プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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敗北

 

 

深夜0時

冬木市にある鉄骨造りの橋

そのふもとの公園に五人の人影があった。

イリヤ、美遊、シロエ、凛、ルヴィアの五人である。

 

 

「午前0時1分前…

油断しないようにねイリヤ、シロ

敵はもちろんだけど…ルヴィア達がドサクサ紛れで何してくるかわからないわ」

 

(なんでこんなギスギスしてるのかなぁ…)

 

「お二人の喧嘩に巻き込まないでほしいものですねー」

 

「喧嘩するほど仲が良いって…あっ叩かないで、何でもないです」

 

 

凛から手を出しそうな気配を感じたシロエは発言を撤回する。

 

イリヤは既に転身しており、シロエも第三再臨の姿になっている。

シロエの姿を見たイリヤは昨夜のことを思い出し顔をしかめたが、当のシロエの雰囲気は普段通りだったので気にしないことにした。

 

 

「速攻ですわ開始と同時に距離を詰め一撃で仕留めなさい」

 

「はい」

 

「あと可能ならドサクサ紛れで遠坂凛も葬ってあげなさい」

 

「…それはちょっと」

 

「殺人の指示はご遠慮ください」

 

 

そして美遊もまた転身している。

 

 

「いくわよ。3・2・1…」

 

 

午前0時となった。

 

 

「限定次元反射炉形成!境界回廊一部反転!」

 

 

地面に眩しいほどの魔法陣が現れる。

 

 

接界(ジャンプ)!!」

 

 

そして一同は鏡面界へと姿を消した。

 

 

……

………

 

 

5分後

負けました。はい

 

 

「いやーものの見事に完敗でしたね。歴史的大敗です」

 

「な、なんだったのよあの敵は…」

 

「ちょっとどういうことですの!?

カレイドの魔法少女は無敵なのではなくて!?」

 

「わたしに当たるのはおやめください。ルヴィア様」

 

 

ルヴィアがサファイアを掴み横へと引っ張る。

 

 

「ルビーサミング!!」

 

「メガッ!?」

 

 

ルビーの柄部分がルヴィアの右目に突き刺さる。

 

 

「レ、レディの眼球になんてことを…!」

 

「サファイアちゃんをいじめる人は許しませんよー。

それに魔法少女が無敵だなんて慢心もいいとこです」

 

「ごめん。私も無敵だとちょっと思ってた…」

 

「お姉ちゃん…。現実で無敵っていうのは存在しないと思うなわたし」

 

「シロさんの言う通りですよ。

もちろん大抵の相手なら圧倒できるだけの性能はありますが…

それでも相性というものがあります」

 

「…で、その相性最悪なのがアレだったわけ?」

 

 

その言葉に一同は先の戦闘を思い出す。

 

 

……

………

 

 

鏡面界へと接界(ジャンプ)した一同が最初に見たのは

空一面を埋め尽くすほどの大量の魔法陣であった。

そしてその魔法陣に混じるように一人の女性が空に浮いている。

女性はフードで顔は見えず黒いローブを身に纏い杖を片手に持っている。

 

 

「何アレ…?すごい数…」

 

「ねぇルビーこれって…」

 

「そのようですね。どうやら向こうは…」

 

 

イリヤ達に無数のレーザーポインターのような細い光が降り注ぐ。

 

 

「え?」

 

「戦闘準備万端だったようです」

 

 

ルビーの言葉と同時

細い光に沿って無数の魔法陣から極太の光線が発射された。

 

 

「きゃあッ!?」

 

 

間一髪ルビーがドーム状の魔術障壁を張り光線を遮断しようとする。

しかしそれでも障壁を何本かの光線が突破しイリヤ達にダメージを与える。

 

それを見たシロエは右手を地面につく。

すると

 

 

「氷の…壁?」

 

 

氷でできたドーム状の壁が一同を包みこみ

ルビーの張った障壁と合わせて

光線を完全に遮断する。

 

 

