プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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もう一月も終わりそうですが
今年もよろしくお願いします。

題名を変更しました。
旧題:プリヤに白熊を突っ込んでみた
白熊要素があまりにも出てこないので……。




監視者

 

 

地下

トンネルの最深部

美遊と凛、ルヴィアの三人がいる現実世界

 

カッ

 

魔法陣が一人でに地面へと浮かび上がる。

そして

 

 

「イリヤ!!シロ!!クロ…!!」

 

 

イリヤ、シロエ、クロエ

それにバゼットの四人が

鏡面界から現実世界へと帰還する。

 

 

「だ…脱出…できた?」

 

「いやはや…シロさんのお陰でなんとか間に合いましたね…」

 

 

シロエのお陰

それは言うまでもなく

あの氷の城のことである。

あれがなければ完全に原初の地獄へと呑み込まれていた。

ルビーの言葉に安堵したイリヤが

 

 

「……シロ、ありがとう。大丈夫…?」

 

「……………」

 

 

最大の功労者と言っていいシロエへと

お礼を伝えながらも気遣う。

そんなシロエは無言のまま

 

コクン…

 

と頷き、無事であることをイリヤへと伝える。

 

 

「「……………」」

 

 

そんなシロエを

眉間に皺を寄せながら見ている

クロエとバゼット

 

 

「このバカ!!美遊のジャンプ直前で抜け出すなんて何考えてるのよ!!

シロとクロまでついていっちゃうし…無事だったから良かったようなものの…!」

 

「あうう…」

 

 

凛が責め立てるが

慌てるのはイリヤのみ

クロエとバゼットは変わらずシロエを見つめ

そのシロエは二人の視線を憮然とした表情で受け止めている。

 

 

「無事…とも言い切れないようですわね」

 

 

 

困惑と訝しみが混じった視線を送るクロエとバゼット

そんな二人の視線を無視するシロエに

 

 

「いったい何があったんですの?」

 

 

なにが起きたか問いかける。

 

 

「……」

 

「……」

 

「地獄……いや、神話を見ました」

 

 

黙っているシロエとクロエに代わるように

バゼットが話を切り出す。

 

 

「まず、あの英霊の正体は不明ですが…クラスはアーチャーです」

 

「「「!?」」」

 

 

2枚目の…アーチャー…?

 

一同が

特に美遊が驚愕する。

 

 

「そして…比喩でもなんでもなく神話級の一撃を放つことが可能であること」

 

「神話級の…」

 

 

神話級の一撃。

魔術師である凛とルヴィアがその規格外さを理解し

ゴクリと唾を飲む。

 

 

「しかし、それを…」

 

 

バゼットが凛達から視線を逸らし

シロエへと再びその視線を向ける。

 

 

「この少女はそれを……真正面から受け止めた」

 

 

凛とルヴィアが

目を見開きシロエを同じく見る。

 

 

「…」

 

 

周囲から視線を一斉に受けるシロエだが

無表情かつ無言で俯いている。

 

 

「あの氷の城はなんですか?

何故貴女はあれを受け止めることが出来たのですか?」

 

 

封印指定執行者としての性か

さらに詰問するバゼットだが

シロエは

 

 

(…そんなのわたしが知りたいわよ)

 

 

わたしはただ…ルビーの離界(ジャンプ)が間に合わないって判断して

それで………。

持ち得る全ての知識を使って、限界まで集中して障壁を張ろうとした。

その時、ふと

異聞帯(ロストベルト)で出会ったカルデアの…マシュの姿を思い出した。

理由は……マシュがこの場にいたのなら防げるかもしれないって

そう思ったから…だと思う。

そうしたら

 

脳裏に言葉が浮かんで

身体が…動いて

気づいたらあの氷の城を生み出していた。

 

