「まったく、やれやれだね。
一番驚いてるのは僕だよ?間違いなくさ」
突如として現れた金髪の少年が
「それにしても、これ本当にまいったなぁ。
まさか、こんなふうになるとは思ってもいなかった」
恥ずかしがることなく悠然と
隠すつもりも全くなく堂々と
「軽はずみなことをしてくれたものだよね───」
固まっているイリヤ達へと
声を掛ける。
「どう責任取ってくれるのさ?ねぇ?」
当然の如く全裸にて
「いっっ…やあああああ!!!」
そんな全裸である金髪の少年に
イリヤはまたしても魔力弾を乱射する。
「わわっ!?また、このパターン!?」
「待ってイリヤ!無闇に攻撃しちゃダメ…!」
「はうう…!!」
美遊が慌てながら
イリヤの魔力弾の乱射を止める。
「だっ…だってだって!!
なにか大切なものを汚された気がして…!!」
「よ、よくわからないけど落ちついて…!」
未だに半狂乱となっているイリヤ
当然である。
短い人生で初めて
金髪の少年のアレを握ってしまったのだから
…触れてそして握ったのはイリヤであって少年はなにもしていないのだが
それはさておき
そんなイリヤをなんとか落ち着かせようとする美遊
そんな中
「───────」
目を見開き
金髪の少年を凝視し
硬直しているシロエ
その表情はいつも以上にピクリとも動かない。
そして
そんなシロエを見ながら金髪の少年は
愉快そうに口角を吊り上げる。
「…?シロ」
そんなシロエの様子に気づいた美遊が
訝しみながら声を掛けようとした。
その時
「そんなまじまじと見ちゃダメェェェーーーッッ!!?」
「!」
半狂乱となっているイリヤが
シロエに対して接しづらくなっていることなど頭から吹き飛び、いつもの調子で
金髪の少年を凝視していたシロエの両目を背後から塞ぐ。
「……………お姉ちゃん。今はそれどころじゃ」
「見ちゃダメ!!絶っっっ対にダメ!!!」
シロエが
内側で膨れ上がっていく様々な感情を
かろうじて抑え込み抗議をするが
イリヤはそれをかき消す。
「いやー。しかし、なにがなにやらー。
いったいどういうことなんですこれは?」
「………はぁ。それはこっちが聞きたいねー。
僕だって突然のことで本当は混乱してるんだよ?
まったく、おかしいよこの場。
こんな
「混じり方…?」
代表してルビーが
金髪の少年から事情を聞き出そうとした。
その時
「あっ…!?渦が…ドーム状に…!?」
影を呑み込んだ泥の渦
その形状がドーム状へと変化し
次第に膨張しながら
規模を広げていっていた。
「どんどん広がってきてる…!?」
「…お姉ちゃん。早く離して」
「う…」
シロエの言葉に
迷うイリヤであったが
「あらら。あっちはなんだか順調だなぁ。
気をつけてね。あの泥に触れると多分死ぬよ」
「はい!?」
「イリヤ!!この場はまずい…。
ドームの膨張速度が速い!!」
美遊の言う通り
泥の渦はどんどん広がっていく。
少年の情報とこの状況に
イリヤは
「……見ちゃダメだからね!?絶対だからね!!?」
「おや、イリヤさん。もしやそれはフリですか?
押すなよ!絶対に押すなよ!!的な」
「フリじゃないよ!?」
不安しかないが
イリヤはルビーに突っ込みを入れながら
渋々とシロエの両目から手を離す。
ようやく自由になったシロエは
膨張していっている渦を見て
状況を把握する。
「お姉ちゃん、ミユ。ここから離れるよ」
「どこまで膨れるかわからない!!早く脱出を!!」
「う…うん!!」
広がっていく泥から逃れるために
イリヤ、美遊、シロエの三人が
再び空へと浮かび上がる。
「あ、ちょっと!!」
三人が空へと飛行していくのを見ると
金髪の少年が慌てる。
「待ってよー!
君らだけ飛んで逃げるなんてズルくない!?