「ちょっと寒いけど我慢して」

 

 

確かに少し肌寒いが光線に焼かれるよりはマシである。

 

そうしていると光線は止みシロエも壁を消す。

 

 

「最大出力…!砲射(シュート)!!」

 

 

同時に美遊がサファイアを振り上げ砲撃を行う。

 

 

「ミユさん!」

 

「すかさず反撃ですかやりますね」

 

「遠距離戦なら望むところですわ!撃墜(おち)なさい!」

 

 

ルヴィアが勝ち誇ったように言い

魔力弾が敵に迫る。

しかし

 

 

「……っ!?」

 

 

敵を守るように無数の魔法陣が敵の目の前に浮かび

美遊の放った魔力弾は弾かれてしまう。

 

 

「なっ…弾いた!?」

 

「あれは…魔力指向制御平面!?

まさかこれほどの規模で…!」

 

 

驚愕する一同。

しかし驚いている暇もなく

敵が高速で呪文を詠唱する。

それと同時に竜巻がイリヤ達の周囲に発生した。

 

 

「たっ…竜巻!?」

 

「まずっ…閉じ込められた!」

 

「あ、イリヤさん。上見てください上」

 

 

ルビーに促され上を向くと

一際巨大な魔法陣が敵の眼前に形成されていた。

 

 

「あー…あれは防ぎきれないかも…」

 

「もしかしなくてもDieピンチ?」

 

「完全に詰みですねーこれは」

 

「悠長に話してる場合かー!」

 

「ててて撤退ですわ撤退ーッ!!」

 

 

魔法陣から今にも魔力弾が発射されそうな中

鏡面界からの脱出を決定。

 

 

「反射炉形成!」

 

「早く早く早く!」

 

「境界回廊一部反転!」

 

「早くーーーッ!!」

 

 

魔力弾の発射とほぼ同時に脱出に成功した。

 

 

……

………

 

 

そして今に至る。

 

 

「まるで要塞でしたわ…

あんなの反則ですわよ!」

 

「もう魔術の域を越えてましたね。

シロさんも障壁を張ってくれたお陰で何とか防げましたが」

 

「あの魔力反射平面も問題だわ。

あれがある限りこっちの攻撃が届かない」

 

「攻撃陣も反射平面も座標固定型のようですので

魔法陣の上まで飛んでいければ戦えると思いますが…」

 

 

でもそれには大きな問題がある。

 

 

「…と言ってもねぇ練習もなしにいきなり飛ぶなんて…」

 

 

そう。飛行は高度な魔術。

一朝一夕で飛べるわけがない。

そのはずなんだけど

 

 

「あ、そっか。飛んじゃえばよかったんだね」

 

 

あっさりと飛ぶイリヤ

 

 

「…うそー」

 

「え、なに?」

 

「ちょっと!!なんでいきなり飛べるのよ!?」

 

「すごいですよイリヤさん!

高度な飛行をこんなにサラッと!」

 

「そ、そんなにすごいことなのコレ?」

 

「わたしやルヴィアでもまる一日訓練してようやく飛べるようになったのよ!?」

 

「強固で具体的なイメージがないと浮くことすら難しいのに…

いったいどうして…」

 

「どうしてと言われても…

魔法少女って飛ぶものでしょ?」

 

((なっ…なんて頼もしい思い込み…ッ!!))

 

 

………なんか悔しい。

リンさんやルヴィアさんもルビーとサファイアありとはいえ飛べて

今回の敵…おそらくキャスターだけど、そいつも飛んで

そして今、イリヤもあっさりと飛べた。

これじゃあまるで、ルビーとサファイア、キャスターの扱う魔術がマスターの魔術よりも優れているみたいじゃない。

 

 

「くっ…負けてられませんわよミユ!

あなたも今すぐ飛んでみせなさい!」

 

 

いや、そんなことは断じてない。

マスターの魔術をもっと心から深く信じればできるはず

……………よし

 

 

「人は…飛べません」

 

(なっ…なんて夢のない子供…ッ!!)

