シロエとクロエの衝突から時間は進み
夜10時
場所は衛宮邸にて
「…………」
パジャマ姿のイリヤが
自室のベッドにて横になっている。
(結局……止められなかった)
あの後
ルヴィアさんが連れていくと判断して
シロはクロの氷をあっさりと解いた。
けれど
氷を解いた後もクロはシロのことを睨んでて
リンさんもクロのように睨んではいなかったけれど、どこか気まずそうだった。
そして、そんな二人をシロは
どうでもよさそうに完全に無視して
ルヴィアさんの屋敷へと戻っていった。
なにをされたとしてもどうとでもなるってばかりに
そしてそれは…多分間違っていないんだと思う。
シロがあそこまで強いだなんて…強くなっているだなんて思わなかった。
(わたしがシロに…戦わない方がいいなんて……言っちゃった所為なのかな……)
シロは
さっきのリンさんとのやり取りと
そしてクロとの戦いで
完全にわたしたちから孤立してしまった。
(こんなことなら……なにも言わなければよかった)
イリヤが後悔で枕に顔を埋めていると
「眠れないんですか?イリヤさん」
眠れないイリヤに気づき
ルビーが話しかける。
「決行は今夜0時。
今は少しでも休んでおかないと」
「……わかってるよ」
とはいえ
眠れるわけがない。
イリヤは溜め息を一つ吐くと
ベッドから抜け出す。
「イリヤさん?」
「…トイレ」
シロは
仕事があるって
まだ家に帰ってきてない。
そろそろ帰ってくるとは思うんだけど
なにを話していいか…わからない。
顔を合わせにくい。
イリヤが妹と顔を合わせないように
自室から出てトイレへと足早に向かう。
しかし
アイリの寝室の前を横切ろうとした
その時
「───…ねぇ、教えて。ママ」
クロエの声が
部屋の中から聞こえてくる。
「カードと聖杯戦争の関係を」
え……?
部屋の前を通りすぎようとした
イリヤの足が止まった。
ーーーーーーーーーー
一方その頃
エーデルフェルト邸では
「………………」
パジャマ姿の美遊が
テラスにて無言で
空を見上げ、立ち尽くしていた。
「心配なの?シロのことが」
そんな美遊に話しかける声
それは
「それとも、不安なのかしら」
「ルヴィアさん…」
ルヴィアであった。
ルヴィアは美遊の隣へと移動する。
「八枚目のカードがある…とわかってから貴女の態度も少しおかしかったわ」
「………」
「シロの豹変でそこまで目立ってはいなかったけれど」
ルヴィアの指摘に
美遊は
「今回の作戦から…わたしを外してもらっても構いません」
シロエではなく
自身を外しても構わないと告げる。
「凛さんの方針自体は間違っていません。
不確実な要素はなるべく排すべきです。
ただ…その対象が間違っていただけです。
シロは関係ありません。
本当に関係があるのは…」
「美遊」
美遊の堰を切ったかのように
出てくる言葉に
美遊の背後に移動したルヴィアは
そのまま美遊を抱き締める。
「貴女にも事情があるのは知っています。
それがおそらく、とても根が深い問題であることも」
シロエのことは一先ず置いておき
美遊が事情を話そうとしないことに対し
ルヴィアは
「けど、
貴女が話したくないのなら聞かない。
聞いても聞かなくても変わらない。
だって貴女は──」
ルヴィアは思い出す。
美遊と初めて出会ったあの夜のことを
『…カード回収ならわたしがやります』
日が暮れた公園にて
『その代わり…住む場所をください』
魔法少女へと転身した美遊が
『食べ物をください。
服をください。
戸籍をください。
……わたしに、居場所をください』
思いつめた表情で要求するあの姿を
「貴女は…
そう告げると
ルヴィアは優しく美遊を抱き締める。
美遊は
恥ずかしそうに
しかし、どこか嬉しそうに
顔を赤らめるのであった。
ーーーーーーーーーー
「…」
そんな二人のやり取りを
シロエは屋敷の角にて
壁を背にし聞いていた。
その目は細められており
羨望が見てとれて
そして、どこか寂しそうであった。
「シロ様…」
そんなシロエを
一人にしておけず一緒にいたサファイアが
見ていられず話しかける。
「あの、シロ様」
「…なに?」
「先程の凛様の考えはあくまで可能性の一つとして捉えていただけであって
決して本命というわけではなかったと思います。
だからこそ凛様は最初シロ様に危害を加えずに遠ざけるだけで済ませようとしたのかと。
ただ口論の末に熱くなってしまい、それで…。
それにクロ様だって本当の目的は…」
サファイアが
凛とそしてクロエの弁護を行う。
クロエ達は決してシロエを疑い嫌って
先の行動を取ったのではない、と
自分達は決して敵ではない、と
そして自分達はシロエを大切に思ってる、と
伝えるために
しかし
「サファイア」
シロエは短くサファイアの名を呼ぶ。
その目は変わらず冷たいまま
「サファイアは……ルビーの記憶を元に戻したよね?」
「!?」
シロエからの予想外の詰問に
サファイアは驚愕する。
「な、なぜ…」
「…なぜわかったのかって?
だってルビーの態度が妙だったもの」
「ね、姉さんの態度…?」
「わたしはルビーの記憶を消した。
そしてその後、ルビーに冷たく当たった」
「…」
「ならなんでルビーはなにも言わずに
わたしからの冷遇を受け入れているのかしら?
