プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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チャイナドレス

 

 

冬木商店街

飲食店や食品店、果ては雑貨屋などが立ち並び

それらの店で買い物を行う人達が行き交う。

 

 

「いっぱい買ったねー。これで全部だっけ?」

 

「うん。そうだと思う」

 

 

そんな商店街を

買い物袋を手にし歩く

イリヤ、美遊、シロエ、クロエの四人

先まで四人で買い物を楽しんでいたのである。

イリヤの疑問に美遊が答えていると

 

 

「…お姉ちゃん」

 

「ん?どうしたの?シロ」

 

「これ」

 

 

無表情の妹から差し出される一枚の紙切れ

それは

 

 

「…福引きの抽選券?」

 

「うん。さっきの買い物でお店の人がくれた」

 

 

四人分の買い物の累計により

抽選券を貰えるまでの金額に至ったのである。

 

 

「寄っていくかはお姉ちゃんに任せる」

 

「うーん。…折角だし帰る前に引いて行こっか!

ミユとクロもいい?」

 

「うん。イリヤとシロが寄ってくなら」

 

「わたしもいいわよ」

 

 

そうして四人は福引きが行われている会場へと向かう。

しかし、その途中

 

 

「あれ…?スズカ?」

 

 

雀花が息を切らした様子で辺りを見回していた。

 

 

「どうしたんだろう?」

 

「なんか慌ててるわね」

 

 

雀花のおかしな様子に

イリヤ達が話していると

 

 

「ん…?あっ!イリヤ、シロ!クロと美遊も!」

 

 

雀花はイリヤ達に気づくと

イリヤ達の方へと近づき

 

パシッ

 

と両手でイリヤとシロエそれぞれの手を掴む。

 

 

「ちょうど良かった!

誰かいないか探してたんだ!

助けてくれ!」

 

「…」

 

「な、なに?なにがあったの?」

 

 

雀花に手を掴まれても無表情の妹に代わるように

イリヤが驚いた様子で雀花に尋ねる。

 

 

「このままだと龍子が…犯罪者になってしまう」

 

「…え」

 

 

深刻そうに話す雀花に

困惑し目をぱちくりさせるイリヤ

 

 

「…」

 

 

シロエは無表情のままだが

どこか面倒くさそうな雰囲気を醸し出している。

 

 

「止めるにはお前達の力が必要なんだ!だから!」

 

「うえ…えーッ!?」

 

「…」

 

 

雀花がイリヤとシロエの手を引っ張り、半ば無理矢理に連れていく。

 

 

「イリヤ!シロ!」

 

「…まあ、とりあえずついていってみましょ」

 

 

……

………

 

 

そうして数分後

 

 

チャイナドレスを身に纏ったイリヤ達の姿がそこにはあった。

 

 

「って…これはなに!?」

 

 

イリヤは赤面し涙目になりながら突っ込みを入れているが

ピンク色のチャイナドレスをしっかりと着用。

後ろ髪はポニーテールにしている。

 

美遊はイリヤのように叫んでいないものの恥ずかしさそうに赤面し

紺色のチャイナドレスを着用している。

 

シロエは無表情であるものの頬が若干赤くなっている。

色は水色であり

姉と同じようにポニーテールにし

前髪はいつものように美遊から貰った髪留めを身につけているため美遊と完全に同じ髪型となっている。

 

 

「うんうん!」

 

「へー…」

 

 

青色のチャイナドレスを着た雀花が満足そうに頷き

白色に赤い縁のチャイナドレスを着たクロエも満更でもなさそうな顔をしている。

 

 

「ちょっとスズカ!なにこれ!?」

 

「わかってるイリヤ…。あれを見ろ」

 

 

雀花が親指で指差した先にあったのは飲食店

それも肉まん専門のである。

肉まん屋の中には

 

 

「ぐ………お……に……にく、まん……」

 

 

龍子が腹部をパンパンに膨らませ

口には肉まんを咥え

顔を青くし白目で長椅子に倒れていた。

 

 

「それと…これだ」

 

 

これだけではまだ意味不明だと思った雀花が

一枚のチラシを取り出しイリヤ達に見せる。

 

 

「えーと…超ジャンボ肉まん。

10分以内に完食するとタダ。

ただし残された場合は罰金一万円をいただきます?」

 

 

それを読んだイリヤは

 

 

「全然わかんないよ!?」

 

「わかれよ!!

