──イベント(風雲からくりイリヤ城)終了後──
シトナイ「うーんっ!久しぶりのイベント出演、楽しかった!
バーサーカーとも遊べたし!」
シロエ「…」
シトナイ「?どうしたの?シロエ」
シロエ「………ない」
シトナイ「?」
シロエ「出番がない出番がない出番がない出番がない出番がない出番が出番が出番が出番が出番が出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番」
シトナイ「シ、シロエ?」
シロエ「会話パートはもちろんのこと、まさかの戦闘パートでもハブられた…。
わたし、宝具なのに。宝具なのになのになのになのになのになのになのになのになのに」
シトナイ「…あー、もうっ!拗ねないの!!
ほったらかしにしたのは悪かったけど、わたしだってバーサーカーと久しぶりに遊びたかったんだから!!」
シロエ「…わたしよりもバーサーCARの方が乗り心地が良かったんですね。そうですか」
シトナイ「そんなこと一言も言ってないでしょ!?
…はぁ、仕方ないわね。なんでも一つお願いを聞いてあげるから機嫌を直しなさい」
シロエ「………ください」
シトナイ「ん?なに?」
シロエ「わたしも………バーサーCARに乗せてください」
シトナイ(あ、羨ましかったんだ)
「…はい!出来上がりです!」
衛宮邸
セラがイリヤの浴衣の帯をポン、と叩く。
「わー!ありがとう!セラ!」
イリヤが自身が身に纏っている
薄いピンク色を基調とした花柄の浴衣を見ながら
セラに嬉しそうにお礼を言う。
「セラって着付けも出来たのね」
クロエが同じく身に纏っている
紺色を基調とした花柄の浴衣を見ながら
セラに意外そうに言う。
イリヤとクロエの二人は
セラに浴衣の着付けをしてもらっていたのである。
これから夏祭りへと行くために
「もちろんです!メイドとして当然のスキルですから」
「嘘」
セラが得意気に胸を張っていたところに
リズがあっさりと暴露する。
「夕べ、慌てて調べてた」
「あれは!念のため確認していただけで!」
「昨日帰ってきたばかりで疲れてたでしょうに
ごめんなさいねセラ」
「奥様!?違いますからね!?」
リズの報告をあっさりと信じたアイリへと弁明をしようとするセラ
苦笑いするイリヤとクロエ
そんな中
クロエが壁に掛けられた時計を見る。
「そろそろ出ないと集合時間に間に合わなくなるわよ?」
「あっ!?ほ、ほんとだ!?」
イリヤが慌ててクロエと共にリビングを出て玄関へと向かおうとする。
そこに
「…イリヤちゃん」
「ん?ママ?」
アイリがイリヤを呼び止める。
その顔はいつもの笑顔が少し曇っている。
そして
「シロちゃんのこと……お願いね」
シロエ
この場にいない衛宮家の末っ子の名前が出てきたリビングには
先までの楽しげな空気が消え、重い沈黙が漂う。
あの日
遊園地から帰ってきてからシロは
家にいることがほとんどなくなった。
朝、誰も起きていないほどの早い時間には家を出て
夜、わたしたちが寝るために自分の部屋に行こうとするような遅い時間に帰ってくる。
ママやリズお姉ちゃんがどういうつもりかと尋ねようとしても
返事を返さないどころか視線すら合わせずに
完全に無視して自分の部屋に入る。
ママとリズお姉ちゃんがそれを追ってシロの部屋に入ろうとしても
『あ、開かない…?』
シロの部屋のドアは開かなかった。
ドアノブが凍りついたように回らなかった。
鍵なんてついていないのに
しかも
激しくノックしても音がまるでしない。
廊下側でした音が部屋の中には届かずに全て殺されているかのように
そして
結局ママ達がシロと話す機会は一切なかった。
シロが与えなかった。
でも、そんな中
わたしやクロ、お兄ちゃんに対しては
いつもと変わらず無表情で話をしてくれている。
部屋にも入れてくれる。
けれどママ達が近くにいる時は入れてくれない。
…どうやって判別しているのかはわからないけど
それでなんでこんなに遅いのか聞いてみると
『……メイドの研修と先生の呼び出しが最近忙しくなってるから』
ってシロは言ってたけど
わたしにはママ達のことを避けているようにしか見えなかった。
しかもクロの時とは違う。
気まずい様子ではなく完全に拒絶しているようだった。
そして最後に
一番問題のママ達への態度について
お兄ちゃんとクロが問い詰めたんだけど
『……………軽蔑してくれて構わない』
しばらくの沈黙の後
シロは哀しいことを言い始める。
『気に入らないのならわたしのことはいないものとして扱ってくれていい。
要望があったなら出ていくつもりもある。
………もう元には、戻れない』
その後は完全に無言になり
ママ達の話題についてはなにも反応しなくなった。
わたしたちがそんなことはないって
もう一度ちゃんとママ達と話してって
どんなに言っても眉一つ動かさない。
正直どうすればいいのかわからなかった。
そもそもの原因だと思う
あの遊園地の帰りに
いったいママとなにを話したのか
それすらもわたしたちにはわからない。
そして今も
シロはこの家にはいない。
ルヴィアさんのところから直接向かうことになっている。
こんな状態だから
シロは夏祭りには行かないかもしれない。
そう不安に思ってたんだけど
『わたし…交わした約束は守るから。絶対に』
……………。
確かにシロは昔から
ふざけてすぐにバレるような簡単な嘘をついたりすることはよくあったけど
一度した約束は破らずに必ず守ってくれていた。
でも
そう宣言したシロの表情は
大切な約束を破られたことがあるかのような
そんな寂しげな表情をしていた。
わたしはここ最近のシロの様子を思い返しながら
「…うん。任せて、ママ」
ママに心配させないように返事をする。
だって誓ったから
あの運動会の前日に
シロがどんな行動を取ったとしても
絶対に見捨てないって───
イリヤはそう心の中で
誓いで自身を奮い立たせ
クロエと共に衛宮邸を後にした。
ーーーーーーーーーー
「……申し訳ありません。奥様」
イリヤ達を見送った後
セラが沈痛な表情でアイリに謝罪を行う。
昨日、ドイツから家へと戻ってきたセラは
家の中の雰囲気、そしてシロエの様子にすぐに気づき
アイリからなにがあったのか聞き出し
愕然とした。
シロエの調査とそしてほんの僅かな疑念
全てがシロエには筒抜けであり
それらの行動が今の状況を作り出してしまったのだと
しかし
「イリヤさんと同じように
家族としてシロさんと接するように奥様から言われていたにも関わらずわたしは…」
「いえ、セラの所為ではないわ」
アイリはその謝罪を受け取らない。
「責任があるとするなら…それは私。
セラの反対を押しきってあの子を受け入れた私のね…」
「奥様…」
アイリと切嗣がシロエを受け入れることを決めた
約六年前のあの日
自宅にてアイリはイリヤの面倒を見てくれているセラとリズにもその旨を通達
その結果
リズはすぐに了解したがセラは反対したのである。
そしてそれは当然であった。
話を聞く限りその子供は明らかになにかを隠している。
それもアインツベルン本家に深く関わるなにかを
しかもそれがなんなのか理解していないまま受け入れようというのである。
セラにはイリヤの身の回りの世話をする責務がある。
イリヤの身の安全を考えるのであればセラが反対するのは当然であった。
しかしアイリはセラにその反対を呑み込ませ、シロエを引き取ったのである。
アイリの決定に渋々引き下がったセラは
引き取った当初こそ確かに警戒していたが
シロエに敵意がないことがわかると
警戒を解いたつもりだった。
しかし
未だに明かさないシロエの隠し事
そして、アインツベルン本家の…魔術師の一般的な感性
それらからどうしても嫌な想像ばかりが頭を過ってしまい
さらに
シロエ自身を調べていくうちに次から次へと出てくるアインツベルン本家の情報
それが出てくる度にセラはシロエを無意識のうちに目で追ってしまっていたのもまた事実であり
イリヤと士郎のように普通の子供として見て、裏表なく完全に信用していたとは言いきることはできなかった。
セラはそれがわかっているため今の状況に責任を感じてしまっているのであった。
そんな中
アイリはシロエのあの激情を思い返す。
『あなたは…お母様じゃない』
『あなたたちと出会わなければよかった』
『もう、これ以上…その顔、その声、その姿で
わたしに構わないで!!!!!』
あの時の
シロエのことをイリヤだと感じた
シロエの激情については
アイリはまだセラにも教えてはいなかった。
(…もしかしたらあの子は、ずっと傷ついていたのかもしれない。
あの子の優しさに…強さに、甘えてしまった)
アイリは溜め息を一つ吐くと
「とにかくこれからもシロちゃんには声を掛けていくようにしましょう。
たとえシロちゃんが反応してくれなくても…ね」
「………はい」
無論、それだけでは状況は良くならないだろう。
しかし
(諦めたりは絶対にしない。
けれど…あの子は私達に対して心を完全に閉ざしてしまった。
そして
今一番心を許してるのはやっぱり…)
諦めてしまえば
本当に家族だと言えなくなってしまう。
「イリヤちゃん…」
アイリはやるせなさに憂鬱になるのであった。
ーーーーーーーーーー
「ほらほら、さっさとなさい遠坂凛」
場所は変わり
ルヴィア達が滞在しているホテル
「ったく、偉そうに…」
その一室にて
メイド服の凛が
ルヴィアに浴衣の着付けを行っていた。
「まったく…和服の時だけは、貴女のような寸胴体型が羨ましいですわ」
ごく当然のように放たれるルヴィアからの罵倒に
凛の頭部に青筋が浮かぶ。
「いっそのこと、貴女は常に和服でいるのがいいのではなくて?」
「……ねえ、ルヴィア?」
凛は怒りを覚らせないように
喜色をはらんだ声でルヴィアに声を掛け
「なんですの?」
「浴衣って…着る時は中に下着を着けないルールがあるの、知ってる?」
出鱈目な知識をルヴィアへと埋め込む。
「ええ?そんなルールが?」
「ほら、浴衣って日本伝統のパジャマでしょ?
