プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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乖離剣

 

 

「や…やったの…?」

 

 

クロエ、美遊、シロエの三人による同時攻撃

先にあれだけのいざこざを起こしていたにも関わらず

三人の息は完璧に合っていた。

そんな三人の同時攻撃により発生した

途轍もない爆風と衝撃音を前に

星型の障壁を前方に展開し

やり過ごしたイリヤ

後ろにいる凛と共に当然無傷である。

人影のあった場所にはもくもくと

土煙が立ち込めている。

しかし

 

 

「「「………」」」

 

 

攻撃を行った三人の顔は晴れない。

そして

土煙が徐々に晴れていく。

すると、そこには

 

 

「盾…ッ!?」

 

「いったいどこから…!?」

 

 

大きく堅牢で

優美な装飾が施された盾

突如現れた盾に

自分達の必殺の攻撃が防がれてしまったのだと

イリヤが驚き、凛が顔を険しくさせるが

土煙が完全に晴れ、全貌が明らかになる。

 

盾は合計三つ。三方向に展開されており

クロエの矢を防いだ盾はほぼ無傷。

美遊の聖剣による極光を防いだ盾はボロボロで今にも崩れ落ちそうだがギリギリで持ちこたえた。

しかし

 

 

「グ、オオオォォォ…」

 

 

上部に展開された

シロエの氷柱を防ごうとした盾は

氷柱が盾を貫通し

そのまま影の背中から右胸へと

突き抜けていた。

 

 

「「「!?」」」

 

 

尚、理性が無くても意地からか

影は衝撃で膝を曲げているものの

地面へと膝をつけているということはなかった。

そして、無論

イリヤ達が驚愕したのは、そんなことではなく

 

 

(わたしや…ミユの全力でも壊せなかったのに

あんな氷柱で!?)

 

(爆発や斬撃よりも

刺突の方が貫通しやすいのはわかるけど

いくらなんでも…!?)

 

 

クロエが見たところ

三つの盾の性能にそこまで差はない。

どの盾も自分達の全力を防ぎきることが可能である。

にも関わらずシロエのみは

その盾を貫通してのけた。

 

シロエが放った巨大な氷柱の攻撃

一見するとただの氷の大質量による攻撃にしか見えないが

その実

スカディの魔術による攻撃(もっと具体的に言うのであればEXアタック)

それを神霊級魔術により再現したものであった。

そうして生み出した巨大な氷柱

さらにその先端の一点にのみ聖剣を振るった美遊をも超える膨大な魔力を注ぎ込み

貫通力を極限まで強化。

その結果、盾を貫通し敵にまで氷柱が届いた。

決して何の変哲もない氷柱による攻撃ではなかったのである。

しかし

イリヤ達の中にそれに気づけた者はいない。

 

そして

氷柱が盾を貫通し

敵へと突き刺さったにも関わらず

シロエの表情は険しい。

それもそのはず

 

 

(貫通できたけど盾の所為でカードから僅かに逸れた…!

スカディ(お義母さん)だったら今の一撃で終わってたのに…!!)

 

 

歯噛みするシロエ

すると

 

 

「───…」

 

 

影が呻き声を止め、宙を見上げる。

上空にいるシロエと視線が交差し

シロエは冷や汗を一筋掻き

影の方は

理性は無論なく表情さえもわからないが

シロエを見て、どこか驚いているような印象を受けた。

そして

 

 

「……グオオオオオォォォォォッッ!!!」

 

 

影が咆哮を上げると

またしても大量の魔力の霧が影から放出され

突き刺さった氷柱を粉々にする。

更に大量の霧は再び刃や杭となり

周囲に放たれる。

シロエは目を細めながら右手を影へと向ける。

しかし

 

 

「!」

 

 

シロエの手がピタリと止まり

視線が影から逸れる。

視線の先には───

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

 

美遊が聖剣を地面に突き立て

荒い息を吐く。

そして

 

 

「う…!!」

 

 

美遊の呻き声と共に

排出される『セイバー』のカード

と同時に美遊は地面に膝をつく。

 

 

「美遊様!」

 

「大、丈夫…。また、魔力切れになっただけだから

サファイア、急いで魔力供給を」

 

「はい!」

 

 

美遊が地面に落ちた『セイバー』のカードを拾いながら指示を出し

サファイアは魔力供給を開始しようとする。

しかし

 

 

「グオオオオオォォォォォッッ!!!」

 

 

それより速く

影が咆哮を上げ

大量の魔力の霧で出来た杭が

美遊にも襲いかかる。

 

 

「あ…」

 

「「ミユ!!」」

 

 

イリヤ達が焦るが

美遊は魔力切れで動けない。

しかし

 

ガギギンッ!!!