異聞帯(ロストベルト)でカルデアが

巨人王スルトへの…終末への徹底抗戦

そして北欧の女王スカディ…お義母さんとの決戦

それらの戦闘時に見せたマシュの宝具

不安定な…白亜の城

それと形状が完全に同一な氷の城

 

クロの扱う投影魔術は

ランクが下がっているハリボテの状態で投影される。

ランクが高い宝具程それは顕著。

そして、クロの投影魔術とは少し違うけど

わたしの使ってる神霊級魔術でも、やろうと思えば似たようなことは……出来る、とは思う。

ガワだけ似せた事象…所謂もどきなら再現することは出来ると思う。

例を挙げるなら、かつてクロに放とうとした()()()()()

あれが最たる例

聖剣そのものではなく、真名解放による極光の大斬撃。

その斬撃という事象のみを再現したもの。

とはいえ

要の宝具という実物を用意できるわけではない上に

事象もガワのみを似せてるだけ。

再現出来ない部分はわたしのオリジナルを加えた。

つまり肝心の中身である神秘はほとんど別物と言っていい。

当然、再現度はアーチャーのそれに遠く及ばない。

だからこその聖剣もどき。

 

けれど、さっきの城は………。

短時間とはいえ、あの乖離剣を受け止めた。

白亜と氷という違いはあるけれど

中に込められていた神秘はもちろん

かつて見たマシュの宝具、その不安定さすらも再現出来ていた。

それはクロはおろかアーチャーすらも超える再現度で

決してもどきで済ませていい代物じゃなかった。

 

『人が空想できること全ては起こり得る魔法事象』

その理屈で言うのなら

神霊級魔術という規格外の魔術を操る私なら

具体的なイメージさえあれば、大抵の事象は起こせるとは思う。

けれど………。

 

あれがなんなのかは知っている。

だけど…何故出来たのかがわからない。

神霊級魔術を使ったのは確かだけど……。

いくら神霊級魔術とはいえ

英霊の象徴(シンボル)である宝具

その現物も担い手もなしに

あそこまで再現度が高いものが出来るもの…?

 

 

(………正直に言うなら少し釈然としない。

けれど…)

 

 

シロエは思考を打ち切って

周囲をチラリと見る。

見渡す限りの視線

信頼関係など存在しないとばかりの疑惑の視線

 

 

(………黒幕候補のわたしが本当のことを言ったって、信じるわけがない)

 

 

それらの視線を前にシロエは

 

ギュ…

 

と、懐の『バーサーカー』のカードを握る。

 

 

(大丈夫……。わたしは、まだ……)

 

 

シロエは平常心を保ちながら

再び俯きそれらの視線を無視する。

そして

そんなシロエの様子を見ていたイリヤは

 

 

(……なんで、こうなっちゃうんだろ)

 

 

もちろんシロのことは庇いたい。

だけど

シロにわたしの助けなんて必要なの?

そう疑問に思ってしまいイリヤは動けない。

さらに

 

 

(シロ…。『バーサーカー』のカードを…。

もしこのまま使ったら、また…)

 

 

シロエが今にもカードを取り出し

そして使おうとしているように見え、戦々恐々とする。

そんな中、シロエは

 

 

(……というか理性を失ってる方が厄介なんじゃないの?あの金ピカ。

普段なら見下して馬鹿みたいな慢心をしてるくせに

あんなあっさりと対界宝具を…………ん?)

 

 

()()()()…?

 

 

「…」

 

 

バゼットも当然

シロエが懐にてカードへと触れていることに気づいていた。

バゼットは一ヶ月以上前のあの敗戦が頭に過ぎり

そして

 

 

「……貴女と事を構える気はまだありません」

 

 

踵を返し

階段へと向かおうとする。

 

 

「バゼット…?」

 

「あの英霊の強さは我々の想定を完全に越えています。

もはやカードを回収するのではなく別の解決案を模索するべきだ」

 

「そんな…!」

 

「わたしも同感ね。正直二度と戦うのはゴメンだわ」

 

 