だから基本的には下着を着けないものなのよ」
ルヴィアには日本の文化に対する知識はあまりない。
だからこそ凛に対して着付けを頼んだのだ。
故に
「なるほど…たまには遠坂凛のチンパンジー並みの頭も役に立つんですのね」
凛の言うことをあっさりと真に受けてしまう。
ルヴィアはその大きいサイズの下着を外し
凛へと投げ渡す。
「いえいえ、それほどでもー」
凛はその下着を喜色満面の笑みで受け取るのであった。
ーーーーーーーーーー
一方でホテルの別室では
「…シロ」
深い青色を基調とした花柄の浴衣を着た美遊が
シロエに浴衣の着付けを行っていた。
白にほとんど近い薄い水色を基調とした花柄の浴衣である。
「?なに?ミユ」
「その…やっぱり、着付けをするなら家の人にしてもらった方がいいんじゃ…」
言いづらそうにしながらも
なんとかシロエに意見する美遊
「……ごめんね。やっぱりわたしの着付けまでやるの、嫌だった…?」
「あ、ううん!別に嫌っていうわけじゃないの。
シロのためならわたしはなんでもできる。
でも、ね…」
大切な友達のためならこれくらいのことなどいくらでもできる。
それは美遊のまぎれもない本心である。
しかし
「やっぱり、その…家の人に頼った方がいいと思う。
最近少しこっちにいる時間が増えてきているから…」
遊園地から帰ってから
シロエはホテルにてルヴィアの身の回りの世話をする時間が圧倒的に増えてきていた。
無論、ルヴィアの指示などではなくシロエが自主的に残り仕事をこなしていた。
確かにその結果、掃除やお茶汲み、料理のスキルが格段に上昇した。
しかし
ある日、イリヤから美遊はシロエの研修中の様子について聞かれ
研修時間は増えたものの、それ以外は特に変わったところはない。
と答えたのだが
イリヤの暗い表情に美遊はどうしたのかと聞き
シロエの家での様子を知ったのだ。
そして今、このような提案をしているのであった。
「……わたしがホテルに残っているのはエーデルフェルト邸の再建がもうすぐ終わるから。
再建が終われば本格的に働き始めることになる。
それにそれとほとんど同時にトンネルの工事も終了する」
つまりは
エーデルフェルト邸の再建が完了と同時に作戦を練り
そして八枚目のカードの回収に動くのである。
「これから忙しくなる。ミユだってわかってるでしょ?」
「そう、かも…しれないけど…。でもそれは…」
シロの言ってることは理解できる。
けれど…
「家にいる時間を…『家族』と一緒にいる時間を減らしていい理由にはならないと思う」
『家族』
その単語を聞いたシロエの身体は
一瞬ピクリと震える。
「イリヤからシロの…家での様子について聞いた。
シロがこっちにいるのは再建が近いってだけじゃない。
シロはアイリスフィールさん達を」
「わたしに『家族』なんていない」
「…………え?」
シロエの爆弾発言に
美遊の説得が止まる。
「前にも少し話したと思うけど…。
わたしは元々孤児院にいて
お兄ちゃんが引き取られる際に、偶々目に止まって
そのまま念のためお兄ちゃんのついでに引き取られただけ」
(念のため…?)
奇妙な言い回しに訝しむ美遊だが
それを説明せずにシロエは続ける。
「ただ、それだけ。
血の繋がりもなければ引き取られる予定も本来はなかった。
ただ目に止まって、引き取られた。
だからわたしは…あの人達の『家族』じゃない」
「それは…イリヤや士郎さんもそうなの?」
美遊の切り返しに
シロエは痛いところを突かれたのか
無言になる。
そして
「………お姉ちゃんとお兄ちゃんに関しては
正直どうなのか自分でもわからない」
「………あのね、シロ」
イリヤと士郎に対しても
『家族』ではない。
と断言しなかったとはいえ
迷っている様子のシロエに
美遊は複雑な気持ちになりつつシロエに説得を続ける。
「わたしにも…兄がいる」
「うん。前も話してたね。父と兄と三人で暮らしてたって」
「うん…。でもね…わたしも兄とは血は繋がってないの」
「…」
美遊の衝撃的なカミングアウトにも関わらず
シロエは無言であり、大きな反応はしない。
「わたしは兄とは…お兄ちゃんとは血は繋がってない。
でもね…わたしは胸を張って言える。
お兄ちゃんは大切な『家族』だって」
「…」
「血の繋がりなんて関係ない。
当人達が心から認め合えばきっと…ううん。絶対に『家族』になることはできる。
それこそ周囲がなにを言ったとしても。
だからシロだって絶対に」
「ミユは」
自分にもできたのだから
シロエにだって絶対にできるはずだという
美遊の説得を遮りシロエは問いかける。
しかしその問いは
「ミユは……キリツグのことをどう思ってるの?」
「─────え?」
切嗣さんの……こと?
わたしに…こっちの世界の切嗣さんとは面識はないのに?
それとも………まさか
まるで
こちらの事情を全て見透かしているかのような
そんな問いに
内心で狼狽える美遊
しかし
(でも…シロのこの目は)
見るとシロは
本当に、どうすればいいのかわからず
まるで迷っている子供のような…そんな表情をしている。
答えを求めるかのように…正しい道を探し出すためにわたしに聞いてきたかのような
でも………わたしは
「………ごめん。切嗣さんとは会ったことがないからわからない」
「………そっか」
シロエの求めている答えではない。
それが心の奥底ではわかっていながらも美遊は
差し障りのない答えを提出してしまった。
その事実に
美遊のシロエへの説得は完全に停止する。
(シロ……。ごめん……)
美遊の心中が罪悪感と自己嫌悪でいっぱいになり
シロエの浴衣の着付けを止めてしまい、目を伏せる。
そんな美遊に対してシロエは
「…ミユ、おかしなことを聞いてごめん。
今の質問は忘れて」
「シロ…」
美遊が伏せていた目を上げると
思考が止まる。
「………なに、やってるの?シロ」
「?なにって……」
何故なら、そこには
「……下着を脱いでる」
下着を脱いでいるシロエの姿がそこにはあった。
子供らしく可愛らしい純白の下着がシロエの足首へと下ろされていた。
つまり今はなにも履いていない状態である。
「………なんで?」
「なんでって…浴衣は日本の寝巻だから下着を着けるのはマナー違反だって」
「………」
その後
美遊は全力でシロエの間違った知識を是正。
シロエに下着を身につけさせた。
ーーーーーーーーーー
場所は変わり
冬木市の公園
「…」
スーツ姿の女性…バゼットが
ベンチに腰掛け
左手は握って開いてを繰り返し
ゴキゴキ、と以前のように関節を鳴らし
左手の調子を確かめる。
そして
「…左腕の治療の完了を確認。
戦闘行動の支障、特になし」
機械的になんの問題もないことを確認すると
「では…これより」
ガタッと勢いよくベンチから立ち上がると
「本日の
平常運転でバイトへと向かうのであった。
「…」
「?シロ、どうかした?」
「…ううん。なんでもない」
「?」
そんな凡そ封印指定執行者とは掛け離れた姿を
公園の入口から見てしまったシロエは
見なかったことにし
美遊と一緒に公園をそのままスルーする。
二人は浴衣を着ており、イリヤ達と合流すべく夏祭り会場へと向かっていた。
「それよりも、ミユ」
「?なにシロ?」
「念のために少し寄り道したい」
「?」
その後、美遊はシロエと一緒に寄り道し
シロエはある物を購入。
なんのために…?
