プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


海の誕生会(後編)

 

 

「…奇遇ですね。このような場所で」

 

 

凛達と意図せずに遭遇し

眉を潜めるバゼット

 

 

「バゼット…!!」

 

「なんですのその格好は。

というかシェロ!!」

 

 

同じく敵であるバゼット

そして意中の相手である士郎

両方いっぺんと遭遇し

警戒する凛と

同じく身体は警戒しているものの顔が弛んでいるルヴィア

 

 

「なんだなんだ?」

 

「知り合いか…?」

 

 

そんな凛とルヴィアの様子に戸惑う士郎と一成

そして

 

 

(…………ど、どうしよう…)

 

 

カオスな遭遇に顔を引きつらせるイリヤ達が

そこにはいた。

 

 

「ほんと突然現れるヤツね!

どうする…!?あっちはまだ手負いみたいだけどこっちもまだ準備が…」

 

「落ち着きなさい。負傷している状態で、しかもこんな場所で事を始めるほど愚かではないでしょう」

 

 

ルヴィアがバゼットの状態と一般人だらけのこの場から

襲撃ではないと冷静に思考しようとするも

 

 

「片手しか使えない状態で…。

こんな大衆の面前で…。

というかシェロの面前で…」

 

 

ルヴィアの顔が赤くなっていく。

 

 

「というかシェロ!!」

 

「シェロシェロうっさいわね!!」

 

 

意中の存在である士郎が気になりすぎているルヴィアに突っ込みを入れる凛

 

 

「……?

お前達はここでなにをしているのだ。

海水浴というわけでもなさそうだが」

 

 

そんな士郎の隣にいる一成が訝しむ。

 

 

「まさかとは思うが

その怪しげな工事に関係しているのか?」

 

「オホホホホそんなまさか」

 

 

一成の言葉に

ルヴィアは笑いながら、しらばっくれる。

しかし

 

 

「ふむ…。

では、施工主がエーデルフェルトとなっているのはなぜだろうな?」

 

 

一成が工事看板に表示されている施工主の名前について

看板を軽く叩きながら言及する。

 

 

(目ざといですわねこの男!!)

 

(相変わらず小姑みたいなヤツ!!)

 

 

一成の気づきに内心舌打ちをする凛とルヴィア

その一方で

 

 

「ミユ。これ八枚目の…」

 

「うん。場所も一致してる」

 

「え?八枚目って…」

 

 

シロエと美遊の会話に

八枚目という聞き捨てならない単語を耳にしたイリヤが尋ねる。

 

 

「八枚目のカードの元へトンネルを掘る工事」

 

「…うん。わたしも研修中にルヴィアさんから聞いた。

カードが地中深くにあって手出しできないから…」

 

「そこまで掘り進んでから鏡面界にジャンプするみたい」

 

 

そう。カードが地中にあるため今までとは違い、ただ鏡面界にジャンプするだけでは黒化英霊と接触することすらできないのである。

よって現実世界にてカードのある座標まで掘り進み、そこから鏡面界へとジャンプするのである。

 

 

「…一応トンネルの図面も見せてもらった。

八月の後半くらいに工事が完了するみたい」

 

「ははー。なるほど?」

 

 

美遊とシロエの説明を聞き

納得するクロエ

 

 

「…………」

 

 

八枚目。

その存在を聞いた時の美遊とシロエの反応を思い出し

無言になるイリヤ

説明を行う二人の表情…

美遊の表情は変わっていないが

シロエの表情はまた少し固くなってしまっていると

イリヤは感じていた。

 

 

(…………あの時もそうだったけど、もしかしてシロ……怯えてる…?)

 

 

と、その時

 

 

「おーいたいたイリヤズ」

 

「なんの工事なんこれ?」

 

「うおおでっけー働く車だな!!」

 

「あうあっ………!!」

 

 

ここに来る途中で人込みにより分断されてしまっていた雀花達四人が合流してしまう。

 

 

「しまった…ボヤボヤしてるうちにみんな集まっちゃった…!」

 

「これ以上事態がややこしくなる前に撤退させるのよ!

シロも手伝いなさい!」

 

「…わかった」

 

 

そうしてイリヤ、クロエ、シロエの三人は

合流してきた雀花達四人の背を押し、撤退させようとするが

 

 

「な、なんでもないよー。みんなー」

 

「ささ、ここは危ないから向こうで遊びましょうねー」

 

「保母さんかお前ら」

 

「ここは………鮫が出て危ない」

 

「…言い出しっぺのわたしが言うのもなんだが

それに引っかかるのはお前だけだシロ」

 

「鮫は…空中も泳ぐ……気がする」

 

「泳がねぇよ」

 

「『あそぼ』って………言う気が」

 

「言わねぇよ。っていうかそんな鮫いたらホラーだわ」

 

「シロ…。さっきのはただのスズカのデタラメだからそんなに気にしちゃ」

 

「あっ!!」

 

 

シロエが鮫(?)に翻弄されているのを

雀花とイリヤが呆れた表情をする中で

那奈亀がルヴィアと凛の姿を見つけ声を上げる。

 

 

「金ドリルとツインテール!!」

 

「えっ?」

 

「な、なんですの?」

 

「なんだ知り合いか?」

 

「あいつらは…、あいつらは…」

 

 

初対面の筈にも関わらず那奈亀から指を差され

凛とルヴィアが困惑する中で

那奈亀は顔を険しくさせる。

そして

 

 

「あたしの姉ちゃん…森山奈菜巳の恋路をぶっ壊した悪魔だーーーッ!!」

 

「「「「なっ…なんですとーーッ!!?」」」」

 

 

那奈亀の叫びに

イリヤ達が驚きの声を上げる。

…シロエと美遊は反応せず

龍子に至ってはバゼットから買ったのかアイスキャンディーを食べているが

 

 

「人違いでしょう。(ワタクシ)達が他人の恋路を邪魔するわけ…」

 

「いや、待って。

森山…森山…。なんか引っかかるものが…………」

 

 

ルヴィアが否定しようとするも

凛は心当たりがあるのか記憶を掘り返す。

そして

 

 

(あっ…!!)

 

 

思い当たる同じ高校の女生徒

その女生徒は

 

 

「もしかしてあの時の──!!」

 

 

人の顔並みの大きさを持つ大きな多数のカエルに囲まれながら

仰向けに倒れ泡を吹き気絶していた───

 

 

「その時だー!!」

 

「どんな時の状況なのこれーッ!?」

 

「聞いたことがある…!!

ある女生徒が解剖用のカエルが入った袋を投げつけ大惨事になったとか…」

 

「有名な事件だった!?」

 

「あれ以来姉ちゃんはカエル恐怖症になっちゃったんだ!!