 

美遊に迫った杭を叩き落とす音

それは

 

 

「シ、シロ…」

 

「…」

 

 

シロエであった。

先のいざこざがあったにも関わらず

美遊を助けにきたシロエ

そんなシロエが少し予想外だったのか

美遊が遠慮がちに声をかけるが

シロエは返事をせず美遊の目の前に陣取り

大剣を振るい次々に迫る杭を叩き落とす。

そして

 

 

「…斬擊(シュナイデン)!!」

 

 

一瞬の隙をつき

大剣を横薙ぎに一閃

巨大な魔力の刃を放ち

魔力の霧を再び吹き飛ばす。

攻撃が止むとシロエは美遊を抱え

イリヤ達の下へと合流する。

 

 

「よ…よかったぁ…ミユ…」

 

「よくやりましたわ!シロ!!」

 

「あ、ありがとう。シロ」

 

「…」

 

 

安堵の声を出すイリヤ達と

お礼を言う美遊だが

シロエは無言のまま敵を睨みつけるように見る。

とはいえ

 

 

「退却よ!!作戦は失敗!!戻って立て直しを──」

 

 

最初の一撃で仕留めきることが出来なかった。

凛は作戦が失敗したと判断し撤退を決める。

幸いにも

クロエとルヴィアもイリヤ達の下へと合流していた。

全員が一箇所に集まり、このまま離界(ジャンプ)すれば全員脱出することが可能である。

しかし

 

 

「では、次はわたしの番ですね」

 

 

バゼットがそれを聞く道理はない。

バゼットは一直線に敵へと走り出す。

 

 

「あいつ……!!単身で突っ込む気!?」

 

 

一人で敵へと走り出したバゼットを見て

焦るイリヤ達

 

 

「ミユとシロはみんなを連れて脱出して!!

わたしはバゼットさんを…」

 

 

イリヤが美遊とシロエに脱出を促し

飛び出そうとする。

しかし

 

ガシッ

 

とイリヤの手首を掴む手

それは

 

 

「…ッ」

 

「シロ…?」

 

「行っちゃ…ダメ」

 

 

クロエとやり取りしていた時とは違う

シロエの絞り出すかのような声とそしてその様子に

イリヤが困惑する。

 

 

(シロ…。あんた、やっぱり…)

 

 

イリヤと美遊に対する羨望からか

クロエが目を細める。

 

イリヤが困惑している間に

バゼットが敵へとたどり着こうとしていた。

美遊達の攻撃を防いだ巨大な盾

バゼットはそれを跳び越え、敵へと襲いかかろうとする。

上部に展開された盾は

シロエに貫かれたからか既に消失している。

バゼットを止めるものはなにもない。

そのはずだった。

しかし

 

ドスッ!!!

 

バゼットが盾を跳び越えた瞬間

バゼットの両手両足そして腹部に

いくつもの剣が突き刺さった。

 

 

どこから?どうして?

──いや、考慮すべきはそこではない。

この全身に突き刺さった剣は

硬化のルーンを組んだ手袋(グローブ)

タングステン鋼を超える硬度のそれを

やすやすと貫いたこれらは……ッ

 

 

バゼットが落ちながらも

自身を貫いた武装の正体について思考を回していると

 

 

「ギッ…ィィィア゙ァ゙ア゙ア゙ア゙!!!」

 

 

影が咆哮を上げると

盾は消失し

影を中心に黒い泥が地面に広がる。

そして、その黒い泥から

剣、槍、斧…無数の刃が湧き上がり宙に浮く。

そして、それと同時に

 