シロエが購入したものに訝しむものの
シロエに言われ美遊はそれが入った小さなビニール袋を受け取った後、懐へと入れ
夏祭り会場である河川敷へと向かった。
ーーーーーーーーーー
夏祭りの会場である河川敷へと時間通りに集合した
イリヤ、クロエ、美遊、シロエと
雀花、那奈亀、美々
尚、七人は全員浴衣を着ている。
七人はそのまま川沿いに屋台が立ち並んでいる
通りを歩き始める。
「へー!いい雰囲気ね!!」
辺りを見回しながらクロエを歓声を上げる。
「この辺りでは結構有名なお祭りなんだよー」
「他の町の人も見に来るっぽいし」
「夜には花火大会もあるしな」
雀花達三人は
先日の遊園地の一件から
シロエは母親と現在喧嘩中である。
という結論に達していた。
さらに
両親のことを話題にさえ出さなければシロエはいつもと変わらない態度を取っていたため
シロエの前では両親…アイリや切嗣のことを話題に出すのは止めよう。
ということとなっていた。
「………楽しみだねー!」
そんな雀花達の気遣いに複雑な想いを抱きつつも
イリヤはそれを表に出さず
祭りを楽しもうとする。
そんな中
「…」
美遊が困惑した表情で
あちこちの屋台に視線を巡らせていた。
その様子にイリヤが美遊へと話しかけるべく立ち止まり
美遊とその隣にいたシロエもイリヤの様子に立ち止まる。
「ミユ?」
「なに?イリヤ」
「いつも見ないようなお店ばっかりで戸惑うかもしれないけど
こういうのも楽しいものだよ」
「…そう」
「わからないことがあったらなんでも聞いてね」
「ありがとう」
夏祭りに慣れていなさそうな美遊に
楽しんでもらうべく気にかけるイリヤ
さらに
「…シロも!
今日は普段のその…いろいろな問題は一旦全部忘れて
いっぱいいーっぱい楽しもうね!!」
(楽しむ…)
楽しむ。
その単語にシロエは
約二ヶ月前の運動会でのダンスを思い出す。
あの時もわたしは楽しめたのかな…?
と
さらに
少なくとも先日の遊園地では
途中から全く楽しくはなかった、と
しかし
「シ、シロ…?」
最近の妹の様子から
無言の妹に笑顔がだんだんと曇っていくイリヤ
そんな姉の様子を見たシロエは
(遊園地では……お姉ちゃん達の楽しいという想いすらも
最後には台無しにしちゃった……わたしの所為で)
シロエは長い沈黙の後
……コクン
と頷く。
アイリ達の話題を出した時の
完全な無反応ではなかったため
一先ずは安堵し再び笑顔を浮かべるイリヤ
「じゃあ…さっそく」
美遊は空気を変えるのも兼ねてか
イリヤの気遣いに甘え、質問を行う。
のだが
「あれは…」
美遊が指差した先にあるのは
わたあめの屋台
一個五百円という看板が吊り下げられており
子供連れの客が並んでいる。
「あれはわたあめっていうお菓子でね。
ふわっふわで甘ーい…」
「あれは砂糖を溶かして綿状に加工しただけの単純な食べ物のはず。
原価は砂糖のみでは数円、包装の袋を考慮しても数十円程度。
飲食店の原価率を25%と仮定しても二百円程度が妥当で値段設定が明らかに高すぎる」
イリヤの顔が引きつり、涙目となっていく。
「だというのに何故多くの人がああも購入して」
「待ってぇー!!わたしにはミユの言ってることがわからない!!」
イリヤは美遊の肩を掴み
一旦ストップを掛ける。
「ごめん。簡潔にまとめる」
「うん。お願い」
「あの店は…」
「あの店は…?」
美遊はわたあめの屋台を力強く指差す。
「酷いぼったくりをしている!」
「やっぱり言葉を濁してミユーッ!?」
わたあめの屋台の店主がキツイ目でこちらを睨みつけられ
イリヤは慌てる。
「…ミユ。それは違う」
「違う…?」
「シロ…」
いつもの無表情だが否定の声を上げる妹に
首を傾げる美遊と内心安堵するイリヤ
しかし
「夏祭りの屋台の値段設定は基本的に全部高い。
そして原価のみを考え、比較するなら
ここに並んでる屋台は全てミユの言う通りぼったくりということになってしま」
「シロォーッ!!?」
火に油を注ぐかのようなシロエの発言に
わたあめの店主のみならず批判が聞こえた周囲の屋台の店主全員から睨みつけられる。
「し、失礼しましたー!!」
イリヤはその視線に耐えられず
美遊とシロエの背を押し、その場を急ぎ後にするのであった。
…
……
………
クロエ達四人は屋台の通りから少し離れ
堤防へと上がり
はぐれたイリヤ達を探していた。
そこに
イリヤが猛スピードで美遊とシロエの背を押し、現れる。
「三人共、なにやってたのよ?」
クロエが不満げに尋ねる。
「イリヤとシロに…屋台についての疑問に答えてもらってた」
「疑問って?」
「屋台の原価率と適正価格について」
「な、なんでまたそんなことを…」
「難しいことを考えてたんだね…」
美遊からの疑問に顔を引きつらせるクロエ達
「…でもシロの言う通り。
全ての屋台の値段設定が高すぎる。
あれもそう」
美遊は眼下に並んでいる屋台を見回しながら
水ヨーヨー釣りの屋台を指差す。
一回二百円であり
これも二、三組の客が並んでいる。
「二百円あればあの程度の玩具は1ダース以上作れる。
だというのに消費者はああして並んでいる。
その理由がわからない」
「…さっきは答え損ねたけど
屋台の経営でかかる費用は原価だけじゃない。
設備投資費、人件費、光熱費、そして場所代や組合への支払い。
それらの費用を考慮すると妥当な値段設定だと思う」
「なるほど…。けれどそれでも売買が成立しているのは…?」
「うん。消費者の立場から考えるのなら
別のところで購入もしくは調理ならびに作成した方がいいのは変わらない。
それでも売買が成立している理由については
残念だけど昔からわたしにもわからない」
「???え、えーと…二人の言ってることが全然わからないんだけど…。
二人共、お祭りっていうのはそういう風に考えるものじゃなくて」
美遊とシロエの
屋台の裏側で行われている生々しいお金のやり取りの考察に
ついていけないイリヤが頭に?マークを浮かべながらも二人になんとか話しかけようとした。
その時
「祭りの楽しさは計算なんかじゃ計れないぜ!!!」
「「「「タツコ!?」」」」
赤い法被を身に纏った龍子が現れた。
大人の男性達が担ぐ神輿の上に
仁王立ちしながら
「な、ななな、なにやってるの!?」
危険なことこの上ない龍子の行動に
吃りながらイリヤが注意しようとするが
「よく見とけ!!これが祭りを楽しむ俺の生き様だ…あぁぁーッ!?」
案の定というべきか
龍子はその大きな団扇を振り回し
足を滑らせ神輿から落ちる。
ズドオォン!