龍子が勝手にこれを頼んで失敗したんだよ!

いつもみたいに、なーんにも考えずに!!」

 

「っていうか一万円って!

もし失敗したらわたしたちに払える金額じゃないよね!?

先に止めようよ!!」

 

「止めたかったけど気づいたら龍子がもうカブッっていってたんだってーッ!」

 

 

イリヤは度忘れしているが、実際には

ルヴィアからお小遣いを貰ったことのあるクロエ

同じくルヴィアの下でメイドをしている美遊とシロエ

この三人であれば払えたりするのだが

 

 

「「「…」」」

 

 

アホらしいと感じているクロエ

名前を覚えていない誰かのために動かない美遊

こんなことでお金を使いたくないシロエ

三人は黙っている。

 

 

「で、このままだと親とか呼ばれて面倒なことになる。

でも交渉の結果、わたしたちが一万円分客引きして働けば許して貰えることになった」

 

(なんで子供サイズのチャイナ服が常備されてるの…?)

 

 

大人サイズなら宣伝などでまだ理解できるが

とシロエの訝しみに気づくことなく

雀花は両手を拝むように合わせ

 

 

「悪いとは思うが助けてくれ!!」

 

「まあ、事情はわかったけど…」

 

「ちなみに他のみんなも助っ人として既に呼んである!」

 

 

雀花が指差した先には

 

 

「いきなり電話で呼び出されて、なにかと思ったら…」

 

 

緑色のチャイナドレスを身に纏った那奈亀

 

 

「こんなの、聞いてないよー…」

 

 

黒色のチャイナドレスを身に纏い

涙目で赤面しスカートの端を抑えている美々

 

 

「っていうか…小学生がこんな風に働いていいのかな…?」

 

「労働基準法違犯」

 

「…普段からわたしもメイドで働いているけど」

 

「シロは……………ルヴィアさんが身内も同然って言ってたから問題ない」

 

 

なかなかに苦しい言い訳をする美遊

 

 

「まあ、いいんじゃない?

そのビラを配ったりして、客を呼んでくればいいんでしょ?」

 

「おお、なんかやる気だ!」

 

 

お金を出す気はないが

普段着る機会のない服を着ているためか

働くこと自体は乗り気なクロエ

 

 

「はぁ…まあ、やるしかないか」

 

 

テンションが低めのイリヤの呟き

美遊とシロエもイリヤがやるならとやる気になるのであった。

 

 

 

……

………

 

 

「肉まんいかがですかー?」

 

「熱々の肉まんでーす!」

 

 

那奈亀と雀花が声出しし

美々はビラを手に走り回る。

そんな中

 

 

「んー、お客お客と…」

 

 

ビラを片手に周囲を見回すクロエ

イリヤとシロエも一緒である。

 

 

「まだ、いまいち不安なんだけどさ

クロ、ちゃんとわかってる?」

 

「わかってるわよー。少なくともシロよりかはできるつもりよ」

 

「…」

 

 

料理対決の時のような反応を期待してディスってみたクロエだったが

以前のように言い返さないシロエ

そんな妹を見てクロエは内心溜め息を吐く。

 

 

「むぅ…。じゃあ試しにやってみてよ。

わたしとシロがお客さん役ね」

 

「いいわよー。…シロも困ってるなら参考にしてくれていいわ」

 

「…うん」

 

 

『猟犬トケ』も『イリヤ』も『シロウ』も『シロエ』も

持ち得る全ての経験をひっくり返しても

客引きの経験などあるはずもなく内心困っていたのは確かであり

シロエは素直に頷く。

そうしてクロエがイリヤとシロエ相手に客引きを行う。

のだか

 

 

「ねーえ、そこのお兄さん…」

 

 

クロエは艶のある声を出しながら

スカートの端を僅かにたくし上げる。

 

 

「おいしい、肉まん…」

 

 

次に舌で唇を舐め

胸元の一番上の留め具を外す。

 

 

「食べたくなーい?」

 

 

顔を僅かに赤らめながら上目遣いで話す。

飲食店の客引きにはとても見えない。

 

 

「やっぱりわかってなーい!?」

 

「…」スッ

 

「シロ!?スカートたくし上げちゃダメ!胸元も外しちゃダメ!!参考にしちゃダメェーッ!!!」

 

 

言われた通り

クロエの真似をし始めた妹の

たくし上げようとしたスカートを押さえ、外そうとした胸元の留め具を戻しながら

絶叫を上げるイリヤ

 