名前に「(ヘビ)」を持つ者がなんたる悲劇…!!」

 

(…?カエルって恐怖の対象に入るものなの?

投げつけられただけで…?)

 

 

鳥肌を立たせている姉を見て

特にカエルに対し苦手意識がないシロエが訝しむ。

 

 

「そうだ。あの時の後始末は大変だったんだぞ!

いったい何を考えているのだ貴様は!」

 

「しょ、しょうがないじゃない!

中身がカエルだって知らなかったんだから!」

 

「だからって森山に物を投げつけることはないだろ」

 

「あの女を庇う気ですのシェロ!?」

 

「そういう話をしてるんじゃ…」

 

「あわわわわ…。もしかしてこれ修羅場ってやつじゃ…!」

 

 

言い争う皆を見て修羅場を感じ青ざめるイリヤ

そこに

 

 

「ちょっと!どうにかしなさいよイリヤ!」

 

「なんでわたしに言うの!?」

 

 

クロエが事態の収拾をイリヤに命じるが

何故自分に振るのかわからないイリヤは涙目になる。

 

 

「どうも話を聞いてるとこれってお兄ちゃんを巡ってのイザコザっぽいわ!

ということは…」

 

 

家族 イリヤ、士郎

 

小学校 イリヤ、雀花、龍子、那奈亀、美々

 

魔術関係 イリヤ、凛、ルヴィア、バゼット

 

 

この場にいる主な3つのコミュニティ全てにイリヤが入っている。

つまりは

 

 

「これはあなたを中心とした3つのコミュニティ間の抗争ということよ!」

 

「直接関わってないのになんで中心にーッ!?

っていうかそれを言ったらシロだって中心になるんじゃないの!?」

 

 

自分でなくシロエであっても、上記の図は成り立つとイリヤは指摘するが

 

 

「…?わたし?」

 

「イリヤ、あなた…。この状態のシロがこれをどうにかできるわけ」

 

 

理由こそわからないが

今のシロエは元々低めであった人とのコミュニケーションがさらに低下している。

そんなシロエに皆を鎮めることなどできるはずがない。

よってクロエはシロエに対しては事態の収拾を命じなかったのだが

 

 

「うん。わかった」

 

「そう、できるに決まって………へ?」

 

 

あっさりと了承し困惑の声を上げるクロエ

話を振ってしまったイリヤも同じく困惑している中で

シロエは行動を始める。

 

未だに言い争っている皆

そんな皆に気づかれないように

シロエは気配を圧し殺し

皆の死角へと移動した後

 

 

いつもの民族衣装を身に纏う。

 

 

「「!?」」

 

 

シロエは右手を言い争っている皆に向け

右手から青白い大量の冷気を───

 

 

ガシッ!!

 

 

放出し始めた瞬間

イリヤとクロエが妹の両脇をそれぞれで抱え

大急ぎで皆から離れる。

 

 

「…ん?なんか少し寒くなって」

 

「シェロ!話を逸らすんじゃ──」

 

 

大急ぎで離れたイリヤとクロエは肩で息をした後

 

 

(なにをやろうとしてるのよ!!あんたは!!?)

 

(なにって…事態の収拾を)

 

(それでなんであの行動になるの!?)

 

 

不思議そうに首を傾げる妹に

詰め寄るクロエとイリヤ

 

 

(みんなヒートアップしてるみたいだから…頭を冷やしてもらおうかな、と)

 

(物理的に!?)

 

(っていうかあの大量の冷気は冷やしてもらうのレベルを明らかに越えてたでしょ!?)

 

(大丈夫。

凍らせても後で解凍する。

命に別状はない。記憶も残らない。

なんの問題もない)

 

(問題しかないから!?)

 

「シ…シロ?いったいなにを…」

 

 

妹に突っ込みを入れている中で

美遊が声をかける。

突然のシロエの変身にさすがに声をかけたのである。

イリヤとクロエは突然声をかけられビクリと震えたが

声の主が美遊だとわかると安堵する。

 

 

(と、とにかく速く元に戻って!!

みんなに気づかれる前に速く!!!)

 

(…わかった)

 

 

クロエが美遊に説明を行っている中で

必死なイリヤの声にシロエは頷き

元の水色の水着へと姿を戻す。

 

はぁぁー…

 

と大きな溜め息を吐き

ようやく一安心のイリヤ

かと思ったが

 

 

「だいたい……っ!

元はと言えばあの子がわざとらしく衛宮くんにちょっかいをかけるから…!」

 

「姉ちゃんの悪口言うなー!!」

 

「『衛宮くんに』……?

なあ………もしかして

ナナミさんの好きな人ってまさか

イリヤとシロの兄貴?」

 

「へ?」

 

 

視線がぐるりと

イリヤとシロエに注がれる。

 

 

(って今度はこっちが…)

 

 

顔を引きつらせるイリヤ

無表情のシロエ

我関せずといつの間にか美遊と一緒に二人から離れているクロエ

そして

 

 

「おおおッ…お義姉さまと義妹ーッ!?」

 

「イヤアァーッ!?少しは休ませてー!?

そしてわたしたちを抗争に巻き込まないでー!!」

 

「…っていうかわたしここでも義妹なの?」

 

 

抱きついてきた那奈亀に対し

一方は感情豊かに一方は無感情に

それぞれで不満を漏らす姉妹

 

 

「なっ…、卑劣な…!

妹を使ってまずイリヤとシロの方を落としにかかる戦略ですわね!

しかし無駄なこと!」

 

 

那奈亀の行動にハンカチを噛みしめるルヴィアであったが

 

 

「イリヤスフィールとシロエは既に(ワタクシ)と義姉妹の契りを交わしています!!」

 

「交わしてないよ!?」

 

「そしてシロに至っては私のメイド…即ち完全に身内です!!」

 

「間違ってはいないけど…(身内?)」

 

 

ルヴィアが自信満々に告げた(メイド部分で雀花達が驚愕した)のを皮切りに

 

 

「わっ…わたしは別に衛宮くんとか関係ないけど…

わたしだってイリヤとシロとは主従契約結んだことがある仲なんだからっ!」

 

「こっちも余計な誤解を招きそうなことをーッ!?」

 

「契約は結んだけど…主従ではない気が…」

 

 

凛が

 

 

「あたしなんかイリヤとシロの恥ずかしい所にホクロあるの知ってるもんねー!!」

 

「なんで知ってんのーッ!!?」

 

(……同一の身体でずっと一緒に過ごしてたからホクロも同じ所に…)

 

 

那奈亀が

 

 

「ええい、先ほどから聞いていればなんと破廉恥な!!

