プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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遊園地

 

 

「いくよシロ」

 

「うん」

 

 

夜、トンネルの工事現場

その最深部にて

魔法少女姿の美遊とシロエが

安全第一と書かれたヘルメットを被り

一本のステッキを二人で掴み

岩盤へと向けている。

そして

 

 

「「砲射(シュート)!!」」

 

 

大きな青の魔力弾が放たれ

 

ズドォン!!!

 

と岩盤を正確に破壊する。

 

 

「…お見事です。美遊様、シロ様」

 

 

サファイアが感嘆の声を上げる。

 

 

(ミユの提案で試しにやってみたけど……うん)

 

 

最初シロエはいつもの民族衣装で

弓を使い岩盤を破壊しようとしたのだが

美遊からやってみたいことがあるという提案を受けて

シロエは魔法少女へと転身

美遊と力を合わせて岩盤を破壊したのだ。

 

 

「出力はもちろんのことコントロールも完璧。

魔力弾の性能が全ての項目において飛躍的に上昇しています。

魔力を混ぜ合わせた際の拒絶反応もありません。

……お二人の相性は最高と言っていいと思われます」

 

「よかった…」

 

(姉妹や親子でもないにも関わらず…いえ、仮に血縁関係であったとしても

ここまで互いが互いを高め合うほど相性がいいケースは滅多にないのですが……)

 

 

大好きな友達との相性が最高だと言われ

顔を綻ばせる美遊を余所に

そのあまりの相性の良さに訝しむサファイア

 

 

「戻ろう。二人共」

 

「うん」

 

「…はい」

 

 

岩盤を破壊した美遊達は

その場を後にし

イリヤ達の下へと戻る。

 

 

「お疲れ様。ミユ、シロ」

 

 

明るい声で出迎えるイリヤ

 

 

「一番岩盤が固そうなところを崩しておきました」

 

「………崩落する危険もないと思う」

 

「ありがと」

 

 

美遊とシロエを労う凛

尚、イリヤとクロエも転身しており

凛とルヴィアも合わせて全員ヘルメットを被っている。

 

 

「ごめんね。そっち手伝えなくて」

 

「ううん、大丈夫。シロも一緒に手伝ってくれたから」

 

「うん。二人いればこっちは問題ない」

 

 

イリヤが謝るが

イリヤはイリヤで遊んでいたわけではなく

ルヴィアの用意したいざという時のための術式の動作確認をしていた。

 

 

「今さらだけど質問」

 

「ん?なに?」

 

「こっちをいくら工事したって接界(ジャンプ)先は土の中なんじゃないの?」

 

「あ、言われて見れば…」

 

「…クロ、お姉ちゃん。それは違う」

 

「ええ。それは大丈夫よ」

 

 

現実世界で工事しても無意味では?

というクロエの疑問にイリヤが同調するが

シロエと凛がそれを否定する。

 

 

「鏡面世界は可能性の重ね合わせ状態」

 

「我々が接界(ジャンプ)することによって

その重ね合わせの中から相対状態を選び取るわけですね」

 

「シュレディンガーの猫を思い浮かべていただければ」

 

「よくわからないけど、大丈夫ならそれでいいです…」

 

 

妹とステッキの説明がいまいち理解できなかったイリヤ

 

 

「ふーん…。そっか…」

 

 

この先に…八枚目のカードがあるのね。

 

美遊とシロエが出てきた先を見つめる一同

そんな中

ルヴィアは装置に宝石をくべていく。

なんの躊躇いもなく大ざっぱに

 

 

「ちょっと!?起動用の宝石が無駄になるでしょ!?」

 

「あーら。なんという貧乏人根性」

 

「なんですってー!?」

 

「それに!使っているのは(ワタクシ)の宝石ですわよ」

 

「無駄な金がただ目の前で消えていくのが耐えられないのよ!」

 

「そうですかー」

 

「あっ!?また…!」

 

 

相変わらずだなぁ…。

 

とげんなりした顔で

喧嘩し始めた二人を見るイリヤ

 

 

「で、どうなの?進み具合は?」

 

 

クロエからの問いに二人は喧嘩をやめる。

 

 

「そうね…。あと、三割っていったところかしら。

手伝ってくれて助かったわ」

 

「いやー、むしろ今まで夏休みを満喫してただけで申し訳なかったというか」

 

「なに言ってんのよ。子供は遊ぶのも仕事よ」

 

「そうですわ。遊ぶといえば…今回の手伝いの御駄賃ですわ」

 

 

ルヴィアがポケットから財布を取り出す。

そうして財布から取り出したものを見て

イリヤが喜色満面の笑顔を浮かべ

ルヴィアへと駆け出し、受け取る。

イリヤが受け取ったものは

 

 

「わぁ!遊園地のチケットだー!!」

 

 

……

………

 

 

そういった経緯で遊園地のチケットを入手したイリヤ達は

雀花、那奈亀、龍子、美々の四人を誘い

アイリに引率をお願いし

数日後

9人は遊園地…『動物ランド』へと足を運んだ。

 

 

「へー。結構きれいね」

 

「最近出来たばっかだからね」

 

「うん!なかなかいい感じじゃん!」

 

「だねー」

 

 

各々、歓声を上げる子供達

…龍子のみはテンション爆上がりからのいつもの暴走をしようとしたためロープを腰に巻かれ、那奈亀に文字通り手綱を握られている。

 

 

(遊園地……。

『シロエ』になってからはお姉ちゃん達と何度か来たことあるけど

やっぱり、あの特異点を思い出す)

 

 

『シロウ』だった頃に『わたし』と一緒に訪れた

鬼だらけのあの特異点を───

 

シロエが内心で思い出に浸っている一方で

 

 

「それに可愛いマスコットもたーくさん」

 

 

辺りを見回す那奈亀

目に映るはライオンの着ぐるみ

 

 

「たーくさん…」

 

 

そのマスコットが園内のあちこちにいる。

というよりも

ライオンしかいない。

 

 

「動物ランドっていう名前なのにライオンだけ!?」

 

「ライオン号くんはここのマスコットだから

かわいすぎて一種類で十分って感じじゃないのかな」

 

 

また、警備員も着ぐるみを身に纏っているのか

盗撮魔を取り押さえるライオン号くんもいた。

…そのライオン号くんは何故か左腕にギブスを着けているが

それはさておき

 

 

「…不思議な空間」

 

「えーと、もしかして美遊ちゃん遊園地に来るの初めてなの?」

 

「…うん。昔、住んでたところにはなかったから」

 

「そうなんだ。じゃあ尚更今日は楽しまないとね」

 

 

園内を歩きながらの美遊と美々の会話に

イリヤ達三人は美遊の様子を見つめる。

と、その時

 

 

「ん?シロ」

 

「?」

 

 

イリヤから声を掛けられたシロエは

美遊から視線をイリヤへと移す。

 

 

「肩の紐がずれてるよ?」

 

「あ…」

 

 

シロエはいつも着ている

装飾のない質素な薄緑色のワンピースを身に纏っているのだが

そのワンピースの肩紐がずり落ちているのである。

 

 

「ほら…」

 

 

イリヤが妹の肩紐を元に戻す。

 

 

「…ありがと。お姉ちゃん」

 

「!うん!」

 

 

無表情のままだが

最近少し素っ気ない態度だった妹からお礼を言われ

顔を綻ばせるイリヤ

 

 

「…ふふ」

 

 

そんな娘達の微笑ましいやり取りを見て

アイリは笑みを浮かべると

 

 

「はーい!ちゅーもく!!」

 

 

アイリは手を叩き

子供達の視線を集め、立ち止まらせる。

 

 

「さて、こうして遊園地に来たわけですが最初に注意点を言っておきます」

 

 

引率の役割を果たすべく

アイリが子供達に注意点を話す。

 

 

「一つ、危ないことはしない。

二つ、はぐれない。

三つ、困ったことがあったら遠慮なく言う。

いい?ママとの約束よ?」

 

「「「はーい!」」」

 

「ねえ。イリヤ、シロ。引率がママ一人で大丈夫?」

 

「仕方ないじゃない。

お兄ちゃんは部活だし

リズは用事があるって言ってたし」

 

「………多分大丈夫でしょ」

 

「えー?」

 

 

アイリの注意点に美々達が元気よく返事する中

イリヤ達三人は密かに話し合う。

 

 

「イリヤちゃんとシロちゃんのお母さん、綺麗な人だねー」

 

「ウチの母ちゃんと交換してくれないかなー。

一日だけでもいいんだけど」

 

「むははは…」

 

「「「?」」」

 

「綺麗だよ奥さん。肌はすべすべ良い匂い。完璧だよ奥さん。だが闘ったら勝つのはウチの母ちゃんだぜーッ!!!」

 

「なんで闘わせるんだよ!?」

 

(………本当にそうならそこまで警戒しなくても済むんだけどね)

 

「うふふ。みんな素直でいい子ねー」

 

「うう…。なんか不安になってきた…」

 

 

龍子の発言に

無表情の裏で溜め息を吐くシロエだが

当然、それに気づく者はいない。

 

 

「よし!閉園時間まで遊び倒すぞー!!」

 

「「「おーっ!!!」」」

 

 

雀花達が元気よく腕を振り上げると

イリヤ達四人も顔を見合わせる。

そして

 

 

「「おーっ!!!」」

 

 

イリヤとクロエが笑顔で五芒星とハートのブレスレットを着けた腕を振り上げ

美遊も

 

 

「シロ」

 

「………うん」

 

 

シロエを促し

二人は六芒星と七芒星のブレスレットをそれぞれ着けた腕をイリヤとクロエに続き、振り上げた。

 

 

……

………

 

 

「やっぱまずはここだー!!