 

「…?クロが参考にしてって」

 

「こういう客引きは禁止!!絶対禁止!!!」

 

「えー?効果的だと思うんだけどなー」

 

 

一方、美遊の方は

 

 

「肉まんです、どうぞ」

 

 

ビラを差し出すが

 

 

「………?」

 

 

具体的な説明を求められ

首を傾げる美遊

そして

 

 

「…肉まんとは小麦粉などをこね発酵して作った皮に豚肉、玉ねぎなどの具を詰めて蒸したものです」

 

「ミユ!?そんな詳しい説明はいらなくない!?」

 

「…原型は中国の包子(パオズ)とされ、名前の元となったのは饅頭 (マントウ)という中国の蒸しパン。現代の中国では、具の有無で包子、饅頭とそれぞれ呼ばれていて、日本では中身の具材も独自の発展を」

 

「シロも援護しなくていいから!?」

 

 

また、雀花達三人は

 

 

「よし、作戦通りにやるんだ!」

 

「いいな美々。お前が一番適役だ」

 

「ふえぇ…」

 

 

自信満々の二人に押され

不安そうな美々が前へと出る。

 

 

「あ…その……友達が、困ってるんです……。

だから…あの……助けて、ください……」

 

「なんかすっごく不健全な気がするんだけどーッ!?」

 

「…?言ってることは間違ってないと思う」

 

「間違ってないけど!絶っ対誤解されるって!!」

 

 

美々の悲壮感漂う涙声の客引き(?)に

冷静に分析するシロエと突っ込みを入れるイリヤ

 

 

 

……

………

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

突っ込み疲れて一旦休憩するべく

皆から離れベンチに座り息を切らすイリヤ

そんな姉に近づくシロエ

 

 

「お姉ちゃん。水、買ってきたよ」

 

「ありが…とう、シロ…」

 

 

イリヤは妹から水を受け取り、飲み始める。

そんな姉の隣に座るシロエ

 

 

「んくっ……んくっ……はぁ。

もー…、みんな真面目に働かなすぎじゃない。

タツコを助けるためなのにさ」

 

「………それってわたしも…?」

 

「あ!シ、シロとミユはちゃんと真面目にやってたと思うよ!!うん!!」

 

 

イリヤが焦った様子で訂正を行う。

実際、シロエと美遊はふざけてやっている様子はなかったからである。

…成果があったかと言われたら唸るしかないが

 

 

「シロも疲れたでしょ?はい」

 

「…うん。ありがとう」

 

 

真面目にやってたと姉から判断され

内心ホッとしたシロエは

姉から戻された水をなにも考えず受け取り、飲み始める。

 

 

………?

お姉ちゃんが口をつけたペットボトルを

そのままわたしが飲んで…って………これ

 

 

「……………!?

ぶっ!?ゲホ、ゲホ!!」

 

「シ、シロ!?」

 

 

飲んでる途中

妹の顔が赤く染まり、むせ始めたのを見たイリヤは

慌てて妹の背中を擦る。

数秒後、落ち着いてきた妹にイリヤは尋ねる。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

「その……気にしすぎかもしれないけれど……」

 

「?」

 

「これって………間接キス………」

 

 

──────。

数秒、空白が生まれる。

そして

 

 

「へ……………………………ッッ!?」

 

 

 

イリヤが直に口をつけて飲んだペットボトルの水を

シロエに渡し、当然そのまま口をつけて飲む。

完全に間接キスである。

妹の言わんとすることを理解したイリヤの顔もまた真っ赤に染まる。

 

 

「い、いやそういうつもりで渡したわけじゃなくて!!

ただ水分補給のためだけに渡しただけで!!

クロといつも魔力供給してるからこれくらい、って違うそうじゃなくて!!

姉妹なんだからこういうやり取りしても普通というか!!ノーカンというか!!!

つまり、そう!!シロの言ったとおり気にしない方向でいきたいと…」

 

 

 

機関銃の如く早口で喋り始めるイリヤ

どう見ても気にしている。

なにも言われなければ気にも留めなかったかもしれないが

妹がそれを口にしてしまったことで一気に気になり始めてしまったのである。

そして

その当のシロエはというと

 

 

(………でも、なんでだろう…?

間接だったからかもしれないけれど

ミユと直接しちゃった時もそうだったし……

申し訳なさももちろんあるけど………)

 

 

 

 

 

そこまで、嫌じゃない……?

