離しなさいよクロ…!!」
「えー?いいじゃない。シロだって抵抗しないってことはそういうことでしょ?」
「どういうことよ!?どう見ても嫌がってるじゃない!?」
しかしクロエは離れない。
シロエの胸を揉み続ける。
揉まれる度にもしくはそのいやらしい指の弄る動きにシロエは反応してしまうが
「~ッ~~ッッ」
必死に声を押し殺し
喘ぎ声が出ないように耐えようとする。
その姿がいじらしく、クロエの嗜虐心をさらに煽る。
「ミユーッ!手伝って!!クロを引き剥がすのを手伝って!!」
「う、うん!」
万力の如く離れないクロエに対し
イリヤは美遊に助力を求め
同じく呆けていた美遊も
さすがにこれはまずいと
クロエを引き剥がそうとする。
Q.狭く滑りやすい洗い場にて全力で引っ張り合いをしたらどうなるでしょう?
「わっ」
「へっ」
「あっ」
「きゃっ」
A.転びます。
ドンガラガッシャーーーンッッ!!!
石鹸やシャンプー、洗面器や風呂椅子などを宙に飛ばしながら派手にすっ転ぶ四人
またその際、幸いというべきか抱きついていたクロエがシロエから離れる。
「いったー…、お尻打ったー…もうっ!なにしてるのよクロ!!」
「あたたたた…さすがに、はしゃぎ過ぎたかしら…」
シロエの無表情をなんとかしたいという
クロエなりの配慮からの行動であったのだが
途中からシロエの反応が初々しい上に面白かったため
歯止めが利かなくなったのもまた事実であった。
「まったく!…シロ、ミユ、大丈──」
イリヤが元凶であるクロエを睨むのを止め
同じく転んだであろう妹と友達の心配をし振り返ったその時
イリヤの思考が停止する。
先でも触れたが衛宮邸の浴室は
一般家庭のそれと同じ広さである。
小学生とはいえ四人も倒れることのできるスペースなど洗い場にはなく、精々三人が限度である。
よって一人はどうやっても誰かと重なってしまい………
そういった理由から
今イリヤの目の前では
シロエが美遊に覆い被さるような形で倒れている。
それだけならまだいい。
問題は
美遊は仰向け、シロエはうつ伏せに
それぞれ転んでしまい
つまりは
美遊の唇とシロエの唇が触れ合って───
「シローーーッッ!?!?
ミユーーーッッ!?!?」
目の前のとんでもない状況に
漸く頭が追いついたイリヤが
急ぎ妹を助け起こす。
「シロ!大丈夫!?ねえ!?」
「────」
姉に抱え起こされたシロエ
その表情は変わらず無表情ではあるが
どちらかというと無表情のまま固まってしまっているように見える。
その証拠に顔はもはや耳まで真っ赤、頭からは湯気が立ち上り混乱しているのか青い目はぐるぐると渦巻いている。
無表情という薄皮一枚の裏側ではオーバーヒート寸前なのが手に取るようにわかる。
しかし
「───ご…ごめん、ミユ。わ、わたし…」
蚊の鳴くような小さくそして震えた声でなんとか美遊に謝罪をする。
そんな妹の精一杯の謝罪を聞いたイリヤもまた姉として美遊に謝る。
「本っっっ当にごめんねミユ!!
シロ…じゃなくてクロの所為でこんな」
「えー?全部わたしの所為ー?三、四割くらいは引っ張り始めたイリヤが」
「どう見てもクロが十割悪いよ!?
クロがあんなことしなかったら、わたしだって引っ張らなかったからね!!?」
「───う…ううん大丈夫。
ちょっと驚いただけだから…。
シロもそんなに気にしないで。
今のは完全に事故だったし、それに」
大切な友達であるシロエとのキスに
美遊は顔を赤らめながら恥ずかしそうに口元に手を置き
「イリヤと二股になっちゃうけど…イリヤとシロがそれを許してくれるなら…。
わたしはイリヤとシロどちらとも」
「ミユ、ストーーーップ!!?