ジェットコースター!!!」

 

 

イリヤ達はジェットコースターの乗り場前へと来ていた。

ジェットコースターに乗っている人達の絶叫が響く。

 

 

「…あれ?そういえば大丈夫なのか?」

 

「大丈夫ってなにがだよー?ハッハッハ」

 

 

と、笑っている龍子へと

 

 

「ちょっとごめんねーお嬢ちゃん。こっち来てくれる?」

 

 

女性の係員が龍子を連れていく。

そうして龍子が立たされた隣にあるのは

身長制限の目盛り

龍子の身長を測る係員

 

 

「なんだなんだ俺のファンか?記念撮影か?さすが俺!!」

 

「うーん…。ギリギリオーケーね。ピースはしなくてもいいわよ」

 

「遠慮するな姉ちゃん!今日の俺は気分がいい!」

 

「そういえば身長制限ってものがあったね…」

 

 

龍子が無事身長制限を乗りこえ

順番を待った後、イリヤ達はコースターへと乗り込む。

そして

コースターは発車された後

ゆっくりゆっくりと上へと登っていく。

 

 

「き、きききき、きたたたた…」

 

 

コースターの先頭

龍子がコースターの振動に合わせ身体をガタガタと震わす。

すると龍子の後ろにいる美遊が

 

 

「…前の彼女はどうしてああなってるの?シロ。

いつにも増してうるさい」

 

「…楽しみだからじゃない?この後に起きることが」

 

「楽しみ…?」

 

「終わってみれば理解できる…と思う。

とりあえず、ミユ」

 

「うん」

 

「初めてなら舌を噛むかもしれないから口は閉じておいた方がいいかも」

 

「??」

 

 

シロエからの忠告が理解できずに

首を傾げる美遊

そして

そんな会話をしているうちにコースターは天辺へと到達する。

 

 

「シロの言ってることがわからない。

位置エネルギーを運動エネルギーに分化するために最初にこうして登っているだけ

シロもそれは理解できてるはずなのぉおおおああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?!?」

 

「ミユが聞いたことない声出したー!!」

 

 

シロエの忠告に美遊が疑問を挺している最中にコースターが落下し

普段冷静なあの美遊が出したとは思えないような声を上げてしまう。

その後はシロエの忠告に従い美遊は口を閉じ

シロエもまた口を閉じているため

美遊とシロエ以外の楽しそうな絶叫がコースターにて響いた。

 

コースターに乗った後は

アイスクリームを皆で購入し歩きながら食べ

 

フリーフォールでは

美遊が目を大きく見開き口を一の字にし

イリヤ達が楽しそうに絶叫。

その際、龍子のサンダルが地面へと落ちた。

 

ゴーカートでは

イリヤとクロエが普段の対抗意識からか

ガツガツと接触しているのを尻目に

後ろからアイリ、シロエの順番で抜き去り

 

メリーゴーランドでは

龍子、雀花

美々、那奈亀

イリヤ、美遊、クロエ

アイリ、シロエ

にバラけて平和的に楽しむかと思いきや

龍子が馬の上で逆立ちし雀花が力ずくで元に戻した。

 

海賊船型の大型ブランコでは

慣れてきたのか美遊は

目も口も閉じているものの

先のような表情の固さはなくなり

 

レールの上を自転車で漕ぐスカイサイクルでは

イリヤ、美遊

シロエ、クロエ

雀花、美々

龍子、那奈亀

の四組に分かれて景色をゆっくりと楽しんだ。

…龍子のみ全力で漕いでいたが

 

 

そんなこんなで

 

 

「ふぃー、疲れたー。休憩、休憩ー」

 

 

楽しんだイリヤ達は

フードエリアにて飲み物を購入

イリヤ達四人と

雀花達四人にアイリ

という組み合わせで席に座り休憩している。

 

 

「どうミユ?楽しんでる?」

 

「うん。特にあのコースター、フリーフォールの動きに感服した。安全率を考えると並大抵の設計難度ではないはず。

シロの言った通り終わってみたら楽しかった」

 

「…そう。よかった」

 

「よくわからないけど意外と絶叫系がお気に入りなんだ。

シロも昔から絶叫系が好きなんだよね」

 

(好きというか…オニランドに絶叫系は無くて新鮮だったから…)

 

「っていうか楽しんでるといえば…」

 

 

クロエがアイリ達の方へと視線を向け

イリヤ達三人もそちらへと視線を向ける。

 

 

「うふふ。遊園地って楽しいわねー」

 

「奥さんもなかなかやるじゃねーか!

さっきのゴーカートのドラテクやばかったぜ!

シロも負けじと後ろにくっついてたけど結局抜かせなかったしな!!

あっはっはっは!!!」

 

 

龍子が笑いながらアイリの肩をビシビシと叩く。

 

 

「…引率の大人がわたしたち以上に楽しんでる」

 

「普通にみんなと馴染んでるし…」

 

「そうねー。キリツグとは恋愛結婚でいろいろあって式は挙げられなかったんだけど…」

 

「ドラマの香りがするぜー!!」

 

「うう…。家庭の事情まで駄々漏れに…」

 

 

アイリと龍子達のやり取りに呆れるイリヤとクロエ

だからこそ

二人はアイリ達に気を取られ、気づかなかった。

 

 

「………………」

 

「…シロ?」

 

「なに?ミユ」

 

「え、う…。そ、その…なんだかちょっと…」

 

 

美遊が様子のおかしいシロエに話しかけた。

その時

 

 

『ガオーン。これから108匹ライオン号くん達のパレードが始まるよー。みんな見に来てねー』

 

 

アナウンスが流れる。

 

 

「パレードだって!」

 

「そういえばこの遊園地の目玉みたいなこと書いてあったな」

 

「とりあえず行ってみようぜー!!」

 

「でも気をつけないとパレードに呑み込まれると二度と会えなくなっちゃうわよー」

 

「大げさだなーママは」

 

 

イリヤ達は笑いながら立ち上がりパレードへと向かった。

 

 

 

……

………

 

 

「……イリヤ」

 

「ん?ミユ?」

 

 

パレードへと向かう最中

一団の後方にて美遊がイリヤへと話しかける。

 

 

「その……」

 

「?どうかしたの?」

 

「聞いちゃいけないこと…なのかもしれないんだけど…」

 

「?」

 

 

非常に聞きづらそうな美遊の様子にイリヤは首を傾げる。

 

 

「シロって…切嗣さんと仲悪いの…?」

 

「……………へ?」

 

 

美遊からの予想外の質問に呆けるイリヤ

 

 

「え…、な、なんで?」

 

「その…さっきアイリスフィールさんが切嗣さんの話をしてた時…」

 

「う、うん…」

 

「シロが……なんだか怖い顔してて……」

 

「え、えぇ…?」

 

「それこそ…その…敵に向けるぐらいの…」

 

 

美遊からの報告に

クロエと並んで歩いているシロエの後ろ姿を眺めるイリヤ

クロエの話に相づちを打っているシロエの横顔はいつもの無表情である。

ついさっきにそんな顔をしていたとは想像できない。

しかも自分達の父親に対して

イリヤが困惑しながら考えこむ。

 

 

「うーん…。そんなことはないと思うけど…」

 

「…」

 

「仕事の関係でたまにしか家に帰ってこないけど

普通に…その、笑顔…で迎えてたし…」

 

 

シロの笑顔

今のシロからは考えられないもの

あの頃は特に疑問に思わなかったけど

でも、もしも

もしもシロがわたしを騙してたとしたら?

切嗣(おとーさん)のことも、もしかしたら───

 

 

ぶんぶんぶんぶん!!!

