プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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今回のお話は無印と2wei!の間のお話です。
よって

・クロエがいない。

・シロエの性格が明るい。

・シロエの運動能力がイリヤよりも下。

以上の点をご確認の上、お読みください。


番外編4 Let's dance!(前編)

 

 

「はあっ…!はあっ……!!」

 

 

人気のない狭い路地裏

冬服の小学校の制服と帽子を身に纏い、カバンを背負った

銀髪青目の少女シロエが

壁にもたれ掛かりながら荒い息を吐く。

 

 

「まずい…。このままじゃ…」

 

 

焦燥した表情で呟くシロエ

その時

 

 

「見つけたぁッ!!」

 

「っ!?」

 

 

勢いよく振り向くシロエ

路地の出口にいたのは

同じ制服と帽子に同じカバン

自身と瓜二つの銀髪赤目の少女、シロエの姉のイリヤである。

 

 

「くっ!!」

 

 

その姿を確認した瞬間

シロエは急ぎ路地の反対側へと走り出す。

 

 

「あっ!?また逃げ…待てぇーーーッ!!!」

 

 

イリヤも逃げる妹を追いかけるべく走り出す。

 

 

「なんで…なんでこんなことに…!!」

 

 

シロエが走りながらこうなった経緯を思い返す。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

時間は遡り

 

 

「さて、今年もこの季節がやって参りました!」

 

 

イリヤ達が通う小学校

私立穂群原学園小等部の5年1組の教室

その放課後前の学級会

担任である藤村先生が教卓を叩き

 

 

「いよいよ来週の日曜日は運動会でーす!」

 

 

運動会の話題を切り出す。

 

 

「おーっ!!ついに来たか!燃えるぜ!!」

 

「いきなり立ち上がって叫ばないでよタツコ」

 

「なぬ!?もっと…熱くなれよぉっ!!シロキチ!!!」

 

「あ、暑苦しい…」

 

 

龍子が闘志を燃え上がらせ

シロエが顔を引きつかせる。

 

 

「あははは…。龍子ちゃん運動会大好きだもんね。

シロちゃんも嫌ってわけじゃないでしょ?」

 

「まぁ…嫌いではないけど」

 

「そうだ!今年こそ俺考案の新競技を採用してもらわないと!

最高に盛り上がるぞーっ!!」

 

「新競技ー?なんじゃそら?」

 

「よくぞ聞いてくれた那奈亀!それは…」

 

 

立ち上がった龍子は左拳を握り締め

考案した新競技を発表する。

 

 

「うなぎ掬い!!」

 

「なぜにうなぎ…」

 

「多分タツコが食べたいからじゃない?」

 

「なるほど。絶対に採用されないということはわかった!」

 

「なんだよシロキチー、雀花ー。俺のアイデアにケチつけんなよ。

これはなー、ヌルヌルでワクワクで大興奮の…」

 

「はーい。静かに静かにうなぎは家で掬っとけー」

 

 

話が逸れていっていたため

藤村先生が手を叩き修正する。

 

 

「というわけで来週の時間割りはいつもと変わるから

みんな注意するように!」

 

 

運動会の練習の時間を確保するため

授業の日程が変わるのである。

それを聞いたイリヤは

 

 

「わぁ…!ミユ!運動会だよ運動会!!楽しみだね!!」

 

 

後ろの席の美遊に話しかける。

 

 

「運動会…。うん、知ってる。

各種の運動競技や遊戯などを楽しむ学校競技のひとつ。

…実際に参加したことはないけど」

 

 

目を少し逸らし話す美遊

 

 

「そ、そうなんだ…。(ま、まぁ今までいっぱい転校してきたとかならそういうこともある…のかな)」

 

 

若干気まずい空気になってしまったのを察したイリヤは

焦った様子で運動会について話す。

 

 

「とにかくね!楽しいよー。いろんな競技はあるし、ご飯は給食じゃなくてお弁当だし。

あとね毎年得点の配分が変わってて、去年はリレーが高得点で…」

 

 

とはいえ今はまだ自由時間ではない。

 

 

(あっ、お姉ちゃーん。後ろ、後ろ)

 

 

離れた席にいるシロエが

姉に伝われと念を送るが

当然届かない。

 

イリヤの背後に藤村先生が立ち

 

べしっ!!