バゼットの方針転換に

賛成するクロエ

 

 

「だからってこのまま放っておいたら…」

 

 

バゼットとクロエの言葉に

イリヤが難色を示した。

その時

 

パシッ

 

シロエが左手で

イリヤの手を掴む。

 

 

「?シ──」

 

 

訝しんだイリヤがシロエの名を呼ぼうとする。

しかし

 

シロエは右腕を白熊の腕へと変貌させる。

 

 

「「「!?」」」

 

 

さらに巨大化させイリヤを巨腕の上へと乗せる。

 

 

「シ、シロ…!?」

 

 

続けて驚きながら話しかけてきた美遊を

イリヤと同じように乗せ

 

 

「な…」

 

 

近づくと同時にルヴィアを

そしてさらにクロエと凛を

有無を言わせず計五人を

右腕一本で持ち上げながら駆ける。

そして

シロエはトンネルの壁際へと寄ると

 

ダン!!

 

左手を叩きつける。

シロエの左手を起点に光の線が広がる。

 

 

「!?シロ、貴女それは!!」

 

 

シロエの行動と

白熊の腕を初めて見たことにより

凛と共に呆気に取られていたルヴィアであったが

シロエが自身の用意していた術式を乗っ取り

起動させたことで目を見開く。

ルヴィアから工事前よりトンネルの図面を見せてもらっていたため、術式が仕掛けてあることを知っていたのである。

そして

 

ドドドドドドン!!!

 

トンネルの天井に仕込まれていた宝石が

連鎖的に爆発を起こし

トンネルが崩れ始める。

 

 

「な…!?」

 

 

シロエの突然の暴挙に

全員が目を見開く。

しかし

 

 

「シ、シロ!?待───」

 

 

シロエはバゼットを置き去りにし

飛行を行い、イリヤ達を持ち上げたまま

あっという間にその場を後にする。

 

 

「い、いったいなにを…!?」

 

 

ここでわたしを始末するため…!?

…否!それでは戦闘中にわたしを助けたことに説明がつかない!!

それにあの少女ならば生き埋めになどせずともカードを使い戦闘を仕掛けた方が確実なはず!

ならばいったい───

 

一人取り残されたバゼットが

シロエの行動の意図を汲み取るべく

思考を回転させていた。

その時

 

 

ピシッ

 

 

そんな音がし

バゼットがそちらへと振り返る。

するとそこには

 

宙に罅が入っていた。

 

 

ビキビキ……

 

 

罅はどんどん広がっていき

そして

 

 

バッキャアァン!!

 

 

宙が割れた。

そして

中から現れたのは

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「と…止まって!!シロ!!」

 

 

全力で飛行し

地上を一直線に目指すシロエに

イリヤは焦りながら声を掛けるが

 

 

「…」

 

 

シロエは無言のまま

険しい顔でただ上へと上がる。

あちこちで轟音が響き

トンネルがどんどん崩れていっているのがわかる。

 

 

「シロ!!説明なさい!!いったい───」

 

「やる前に先に言ってもらいたいですね」

 

 

シロエと契約を結んでいるルヴィアが

説明を求めたところで

下から声が聞こえ、視線を向けると

そこにはバゼットがいた。

バゼットは階段の手摺を足場にし

上へと駆け上がって来ていた。

しかし

 

 

「バゼット…?」

 

 

その顔はシロエ同様に険しい。

しかしそれは

シロエの先の暴挙に対してではないように見えた。

 

 

「いったい、なにが…」

 

「…敵が鏡面界を破り、こちらの世界へと出現しました」

 

 

バゼットの報告に

目を見開くイリヤ達

 

 

「あ…ありえないわ!?そんな馬鹿なことが」

 

「事実です。恐らくは…」

 

「…あの宝具…ですね」

 

 

ルビーがバゼットの意を汲み取る。

 

 

「いったい鏡面界(むこう)で何があったの姉さん?