僕も助けてよー!」
「は!?」
地上を走りながら
自分も連れていってと
苦言を呈する金髪の少年
「な…なにあれ。自分で逃げることもできないの!?」
「まるっきりただの子供っぽいですねぇ」
「どうするイリヤ、シロ…?」
「どうするって…」
「…無視していいと思う」
「そ…そういうわけにはいかないでしょ!もー!!」
イリヤはシロエの意見を却下すると
少年の右手をイリヤが左手を美遊が
それぞれ握り空へと浮かびその場から離れる。
飛行する三人の少女とそれにぶら下がる一人の少年
シロエは手を貸さずに二人の隣を飛んでいるが
少年を助ける二人を見て、とても複雑そうな表情をしている。
「ひゃー…危なかった。あそこで死んじゃうのかと思ったよ」
(いけしゃあしゃあと…)
「…助けてよかったのかな」
「で、でもあのまま見殺しっていうのは…」
「この子の演技かもしれないのによくやりますねー」
「ううっ…」
三人は下を…全裸の少年を見ないようにしながら飛行していく。
「じゃあいっそ今、手を離してみれば演技かどうかわかるかも…」
「え!?」
「よし離そう。今すぐに」
「ちょっとやめてよね二人共!?冗談でもそういうの!」
美遊とそして当然シロエも冗談のつもりはないが
イリヤはそれに気づかずに冗談だと受け止める。
そしてその問題の少年は
「ああ…」
上空から遠くに見える
イリヤ達が住んでいる街を眺め
「綺麗な街だね」
「……?」
「…」
満面の笑みで街を称賛する。
とはいえイリヤ達の目では
今いる円蔵山から街を眺めてもボヤッとした輪郭しか見えないため
イリヤが薄目で街を見ながら何故見えるのかと訝しみ
シロエは無言だがその目には猜疑的な光を含んでいた。
ーーーーーーーーーー
一方その頃、凛達は
円蔵山の入口へとたどり着いていた。
一同はリムジンとバイクからそれぞれ降りた。
しかし、その時
「かッ……!!」
カレン先生が
目とそして口から
血を吐き出し
地面へと倒れ込む。
「!?」
「なに!?」
「術式が…起動しました…」
「術式…聖杯戦争の!?」
「その血は…!?」
一同に緊張が走る中
凛がカレン先生の出血について尋ねる。
「これは
気にしないでいいわ。わたしはただのカナリヤだから」
訝しむ凛達だが
カレン先生はそれについては
大したことではないと深く触れずに
「それより…この術式。アインツベルンのものではないわ」
重要な事柄へと触れる。
「……!!」
「やはり別の何者かが…」
「疑問なのは…誰がどうやって
アインツベルンの術式と今の術式を入れ替えたのか」
カレン先生は
出血とその身体の痛みから
木を背にし座り込み
「…わたしの仕事はあくまで監視。
この先のことには立ち入りません。
だから、わたしの知っている情報を伝えておきます」
ここから先には…山の中にまでは入らないと
自身の持つ全ての情報を凛達に教える。
「事実から真実を結ぶのは
貴女達の仕事です」
ーーーーーーーーーー
「ふう…。結界の膨張は止まったみたいだね」
場面は戻りイリヤ達は
ドーム状の泥の渦
それの膨張が止まったことを確認できたため
再び地上へと降り立っていた。
「結構な大きさだけど…なるほど、あそこが境界なわけだ。
ハタ迷惑なことしてくれるなぁ。このままじゃ……」
金髪の少年が渦を見ながら呟いているのだが
「…………今度は君らが隠れるのかい?
また、それの目を塞いでいるし」
「あっ…あなたねぇっ…!!」
少年は変わらず全裸であるため
イリヤ達三人は木々の影に隠れている上に
シロエに至っては
飛行による避難が終わったからか
再びイリヤから両目を塞がれていた。
「わたしの妹にそんなもの見せられるわけないでしょ!!
誰だか知らないけど、とりあえずその格好なんとかしてよ!!
ちょっとは恥ずかしいとか思わないのーッ!?」
イリヤの渾身の訴えであったが
金髪の少年は動じずに
「………妹、ねぇ」
「…」
シロエを見ながら
滑稽だとばかりに笑みを浮かべる。
シロエは目が塞がれているものの
声色からその笑みが伝わったのか僅かに顔をしかめる。
そして、金髪の少年は
「それはそうと、そんなものだなんて酷いなぁ。
恥ずかしくないのかって?安心してよ」
両手を広げ
自身の全裸を隠すどころか
堂々と木々に隠れているイリヤ達へと向き直り、見せつける。
「僕の身体に、恥ずかしいところなんてないからね」
当然、その下半身のそれも
赤面している様子は微塵もなく
自身の身体への絶対の自信が感じられる。
((ワッ…ワールドワイド!!))