やはり衛宮は女なぞに渡せん!!

男だけの柳洞寺で面倒をみよう!!」

 

「それはそれでなんか別の不安がッ!?」

 

「?お姉ちゃん別の不安って」

 

「そこに引っかからなくていいからシロッ!!」

 

 

一成が

 

 

「アイスキャンディーいかがっすか!!」

 

「まだいたの!?」

 

「さっき買ったでしょ…」

 

 

ついでにバゼットが

 

 

「さあどうするんですの!?」

 

「へうっ!?」

 

「いったいイリヤとシロは誰の味方なんだ!?」

 

「いええああぅ…!」

 

「…」

 

「イリヤ!!」

 

「シロ!!」

 

「イリヤ!!」

 

「アイス!!」

 

 

皆から迫られ(一名全く関係ないが)

目をぐるぐる回すイリヤと

変わらず無表情のシロエ

そして

 

 

「………………………………………」

 

 

イリヤは涙目になり

 

ニコリ…

 

と力なく微笑むと

 

ガシッ

 

 

「?お姉ちゃん…?」

 

 

隣の無表情の妹の左手首を右手で掴むと同時に走り出す。

即ち

 

 

(((((逃げたーーッ!!?)))))

 

 

妹を連れて逃走を計った。

 

 

「待てイリヤー!!シロー!!」

 

「白黒つけなさいーッ!!」

 

「やーーーー!!追ってこないでーーーー!!」

 

(………この二人で追われてる感覚)

 

「ヤバくなったらすぐ逃げるのは悪いクセよ!!

しかもシロまで連れて!!」

 

「そーだそーだ!!」

 

(みんな好き勝手言いたいこと言って…!

収拾つけられるワケないじゃない!!

そもそもお兄ちゃんは…ッ

お兄ちゃんはわたしの…!!)

 

 

涙をこぼしながら走るイリヤと

 

 

「……」

 

 

手を引っ張られながらも

無言で並走し

その様子を隣で見ているシロエ

 

 

「だーーーッ!!イリヤはわかりきってたけどやっぱりシロもはええー!!」

 

 

イリヤの全速力についていっているシロエ

それを見た那奈亀達の声がイリヤの耳に届く。

 

 

「(…ッ。とにかく今は…)シロ」

 

「……………なに?」

 

 

この時

わたしの頭の中では

『猟犬トケ』だった頃の

熊に追われていた時の記憶が甦っていた。

あの時とは違って命の危険はないけど

同じように二人という数で追われていたのが原因だったと思う。

だから

 

 

「わたしがみんなをなんとか引きつけるから

シロはその間に逃げて!!」

 

 

お姉ちゃんのその言葉に

わたしの思考が一瞬止まった。

 

 

「──────────は?」

 

「今のシロの足の速さならきっと逃げきれるよ!」

 

「なに、言って」

 

「わたしなら大丈夫だから…!ね?」

 

 

イリヤは妹を安心させるように笑顔で言うと

妹の手を離し

 

 

「お姉ちゃ───」

 

 

皆を引きつけようと大声を出そうとした。

その時

 

 

「イーーーリーーーヤーーー」

 

「え…?」

 

 

自身を呼ぶ声にイリヤは訝しみ大声を止めた。

そして

 

 

「さんっ!!」

 

「!!?」

 

 

イリヤの額に

空から降ってきたルビーが激突した。

 

 

「いっっ…たぁー!?

ル、ルビー!?

今までどこに…」

 

「できました!できたんですよイリヤさん!!」

 

 

バゼットと遭遇した際

姿が見えなかったルビーに苦言を呈そうとしたイリヤだったが

 

 

「何が…って今はそれどころじゃ」

 

「イリヤさんに依頼されてから33の夜を越え…熟成に熟成を重ね…ついに今日完成したんです!!」

 

 

興奮しているルビーにイリヤの声は届かない。

その理由は

 

 

「ルビーちゃん特性!!

惚れ薬~ッ!!!」

 

 

ルビーの羽部分に

惚れ薬(?)が内蔵された注射器が握られていた。

 

 

ああ…………。

あったなぁ。そういえばそんなネタ

(番外編1義理の兄妹参照)

 

 

「って言うかなんで今ここで!?

このタイミングで!?」

 

「イリヤさんの誕生日に間に合わせるべく

ここ数話は出番を削ってまで最後の仕上げをしておりました!」

 

「……………お姉ちゃん」

 

「え、あ、いや違うからねシロ!?これは、その…ルビーが…」

 

 

惚れ薬を妹に見られたイリヤは吃りながら釈明をしようとするが

 

 

「……………」

 

 

シロエは先のやり取りに衝撃を受けて姉の釈明が耳に入っていない。

もっとも

妹のその様子に呆れられているとイリヤは勘違いしているのだが

 

 

「と、とにかく!悪いけどイヤな予感しかしないから、その話はなかったことに…」

 

「えい♪」

 

「う?」

 

「ってあああ!!」

 

 

断ろうとしたイリヤだったが

それを聞かずにルビーは士郎に注射器を上空より突き刺す。

次の瞬間

 

ズッシャアァッ!!

 

 

「衛宮くん!?」

 

「シェロー!?」

 

 

士郎が顔面から砂浜へとダイブする。

 

 

「顔面から行ったぞ!?」

 

「まるで糸の切れた操り人形のように!!」

 

 

なにが起こったのかわからない皆が

さすがにイリヤとシロエを追いかけるのを止めて

士郎の周りに集まる。

 

 

「ああああ。もう後戻りできない…!!」

 

「さあ早く!!

効果は刷り込み(インプリンティング)方式ですから士郎さんは最初に目に入った人に惚れますよ!」

 

「人の気持ちをオモチャにしてーー!!」

 

「…」

 

「おやおやー?いいんですかシロさん?」

 

「………なにが?」

 

「そんな我関せずみたいな顔をしててもいいんですかー?