敵も虚軸の移動手段をもっているの?」

 

「…いいえ。わたしたちやシロさんのやり方とはまるで違います。

恐らく…敵さんが最後に出した奇妙な宝具…あの剣が鏡面界(せかい)そのものを切り裂いたのではないかと」

 

「そんなことができる宝具って…」

 

「………対界宝具よ」

 

 

今まで口を閉じていたシロエが

重々しく口を開く。

皆の視線が集中する中で

 

 

「人……あるいは星よりも古い時代

世界を開闢するために振るわれた万物を切り裂く力」

 

 

途方もなく規模の大きな話が展開される。

 

 

「あの宝具を振るわれたら

敵を文字通り所属する世界ごと破壊することができる」

 

「せ…世界ごと…?」

 

「だから…世界である鏡面界を破壊して、こっちの世界に出てくることも可能だと思う」

 

 

シロエの結論に

絶句する一同。

そして理解する。

だからこそシロエはトンネルを破壊し

あの影が出てこれないようにしようとしたのだと

しかし間に合わず

影が出てくる結果となってしまった。

 

 

「……その規格外の宝具を受け止めた貴女はいったいなんなのですか?」

 

「!」

 

 

影の放った宝具の規格外さを知ったバゼットが

尚のことそれを受け止めたシロエを訝しげに見る。

 

 

「いえ、それ以前に…何故貴女はそれを知っているのです?」

 

「…」

 

 

さらに追求をしてくるバゼットに

シロエは再びその口を閉じる。

しかしその顔はしつこいとばかりに

少しイラついているように見えた。

そして

 

 

「…また黙秘するのですか?その情報を事前に公開していれば、このような事態は」

 

「ずいぶんと必死なことね。

そんなに自分の失態をなかったことにしたいのかしら?」

 

 

バゼットを黙らせにかかる。

 

 

「失態……ですって?」

 

「わからないとは言わせないわよ。

さっきあなたはあの英霊のカードを抉り出すことに成功した」

 

 

凛とルヴィアが目を見開く。

そして気づく。

シロエが何を言いたいのか。

それは極めて単純であり

 

 

「あの時にカードを握り潰していれば、それで終わったんじゃないの?」

 

 

シロエからの指摘に

バゼットの顔が歪む。

 

 

「シ、シロ!あの状況でそんな余裕なんて」

 

「カードのクラスなんてものを確認する余裕はあったのに?」

 

「そ、それは…」

 

 

イリヤがシロエに意見しようとするが

シロエはそれを封殺する。

 

 

「カードの"回収"に拘ったか

もしくは、これで終わったと思って油断したのでしょう。

その結果が、これ。

わたしと戦った時もそうだったけど

あなた…詰めが甘すぎるわよ」

 

 

シロエとバゼットが戦った時

それは斬り抉る戦神の剣(フラガラック)がシロエの心臓を貫いた時のことである。

あの時も、これで終わったとばかりにバゼットはシロエから注意を逸らしてしまった。

 

 

「協力はしないなんて豪語しておきながら助けられて

それに対して当然の如く礼すら言わず

挙げ句、自分の失態を見ないようにして他者にその責を擦り付ける。

……いかにも利権争いしか頭になくプライドだけは高い時計塔の魔術師らしいわね。

封印指定執行者が聞いて呆れるわ。

あなた、なにをしにここに来たの?」

 

「ッ!」

 

 

シロエのその辛辣な言葉に

バゼットは悔しげに唇をきつく結び完全に沈黙する。

シロエはバゼットからの追求がようやく無くなり

いつもの無の状態へと戻る。

 

 

「……シロ、わたしなら自分で跳べる。

運んでくれて、ありがとう」

 

「あ…わ、わたしも。ありがとねシロ」

 

「………うん」

 

 