 

 

「あいたぁっ!?」

 

 

チョップをイリヤの頭に落とす。

 

 

「静かにって言ったでしょー。はい前を向く」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「で、なんだっけ…?あ、そうそうイリヤちゃんも言ってたけど得点配分が高い目玉競技!」

 

 

イリヤがちょうど美遊に話していた

得点の配分が高い目玉競技について発表する。

しかし

 

 

「今年はねー、なんと!ダンスに決まりました!」

 

 

藤村先生のその発表に

 

 

(ダ、ダンス…?)

 

 

シロエの表情が人知れず固まる。

また

 

 

「練習時間も主にダンスの練習になるからみんなもそのつもりで!」

 

「「「はーい」」」

 

 

子供達が元気良く返事をする中

 

 

「ダンス…」

 

 

美遊もまた困惑したように呟くのであった。

 

 

 

……

………

 

 

学級会が終わり放課後

昇降口へと向かう廊下にて

イリヤ達が歩く。

 

 

「しっかし今年は楽勝かもしれないなー。

まずはこの穂小(ほむしょう)の赤きカモシカことこの俺がいて!」

 

「なぜ赤?なぜカモシカ?」

 

「それにイリヤに加えて今年はミユキチもいる!

クラス優勝はもらったぜー!!

あっはっはっはっは!!」

 

「……油断は禁物だと思うけどねー」

 

「まぁまぁシロちゃん。

イリヤちゃんも美遊ちゃんも運動神経すごくいいんだし

シロちゃんだっていい方じゃない」

 

「そうそう。イリヤと美遊ほどじゃねーけど、シロだって地味にわたしたちより運動神経いいんだから」

 

「地味にって…」

 

「三人とも戦力として期待してるぜ」

 

「えへへ…」

 

「う、うーん…」

 

 

誉められて嬉しくなるイリヤと

なにかを言いづらそうに曖昧な笑みを浮かべるシロエ

 

 

「クラス優勝ってそんなに大事なことなの?」

 

「あーいや、優勝すると特になにかあるっていうわけじゃないから」

 

「そうだけど…。うーんでもシロ、やっぱりやるからには一番になりたいじゃない。

ミユもそういうことだと思うよー」

 

 

美遊の質問に対し

シロエがなんとか熱意を下げようとするのに対し

イリヤがそれを否定し

 

 

「ねぇタツ」

 

 

龍子へと視線を戻し同意を得ようとするも

龍子の姿はない。

訝しむイリヤ達であったがすぐに龍子は見つかる。

龍子は廊下の曲がり角からなにかを覗き見ながらこちらを手招きしている。

 

 

「どしたー?」

 

「しっ!なんか揉めてるみてーだ」

 

 

龍子の言葉に

雀花、那奈亀、イリヤ、シロエの四人も

角から覗き見る。

するとそこには

 

 

「わかっていますよねぇ。藤村先生」

 

「は、はい…。で、でも…」

 

「でもじゃありませんよ」

 

 

太った男性の教師が

藤村先生と話をしていた。

 

 

「盗み聞きはよくないよ!?」

 

「静かに!よく聞こえない。えーと…」

 

 

美々が四人を諌めようとするも

那奈亀が逆に静かにするようにと言う。

 

 

「藤村先生……あなた………私のものになる。

それが嫌なら、運動会でクラス優勝しかないですねぇ」

 

「「「!?」」」

 

「いやぁ楽しみですねぇ。あなたのお肉、好きに出来る時が…美味しそうですなぁ」

 

「くっ…!!」

 

 

距離が少しあるため

所々話し声が聞き取れないものの

藤村先生が悔しそうに歯軋りしている姿は見えた。

それを見たイリヤ達は急いでそこから離れ

頭を突き合わせ緊急会議を始める。

 

 

「た、大変だよぉ!?」

 

「ああ、大変だ」

 

「い、今のはきっとあれだよね…。そういう意味だよね…」

 

「?」

 

「よくわからないけど…あまり好ましくない話だった気はする」

 

「え?今の話って…」

 

「シロ、今の話は…」

 

「焼き肉かなにかを賭けてるだけなんじゃないの?」

 

 

……………純真だなぁ。

 

一同の気持ちが一致する。

とはいえそんな風にはイリヤ達は到底思えなかった。

 

 

「つまりこういうことだな。わたしたちが運動会で優勝しないと…」

 

「そうだ…タイガーが…」

 

 

雀花はゴクリと唾を飲み込むと

 

 

「に…、肉奴隷に!!!」

 

 

とんでもないことを叫ぶ。

 

……………。

 

固まるイリヤ達

シロエのみ意味がわからず頭に?マークが浮かんでいる。

 

 

「「「肉奴隷…?」」」

 

「え?これ一般用語じゃないのか?