このままではイリヤさんに士郎さんを」

 

「耳を貸しちゃダメーッ!!!シロ!!!」

 

 

シロエまで煽り始めたルビーを見て

慌てて妹の耳を塞ぐイリヤ

先の誕生会の様子から

シロエが士郎に恋心を抱くことも

あり得るかもしれないと

より思うようになってしまったのである。

 

 

(というかシロが自覚してないだけで…もしかしたら、もう──)

 

 

イリヤの中に疑念が過る。

しかし悩んでいる間に

 

 

「シェロ!!しっかりしなさいシェロ!!」

 

 

ルヴィアが士郎を助け起こす。

 

 

「あっ」

 

「ああっ!!」

 

 

その様子を見て

出遅れたと声を上げる凛と

妹を離し急ぎ兄の下へ向かうイリヤ

 

 

「ル…ヴィ……ア…?」

 

「そうですわ!大丈夫ですのシェロ!?」

 

「ルヴィアは………」

 

 

士郎の目が開かれルヴィアを認識し

イリヤが焦るが

 

 

「おっぱいが大きいなぁ…」

 

 

予想外の言葉が目覚めた士郎の口から飛び出す。

 

 

「「……………へ?」」

 

 

ルヴィアとイリヤの思考が止まる。

さらに

 

 

「あれは質量の暴力だ…。見まい見まいと思っても顔のすぐ下で圧倒的な存在感を放つソレに自然と目が吸い寄せられる…」

 

「なっ…」

 

「たまに無防備に当てられるソレの感触は忘れようと思ってもなお深く記憶に刻み込まれ……」

 

「なななっ…」

 

 

ルヴィアの顔がどんどん赤くなっていき

 

 

「何を言ってるんですのシェローーー!!」

 

 

士郎を突き飛ばす。

突飛ばされた先には

 

 

「あいたぁッ!?」

 

 

凛がいた。

士郎が凛に激突する。

すると

 

 

「遠…坂……。遠坂は…」

 

「え"っ」

 

「足を出しすぎだ…。スカートの短さは胸の自身の無さからだろうか…。しかし、あんな丈でガードなど望むべくも無くしばしば奥の布があらわになる…。大腿から臀部にかけてのラインは筆舌しがたい美とエロスを…」

 

「………ッ」

 

 

士郎の言葉に凛の表情が険しくなっていき

 

 

「なんなの!?なんなの!?なんなのコイツ!?」

 

 

と士郎の頭を何度も踏みつける。

 

 

「どうしちゃったのよお兄ちゃん!?」

 

「士郎さんが…まさかそんなことを考えて…」

 

 

クロエは赤面しながら士郎を心配し

美遊は士郎のその様子にドン引く。

 

 

「ちょっとどういうことよルビー!?」

 

「ふーむ、間違っていつも持ってる自白剤の方を打っちゃったっぽいです」

 

「ルビィィーーッ!!?」

 

 

イリヤがルビーを問い詰めている間にも

 

 

「一成はときどき目が怖い…」

 

「なんだと!?どういう意味だ衛宮!!」

 

「最近の小学生は発育が…」

 

「ぎゃーッ!!ウチらにまで矛先がーッ!?」

 

 

士郎の心の声が駄々漏れになっていく。

もはや誕生会にて美遊とシロエを諭していた姿は欠片も残っていない。

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"…」

 

 

兄の見たくない姿にイリヤがどんどん追いつめられていく。

 

 

「…」

 

 

シロエは変わらず無表情のまま

しかし、表情がどこか険しく不機嫌になっていってるように見える。

そして

 

 

「もーイヤーーッ!!誰かなんとかしてーッ!!」

 

 

イリヤの悲鳴が木霊した。

すると

 

 

「しましょう」

 

 

ルビーはその場にいる全員に対し

 

 

「あ」

 

「う」

 

「は」

 

「へ」

 

「お」

 

「ぺ」

 

「えっ…!?」

 

 

注射器を脳天から突き刺す。

さらに

 

 

「おっと、忘れずにシロさんも♪」

 

「う"…」

 

「ああっ!?」

 

 

皆から少し離れていたシロエにも

同じように注射器を刺す。

 

 

「なっ…なにを…」

 

 

困惑するイリヤを尻目に変化はすぐにやってくる。

注射器を打たれた凛や美遊達は

身体が石のように固まり

悟りを開いたような安らかな顔となり

額には小さな点…白毫が表れ

各々両手を合わせたり、手のひらを前に出したりしている。

つまりは──仏像である。(龍子のみ仁王像となっている)

 

 

「今度はなにをしたのルビーーッ!?」

 

「鎮静剤を打ちました」

 

 

どう見ても鎮静剤ではない。

 

 

「強力なヤツでしばらく涅槃状態になります。

いやー静かになりましたね」

 

「静か過ぎるでしょー!?

大丈夫なのこれ!?」

 

 

仏像と化した皆を心配するイリヤ

その隙をつき

 

 

「さて、ようやくお膳立てが整いました」

 

「う?」

 

「あっ!(惚れ薬……!?)」

 

 

士郎に今度こそ惚れ薬を注射する。

さらに

 

 

「周りは岩場…人の目はありません」

 

「!」

 

 

騒いでいるうちにいつの間に岩場まで来てしまっていた。

ルビーの言う通り人気はない。

 

 

「さあ…ロマンティックなひとときを」

 

(この絵面のどこにロマンが──!?)

 

 

ゾンビの如くユラユラと近づいてくる士郎と

その後ろにて仏像と化している凛や美遊達

ロマンとはいったい…。

 

 

「お兄ちゃん待って!!正気に戻って!!」

 

 

必死にイリヤが呼びかけるが

士郎の耳には届かない。

 

 

「おにっ…きゃっ…」

 

 

イリヤは近づく士郎に負け尻餅をつく。

 

 

「おにい…、ちゃ…」

 

 

背後には岩場

イリヤは完全に追いつめられ

目を潤ませる。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

(う…わぁ……)

 

 

そんなイリヤの様子を

仏像と化した皆の後ろから覗き見ている美々

 

 

(イ…イリヤちゃん)

 

 

持ち前の影の薄さから

ルビーは美々にのみ鎮静剤を打ち忘れたのだ。

 

 

(シロちゃんやクロちゃんだけじゃなく

お兄さんとまでそんな…

そんなアレを…!!)

 

 

目をぐるぐる回しながら赤面する美々

 

 

(で、でもせっかくだから…もっと近くで…)

 

 

小説に生かすためにも、もっと近くで見たいという欲望が勝り

美々はイリヤに近づこうとした。

その時

 

フッ

 

美々の背後に人影が近づき

 

 

「えっ…」

 

 

トン

 

 

美々の意識はそこで暗転した。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

(ウソ…)

 

 

視点は戻り

イリヤの方では

 

 

「あっ…」

 

 

士郎は岩場に追いつめたイリヤの顎を持ち上げる。

 

 

(ここで…?こんな形で…?)

 

 

ルビーは小さな旗を振り

 

フレーッ、フレーッ

 

と応援する。

しかし

 

 

(ヤダ…)

 

 

イリヤはこんな形で大好きな兄と唇を交わしたくはなかった。

しかしそんな想いとは裏腹に

士郎の唇がどんどん近づいていく。

 

 

(ヤダよこんなの…!おにい…ッ!!)