 

イリヤが思いきり首を振るい

その湧き出てきた疑念を必死に振り払う。

 

 

「イ、イリヤ!?」

 

「あ、ご、ごめんミユ。

……と、とにかくそんなことはないと思うよ?

嫌いになる理由も特に思い浮かばないし

うん。ミユの気のせいじゃないかな?」

 

 

滅多に家に帰ってこないからこそ

そんなことがあれば印象に残るはずだと

きっと美遊の見間違いだと

イリヤは美遊だけでなく自分にも言い聞かせる。

 

 

「そう…うん。ごめん、変なこと聞いて」

 

「ううん!気にしないで!」

 

 

イリヤは不安を押し流しながら美遊の謝罪を受け取ると

美遊と並んでシロエとクロエの後ろ姿を見ながら

パレードへと歩いていくのだった。

 

 

……

………

 

 

イリヤ達はパレードへとたどり着く。

しかし

イリヤは先の美遊からの報告により

アイリからの警告が完全に頭から消えていた。

つまりは

 

 

「うごごごご…んぐーっ!?」

 

 

パレードの人波に呑み込まれ

呻き声を漏らすイリヤの姿をそこにはあった。

必死に抜け出そうと試みても押し流されるばかり

イリヤの右手のみが助けを求めるように人波からひょっこり出ている。

 

十数分後

パレードが石橋の上を通過した時だった。

 

 

「イリヤ見つけた」

 

 

美遊により人波に呑み込まれたイリヤの救出に成功する。

 

 

「もう、多すぎだろ…」

 

「着ぐるみが可愛いのはいいんだけどさ…」

 

「客も多いからすごい人口密度だね…」

 

「やっぱり、すごい人気なんだね…」

 

「…」

 

 

シロエがいつもの無表情で

パレードの先頭のマスコット…セイバーライオンを訝し気に凝視している。

 

一方で龍子はというと

白目を剥き、だらりと仰向けに倒れている。

 

 

「?タツコはどうしたの?」

 

「ああ、こいつはパレードに自分から突っ込んでいってさ」

 

「死んだなーって思ってたら

なんかやたら威圧感のある左腕にギブスをはめたライオン号くんが助けてくれたんだ」

 

「片腕だけギブスって変なキャラだよなー。

ガ○パンのボコみてー」

 

「いやあれほどボロボロじゃなかったけど…」

 

「あれだけ特別なマスコットなんじゃね?」

 

「邪魔なゴミを外に出しただけっていう感じにも見えたけど」

 

「ゴミ扱いは酷いよスズカちゃん」

 

(左腕にギブス…)

 

 

左腕にギブスという単語で

目を細めるシロエ

 

 

「ま、まあ無事でなにより…ってうん?」

 

 

イリヤは周囲を見回し、困惑する。

 

 

「…ママは?」

 

「あれ?ホントだ!いない!?」

 

「ヤバいな。はぐれちゃったか」

 

「この人混みじゃ捜そうにも…」

 

「ど、どうしよう?」

 

 

引率の大人とはぐれてしまい

動揺する子供達

そんな中

 

 

「…パンフレットの案内に迷子センターがある」

 

「うん。あっちにある」

 

 

シロエと美遊がパンフレットを見ながら

打開策を伝えると

イリヤ達は話し合った後、迷子センターへと向かった。

 

数分後

イリヤ達は迷子センターへとたどり着き

 

 

「呼び出しをかけるかはともかくママもわたしたちを捜しに来るかもしれないし」

 

「そうね。とりあえず…」

 

 

その扉を開ける。

すると

 

 

「って、ええ!?」

 

 

と驚愕する。

そこには

 

 

「聞き覚えのある声がすると思えば…」

 

「「カレン先生!?」」

 

 

イリヤ達の通う小学校

その保健の先生であるカレンがそこにはいた。

 

 

「いつも言ってるでしょ。健康な子供の声は耳障りよ」

 

「…」

 

 

驚愕の声を上げるイリヤとクロエ

そして

警戒する対象が更に増え、無表情の裏で内心頭を抱えたくなるシロエであった。

 

 

……

………

 

 

「先生はなんでここに?」

 

 

紅茶に蜂蜜を注いでいるカレン先生へと

イリヤ達が尋ねる。

 

 

「アルバイト…ですか?」

 

「…教員のアルバイトは禁止されているはずです」

 

「ええ。もちろんアルバイトではないわ」

 

 

美遊が推測をし

シロエが咎めるようにカレン先生へと詰問するが

カレン先生は紅茶を飲みながら余裕そうに返す。

 

 

「じゃあ、なんでよ?」

 

「ここは寄る辺を失った子供の泣き顔を間近で拝めるわたしにとってのオアシスだからよ」

 

「「「「やっぱりこの人最低だ…!!」」」」

 

 

イリヤ達四人がカレン先生の発言にドン引きする。

すると、その時

 

ブルル…ブルル…

 

とクロエのポケットに入っている携帯電話が震える。

 

 

「あっ!忘れてた。

ママから携帯持たされてたんだった」

 

 

はぐれた焦りから携帯電話でやり取りすることを

すっかり失念していたのである。

 

 

「…っていうかなんでわたしじゃなくてクロなのよ」

 

「…」

 

 

母親が自分ではなくクロエへと連絡を取り

イリヤが不満げに唇を尖らせる。

シロエも無言ではあるが若干不満げである。

そんな二人の妹をスルーしクロエは携帯を見る。

予想通りアイリからの連絡である。

クロエは電話を取りアイリと通話を行う。

すると

 

 

「もしもしー?ママー?」

 

『ごめんなさい!

流されて結婚式とかイベントの式場みたいなところに入っちゃってね

そしたら、私が一万人目だったらしくて…』

 

「え」

 

『強引に着替えさせられて記念に写真を撮ってくれるらしいんだけど…』

 

「ウェディングドレスで写真?なにそれ?」

 

 

ピクリ、と

雀花の顔が上がり眼鏡がキラリと光る。

 

 

『そうよね。うーん…。やっぱり今からでも』

 

「大丈夫です!ママさん!!」

 

 

雀花がクロエから携帯電話を取り上げ

クロエの頭を押さえつけながら

アイリと通話する。

 

 

「ぜひ、そのまま写真を撮ってもらっててください!

一枚といわず何枚でも!!」

 

「うん!式挙げてないって言ってたもんね!ちょうどいいよ!!」

 

「はぁ…はぁ…奥さん。今どんな格好してるんだ?」

 

「その写真イリヤちゃんとシロちゃんのお父さんに送ってあげてください。あと、わたしにも…」

 

『でも保護者同伴じゃないと遊べないアトラクションもあるでしょ?』

 

「あ、えっと…。それは…」

 

 

雀花達四人がアイリを気遣い

アイリは困惑しながら自分がいないと困るのではと返すが

 

 

「そう!偶然、学校の先生がここにいるんでなんとかなると思います!!」

 

「え」

 

「じゃあそういうことなんでこっちのことは心配なくー!!」

 

 

雀花はそう勢いよく言うと通話を切る。

 

 

「ちょっとスズカ!なんで…」

 

「いや、なんというか…ノリで」

 

「うん。まあママさんには喜んでもらいたいじゃん」

 

「く~。いい仕事するなー!俺達!」

 

「それにね、すっごい綺麗だと思うの。

いろいろ使えると思うのー…」

 

 

なにに使うというのか。

美々がうっとりと涎を垂らしながら口にする。

 

 

「いやママが写真を撮ったりとかは全然いいんだけど…」

 

「そうよ!問題はこっち側!!」

 

「言いたいことはわかる!!」

 

 

言い募るイリヤとクロエの肩に手を置く雀花

 

 

「だがもう引き返せない!」

 

「そうだよ。

シロちゃんもお母さんの写真、お父さんに送ってもらえた方がいいよね?」

 

 

美々が4対4の均衡を破るべく

シロエに味方になってもらうように話しかける。

しかし

 

 

「……………」

 

「シロちゃん?」

 

「おいおい、どうしたんだ?」

 

 

シロエは目を閉じたまま動かない。

訝しむ美々達

そして

 

 

「…」

 

 

先のシロエの様子を見ていた美遊が

内心で戦々恐々としながら

シロエを見ている。

やがて

シロエはゆっくりと目を開く。

その顔は変わらず無表情である。

そして極めて平淡な声で

 

 

「別にわたしはどっちでも…。ママの写真をキリツグに送っても…」

 

 

いつも以上に感情を感じさせない声で

淡々と中立を宣言しようとする。

しかし

 

 

「ん?なあなあ、シロキチ」

 

 

龍子が

 

 

 

 

 

「なんで自分の親父のことを名前で呼んでんだ?」

 

 

 

 

 

地雷を踏み抜く。

 

 

「言われてみれば…?」

 

「確かに…」

 

「なんで名前呼びなんだ?」

 

「………」

 

「ママさんのことは普通に『ママ』って呼んでるのになー」

 

「さすがにそれはおかしくねーか?