なに言ってるの!?わたしと二股ってなに!!?」
「あら^~」
「そしてなんでクロは他人事みたいにしてるの!?
ちゃんと反省してよ!!?
っていうかシロにあんなことしてたクロにだけは言われたくない!!」
その後
転んだ時の激しい音を聞きつけ、駆けつけたセラによる説教が炸裂した。
…
……
………
混沌とした入浴が終わり
夜10時を回り
小学生は寝る時間
「……ねぇママ」
イリヤ達も例に漏れず
床に就こうとしたのだが
「なにも五人並んで寝る必要はなくない!?」
いつもの自室のベッドではなく
アイリの部屋にて五人分の布団を敷き
五人横に並んで布団に入っている。
「…じゃあわたしは自室に戻」
「シロはここでいいの!」
風呂場の一件からなんとかクールダウンしたシロエが
これ幸いと自室に戻ろうとするも
姉のイリヤに止められる。
「せっかくミユちゃんがお泊まりに来てるんだから
みんな一緒の方がいいでしょー?」
「だとしてもママがいる必要はないし!」
「狭いし暑い…」
「…というかなんでママはわたしを抱き枕にしてるの?
わざわざこっちの布団に入ってきて…。
正直言ってすっごく暑い」
「えー?だってこうしないとシロちゃん部屋に戻っちゃうでしょー?」
「…」
図星だったのか黙ってしまうシロエ
「それにガールズトークの花は夜に開くのよ?
では順番にクラスの男子で誰が好き的な話を──」
「子供は寝る時間です!寝ましょう!速やかに!」
「わたしはお兄ちゃんが好きー。ミユもだよね」
「えうっ…!?」
「…そうなの?ミユ」
「シ、シロ…!?え…えーとえーと」
「あら、それじゃ四人ともシロウが好きってことじゃない」
「ひゃい!?なななにを言ってるのかなママ!」
「……なんでわたしまで入ってるの?ママ」
「あら?シロちゃん、シロウのこと好きじゃないの?」
「………お兄ちゃんは」
「た、ただのお兄ちゃんだよね!!ね、シロ!!」
「う、うん…。多分」
「多分!?」
「お兄ちゃんも罪づくりだよねー。小学生四人に愛されちゃって」
「罪づくりというか、それリアルに犯罪に繋がりそうな響きだわー。シロウ規制しとかなきゃ」
「規制…?」
「しっ…士郎さん規制されるんですか?」
「規制というか去勢?」
「去勢…?」
「去勢されててもわたし、愛せるよ」
「真実の愛ねー」
「ねぇママ。規制とか去勢ってなに?どういう意味?」
「それはねー。シロウの精」
「ママーッッ!?
な、ななななにを教えようとしてるのー!?
ああああもーー!!みんな寝てーー!!!」
…
……
………
翌日
カチャカチャ…
ルヴィア達が滞在しているホテル
その美遊に与えられた一室にて
メイド服を身に纏い、前髪を昨日貰った髪留めで美遊と同じように左右へと留めたシロエが
美遊の指導の下、紅茶をいれていた。
ルヴィアは別室にてシロエのいれた紅茶を待っている。
「──そう。そしたら茶葉をティーポットに入れて…」
「…」
そうして沸騰したお湯をティーポットに入れた後
蒸らしている間に
「……シロ」
「…?どこか間違ってた?」
「ううん、それは大丈夫。
そうじゃなくて…聞きたいことがある」
「…」
「なんで突然働きたいって言い出したの?」
シロエは変わらず無表情であるが
美遊は意を決して聞く。
しかし
「…」
「……………答えたくないなら、そう言ってくれればこれ以上詮索は」
シロエの抱えている秘密と同様に話したくないのかと
美遊は判断し、引こうとした。
その時
「逃亡用資金」
シロエはあっさりと答える。
「え…?」
「時計塔からさらに刺客が送り込まれた時のための逃亡用の資金。
それを稼ぐために働いてる」
時計塔から……刺客?