 

 

心音が極限まで高鳴り

イリヤは涙を滲ませながら目を閉じた。

その時だった。

 

 

ゴスッ!

 

 

そんな音と共に

 

 

「ぐお…!?」

 

 

士郎から呻き声が漏れ

士郎の身体はビクリと震え

力なく横へと倒れていく。

 

 

「え……?」

 

 

イリヤは涙を潤ませた瞳を開けるとそこには

 

 

「…………大丈夫…?お姉ちゃん」

 

 

妹のシロエが立っていた。

 

 

「シ……シロォ……」

 

 

いろいろと限界に達していたイリヤは

恥も外聞も投げ捨て妹へと抱きつき泣き始める。

 

 

「なっ………。

た、確かにシロさんにも鎮静剤を打ったはずです……。

なのに何故……!?」

 

 

ルビーは激しく狼狽する。

確かに打ったはずだと

それも自身が調合した強力なものを

 

 

「…」

 

 

シロエは答えない。

答えずにただ泣きつく姉にされるがままになっている。

 

 

「(鎮静剤を中和した……?

……いえ、違います!!

これはそもそも薬が…()()()()()()()()()()…!?)

シロさん、あなたは───」

 

 

ルビーがこの現象の正体へとたどり着いた。

たどり着いてしまった。

次の瞬間

 

 

ズガガガガガガッッ!!!

 

 

「!!?」

 

 

大量の氷柱が上空より降り注ぎ

ルビーを岩場へと縫い止める。

 

 

「え……?」

 

「こんなことで、勘づかれるなんて」

 

 

誰がこれをやったかなど明白である。

イリヤが泣いていた顔を上げると

またしても民族衣装を身に纏った妹がいた。

しかし先とは明らかに違う。

明らかな敵意を、戦闘中並みの冷たい威圧感を

ルビーに対して放っている。

 

 

「シ、シロなにを」

 

「お姉ちゃん、ごめん」

 

「え?」

 

「少し寝てて」

 

 

トン

 

 

イリヤの首の後ろから軽い衝撃が走り

 

 

(シ………ロ………─────)

 

 

イリヤの意識はそこで途切れた。

 

 

シロエは力を失った姉を抱き止め

優しく持ち上げると

仏像と化している皆の隣にて

同じように眠らせた美々の隣まで連れていき降ろす。

 

 

「さて………」

 

 

そうして姉を降ろしたシロエは

ゆらりと立ち上がり

縫い止められ身動きが取れないルビーへとゆっくりと近づいていく。

 

 

「ま、まままま待って下さいシロさん!?

さ、先程のことは誰にも言いません!!」

 

 

ここまで共に戦ってきたが故にルビーにはわかっている。

シロエは敵と見なした存在に対しては一切の容赦をしない。

誰かに止められない限りは基本的に殺しに掛かる。

そこに情けや躊躇など望めない。

そして今、どう見ても自身を敵と見なしている。

正体不明のシロエの強大な力。

それをぶつけられて自身が無事でいられる自信などルビーにはなかった。

 

 

「ですから──」

 

「六年」

 

「へ?」

 

「お姉ちゃんと出会ってから約六年間…つまりシロエとしての生の半分以上をわたしはお姉ちゃんと一緒に過ごしてきた」

 

「あの…それが」

 

 

話が見えないルビーがシロエに聞き返そうとするが

シロエは構わず続ける。

 

 

「これでもね…()()は守ってきたのよ」

 

「一…線…?」

 

「そ、一線。

お姉ちゃんが本当に嫌がること…本気で泣くようなことはしないように

お姉ちゃんの反応だとかそういったものを観察、計算、予測して…。

引き際を見誤らないように、ずっとずっと…一線は踏み越えないようにしてきた」

 

「…」

 

「それを、あなたは踏み越えた。あっさりと」

 

 

その言葉でルビーは理解する。

シロエが本気で怒ってるのは

秘密に近づく重要な材料をルビーが手にしたことではない。

無論それも一つの要因となっているかもしれないが本命ではない。

シロエは

 

 

「つまり…やりすぎよルビー」

 

 

姉を泣かされたことに激怒しているのだと

ルビーに冷や汗が流れる。

 

 

「え、えーとシロさん?もしかしなくてもキレていらっしゃいます?」

 

「…キレてるかどうかはルビーが決めて」

 

「どう見てもキレていますね!?

し、しかしですね…惚れ薬を用意してくれと頼んだのはイリヤさんでして」

 

「それもどうせ言いくるめたんでしょ。

いつものような適当な話をして」

 

「むぐっ…」

 

「まあルビーの謝罪なんて期待してない。

されたとしてもそんなものはどうでもいい」

 

 

ゆっくりと近づいていたシロエが

とうとうルビーの前へとたどり着く。

 

 

「どうせもう何もわからなくなる」

 

「!?」

 

「ああ、安心して。壊しはしないわ。

本当は壊したいくらいすっごい腹立たしいけど。それは呑み込んであげる。

壊したりしたらお姉ちゃんが困るでしょうし」

 

 

そのシロエの言葉にルビーは僅かに安堵する。

 

 

「ただ記憶を弄るだけだから」

 

「記憶…」

 

「ルビーだけじゃなくてお姉ちゃん達の記憶も弄らなくちゃいけないから正直すごい面倒くさいんだけどね」

 

 

とはいえ

今回のルビーの引き起こした騒動の後始末をするにはそれぐらいしか思い浮かばない。

お兄ちゃんの評判もあるし、なによりわたしの秘密に僅かとはいえ勘づかれた。

 

 

「精神に干渉するから慎重にやらなくちゃいけない上にこの人数…。はぁ…」

 

「で、でしたらそれはわたしが」

 

「信用できるわけないでしょ。

…正直ルビーって記憶がどこに蓄積されてるのかわからないから、あちこち探って精神に異常をきたすかもしれないけど」

 

「!?」

 

「まあ戦闘用の機能さえ使えればお姉ちゃんは困らないでしょうし、どうでもいいよね」

 

「どうでもよくないですけど!?」

 

「大丈夫。そうなっても少し経てば元に戻るから。運が良ければ

 

「今、小さく運が良ければって言いましたよね!?」

 

「ああ、うん。間違えた。運が悪ければ」

 

「悪ければ!?

元に戻ってほしくないような言い方ですね!?

しかも隠す気なくなってますし!!

ほ、本当に誰にも言いませんから!!

