「──暗くて殺風景……。
エクストラステージにしては華のない舞台よねー」
カンカンカン、と
工事が完了したトンネルを
鉄製の無骨な階段にて
ジグザグと下りていくイリヤ達
イリヤと美遊は魔法少女の服を、シロエは民族衣装を、クロエは赤の外套を
それぞれ身に纏い既に転身している。
「ちょっとクロ。もう少し緊張感もって…」
軽口を叩くクロエを諌めようとするイリヤ
しかし
「後ろにいる誰かさんみたいに
持ちすぎるのもどうかと思うけどー」
「…」
「ク、クロ!」
クロエが後ろにいる
無表情のシロエに皮肉を言うが
慌てるのはイリヤのみ
シロエは完全に無反応。
『公と私は混同しない』
先のクロエとの戦いにて、そう宣言したからか
それとも…。
いずれにしても
クロエへの嫌悪も凛への敵意も
なに一つ感じられなくなっていた。
そんな無反応のシロエに
クロエは面白くなさそうに顔をしかめる。
「はぁ…。確かに本番こそリラックスして臨むべきですが
無駄に煽るのは感心しませんわね」
「…集中するのも大事ってことよ」
「…はーい」
ルヴィアと
頭を冷やした凛が
クロエを諌め
クロエは空返事を行う。
「…手はずは昨日確認した通りよ。
小細工なしの一本勝負」
一同は話しながらも
階段を下りていき
「最も効率的で合理的な戦術…。
すなわち」
そして
「初撃必殺───!!」
カードのある
トンネルの最深部へと
たどり着いた。
…
……
………
イリヤ達が最深部へとたどり着き
後は鏡面界へとジャンプするのみ
なのだが
「そろそろ時間…ですけど」
ルヴィアが懐中時計にて
時刻を確認するも
「………」
「来ませんね」
バゼットがまだ到着していない。
階段を眺めているルヴィアと美遊
「…いなくても作戦に支障はない。
むしろ協力しない分、邪魔まである」
「………遅刻者は、ほっといて先やっちゃおうよー」
「うーん…。それもやむなしかしら…」
クロエは少し逡巡した後、シロエに賛成する形で凛に意見し
凛が頭を掻きながらそれに同意する。
「時間まで、あと5秒…」
ルヴィアが懐中時計を見ながら
カウントダウンを開始した。
その時だった。
「3」
カカンッ
とイリヤ達が下りてきた階段の上部より
足音が聞こえる。
「2」
カンッ、カッ、カカッ
足音の主は
階段の踏み板を使わずに
「1…」
一直線に、垂直に
手摺を足場にし落ちていき
そして
「ゼロ」
ゴオォン…と
足音の主…バゼットが
イリヤ達がいる最深部へと着地する。
「…」
その目は機械的であり
一ヶ月前の襲撃した時と同じ
まさしく封印指定執行者のものであった。
「──始めましょうか」
ルヴィアと凛がその重圧に
冷や汗を掻きながらも
子供達に指示を出す。
(いよいよだ…)
ルヴィアからの指示により
会議中に見せた
鏡面界へとジャンプするための魔法陣を
シロエが展開し始める。
(今夜、この戦いの先に
求める真実がある…!)
イリヤが
魔法陣を展開している
無表情のシロエを見つめながら
気を引き締める。
「配置について!
ジャンプと同時に攻撃を開始するわ!」
凛が作戦の最終確認を行う。
「とにかく最大の攻撃を放つだけの作戦だけど
もし敵からの反撃があったら守りの要はイリヤの物理保護壁よ。
でも、それを別にしてもとにかくイリヤはダメージを受けないように!」
「え、なんで?」
「痛覚共有の呪い!忘れたの?」
「あっ、そうか。わたしが怪我したらクロやバゼットさんまで怪我しちゃうんだ…」
クロエの指摘により
イリヤが呪いについて思い出すが
「そんな
「えっ!?」
バゼットがとっくに解呪していると知り
驚くイリヤ
「…腕は良いが性格が悪いシスターに祓ってもらいました」
(シスター……?)
「驚くほどのことでもないでしょう。
それほど難解な呪いでもありませんでした」
「…初見でそれを見抜けないのもどうかと思うけど」
「ッ!」
「シ、シロ!」
シロエからポツリと呟かれた辛辣な言葉に
バゼットの表情が歪む。
「集中しなさい、シロ。
魔術の展開中でしょう」
「…はい」
「…というかそんな簡単に祓えるものだったの…?
すごい呪いなんだと思ってたけど…」
ルヴィアがシロエを諌め
シロエは頷き口を閉じる。
そしてイリヤからの視線に
凛が顔を逸らし、いたたまれない表情をする。
(でも、それじゃどうして
クロは呪いをそのままにしてるの…?)