思わず目を瞑るイリヤ達
…シロエと美遊は興味がないのか無表情のままである。
「お、おい。顔面から行ったぞ…」
「大丈夫か…?」
心配そうに声を掛ける雀花と那奈亀だが
龍子は顔をパッと上げると
何事もなかったかのように再び神輿へと飛び乗る。
「バカな!?」
「無傷だと!?」
「受け身だけは免許皆伝の俺を嘗めてもらっちゃ困…うわあぁーッ!?」
得意げに団扇を振り回す龍子だが
またしても足を滑らせ落ちる。
が
すぐにまた神輿に飛び乗る。
「タ、タツコちゃん…」
「あははーッ!!祭り祭り、祭りだーッ!!!」
神輿に乗り
イリヤ達を通りすぎる龍子
「タツコちゃん、怪我しなければいいけど…」
「祭りって人を変えるのね…」
「いやー、タッツンのあれは素だと思うよ」
離れていく神輿に乗った龍子を見送る子供達
そんなテンションが最高潮の龍子を
見た美遊の表情が曇り
「……今のが祭りの本来の楽しみ方なら、わたしには上手くやれる自信がない」
「うえっ!?
タ、タツコのは少し上級者向けだから!?」
「でも…」
「……わたしもあんなに楽しめたことはないから
そこまで気にしなくていいと思う」
「そうそう!!」
「…?シロ…」
シロエの励ましの言葉に
そのまま同意するイリヤだが
美遊が気づく。
「シロも祭りを楽しめたことって…ないの?」
「え…?」
「……………」
「う、ううん!タ、タツコみたいな感じで楽しんだことはないって意味だよ!!うん!!」
美遊の切り返しに思わず無言になるシロエ
そんな妹を見てイリヤは慌てて
そういう意味ではないと否定する。
またしても
以前の楽しそうな妹の姿は偽りだったのではないか
とよぎってしまったのである。
無言の妹を尻目にイリヤは
「大丈夫!一般的なお祭りの楽しみ方を教えて上げる!」
「あ………うん」
「シロも行こ!」
「…………うん」
イリヤは美遊とシロエの手を取ると
クロエ達と共に再び眼下に広がる屋台へと向かうのであった。
…
……
………
「よし…。かかった…!」
「那奈亀ちゃん、そーっとね…」
イリヤ達がまずやってきたのは先程目に映ったヨーヨー釣り
那奈亀が水風船にフックを引っ掛け持ち上げる。
しかし
「「あ!?」」
フックがついている紙縒が切れ
水風船は水面へと落下してしまう。
「ぐぐぐ…」
「残念…」
那奈亀は悔しげな表情をし
美々が残念がる。
そして
クロエがどの水風船にするか目移りしている中で
「「…………」」
「お、おい…美遊、シロ。わたし、そろそろ限か…ぐおおお…」
「すっごーい!ミユ、シロ!」
美遊とシロエが無言で片っ端から水風船を連続で釣り上げ
それを雀花が一人で受け止め抱え
結果
雀花の両手には山のように積まれた水風船があった。
それでも際限なしに次から次へと美遊とシロエから水風船が飛んでくるため
呻き声を上げる雀花と歓声を上げるイリヤ
尚、ヨーヨー釣りの店主は顔を引きつらせていた。
次にやってきたのはりんご飴の屋台
「はむっ!…ん~。新食感!」
初めて食べるりんご飴にクロエが笑顔となり
それを隣で見ていた美遊も
「……はむっ!」
と食べ始める。
さらに
「…シロも、食べる?」
「…ありがとミユ」
美遊から差し出されたりんご飴を一口だけかじるシロエ
そんな三人の様子にイリヤ達は笑顔を浮かべた。
りんご飴を食べ終えた後
やってきたのは輪投げの屋台
「ていっ!」
景品の一つである
マジカルブシドーのステッキを目標に投げるイリヤ
「うむむ…」
上手く入らずに輪は手前へと落ちる。
「…わたしが狙ってみる?」
「ううん!大丈夫だよシロ!!
次こそは…!」
妹からの申し出を断り
イリヤがさらに次の輪を投げようとした。
その時
「わっ!!」
「ふえっ!?」
クロエが横からイリヤを驚かす。
イリヤが投げようとした輪はそのまますっぽ抜ける。
「ちょっとクロ!?邪魔しないで!!」
「!お姉ちゃん」
「んえ…?」
「イリヤ、あれ…」
イリヤが目を向けると
すっぽ抜けた輪はステッキへと入っており
クロエ達は楽しそうに笑った。
と、そんなことがあり
イリヤ達はまたしても屋台の通りから少し離れ
人通りの少ない広場へとやってきていた。
雀花達はチョコバナナを購入しに行っており
その帰りを待っているのである。
「どう?ミユ。楽しんでる?」
マジカルブシドーのお面を頭に
両手にステッキを手にし
美遊に尋ねるイリヤ
「悪くない…かも」
お面を頭に水風船を両手で弾きながら
美遊が答える。
「シロも、その…楽しんでるよね?」
「…」
楽しいか、と聞かれたら
正直わからない。
けれど
シロエは祭りでの
イリヤと美遊の
楽しそうに屋台を回る姿を思い返す。
……………。
遊園地の時とは違って
お姉ちゃんとミユの楽しそうな姿を見ていると
胸の奥底が
ぽかぽかと暖かくなっていくのは感じることができた。
だから
「………うん。楽しいと、思う」
屋台を回り始める前のやり取りから不安になっていたイリヤが
妹の返事に安堵する。
「イリヤも楽しそう」
「あはは!もっちろん!」
「それにしてもイリヤも物好きね」
「?」
「それ。本物持ってるくせに今さらそんな玩具でどうするのよ?」
クロエがイリヤの身につけている
マジカルブシドーセットを指差しながら
カレイドステッキという本物を持ってるのにと尋ねる。
「それとこれとは別でしょ!
これでわたしもマジカルブシドームサシ!!」
「…はぁ」
お面を被り玩具のステッキを手にし
ポーズを取るイリヤに
呆れ顔で溜め息を吐くクロエ
と、そこに
「イリヤさんの浮気者ー!!」
「へ?ルビー?」
ルビーがイリヤの髪の中から飛び出し
お面の中へと入りこむ。
「そんなに若い子がいいのですか!?
古いわたしにはもう飽きたのですか!?
便利に使って後はポイなんですか!?」
「なに言ってるの?ルビー」
「この泥棒猫!
あなたなんてお呼びじゃないんですよ!!」
ルビーはお面に向かって暴れ始める。
「消え失せなさい!諦めなさい!!」
その様子を見ていたイリヤの表情が
ウンザリとばかりどんよりとしていく。
そして
「わたしとイリヤさんの間にあなたの入る隙間なんてありません!!」
ポイッ
イリヤは祭り用に公園に設置されたゴミ箱へと
お面とステッキとルビーを捨てる。
「やっぱりお面なんて子供っぽいよねー!!」
イリヤはゴミ箱へと捨てた後
笑顔で美遊達の下へと戻る。
さらに
「…」
「ってちょ、シロさん!?あぁー…」
シロエがゴミ箱へと近づき
屋台にて購入し食べ終え、発生したゴミを
イリヤや美遊、雀花達のものも含めて
ルビーの上から大量に捨て、ルビーはゴミに埋もれる。
「美遊様、シロ様」
「サファイア?」
「?」
シロエがゴミ箱から戻ると
美遊の髪から出てきたサファイアが二人に話しかける。
「お二人は浮気なんてなさいませんよね?」
サファイアの問いかけると同時
チョコバナナを購入した美々達が近づいてきたため
サファイアは再び美遊の髪へと隠れる。
「うん、もちろん。
わたしはイリヤとシロ以外に浮気なんてしない」
「ミユ…。その…わたしも…」
美遊が顔を赤らめながらも断言し
シロエも恥ずかしそうにもじもじしながら呟く。
「!!」
それを聞いた美々の妄想が捗るのであった。
…
……
………
日は傾き、夕方
イリヤ達は再び屋台へとくり出していた。
すると
「あーっ!見て見て!!」
「ん?どうした?」
イリヤが指差した先にあったのは
紐くじの屋台
「あの店の景品、すごい豪華だよ!?」
「おおっ、すごい!」
「一回やってみよっか!」
景品の豪華さにつられ
紐くじの屋台に近づくイリヤ達
「いや、あんなの当たるわけないじゃん。
どうせどの紐も当たりに繋がってるわけないんだから」
「…そうなの?確かに今まで当たったところ見たことないけど」
「商店街の福引きとは違う…?」
「そ、そんなことないよ!?