ゴシャッ

 

と、いくつもの剣に突き刺されたバゼットが

地面へと墜落する。

 

 

「なに……あれ」

 

 

そんな無数の武装を目の当たりにしたイリヤが

 

 

「なんなの!?なにが起こってるのッ!?」

 

 

シロエの様子など頭から吹き飛ぶほどに驚愕する。

そんな中

 

 

「刺創……八箇所。

うち、致命は腹部のニ創…」

 

 

バゼットが苦しそうな声を出しながらも

なんとか立ち上がる。

身体中に刺さった剣は

全て跡形もなく消失していた。

しかし

 

ヒュカッ

 

宙に浮いた無数の刃

そのうちの一本の剣が

バゼットへと飛来し

 

 

「バゼッ…!!」

 

 

バゼットの心臓を貫いた。

 

 

「心臓…!!あれはもう…!!」

 

「いいえ…まだよ」

 

「…」

 

 

凛が険しい顔でバゼットの死を予感するが

クロエがそれを否定する。

シロエも無言だが当然気づいている。

 

 

「条件…完了…」

 

 

そんな二人の予想通り

バゼットの身体を無数のルーンが包み込む。

そして

敵へと距離を詰めると

影の首元を鷲掴みにし

 

ドゴンッ!!

 

壁へと叩きつける。

 

 

「蘇生の、ルーン…!!」

 

「…やっぱりあの女も大概バーサーカー女よね」

 

(も…?)

 

 

シロエからバゼットとの戦闘時に

使用されたと話には聞いていたものの

実際にその目で見た凛は

信じられないという表情でバゼットを見ており

クロエはそんなバゼットもまたバーサーカー女だと評し

シロエはクロエの発言に訝しむが、それが自分のことだとは気づかない。

 

そんな一行を余所に

バゼットは影へと拳を叩き込み続ける。

しかし

バゼットがその拳で影に損傷を与えた次の瞬間には

 

ギュルルッ

 

とすぐさまに修復されてしまい

ダメージはなかったことにされてしまう。

 

 

(駄目だ…!!

いくら損傷を与えても莫大な黒い魔力が身体を修復していく。

加えて…)

 

 

バゼットの足下

広がった泥から

 

ジャギンッ!

 

と無数の刃が飛び出すが

バゼットはそれをバク転をして回避。

しかし

 

 

「くっ…!!」

 

 

上空より絶え間なく

降り注ぐ無数の刃

バゼットはそれを回避していくが

その表情は険しい。

 

 

「…けど、無理だわ。いくらバゼットが英霊じみた力を持っていても絶対に敵いっこない」

 

「!?どういう…」

 

 

英霊はそれぞれに己が伝説を象徴する武具──『宝具』を持っている。

それは原則として一人に一つ

多くともせいぜい三つ。

……だが

 

 

「何の冗談って感じ。アレが何なのかわかる?」

 

 

ああ……。数えるのも馬鹿らしい──。

 

 

バゼットが睨みつけるように

宙に浮く無数の刃を見上げる。

 

 

「この全てが宝具なのか…!!」

 

 

クロエの解説とバゼットの看破に

イリヤ達は驚愕に目を見開く。

 

 

「宝具…!?

あの一つ一つがエクスカリバーやゲイボルグのような…!?」

 

「そんな…ありえません!!」

 

 

動揺する一同。

しかし

 

 

「狼狽えないで」

 

 

衝撃の事実にも関わらず

あらかじめ知っていたシロエはまるで動じていない。

 

 

「確かに全部宝具ではあるけど、ただ所有しているだけ。

今まで戦ってきた英霊のようにその性能を完全には引き出せない。

精々が今のように投げつけるくらいしか出来はしない。

宝の持ち腐れもいいところよ」

 

「シ、シロ…?」

 

 

明らかにとんでもないことにも関わらず

シロエはどこまでも平坦な声で無表情のまま辛辣な言葉を吐く。

そんないつも以上に刺々しいシロエにイリヤが困惑するが

 

宝の持ち腐れ。

シロエの批評に影は激怒したかのように

無数の宝具がシロエ達にも向かう。

 

 

「来ましたわ!!」

 

「ルッ…ルビー!!物理保護…」

 

「そんなの効くわけないでしょ!!」

 

 

慌ててイリヤが障壁を展開しようとするのを

クロエは制し一歩前へと出る。

そして宝具相手には宝具と

 

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!」

 

 

四枚の花弁の形状をした光の盾を上部に展開し

降り注ぐ無数の刃を防ぎにかかる。

しかし

 

 

「ぐ……ッ!!ダメ…ッ!!