 

 

 

 

 

(最初の…クロから無理矢理された時のような拒みたい気持ちが湧かない………。

……………もしも

もしもお姉ちゃんとミユがそういうことをしたいのならわたしは…)

 

 

シロエが順調にイリヤ達に毒され、汚され、堕ちていく。

しかし

イリヤは先の件をなかったことにしようとするので頭がいっぱいで妹の内心に気づくことはない。

 

 

話は変わるが

イリヤとシロエは言うまでもなく美少女である。

流れるようなさらさらとした長い銀髪

赤と青の違いはあれどそれぞれの明るく鮮やかな瞳

それを強調するかのようなパッチリと大きく開かれた目

雪のようなきめ細やかな白い肌

まるで西洋人形のような可憐さを誇っている。

さらにそれが二人

双子にしか見えない瓜二つの容姿

無論、性格に違いはあるがそれも含め

十人に聞けば十人が二人ともに可愛いと評するだろう。

そんな姉妹がチャイナドレスを身に纏っている。

つまりは

 

 

「うっはー!なにこれ、この子達かーわいい!!」

 

 

イリヤ達の知らない声に

イリヤとシロエの姉妹はアレな展開により狭まってしまっていた視野を周囲へと向ける。

すると、そこには

 

 

「二人とも髪きれーい!肌白ーい!!」

 

「それでチャイナ服!?反則だよねー!!」

 

 

十代後半くらいの女性が大勢

イリヤとシロエを取り囲んでいた。

 

 

「え、え?」

 

「しかも双子だよ!?赤と青の!!」

 

「赤い子が姉で、青い子が妹!

ボイロの琴◯姉妹みたーい!!」

 

(…双子は何度も言われたことあるけど

◯葉姉妹は初めて言われた)

 

 

突然の事態に困惑するイリヤとシロエ

しかしそんな姉妹にお構い無しに

周囲のテンションはどんどん上がっていく。

 

 

「ねぇ、どこかに案内してくれるんでしょー!?

連れてってよー!!」

 

「え、う…」

 

「あ、あー、それは」

 

 

突如として大勢の知らない人に囲まれ

言葉を上手く出せない妹を庇うように

質問に答えようとするイリヤ

 

 

「特殊なサービスとかするの!?あなた達をもっと好きに着せ替えできるとか!?」

 

「い、いやないですないです!ただの肉まん屋さんですから!!

特殊なサービスとかないですから!!」

 

「で、でも…肉まんを買ってくれるなら…」

 

「シロ!?そんな身を売るような真似しちゃダメ!!」

 

「おどおどして表情の薄い妹とそんな妹を守る天真爛漫な姉………アリね!!」

 

 

いつものやり取りを行うイリヤとシロエだが

そのやり取りに対しても盛り上がる周囲

 

 

「ねぇねぇ写真撮っていいかな!?写真!!」

 

「しゃ、写真…?」

 

「そう!!もっとこう…くっついて!!」

 

「あ、あの!それはちょっと」

 

 

無表情ではあるものの明らかに圧されているシロエと

妹を庇いながらなんとか治めようとするイリヤ

そんな姉妹の様子を離れた位置から見ている雀花達

 

 

「くっそー!イリヤとシロめ!!」

 

「あいつら!普通にしているだけで軽々と私達の遥か上を飛んでいきやがる!!」

 

「シロもいつもの馬鹿っぽい言動がなくなって、まともに見えてる所為で萌え要素しか残ってねぇ!

まさに二人は生まれながらの萌え属性エリート!!」

 

「あはははは…」

 

 

雀花と那奈亀が悔しげな表情をするのを見て

美々は苦笑いを浮かべる。

 

 

「あれま、大人気」

 

 

離れた場所にいたお陰で姉妹としてカウントされず

寂しい気持ちと巻き込まれなくてよかったという気持ちが入り交じり

複雑なクロエ

 

 

「でも写真はやり過ぎかもね。止める?」

 

「うん」

 

 

クロエの問いに力強く頷く美遊

しかし

 

 

「あの姿のイリヤとシロを写真に撮って永遠に残しておこうなんて……」

 

 

そう言う美遊の手には

 

 

「……わたし一人で十分」

 

 

カメラが力強く握られていた。

 

 

 

……

………

 

 

時間は過ぎ去り夕方

人気が少なくなった商店街を

私服へと戻り、肉まんを片手に歩く

イリヤ、美遊、シロエ、クロエ

雀花、那奈亀、美々

の七人

 