きっと偶々運が悪かっただけで…。
お店の人を信頼しないと」
クロエからの紐くじへの悪評から
シロエと美遊の中での紐くじへの風評が悪くなりそうになるのを
防ごうとしたイリヤだったが
紐くじへの屋台へとたどり着くと
「「「「なっ!?」」」」
驚愕の声を上げる四人
何故ならそこには
「いらっしゃいませ」
男物の職人が着るような和服を身に纏った
バゼットがそこにいたからだ。
((((なんかダメっぽいお店の人来たー!?))))
顔を引きつらせながら内心で絶叫するイリヤ達
「ん?海でアイス売ってた人?」
「屋台も出してるんだな」
そんなイリヤ達を尻目に
紐くじを引くべく近づく雀花達
「一回お願いします」
「一人500円です」
「というか…」
「左腕…」
「…うん。完治してるみたいだね」
雀花達からお金を
なにごともなく左手で受け取っている姿を見て
完治していると気づき
喜ぶべきか複雑な心境のイリヤ達
そして
雀花達が紐くじを引くのだが
「はずれか…」
「わたしもだ…」
「残念…」
引っ張り上げた紐の先にはなにもついておらず
残念がる雀花達三人
「これだとなにが貰えるんですか?」
普通なら残念賞かなにかを貰えるだろう、と
尋ねる美々
「そうですね…」
バゼットは悩んだ末
期待の眼差しを送る美々達三人の手に
「どうぞ」
先程引っ張った紐を渡す。
「これは…」
「残念賞ですが」
「えー!?普通駄菓子とか小さい玩具とかだろ!?」
「はずれで景品を与える気など微塵もありません!!!」
子供達の苦情に
憮然とした態度で断ずるバゼット
そんなバゼットに押され
「なんかリアルに残念賞だったな…」
「気を取り直して、かき氷でも食べよっか…」
「そうだねー…」
気落ちしながら紐くじの屋台を後にし、かき氷の屋台へと向かう雀花達
そんな雀花達の後にイリヤ達四人も続こうとする。
しかし
「さあ!!そちらも!!!」
「「「「!?」」」」
海での出来事を彷彿とさせるような圧力に
イリヤ達四人の足が止まる。
「ど、どうしよう?」
「…やめておいた方がいいと思う」
「うん。海でのことを考えるとこのくじに当たりが存在しない可能性が高い」
意見を出したのはシロエと美遊だが
やめた方がいいという考えはこの場にいる全員が共通している。
しかし
「一回500円!四度引けば2000円です!!」
「すっごいグイグイ来てる!?」
「これが押し売り…!?」
「押し売りは刑法第223条の強要罪に該当」
「そんな一般人の法律でこいつが引くわけないでしょ」
シロエの指摘にクロエが溜め息混じりに
紐くじの木箱へと近づく。
そして右手を当て
「
投影魔術を起動する。
クロエの右手を起点に
赤色の線がくじ箱に広がる。
「基本骨子、解明。構成材質、解明」
「なにやってるの!?」
イリヤが慌てて止めにかかる。
「なにって構造解せ……くじの当たるおまじないよ」
「絶対おまじないじゃないよね!?それ!?」
「なによ。このくじに当たりがあるかどうか確認したんじゃないのよ」
「だからってやっていいことと悪いことがあるでしょ!?」
「………魔術を使っていいなら当たりを引いたと幻覚を見せて」
「ダメだよ!?
なにその鏡◯水月的な悪の親玉がやりそうな発想!?」
「ならいっそのこと洗脳して、ただ命令に従うだけの人形に…」
「さらに上があった!?
なに怖いこと言ってるの!?
そんな物騒なこと考えちゃダメ!!」
相手が敵対関係にあるバゼットだからか
いつにも増して妹が容赦のない物騒な提案をし
イリヤが慌てて妹の物騒な思想を諌める。
「じゃあイリヤはこんなインチキ商売を見過ごせっていうの?」
「インチキとは聞き捨てなりませんね」
イリヤ達が意見を交わす中
むっとしたバゼットが割って入る。
「あら?違うの?」
「雇い主に二等以上は絶対に当たらないから心配するなと言われましたが……決してインチキでは!」
「絶対インチキだー!?」
さすがのイリヤもこれにはインチキ呼ばわりする。
「それで?何回引きますか?」
「うっ…えーと…」
クロエの意見もシロエの意見も却下したイリヤは
どうするべきか悩んでいると
「じゃあ、残りの全てを」
「ふえっ?」
イリヤの隣から札束…50万円がくじ箱の上に置かれ
呆けるイリヤが隣を見ると
「ルヴィアさん!」
「これならここにある景品を全部もらって帰っても問題はないわよね?」
「リンさんも!」
浴衣姿のルヴィアと凛が現れた。
「…」
バゼットはルヴィアと凛を一瞥した後
目の前に置かれた50万円を凝視する。
「………」
喉から手が出るほど欲しがってそうに
凝視し、そして
「そうですね。問題ありません。
くじが全て売れて雇い主も喜ぶことでしょう」
極貧生活を送っている所為か誘惑に屈するバゼット
バゼットは景品の入っている
その大きなくじ箱を両手で掴むと
「郵送の準備をしてきます!」
軽々と持ち上げ、肩に担ぎ
スタスタとその場を後にする。
「本当、単純な脳筋女」
「まったくですわ」
そんな封印指定執行者の姿に呆れる凛とルヴィア
一方でイリヤ達はというと
「景品を全て50万円で…。
今までの無駄遣いの元を取っても有り余るくらいの合計金額……」
「わたしも初めて知った…。
魔術なんて使わなくても、まとまったお金さえあれば
お祭りであってもこうして消費者側が儲けることができるなんて……」
「うん。これが一般的な…」
「つまり、これが本来の…」
「「お祭りの楽しみ方!!」」
「ミユーーーッ!?シローーーッ!?
二人共違うからぁーーーッ!?」
…
……
………
「「ありがとうございました」」
ルヴィアに従事している美遊とシロエが
頭を下げお礼を言う。
「別に構いませんわ」
「そうそう。こいつが下品に成金姿を見せびらかしただけなんだから」
凛の物言いにルヴィアが眉間に皺が寄せる。
「あらあら見せびらかす財力すらない自称名門出身の遠吠えが聞こえますわ!」
「浴衣の着付けもできない自称淑女が偉そうに!」
「ふん!淑女だからこそ着替えは名門のメイドに手伝わせるものですわ!」
いつもの如く口喧嘩を始めるルヴィアと凛
それを呆れた表情で見ているイリヤ達
そうしているうちに
かき氷を購入した雀花達三人が戻ってくる。
「あ。あれは…」
「金ドリにツインテ!?」
自身の姉が二人に酷い目に合わされた那奈亀が
顔をしかめ凛達に近づこうとする。
「ちょっ!?那奈亀!!」
「まあまあ…。折角遊びに来てるんだから」
「今日のところは勘弁しとこうぜ?
せっかくシロのことも触れないようにしてるんだからさ」
今日という日を楽しむために
シロエという明らかにまずそうな問題をスルーしていることを出されたためか
那奈亀の怒りはこの場は抑えられる。
すると
「…まあ、いいわ。折角の浴衣が着くずれでもしたら最悪だし」
「!そ、そうですわね…」
口喧嘩は長引かずあっさりとお互いに引き下がる。
「あれ…?」
「取っ組み合いにならないなんて珍しいわね…?」
イリヤとクロエが訝しむ。
「まったく…。シェロに会うのでなかったらこんな女と一緒に祭りなど…」
「珍しく意見が合ったわね」
「あー…」
「そういうこと…」
ルヴィアの心から嫌そうな態度に
納得するイリヤとクロエ
「それでシェロは…?」
「確か屋台の手伝いをしてるって言ってたわよね?」
そう。士郎は屋台の手伝いをするため
イリヤ達よりも先に家を出ていたのだ。
「あ、うん。あっちの方」
イリヤが兄がいるであろう屋台の方向を指差す。
「ああ、待っていてくださいシェロ!