 

 

周囲の情報は全てシャットアウト

意識を自分の内側のみに向け集中

まず常識だとか道理だとか

そういったものを全て追い出して

イメージする

あのキャスターのように

重力に縛られず自由自在縦横無尽に

自身が飛び回る絶対のイメージ…!

そして後はマスターの魔術に完全に身を委ねる!!

 

 

「そんな考えだ…か…ら…」

 

「シ、シロ、あんた」

 

 

…意識を元に戻す。

すると

浮いていた。

成功である。

 

 

「いよっっっし!!!やった!!」

 

 

転生してこれほど嬉しかったことはあっただろうか?

いやない!

やっぱりマスターの魔術は劣ってなんかない!!!

 

 

「シロまで飛ぶなんて…

っていうか礼装も無いのにどうやって…?」

 

「シロも飛べたんだからやっぱり魔法少女は飛ぶものなんだよ!」

 

「いやーシロさんは魔法少女じゃないですけどね」

 

「…ミユ、飛べるように特訓しますわよ。

あの二人に負けるなんて許しません」

 

 

そう言うと美遊を掴みルヴィアはその場を後にした。

 

 

「やれやれ…今日はとりあえずお開きね。

明日はちょうど学校休みだし、わたしも色々戦略練ってみるわ」

 

「また明日かぁ…勝てるのかなアレに…」

 

「…気持ちで負けてたら勝てるものも勝てないよお姉ちゃん。それに…」

 

「それに?」

 

 

私の予想通りならここで負けてたらセイバー、ましてやバーサーカーには絶対に勝てない。

 

 

「…ううん。なんでもない」

 

「?」

 

「…まあシロの言う通りよ。

勝つのよ!なんとしても!!」

 

 

そうして今日は解散となった。

 

 

……

………

 

 

翌朝

冬木市の郊外にある林の中

イリヤとシロエの姉妹はそこに来ていた。

 

 

「うーん…。林の中で特訓とか…魔法少女にしてはずいぶん地味だよね」

 

「でもお姉ちゃん。人目につくところでやるわけにもいかないでしょ」

 

「それは…そうだけど」

 

 

そう。わざわざ人目につかないところに来たのは特訓するためである。

 

 

「舞台裏なんてそんなものですよー。

日々の地道な努力がいつか実を結ぶのです。

それではチャチャっと転身して特訓開始といきましょうか」

 

 

そうしてイリヤは転身、シロエは第三再臨の姿に変わる。

 

 

「それで特訓って何やるの?やっぱり飛行の練習?」

 

「一人ならそうするところですが今回はシロさんもいますので模擬戦でもやってみましょうか」

 

「模擬戦…って飛行しながら?」

 

「はい。飛行は大量に魔力を消費しますから

魔力の効率運用が目的ですね。

それに実戦経験も積むことができます」

 

「うん?魔力は無制限に供給できるんじゃなかったっけ?」

 

「確かに魔力は無制限に供給できますが

一度に使える量は個人の資質次第なんですよ」

 

「水道の蛇口みたいな感じね…」

 

「より少ない魔力で飛びつつ

自在に攻撃できるようになりましょう」

 

「ん、了解」

 

「それじゃ早速」

 

 

そう二人は返事すると空へと浮かぶ。

 

 

「あ…とそうだ」

 

 

イリヤが凛から預かったカードを取り出す。

 

 

「リンさんからこれ預かってきたんだけど

試しに使ってみていいかな?」

 

「えっ。うーん…」

 

 

カードには英霊の力が宿っている。

使用したら模擬戦の枠を越えてしまわないだろうか?

と思いシロエは即答できなかった。

 

 

「あらカードですか。いいですよー」

 

 

が、あっさりオーケーを出すルビー

 

 

「ちょ!?ルビー大丈夫なの?あのカードは英霊の」

 

「大丈夫ですよー。あのカードなら」

 

 

あのカードなら…?