自力で空中を移動できる

美遊とイリヤが

これ以上シロエの負担にならないようにと

イリヤは凛の手を掴み、美遊はルヴィアを抱え

凛とルヴィアは重力軽減の魔術を使用し自分達の重さを軽くし

シロエから離れる。

 

 

「………わたしも自力で登るわ」

 

「………そう」

 

 

残ったクロエも

シロエが自身を嫌っていることを考慮してか

シロエから離れ

バゼットと同様に階段の手摺を足場にし登り始める。

誰もいなくなったシロエは右腕を元に戻す。

 

 

「…いずれにしても」

 

 

ルヴィアが美遊に抱えられながら下を見下ろす。

眼下には瓦礫の山が広がっており

こうして上を目指している間にも瓦礫はどんどん積み重なっていっている。

 

 

「これで終わりですわ。

そんな規格外な宝具を連続で放てるはずがありません。

160万トンのコンクリートと720万トンの地層に押し潰されれば───」

 

 

対界宝具なんていう代物を

連続で放つことなど不可能であり

こちらの世界へと出てきたとしても

この圧倒的な質量の前では

なにも出来ずに押し潰されたであろうと

ルヴィアは勝ち誇る。

しかし

 

 

「いえ…ダメ、かもね」

 

 

凛の不吉な呟きと共に

積み重なった瓦礫を轟音と共に吹き飛ばし

漆黒の船が飛び出してきた。

 

 

「な、なにあれ!?」

 

 

漆黒の船は垂直に

まっすぐに上へと

とんでもない速度で駆け上がってくる。

 

 

「急いでイリヤ!!早く地上へ…!!」

 

 

イリヤ達は更に急いで上へと駆け上がる。

そして

なんとか漆黒の船より早く

地上へと出てくる。

しかし

 

ゴガガガガガ!!

 

そんな削れるような嫌な音と共に

地面が大きく盛り上がっていく。

 

 

「地層を……突き破ってる…!?」

 

「離れて!!」

 

 

シロエの警告にイリヤ達は離れる。

そして

イリヤ達が離れた次の瞬間

 

ゴパッ!!!

 

漆黒の船が地面を突き破り

地上へと出てくる。

 

 

「なんてこと…」

 

 

地上へと出てきた船はそのまま

イリヤ達の遥か上空まで上昇すると漸く停止する。

 

 

「敵が市街地に出てしまった…!!」

 

「90メートルの地層をいとも簡単に…!!」

 

「いくつ宝具を持ってるのよアイツ?

後出しで秘密道具出されちゃ敵いっこないわ!」

 

 

イリヤ達が今いるのは海辺だが

目と鼻の先には一般人が住んでいる家が立ち並んでいる。

そんな家々の上空には巨大な漆黒の船

見上げるだけですぐに目に入る。

魔術の秘匿は魔術師にとっては第一原則

一般人に見られるだけでもまずいのである。

いや、それどころか

 

 

「これじゃ最悪…街に被害が出てしまう!!」

 

 

凛の言葉に

一同は焦り始める。

 

 

「市街地からなるべく離したいところですが…

空中にいる限り手出しできない」

 

 

空中戦が出来ないバゼットが苦々しげに

自身ではなにも出来ないと口にする。

 

 

「……叩き落とす」

 

「シロ!わたしも」

 

「シロ様!美遊様!ですが…!」

 

 

空中へと飛び出そうとするシロエと美遊に

待ったを掛けるサファイア

それは凛達も同じであり

 

 

「危険すぎるわ!」

 

「接敵すれば宝具の投射を誘発するでしょうね。

そのうち一本でも街に落ちたら…」

 

 

このまま空中戦を行えば、あの宝具の群れを投射されるのは目に見えている。

先のようにシロエが弾いたとしても

一本でもそれが街へと落ちてしまったのなら大惨事となる。

とてもではないが空中戦を許可することなど出来ない。

 

 

「で…でもだからってこのまま放っておくわけには…!!」

 

 