今すぐに参りますわ!!」
「ちょっ!?待ちなさいよあんた───」
先んじて向かおうとするルヴィアに
凛が止めるべくイリヤ達から背を向け走り出そうとした。
その時
「ッ!?」
ゾクッ
と背筋に冷たいものが走り
凛は険しい顔で勢いよく振り向く。
「リンさん?」
「どうしたのよ?」
そこには当然イリヤ達がいた。
イリヤ達は勢いよく振り向いた凛を訝しんでいる。
(気のせい…?けれど、今の視線は…)
まるで観察されていたかのような───
「…いえ、なんでもないわ」
「?」
困惑するイリヤ達に背を向けて
凛はルヴィアを追いかける。
「…」
件の視線の主である
シロエに気づかずに
…
……
………
ジュー…。
士郎が屋台の一角にて
お好み焼きを焼いている。
屋台の手伝いをしているのである。
すると
「「お兄ちゃん!」」
イリヤとクロエの元気な声が聞こえ
士郎は顔を上げる。
「おう、みんな!」
そこにいたのは予想通り
妹達とその友達
それに
「遠坂にルヴィアも…」
凛とルヴィアが来てくれることは予想してなかったのか
少し驚く士郎
「ごきげんよう。シェロ」
「ま、まあクラスメイトが屋台の手伝いをしてるって聞いたから顔くらいは出してあげないと可哀想だしね」
「あはは。ありがと」
ルヴィアと凛の顔を赤らめながらの言葉に
士郎は笑顔で答える。
「シロも。来てくれてありがとな」
「…うん」
イリヤとクロエのみでシロエからは声をかけられなかったからか
それとも
最近のシロエの様子からか
士郎はシロエにも声をかけるも
シロエはいつもの如く無表情で返事をし
士郎はなんとも言えない表情をする。
「へー…。イリシロ兄はこんなところで手伝いをしていたのか…」
「ああ。海の家でいろいろ世話になったからね。
そのお礼ってことで」
「?海の家?」
「そこって確か…」
海の家の店主を思い出す那奈亀と雀花
そう。海の家の店主は
「龍子のダチの嬢ちゃん達じゃねーか!!よく来たなぁ!!」
龍子の父親…嶽間沢豪兎である。
((龍子の親父の登場だとぉ!?
海の家ではカットされていたのに!?))
龍子の父親の登場にメタい驚きをする雀花達
※バゼットとの絡みで終わりに少し出番があったのだが雀花達は知らない。
「夏の間は海の家とこれで商売よ!!
ハッハッハッハッハッハッ!!!」
「大して興味もないのに…」
「タッツンの家庭事情をここまで知ることになるとは…」
「二人共なにげに酷いこと言ってるよね…」
毒を吐く雀花と那奈亀に突っ込む美々
「それにしても手伝ってくれて助かったぜ。
料理はうめーし、気は回るし、よく働くし」
「これくらいのことならいくらでも…」
「シェロですもの!それくらい当然の芸当ですわ!」
「なんであんたが得意気なのよ!」
まるで自分のことが如く
得意げの満面の笑みを浮かべるルヴィアに
凛が不機嫌そうに噛みつく。
「海の家もあって人手が足りなかったからな。
大助かりだ!」
「あれ?」
「それならタツコにも手伝ってもらえば…」
「お姉ちゃん、クロ。パウンドケーキの調理実習の時のことを考えると…」
「うっ…頭が…」
「あー…」
妹から嫌な記憶を呼び起こされたイリヤが頭を抱え
クロエは納得した表情となる。
「ハッハッハッハッハッハッハッ!
すまねぇな嬢ちゃん達!あいつが迷惑掛けたみてぇでよ!
あいつはいないのが一番の手伝いだからな!」
「うわぁ…」
「この豪快な親にここまではっきりと断言されるとは…」
「あははは…」
豪兎からイリヤ達への謝罪を聞き
雀花と那奈亀が龍子の厄介さを改めて認識し
否定できない美々はただ乾いた笑い声を上げる。
「それでお兄ちゃん?手伝いはまだ終わらないの?」
「ああ…、それは…」
クロエの寂しそうな問いかけに
士郎が申し訳なさそうに手伝いは終わってないと告げようとするが
「おう!そろそろ嫁と倅共がこっちに来る頃だから兄ちゃんはもう上がっていいぞ!!」
気を利かせたのか豪兎が手伝いはもういいと告げる。
「あ、はい。ありがとうございます」
「やったぁ!!」
「じゃあ一緒にご飯食べて花火見られるね!」
イリヤとクロエが嬉しそうに歓声を上げ
士郎はイリヤ達と一緒に行くべく店の裏手へと姿を消す。
さらに
「おう、そっか!じゃあこいつを持ってきな!」
豪兎はお好み焼きの入った袋を差し出す。
「え!いいの?」
「ありがとう!」
「なーにいいってことよ!あと、ついでに…」
豪兎がここまで気を遣ったのは理由があった。
それは
「あいつも持っていってくれな…」
あいつ…?
首を傾げるイリヤ達だがすぐに理解する。
「おおーい!!神輿終わったぜぇーッ!!!」
龍子がいい笑顔で遠くから
こちらへと走り寄ってくるのが見えたからである。
「タツコ…ここまで遠ざけられるなんて…」
「過去によほど酷いなにかをやらかしたのか…」
「ナツメグ…フリ◯ク…」
「やめてシロ!?そんな詳しく思い出させないで!?」
「家庭科の悪夢が蘇るな…」
…
……
………
時間はさらに進み
日は暮れて夜
士郎と龍子を加えたイリヤ達は
豪兎からもらったお好み焼きを食べるために
屋台のある通りから離れ
人通りの少ない開けた場へとやってきていた。
その広場の周りは木々と囲われており
木製のベンチやテーブルが設置してあり
休憩や食事を行うには最適な場所であった。
また、花火が打ち上がる方向にはちょうど木々が立っておらず座りながら花火も見れる都合の良い場所でもあった。
「せっかくお兄ちゃんと遊べると思ったのに…」
テーブルのあるベンチに
小学生組は全員腰掛け
お好み焼きを食べ終え
雀花達は談笑していた。
そんな中
イリヤは不満げな声を出す。
「リンとルヴィアに取られちゃったわねー」
また、クロエもそれは同様であり
士郎と凛とルヴィアの三人は
子供達から少し離れたベンチに座り会話をしていた。
会話の内容が気になったイリヤ達四人は
談笑に夢中の雀花達から離れ
士郎達へと隠れながら近づく。
「せっかく誘ってもらったのに途中参加で悪かったな」
「別に気にしないで」
「そうですわ。
むしろ職務を全うするシェロは勤勉で優秀でしょう。
シロも最近は自主的に研修時間を伸ばしてますし
兄妹揃って立派ですわ」
「…シロ、か」
妹の最近の家での様子から
士郎は素直に喜ぶことができない。
隠れているイリヤ達もシロエを除き
暗い面持ちとなる。
「?シェロ?」
「あ、いや。なんでもない」
士郎はルヴィアに事情を話し
シロエに研修時間を短くするよう
言ってもらうように頼もうかと一瞬頭によぎったが
完全に家庭内の事情でありルヴィアに気を遣ってもらうのは憚られたのである。
士郎の様子にルヴィアと凛は内心訝しむが
とはいえ
「……とにかくシェロもシロもよくやっていますわ」
深掘りするのも良くないと判断し
話を元に戻す。
「先輩で歳上でありながらいつも詰めが甘いどこぞの駄メイドにも見習わせたいくらいですわ」
忘れずに隣の宿敵を煽りながら
凛の顔が一瞬怒りに歪む。
しかし
「そうね。確かに見習うべきかもね」
すぐに笑顔に戻し
罵倒を受け入れる。
そのらしくない姿に
「……え?耐えた…?」
「……らしくないわね」
「……士郎さんの前だから…とか?」
「……あの顔はそれだけじゃない気がする」
先のシロエの話題のやり取りを忘れるように
凛の様子に訝しむイリヤとクロエと美遊
そんな三人に乗っかるように当のシロエも訝しむ。
(な、なんですの?この態度?