んっん…じゃあ言い直そう。タイガーが…」

 

 

イリヤ達もシロエ同様に意味が通じなかったのだと思い

雀花が咳払いし顔を赤くさせながら言い直す。

 

 

「せ、性奴れ」

 

 

それ以上はいけない。

 

 

 

……

………

 

 

「と、とにかく!来週からの練習は気合いを入れてやっていくぞ!!」

 

 

先の発言を挽回するべく

雀花が一同に気合いを注入する。

 

 

「あ、わたし。当日は休むからそのつもりでいてね」

 

「おう。シロもがんば……………うん?」

 

「家から優勝できるように祈ってるから!」

 

「いや、おま」

 

「それじゃ頑張ってねみんな!!」

 

 

シロエは雀花が反論できないようにまくし立てると

その場から駆け出し、あっという間にその姿が見えなくなる。

 

………………。

 

暫しの静寂

そして

 

 

「に、に…、逃げやがったぞ!!追えーーーッ!!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

そして現在に至る、と

 

 

「なんでお姉ちゃんとミユまで追ってくるのよー!?」

 

 

この場にいないとはいえ

美遊もまた自身を捜索していたところを

道中、シロエは隠れながら目撃していた。

全力で走りながら大声で嘆く。

 

 

「スズカ達だけなら逃げられるのにー!!」

 

「スズカ達もそう思ったからわたしとミユにも頼んだの!!」

 

 

妹の大声の嘆きに

イリヤが追いかけながら大声で叫び返す。

 

 

「だから!なんでそれを引き受けちゃうの!?」

 

「妹のやらかしをどうにかするのは当たり前でしょ!?」

 

 

速度では当然イリヤが上だが

シロエは曲がり角を上手く使い距離をなんとか保つ。

 

 

「やらかしってなによ!?やらかしって!?」

 

「やらかしはやらかしでしょ!

あんな風にずる休みを堂々と宣言しておいて!!」

 

「ずる休みじゃないもん!!ちゃんと風邪を引く予定だもん!!」

 

「引く予定ってなに!?そんな都合良く風邪なんて引けるわけないでしょ!?」

 

「魔術で免疫力を限界まで下げて氷水を張ったお風呂に二、三時間くらい浸かれば」

 

「ダメな方向に全力すぎる!?

そんなことさせるわけないでしょー!!

っていうかそんな情熱があるならダンスに注ぎなさーい!!!」

 

 

イリヤはイラついたのもあってか速度を上げ

シロエとの距離を縮め

 

 

「よし!捕まえ」

 

 

逃げる妹の肩を掴もうとした。

次の瞬間

 

ドウッ!

 

シロエが急激に加速

イリヤをあっという間に置き去りにする。

 

 

「え…。………!!」

 

 

イリヤは一瞬困惑するも

すぐに気づく。

シロエが加速する直前

シロエの両足に光の線が走っていたことに

即ち

 

 

「…ふーん、そう。そういうことするんだ」

 

 

魔術を使いやがったな、と

 

 

「ふふ…、ふふふふふ」

 

 

イリヤは恐い笑みを浮かべ

そして

 

 

 

……

………

 

 

「はあ、はあ…に、逃げきった…?」

 

 

シロエは走りながら後ろを振り向くものの

そこに姉の姿はない。

 

 

「はあぁー…」

 

 

それを確認するとシロエは走る速度を緩め安堵の溜め息を吐く。

 

 

(だけど…強化魔術まで使ったのは少しやりすぎだったかな…)

 

 

自身の行いを反省しようとした。

その瞬間

 

ドゴォン!!