このまま放置するわけにはいかない。

そんなことはここにいる全員が理解している。

しかし

 

 

「手詰まりよ!!こんなのどうしようも…!!」

 

 

魔術の秘匿という第一原則は、もはや守ることなど叶わず

イリヤ達はおろかさらに大勢の一般人の命までもが危険に晒されているこの状況に

凛が頭を抱えた。

その時

 

 

「───豚の鳴き声がするわ」

 

 

この場にいる誰のものでもない声に

一同は振り向く。

 

 

「…………は?」

 

 

その人物を目撃した凛はポカンとし

 

 

「まったく…名家の魔術師二人に執行者が雁首並べてピイピイと…」

 

「!?」

 

「あなた…!?」

 

「…」

 

「どっ…どうしてここに…」

 

 

その見知った人物に

美遊とクロエが驚愕し

シロエが警戒するように目を細め

イリヤが代表して疑問を発する。

 

 

「カレン先生!?」

 

 

イリヤ達の保健の先生であるカレン先生がそこには立っていた。

服装はいつもの白衣だが中に着ているものは

イリヤ達が見慣れない黒を基調とした服装であり、()()()()()()()()凛とした雰囲気の服装であると言えた。

 

 

「無様なものね」

 

 

カレン先生は非常に面倒くさそうな表情で

溜め息交じりに凛達を罵倒する。

 

 

「なによ、この無礼な女は!

知り合いなのイリヤ!?」

 

「し、知り合いっていうか…学校の保健の先生で…」

 

 

イリヤが凛に説明をしていると

カレン先生は徐に白衣のポケットへと手を伸ばす。

一同に緊張が走る。

そんな中、取り出されたのは一枚の紙きれ

カレン先生が紙きれを広げる。

紙きれには

 

 

「初めまして。折手死亜華憐(おるてしあかれん)と申します」

 

 

折手死亜華憐と書かれており

マイペースに自己紹介を行う。

 

 

((う…うさんくさい!!))

 

 

緊迫していた空気をぶち壊すような自己紹介が入り

ずっこけそうになる凛とルヴィアだがかろうじて耐える。

そんな全てが面倒くさそうなカレン先生に代わり

 

 

「カレン・オルテンシア。

聖堂教会所属。此度のカード回収作業のバックアップ兼───監視者です」

 

 

バゼットがその素性を告白する。

 

 

「監視者!?聖堂教会が絡んでるなんて聞いてませんわよ!?」

 

 

騒然となる中でシロエは

 

 

(聖堂教会……)

 

 

とある神父の姿が頭の中に浮かぶ。

 

 

「保健の先生っていうのは嘘だったの!?」

 

「嘘というか………趣味?

怪我した子供を間近で見るのが楽しくて。

超ウケる」

 

((この人、やっぱり人格が壊れてる………!!))

 

 

普段の態度が決して嘘偽りではなかったことに

安堵するべきか悩むイリヤ達

そんな一同を尻目にカレン先生は飄々とした態度で話し始める。

 

 

「表立って動くつもりはなかったのですけど

迷える子豚があんまりに無様で可哀想だったものだから…」

 

「なにを…!」

 

 

人を小馬鹿にしているかのような物言いに

凛が噛みつこうとするが

カレン先生はそれを無視し

 

ピシッ

 

と人差し指を上空へと向け

 

 

(こたえ)を見つけるプロセスなんて決まっています」

 

 

凛達へと

 

 

「観察し、思考し、行動なさい」

 

 

今すべきことを告げる。

 

 

「これは基本。

誰であろうとも、どんな存在であろうとも

変わることはない」

 

 

その遠回しに

自身に対してのみ話しているような

あるいは

自身をわざわざ刺激しているかのような言い方に

シロエの眉がピクリと動く。

しかし凛達はそれに気づかない。

 

 

「───『祈りなさい』じゃないの?