シェロの前とはいえ薄気味悪いですわ…)
無論ルヴィアも内心で困惑する。
「ところで衛宮くん。この浴衣どうかしら?」
そんなルヴィアを尻目に
凛がベンチから立ち上がり
身に纏っている浴衣を士郎によく見せる。
「ああ、二人ともよく似合ってるよ。
自分で着付けをしたのか?」
「いえ、それはウチの駄メイドに」
「そういえば浴衣の着付けっていうと
間違った話を聞くわよね?」
凛がルヴィアの発言に被せるように
浴衣の着付けについて話し始める。
「間違った話?」
「そう。例えば」
そして、それは
「浴衣の時には下着を着けないなんて話とか」
ルヴィアへのこれ以上なく手痛い反撃であった。
凛の顔が一瞬嘲笑う極悪人のような表情となり
ルヴィアは唇を噛み締め眉間に皺を寄せ顔を赤く染める。
「ああ…」
「浴衣一枚で後は全裸なんてちょっとした痴女よねぇ」
「あはは。さすがにそんな人はいないんじゃないか?」
「そうよねぇ」
「「あははは」」
そしてその浴衣一枚であるルヴィアは
(謀りましたわね。遠坂凛…!!)
顔を青ざめる。
「ん?どうしたルヴィア?
顔色悪いけど…?」
「あーら?本当どうしたのかしらねぇ?」
元凶である凛は煽るように笑みを浮かべる。
「い、いえ。なんでもありませんわ」
「さーて、花火はそろそろかし」
大人しくなったルヴィアを見た凛は
そのまま士郎と花火を見るべく
士郎と共に上空を見上げるが
「…ふっ!!!」
ルヴィアがこのまま黙っているわけがない。
ルヴィアは
凛の背中へと浴衣の内部に素早く入れ込む。
「ん?遠坂?」
凛の表情が引きつり
ルヴィアのその早業を見逃した士郎が訝しむ。
「もしかして、背中に虫でも入りまして?
なんならこの場で脱いで確認してもよくってよ?」
「ふふふ…、大丈夫よ…」
この程度、無闇に激しく動かなければどうとでもなる。
と凛は士郎との会話を再開しようとするが
(甘いですわね!遠坂凛!!)
そんな凛の背後にて
再びルヴィアが動き出す。
ルヴィアは右拳を握り締め
(エーデルフェルトの策は…隙を生じぬ二段構え!!!)
水風船が入っている凛の背中へと
「ごふっ!?」
右ストレートを叩き込む。
そして同時に
バシャア!
と凛の背中の水風船が破裂する。
「な、なんだ!?」
このルヴィアの行動を
今度こそ目にした士郎は驚き
「うわぁ…」
クロエが引きつった表情を浮かべる。
美遊はポカンと表情で
シロエは変わらずの無表情で見ており
イリヤは
「…」
焦りから俯いている。
「背中に蚊がいましてよ。遠坂凛」
「…!!」
飄々としているルヴィアを睨みつける凛
「あー、そっか。水辺だからな、蚊はそれなり…に…」
士郎の納得の言葉は尻すぼみになる。
その視線の先は凛の足下
「あ…」
士郎の顔色が青くなり
「ん?」
訝しんだ凛は士郎の視線を追い
自らの足下へと目を向ける。
すると、そこには
ポタッ、ポタッ
と浴衣の裾から水が垂れ落ちていた。
まるで粗相をしたかのように
「我慢してたなら、言ってくれれば…」
「ち、違うの衛宮くん!?これは水風船の水が」
「オーホッホッホッホッホッホ!!!
その歳で粗相とはみっともないですわーッ!!!」
ルヴィアが凛を見下しすぎて
上空を見上げる程に身体を反らしながら
高笑いを放つ。
「ルヴィアーッッ!!!あんたよくもーッ!!!」
「それはこっちの台詞ですわーッ!!!」
「ふ、二人とも落ち着いて」
いつもの喧嘩に発展する凛とルヴィアをなんとか宥めようとする士郎であった。
一方のイリヤ達は
「あの二人はどこに来ても、ああなのね…」
呆れた表情のクロエ、美遊、シロエ
そして
「……………」
「お姉ちゃん…?」
「?イリヤ?どうしたの?」
顔色の悪いイリヤを訝しみ
声を掛けるシロエと美遊
「さっきリンさん浴衣の時には下着を着けないのは間違いって言ってたよね…」
「…」
「イリヤ…?まさか…」
イリヤが現在、裸に浴衣一枚という状態だということに気づき驚く美遊
(え…?じゃあ…もしかしてシロは…)
「どうしよう!?」
「なによ。別にいいじゃないそれくらい」
「よくないよ!?このままじゃわたしたち、ちょっとした痴女だよ!?」
クロエもイリヤと同様の状態であるにも関わらず
飄々としているためイリヤは噛みつく。
「脱げなきゃバレないから問題ないでしょ?」
「それはそうかもしれないけど…」
「…」
「あの…ね、イリヤ。下着なら…」
シロエが無言であるため
美遊がおずおずとイリヤに話しかけようとする。
その時
ドンッ
凛とルヴィアの喧嘩の余波か
ペットボトルがイリヤの背後から飛来
イリヤの帯へとぶつかる。
ファサ
「!?」
「あ…」
「イリヤ!?」
イリヤの浴衣が開き
中から当然───
「いやああぁぁ!?見ないでええぇぇッッ!!!」
イリヤはその場から走り出し
森の中へと消える。
「ま、待ってイリヤ!!」
美遊も慌てて後を追おうとするが
「ッ!」
と思い止まる。
その理由は
「………シロも、一緒に追いかけよう!」
思い出したのは先日の遊園地の一幕
一緒にいたはずなのに、いつの間にかその場から姿を消していたシロエ
クロのお陰で無事に帰ってきたけれど
もしも………
そんなことを思い出してしまった美遊は
目を離したくないと手を伸ばす。
「………うん」
シロエは数秒の沈黙の後
美遊の手を取った。
…
……
………
「まったくイリヤさんってば本当にもう…」
ゴミ箱から脱出できたルビーが
マジカルブシドーのお面を着け
文句を言いながらに森の中を浮遊する。
すると、そこに
浴衣が落ちないように手で押さえながらこちらへと走ってくるイリヤの姿を目にする。
「おおっ!?これはまた随分と素敵な格好で」
「ルビー!!ちょうどよかった!!」
イリヤはすれ違い様ルビーの羽を鷲掴みにし
笑みを浮かべる。
「転身するよ!!」
「はい?」
ルビーが困惑の声を上げるが
イリヤの身体は光に包まれ
そして
魔法少女へと転身し
全裸を回避する。
「はぁ…危なかった」
安堵し一息吐くイリヤ
しかし
「なんてことを…。イリヤさんは魔法少女の転身をなんだと思ってるんですか!?」
イリヤの転身の使い方が気に入らないのか
ルビーは怒りから興奮し始める。
「なんだとって…」
「いいですか!?そもそも魔法少女が転身する姿というものは光に包まれているものの小説でわかりにくいですが裸になってサービスシーンを提供するものであって裸を隠すために使うなんてことは世間に対する」
「え、と…なにを言ってるのか…」
「そんなことでどうするんですか!?
イリヤさんには魔法少女としての自覚が足りません!!」
「いや、元々成り行きっていうか…ルビーに騙されて」
「魔法少女とは基本的に成り行きでなるものなのだからいいんです!!
シロさんだってそうでしたでしょう!?」
温泉旅行にて
サファイアと契約したシロエの
当時の状況を指摘するルビー
「シロのは成り行きっていうかサファイアの手間をなくそうとしただけで」
「それも立派な成り行きでしょう!?」
「そういうものなの?」
「そういうものです!!!」
「言いきった!?」
ルビーと魔法少女談議をしていると
「イリヤ!!」
「…お姉ちゃん」
手を繋いだ美遊とシロエが
イリヤを発見し走り寄る。
「あ。ミユ、シロ」
「ちょうどよかったミユさんとシロさんも魔法少女としての心構えを説いてください!」
「…なんの話?」
「…無視していいと思う」
ルビーの言葉に首を傾げる美遊に
相も変わらずルビーに辛辣な言葉を吐くシロエ
「というかイリヤ。転身したんだ」
「ルビーが珍しく役に立ったんだね」
「珍しく!?」
「うん。緊急避難ってやつで」
「裸とコスプレ少女で後者を選択したのですね」
サファイアが美遊の髪から出て
会話に混じる。
「甚だ不本意な使い方です!」
「仕方ないでしょ!帯が解けちゃったんだから。それに下着だって…」
「あの、イリヤ」
言い争うイリヤとルビーに
割って入る美遊
「着付け、しよっか?」
「え!?出来るの!?」
「うん。この帯も自分で締めた。
それにシロのもわたしが締めたから」
「…わたしも手伝う。ミユ」
「え…?シロ、出来るの?」
「ミユのを見て覚えた」
「じゃあ、お願い」
美遊は一瞬訝しむものの
シロエの記憶力を考慮すれば
それくらいは容易いのかもしれない。
と思い直す。
「さっすがミユ、シロ!