イリヤ、昔からこうなのか?」

 

「え。う、うん」

 

 

シロエが黙ってしまったためか

姉であるイリヤへと尋ねる雀花

 

 

シロがママのことを『ママ』って呼んでるのは

ママがそう呼ぶようにシロに言い聞かせたからだ。

でも

おとーさんのことも名前呼びから変えようとしたら

 

 

『あー…うん。気が向いたらね』

 

 

そう言って毎回はぐらかした。

わたしは恥ずかしがってるのかなって思ってたんだけど……

 

 

「いい機会だしシロもイリヤみたいにお父さんって呼ぼうぜ?」

 

「うん。きっとパパさんもママさんも喜んでくれるし!」

 

「─────」

 

「恥ずかしがってんのか?

そんなことねぇって!むしろ今の方がおかし」

 

「ねぇ」

 

 

無表情のシロエに詰め寄ろうとする雀花達に

 

 

「無理に呼ばせようとするのは…違うと思う」

 

 

美遊が割って入り

シロエを背に庇う。

 

 

「ミユ…?」

 

「…」

 

 

困惑するイリヤだが

先のシロエの表情を見た美遊からしてみれば

無表情であるシロエの内側で

なにかがだんだんとせり上がっていき

爆発しそうに見えたのである。

まるで噴火寸前の火口に向かって石を投げてるように

故に

美遊は真剣な表情で

これ以上刺激するな、と

雀花達を諌める。

 

 

「お、おう…」

 

「まぁ…」

 

「う、うん。そうだね…。

ごめんね、シロちゃん」

 

 

怖いくらいなまでの真剣な美遊に気圧され

これ以上詰め寄ったら美遊から叱責を受けそうであると

感じた雀花達はシロエに詰め寄るのをやめる。

 

 

「え、えーと。それでなんだっけ?」

 

「…保護者がいないとアトラクションで遊べないっていう話でしょ?」

 

「あ、そうだった」

 

 

クロエが

シロエと美遊に訝しみながらも

話を元に戻す。

 

雀花達はカレン先生へと近づくと

 

 

「そういうわけなので…」

 

「「「「お願いします!!!」」」」

 

 

手を合わせ、頭を下げ

雀花達がカレンへとお願いする。

 

 

「…なに?」

 

「その…わたしたちの引率などしていただけたらな、と…」

 

 

カレンは静かに飲み終えたカップを置く。

そして

 

 

「いいわよ」

 

「「え!?」」

 

「「「よっしゃーッ!!!」」」

 

 

カレン先生の予想外の返事に

イリヤとクロエは驚愕し

雀花達は喜びの声を上げるのであった。

そして

その一方で

 

 

「……シロ。大丈夫?」

 

 

美遊がシロエへと声を掛ける。

しかし

 

 

「……………」

 

 

シロエは未だに

無表情で俯き、なにも話そうとしない。

その姿を見て美遊はさらに心配になるのであった。

 

 

 

……

………

 

 

「なんだろう…。この展開…」

 

 

迷子センターから外に出たイリヤ達

イリヤ達の前を歩くカレン先生を見ながら

イリヤが呟く。

 

 

「いい展開じゃないか。わたしたちもママさんも幸せで」

 

「なにか裏がある気がするんだけど…」

 

 

その時

 

 

「うわああん!!ライオン号くんがー!!」

 

 

小さい子供の泣き声がし

イリヤ達はそちらへと視線を向けると

 

父親の隣にて小さな男の子が泣いていた。

上空にはライオン号くんの風船

男の子が風船を離してしまったのだろう。

しかし

 

だんッ!!!

 

左腕にギブスをつけたライオン号くんが

ベンチを、建物の手摺を、屋根を蹴り

上空へと舞い上がる。

そして

 

パシッ

 

と風船を手にすると

男の子の前に地面を割りながら着地する。

 

 

「あ、あああ…ありがとう…」

 

 

あまりにも人間離れした動きに

男の子が怖がりながらも、お礼を言う。

 

 

「あれはさっきの…」

 

「龍子ちゃんの命の恩人!」

 

「もしくはウザイから捨てた人!」

 

 

父親はギブス付きライオン号くんにお礼を言うと

風船を受け取った男の子と一緒にその場を後にする。

そして

そんなライオン号くんにカレン先生がゆっくりと近づく。

 

 

「成り行きで引率することになったわ。

貴女も付き合いなさい」

 

「!?」

 

「この猛獣も同行してくれるそうよ」

 

 

突然の命令に動揺するライオン号くんを無視し

カレン先生が子供達に伝える。

 

 

「えっ、本当!?そういうのありなの!?」

 

「よろしくっス!」

 

「ライオン号くんが貸し切りでついてきてくれるとは贅沢だねー」

 

「さっきはありがとうございました!」

 

 

喜ぶ子供達だが

ライオン号くんは断りたいのか勢いよく首を横に振るう。

しかし

喜んだ龍子が勢いよく背中からライオン号くんに抱きつく。

 

 

「いけー!けだものー!!」

 

「…ま、いっか」

 

 

クロエがライオン号くんの中の人について察するが

そのまま指摘せずに流すのであった。

 

 

……

………

 

 

アイリがいなくなり

代わりにカレン先生とライオン号くんが入り

子供達は再びアトラクションにて遊んでいく。

 

ティーカップでは

イリヤ、美遊、クロエ、シロエ

雀花、那奈亀、美々

龍子、カレン先生、ライオン号くん

の三組に別れティーカップへと乗り込み

イリヤとクロエ、雀花達も楽しそうにティーカップを回し

龍子が例の如く全力でティーカップを回し

終了後

龍子が地面に両手をつきゲロを吐き

カレン先生がそれを愉快そうに笑い

 

お化け屋敷では

全員で一緒に進んでいく中

ライオン号くんが出てくるお化けを片っ端から捩じ伏せ

イリヤ達が通り抜けた後にはお化けが死屍累々で横たわってしまい

 

天空ブランコ、汽車を

楽しみながら乗った後

 

ゲームセンターでは

ライオン号くんが右ストレートでパンチングマシンを壊し

イリヤ達はスタッフに叱られた。

 

そんなわけで

 

 

「ふぅ…。楽しいは楽しいんだけど…。

なんだか部分的にすっごく疲れる…」

 

 

イリヤが溜め息を溢しながら

シロエ、美々、雀花、那奈亀と一緒に

購入したドリンクを運んでいる。

二回目の休憩である。

 

 

「つーか…どこを見てもライオンだらけなのが

いい加減気になってきたぞ…」

 

「夢に出てきそうだ…」

 

 

雀花と那奈亀の言う通り

どこに視線を向けてもライオン号くんが存在し

視界に入る数だけを数えても軽く50は超えている。

 

 

「可愛いものはいくらあってもいいじゃない…」

 

「軽く洗脳されてないか!?」

 

「そうだよ…」

 

「美々まで!?」

 

「…」

 

「そしてシロは相変わらずの無表情だし!!」

 

 

イリヤと美々の目から光が消えながらの言葉に

雀花と那奈亀が突っ込みを入れる。

迷子センターでの一件以降

シロエの表情がいつも以上に無となっているのだが

それに気づける者はこの場にいない。

そして

 

 

「お待たせー!」

 

「おかえり。イリヤ、シロ」

 

 

イリヤ達が美遊達の待つベンチへとたどり着く。

 

 

「ミユはレモンティーだったよね。はいこれ」

 

「うん。ありがとう。イリヤ………ッ!?」

 

 

イリヤがレモンティーを美遊へと差し出すが

美遊はイリヤの差し出された右手首を見て目を見開く。

 

 

「イリヤ…!?」

 

「え、どうしたの?」

 

「これ、ブレスレット!」

 

 

美遊に指摘され右手首のブレスレットを見ると

 

 

「え、うそ!?飾りがない!?」

 

 

五芒星の飾りがなくなっていた。

動揺するイリヤ

 

 

「え!?なくしたの!?」

 

「なくしたっていうか…えーと…」

 

「それって海で貰ったやつだろ?」

 

「いつからないんだ?」

 

「わ、わかんない…」

 

「妖怪の仕業じゃー!?」

 

「龍子ちゃん空気読んで!?」

 

 

こんな時までぶれない龍子の発言に

突っ込む美々

 

 

「!イ、イリヤ!!シロからもらった方は!?」

 

「あ…!?」

 

「…」

 

 

イリヤが慌てて左手首の純白のブレスレットを見る。

プレゼントしてくれた妹の目の前で、もしもなくしたとなったら

イリヤは不安でいっぱいになるが

 