そんな金髪の少年に
イリヤは
「いやああぁぁーーッ!!!」
左手でシロエを力一杯に抱き寄せ、シロエの視界を自身の身体にて全力で塞ぎながら
右手に握ったルビーを目茶苦茶に振るい魔力弾を乱射する。
「あーはいはい、ここで連射ね。
だんだん君のパターンわかってきたよ」
このままでは話が前に進まない。
そう判断した金髪の少年は
草むらへと行きガサガサと漁る。
そして
「これでいい?」
戻ってきた少年の股には
草むらから採取した一枚の葉
それのみであった。
「いいわけないでしょーッ!?」
イリヤの突っ込みと共に
低威力の魔力弾が
コツンと金髪の少年に頭部に当たる。
「わかったよもう…服を着ろってことなんでしょ?
でも今の僕じゃ…」
金髪の少年は頭部を押さえながら
「ちゃんと繋がってるかすら怪しいんだから期待しないでよね?」
空中に黄金色の波紋を発生させ
左手を波紋へと突っ込む。
「えっ…!?」
「あー、やっぱりほとんどないなぁ…。
えーと服、服…」
驚くイリヤ達を尻目に
少年は中を探っていく。
そして
「…あった!」
軽装だが上品さを感じられる
ズボンと上着を
黄金色の波紋から取り出す。
「なにあれ…!?
空中から服を取り出した…!?」
「同じだ…。無数の宝具を出現させていたのと恐らく同じ能力!」
「じゃあ、やっぱりこの子は…」
「そのようですね。姿こそ変われど…
八枚目のカード…その英霊です!!」
少年が全裸の上に
取り出したズボンと上着を身に纏う。
「さてと、これでお話できるよね?」
ーーーーーーーーーー
「…異変があったのはおよそ三ヶ月前」
その頃、カレン先生が凛達へと
自身が持っている情報の全てを話していた。
「大空洞のほぼ真上…約180m四方の木々が前触れなく消失しました」
「消失…!?」
「そこだけ、ぽっかりと荒地になったのです。
そして、ここからが重要なのですが…
わたしは大空洞に出入りした人間と…出入りしそうである人間を監視していました」
大空洞の異変もさることながら
大空洞には龍穴と
なにより大聖杯の術式が存在している。
カレン先生はそのことを知っており、それらに関与しそうである人間を監視していた。
「ある日、入った人数と出てきた人数が合わない日があったのです」
「!それは…」
カレン先生の情報に
凛達は心当たりがあった。
「わたしのことね?」
それはクロエのことであった。
あの日、大空洞内でイリヤはクロエと二人に分かれたからである。
「驚いたわ。英霊なのか人間なのか…なんなのかよくわからない者がもう一人増えて出てきたんだから」
(もう一人…?)
もう一人。
カレン先生のその言い回しに
凛は違和感を覚える。
しかし
「そして…あそこから出てきたのは貴女だけじゃないの」
「えっ…?」
カレン先生からの思いもよらぬ情報に
その違和感は吹き飛ばされる。
「三ヶ月前…木々が消失した日
カードが出現したあの日
入った人間のいない大空洞から忽然と出てきた者がいる」
そして、カレン先生が
その人物の名を告げる。
「その人物は───」
ーーーーーーーーーー
カレン先生が凛達に
情報を伝えていた。
その頃、イリヤ達の方では
金髪の少年が服を纏ったことにより
ようやく落ちついたイリヤが
シロエを完全に解放した。
その時
さらなる異変が起こる。
カッ!