まるで心当たりがあるかのようよね?」
「!!」
ルビーが本当に海での一件の記憶がないのであれば
突如態度が変わったシロエに困惑はもちろん抗議すらしないのはおかしい。
それもあれだけ我の強いルビーに限って
「そしてルビーのような特殊な存在の記憶を復元できるのは
それこそ製作者とあなたぐらいだもの」
「シ、シロ様」
「別に怒ってるわけじゃないのよ。
契約した時にも言ったからね。
わたしよりもミユ達を優先してって」
温泉旅行に行った際
シロエはサファイアに
そういう条件を出してマスター登録を行っていた。
「家にいるルビーの方がわたしの近くにいることが多い。
そんなルビーの記憶を復元することで
わたしの危険性を…人間じゃないことを共有して
わたしという脅威に備える。
ミユ達を守ることを考えたら合理的でベストな判断よね」
「シロ様!!わ、わたしはただ貴女を」
怒ってはいない。
それは嘘ではないかもしれない。
しかし
自身に味方などいない。
そう結論づけているかのような物言いに
サファイアは慌てる。
しかし
「いいわよ、別に。わたしには」
シロエは
大切そうに『バーサーカー』のカードを手に取る。
「わたしには…『バーサーカー』さえいてくれればそれでいい」
そしてそのまま
美遊達に気づかれないように
自宅へと歩き出す。
「シロ、様…」
サファイアはシロエになにも言えずに
その場に置き去りにされるのであった。
ーーーーーーーーーー
尚、シロエがその場から去った後
「それに…もちろんシロも」
「え?」
「遠坂凛が取った行動…それが決して間違いではないというのは
けれど、あの子もまた
貴女と同じように」
「ルヴィア、さん…」
「あの子は確かに強い。信じられないくらいに
遠坂凛が警戒するのも今ならわかる。
大抵のことなら、なんでもできる。
そう。恐らくはできてしまう」
「…」
「けれど…だからこそ、あの子は危うい」
力の有無という違いこそあるが
その危うさは
そしてあの思いつめた雰囲気は
あの夜に出会った美遊を
ルヴィアには想起させた。
故に
「もしも…仮に時計塔があの子の敵になったとしても
「!」
「少しは…安心しまして?」
「はい…」
こういった会話が繰り広げられていたことを
シロエが知ることはなかった。
ーーーーーーーーーー
「…どういうこと…?」
場所は戻り衛宮邸
聞き捨てならない言葉を聞いたイリヤが
意を決して母親の寝室のドアを開く。
「聖杯戦争とあのカード…。
関係があるの?」
「イリヤ…」
部屋へと入ってきたイリヤに
アイリへと問いかけていたクロエが視線を一瞬イリヤへと向けるが
「カードって…なに?」
アイリの言葉に
眉間に皺を寄せクロエが噛みつく。
「とぼけないでママ!
わたしが10年間眠ってる間に聖杯戦争のシステムが変わったんじゃないの?
召喚はカードを媒介にするようになり数も8人に増やした…!」
「ク、クロ。わたしにもわかるように…」
「イリヤは黙ってて!」
聖杯戦争はもちろん
魔術に疎いイリヤが置いてけぼりになるが
説明が面倒くさいのか
クロエは詳しい説明をしない。
そんなイリヤを見かねてか
アイリが説明を行う。
「…聖杯戦争は7人の英霊を召喚し聖杯を求めて戦い合う疑似戦争よ。
聖杯とは、あらゆる願いを叶える願望器。
この儀式はそれを成すために行われるの」
「召喚する7人の英霊…そのクラスの内訳は
『セイバー』、『ランサー』、『アーチャー』、『ライダー』、『キャスター』、『アサシン』、『バーサーカー』」
クロエの言うクラスの内訳に
イリヤはすぐに気づく。
(カードに書かれたクラスと…同じ…!?)
驚くイリヤを余所に
「そう。それで全部よ。だから…」
アイリが断言する。
「8人目のクラスなんて存在しないし
英霊の召喚にカードなんて使わないわ」
8人目など存在せず
ましてやカードなど使わない、と
「いったい…何の話をしているのクロちゃん?」
「…………」
要領を得ない会話に
クロエの力が抜けベッドへと座り込み俯く。
「聖杯戦争は……終わったのよね」
「終わったわ。
10年前は未然で終わり
そして、もう二度と起こさないように今もキリツグが頑張ってる」
「なら……なら、どうして……」
「…」
答えの出ない疑問に悩むクロエ
そんなクロエを見て声を掛けられないイリヤ
「だけど…そう。それであの時、シロちゃん…」
「?シロが……どうかしたの?」
アイリの合点がいったとばかりの呟きに
妹の名を聞いたイリヤが
先の一悶着を思い出し
表情を暗くしながらも尋ねる。
「シロちゃんも…似たようなことを聞いてきたから」
「シロが…?」
アイリ達に対して
徹底的に無視を行っているあのシロエが
アイリ達に話しかけたのかと
イリヤは訝しむ。
そんな訝しみが伝わったアイリは
「聞いてきたのはシロちゃんがああなる前。
もっと前の話だから…」
「もっと……前?」
「そ、それっていつ!?」
「…クロちゃんが家に来た時だから
一ヶ月とちょっと前の話。
ここ最近で聖杯戦争が起こったことってある?…って」
クロエがイリヤ達に受け入れられたあの日
エーデルフェルト邸の大浴場にて
まだ笑顔を浮かべていたシロエと
二人っきりで話をしたことを思い返しながら
アイリは二人に話をする。
「そ、そんなに前に…?」
「…」
自分達の妹が
とっくにその事実へとたどり着き
そして母親に確認を取っていたことに
驚愕するイリヤと考え込むクロエ
そして
「シロは……聖杯のことを知っていたわ。
もちろんママやわたしが説明する前から
わたしが…聖杯だと見抜いていた」
「!」
「…」
クロエが
シロエと戦っていた時に
クロエを追い込むべく言い放った言葉を
ここで持ち出す。
またしてもイリヤが驚くが
アイリは予想の範囲内だったのか無言のままである。
「それだけじゃない。
あの子は…ドイツ語を話せるわ。
イリヤだって知ってるはずよ」
「運動会の時の…」
運動会の前日の夜
学校の屋上にて
あの綺麗すぎるドイツ語の歌とダンス
それを思い出すイリヤ
ドイツ語については
まだ偶然だと言い張ることができるかもしれない。
しかし
「聖杯のことはアインツベルンの中でもトップシークレット。
最奥と言ってもいい。
それを部外者が知っているなんてあり得ないことよ」
「…」
「ママ…。本当にシロについてはなにも知らないの?