美遊が困惑しているのを見たシロエは続ける。
「バゼット・フラガ・マクレミッツ。
本物の宝具の現物を所持し、発動までさせることのできる封印指定執行者。
おそらくだけど時計塔の所有する戦力の中でもトップクラスに位置する人物だと思う」
一昨日の戦いを思い出す美遊。
『ライダー』のカードを
………
「そんなバゼットが打倒された経緯を時計塔に知られたら脅威だと思われるのは当然だと思う。
…それどころか戦闘の内容を知ったら、下手すれば封印指定に入れられるかもしれない」
戦闘の内容…。
シロは『バーサーカー』のカードを
でもそれならカードの方を脅威とみなされるはず…。
シロが問題視しているのは──
(あの人の魔術を模倣…ううん。上回って使用したこと…?)
今でこそ見慣れた光景になってしまったけど
飛行の魔術や蘇生のルーン…。
とてもではないが一目見ただけで模倣なんてできるはずがない。
ましてやシロは
ルビーやサファイアといった規格外の礼装すら持っていない。
本来であれば発動すらできない。
にも関わらず、発動どころか上回ってきた。
…確かに相手からすれば脅威とみなされたとしてもおかしくはない。
「…封印指定っていうのは?」
「学問では修得できない魔術
その体質のみが可能にする一代限り
後にも先にも現れないと時計塔が判断した稀少能力を持つ魔術保有者。
それを永遠に保存するために魔術師のサンプルとして保護する、っていう令状」
稀少能力…。
確かに瞬時に模倣した上にあれだけ多種多様な魔術を操るシロならあり得なくはないかもしれない。
だけど保護…。
それだけ聞くと悪くないように思えるけど…
「ただしその実態は封印指定を受けた魔術師を拘束・拿捕し、一生涯幽閉すること」
「…え?」
「さらに言えば封印指定を受けた魔術師の生死は問わない」
幽…閉…?
生死を…問わない?
それにシロが該当するかもしれない…!?
「そんな…そんなの!」
「だからそうなった時のための逃亡用資金」
「っ!」
本音を言うなら
もっと早くから働き始めるべきだった。
時計塔を見つからないようにすることばかり考えて
見つかった後のことを考えていなかった。
今まで貯めてきたお小遣いはあるけど、逃亡用となると心許ない。
……間に合わなかった場合は襲撃者から剥ぎ取っていくしかないかな。
シロエが内心溜め息を吐いている中
シロエの言ってる意味を理解した美遊は唇を噛む。
「でもあの人は協会には報告しないって」
「うん。言ってたけど本当にそうするっていう保証はない。
それに封印指定を執行する人なら協会に報告するのは義務だから」
シロエの言葉に美遊はなにも返せなくなる。
魔術師であるならその程度の嘘はついてもおかしくはないとそう思ってしまったからである。
なんで…なんでよりにもよってシロが…
だいたいそれなら一緒に戦ったわたしたちだって…
…ううんわかってる。あの戦闘内容じゃわたしたちよりもシロが注目されるのは無理はないって…
現に凛さん達も………っ!?
その時
『わたしがやった。
お姉ちゃん達はなにもしてない。
ただ見てただけよ』
美遊の頭の中にシロエの言葉が過った。
……まさか
「………まさか、シロ。
あの時凛さんに、わたしがやったって言ったのは…」
あの人が倒されたことに凛さんは戦慄してた。
それを成し遂げたシロに対しては尚のこと
…あり得ないことだけど。
もしも凛さんが今回のことを協会に報告した場合
狙われるのは………。
美遊がそこまで思考すると
顔を険しくさせシロエを見る。
しかし
「…わたしはただ事実を言っただけよ」
「…」
認めようとしないシロエであったが
美遊は半ば確信した。
シロはわたしたちを庇ったのだと
しかもわたしたちにはわからないようにして…!