疑問に思うシロエを尻目にイリヤは興味津々といった感じで使用する。

 

 

「アーチャーっていうくらいだから弓だよね。

えーと…限定展開(インクルード)!」

 

 

アーチャーのカードをルビーに当てる。

するとルビーの形状が黒色の弓となる。

 

 

「ホントに出た!

これがあれば勝てちゃうんじゃない!?」

 

 

テンションが上がるイリヤ

しかし

 

 

「…お姉ちゃん。矢は?」

 

「え?」

 

 

キョロキョロと辺りを見回す。

当然だが矢の影も形もなく

 

 

「…ルビー。矢は?」

 

「ありませんよ」

 

 

悪びれもなくしれっと言うルビー

 

 

「えええ弓だけ!?全然意味ないよこれ!」

 

(あー…。そういえばアーチャー、聖杯戦争の時も矢は投影魔術で出してたっけ。

確かにこれならルビーが大丈夫って言うわけね。

………うん?弓?)

 

「あ!戻った!」

 

「時間切れです」

 

「はぁ…地道に特訓するしかないね…」

 

「まあ、どんまい。お姉ちゃん」

 

 

労いの言葉をかける妹に返事をしようと目を向ける。

その時、イリヤの思考が少し止まった。

 

 

「え、えーと…シロ、さん?その左手に持っているものは何でありましょう?」

 

「んー…」

 

 

シロエの左手に持ってるものそれは

 

 

「…弓、だね」

 

 

弓であった。

無論先の黒弓ではない。

シロエの服装と同じく青みがかった白を基調とした弓であった。

 

 

「いやそれは見ればわかるよ!

そうじゃなくてそんなのどこから出したの!?」

 

 

それはわたしも知りたいかな。

マスターがいつも戦闘中使ってる弓を出してみただけだし

ホント弓とか大剣とかどこから出しているんだろ?

 

 

「まあそれは置いておいて」

 

「置いておかないで!?」

 

 

右手に青白く輝く矢を生成

左手の弓につがえる。

 

 

「いっくよー」

 

「…へ?いやあのちょ、待」

 

 

右手を離す

矢はイリヤの方に飛んでいき

 

 

「ぎにゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

僅かに逸れて外れた。

 

 

「うーん。やっぱり見よう見まねじゃ難しいか」

 

「打った!ホントに打った!!」

 

「ボサッとしないでくださいイリヤさん!次来ますよ!」

 

「え!?わたしが悪いのこれ!?」

 

「大丈夫!当たっても注射器に打たれるくらいの痛みだから!…多分」

 

「それ結構痛いじゃん!?

後今多分って…ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

……

………

 

 

一方その頃

 

 

「……無理です」

 

「美遊、あなたが飛べないのはその頭の固さのせいですわ」

 

「……不可能です」

 

「最初からそう決めつけていては何も成せません!」

 

「…ッ、ですが…ッ!」

 

 

イリヤとシロエが特訓を行っている林

その遥か上空

そこに美遊とルヴィアはいた。

ヘリコプターに乗って

 

 

「お止めくださいルヴィア様。

パラシュートなしでのスカイダイビングなど単なる自殺行為です」

 

「こうでもしないと飛べるようにならないでしょう!

身体が浮く感覚を実体験でもって知るのですわ!」

 

 

そう。あろうことかルヴィアは美遊を飛べるようにするためにスカイダイビングをさせようとしているのだ。

パラシュートも無しに

 

 

「美遊はなまじ頭が良いから物理常識に捕らわれているんですわ。

魔法少女の力は空想の力…

常識を破らねば道は拓けません」

 

 

しかし美遊は恐怖に震えていてそれどころではない。

 

 

「付き合う必要はありません美遊様。

拾っていただいたご恩があるとはいえこのような命令は度が過ぎています」

 

「さぁ、一歩を踏み出しなさい!

あなたなら必ず飛べます!