なんでもいい。あの子について知っていることがあるなら教えて」
聖杯戦争からシロエのことへと
問い詰めが変化し
アイリは静かに口を開く。
「そうね。シロちゃんから口止めされているわけでもないし…」
話しても問題はない。
アイリは判断する。
「まず…イリヤちゃんとの容姿の酷似についてだけど」
初めに
イリヤとそっくりすぎる
シロエの容姿について触れる。
「あの子がこの家に来てからの最初の健康診断の時に
採取した血液と髪の毛でDNA鑑定を行ったことがあるの」
「でぃーえぬえー…ってなに?」
「DNA鑑定。簡単に言うと遺伝子を調べることでその人の血縁関係…シロちゃんだと私と親子関係にあるかとかイリヤちゃんと姉妹の関係にあるかを調べたりすることができるの。
もちろん身体的な意味でね」
アイリからの説明に
なんとか話についていくイリヤ
「えーと…じゃあシロは…その…」
「…養子なんだからなんの関係もない赤の他人と出る」
イリヤが言いづらそうにしているのを見たクロエが続きを言う。
「そうね。けど…」
「…けど?」
「検査の結果、イリヤちゃんとシロちゃんは双子の姉妹という結果が出た」
「────え?」
衝撃の結果に
イリヤの頭が真っ白になる。
「今までシロちゃんは血の繋がりはないって周りに言ってきたけれど
繋がりはあるの。
私達はシロちゃんと…血が繋がってる」
「ま、待ってよ。それってどういう…」
混乱するイリヤだが
アイリは続ける。
「双子の姉妹…。つまりね…イリヤちゃんとシロちゃんの身体は同一。完全に同じなの」
「わたしと…シロが…」
血の繋がりがないと今まで思っていたイリヤ
しかし
実際には繋がりがあるということがわかり
複雑な心境となるイリヤ
「待ちなさい」
「クロ…?」
「イリヤの…わたしたちの身体は産まれる前から聖杯としてアインツベルンに調整を施されてきた。
なのに、そのわたしたちとシロの身体が同一?
じゃあシロはアインツベルンが造ったということ?」
「シロが…アインツベルンで…?
で、でもそれってあの時に…」
クロエが言わんとすることをイリヤが理解し
クロエはアイリを睨む。
「ママ言ったじゃない!
シロはアインツベルンとはなんの関係もないって!!
あれは」
「嘘じゃありません」
アイリではない声に
イリヤとクロエが振り向く。
そこには
「セラ…」
「…申し訳ありません。部屋の前を通りすぎようとしたら聞こえてしまったので」
セラはドアを閉め
部屋の中へと入る。
「わたしはシロさんとアインツベルン本家との関係を徹底的に調べました。
この夏、ドイツにある本家の城にまで行って」
この夏休みの間
珍しくいなくなっていたセラが
そんなことをしていたと知り
イリヤがまたしても驚く。
「…それで結果は?」
「結果は完全に白。
シロさんとアインツベルン本家は無関係。
アインツベルン本家はシロさんを造っていません」
「……この結論は今回セラが調べに行く前から出ていたことなの。
そしてそれをセラが本格的に調べたことで絶対となった」
しかし
そうなると最大の問題が残る。
「けど…シロの身体はイリヤと同じだって」
「ええ。それも間違ってない」
「じゃあ誰かが製造技術をアインツベルンから…」
「それもありません。アインツベルンにはそれらの情報を盗まれた形跡も…それを隠した痕跡すらも見つかりませんでした。
外部の者に製造することは不可能です」
「じゃ……じゃあ……誰が、造ったっていうのよ?」
状況のちぐはぐさに
クロエが少し不気味に思いながらも尋ねる。
「誰にもシロさんを造ることはできません。
いえ…誰も造っていません」
「でも現に……シロは、ここに……」
「…言いたいことはわかります。
わたしも…まるで、なんの脈絡もなく唐突にそこに現れたかのようだと
そう感じましたから」
「…」
不気味な沈黙が部屋を包む。
そして
セラがそう感じたのも無理はない。
シロエ自身の情報とそれを取り囲むあるべきはずの情報
それがまるで一致しない。
「………じゃあ、なに?
あの子が…ここに存在していることは
本当はおかしいって…そういうこと?」
「クロッッ!!!!!」
そのあんまりな言い方に
イリヤが憤慨するが
「わたしのように」
「ッ!?」
続いた言葉にイリヤが押し黙る。
そして同時に気づく。
クロエがシロエを自身と重ねていることを
「……わたしが断言できることはそれだけです」
「……ママ」
セラの報告を聞き終えたクロエが
再びアイリへと話しかける。
「そろそろ話してくれない?