「…そんなに睨まないでミユ。
わたしだって、リンさん達が報告するなんて……………思ってない。
…バゼットが報告するのもあくまで可能性のひとつとして考えてるだけ。
報告しない可能性だってある」
シロエの中ではバゼットが報告する可能性は五分五分だと思っている。
バゼットがエーデルフェルト邸を何の通達もなしに急襲したその姿は
魔術師として…封印指定執行者としてはなんらおかしくない行動。
与えられた任務を果たすことのみを考えた
実に魔術師らしい思考。
しかしその一方で
バゼットと戦ったシロエには
バゼットは魔術師…というよりも戦士としての気質もあるように感じていた。
所謂、武人であると。
そして武人であるならば戦った結果により交わした取り決めはなにがなんでも守るものである。
つまりはバゼットが
封印指定執行者としての与えられた役割を取るのか。
それとも武人としての誇りを守ることを選ぶのか。
…シロエにはどちらに転ぶか判断がつかなかった。
「それに報告されたとしても
八枚目の情報をリンさん達しか持ってない以上
最低でも八枚目の回収が終わるまでは手を出さないと思う」
逆に言えば八枚目の回収が終わったら、いつ来てもおかしくはない。
シロエがそう考えていることを美遊は感じる。
故に
「…もしそうなったらわたしも一緒に行く」
シロエの逃亡に一緒についていくと言う。
シロエを一人にしたくない、と
しかし
「ダメ」
シロエはそれを断る。
「ど、どうして!?」
「…逆に聞くけどなんでついていきたいの?」
「そんなの…シロが友達だからに決まって」
「お姉ちゃんと別れることになっても?」
「っ!」
イリヤとシロエ
大切なたった二人の友達
そのうちどちらと一緒にいることを選ぶのか。
そんな答えようのない問いに
美遊は言葉を詰まらせる。
しかし
「…シロは」
「?」
「シロはそれでいいの…?
わたしたちと……別れることになっても……」
黙ってるわけにはいかない、と
美遊はなんとか言葉を絞り出し
シロエへと逆に問う。
しかし
「………わからない」
シロエの答えは
「わからないよ。わたしの気持ちなんて…誰にも」
美遊にショックを与えた。
確かに、わたしたちの誰もシロの抱えているものを知らないけど………。
美遊がそのショックから俯こうとした。
が
「わたし自身にも」
シロエの続いた一言に美遊がその顔を上げる。
「──え?」
「ううん。わからないんじゃない。
どうでもいいの、わたしの気持ちなんて。
今ここにいる
「シロ?」
「ああ、うん。それも違うんだった。
そもそも
どうでもいいんじゃなくて、そんなもの存在しない」
「───シ、ロ…?」
シロエはもはや美遊を見ていない。
目から光が消え、心ここにあらず。
虚空を見つめ、譫言のようにぶつぶつと呟く。
半ば狂気じみているように見える。
しかし、同時に
不安定…否。
かつてのクロのように不安定になっているというレベルではない。
今にも崩れる寸前。
そしてなによりも
消えてしまいそうな姿にも見えた。
そんな友達の姿を唐突に見てしまい
言葉を失う美遊
しかし
「───三分」
「え?」
「蒸らし始めてから三分経った。
そしたらポットの中をスプーンで軽くひとまぜするんだったよね?」
「え、あ…。う、うん」
話がさらに唐突に紅茶の話に戻り
困惑する美遊を他所に
作業を進めていくシロエ
その雰囲気は無の状態に戻っている。
まるで先の出来事などなかったかのように──
その後
ルヴィアへと紅茶を振る舞ったシロエは
初めてにも関わらず指導通り完璧にいれることが出来たため
ルヴィアから絶賛された。
その際
シロエを指導した美遊も褒められたが
美遊はなんとも言えない気持ちであった。
今さらだけどギャグとシリアスの温度差に風邪引きそう。