 

シロエの前方の地面に魔力弾がぶつかり弾ける。

 

 

「!?」

 

「待ちなさーーーいッ!!!」

 

 

姉の声が聞こえる。

方向は後ろではなく上

つまりは

 

 

「ちょっお姉ちゃん!?転身からの飛行はずるいって!?しかも魔力弾まで」

 

「うるさーいッ!!先に魔術を使ったのはそっちでしょ!!!」

 

 

魔法少女の姿をしたイリヤが上空にいた。

イリヤは障害物を無視し上空から妹を追いかけ

シロエはそんな姉の姿を認識するとまたしても強化魔術を使い加速し逃げる。

姉と同じく飛行するためには民族衣装へと変身する必要があるのだが躊躇するシロエ

 

 

「誰かに見られたらどうする気なのよ!?」

 

「そう思うならさっさと捕まりなさい!!」

 

「いーやーだー!!!」

 

 

幸いというべきか

走っているうちに姉妹は人気のない郊外の林へと出る。

 

 

「っていうか本当は見られたいとかそんなこと思ってるんじゃないのー!?」

 

「はあ!?そんなわけないでしょ!?」

 

「ルビーがこの間言ってたよ!

世の中には誰かに見られるかもしれないという羞恥心から快楽を得ようとする人もいるって」

 

「ルビィィィィィィィィ!!?」

 

 

妹にとんでもない知識を与えていたことに激怒するイリヤ

 

 

「いやいやイリヤさん。そういう変質者に出くわす可能性も考えたら決して必要ない知識というわけでは」

 

「逃げるだけで済む話だよね!?って、あ!?」

 

 

イリヤがルビーと言い争っている隙に

距離を離すシロエ

 

 

「待てーーーッ!!!」

 

「まだ追いかけてくるの!?

だ、誰か助けてー!!コスプレ趣味をした姉が襲ってくるー!!!」

 

「コスプレ趣味じゃないもん!?

大体それを言ったらシロのアレだってコスプレみたいなものでしょ!!(最初に見た時、少し見とれちゃったけど!)」

 

 

シロエのアレ。

当然あの白い民族衣装である。

 

 

「はあ!?わたしのは魔法少女じゃないし!!」

 

「似たようなものでしょー!!

アニメとかゲームで出てきそうな衣装だし!!」

 

「なっ!アレはちゃんとした……ッ!!!」

 

 

神霊の力で多少変化しているものの

昔、アイヌ民族が好んで着用していた服装

そう言えたらどんなに楽か…!!

 

 

「ほら言えないじゃない!シロのコスプレ趣味ー!!」

 

「ぐぐぐ…!!か、仮にそうだとしてもお姉ちゃんみたいに見せたがっているわけじゃないもん!!!」

 

 

姉と違い変身まではしていないため

自身は見せたがりではないと主張するシロエ

 

 

「だ、誰が見せたがっているっていうのよ!?」

 

「お姉ちゃんの見せたがり!むっつり!!」

 

「むきーッ!!!もう怒ったーーーッッ!!!」

 

 

イリヤはルビーをシロエへと向けると

大きな大きな魔力弾を生成する。

 

 

「極大のーッ!!!」

 

「ってお姉ちゃん!?」

 

全力砲射(フォイア)ーーーッ!!!」

 

「みぎゃぁぁあああッ!!?」

 

 

 

……

………

 

 

「捕まえてくれたのはいいんだけどよ」

 

 

場所は変わり衛宮邸の玄関前

イリヤから妹を捕まえたという連絡を受け

美遊と雀花達も集まっている。

 

 

「なんでシロそんなにボロボロになってんの?」

 

 

シロエは制服のまま姉の全力の魔力弾を受けたため

制服のあちこちがボロボロとなり逃げられないように縄跳びで縛られている。

 

 

「イリヤ…」

 

 

ただ一人

なにがあったか予想できた美遊が

顔を引きつらせる。

 

 

「あははは…抵抗されたからつい」

 

「お姉ちゃんの鬼!悪魔!!むっつり!!!コス」

 

 

ゴチン!!

 

イリヤの拳骨が妹の脳天へと落とされる。

 

 

「いったーい!!」

 

「?コス…?」

 

「な、なんでもない!なんでもないよ!!」

 

「妹へのいじめはんたーい!!」

 

「いじめてない!!シロがずる休みしようとするのがいけないんでしょー!?」

 

「縛りあげた上に暴力まで振るって!