あの遊園地の帰り。シロといったいなにを話したの?」
イリヤも忘れるはずもない。
遊園地の帰り。シロエがアイリと話をした結果
アイリ達に対してシロエは
完全に心を閉ざしてしまったのだから
「…隠しているわけじゃないの。
ただ…話した私でもよくわからない点があったから」
「よくわからない点…?」
「とにかく話して。シロとしたやり取りを全部」
クロエからの要求に
「………わかったわ」
アイリは暫し逡巡した後
意を決した表情で頷く。
そしてアイリは話した。
シロエとのやり取り
その全てを
「「「……………」」」
先とは別の
困惑に満ちた沈黙が部屋を包む。
「あの…奥様?後半の話はわたしも初耳なのですが…」
「ごめんなさい。私にも整理がついていなかったから」
アイリがセラの苦情に対応していると
「マ…ママ。シロの言ったことは…本当なの?」
イリヤが呆然とした表情で
母親へと尋ねる。
「ママ達が…シロを警戒していたって…」
「………それは」
「違います」
イリヤの質問に答えようとしたアイリ
その言葉を遮るセラ
「警戒していたのは……わたしだけです」
「セラ…」
「奥様からはシロさんもイリヤさん同様に普通の子供として接するように言われていました。
しかしわたしは…それを実行しきることができませんでした」
そして、その結果が
今のシロエの状態だと
セラは自身を断罪するかのように話す。
「ど、どうして?」
「…セラは間違ってないわ」
「クロ!?」
「セラはママ達の留守を預かる身よ。
つまりイリヤを護る立場にある。
その立場上、秘密を抱えている…存在自体がおかしいシロに、なにも考えずに接することは難しいわ」
「そ、そんな…」
「…とはいえ
本当に警戒していたのは最初だけで
その後は少し引っかかるものがあった
っていう程度のものだったとは思うけれどね」
クロエからフォローが入るが
イリヤはショックを受けたままである。
それもそのはず
(理由が……出てきちゃった。
シロがわたしたちを騙して……笑顔を浮かべていた理由が)
シロが今までずっと笑顔でいたのは
セラ達に怪しまれないようにするためだった…?
そのためにわたしたちをずっと騙して───
妹が今まで笑顔を浮かべていた理由
それが浮上してきてしまい
イリヤは顔を歪ませ俯かせる。
「………私がシロちゃんを引き取った理由は
あの子が…ずっと一人だったから」
「…え?」
「あの子は孤児院で…どこまでも浮いていたわ。
ずっと窓辺で…子供が手に取らないような難しい分厚い本を読んで過ごしていた。
今のような無表情で…ね」
海の家での誕生会にて
確かに妹がそんなことを言っていたことを
思い出すイリヤ
「…確かにシロちゃんの言うとおり
セラを説得するために、あらゆる可能性を考慮して手元に置いておいた方がいいと私もセラに言ったことがあるわ」
けどね
とアイリは続ける。
「放っておけなかったのよ。
あの子が…ずっと一人ぼっちでいたことが。
イリヤちゃんと同じ姿で…ね。
その気持ちに嘘はない」
「ママ…」
「それに…」
アイリはイリヤの顔をジッと見つめる。
「…ママ?」
「…いいえ。なんでもないわ」
「?」
首を傾げるイリヤ
「……わたしとしては後半の部分の方が気になってるんだけど」
「…『お母様』のところね」
そんなイリヤを余所に
クロエが話題を変えると
アイリはそれに答える。
「一応聞くけど妄言だとか虚言の類いということは?」
「ない…と思うわ。
あの時のシロちゃんの様子はそんな感じじゃなかった。
それに……事実として一致している点もある」
「…一致している点?」
イリヤが母親のお陰もあり
妹の笑顔についての思考をなんとか区切り
疑問の声を発する。
「『キリツグの理想』…」
「ええ」
クロエの呟きに
アイリは肯定し
『キリツグの理想』について話す。
「『キリツグの理想』…。
簡単に言うとそれは…世界平和、よ」
「世界平和?」
「人類の救済。
あらゆる戦乱と流血の根絶。
それが『キリツグの理想』」
訝しむイリヤに
アイリは説明を続ける。
「キリツグの過去に関わるから詳細は伏せるけど
キリツグはそれを本気で叶えるためにアインツベルンへとやってきたの。
アインツベルンの聖杯にその望みを託すために、ね」
聖杯に託すに相応しい
立派な願いだと
イリヤはただそう思った。
しかし
「けれど私と出会って…そして産まれたイリヤちゃんを見て
キリツグはその願いを捨てた」
「え?な、なんで?」
「…聖杯のシステムよ」
困惑するイリヤに
クロエが説明を引き継ぐ。
「聖杯を完成させるためには聖杯戦争を行う必要がある。
そして、聖杯を完成させたらママは……死ぬ」
「────え」
し、死ぬ…?
ママが…?
「それがアインツベルンの…小聖杯として造られたわたしたちの運命だった」
「そう。つまりね…キリツグが理想を叶えるには
私を犠牲にする必要があった」
だからこそ
「キリツグは自らの理想を捨てて
私と…イリヤちゃんを選んだ。
そしてアインツベルンを滅ぼし、聖杯戦争が起こらないように海外を飛び回っている」
「…」
「…もう全部終わったことだからイリヤちゃんは気にしなくてもいいのよ」
「う、うん…」
二の句を継げないイリヤに
アイリが優しく告げる。
「そう。全部終わったことよ。
でもシロの言い方だとまるで…」
「…ええ。『お母様』と『キリツグ』は
聖杯戦争に参加することを選んだと
そう言っていた」
「そしてシロは…自分のことを『イリヤ』みたいに話していた。
ママも…」
「………少なくとも私も
シロちゃんのことをイリヤちゃんだと感じた」
これらを妄言として流すには
事実関係と酷似しすぎていた。
「で、でもおかしいよ!
だってシロは赤ちゃんだった時には孤児院にいて
それにその後はずっとわたしたちと…」
「ええ。もちろんそれも間違ってない。
あの子は孤児院とそして私達の下で育った」
「じゃあ…いったい…」
シロエとしての過去
それは決して間違いではない。
しかし
それならばいったいどういうことなのか?