いくら性能を完全に引き出せないからって…これじゃ…!!」

 

 

このままでは盾が持たない。

イリヤ達から見てもそれは明らかであり

花弁は見る見るうちに減っていく。

焦ったクロエは

 

 

「シロッ!!大口を叩いたからには手を貸しなさい!!」

 

 

シロエにも障壁を張るように伝える。

力の正体こそ不明だが

だからこそ、シロエにも手伝ってもらえれば防げるかもしれない。

そう判断したからだ。

問題は、シロエが自身を嫌っているという事実。

故にクロエは煽るような形でシロエに協力を要請する。

そんなクロエの要請にシロエは

 

 

「…」

 

 

無表情のまま

クロエと近づき

 

 

「ちょ!?」

 

「シロ!?」

 

 

そのままクロエを一瞥もせずに追い抜き

崩れかかっている盾の前へと出る。

すると、当然

無数の刃の前に身を晒すこととなる。

しかし

 

ガギギギギギギギギギギィンッ!!!

 

 

「え…!?」

 

「な───!?」

 

 

シロエは

雨のように降り注ぐ剣、槍、斧…その全てを

手に持った大剣で叩き落としていく。

イリヤ達はもちろんクロエが展開した光の盾にすらも

一本たりともその刃が到達することがなくなる。

 

 

(速度…、重さ…、弾幕の密度…。

全て想定の範囲内。

これなら…問題なく、捌ける…!!)

 

 

シロエは一本一本の迫りくる刃の動きを見切り、叩き落としながら

事前の想定は超えていないと

内心安堵する。

 

シロエは約一ヶ月前から

金ピカ…英雄王と戦う可能性が浮上した日から

英雄王との戦いを只管にシミュレートしてきた。

記憶にあるバーサーカーへと放った『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

その速度。その破壊力。その手数。

それらを何度も何度も思い返しながら

何百回…否、下手をすれば何千回と

その成果がこうして現れているのである。

 

もっともそんなことは知る由もないイリヤ達は

ただただ目の前の光景に呆気に取られる。

 

 

「─────」

 

 

それはクロエも同様であり

シロエに協力を要請したのは

同じく障壁を張ってもらうか

もしくは魔術で補助をしてもらうのが目的だったのであり

このような力押しによる解決法に打って出るとは

しかも、一人で防げるとは思いもよらなかったのである。

そして

そんな中、イリヤは

 

 

『一人でなんとか出来るのならそれに越したことはない。

一人でやった方がいいに決まってる』

 

 

以前、夏休みの宿題をやっている最中にクロエへと言った

シロエの言葉がイリヤの頭の中によぎった。

 

 

(………やっぱり、わたしが心配する必要なんてなかったのかな)

 

 

頼もしさよりも、虚脱感が

イリヤを襲う。

 

 

「───…ッ!!

イリヤ、ミユ!!どっちでもいいから今のうちに脱出して!!早く!!」

 

 

クロエはいち早く我に返ると

鏡面界から離脱するように指示を出す。

そんなクロエの指示にイリヤ達は我へと返る。

 

 

「美遊様!魔力供給は完了しています!!」

 

「…離界(ジャンプ)!!」

 

 

サファイアからの報告に

美遊が鏡面界からの脱出を行う。

美遊達は光に包まれる。

 

 

(離界(だっしゅつ)しましたか)

 

 

当然のことだが

一人で突貫していたバゼットは

離界(ジャンプ)の範囲外である。

バゼットは降り注ぐ刃を躱しながら

美遊が行使した離界(ジャンプ)の光を視界の端に捉える。

 

 

(…これでわたしには、あの怪物を倒す以外の選択肢がなくなった)