これがいじめじゃないわけ………うん?………あ……」

 

 

シロエは言い返す途中で

なにかを思い出す。

そして

 

 

「えーと、確か………」

 

「「「?」」」

 

「やめて!わたしに乱暴する気でしょ!?エ◯同人みたいに!!」

 

「!?」

 

「シロ!?また変な言葉を覚えて…!!」

 

 

スズカ達が帰ったら絶対にルビーをとっちめてやる…!

 

イリヤはそう決意した。

 

 

「あれ?こういう状況の時って、さっきの台詞を言うものなんじゃないの?

ねぇ、スズカ?」

 

「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥカァァァァァァァァァァァ!?!?」

 

 

思わぬ伏兵にイリヤの顔が般若のようになり

首を雀花の方へとぐりんと回す。

 

 

「あ、いや教えたっていうか…。

ちょっと締め切りがヤバかった原稿があって

学校に持ってきた時に、その…ちょろっと」

 

「読ませたの!!?」

 

「よ、読ませたわけじゃなくて!

作業中のページを1、2ページ分覗かれたというか!?

だから意味としては、ほとんど伝わってないと思います!!?」

 

 

雀花がイリヤの勢いにたじたじとなり

最後には敬語になりながらも釈明をする。

 

そ、それならまだ…!!

 

 

「シロ!!今すぐにそれを忘れなさい!!!

シロはなにも見なかった!!いい!?」

 

「キャー!お姉ちゃんに襲われちゃうー!おー◯ーさーれーるー!!(棒)」

 

「シロォッッ!!?

そろそろ自分でもヤバイことを言ってるって自覚しなさい!?

っていうかこんな住宅地でそんなことを叫ぶなー!!!」

 

 

棒読みのまま意味を知らずに叫んでいる妹に対し

逃げ出したことへの怒りも相まって

イリヤは顔を真っ赤にし妹を越える叫び声を上げるのであった。

近所迷惑である。

 

 

 

……

………

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

 

イリヤは叫び疲れたのか

地面に両手をつき息を整える。

と、その時

 

 

「…シロ。なんで運動会休みたいの?」

 

 

美遊がずれにずれてしまった話題を修正するべく

この騒動の根幹について尋ねる。

 

 

「うっ…。そ、それは…わたし、運動は苦手で」

 

「いやシロお前、わたしたちよりも運動できるだろ」

 

 

シロエの運動神経は決して悪いわけではなく

イリヤと美遊ほどではないにしてもクラスの平均よりも上である。

 

 

「去年の運動会も普通に出てたしなー。活躍は地味だったけど」

 

「だから地味は余計だって…」

 

「それ、に…シロ!頭いいんだから今年の目玉競技のダンスだってすぐに振り付け覚えられるでしょ!?」

 

 

シロエの学力は美遊と競ることができるほどに高く

美遊が転校してくるまではダントツで一番であった。

 

よって運動神経も相まって十分に戦力になると考え

イリヤが息を切らしながら発言をしたのだが

 

 

「ダ…ダンス…」

 

「?」

 

「その……わたし、ダンスは───」

 

 

 

……

………

 

 

そうしてやってきた次の週の月曜日

体育の時間

イリヤ達のクラスは全員体操着に着替え

グラウンドにてダンスの練習をしている。

次の日曜日には運動会のため当然である。

グラウンドにてダンスの曲が鳴り響く。

しかし

 

 

「この勝負、勝たなくちゃならない理由が増えた」

 

「うむ。そうですな」

 

「だが、誤算だったな」

 

 

深刻そうな表情で話し合う雀花と那奈亀

しかしそれは当然であり

 

 

「まさか…シロとミユが、こんなにダンスが下手だったなんて…!!」

 

 

曲に合わせシロエと美遊が身体を動かす。

振り付けは二人とも合っているのだが

二人ともにどこかぎこちない上に

シロエに至っては…

 

 

「うーん…。やっぱなんか変だなぁ…」

 

 

龍子が顎に手を当て額に皺を寄せる。

 

 

「振り付けは合ってるはず…」

 

「うん…。振り付けをこんなにすぐに覚えちゃうのはやっぱり二人ともさすがだなぁって思うけど…。

…っていうかシロ」

 