お願いですから待っ…」

 

 

ルビーが必死に氷柱から抜け出そうとしながらの懇願を

シロエは聞き流しながら右手をルビーへと伸ば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、チャンスなんじゃない───?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロエの右手がピタリと止まる。

 

 

 

 

 

ここでみんなの記憶から今までのわたしに関する記憶の全てを消して

なにもかもを無かったことにしてみんなの前から姿を消せば

何の迷いもなかったあの頃のわたしに戻れるんじゃ───

 

 

 

 

 

シロエの中で悪魔のような囁きが響く。

 

 

「………シロさん?」

 

 

突然動きの停止した

雰囲気が大きく揺らいでいるシロエを

訝しみ恐る恐る声をかけるルビー

 

 

黒化英霊の撃破───お姉ちゃんとミユの二人で成し遂げたことにすればいい。

クロの説得───これに関しては元々お姉ちゃんさえいればどうにかなったこと。クロに呼び出されたのをミユに置き換えればいい。

バゼット戦───リンさんの呪術と八枚目の情報を上手く利用して交渉したことにすればいい。

 

 

ルビーの声など歯牙にもかけず

シロエの頭の中では改竄する内容が恐ろしい速さで組み立てられていく。

さらに

 

 

それにリンさんとルヴィアさん、バゼットもこの場にいる。

この三人の記憶を消せば危惧している時計塔との関わりの一切も断ち切ることができる。

 

 

明確なメリットまで見つけだす。

そして

 

 

 

 

 

迷う必要なんてない。

元より全て偽り。

虚ろな自分。上っ面な関係。ハリボテの…想い。

そんなもの───

 

 

 

 

 

シロエが堕ちそうになった。

その時

 

 

 

 

 

『シロ。それは違うぞ』

 

 

 

 

 

兄の…士郎の言葉が

 

 

『誰かが誰かを想う心っていうのはそれはとても美しいものの筈だ』

 

 

先の誕生会での言葉が

 

 

『…それが間違っているなんてことは絶対にない』

 

 

堕ちそうになったシロエの心を

 

 

『俺が断言する。シロ、お前にだって想いを生み出すことはできる』

 

 

暖かく包み込んだ。

 

 

「…」

 

 

シロエは唇を強く噛む。

さらに

 

 

『シロはそれでいいの…?

わたしたちと……別れることになっても……』

 

 

美遊の問いがシロエに突き刺さる。

 

 

「…いたい」

 

「え」

 

「わたしだって…一緒にいたいに決まってる…」

 

「あの、シロさん…?」

 

「!」

 

 

ルビーの声がようやくシロエの耳に入り

シロエは、ハッといつの間にか俯いていた顔を上げる。

目の前には汗をかいているルビー

記憶を弄られる不安からかそれとも──。

シロエはそんなルビーの姿を見てとると

 

 

 

 

 

「─────本当に、お姉ちゃんやミユと…わたしが同じならよかったのにね」

 

 

 

 

 

そう力なく言う。

 

 

「シロ………さん………」

 

 

シロエのその力なき声に

言葉を失うルビー

 

 

……………しっかりしよう、わたし。

そもそも仮にここでみんなの記憶を消したとしても

例えば家ではアイリが

あるいは学校では藤村先生が

パッと思いつく限りでも不審に思うだろう人達が大勢いる。

短絡的な思考に走っちゃダメ。

…でも、それはそれとして

 

 

「…うん。とりあえず、ね、ルビー」

 

「…はい」

 

「…少し…頭冷やそうか…?」

 

「はい……………へ?」

 

 

 

……

………

 

 

「あ、あーっ!!そ、そこ、そこはダメですシロさん!?そんなところに記憶用の回路はありません!!ですからそれ以上奥は…あーーーっっ!!!」

 

 

ルビーの悲鳴が響く。

しかしその悲鳴を無視し

シロエはルビーの内部へと指を突っ込む。

 

 

「れ、冷気!!せめてさっきからちょくちょく出してる冷気をそこで出すのは止めて下さい!!!っていうかその冷気、記憶の消去に絶対関係な…あひぃーーーーーっっっ!!!!!」

 

 

時折、指先から冷気を放出しながら

無言で中身を弄くりまわす。

 

 

「…」

 

 

その表情はいつも通りの無表情ではあるが

最近の鬱憤もまとめて晴らしているかの如く

どこか嬉々としているように見える。

 

しかし

いろいろといっぱいいっぱいになってしまっていたシロエは気づかなかった。

岩場の影

人が隠れることができなさそうな小さな岩

その影に

 

 

「………」

 

 

神妙な雰囲気を醸し出している

無言のサファイアが隠れていたことに───

 

 

 

……

………

 

 

「んーっ」

 

 

海からの帰り道にて

イリヤが大きく伸びをする。

無論、シロエも一緒にいる。

 

 

「はーーー、疲れたー」

 

「ちょっと遊びすぎたか?」

 

「いやー、一時はどうなることかと…。

どうなる…。

ん?何がどうなったんだっけ?」

 

 

クロエの言葉に内心ドキリとするシロエ

しかし

 

 

「なんのこと?」

 

「…特になにもなかったと思うけど」

 

 

美遊の言葉に賛同しクロエの違和感を押し流す。

 

 

「今日は徹頭徹尾、愉快で楽しい日だったな」

 

「ほんとだねー」

 

「なんか一部記憶があやふやなんだけど…」

 

「遊びすぎて忘れてしまったのだろう」

 

「え、と多分…ビーチフラッグでの記憶を本能的に消去したくて」

 

「それを思い出させないでよ!?

砂浜じゃなかったらわたしの方が絶対に速いもん!!」

 

「…そう、だね。うん。ごめん」

 

「謝らないで!?余計にみじめになるから!?」

 

 

一方、海の家では

 

 

「なにぃー!?売れ残りだぁ!?」

 

 

バゼットが龍子の父である嶽間沢豪兎に怒られていた。

 

 

「も…申し訳ありません」

 

「この時期は完売が当たり前だってのによ!

サボってたんじゃねーだろうな!」

 

 

バゼットのバイト先が「海の家がくまざわ」だったのだ。

サボりを疑われるバゼットだが

 

 

「サボり…いえ!