 

 

躱し続けるバゼットが

鬱陶しくなったのか

影は

 

 

「ィィッ……ォォオァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」

 

 

咆哮を上げ

影の背後に泥が広がり

そこから夥しい量の宝具を撃ち出す。

避ける隙間などない程に

しかし

バゼットは一切退かずに

影に向かって

迫りくる宝具に向かって

全速力で前進する。

 

 

(さあ───『詰め』だ)

 

 

構える右拳に

三つの鉄球が浮ぶ。

そして

バゼットが右拳を振り抜くと

放たれる三つの鉄球

無論

撃ち出されたそれらの鉄球は

無数の宝具に呑み込まれる。

しかし

そうして発生した隙間

バゼットはそこに身体を捩じ込み

さらに前進し

 

ダンッ!

 

再び影の目の前へと辿り着く。

バゼットの身体には薄い切り傷や擦り傷がついているが

五体満足無事である。

 

 

(これが最後…!!

この先、勝機は二度と来ない!!

ここで───仕留める!!)

 

 

バゼットは左手の手刀に力を込める。

しかし

 

バゼットの額へと撃ち出される一本の槍

 

 

(────。一手、届かな…)

 

 

完全にここで仕留める気であったバゼットに

これを防ぐ手段はない。

バゼットは死を予感した。

しかし

 

ギィン!!

 

バゼットの命を奪うはずだったその槍は

飛来した矢により弾かれた。

 

 

「!!?なっ…」

 

 

薄皮一枚のみで済み

額から血を一筋流しながらバゼットが驚く。

その矢を放ったのは

 

 

「まったく、世話が焼けるわ」

 

 

クロエであった。

隣にはイリヤとシロエもいる。

 

脱出したのは美遊と凛、ルヴィアの三人のみであり

イリヤとクロエ、シロエの三人は離界(ジャンプ)の直前に

魔法陣から出ていたのである。

 

影は邪魔をしたイリヤ達を一瞥すると

大量の宝具をイリヤ達に向かって放つが

 

 

「…」

 

 

ギギギィン!!

 

無表情のシロエが

またしても叩き落とす。

さらに

 

キキキキン!

 

イリヤが影の両手両足に

星型の障壁を展開し

影の身動きを封じる。

 

 

「バゼットさん!!お願い!!」

 

 

予期せなかった子供達の援護に

バゼットは驚く。

 

 

「…まさか子供に助けられるとは」

 

 

バゼットは足を大きく広げ

姿勢を低くし

 

 

「《硬化》、《強化》、《加速》、《相乗》…!!」

 

 

左手の手刀にルーン魔術を施す。

そして

 

ドスッッ!!!

 

バゼットの左手が

影の左胸…心臓を貫いた。

バゼットの左手には

抉り出した八枚目のカードが握られている。

 

 

「あれは、シロに使おうとした……!?」

 

「決まった…!?」

 

 

完全にバゼットの左腕が

影の心臓を貫通している姿を見て

シロエにそれが決まらなくてよかったと

改めて安堵するイリヤと

今度こそ、これで終わったかと

歓喜するクロエ

しかし

 

 

「…」

 

 

シロエの顔は険しいまま

無言で影を見ている。

 

 

(獲った。八枚目のカード

クラスは…)

 

 

バゼットも

これで終わったとばかりに

貫いている左手にあるカードのクラスを確認する。

クラスカードには

 

 

(アー…チャー…!?)

 

 

Archer(アーチャー)』と記されていた。

しかし

バゼットがその表記を確認した次の瞬間

 

 

「グ…ア゙ァ゙ァ゙ア゙ァ゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」

 

「!!!」

 

 

影が咆哮を上げ

泥が影の周囲を渦巻き

バゼットはカードを離し距離を取る。

 

 

「そんなッ…」

 

「バカな…!!