できると信じれば不可能など無いのですわ!」

 

「……ッ!」

 

 

そして美遊はこの無茶振りに

 

 

「いえ、やはりどう考えても無理で」

 

 

応えるはずもなく断ろうとする。

しかし

 

 

ぼいん

 

 

無情にもルヴィアの押し出しが入る。

 

 

「すっ…▲□◇●◆○△▼■っっ!!?」

 

「獅子は千尋の谷に我が子を突き落とすと言いますわ…

見事這い上がってみせなさい美遊…!」

 

 

……

………

 

 

(…うーん。誤差は段々と少なくなってきたけど

やっぱりマスターのようにはいかないなぁ。

………ん?)

 

 

その時シロエの目に

上空に小さな点のようなものが見えた。

 

 

「…なんだろ、アレ?っていうか段々大きくなってるような」

 

「す・き・あ・りぃぃぃぃぃ!!」

 

「どわっ!?」

 

 

余程鬱憤が溜まっていたのか大きめな魔力弾がシロエを掠める。

 

 

「ちっ、外したか」

 

「ちょ、お姉ちゃん!タイムタイム!」

 

「ふふふふ、散々待ってって言ったのに止まらなかったくせに何言ってるのかなぁ?」

 

「怖っ!?いやそうじゃなくて、上を見て上を!」

 

「上ぇ?」

 

 

シロエに促され渋々上を見る。

 

 

「んー?何か…降ってき……たあああああ!!?」

 

 

降ってきた何かに対し回避を行うイリヤとシロエ

しかしシロエにはそれが何か見えていた。

 

 

「親方!空から女の子が!」

 

「5秒で受け止めろ!」

 

「いやもう落ちてるから!?…って女の子?」

 

 

落ちてきた女の子?に目を向ける。

 

 

「全魔力を物理保護に変換しました。

お怪我はありませんか美遊様」

 

「な…なんとか…」

 

「ミユさん…!?なんで空から…」

 

「シータになりたかったんじゃない?」

 

「いやそれはもういいから」

 

「あ…」

 

 

今いることに気づいたのか

美遊が飛んでいるイリヤとシロエに目を向ける。

 

 

「…飛んでる」

 

「はいごく自然に飛んでいらっしゃいます」

 

「美遊様ここはやはり…」

 

「…」

 

 

内心葛藤しているのか少し沈黙した後

 

 

「…昨日の今日で言えたことじゃないけど…」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「空が飛べなくちゃ戦えない…

その…教えてほしい…飛び方…」

 

 

恥ずかしいのか少し顔を赤らめながら教えを乞う。

 

 

「と、飛び方?えーと…そう言われても…」

 

「うーん…。強いイメージさえあれば飛べると思うんだけど…」

 

 

逆に言えばイメージがなければ飛べない。

つまりは美遊のイメージ次第なのである。

 

 

「わたしの場合は昨日の敵をイメージの元にしたんだけど」

 

「あの敵は…魔術の域を越えてるから、模倣できる気がしない」

 

「あー…」

 

 

そっか。わたしの場合マスターの魔術知識というバックアップがあったから上手くいったのであって

普通は真似できるとは思えないのか。

 

 

「…イリヤ様は『魔法少女は飛ぶもの』とおっしゃいました

そのイメージの元となった何かがあるのでは?」

 

「お姉ちゃん、もしかしてアレじゃない?」

 

「アレ?あー…アレね」

 

「?」

 

「ねぇミユさん。もしよかったらわたしたちの家に来ない?」

 

「…家に?」

 

「うん。家にね、わたしのイメージの元になったDVDがあるから」

 

「DVD?」

 

 

美遊は訝しんだが他に手段もないかと納得した。

それに

 

 

「…わかった。わたしもシロエに聞きたいことがある」

 

 

……

………

 

 

自宅への帰り道

美遊とシロエは二人で歩いていた。

イリヤには先に家に帰ってDVDの準備をしてもらっている。

 

 

「…聞きたいことって?」

 

 

お互い無言の状態が続いたため

シロエが話を切り出す。

 

 