教会の人間とは思えない言葉ね」

 

「信仰のない者に教えを説くほど疲れることはないわ」

 

 

凛の皮肉に

カレン先生がどこ吹く風と対応していると

 

 

「………街に、明かりがありません」

 

 

美遊が街の異変に気づく。

 

 

「え?」

 

「点いているのは街灯だけで…建物の明かりは見当たりません」

 

 

凛達が街をよく見てみると美遊の言う通りであり

街に人口的な明かりは街灯しかなく

どの建物からも明かりは点いていなかった。

それは寝静まっているかのようであり

さらに言うのであれば

深夜とはいえ、外を出歩いている人間も一人としていなかった。

 

 

「!言われてみれば確かに…!」

 

「正解。一キロ四方に人避けと誘民の結界を張ってあるわ。

…それがわたしの仕事のひとつだから」

 

(なにそれ…!?

まるでこうなることを想定していたような…)

 

 

用意周到すぎる対応に

訝しむ凛であったが

カレン先生は続ける。

 

 

「さあ、これで一先ず人目を気にする必要はなくなりました。

では、次に見るべきは?

はい、そこの日焼け少女」

 

「日焼け違う!

…あからさまな誘導がシャクに障るわね。

決まってるでしょ」

 

 

クロエは街から視線を上空へと戻す。

そこには悠然と漆黒の船が浮いている。

 

 

「アイツをどうするかよ」

 

「さっきから浮いてるだけで…結局なにもしてないよね」

 

 

イリヤが船を見ながら疑問を呈す。

 

 

「少なくとも無差別攻撃をする意志はない…と?」

 

「まぁ、そういうことに…」

 

 

…………。

──意志…?

『現象』に過ぎないはずの黒い英霊が…意志?

 

 

凛が内心で訝しむ。

 

 

「なにか、アレの意志を推定できそうな情報は?」

 

「情報って言ったって…」

 

「…………セイハイ」

 

 

ルヴィアの議題に

バゼットが情報を提示する。

 

 

「セイハイ………と発声しました」

 

「……!」

 

あの対界宝具を取り出す直前

影が口にした言葉を報告するバゼット。

そして聖杯という単語から

影の狙いを理解するクロエ

 

 

「………なんだ。

ほとんど答えは出ていたんじゃありませんか」

 

 

カレン先生が呆れるように言った。

その時だった。

上空に浮いている船が方向を変え、動き始める。

 

 

「!!う…動いた!?」

 

「どこへ行く気…!?」

 

「ふむ…」

 

 

慌てるイリヤ達に

カレン先生は

 

 

「そこの周りから浮いてる青目の少女。

答えてあげたら?」

 

 

シロエへと話を振る。

イリヤ達はシロエへと一斉に視線を向ける。

 

 

「…………」

 

 

煽るような口振りで話を振られたシロエは

眉間に皺を寄せ、口を開ける。

 

 

「…アインツベルン、遠坂、マキリ。

御三家が運営していた聖杯戦争。

その大聖杯が眠る地…円蔵山の地下大空洞」

 

 

シロエからもたらされた情報に

目を見開くイリヤ達

 

 

「聖杯…戦争…?

遠坂…が、運営?」

 

 

遠坂家でありながら

全く聞いたことすらない情報に

混乱する凛。

そんな凛を余所に

 

 

「やっぱりわかってたんじゃない。なら」

 

「ねえ」

 

 

人を食ったような態度で話すカレン先生に

シロエが

 

チャキ…

 

と大剣をカレン先生へと突きつける。

 

 

「あなた…少し、うるさい」

 

 

そうして放たれる冷たい殺気に

イリヤ達の顔が険しくなる。

しかし

 

 

「…ずいぶんと余裕がなくなってるわね。

まるで、酷い悪夢でも見ているかのよう。

なにか嫌なことでも思い出したのかしら?」

 

 

飄々とした態度を崩さず

シロエを煽り続ける。

そんなカレン先生に

シロエの大剣はピクリと動くが

 