「………なに?お姉ちゃん」

 

「なんでそんなビクビクしながら踊ってるの?」

 

 

そう。美遊とシロエ、二人ともにぎこちなく踊っていたのだが

シロエに至ってはそれに加えおっかなびっくりしながら踊っていた。

 

 

「…」

 

「そういえばシロが踊っているところってあんまり記憶にねーな」

 

「言われてみればそうかも…。

体育とかでダンスがあった時って…」

 

 

イリヤが過去の体育の記憶を掘り返すが

ダンスのあった時間に限り

妹の姿は見かけた覚えがなかった。

 

 

「シロいなかった…?

…!ま、まさかずる休みをして!?」

 

「してないよ!?ちゃんと授業には出てたって!!

…隅の方で全力で空気になってたけど

ミスディレクションとか使って」

 

「黒◯のバスケ!?な、なんでよ!?」

 

 

ミスディレクション…即ち視線誘導である。

某バスケ漫画の主人公の技術を使用した上

アサシンの技術を模倣し気配を極限まで消していたため

イリヤ達が気づかなかったのも無理はない。

 

 

「あー…。いやだって、ほら…」

 

「?」

 

「…もしかしてシロ。恥ずかしかった?」

 

「……………はい」

 

 

美遊の指摘に

長い沈黙の後に頷くシロエ

 

 

「みんな踊ってるんだから恥ずかしがる必要なんてないでしょ!?」

 

「コミュ障に人前で踊れっていうのは無理があるってば!!」

 

「なにそれー!?っていうかそれが理由で先週あんなに逃げてたの!?」

 

 

妹が散々逃げたことに未だに怒っているのもあり

納得できないイリヤ

 

 

「イ、イリヤ。あの…」

 

 

美遊が憤慨しているイリヤに話しかけようとした。

しかし

 

 

「よーし!次はお前だイリヤ!!手本を見せてやれ!!」

 

「えっわ、わたし!?わたしはまだ振り付けは全然なんだけど…」

 

 

龍子の突然の振りに焦るイリヤだったが

少し考えこんだ後

 

 

「…まぁいっか!とりあえずやってみるね!!」

 

 

なるようになれと承諾する。

 

 

……

………

 

 

そうしてイリヤが踊ってみた結果

 

 

「「「おーっ!!!」」」

 

 

拍手喝采である。

 

 

「すごい…。イリヤ」

 

「いやーまだまだ。振り付けは覚えてなかったから適当だったし」

 

「…さすが陽キャ」

 

「だから陽キャとかコミュ障とか関係ないって!!」

 

「…後半のほとんどがアドリブだったのはわかるけど、それ以外でもなんだかわたしやシロとは全然違う気がする…」

 

「そ、そう?」

 

「まあとにかくイリヤみたいに踊ればいいんだよ!

楽勝だろー?」

 

「まだ本番まで時間があることだし…焦ることないよ?

ミユちゃん、シロちゃん」

 

「よし、みんなでもう一回練習だ。ミユとシロもいけるか?」

 

「うん…!次こそは完璧に踊ってみせる…!

精度を更に上げる…!具体的にはセンチメートル単位からミリメートル単位に…!」

 

(((あっ…。なんかダメそう…)))

 

「うっ!?みんな聞いて…!!きゅ…急に持病の『ダンスを踊ったらいけない病』が…」

 

「お前はどこのウソップだ」

 

「っていうかまだ抵抗する気なのシロ…」

 

 

某海賊漫画の鼻の長い男の如く

デタラメを言い抵抗する妹に対し

怒りを通り越し溜め息交じりに呆れるイリヤ

 

 

「……シロ」

 

「?ミユ…?」

 

 

そんな中、美遊がシロエに声を掛ける。

 

 

「踊りながら見てたけど…現時点でシロとわたしのダンスにそこまで差はない…と思う」

 

「…」

 

「わたしも頑張るから…シロも一緒に頑張ろう?