「…あなたのイリヤスフィールを…姉を護りたいという気持ちはわかる。それこそ痛いほどに」

 

 

話題にこそ出さなかったが美遊にも兄がいる。

だからこそシロエの気持ちが美遊にはよく理解できる。

 

 

「…」

 

「あなたが何者なのか知りたいけど、一昨日の様子からしてあなたはどんなことがあっても喋ったりはしないでしょう」

 

「…うん、そうだね。それで?」

 

 

なかなか本題に入らないためシロエが続きを促す。

 

 

「それでも…これだけは答えてほしい」

 

「…」

 

「あなたは…()()()()()なの?」

 

 

シロエは美遊の質問にすぐに答えず、その意味について思考する。

わたしの敵?

意味はわからないけど、今やっているカード回収任務とは違う気がする。

かといって生前、使い魔になってからミユさんないし似た人物にさえ会ったことすらない。

悩んだ末シロエは

 

 

「…ミユさんにも何かあるってことはなんとなくわかってた。

ライダー戦の時の動き、どう見てもただの子供っていうにはおかしかったから」

 

「…ッ!?」

 

 

美遊が顔を険しくする。

 

 

「でもあなたがわたしを追求しないならわたしも無理に聞こうとは思わない」

 

「…じゃあ」

 

「うん。ミユさんの事情はよくわからないけど少なくともわたしはミユさんが危惧している存在じゃないと思うよ」

 

「…そう」

 

「…話はそれだけ?」

 

 

美遊がこくりと頷く。

 

 

「そう。じゃあ、行こっか。お姉ちゃんが待ってる」

 

 

そしてシロエは美遊を連れて自宅へと戻るのであった。

 

 

……

………

 

 

『雲の中に逃げても無駄だ!この空で散れ!!』

 

 

家に着きイリヤと合流した美遊とシロエはリビングへと行き用意していたDVDを一緒に見ている。

DVDの中身は…マジカルブシドーである。

TVの中でムサシが空を駆け回る映像が流れる。

 

 

「こ…これ…?」

 

「う…うん。わたしの魔法少女のイメージの大元だと思う…」

 

「そういえばDVDまだ途中だったっけ。見ないと」

 

 

凛達が来てDVDの視聴が有耶無耶になっていたことを思い出す。

 

 

「航空力学はおろか重力も慣性も作用反作用すらも無視したでたらめな動き…」

 

「いやー…そこはアニメなんで固く考えずに見てほしいんだけど…」

 

「そうそう。頭からっぽにして見ないと」

 

「このアニメを全部見れば美遊様も飛べるようになるのでしょうか」

 

「ううん…たぶん…無理。

これを見ても飛んでる原理がわからない。

具体的な飛行イメージには繋がらない」

 

 

そう言い俯く美遊

 

 

「必要なのは揚力ではなく浮力だってことまではわかる…けどそれだけではただ浮くだけだから移動するにはさらに別の力を加えるか重力ベクトルを制御するしかないんだけど…でもそんなことあまりに非現実的すぎてとてもじゃないけどイメージなんて…」

 

「いや、あのっ…!」

 

 

理解できない単語の羅列に押し潰されながらもイリヤが声をかけようとする。

 

 

「ルビーデコピン!」

 

「はフッ!?」

 

 

しかしその前にルビーの羽を使ったデコピンが炸裂する。

 

 

「な…何を…?」

 

「姉さん?」

 

「まったくもー。

美遊さんは基本性能は素晴らしいみたいですが

そんなコチコチの頭では魔法少女は務まりませんよー?

イリヤさんを見てください!

理屈や行程をすっ飛ばして結果だけをイメージする!

そのくらい能天気で即物的な思考の方が魔法少女に向いてるんです!」

 

「なんかさっきからひどい言われようなんだけど!?」

 

「あー…。確かにそれはあるかも」

 

「シロ!?」

 

 

魔術を行使するにあたって経過よりもまず結果をイメージするのが大切っていうのに賛同したんだけど

なんか裏切られたっていう声を出されちゃった。

 

 

「いえいえベタ褒めしてるんですよ

頭からっぽの方が夢とか詰め込めるらしいですし」

 

「か、勝手に人をおバカキャラにしないでよ!