イリヤが訝しむものの
そうしているうちに
「ま、呪いがあろうが無かろうが
もはや関係ないわ。この戦いは…」
シロエの魔術が完成する。
「先にカードを手にした者が所有権を得る。
ただ、それだけの勝負よ!」
そして
シロエの掛け声と共に
「──いくよ」
イリヤ達は光に包まれた。
…
……
………
鏡面界へのジャンプ
それは世界がズレていくような…奇妙な感覚
初めてシロが使ったからかもしれないけど
この日のそれは
今までよりひどい長い感じがして…
ようやくズレきった時
そこには
悪意が満ちていた。
イリヤ達が鏡面界へとジャンプすると
そこには
真っ黒な人影と
周囲一帯に黒い霧が広がっていた。
「黒い…魔力の霧!!」
「これってセイバーの時と同じ…!?」
イリヤと美遊が思い出すは
セイバー戦
あの時も黒い魔力の霧が
セイバーを覆っていた。
しかし
「…いいえ。これは明らかに桁違いです…!!」
セイバー戦よりも明らかに
規模が桁違いであり
黒い霧は人影を中心に広範囲へと漂っていた。
「……ッッ」
そんな
予想通りの見覚えのある
嫌気が差す敵の影に
シロエの顔が険しくなるが
敵を前にし誰もそれに気づくことはない。
「惑わされないで!!
敵がどんな姿であろうと、すべき事は同じですわ!!」
イリヤと美遊を鼓舞しながらルヴィアが前に出る。
それと同時に
周囲に漂っていた黒い魔力の霧が杭状となり
上から突き刺すように襲いかかるが
(それ自身が盾となり矛にもなる。
超高密度の霧…!!)
ルヴィアはそれを
かわし、掻い潜り
(これでは最初から敵の胃袋に飛び込んだもの…!!けれど)
手にした宝石を地面へと設置していく。
(もとよりこの程度…想定済みですわ!!)
設置されていく宝石の位置は
適当などではなく
等間隔に、敵を囲うように
ルヴィアは攻撃をかわしながら
宝石を設置していく。
そして
最後の宝石が設置され
「
魔術が起動する。
地面に魔法陣が浮かび上がり
敵を拘束する。
工事中、ルヴィアが現実世界にて仕込んでいた術式
その一つである。
現実世界の影響をそのまま反映する鏡面界
その性質を利用したのだ。
「まずは捕縛成功!!
美遊、シロ、クロ!!配置について!!
イリヤ!!チャージ開始!!20秒よ!!」
凛の合図により
美遊とクロエが左右に別れ
シロエは上空に飛行し
イリヤはルビーを両手で握り魔力を溜める。
「……なるほど。
吸引圧縮型の捕縛陣で敵を一箇所に留めつつ
魔力チャージの時間を稼ぐ。
そして…」
凛は八個の宝石と短剣を取り出し
「
短剣を敵に向け
宝石を短剣にかざす。
すると
「
短剣を起点に
輪っか状の魔法陣が
何重にも凛の目の前に展開される。
その様相はまるで
「砲台…か…!」
「魔力の高速回転増幅路。
…お互い妨害とかしない約束だけど一応忠告しておくわ」
そして
凛の傍らにいた
魔力を溜めていたイリヤが
「わたしたちの前には…出ない方がいい」
その魔力砲を解放する。
ドカアァッ!!!
凛が展開した砲台を通したことにより
威力の低いイリヤの魔力弾が強化され
激しい轟音と共に敵へと迫る。
しかし
「ダメ!やっぱり霧が…!!」
魔力の霧が盾となり
イリヤの強化された魔力弾は敵へと届かなかった。
「いいえ!予定通りよ!!
これで霧は吹き飛ばした!!
あとは…!!」
イリヤの魔力弾は敵には届かなかったものの
周囲の霧を吹き飛ばすには十分な一撃であった。
そして
「仕上げよ!美遊、シロ、クロ!!」
凛の掛け声に
敵の周囲に散らばっていた三人が動き出す。
「
クロエが投影魔術を起動。
その手に黒弓と
そして…聖剣を投影。
さらに聖剣を矢へと変換する。
シロエに放ったものとは違い
折れていない聖剣を使用したため
完全な状態の矢が出来上がる。
クロエはそれを黒弓へとつがえ魔力をさらに込め
矢から黄金色の光が溢れる。
「
美遊がカードケースより
『セイバー』のクラスカードを取り出し
美遊の身体が光に包まれ
青を基調とした衣に聖剣をその手にした
『セイバー』を模した姿へと変わる。
美遊は聖剣を両手で頭上へと構えると
魔力を込め始める。
聖剣から眩いばかりの黄金色の光が放たれ
その光はどんどん強くなり巨大な剣の形となる。
「…」
飛行を行い
敵の頭上へと移動したシロエは
無表情かつ無言で
眼下の真っ黒な人影を冷たい目で一瞥し
右手を左から右へと軽く振るう。
すると
無数のルーン文字がシロエの周囲に浮かび上がり
パキ…パキ…
とシロエの足下に
全長10メートル程の
巨大な氷柱が出現する。
「最悪、カードごと破壊してしまってもいい…!!
撃って!!!」
そして
凛の合図と共に
「
「
「───ひれ伏せ」
クロエから一条の光輝く矢が放たれ、影の下で大規模な爆発を引き起こし
美遊が聖剣を振り下ろし、黄金色の極光が影を呑み込み
シロエの足下の巨大な氷柱が、影の頭上より甲高い音を立てながら落ちた。
ひれ伏せとか
金ピカに理性があったらぶちぎれてそうですね。