その答えにたどり着くことは
イリヤ達にはできなかった。
もしも、ここに
美遊の持つ『平行世界』という情報
ルビー達が持つ『人間ではない』という情報
これらの情報があれば、あるいは
たどり着いていた可能性もあったのだが
詮無きことである。
「今、言えることは」
今ある情報だけでは答えにたどり着けない。
それを察したアイリがまとめに掛かる。
「あの子も造られた存在だということ。
赤ちゃんだった頃から…孤児院で拾われた時には、既にもう意識はあったんだと思う。
そして、自身のことも…自身を造ったのが誰なのかも知っている」
イリヤは思い出す。
クロエと和解する際に垣間見たあの記憶を
自身が赤ん坊だった頃の記憶を
そして
シロエにも同じように赤ん坊だった頃の記憶が…意識があったのだと理解する。
「そして、私達に…イリヤちゃんになにかしらの関係が必ずある。
姿が似ているだけの赤の他人だということは絶対にない」
(シロとわたしの間に…関係…)
「…私がシロちゃんについて知ってることは
これで全部よ」
…………。
暫しの沈黙。
そして
ギリ…
とクロエは歯軋りさせると
アイリ達から背を向け
部屋から出ていこうとする。
「クロ?どこに…」
「シロの部屋」
返された言葉に
目を剥くイリヤ
「さすがにもう帰ってきてるでしょ。
直接、聞き出す。
今なにが起こってるのかも。
あの子自身のことも」
ーーーーーーーーーー
場面は変わり
冬木市の公園にて
「驚いた…というか呆れたわ」
凛が呆れ果てた表情をしていた。
「本当に一文無しなのね。貴女」
「む…」
遊園地にてもらった
ライオン号くんの着ぐるみを身に纏い
ベンチへと横になっているバゼット
そんな封印指定執行者らしからぬ姿を
目の当たりにして呆れているのであった。
「……日本は良い国です。
気候は温暖で水や食べ物が溢れている。
餓死や凍死の心配をしなくていい」
「だからってねぇ…」
ホームレスにしか見えないその状況
しかもまるで気にしていないバゼットに
凛は
「一応、立場はともかく冷徹に職務を遂行する貴女には
魔術師として多少の敬意は感じていたんだけどね」
「心配は無用です」
バゼットは起き上がり
ベンチに腰掛け告げる。
「あと2時間で
わたしのコンディションはベストになる」
バゼットから
発せられる威圧感に
凛はそれが強がりでもなんでもなく
歴とした事実であると理解する。
「……そう。それはなにより」
「それより」
威圧感にたじろぐ凛に
バゼットが問う。
「今夜もあの子供達を……そして、あの青目の少女を使う気ですか」
「……ええ。そうよ」
イリヤ達のことも無論気になるが
完膚なきまでに負かされたバゼットが
口論の末、完全に自身への信頼を失ってしまった凛が
青目の少女…シロエのことを思い返し
それぞれなんとも言えない表情をする。
「……ステッキの力を誰が使おうとわたしの仕事には影響ありません。
あの青目の少女についても契約を結んだ以上
どちらもわたしから協会に報告する気はありませんが…。
いつまでも宝石翁に隠しておけるとは思えませんね」
「……バレたらその時はその時よ」
「確かにあの少女は強い。
しかし、無関係の人間…それも子供を巻き込むなど
それこそ魔術師として敬意は感じられませんが」
「無関係……本当にそうなのかしらね」
「………!?」
凛の呟いた言葉に
目を見開くバゼット
「シロはもちろんのこと…おそらくイリヤとクロ。
それにもしかしたら美遊も
今回の騒動になんらかの関連がある」
「あの子達が…犯人だと?」
「わたしも……その可能性を考えていた。
特にシロ。あの子なら一連の事件を起こすことだって可能だとは思う」
シロエが行使可能な魔術のレベル
凛ではそれを推し量ることすらできないが
だからこそ
カードの制作すらも可能なのではないか、と
その可能性を否定することはできなかった。
「……あの青目の少女は何者ですか?」
バゼットが意を決したかのように尋ねる。
「わたしはこれでも数多の魔術師達と戦ってきました。
確かに中には苦戦したものは多々あります。
しかし、認めたくありませんがあの少女には…」
バゼットが拳を握り締める。
「勝てない…と。
なにをしたところで次の瞬間にはそれを上回られると
何度戦ったとしても絶対に勝てないと
戦闘中であるにも関わらず、そう思わされました」
バゼットは悔しさから
その身体を震わせる。
無理もない。
自身が今まで積み上げてきたものの全てを
文字通り完全に否定されたのだから
「あの少女の持つ力は……危険すぎます」
「……ええ、そうね。それにはわたしも同意見よ」
凛がバゼットの言葉に同意する。
だからこそ
先のような一悶着が起きてしまったのだから
「ならば何故……そんな人間を使うのですか。
リスクがあまりにも大きすぎます」
「……………」
バゼットの問いに
凛は言葉を詰まらせた。
ーーーーーーーーーー
場面は戻り
衛宮邸
シロエの部屋
部屋の主であるシロエは
イリヤのプレゼントした服から
いつもの見慣れた
ワンピース状の飾り気のない質素な薄緑色の服へと
着替えていた。
プレゼントされた服はベッドの上に畳まれて置かれている。
そんなシロエが無表情のまま
見慣れた最低限の家具しかない
殺風景な自身の部屋へと入れたクロエを見ていた。
「あの時あなたが言った言葉、そのまま言ってあげる。
どの面下げてここに来たの?」
クロエとまだ敵対していた頃
シロエとクロエの戦いに乱入してきたイリヤに対し
クロエが言い放った言葉である。
シロエは冷たい視線と共に
そっくりそのまま同じ言葉をクロエへと告げる。
そしてそのクロエの後ろには
内心をハラハラとさせているイリヤの姿があった。
シロエと顔を合わせにくかったが
それよりも、またしても戦いにならないかの心配の方が上回ったのである。
「またわたしを殺しにでもきたのかと思って
部屋に入れてあげてみたら…そんな話をするためだったなんてね」
そんな話。
それは当然、先のアイリ達とのやり取りである。
クロエはアイリ達と話した内容を隠さずに
シロエへと伝えていた。
「…わたしはあんたを殺したいわけじゃないわよ」
「ふーん…」
クロエは否定するが
シロエはどうでもよさそうに空返事をする。
「いずれにしてもあなたに話すことなんて、なにもないわ」
「…ないなんてことはないでしょ。
今、なにが起こっているのか。
あんたには予想ができてるんじゃないの?