 

「……だ、大丈夫みたい…」

 

 

左手首には純白のブレスレットがしっかりとついていた。

シンボルである六角形の氷の結晶も無事である。

最悪の事態だけは回避でき、一息吐くイリヤ

とはいえ

最悪は回避できても問題は解決できていないため

 

 

「今まで行ったところを探してみる」

 

「しょうがない。付き合ってあげるわよ」

 

「よーし!手分けして探そうよ!」

 

「おう!」

 

「任せとけー!」

 

「大丈夫!きっと見つかるよ!」

 

「みんな…。ありがと…」

 

 

イリヤ達は各々で探しにかかる。

 

 

「やれやれ世話しないものね…」

 

 

慌ただしくバラバラに走っていく子供達を見ながら

溜め息を吐くカレン先生

 

 

「それで?貴女は行かなくていいのかしら?」

 

 

カレン先生は去っていく子供達の中

その場に立ち止まり無表情で俯いているシロエへと

話しかける。

 

 

「…」

 

「そもそも貴女なら…」

 

 

カレン先生の声とライオン号くんの警戒するような視線を浴びながらも

 

どうでもいい。

 

そう言わんばかりに気にも止めず

シロエは無言のままイリヤ達から遅れてその場をゆっくりと後にした。

 

 

 

……

………

 

 

「どうしよう…!せっかくお兄ちゃんからもらったのに…!!」

 

 

ジェットコースターにて

スタッフに聞いてみてもそんな落とし物は届けられていないと答えられ

イリヤがさらに焦りながら走りだす。

 

 

「イリヤさん」

 

「ルビー?どうしたの?」

 

 

背中のリュックからルビーが顔を出す。

 

 

「えーと…、一応報告しておこうと思いまして…。

サファイアちゃんがですね…」

 

 

 

……

………

 

 

「ママー!見てー!」

 

 

夕方

太陽が沈みかけ遊園地が夕焼けに染まる中

観覧車の内部にて

小さい女の子が前方上のゴンドラを指差す。

 

 

「なーにー?」

 

 

女の子の隣に座っている母親が

子供が指差した方向を見ると

 

 

「あらー、すごいわねー。新しく出来ただけのことはあるわー」

 

 

魔法少女姿の美遊が

ゴンドラの上にて佇んでいた。

幸いにも

周りの一般人はなにかのイベントだと思っているようである。

 

 

「サファイア。お願い」

 

「わかりました」

 

 

美遊がサファイアを構えると

サファイアは探査の魔術を使用。

サファイアから探査の光が遊園地内へと広がる。

しかし

 

 

「…ッ!」

 

「…探査失敗。いくらなんでもスキャニングする範囲が広すぎます美遊様」

 

「それでも…!!」

 

 

美遊が諦めずに

もう一度探査を行おうとした。

その時

 

 

「ミユー!!」

 

「イリヤ!?」

 

 

魔法少女へと転身したイリヤが

空を飛びゴンドラの上の美遊へと近づく。

 

 

「なにしてるの?」

 

「サファイアに探し物を手伝ってもらおうかと

…でも、ごめんね。まだ見つけられなくて」

 

「いや、でも…転身までしなくても…。

誰かに見られたら…」

 

 

美遊の気持ちは無論嬉しいが

魔法少女姿を誰かに見られるかもしれない。

と気にするイリヤ

しかし

 

 

「大丈夫。なにかしらの催し物に見えるはず」

 

「そ、そうかな…」

 

「もう一回やってみる!」

 

「じゃあ…一緒にやろう。

ルビーにもできるでしょ?」

 

「もちろんです!」

 

「イリヤ…」

 

 

そうして二人は

ゴンドラの上にて並び

探査の魔術を使用するのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

イリヤと美遊が必死に探査を行っている中

地上からシロエがその様子を見上げる。

 

 

「─────」

 

 

しかし

姉と友達

大切な二人が必死になって探しているにも関わらず

シロエのその瞳は

どこまでも虚ろだった。

 

 

 

……

………

 

 

日は更に傾き

空には星がちらほらと見え始めている。

イリヤと美遊の二人は

ベンチへと座っているクロエ達の元へと戻る。

その顔は暗く服装も私服へと戻っている。

 

 

「どうだった…って」

 

「…その顔見たらわかっちゃうな」

 

「ごめん…こっちも…シロちゃんはまだ帰ってきてないけど…」

 

「うん…」

 

 

と、その時

 

 

『ガオー!みんな今日は来てくれてありがとう。

もうすぐ閉園時間になるよ。

今日は野生が爆発。残ってたら食べちゃうから気をつけて帰ってね。ガオーン!!』

 

 

閉園時間のアナウンスが流れる。

 

 

「げっ!もうそんな時間か」

 

「事情を説明してもダメかな…?」

 

「探しておくから帰れって言われるだけだろ」

 

「ここは俺に任せて先に行けー!!」

 

「お前に任せてどうなるんだよ!?バカ!!」

 

「うるせー!?やってみねーとわかんねーだろ!?」

 

 

雀花が龍子にチョップをし

龍子が言い返したその時

 

 

「もう…いいよ。みんな…」

 

 

イリヤが

唇をきつく結びながら

静かに告げる。

 

 

「閉園時間じゃ…しょうがないよね。

大丈夫だよ。お兄ちゃんも…」

 

 

諦めようとする。

しかし

 

 

「ダメ!!!」

 

 

美遊の激しい口調の否定に

イリヤが美遊へと視線を向ける。

 

 

「諦めたら、ダメ。

あれは…大切な…!!」

 

 

美遊は辛そうに目を閉じた後

 

 

「もう一回探してくる!!」

 

「あ!?ミユ!!!」

 

 

美遊がイリヤの静止を無視し走り出す。

そうしてイリヤ達から少し離れた時だった。

 

 

「人間は無力な豚よ」

 

 

カレン先生は柱へと寄りかかりながら

前方を横切ろうとした美遊へと静かに話しかける。

 

 

「特に子供となれば尚更ね」

 

「…」

 

「一人だけ、子供に似つかわしくない力を持ってる子が混じってるけど」

 

「え…?」

 

「その子にとっては

この程度の出来事、些事でしかないのでしょうね」

 

 

子供に似つかわしくない…?

 

もう一人の大切な友達が

美遊の脳裏に過る。

 

 

「それって…」

 

「ミユ!」

 

 

美遊がカレン先生へと詳しく尋ねようとした時

イリヤが美遊に追いつく。

 

 

「あのね…探してくれるのは嬉しいんだけどやっぱり…」

 

「…イリヤ。シロは?」

 

「え?」

 

「みんなのところにはいなかったよね?」

 

「う、うん…」

 

 

まだ探してくれているのかな…。

 

とイリヤは姿の見えなかった妹に罪悪感を感じる。

そんな中

美遊は携帯を取り出しシロエへと連絡を取ろうとする。

しかし

 

 

「その必要はないみたいよ」

 

 

カレン先生の言葉に視線を上げ

美遊とイリヤがカレン先生の視線をたどると

 

 

「シロ!」

 

 

無表情のシロエがそこにはいた。

シロエはイリヤと美遊がいることに今気づいたのか

美遊の声に反応し歩みを止め

美遊とイリヤは歩みを止めたシロエへと近づく。

 

 

「シロ。あの…見つかった?」

 

「…」

 

 

シロエは無言のまま

顔を横に僅かに振るう。

 

やっぱりダメだった…。

 

と落ち込むイリヤと美遊

 

 

「……………」

 

 

そんな二人を見たシロエは

その重い口を開く。

 

 

「………魔術」

 

「え…?」

 

「魔術を使えば、あるいは……上手くいくかわからないけど」

 

「「!!!」」

 

 

イリヤと美遊は目を見開く。

 

 

「お願いシロ!失敗してもいいからやってみて!!」

 

「ミユ……わたしもお願い!シロ!!」

 

 

思わぬところに希望があり

必死に頼み込む二人

故に

既にいっぱいいっぱいな二人は気づかない。

二人と合流する直前

シロエの足取りがどこか重く、その顔は俯いていたことに

しかし

 

 

「………わかった」

 

 

シロエは機械的に了承を行う。

飄々としているカレン先生をシロエは一瞥すると

 

 

「二人共、こっち来て」

 

 

イリヤと美遊を連れてその場から…カレン先生から離れる。

 

 

「…用心深いことね」

 

 

カレン先生が呟く。

そして

 

 

「…」

 

 

その様子を

建物の死角を利用し見ていたクロエも

密かにシロエ達についていくのであった。

 

 

 

……

………

 

 

シロエ達はカレン先生から十分に距離を取り

人気のない場所へと行くと

 

 

「サファイア、衣装替えなしの転身」

 

「はい」

 