 

「いやー。一時はどうなることかと思ったけど、よかったよかった!」

 

 

雀花が上機嫌に話す。

 

 

「うむ!予想以上に客が来てくれたお陰とかで逆にタダでこれもらえたし!」

 

「…」

 

「んー…。ねぇ、なんか忘れてない?」

 

 

シロエはいつもの無表情のままだが

イリヤはなにかを忘れていると頭を捻る。

 

 

「「「そういえば…」」」

 

「うーん………」

 

「…お姉ちゃん、七人しかいない」

 

「え………あ」

 

「あーっ!?龍子の回収忘れてた!?」

 

 

妹の発言により

イリヤは龍子のことを思い出し

雀花が叫ぶ。

 

そうして戻ってきた肉まん屋

 

 

「おーい龍子!そろそろ体調も良くなったろ?帰るぞ、龍……」

 

 

雀花が店の中を覗き

その光景に思わず眼鏡にひびが入る。

 

 

「うっ…」

 

 

雀花が見たものは

 

 

「「「なっ…!?」」」

 

 

雀花の様子に

イリヤ達も店の中を覗き

小さく悲鳴を上げる。

そこには

 

 

「あー……ん?どうしたみんな勢揃いじゃねーか!」

 

 

例の超ジャンボ肉まんであろう巨大な肉まんに

かぶりつこうとしている龍子の姿があった。

龍子はイリヤ達に気づき声を掛ける。

 

 

「暇なのかお前ら!」

 

「お…お前…!」

 

「ふっ…わかる。言いたいことはわかる」

 

 

龍子は強気な表情で

戦慄いている雀花を片手で制す。

 

 

「でもな、よく言うだろ?

戦闘民族はピンチに陥れば陥るほど強くなるって!

俺は戦闘民族だと思うんだよなー!家、道場だし!

だから次は行けそうな気がするんだ!」

 

 

全てがスローモーションになっているように

イリヤ達には感じた。

 

この後の予想される展開に美々が涙目になり

 

 

「なんか前回の金はもういいって言うし!」

 

 

雀花と那奈亀が龍子の暴挙を止めようと駆け出し

 

 

「起きたら、ちゃんと小腹も空いてたし!」

 

 

クロエがやれやれとばかりに溜め息を吐き

 

 

「攻めない理由がないだろう!」

 

 

美遊もまた呆れたように溜め息を吐く。

 

 

「ってな訳で戦闘開始だー!!」

 

 

イリヤも美々や雀花達と同様に

涙目になりながら手を伸ばし、駆け出そうとする。

 

 

「いくぜー!!」

 

 

シロエは興味がないとばかりに

無表情のまま、眉ひとつ動かさない。

そして

 

 

「あーん!!」

 

 

ガブッ!!!

 

 

無限ループって怖くね?

 

 

……

………

 

 

「ま、また働かないといけないの…?」

 

 

目の前にはまたしても

肉まんを咥え白目で倒れている龍子の姿

その周りでは雀花達が龍子をロープで縛り上げようとしている。

 

 

「なんで…なんでこんなことに…」

 

「…」

 

 

落ち込む姉を見たシロエは

クロエと美遊同様に溜め息を吐きながら

イリヤに近寄り

 

 

「…そもそもだけど、お姉ちゃん」

 

「ん…シロ?」

 

「スズカ達、払えると思う」

 

 

話の前提をひっくり返す。

雀花達の動きが一瞬止まる。

 

 

「は、払えるって…?一万円を…?」

 

「うん」

 

「シロ。普通の小学生は一万円も持ってないと思う」

 

「普通はそうよねー」

 

「そ、そうだそうだ!わたしたちがそんな大金持ってるわけねーだろ!?」

 

 

美遊の当然の指摘に

クロエが同意し

雀花達もそれに乗っかる。

 

 

「そ、そうだよシロ。わたしたちにそんな大金」

 

「もらってた」

 

「え」

 

「この間、海で…タツコを轢いたお詫びの一万円。運転手から」

 

「…………………………あ」

 

 

海に到着する直前の一悶着を思い出したイリヤが声を上げる。

尚、美遊とクロエも声こそ出さなかったがイリヤと同じ心情である。

あの一万円は流れでそのまま雀花達へと渡されていたのだ。

 

 

「………スズカ?」

 

 

イリヤが声を掛けるが雀花は顔を背ける。

 

 

「………………ナナキ?」

 

 

そのことを当然知っていたであろう那奈亀にも声を掛けるが

那奈亀も同じく顔を背ける。

そんな二人の姿にイリヤのこめかみに青筋が浮かぶ。

 

 

「払えるじゃない!?なんでわたしたちに働かせたの!?」

 

「いや、だってもったいねーじゃん!