それに」
「ない。と言ってるのよ」
クロエがなんとか話を広げようとするが
シロエはそれを一刀両断する。
「………あんた、おかしいわよ。
いったいどうしたっていうのよ」
「………」
クロエの眉間に皺を寄せながらの問いに
シロエは暫し無言になった後
「おかしいのはわたしじゃない……本当に、おかしいのは……」
「…?」
「…」
シロエの漏れ出た呟きに
訝しむイリヤと
無言で見つめるクロエ
そんな二人の視線に気づいたシロエは
目を細めた後
「………なにが起きているか。
確かにある程度の予想はできてる」
「!」
「なら、それを…」
「くどい。話せない、と言ってる。
いつまでこんな不毛なやり取りを続けるつもり?」
突き離すように告げるシロエ
その瞳からは強い意志を感じる。
なにをされても絶対に話さない、と
(
イリヤがシロエの言葉に違和感を感じていると
シロエの強い意志と共に向けられる嫌悪に
クロエは大きく溜め息を吐き
「…………………一度しか言わないから良く聞きなさい。シロ」
「クロ…?」
「一ヶ月前の…あの時のわたしは間違っていた」
クロエの言葉に目を見開くイリヤ
一ヶ月前
それは即ち
イリヤ達と敵対していた頃の話である。
「あの時のわたしはとにかく居場所を求めた。
手段も選ばずに…ね。
居場所を求めてイリヤとそして、あなたを襲った」
途中で襲うのを止めたのは
あくまで凛から呪術を施された結果であり
真っ先に取った手段が暴力による排除であったのは間違いなかった。
「認めるわ。シロ、あなたの言う通りだった」
「…」
「今だから言える。
自分の正体を明かして、ちゃんと本音で話し合うべきだった。
そうすれば、あなたを追いつめることもなく
イリヤ達もわたしを受け入れてくれたと思う」
クロエが突然
敵対していた頃の話を持ち出したのには
理由があった。
「…今のあなたを見てると、あの頃のわたしを思い出す。
誰にもなにも言わずに迷走していたあの頃のわたしを」
一ヶ月前の
一人で全てを抱え込み
イリヤ達へと襲いかかった。
そんな自身の行動が
間違いであった、と
認めるからこそ
「だからこそ、シロには同じ間違いをしてほしくない」
今のシロエの
同じく一人で抱え込んでいる姿を
クロエは放っておけるわけがなかった。
それが大切な妹であるなら尚のこと
「………あなたがわたしのことをずっと嫌いだったのは仕方のないこと。
あんな風に理不尽に襲われて、追いつめられて…
嫌いにならないわけがない」
「クロ…」
「一ヶ月前のことは……謝る。
だから、話してシロ。
あなたの抱え込んでいるものを
わたしたちに全部吐き出して、楽になっちゃいなさい」
クロエのその
見栄を張らない
自分を飾ることのない
正真正銘
心から出した言葉と想いは
「……………はっ」
シロエには届かなかった。
「シ、シロ?」
「やけにしおらしくなったからどうしたのかと思ったら
そういうこと。
あなた…わたしのことを自分と重ねてるんだ?」
なにも話さずに抱え込み
一人で全て決めて行動する姿
ここに存在していること
それ自体がおかしいという事実
そして
「遊園地での…わたしとアイリの会話を聞いて
わたしの正体が、自分とそう変わらないんじゃないかって
そう思ったんでしょ?」
『キリツグ』と『お母様』が
自身よりも…『イリヤ』よりも聖杯戦争を選んだ。
即ち
選ばれなかった『イリヤ』
クロエが
自身とシロエを重ねてしまうのも
無理はなかった。
しかし
「ふざけないで」
「!」
「わたしはあなたとは違う。
あなたは…わたしじゃない」
シロエのクロエへと向ける
嫌悪の視線か強くなる。
「しかもあなたがわたしを殺そうとしたから
あなたを嫌ってるって?
なにもかもがズレてるわね」
「じゃあ…なんだっていうのよ?」
「…」
シロエのそのどこまでも強情な態度に
クロエは、またしても若干イラつきながらも尋ねる。
すると
「『…普通の生をイリヤに歩ませるなら、それもいい』」
聞き覚えのある言葉が
シロエの口から淡々と
無感情に出てくる。
「『わたしには魔術師としての生をちょうだい。
わたしを
一ヶ月前の
エーデルフェルト邸の大浴場にて
クロエがアイリへと叫んだ言葉である。
「……わたしは自分が不幸だったとは言うつもりはないけれど
それでも正直、腹立たしかったわよ。
まるで…わたしの今までを軽く見られたみたいでね」
『アインツベルンに帰して』
それはシロエからしてみれば
あの時、あの状況に置かれたクロエの状況に比べれば
『イリヤ』の方が余程恵まれている、と
『イリヤ』の歩んだ道程とそしてあの結末は
クロエが望みそして欲した幸せなものであった、と
そう聞こえてしまったのである。
「たとえ始まりが同じでも
あなたたちとわたしとでは
歩んできた道程も、培われた価値観も
そして存在も
なにもかもが違いすぎる。
わかり合えるはずがない」
「な、なにを言って…。
わたしとシロはずっと一緒に…」
シロエがクロエを嫌う理由
しかし
それを聞いても二人には理解できない。
イリヤは狼狽え
クロエは目を細める。
「……まるでアインツベルンに居たことがあるかのように言うのね。
それに聖杯戦争のことも」
「………ええ。知ってるわよ。
なんだったら聖杯戦争については
アイリなんかよりも、よっぽど詳しいわよ」
「ママよりも…?」
それはさすがに言いすぎでは?