これでも学校の成績はかなり良い方なんだからね!

…シロには負けるけど」

 

「体育ならお姉ちゃんの方が上でしょ?」

 

「フォローしてくれてるってわかるけど嬉しくないっ!」

 

 

とは言ってもマスターからの知識ありきだからあんまり誇れないんだよね。

 

 

「そうですね…美遊さんにはこの言葉を送りましょう

『人が空想できること全ては起こり得る魔法事象』

私達の創造主たる魔法使いの言葉です」

 

 

……………

ルビーなのに結構核心をついたことを言うのね。

いや、言葉自体は魔法使いの言葉…か。

魔術師じゃなくて魔法使いね。

わかってたけどルビーとサファイアの制作者って相当な大物みたい

 

 

「…物理事象じゃなくて?」

 

「同じことです。

現代では実現できないような空想も遠い未来では常識的なのかもしれません。

それを魔法と呼ぶか物理と呼ぶかの違いです」

 

「まあ…つまりアレでしょ?

考えるな!空想しろ!

とかいう…ってうわー…すごく納得いかないって顔ですね…」

 

「……………」

 

「お姉ちゃん…。それはちょっと違う気が…」

 

 

そりゃミユさんもこういう顔になるよ。

 

 

「うー。じゃあそういうシロは何かないの?

ミユさんがイメージしやすくするような言葉!」

 

「えっ、わたし?うーん…」

 

「…」

 

「そもそもだけど。

飛べないなら飛べないでいいんじゃないかなって」

 

 

予想外の返答に場が?で埋めつくされる。

 

 

「しかしシロ様。

飛べなければ今回の敵とは戦えません」

 

 

代表してサファイアが当然の疑問を口にする。

 

 

「何も空中戦を諦めろって言ってるわけじゃないよ。

飛行だけが空中戦の手段じゃないってこと」

 

「と言いますと?」

 

 

予想外の切り口にルビーは続きを促す。

 

 

「例えば、そう。魔術で何かを呼び出したり作成したりしてその上に乗る…とか」

 

 

場が沈黙に包まれる。

一昨日戦ったライダーの宝具の手綱で操る天馬を想像して言ってみたんだけど…

うーん。沈黙が痛い。

 

 

「…えっ?何かって」

 

「そうだ!」

 

 

突如大きな声を出す美遊

 

 

「わっ!?な、何?」

 

「美遊様?」

 

「サファイア。帰ったらちょっと試したいことがあるんだけど」

 

 

そう言いながら立つ。

 

 

「あ…、帰るの?」

 

「…その」

 

「「?」」

 

「…ありがとう。それと…また、今夜」

 

 

それだけ言うと美遊は帰っていった。

 

 

「行っちゃいましたね」

 

「…何か思い付いたみたいだから大丈夫だと思うけど」

 

「うん。また今夜…か」

 

 

イリヤは昨日の夕方に言われたことを思い出す。

 

 

「「あなた達は戦うな」とか言われた昨日よりだいぶ前進?」

 

(…それは)

 

「あとは三人でキチンと連携がとれれば言うことなしなんですがー…」

 

「まーそれは…ぶっつけ本番でいくしかないかな」

 

「…」

 

 

イリヤの魔術の世界に対する考えが変わってないことに若干の不安を感じつつ、シロエは夜を迎えるのであった。

 

 

……

………

 

 

昨夜と同じ場所同じ時間

そこに同じ面々が集まっていた。

ただし今夜は飛行手段と作戦を携えて

 

 

「リターンマッチね。

もう負けは許されないわよ!」

 

 

凛が二人に気合いを入れ

 

 

「「うん!」」

 

 

それに二人は答える。

そして一同は再び鏡面界へと足を踏み入れた。

 

 

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