 

「シ、シロ!」

 

「…」

 

 

イリヤからの呼びかけに

シロエは溜め息を一つ吐くと大剣を消す。

矛を収めたシロエにイリヤは安堵する。

しかし

 

 

「あなたって……あれよね。

麻婆好きの人格破綻しているあの神父とよく似てるわ」

 

「え…?」

 

 

シロエのその発言に

イリヤ達は意味がわからず困惑したが

カレン先生は違った。

飄々とした態度に皹が入り

僅かにだが不機嫌そうな表情となる。

 

 

「聖堂教会には、こんなのしかいないのかしら」

 

「……誰のことを言っているのかわからないけど

酷い侮辱だわ。撤回を要求したいところね」

 

 

むっとした表情のまま撤回を要求するカレン先生。

そんなカレン先生の様子に溜飲が下がったのか

シロエはカレン先生から視線を船へと戻し

上空へと浮遊を開始する。

 

 

「シロ!?」

 

「山に入るまで手を出さなければいいんでしょう?

金ピ………敵を追うわ」

 

「待ってシロ!わたしも行く!!」

 

 

シロエが移動する船を追い

それに一歩遅れて美遊もまた上空へと駆け上がる。

 

 

「シロ!!ミユ!!」

 

「わたしも…!」

 

「イリヤ!!」

 

 

空中に飛び出したシロエと美遊に

イリヤが追おうとする。

止めるべきか迷う凛だが

 

 

(くっ……。迷っている時間はない…!)

 

 

時間がない。

このままでは敵はもちろん

シロエと美遊すらも見失う。

 

 

「いい!?追うだけよ!!

わたしたちが追いつくまでは

たとえ山の中に入ったとしても交戦してはダメ!!」

 

 

三人の安全が第一と

交戦禁止の指示を出す凛

そして

イリヤもまた空中へと躍り出る。

しかし

 

 

「あっ……!」

 

 

イリヤはピタリと

空中で動きを停止する。

そして

 

 

「イリヤ…?」

 

「カレン…先生」

 

「!」

 

 

カレン先生へと話しかける。

 

 

「いろいろ聞きたいことはあるんだけど…」

 

「今は時間がないのよ!」

 

 

悠長に質問しようとするイリヤに

凛が叱ろうとする。

しかし

 

 

「わ…わかってる!

だからひとつだけ…!」

 

「…なにかしら?」

 

 

未だに二人を追わず

留まるイリヤに

カレン先生が聞く。

 

 

「……ス…」

 

 

そんなカレン先生に

誰もが気づいていながらも

触れることがなかった事実をここに来て

イリヤが触れる。

 

 

「スカート!はき忘れてませんかッッ!?」

 

 

………………。

カレン先生の服装は

いつもの見慣れた白衣の下に

キッチリとした黒を基調とした服を着ているのだが

一点だけおかしな所がある。

スカートをはいていないのである。

よって

下着が丸見えとなっている。

 

 

「…………これは…」

 

 

イリヤの今さらすぎる突っ込みに

カレン先生は

 

 

「ファッションです」

 

 

僅かに赤面しながらも堂々と答える。

 

 

(言い切った!?)

 

(でも、ちょっと照れてる!?)

 

 

この一連のやり取りに

凛は

 

 

「こっ…この緊急時に…」

 

 

こめかみに青筋を浮かべ

宝石を複数取り出し

左手人差し指へとセットする。

そして

 

 

「余計な突っ込みをしてる場合かーーッ!!」

 

 

空中にいるイリヤへと連続で放つ。

 

 

「ひーーーッ!?

善意で言ったのにーーーッ!!」

 

 

当然のことではあるが

こうしている間にもシロエと美遊はどんどん遠ざかっている。

 

 

「とっとと追えーッ!!」

 

「はいいーッ!?」

 

 

凛の怒号を背に

イリヤは二人を追うのであった。

 

 

 

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