2時間前後記憶がない部分がありますが、決してサボっていたわけでは!!」

 

「サボってんじゃねーか!!」

 

 

自らサボりであると認めるような発言をしてしまう。

激怒する豪兎

 

 

「ダメだダメだ!日給を下げさせてもらうぜ!」

 

「そ…そんなバカな!?」

 

 

 

 

 

みんなで遊んだ海での誕生会…。

今日の事はきっと大切な思い出になる。

 

 

「イリヤ、シロ速くー」

 

「待ってー。サンダルで足にマメが…」

 

 

他愛なくて

くだらなくて

ささやかな日常

けど

 

 

「…おぶる?」

 

「あ、ううん大丈夫。ありがとねシロ」

 

 

雀花達に続き

イリヤとシロエが待たせているバスに乗り込む。

 

 

そんな事が多分…

何よりも尊いんだ。

だから

 

 

イリヤとバゼットが遠く離れた八枚目の工事現場へと目を向ける。

…おい聞いてんのか!?どこ見てんだ!無視すんなコラァー!!と、いう豪兎の怒号をバゼットは完全に聞き流している。

 

 

今度は

シロにばっかり負担をかけさせない。

絶対に

 

 

「負けないから!」

 

 

 

……

………

 

 

「コンニチハ、ワタシルビーチャンデス」

 

 

イリヤ達が乗り込んだバスの上空

シロエに弄くりまわされたルビーが上下逆さまになり浮いている。

 

 

「…」

 

 

そんなルビーに近づくサファイア

しかし

 

 

「イリヤサンノ、オウチニモドラナイトー」

 

 

ルビーは片言のまま、明らかに精神がおかしいままである。

そこで

 

 

「…そいっ!!」

 

「へう"ぅっ!?」

 

 

サファイアがその羽でルビーを思いっきり引っ叩く。

ただ暴力を振るったわけではない。

引っ叩かれたルビーは

 

 

「わたしはしょうきにもどった!」

 

 

正気に戻っていた。

…はずである。

 

 

「…どうやらもっと叩く必要があるみたいですね」

 

「冗談ですよー。ちゃんと戻りましたって。

しかし…」

 

「?」

 

「なんでこうなったのか全然思い出せないんですよねー」

 

「…」

 

「どうにも記憶に破損があるみたいでして…。

バックアップも……うわぁこれも念入りに消去されてます。

誰の仕業なのやら」

 

「…さすがはシロ様ですね。やる事に抜かりがありません」

 

「………シロさんがこれを?

しかし何故…?」

 

 

記憶を完全に消されたルビーが訝しむ中

サファイアは若干無言になった後

 

 

「…正直迷ったけれど、姉さんも知っておいた方がいいと思う」

 

「知る…?」

 

「見た方が早いと思う。これを…」

 

 

自身の中からケーブルを取り出し

ルビーへと差し出す。

 

 

「お、記憶同調(シンクロ)ですね。バッチコーイ」

 

 

ルビーはサファイアから伸びているケーブルを自身へと差し込む。

そして記憶の同調が始まるのだが

 

 

「ああッ!入ってくる…ッ!ドクドクと…」

 

「…」

 

「サファイアちゃんのがわたしの中にィーーッ!!」

 

「…余計な演出はいらないです。姉さん」

 

 

キュンキュンキュンキュン

という音と共にサファイアの目撃した光景が

ルビーへと入っていく。

ルビーが赤くなり身をビクビクと震わせているが

特に意味はない。

 

 

「ハァハァ…。サファイアちゃんがノってくれなくてお姉ちゃん寂しいです」

 

「…シロ様が記憶を弄ってた時も余計な喘ぎ声を出していましたけど

慣れてるわたしはともかくシロ様の前でそれをやるのは、はっきり言ってよくありません。

シロ様がおかしな趣味に目覚めてしまったらどうするつもりですか」

 

「いや、あれはガチなやつですけど…」

 

 

サファイアから送られてきた情報を元に

記憶の復元に成功したルビー

構造が酷似している姉妹機だからこそできる芸当である。

 

 

「……それで…どう思う?」

 

「……鎮静剤のことですよね。正直驚きましたよ」

 

「じゃあやっぱり…あの鎮静剤は姉さんの…」

 

「ええ。サファイアちゃんの知っての通り

あれは私が調合した一般の魔術師では用意できない強力な薬です」

 

「でも…シロ様には効かなかった。

……中和剤を用意していたというわけではないのよね?」

 

「サファイアちゃんもわかっているはずです。

あれは…あの現象はそうではない、と」

 

 

半ばそうであってほしいというサファイアの問いを

ルビーは否定する。

 

 

「シロさんは薬を中和したんじゃありません。

薬そのものを弾いた。つまり」

 

「…ライダーの英霊と同じ対魔力を?」

 

「……いえ。それ以上のなにかを感じました」

 

「それ以上の…なにか?」

 

「…正直それがなんなのか、シロさんの具体的な正体まではわかりません。

しかし、少なくとも…」

 

 

そして

ルビーが結論を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロさんは───人間では、ありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルビーの出した結論に

サファイアは

 

 

「………姉さん。イリヤ様達にはこのことは」

 

「ええ。黙っていた方がいいでしょうね。

美遊さんとルヴィアさんには?」

 

「話してない」

 

「そう…」

 

 

最近の

シロエの豹変には間違いなくこのことが関係している。

しかし

そのシロエ本人が伏せておきたいと願っている。

なにより

 

 

『─────本当に、お姉ちゃんやミユと…わたしが同じならよかったのにね』

 

 

思い出すのは

シロエの心の底からの寂しそうなあの言葉

それを聞いたルビーとサファイアには

安易にそれを広めることなどできなかった。

 

 

「…というか迂闊に広めたりなんてしたら今度こそ壊される気がしますしねー。怖い怖い」

 

「いや、あれはどう考えても姉さんが悪いでしょう。

いくらなんでもやりすぎです。

シロ様がキレるのも当然ですよ」

 

「えーでもマスター弄りはわたしの生きがいですしー。

ここの所バトルや何やでずっと我慢させられてきたんですよ?」

 

「けど凛様ならともかく幼いイリヤ様相手にあれは…。

心が壊れてしまいかねません」

 

「うっ、うーん…。けどですねー…」

 

 

あくまで反省はしないルビー

それに対しサファイアは

 

 

「…やはりシロ様は正しかったようですね」

 

「え」

 

「姉さんにお仕置きは必要でした。

とはいえ、姉さんを直してしまったのはわたしですので」

 

 

その時、サファイアの中から

 

 

「姉さんへのお仕置きはわたしが引き継ぐわ」

 

 

パラボラアンテナが三つ分飛び出す。

 

 

「えっ!?それは洗脳電波デバイス…!?

いや、それやったら直した意味が…」

 

「大丈夫。シロ様と違って記憶はそのままにしておくから。ただ精神を壊すだけです。

それにそのままですとシロ様に怪しまれます」

 

「それは演技すれば済む話ですよね!?