 

シロエは美遊のバッグから出てきたサファイアを使い

衣装替えなしの転身を行う。

シロエの髪型がポニーテールとなり

髪留めが✕印に変わり

蝶の髪飾りが出現する。

 

 

「でも、シロ…。探査は範囲が広すぎて…」

 

「わかってる。お姉ちゃんブレスレット見せて」

 

 

美遊の言葉を制しながら

シロエは姉へと指示する。

イリヤは言われるままにブレスレットをつけている右手首を妹へと差し出す。

 

 

「…」

 

「?シロ?」

 

 

シロエは躊躇いながら

ブレスレットへと顔を近づけ

 

くんくん…

 

匂いを嗅ぐ。

 

 

「!?」

 

「シ、シロ!?」

 

「黙って」

 

 

突然の奇行に

驚く美遊とイリヤだが

シロエに一喝され慌てて口を閉じる。

シロエは目を閉じて数秒匂いを嗅いだ後

ブレスレットから顔を上げ

 

 

「………こっち」

 

「!!」

 

「う、うん!!」

 

 

場所がわかったのだと

喜びの声を上げ

シロエについていくイリヤと美遊

 

 

「でも、どうやって…?」

 

「……強化魔術で五感の内、嗅覚のみを限界まで強化した。

例えるなら警察犬のようにお姉ちゃんの匂いをたどってる」

 

「そ、そんな方法が…」

 

 

驚愕し感嘆するイリヤと美遊だが

シロエの説明は少し違っている。

正確には

シロエの部分的な白熊化

それを嗅覚のみに反映したのである。

そして

 

白熊の嗅覚は犬の10倍と言われ、陸生哺乳類で最も敏感な嗅覚を持っているとされ、数km離れている臭いすらも感知することが可能である。

 

無論、白熊の姿をとってはいるがあくまでそれは見せかけだけであり

シトナイの意向次第でいくらでも姿は変えられるため決まった姿はないのだが…。

それはさておき

シロエは白熊としての嗅覚を使いイリヤの匂いをたどっているのであった。

そして

 

 

「…」

 

 

衣装替えなしの転身を行っているサファイアのみが

シロエの嗅覚が強化どころかまったく別の生物になっていることに気づくことができた。

しかし

海の一件でシロエが人間ではないとわかっているサファイアはそれを指摘したりはしない。

 

 

「…やっぱり気持ち悪いね」

 

「え?」

 

「だってこうやって人の匂いを嗅いで、それで場所を特定できるって…普通に考えて気持ち悪いでしょう?」

 

「「!?」」

 

 

シロエの俯きながらの言葉に

イリヤと美遊は目を見開く。

 

 

「そんなことない!!

シロはわたしのためにやってくれてるんだもん!

それなのに気持ち悪いなんて…思うわけない!!」

 

「うん。それにシロに頼んだのはわたしたち。

そのわたしたちがそんなことを思うことなんて絶対にない」

 

 

イリヤと美遊は迷うことなく力強く断じる。

そして思う。

 

シロがこの方法を最初から取らなかったのは

魔術の使用を躊躇したのではなく

わたしたちにそう思われるのが嫌だったからではないか、と

 

だからこそ

イリヤと美遊は力強くそれを否定する。

 

 

「…そう」

 

 

実際は

()()()()()()()()()()()

 

 

そんな話をしているうちに

 

 

「この辺り…だと思う」

 

「ここって…」

 

 

イリヤ達は目的地へとたどり着く。

その場所は

 

 

「パレードの…」

 

 

イリヤがパレードの人波から抜け出した地点

石橋の上へとやって来ていた。

 

 

「!イリヤ!ブレスレットをもう一回見せて!!」

 

 

イリヤは美遊に言われ

右手首のブレスレットを見せる。

 

 

「…やっぱり。

こっちの金具を見ると多分壊れたんじゃない。外れただけ。

でもこれはそう簡単に外れる造りでもない。

ただ落ちたんじゃなくて特別な力が掛かるなにかがおきて外れたと考えるしかない。

この腕に特別な摩擦や捻れの力が加わるなにかが」

 

「特別な摩擦や捻れ…」

 

 

イリヤが

美遊に手を引かれ人波を脱した時を思い出す。

その際、確かに摩擦や捻れの力が加わっていたと

 

 

「…ごめんイリヤ。冷静になってたら多分気づけた」

 

「あ、ううん!

ミユの所為じゃないんだから

そんなこと気にしないで!!」

 

 

美遊はイリヤの労いの言葉をもらうが

納得できないように唇をきつく結ぶ。

 

 

「サファイア!」

 

「はい!エリアが限定されているのであれば」

 

 

美遊の呼びかけに

サファイアはシロエとの転身を解くと

美遊の下へと戻り

探査をかける。

 

 

「!」

 

 

するとすぐに反応が出てきたのか

美遊は石橋から飛び降りる。

 

 

「ミユ!?」

 

「…」

 

 

イリヤは慌てて

シロエはゆっくりと

石橋の手摺へと近づき

美遊の飛び降りた地点へと目を向ける。

 

 

「………あった!!」

 

 

四つんばいになり水の中を探っていた美遊であったが

水底に沈んでいた五芒星の飾りを見つけることに成功し

立ち上がる。

 

 

「多分もみくちゃにされた時

外れて…それで……イリヤ!」

 

 

美遊が振り返り

イリヤへと見つけた報告をしようとしたその時

 

感極まり涙目となったイリヤが

見つけた美遊へと

転身し飛行しながら抱きつき

美遊は尻餅をつく。

 

 

「本当はなくしちゃうの嫌だった!!

ありがとう…!!!」

 

 

本格的に泣き始めるイリヤ

そして

その様子を木陰から見ていたクロエは

 

 

「…!」

 

 

石橋へと視線を戻すと目を見開き

その場を後にする。

 

 

「ううん、わたしも同じ。

これは…絆だと思ったから」

 

 

美遊がイリヤへと五芒星の飾りを

手のひらの上に置く。

 

 

「わたしたちの……。

シロのこっちのブレスレットも」

 

 

美遊が左手の純白のブレスレットを見せる。

 

 

「だから…失いたくない。

失ってほしく…ない」

 

「ミユ…」

 

「それに…お礼を言う相手はわたしじゃない」

 

 

美遊の言葉にイリヤは涙を拭いながら

首を横に振るう。

 

 

「ううん。わたしが諦めようとしてもミユは最後まで諦めずに探してくれた。

ミユにだって感謝してもしきれないよ」

 

「イリヤ…」

 

「そして、もちろん…シロにだって

シロ、ありが───」

 

 

イリヤが石橋を見上げ

妹にお礼を伝えようとする。

しかし

 

 

「───シロ?」

 

 

妹の姿はそこにはなかった。

 

 

「あれ…?」

 

「シロ、は…?」

 

 

困惑するイリヤと美遊

すると

 

 

「あ!いた!!

おーい!!イリヤー!!ミユー!!」

 

「お前ら足速いんだから手加減しろよー!!」

 

「妖怪の仕業じゃー!!」

 

「それはもういいから…」

 

 

雀花達四人が石橋へとやってくる。

 

 

「スズカ!シロは?そこにいない?」

 

「あん?シロ?どこにもいねーけど…?」

 

 

イリヤと美遊は顔を見合せ

そして

 

 

……

………

 

 

遊園地内

人気のなくなったアトラクションが建ち並ぶ通りを

シロエは歩く。

その歩みはとても重く、顔は俯いている。

 

ブルル…ブルル…

 

ポケットの携帯電話が震える。

姉からの電話である。

しかし

シロエは一切反応せずにそのまま闇雲に

 

 

「どこに行くのかしら?」

 

 

歩き続けようとしたが

背後から声を掛けられその足を止める。

その声の主はクロエである。

しかし

 

 

「…」

 

 

シロエは振り向かない。

無論クロエだと気づいているにも関わらず

無言の妹にクロエは溜め息を吐いた後

 

 

「イリヤ達。お礼を言いたかったと思うわよ?」

 

「…大したことしてない。場所の特定はわたしがいなくてもミユなら冷静になりさえすれば気づけた」

 

「そんなのもしもの話でしょ。実際にあの場所に導いたのはあなたよ」

 

「…」

 

 

シロエは暫し無言になった後

 

 

「……求められた目的は達した。

今は…スズカ達のところに戻っているだけ」

 

「ふーん…ところで」

 

 

クロエは目を細めながら

妹の背へと話し続ける。

 

 

「スズカ達、今はもうイリヤ達のところにいるわ」

 

 

雀花達がイリヤ達のところにいることを知らなかったのか

言葉に詰まるシロエ

 

 

「…………道に、迷っただけ」

 

「そう、じゃあ戻りましょうか。()()()()