そうすればきっと恥ずかしくなんてないよ。ね?」

 

「ミユ…」

 

 

美遊のその言葉に

シロエはしばらく沈黙し考え込んだ後

 

 

「……………わかった」

 

「!」

 

「これ以上抵抗しない。…わたしも一緒に踊る」

 

「…うん」

 

 

シロエの返事に

嬉しそうに頷く美遊

 

 

「…」

 

 

そんな二人の…妹の様子を半目にしながら不満げに無言で見ているイリヤであった。

 

 

 

……

………

 

 

放課後になり

放課後もダンスの練習を行い、そして終えて

イリヤ達は体操着から制服へと着替えた後

教室にて帰り支度を整えていた。

 

 

「ミユ、シロお待たせ!帰ろ!」

 

 

帰り支度を終えたイリヤが

美遊とシロエに話しかける。

 

 

「あ、お姉ちゃん達は先に帰ってて」

 

「?」

 

「シロ…?」

 

 

妹から先に帰ってるように言われ訝しむイリヤ

その理由は

 

 

「わたしは図書室に寄ってから帰るから」

 

「…え?」

 

 

シロエは昔からよく本を読んでおり

暇な時があれば図書館や図書室から借りてきた本をよく読んで過ごしていた。

そう。()()()()()()()

 

 

「…またにした方がいいんじゃないの?

明日も、明後日も…ダンスの練習があるんだから」

 

「いやー。この間面白そうな本のシリーズを見つけちゃって。

ちょっと我慢できないというか」

 

 

シリーズ。

つまりは明日以降も図書室に通う…と

イリヤの中で妹に対する怒りが再燃する。

 

 

「…そう。わかった。行こうミユ」

 

「え、イ、イリヤ…」

 

 

イリヤはそれ以上は妹になにも言わず

美遊の手を引っ張り、教室を後にする。

 

シロエはそんな姉を笑顔で見送る。

そうして

イリヤと美遊の姿が見えなくなり

姉のいらいらしているような足音と

美遊のなんとかそれを宥めようとする言葉

それらが聞こえなくなり

気づけば教室にはシロエ一人

シロエの笑みが消え、無表情となり

 

 

「───本当に…ちょろいね。この世界のイリヤ(お姉ちゃん)は」

 

 

 

……

………

 

 

夕方

家までの帰り道

イリヤと美遊の二人が歩く。

 

 

(シロのバカ!!!

本っ当勝手なんだから!!

無責任にも程があるよ!!)

 

 

イリヤの内心は

妹に対する罵倒でいっぱいになりそうであったが

 

 

(あーっもう!シロのことなんか忘れよう!!今は…)

 

 

なんとかそれを脇に押しやり

ダンスを頑張ろうとしている美遊と話す。

 

 

「ねぇミユ、ひょっとしてダンスも初めてだったりする?」

 

「え、あ…う、うん…」

 

 

歩きながら話す内容は無論ダンスについて

美遊はダンスに対する不安と

なにより

イリヤとシロエの先のやり取りに不安になりながらも

イリヤに言葉を返す。

 

 

「振り付けも完璧に記憶して身体もその通りに動かしているはずなのに…。

シロも同じように振り付けは完璧なのに…。

どうしてみんなと同じようにできないんだろ」

 

「うーん…。本当にどうしてなんでしょうねー?」

 

「わっ!?ルビーいたの!?」

 

 

突如会話に入ってきたルビーに驚くイリヤ

…シロの名前が出てきたのはきっと気のせい。

 

 

「もちろんいますよー。

それにしても運動神経いいのにダンスだけダメだなんて不思議ですねー。

シロさんも運動神経が格別悪いというわけではありませんのに」

 

 

シロの話題なんてない。

ないったらない。

イリヤは妹の話題を全力でスルーしながら

 

 

「ねぇミユ。ダンスって好き?」

 

 

イリヤが美遊へと尋ねる。

 

 

「わからない…」

 

「好きでも嫌いでもなくわからないときましたか。

だからかもしれませんよ?」

 

「どういうこと?」

 

 

ルビーの発した言葉の意味がわからず

聞き返すイリヤ

 

 

「美遊さんはまだダンスというものの根本的な意義がわかっていないのでしょう。

そこに理由がありそうです」

 

「そう、かも…。ダンスは生きていく上で必要ないから…。

早く走ったり高く跳んだりするのとは違う。

行動としての優位性が…」

 

「何故ダンスをするのか。その本質を把握できないということでしょうか?」

 

「多分…。イリヤはどう思う?」

 

「そう言われても…。なんとなく踊るのは楽しいなぁっていうだけだし」

 

「楽しい…」

 

 

楽しい。

イリヤらしい言葉を

胸のうちで反芻する美遊

 

 

「まぁそんなに深く考えないでもさ!