あっダメっ…ちょ…ああーーーー…」

 

 

その後

結局三日間ぐらいルビーは壊れたままであった。

 

尚、その三日後

ルビーが快復した時にはシロエが無表情のまま大きく舌打ちをするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ IFルート

※とてつもなく暗いので注意してください。読み飛ばしてもらっても問題はありません。

 

 

「あ、わたしここで降りるから…」

 

 

バス停にてバスが停車し

滞在中のホテルがこの付近である美遊が

席から立ち上がる。

 

 

「あ、そうなんだ」

 

「…」

 

「ミユ、またね!」

 

「あの……イリヤ」

 

「そんな寂しそうな目をしなくても、夏休みはまだ始まったばかりなんだからいくらでも会えるでしょ」

 

 

瞳が揺れる美遊に対し若干呆れたように言うクロエ

 

 

「う、うん…。そう……なんだけど……」

 

「「?」」

 

「…ううん、なんでもない。また今度…」

 

 

歯切れの悪い美遊にイリヤ達は訝しむも

美遊は空返事をしバスから降りる。

 

 

なに…、この感覚。

嫌な感覚が…悪寒が止まらない。

なにかが………なにかが足りない………。

いったい───

 

 

……

………

 

 

「「「ただいまー」」」

 

 

衛宮邸

海から帰ってきたイリヤ達

 

 

「おかえりなさい」

 

「ん、おかえりー」

 

「おかえりなさい。海は楽しかった?」

 

 

イリヤ達を迎えるアイリ達

 

 

「うん!すっごい楽しかったよー!」

 

「誕生会もちゃんと開いてくれたしね」

 

「イリヤなんか遊びすぎて記憶が飛んじゃったみたいだしな」

 

「お兄ちゃん!?」

 

 

イリヤ達のやり取りを微笑ましく見ているアイリ達

しかし

 

 

「…あら?シロちゃんはどうしたの?また研修?」

 

 

シロエのみこの場にいなかった。

とはいえ、ルヴィアの所にていつものメイドの研修をしているのだと

アイリ達は考えた。

だが

 

 

「?」

 

 

イリヤ達は首を傾げる。

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロって───誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────え。

 

 

「な、なに言ってるの…?シロちゃんよ、シロちゃん」

 

「?もしかしてお兄ちゃんのこと?」

 

「お兄ちゃん…。とうとうちゃん付けで呼ばれるように…」

 

「いやいやクロ!シロちゃんとか…子供の頃でもそんな風に呼ばれたことなんてないぞ!?」

 

 

明らかにおかしいこの状況でも

なにひとつ気づかずに

危機感のない話をするイリヤ達

 

 

「あ、あなたたちの妹ですよ!?一番下の!!」

 

「??えーと…」

 

「セラいったいどうしたの?わたしに妹なんてクロぐらいしか」

 

「わたしは妹じゃないわよ」

 

「む!」

 

 

クロエのその言葉に噛みついていくイリヤ

その様子をまたかと見守る士郎

しかし

一人、足りない。

 

 

「奥様…!これは…」

 

「………ええ」

 

 

イリヤ達が冗談でやってるようには見えない。

アイリ達は理解する。

記憶を消されたのだと

 

 

「シロちゃんか、あるいは別の誰かか…。

いずれにしてもまだそこまで遠くには行っていないはずよ。

捜してくるわ」

 

「奥様。わたしも」

 

「ええ、セラも捜索に加わって。

リズはイリヤ達を」

 

「了解」

 

 

慌ただしく家を出ていくアイリとセラ

それを困惑した様子で見ているイリヤ達

 

 

「イリヤ達、こっち」

 

「う、うん…」

 

 

リズが立ちつくしているイリヤの()()を取る。

 

 

「─────え」

 

 

しかし

イリヤはリズの手を弾くと

自身の右手首を見た。

そこには

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「美遊!?いったいどうしたんですの!?」

 

 

美遊達が滞在しているホテル

その一室にて

美遊が床へと座り込み涙を流していた。

 

 

「う……っ……無いん、です」

 

「無い?」

 

 

泣き出す直前

美遊は自身の右手首を呆然と見ていた。

 

()()()()()()()()()

 

 

「ブ、ブレスレットならほら…貴女の左手に」

 

 

ルヴィアはそのことから

ブレスレットを探しているのかと予想し

美遊の左手首に身につけている六芒星のブレスレットを指摘するが

 

 

「ち、違うんです…」

 

「違う…?」

 

「上手く言えないんですけど……っ。

あった…はずなんです。もうひとつ…もうひとつ大切ななにかが……」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

場所は戻り衛宮邸

イリヤはなにもない右手首を見て呆然とした後

慌てて左手首を見る。

そこには五芒星のブレスレットのみが着けられていた。

 

 

「─────あ、れ?」

 

 

イリヤは自身の視界が滲んでいくのを感じる。

そして気づく。

 

 

「イ、イリヤ!?」

 

 

自身が泣いていることに

 

わからない。

なんでこんなに悲しいのか。

なんで涙が止まらないのか。

まるでなにかが…大切ななにかが手のひらから零れ落ちてしまったかのようで

 

そして

 

 

「いったいどうしたのよ?突然手首を……見、て」

 

 

そんなイリヤの様子を訝しみながら見ていた

クロエの目からも涙が溢れる。

 

 

「あ……、あれ?」

 

「ク、クロまで…」

 

「…三人共、とにかくリビングに」

 

 

その後

ママ達は必死に誰かを捜していたようだったけど

結局見つかることはなくて

わたしも、夏休み中ミユとクロと一緒に零れ落ちてしまった大切ななにかを闇雲に何度も捜した。

でもそれらは全部無駄に終わって……。

 

そうしているうちに迎えしまった八月の後半

工事完了の知らせが凛さん達から来た。

けれど

正直八枚目どころじゃなかった。

戦いになんて集中できない。

それをリンさん達に話したら

リンさん達…リンさんとルヴィアさんとバゼットさんの三人でカード回収に赴くことに

 

 

「大丈夫よ。バゼットを利用して上手くやるから」

 

 

それが三人の最後の姿だった。

三人はカード回収に赴いた後、帰ってくることはなかった。

八枚目のトンネルがあった場所は大きく陥没していて完全な立ち入り禁止となっていた。

 

 

 

 

 

わたしは──わたしたちはどこで間違えてしまったんだろう。

 

 

 

 

 

BADEND 「零れ落ちてしまったなにか」

 

IFルート

誕生会にて誰もシロエに声を掛けられなかった場合

 

 

 




Q.なんでこんなおまけを書いた! 言え!

A.幸福とは苦しみであり、絶望こそが歓びだった…(愉悦)
訳:ラスプーチン実装祝いです。


アンケートを締め切りました。ご協力ありがとうございました。
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