 

 

クロエは妹の苦しすぎる言い訳を無視すると

妹へと近づき手を取る。

絶対にどこにも行かせない。

そう言いたげに

 

 

「…」

 

 

シロエは手を握られた際

一瞬ビクリと身体を震わせるが

それ以上抵抗せず

クロエに連れられイリヤ達の下へと戻るのであった。

 

 

 

……

………

 

 

シロエ達がイリヤ達の下へと戻ると

真っ先に

 

 

「「シロ!!!」」

 

 

急に姿が消えて

これ以上ないくらいに心配していたイリヤと美遊が真っ先に近づいた。

そして

クロエから

 

 

「迷子になってたみたいだったから連れてきたわ」

 

 

という言葉に心の奥底ではいまいち納得できないものの

それを呑み込み

安堵とともにブレスレットの件でシロエへとお礼を伝えた。

その後はおみやげ屋を大急ぎで回り

 

日は完全に沈み

遊園地のゲート前

 

 

「ごめーん!」

 

「あ!ママー!!」

 

「やっと来たー!」

 

 

アイリが謝りながら

ゲート前にいる子供達へと近づく。

 

 

「はぁ…ドレスを取っ替え引っ替え何十着も…。

本当にごめんなさい!!」

 

「いやいや!気にしないでください!」

 

「いい写真が取れたんならそれをパパさんに送ってあげればいいですよ!」

 

「あと、わたしにも…」

 

 

あくまで写真を要求し続ける美々

 

 

「ありがとう。そういえば引率してくれたっていう先生は?」

 

「あそこ」

 

 

クロエが

ゲートの柱の前にて

白衣のポケットに手を突っ込み

柱へと寄りかかっているカレン先生へと目を向け

 

 

「…!」

 

 

アイリはその姿を確認すると目を細める。

 

 

「イリヤちゃん。さっきのおみやげコーナーでなに買った?」

 

「えーとねー」

 

 

子供達がおみやげの話で盛り上がってる中

アイリがカレン先生へと近づく。

 

 

「子供達がお世話になりました」

 

「ええ。本当に世話を焼かせてくれました」

 

 

アイリは笑顔で話しかけるが

カレン先生はいつもの通り淡々と毒を吐く。

 

 

「とても面倒でした」

 

「それほど面倒でしたら断ってくれてもよかったのですけれど……どうしてわざわざ?」

 

「偶然と成り行きです」

 

「それ以外の意味がありましたら遠慮なくどうぞ」

 

「ありません」

 

 

重たい雰囲気が

アイリとカレン先生の周りにて漂う。

 

 

「…役目は終わったようですので、これで」

 

「そうですか」

 

 

カレン先生はアイリの突き刺さる視線を無視し

その場を後にする。

 

 

「?…まあいっか」

 

「これも買ったの!可愛いでしょー?」

 

「同じの持ってなかった…?」

 

 

クロエがアイリとカレン先生のやり取りに訝しむ一方で

美遊がイリヤの部屋にあったライオン号くんのぬいぐるみを思い出しながら

イリヤの持つぬいぐるみに訝しむ。

 

 

「ウチのと微妙にバージョンが違うんだよー!」

 

「俺も母ちゃんにライオンマスク買ったぜー!ガオー!!」

 

 

龍子がマスコットではないリアルすぎるライオンマスクを被りながら話す。

 

 

「じゃあ私達も帰りましょうか。

今日は一日みんな遊園地を楽しめたかしら?」

 

「「「「はーい!!!」」」」

 

 

アイリの号令に

子供達が元気に返事をする。

 

 

「─────」

 

 

ただ一人を除いて

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

アイリ達から別れたカレン先生は

遊園地駐車場の自身の赤色の車へと近づく。

そこには

 

 

「いつまでそれを着ているつもり?」

 

 

左腕にギブスをはめたライオン号くんがいた。

ライオン号くんは徐に着ぐるみの頭を外す。

すると

 

 

「どういうつもりですか?」

 

 

不満げなバゼットが着ぐるみの中より現れた。

そんなバゼットにカレン先生は薄く笑みを浮かべ

 

 

「執行者がそんな姿で子供達の相手をしていたのよ?

記念に写真の一枚でも撮っておかなくてはもったいないわ」

 

「やらせたのは貴女でしょう?」

 

「他に稼ぐ手段があるのならいくらでも

ウチへの寄付…お布施はびた一文負けないけれど」

 

「はぁ…。それにあの子達がいたのは?」

 

「同じことね。

偶然と成り行き、それだけよ」

 

 

バゼットはまだまだ不満はあるようであったが

これ以上問いただしたとしてもこの修道女が反省することは絶対にないだろう、と口を閉じる。

 

 

「…その左腕、そろそろ完治するんじゃなかったかしら?」

 

「ええ。とはいえ完治したところで仕掛ける気はありませんが」

 

「あら、随分と弱気なことね。

それは上の方針?

それとも…そんなにあの子のことが怖い?」

 

 

バゼットは苦虫を噛み潰したような顔をすると

 

 

「…別に怖がってなどいません。

八枚目がある以上、回収するまで手を出すのは得策ではないと判断しただけのことです」

 

「そう」

 

 

カレン先生は素っ気なく答えると運転席へと乗り込む。

 

 

「もうバイトは終わりでしょ?

サービスよ。街まで送るわ」

 

 

その友人からの言葉に

バゼットも車の助手席へと乗り込む。

着ぐるみを身に纏ったまま、頭を膝の上に載せ

 

 

「…それ、着たまま帰っていいの?」

 

「雇い主に境遇を話したら持ち帰っていいと言ってくれました」

 

「もらってどう使うのかしら」

 

「ふっ…。わからないのですか?これは」

 

 

バゼットは先のお返しとばかりに勝ち誇ったように笑い

そして

 

 

 

 

 

「寝袋の代わりに使えるのです!!!」

 

 

 

 

 

……………。

特に意味のない沈黙が車内を包む。

 

 

「そう」

 

 

沈黙の後

短く答えたカレン先生は

車を出すのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

場所は戻り

イリヤ達はバス乗り場を目指し

駐車場内を移動している。

そんな時だった。

 

 

(………あら)

 

 

集団の最後尾にて子供達を見守っているアイリが

自身の前方にいるシロエのワンピースの肩紐がまたしてもずり落ちていることに気づく。

 

 

(あらあら…)

 

 

遊園地に入ったばかりの時の

イリヤとシロエのやり取りをアイリは思い出す。

あの時とは違いイリヤ達は集団の前の方にいるため気づく様子はない。

アイリは微笑みを浮かべながらシロエの肩紐へと

シロエの背後から手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乾いた音が鳴り響く。

シロエが

アイリの伸ばした手を

振り向き様、払いのけた。

 

 

「────」

 

「───────あ」

 

 

アイリの笑顔が固まり

シロエが間の抜けた声を出す。

 

 

「ん、え?どうしたの?なにがあったの?」

 

 

集団の最後尾での出来事であったため

他の誰もが目にすることはなかった。

もしも

もしもイリヤ達が先の様子を目にしていたのであれば

いやでも思い出しただろう。

バゼット戦

シロエがイリヤを突き飛ばした

あの決定的な場面を

とはいえ

場の空気が明らかに変わったことに

イリヤ達は気づく。

 

 

「ち、ちが……ご、ごめんなさい()()()

わたし…………ぁ」

 

 

シロエの動揺しながら発した言葉に

アイリは哀しそうに目を伏せる。

 

『ママ』ではなく『アイリ』

それはまるで

心の中では

シロエがアイリを母親だと認めていないかのようで

 

シロエは動揺のあまり失言を重ねてしまい

無言となり俯いてしまう。

 

 

「…イリヤちゃん」

 

「う、うん…」

 

「悪いんだけどみんなと先にバス乗り場に行っててくれるかしら?

私はシロちゃんと少し話をしてから行くから」

 

「で…でも…」

 

「大丈夫だから…ね?」

 

 

アイリは娘を安心させるように笑顔で言う。

すると

 

 

「……………うん」

 

 

イリヤは逡巡した後

母親に妹を任せることを決める。

イリヤ達はバス乗り場へと向かった。

そして

この場にはアイリとシロエのみ

アイリは膝を曲げ、娘と視線の高さを合わせる。

娘を安心させるために

 

 

「シロちゃん……。

やっぱり私が途中ではぐれて抜けたのがいやだった?」

 

 

シロエはなにも言わない。

 

 

「あの先生からなにか言われた?