まだ始めたばかりなんだし、きっと上手に踊れるようになるよ!」

 

「うん…」

 

 

そんな会話をしているうちに自宅前へとたどり着く。

 

 

「それじゃミユ!また明日ねー!」

 

「あ…、ちょっと待ってイリヤ」

 

 

別れようとしたところで

美遊から呼び止められ

その足を止めるイリヤ

 

 

「その…シロのことなんだけど」

 

 

………。

さすがにこれはスルーできない。

 

 

「…シロ?あー、うん。勝手だよねー。

あんな風にずる休みしようとしてさー。

しかもなんか図書室に寄ってくとか言ってすぐに帰らないし!

シロだってダンス上手くないのに…。

もうちょっと真剣にやってもらいたいよねー」

 

 

内心にとどめていた妹への不満が次々と口から出てくるイリヤ

 

 

「よりにもよってこんな時期に…」

 

「あ、あの!イリヤ!」

 

 

そんなイリヤの不満を遮る美遊

 

 

「ん?」

 

「シロのこと…そんなに怒らないであげてほしいの」

 

 

美遊のその言葉を

 

 

「え?で、でも…」

 

 

すんなりとは頷けないイリヤ

あれだけの騒ぎを起こし皆に迷惑をかけ

さらには同じようにダンスが苦手な美遊が逃げずに頑張ろうとしたため

尚のこと妹の所業が目に余るのである。

 

 

「…ミユは優しすぎるよ。シロってばあんな堂々とずる休みを宣言したのに」

 

「…ねぇ、イリヤ」

 

「?」

 

「もしも…もしも本気でシロが運動会を休もうとするなら…

そもそもあんな宣言はしないと思う」

 

「え?」

 

「だって…そんな宣言なんてせずに当日に突然仮病で休んだ方が絶対に上手くいく。

みんなから…イリヤからだって追求はできない」

 

 

それは…その通りだった。

練習には普通に顔を出し、当日魔術なりを使って体調を崩したように見せかければ

皆からはもちろん、イリヤにすら仕方のないことだと思うだろう。

誰も疑問にすら思わず、責められることはない。

 

 

「シロがそのことに気づかないはずがない」

 

「そ、それは…」

 

 

確かに…。

そう考えるとシロのやったことは少し不自然な気がする。

と、イリヤは思った。

しかし、そうなると…

 

 

「……シロに迷いが…後ろめたさがあった?」

 

「それもあると思う。それに…多分だけど

みんなに極力迷惑をかけたくなかったんじゃないかなって…」

 

「迷惑…?え、でも」

 

 

ずる休みの宣言。

そして逃走

これが迷惑をかけたと言わずしてなんと言う。

イリヤのそんな考えが顔に出たのか

美遊は首を軽く横に振ると

 

 

「イリヤ…。

当日に突然休まれるのと

事前に…それも振り付けの練習を始める前に休むって言われるのと

どっちが迷惑にならないと思う?」

 

「あ…」

 

 

その二択であれば当然後者である。

事前の…それも振り付けの確定していない状態で休むことがわかっているのであれば

最初からいないものとして振り付けを調整することができる。

無論どちらも迷惑自体はかかってしまう。

しかし

リカバリーがまだ利くのは…

 

 

(シロ…。そこまで考えて…)

 

「…休もうとしたことに変わりはないけれど

それでも…みんなのことを全く考えていなかったというわけじゃないと思う」

 

 

妹の行動の意図が見えてきたイリヤはなんとも言えない表情となる。

 

 

「だから……お願い、ね。イリヤ」

 

 

美遊はそうイリヤに言い残すと

エーデルフェルト邸の敷地内へと入っていく。

 

 

「…」

 

 

イリヤはそれを見送り

無言で立ちつくすのであった。

 

 

 




書く前→
シロエの性格もまだ明るいし、久しぶりに明るい話を書くぞー。

今ココ→
あれれ~。おっかしいぞ~。(明るさが)
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