あ、でも…下着が」
「イリヤ」
裸で浴衣を着ることに抵抗があるイリヤに
美遊が
「下着ならある」
懐から購入したばかりの下着が入っている
小さなビニール袋を懐から取り出す。
「え?な、なんで?」
「その、シロが…」
「…」
「シロ?」
「うん。集まる前にシロが寄り道したいって言って買ってたの。
こういうことだとは思わなかったけど…」
シロエが気まずそうに目を逸らし
美遊がそんなシロエに代わり説明する。
イリヤは自身の行動を完全に読まれたことにポカンとするが
「そっか…シロ」
「…」
「ありがとね」
イリヤは無言の妹に近づき
いい子、いい子
と、ばかりに優しく頭を撫で始める。
その見慣れない光景に美遊は驚き
シロエも無表情の裏で一瞬驚くが
その
嬉しそうに、気持ち良さそうに
顔を赤らめ、目を細める。
「イ、イリヤ…?」
「ん?ミユ?」
「…お姉ちゃんに撫でられたの、すごい久しぶり」
「え?あー…。そういえばそうだね。
シロがウチに来たばかりの頃はよくこうやって撫でてたよね」
ウチに来たばかりの頃も今のシロのように
無表情だったからそれでつい…。
でもシロがふざけるようになってからは
喧嘩するばかりで
こうやって撫でることもなくなったんだっけ…。
けれど
(なんでシロは急にふざけるようになったんだろ…?
……………わからない。やっぱりそこは思い出せない)
イリヤは昔を懐かしみながらも
切っ掛けが思い出せずに内心もどかしさを感じるが
そのまま妹の頭を撫で続ける。
そして
そんな
その姿はまぎれもなく
「……やっぱり二人はちゃんと『姉妹』だよ」
「?」
「…」
…
……
………
イリヤがビニール袋を受け取り
妹が購入してくれた下着を身につけた後
美遊とシロエの二人で
イリヤの浴衣を着付けを行っていく。
「ありがとね。ミユ、シロ」
「別にこれくらい」
「うん。問題ない」
二人が着付けしている間
されるがままでただ立っていたイリヤが
話題を出す。
「そういえばさっきルビーに言われたんだけどね」
「うん」
「魔法少女って成り行きでなるものなんだって」
「………そう」
「…」
イリヤの言葉に
サファイアと契約した時のことを思い出した美遊は
数秒の沈黙の後、返事をする。
そんな美遊にシロエはただ無言でイリヤの着付けを手伝う。
「確かにわたしはそうだったし、シロもある意味そんな感じだったよね」
「………うん」
「でもわたしたちだけでみんながみんなそうとは限らないよね」
「…」
美遊の口数も減っていき
シロエ同様に無言になっていく。
「え、と。ミユはどうだったの…?」
イリヤが切りこんだ時
美遊の頭の中に浮かんだのは
『ミユは……キリツグのことをどう思ってるの?』
シロエの着付けを行っている際の
シロエからの問い
どちらの問いも
美遊の事情に関係する問いだからである。
(もしも……もしもシロがわたしの事情に気づいているのだとしたら
やっぱりシロもわたしと同じ………。
シロ、も…………この世界の住人じゃ…………)
美遊がイリヤからの問いだけでなく
シロエの抱えている事情についても
自分なりに考察し、思い悩んでいると
イリヤの着付けが終わる。
イリヤは美遊とシロエに笑顔で向き直る。
「わたしは…」
美遊はそんなイリヤの顔を直視できず
視線をあちこちに逸らす。
話すべきか話さないべきか
明らかに迷っている。
そして
「わたしも…そんな感じ」
美遊は話すことができなかった。
「………そっか」
イリヤは寂しそうに笑い
「…」
美遊と同じく打ち明けていないシロエは
迷いや安堵や罪悪感や
たくさんの感情が入り混じり
無表情の裏で複雑な気持ちとなる。
「そろそろ花火の時間かな。早くみんなの所に戻ろう?ミユ、シロ」
「「……うん」」
そんな三人の様子を
(…はぁ)
木の影から見ていたクロエは
眉間に皺を寄せ、溜め息を吐いた。
ーーーーーーーーーー
一方で
紐くじの屋台では
「景品全部持ってかれたぁ!?」
雇い主である豪兎の怒声が
バゼットを責め立てていた。
「ですが、こうして売り上げも…」
「そんなんで足りるわけねぇだろ!!
…バイト代引かせてもらうからな」
豪兎の情け容赦なしの処断に
「ば…馬鹿な…」
バゼットはなにも返すことができず
バイト代が引かれるのであった。
是非もないヨネ!
ーーーーーーーーーー
「お、戻ってきた」
場面は戻り
イリヤ、美遊、シロエの三人が
テーブル付きのベンチに腰掛けている雀花達の下へと戻ると
雀花達が声を掛ける。
「お帰りなさい」
「どこ行ってたんだよ?トイレか?」
「そんなとこ」
クロエは既に戻ってきており
先の三人のやり取りが気に入らないのか
残ったお好み焼きを一心不乱に貪っている。
「…?」
「ん?どうしたの?シロ」
「…お兄ちゃん達は?」
「あれ…?いないね」
士郎と凛とルヴィアの三人の姿を見えないため
シロエとイリヤの二人が訝しむ。
「あー…、あの三人は…」
「金ドリとツインテが綺麗なダブルノックアウトになってさ」
「お兄さんが二人を家まで送りに行ったみたい」
「あれは見事な相討ちだったな!」
「そう…」
「はぁ…」
喧嘩を最後まで行い
花火を見ることなく帰った二人に
溜め息を吐くイリヤ
「おっ、そろそろ打ち上げる時間だな」
「打ち上げるところみてー!!
あっち行こーぜ!!」
「ああ。確かに打ち上げる瞬間は見たことないからな」
「行こう行こう!」
「イリヤちゃん達は?」
「大丈夫」
「わかった。また、後でね」
雀花達四人は打ち上げる瞬間を見たいがために
さらに打ち上げ場を一望できる地点へと移動する。
「楽しみだねー!花火!!」
イリヤと美遊とシロエは
雀花達のいなくなったベンチへと腰掛け
花火を待つ。
「ミユは打ち上げ花火と手持ち花火がどっちが好き?」
「わたし…どっちの花火も見たこと…」
「…」
「じゃあこれも初めての経験だね!
シロは?どっちが好き?」
「わたしは…」
美遊と違いイリヤ達の家に来てからの六年間
その間にシロエは両方の花火の経験があった。
しかし
「………どっちも綺麗かなとは思う」
「…うん!だよね!」
好きかどうかと聞かれたら
わからないシロエは言葉を濁す。
煮え切らない返答だが
イリヤはそれを考えないようにする。
そんな会話をしていると
ヒュルルルルルル……パァン!!!
花火の打ち上げが始まる。
「うわぁ!始まった!!」
「わぁ…」
「…」
初めて見る花火に感嘆の声を上げる美遊
「……シロの言った通り、綺麗」
「……うん」
「そうだね!」
そんな三人の背を見ながらクロエは
(…結局また、踏み込まなかったわねイリヤ)
ミユとシロの隠していること
それはわたしたちに深く関係しているのに
いったいいつまで棚上げしておくつもりなのかしら…。
それに
クロエは花火を見ている三人の中で
シロエへと目を向ける。
(シロ…。元に戻すどころか悪化して…。
ママ達を完全に拒絶しちゃってるじゃない)
このままいけばもしかしたらわたしたちも…?
それに
そしたら最悪シロは家から───
クロエは遊園地にて
一人ぼっちで、重い足取りで
さまよっていた妹の姿を思い返す。
(………イリヤは動かない。
ミユも踏み込まれるのを恐れてる。
なら、やっぱりわたしが───)
ヒュルルルルルル……パァン!!!
クロエの決意とは裏腹に
花火は上がる。
そして
シロエはクロエからの
背中に突き刺さるような視線に
気づいていた。
そんなシロエの花火を見上げる瞳は
「…」
どこか冷たかった。