それとも……」

 

 

俯いたままである。

 

 

「セラがシロちゃんのことを調べるためにアインツベルン城に行ったことが負担だったの?」

 

「!!」

 

 

シロエの身体がビクリと震える。

そんな娘の様子に

アイリは

娘のずれ落ちたワンピースの肩紐を優しく直しながら

言葉を紡ぐ。

 

 

「…ごめんなさい。

最近のシロちゃんの様子から今調べに行くのはあまり良くないというのはわかってたわ。

でもね」

 

 

俯いているシロエへと

優しく語りかける。

 

 

「セラの気持ちもわかってあげて。

セラは家族として知っておくべきだと思って

シロちゃんのことを調べに」

 

「───がう」

 

「?シロちゃ」

 

「違う!!!!!」

 

 

シロエの突然の叫びに

アイリの言葉が途切れる。

 

 

「違う…ってなにが…」

 

「………最初に」

 

「?」

 

「最初に孤児院で…わたしと出会った時のことを覚えてる?」

 

「…ええ。もちろん」

 

 

忘れるはずがない。

自身に面影のある子供がいると聞かされ

待合室にてシロエを初めて見た時の驚愕を

それくらいにアイリにとっては印象深い出来事だった。

シロエはその会話内容へと触れる。

 

 

「いろいろな話をしたよね。

趣味とか好きな食べ物とかそして──」

 

 

そして、とうとう

 

 

「アインツベルンって知ってる?って」

 

 

シロエの中から溢れ出した。

 

 

「あれは…あの質問は

わたしがアインツベルンの残党かどうか

アイリ達に害のある存在かを

探るための質問だった」

 

「…」

 

「その後、わたしを引き取ることを決めたのは

わたしが妙な行動をしないか手元に置いて監視しやすくするため

そして

万が一、自分達にとって都合の悪い存在だった時に処分しやすくするためだった」

 

「…シロちゃん」

 

「約二ヶ月前

お姉ちゃんが玄関前に倒れてて

その後、塞ぎこんだ時」

 

 

それは

 

 

「セラが真っ先にわたしの部屋を確かめたのは

わたしがお姉ちゃんになにかしたんじゃないかって

疑ったからなんじゃないの?」

 

「違う。違うわシロちゃん。私達はシロちゃんを心配して」

 

「嘘。少なくともセラはわたしのことをずっと警戒していた。

初めて家に来てわたしの容姿を確認した時

健康診断後、さらに詳しく調査してわたしの身体について知った時

そして…ルヴィアさんの屋敷前でわたしがセラに威圧した時

毎回毎回、わたしの情報が出る度にセラは警戒を強めた。

……気づいていないとでも思ったの?」

 

 

約六年という長きに渡り

 

 

「あなたたちがわたしを警戒していたように

わたしもあなたたちを警戒していた。

だからこそ

クロとの戦いの最中、アイリからの不意打ちにだってわたしだけ防ぐことができた」

 

 

溜め込んできたものであった。

 

 

「前も言った通り、わたしを調べること自体は別に構わない。

でもね

こうやって…お互いに

探り合って、警戒しあって

これが『家族』の姿なの?

わたしは…」

 

「シロ。やめなさい」

 

 

シロエがなにを言いたいのか

理解したアイリは笑みを消して険しい顔で

シロエへと警告する。

クロエと戦っていた時のシロエを諌めた時と同じように

しかし

 

 

「わたしは…あなたたちの『家族』じゃない」

 

「シロッッ!!!!!」

 

 

アイリにとって『家族』は

なににおいても優先される

なによりも大切なものである。

だからこそ

シロエの言葉をなんとしても撤回させなければならない。

たとえシロエがどんな状態であったとしても

そんなものは関係ない。

 

アイリは

言ってはいけない一言を口にしてしまったシロエに

怒気を放つ。

そしてその怒気から

アイリが『家族』をいかに大切にしているかが

シロエへと痛いほどに伝わる。

それを理解したシロエは

 

 

「…」

 

 

どこまでも冷めた目で

怒気を放つアイリを見ていた。

 

 

「………やっぱり、違う」

 

「まだ、そんなことを…!!」

 

 

自らの怒気に全く怯むことなく

言葉を紡ぐシロエに

アイリの威圧感が増していく。

しかし

 

 

「あなたは…()()()じゃない」

 

 

アイリの動きがピタリと止まる。

母親であることを否定されたから…ではない。

 

 

(()()()…?)

 

 

それは一度たりとも呼ばれたこともなければ

呼ぶように教えたこともない呼び方だった。

 

 

「お母様はわたしを愛してくれていた。大切だった。

けれど、なによりも大切というわけじゃなかった。

だって………

お母様はわたしよりも、聖杯戦争を…キリツグの理想を叶えることを選んだのだから」

 

 

その言葉に

アイリは驚愕し

目が大きく見開かれる。

 

キリツグの理想

 

それは

約11年前

悩みに悩んだ

もう一つの選択肢だったからだ。

 

 

「あなたたちと出会わなければよかった」

 

 

アイリが驚愕している間にも

 

 

「あなたたちと出会わなければ

お母様にそんな選択肢があったことも

キリツグが理想を捨てることができたということも

知ることなんてなかったのに

そんなこと……知りたくなかった」

 

 

シロエは溢れ出てくるものを止めることができない。

 

 

「もう、これ以上…その顔、その声、その姿で

わたしに構わないで!!!!!」

 

 

シロエの叫びに

貫かれたアイリは

 

 

「シロ……いえ…あなた、は……」

 

 

確証なんてものはない。

冷静に考えるのなら

今のシロエの叫びは

ただの妄言の類いである、と

そう捉えるのが普通であろう。

しかし

 

 

「イリヤ…………なの?」

 

 

アイリには

そんな風にはとても思えなかった。

今のシロエの叫びに

中身が伴っていないとはとても

そして

あり得ないと頭では理解していながらも

目の前で俯いている少女は

間違いなく私の娘であると

イリヤであると

アイリは感じた。

 

 

……………。

 

 

静寂が訪れる。

シロエの激しい息遣いだけが

この場に響く。

そんな時だった。

 

 

「マ……ママ…?シロ…?」

 

 

ビクビクした声がこの場に響く。

そちらへとアイリが視線を向けてみると

 

 

「イリヤちゃん…?」

 

「ご…ごめんなさい。けど、その…わたし…不安で…」

 

 

イリヤはビクビクしながら

アイリに話しかける。

それもそのはず

アイリがあそこまで声を荒げ、怒った姿を

遠目とはいえイリヤは初めて目撃してしまったからだ。

そして不安に駆られ、イリヤは一人引き返したのである。

このままでは本当に、妹が家から出ていくかもしれない。

そう思ったからだ。

見ると100メートルくらい先に他の子供達が心配そうにこちらを見ている。

…見たところ近づいてきたイリヤも含め、会話の内容までは聞かれていないようであった。

 

 

「………なんでもないよ、お姉ちゃん。

話は終わった」

 

 

アイリが目を離した隙に

シロエは先までの激情が嘘だったかのように

無表情へと戻り

バス乗り場へと歩き出す。

 

 

「………シロちゃん。帰ったら話をしましょう。

話はまだ終わって」

 

「いいえ、終わりよ。

そう。全ては終わったこと」

 

 

シロエは振り向き

アイリを見る。

しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうなにも、話すことはない。

アイリスフィール・フォン・アインツベルン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは

決別の言葉

シロのママを見る目は

とても『家族』に向けるようなものではなく

路端に落ちている石でも見るかのように

無機質で

なんの感情もなかった。

そして

 

 

この日から

シロがママ達と会話することは

一切なくなった。

 

 

 




タノシイユウエンチカイダッタナ-。

FGOのボックスイベントを周回するため、次の話はしばらく先になります。





シロエ「って、またなの?」

作者「苦情は今回のイベントの主催者に言ってください」

シロエ「き、汚い…。言えるわけないのに…」

※イベント名『風雲からくりイリヤ城』
 主催者:シトナイ

シロエ「しかも参加者はお姉ちゃん達だし」

作者「尚、カルデアに召喚された後の話かつFGO原作とは完全に別の世界線のためシトナイ(イリヤ)からイリヤ達(プリヤ)に対する反応が本小説とは違ってもご留意ください」

シロエ「露骨なまでの予防線を…。
…わたしの場合、『トケ』も混じってるから『イリヤ』よりも精神年齢が幼くなってるのは確かだけど」

作者「っていうか、今のところキミだけ話に出てきてないねー。いつものことだけど」

シロエ「…それはもしかしなくても喧嘩売ってる?」

作者「あ、でもコマンドコード(雪の嬰児の戦友)でちょびっと出てたね」

シロエ「こっちだと弟ではないけどね」

※コマンドコード詳細情報より
ともすると、自分より身体が大きな、
弟のような存在なのかもしれない。

作者「いずれにしても影が薄」

シロエ「うん、殺しちゃおう(ジャック風)」


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