イリヤはそう思ったが
この世界のアイリは
聖杯戦争を未然に止めているだけで経験はしていない。
当然よね。
参加すれば、その時点で死ぬことは確定するのだから
そんなアイリに
聖杯戦争の知識で負ける気はしない。
シロエは本気で自身の方が詳しいと思っている。
イリヤがそのことを知る由もない。
「シロ…。あなたはいったい…
「何者じゃなくて、
強いて答えてあげるなら…」
シロエがイリヤへと
視線を一瞬だけ逸らす。
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの偽者
ってところかしらね」
「あ…」
『わたしの偽者のくせに!!』
イリヤが
ドッジボールにて
クロエへと言い放った
自身の言動を思い出す。
あの時と違うのは
シロエは自身で認めていることであろうか。
「シ、シロはわたしの偽物なんかじゃ」
「いいえ、偽物よ。
今、この場におけるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンはあなたたち。
わたしはこの場においては偽物。
そして…一つ認めてあげる」
「…なにをよ?」
「わたしは本来ここに存在しているのはおかしいということ。
いえ、或いは…最初から元々いなかったのかもしれないわね」
イリヤとクロエの二人が
ますます意味がわからないと
眉をひそめるが
シロエはそれに取り合わない。
「結局、あなたはなにもわかってなんていないのよ。
アインツベルンのことも
アーチャーのことも
そして、わたしのこともね」
「…………ッ」
「シ、シロ!」
「なにもわかっていないくせに知った風な口を利くあなたが嫌い。
泣き叫べば誰かが助けに来てくれると思っているあなたのことがわたしは…大っ嫌い」
瞬間
堪忍袋の緒が切れたクロエが
右拳を振り上げシロエへと殴りかかる。
しかし
ガッ
シロエはクロエの
右手首を掴み取ると
ドォン!
背負い投げを行い
クロエを床へと叩きつける。
「うぐっ!?」
「クロ!!」
「受け身すら取れないなんて…情けないわね」
「シロッッ!!!!!」
クロの怒りも
遊園地ではママの怒りすらも
シロには届かなかった。
だから
わたしが怒ったところで
ママ達に比べたら、なにも怖くないのかもしれない。
今のシロには………なにも響かないかもしれない。
けれど…!!!
イリヤがシロエへと
無駄だと思いながらも
抑えられない怒気を混ぜて叫ぶ。
しかし
「……………ッ」
(──────え)
シロエの
妹の表情が
ほんの一瞬
僅かに歪み
シロエは押し黙る。
妹の反応が予想外だったイリヤは
怒りを忘れて呆気に取られる。
そして
そうしている間にクロエが立ち上がる。
「ッ。あの時も言ってたわね。
わたしのことなんてなに一つ知らないくせにって
ならわたしだって何度でも言ってあげる」
「…」
「知ってるわよ。イリヤとシロは…わたしとシロはずっと一緒にいたんだから…ってね」
エーデルフェルト邸
その大浴場でのやり取りを
そのまま繰り返すクロエ
しかし
「なら…あなたの知っているわたしってなに?」
「そんなの決まってるでしょ。
楽しそうに馬鹿ばっかりやって
いつも笑顔で元気にイリヤを振り回す。
それがわたしの知ってるあんたよ」
クロエのその答えに
シロエは予定調和の答えだとばかりに
ますます冷めた目でクロエを見る。
「くだらないわね。
やっぱりあなたはなにもわかっていない」
「…なんですって?」
「ずっと笑顔だったからといって
笑っていたとは限らないでしょうに」
ドクン!!
イリヤの心臓が大きく高鳴り
顔色が一気に悪くなる。
そして
「は?それってどういう…」
パシッ
イリヤはクロエの手首を掴み
「ちょ!?イリヤ!?」
クロエを引きずるように
シロエの部屋を後にする。
「……………」
シロエはそれを無表情で見送るのであった。
ーーーーーーーーーー
場面は戻り
冬木市の公園
押し黙った凛を見て
バゼットは嘆息しながら続ける。
「得られるリターンの大きさに目が眩みましたか?」
「…………………………」
畳み掛けられる問いに答えられずに
押し黙る凛
しかし
「それともなにか弱味でも握られ」
「だぁーっ!!もうっ!!!」
突如として大声を出した後、頭を掻く。
そして
「確かに魔術師として行動するなら
あの子を排除するのは正しいやり方よ。
けれど、そんなものは遠坂の…わたしのやり方じゃない!!」
自身の中に蔓延る迷いを捨て去る。
「受けた借りは必ず返す!