折角、客引きすればそれで許してくれるって言ってくれてるんだし!」

 

「そうだそうだ!それに実際は一万以上の働きを見せたんだし店側も儲かってウハウハだろ!?」

 

「なにそれー!?こっちは全然ウハウハじゃないよ!?」

 

「肉まんもらえたんだからプラスだろ!?」

 

「うわぁ…。肉まんひとつでチャラにするつもりよ」

 

「いいからさっさと払ってよ!!

払えるならもう働かないからね!!!」

 

「「えーッ!?」」

 

 

 

……

………

 

 

「まったくもー…。スズカ達ってば…」

 

 

あの後、あーだこーだとごねていた雀花と那奈亀だったが

イリヤの雷が落ち

結局、雀花達は一万円を支払い(涙を流しながら)

事なきを得た。

イリヤ達は雀花達と別れ

再び四人で夕方の商店街を歩いている。

 

 

「…福引き、疲れたならやめとく?」

 

「うーん……ううん。

気分転換も兼ねて寄ってくよ」

 

 

先のほぼ無意味に近い時間と

雀花達への怒りを忘れるべく

福引きをしに会場へと寄っていくことを決めるイリヤ

美遊とクロエも

 

 

「…わたしもそんなに疲れてないから大丈夫」

 

「なんだかんだで楽しかったしねー」

 

 

と同意し

歩みを進め、数分後

四人は福引きが行われている

商店街の出口付近にある会場へとたどり着く。

会場といっても

簡易型のテントと長机の上にガラガラ抽選機が置かれている

簡易的な会場である。

イリヤ達は抽選機前へと歩み寄り

 

 

「誰が回そっか?」

 

 

誰が回すか話し合う。

抽選券は一枚のみ

小学生の常識内での買い物だったため

四人分の買い物を合計して、ようやく一枚入手することができたのである。

 

 

「イリヤかシロが回せば?二人とも幸運ランク高いんだし」

 

 

まだ敵対していた頃

事故に見せかけたあらゆる攻撃を

直感と幸運で掻い潜ったことを思い出しながら

クロエが提案する。

 

 

「うん。わたしもイリヤかシロが引くなら…」

 

 

美遊も大好きな二人のどちらかが回すなら

と快諾する。

 

 

「じゃあ…」

 

「…」

 

「…シロ、回す?」

 

 

イリヤは妹に少しでも笑顔が戻るようにと譲ろうとするが

 

 

「…いいよ、わたしは。

気分転換も兼ねてるんだからお姉ちゃんが回して」

 

「…うーん」

 

 

あっさりと譲り返され唸るイリヤ

とはいえ

このまま抽選機前で譲り合っても周りの人の迷惑になるため

 

 

「じゃあ一緒に回そう!ねっ?」

 

「…」

 

「いやイリヤ。いくらなんでもそれは子供っぽすぎ」

 

「クロは黙っててねー」

 

 

クロエからの意見を遮るイリヤ

シロエの承諾する気を失わせないようにしたのだ。

 

 

「…ねっ、回そうシロ!」

 

 

そう言うとイリヤは妹の右手を取る。

 

 

「………うん」

 

 

シロエは特に抵抗せず

姉にされるがままにガラガラ抽選機の取っ手を握る。

そして

 

ガラガラガラ…

 

いくつもの玉が中でぶつかり合う音がし

 

カラン

 

一個の玉が出てくる。

のだが

 

 

「…………………………………え」

 

 

その玉の色は………金色。

即ち

 

 

「お、お…おめでとうございます!

一等、大当たりーッ!!」

 

 

法被を身に纏ったスタッフであろう男性が

ベルを勢いよく鳴らす。

 

 

「一泊二日!温泉旅行無料宿泊券をプレゼント!!」

 

 

───────。

思考が止まるイリヤ達

そして

 

 

「えええええぇぇぇぇぇーーーーッッ!!?」

 

 

イリヤの叫びが商店街に響き渡った。

 

 

 




幸運Aと幸運Aが交わり最強に見える。

次回、温泉旅行編
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