カードを抉り出されて、なお…動けるのか!!」

 

 

驚愕するバゼットとクロエ

そうしているうちに

バゼットが空けた影の胸の大穴から

泥が伸びカードへと纏わりつく。

 

 

「セイ…ハ…イ…」

 

 

影から発せられた声に

目を見開くイリヤ達

そして

 

影の前に

地面の泥から現われる

螺旋状の剣

 

その剣はイリヤ達に

根源的な恐怖をもたらした。

影が螺旋状の剣を手にすると

剣は回転を始め

紅の暴風が発生する。

 

 

「イリヤッ!!離界(ジャンプ)して!!今すぐ!!!」

 

「バ、バゼットさん!!!」

 

 

イリヤの呼びかけに

流石のバゼットも応じ

イリヤ達の下へと走る。

しかし

たどり着いた瞬間には

影の手にした剣はさらに回転を増し

紅の暴風が渦巻き

影は剣を腰だめに構える。

 

 

「ルビーッ!!!早くして!!!」

 

「い、今やってます!!!」

 

 

今にも解き放たれそうな原初の地獄に

遺伝子からの警告に

イリヤ達は恐怖し焦燥する。

その時

 

 

「ッ!!」

 

「シロッ!?」

 

「バッ!?戻りなさい!!!」

 

 

シロエが一歩前へと出る。

無理だ。なにをしたところでアレの前には、全てが切り裂かれる。

クロエとバゼットは勿論のこと、イリヤですらそれを理解できていた。

しかし…シロエはそれらの声を遮断、イリヤ達と同じく焦りそうになる心を必死になんとか抑えながらも、目を閉じ意識を限界まで集中させる。

すると

 

───カチリ、と

 

シロエの中で、なにかのスイッチが入ったような音が聞こえた気がした。

そして

 

 

「真名───凍結展開」

 

 

記憶から呼び起こしたものは

異聞帯(ロストベルト)にて出会った

 

 

「これは多くの道、多くの願いを受けた幻想の城───」

 

 

世界の終焉にも等しい

絶望的な状況を前にしても

挫けず、屈さず

決して立ち止まることなく

大切な人(マスター)と共に歩みを進める無垢なる少女

 

 

影が剣を突き出し

紅の暴風が解き放たれる。

しかし

その、刹那

 

 

「───呼応せよ!!いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)!!!

 

 

シロエが目を見開き、両手を前方へと突き出すと

バグの入ったポリゴンのようなものが入り混じった

歪だがどこか荘厳さが感じられる

氷の城が顕現する。

そして

 

ドゴオオオオォォォォォォンッッッ!!!!!

 

影の放った紅の暴風が

シロエの創り出した氷の城に直撃する。

しかし

 

 

「受け……止めた……?」

 

「あの、一撃を……?」

 

「シロ…!!」

 

 

周囲が原初の地獄に呑み込まれる中

氷の城の内部にいる四人には

紅の暴風は届かず無事であった。

間違いなく神話に刻まれているであろう規格外な敵の一撃

それを見抜いていたバゼットとクロエは唖然とし

イリヤはただただシロエの背中を見つめることしか出来ない。

その時

 

 

「ギ、ガアァアァァア゙ァ゙ア゙ァ゙ァ゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ッッ!!!」

 

 

この結果が認められないかのように

影が更に咆哮。

暴風は勢いを増し、紅い魔光が煌めく。

すると

 

ピシ……パキッ

 

影が込めた魔力を増した所為か

それとも

神霊級魔術を用いた強引な再現だったからなのか

イリヤ達を護る氷の城

そのあちこちに亀裂が入り

シロエが後方へと僅かに押し込まれる。

 

 

「ぐっ…」

 

 

シロエは両足に力を込め踏ん張る。

 

 

「…ルビー、早くして。押し切られる」

 

「は…はいッ!!!」

 

 

バゼットとクロエ同様に唖然としていたルビーだったが

シロエの言葉に我へと返り

急ぎ術式を組んでいく。

そして

シロエが耐えている間に

ルビーの術式が完成し

 

 

「…離界(ジャンプ)!!」

 

 

イリヤ達は光に包まれ

鏡面界を後にした。

 

 

 




補足

前話のシロエの

「───ひれ伏せ」

という発言ですが
スカディのEXアタック時の

「頭が高い、神にひれ伏せ」

から真似たものでした。
金ピカだから煽ったというのも無論ありますが

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