あの子はここまでずっとわたしたちに力を貸してくれていた。
その事実を無視して排除するのは筋が通らない!!」
「……それはまた、ずいぶんと甘い結論ですね」
バゼットの批評に
凛は眉間に皺を寄せながら
バゼットを睨むように見る。
「確かにあの子は強い。
扱う魔術も私達が解析できないほどの腕前を持ってる。
その上、普通なら知るはずのないことまで何故か知っている不気味な存在。
そしてその力が、封印指定に引っ掛かったとしても不思議じゃない」
カードの英霊達の能力
そしてなにより、自身の家…遠坂家について
本来知るはずのないそれらの知識を持っている上
子供とは到底思えない程の戦闘力と扱う魔術のレベルの高さ
不気味な存在としか言いようがなかった。
しかし
「けれど、バゼット。貴女も知っているはずよ。
あの子の願いは…貴女と戦った理由は
決して魔術師染みた非道なものじゃなく
どこまでも子供らしく純粋で、優しさに満ちていたものだったって」
「それは…」
姉を、友達を
大切な人達を傷つけられて、怒り
そして
それらを護るために戦った。
その行いは血の通った人間らしく
それを理由にし戦う姿は
どこまでも正しく、そして美しかった。
それがわかってるからこそ
バゼットはシロエのことを脅威には思っていても
決して悪感情を抱いてはいなかった。
あれだけボロボロにされ、当のシロエから逆に悪感情を持たれたしても
仕方のないことだと、受け入れていた。
「だから、決めたわ。
もう迷わない。
わたしは………信じる。
強さも、危うさも
全部わかった上で
シロの…あの子達の意思と
それが導く答えを」
ーーーーーーーーーー
凛が結論を出したその一方
イリヤ達の方では
「イリヤ!!離して!!離しなさい!!!」
イリヤがクロエの手を離したのは
自身の部屋へと連れ込んだ後であった。
尚、荒々しく部屋へと入ってきた二人にルビーはただ困惑している。
「シロは…あの子は真相に確実にたどり着いてる!!」
クロエはシロエのことを
凛の説である事件の黒幕だとは
最初から思っていなかった。
しかし
アイリに聖杯戦争について聞いたのが一ヶ月以上前
そこから判断するのであれば
正しい答えを導き出しているのは想像に難くなかった。
さらに
「それだけじゃない!!
イリヤだって薄々気づいているんでしょ!?
このままいったら、あの子
本当に家から出ていっちゃうわよ!?
それこそ、もしかしたら今夜の戦いが終わり次第」
「クロ!!」
クロエは
最早いつシロエが家から出ていったとしてもおかしくない、と
そう感じていた。
自身が起こした行動
それにより賽は投げられてしまった。
ルヴィアとの契約により敵対はしていないものの
シロエは自身を完全な味方だとは見なくなった。
家族だとは…見なくなった。
出ていく切っ掛けとなるには十分であった。
故にクロエは焦る。
起こした行動が裏目となり
そして、そのまま終わってしまったからだ。
しかし
そんな焦るクロエを押し止めるイリヤ
「シロはこう言った。
話さない。
ではなく
つまりは
「シロには…なにか話せない理由があるんだよ。
クロにだってそれは伝わったはずでしょ」
「………」
それがなんなのか。
無論、それはイリヤにはわからない。
「わかんないことだらけだし
不安要素ばかりで
時間もあまり残されてないのかもしれないけれど」
しかし
「わたしたちだけで答えを見つけよう」
シロに頼らずに
自分達だけで
その答えを見つけ出す。
「きっと…見つけなきゃいけないんだ。
それがどんなものだったとしても──」
なにが起きているのか。
そして
それを見つければ
シロのことも
なにかわかるかもしれないと
「この目で見届ける……!」
そんなイリヤの決意表明に
クロエは
ギリ…。
と歯噛みし
(イリヤか…ミユだったら
今のあの子にだって
声が届くかもしれないのに…!!!)
クロエは気づいていた。
『……無理しなくていい。ミユ』
『………わたしと戦いたくないならリンに手を貸さなければいい』
あれだけ変わり果てても
美遊とイリヤに対してのみは
まだ、どこか遠慮というべきか
冷たくなりきれていない部分が
シロエには確かにあった、と
そして
先のイリヤの怒鳴り声に対しての反応
あれが完全に決め手であった。
しかし
二人に聞き出す気がないということは
とっくにわかっている。
(わたしじゃ……ダメだった)
クロエの胸に
『あなたのなにもかもが…わたしには届かない』
先の戦闘での
シロエの言葉が突き刺さる。
(本当に…なにも届かなかった。
力も、言葉も、想いさえも、なに一つ…。
どうすることも、できなかった……)
ーーーーーーーーーー
場所は戻り
イリヤとクロエが去った後の
シロエの部屋
そこには
コオオオォォォ…
四方の壁、床と天井それぞれに
大きく、それでいて複雑な
幾何学模様の魔法陣が浮かび上がっていた。
「──────…」
魔法陣に囲まれた部屋の真ん中にて
両膝をつき座っているシロエ
瞼は閉じ、両手を組み
口からは綺麗な歌声の如く
呪文が紡がれている。
その様相はまるで祈りを捧げているかのようである。
そして
ギュン
計六つの魔法陣が
収縮しながらシロエの胸へと集まった後
一段と強い輝きを放ち
そして
シロエの胸の中へと吸い込まれ、消えた。
「…………ふう」
部屋が完全に元に戻ると
シロエは両手を解き
その目を開ける。
「…」
シロエはそっと
魔法陣が吸い込まれた胸へと
手を当てる。
やれるだけのことはやった。
この一ヶ月で剣術は取得できた。
度重なる戦闘でこの身体での戦闘も慣れた。
コンディションも万全……ううん。
むしろ、魔力に関しては…
次から次へと、どんどん湧き上がってくる。
今までにない程に、溢れ出そうな程に
どれだけ使ったとしても底が見えないくらいに
身体中に漲っている。
絶好調なのは間違いない。
そして……あまり、考えたくないことだけれど
後は
「金ピカ……」
ルヴィアさんとの契約がある以上
作戦には従う。
契約は…約束は破らない。
けれど、もしも
全ての作戦が破られた
その時は
「わたしは今度こそ、アイツを────」
シロとクロ
白と黒
犬の名前と猫の名前
ほぼ正反対のため相容れない説。
きのこの山とたけのこの里、的な。
たけのこの里こそ至高。(ボソッと爆弾投下)