イリヤと美遊とシロエ
そして、この場にはいないが
凛達の所にいるクロエもまた
それぞれが所持しているカード
それらが光を放ち
「…!?」
「なっ…!?」
「カードが…脈打ってる…!?」
イリヤと美遊がカードを取り出し
シロエもまた懐にあるカードから
ドクン、と
心臓が鼓動しているかのように
なにかが脈打ってるのを感じる。
「へぇ。君達カード持ってたんだ。
見たところ六枚…そして最後の一枚も近くにあるみたいだし
やっぱり惹かれ合うものなのかな」
金髪の少年は
カードを所持しているイリヤ達の中で
「ねぇ──美遊ちゃん?」
美遊へと話を振る。
しかし
「ミユ…?(どうして名前を…?)」
イリヤ達はまだ
金髪の少年に名前を名乗っていない。
にも関わらず名前を言い当てた。
それが意味することは
「まさか…記憶があるの?」
「…そこらの英霊とは違うさ。
聖杯戦争の続きをするにしても君がいなくちゃ始まらない」
少年の言葉に
美遊の顔色が変わり
表情が一気に険しくなる。
そして
「やめて…」
「なにせ君は…」
「それ以上、口を──開くな!!!」
少年へと突撃する。
「ミユ!?」
「…」
ーーーーーーーーーー
「…」
カレン先生がその名前を告げ
場は静まり返っていた。
そんな中
「あの時…調査のため地脈の転写を何枚か取った時
違和感はあった」
凛がその沈黙を破る。
バゼット戦直前
大空洞にて地脈を調査した時のことを話し始める。
「龍穴…大空洞を中心に半径400m程度の所
龍脈が僅かにズレていた」
地脈図
大空洞の地脈とその外側の地脈が繋がっておらず
ズレていたのである。
「なにかの間違いだと思った。
あんなズレ方はあり得ない」
地脈を調べた時には
八枚目の存在の発覚という衝撃もあり
自身がなにかミスをしたのだろうと
そこまで深刻に考えなかったのである。
しかし
「でも…大空洞上部の木々の消失。
この二つを合わせて立体で考えれば……!!」
木々と地脈
大空洞の上部と下部
その両方に異変が起こっている。
つまり
「状況証拠でしかない。けど、全ての辻褄が合ってしまう…!
つまり、大空洞周辺の空間が丸ごと別の世界と入れ替わっている!!」
大空洞そのものが
別の世界のそれと入れ替わっているのである。
そして
「なら…、ならば…!!」
カレン先生が告げた
大空洞から出てきた人物
それは
「そこから出てきた美遊は…!!」
美遊であった。
そして
今までの情報を統合し
美遊が何者なのか
気づいてしまうクロエ達
「ミユ…」
クロエが美遊の名前を呟いた。
その時
『わたしはここのアインツベルン本家とは一切関係性はない』
クロエの脳裏に
かつてのシロエの言葉が過った。
(
さらに
『…ううん。もっとずっと…昔から知ってた歌』
『あなたは…
『イリヤちゃんとシロちゃんの身体は同一。完全に同じなの』
『誰にもシロさんを造ることはできません。
いえ…誰も造っていません』
『わたしも…まるで、なんの脈絡もなく唐突にそこに現れたかのようだと
そう感じましたから』
『今、この場におけるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンはあなたたち。
わたしはこの場においては偽物』
なにかが
繋がった気がした。
「まさか………。シロ、あなた………」
クロエが
シロエがいるであろう
遠くに見えるドーム状の泥の渦を見ながら
呆然と呟く。
しかし
それらの情報をもっていない凛はクロエの様子にただ訝しむしかない。
「それと…付け加えておきますと」
そんな凛に
カレン先生が情報を補足した。
ーーーーーーーーーー
金髪の少年へと突撃する美遊
そして
振るわれる魔力の刃に
放たれる大量の魔力弾
しかし
ギンッギギンッ!!ガンッゴォンッ!!
金髪の少年は
黄金の波紋から盾を一枚のみ取り出し
美遊の攻撃を防ぐ。
「眠ってばかりのだった君が随分とお転婆になったものだ。
もしかして秘密だったのかな──?」
ここで金髪の少年の口をなんとしてでも塞がなければ
後ろにいる自身の大切な友達であるイリヤとシロエに
自身の秘密がバレてしまう。
もしかしたら、シロエには既に気づかれているかもしれないが
それでも、ここで暴露されればそれは決定的なものとなってしまう。
美遊にとっては、もはや宝物と断じていい日常が
崩れかかっている日常が
完全に崩れてしまうかもしれない。
美遊はそれがなによりも恐ろしかった。
故に
美遊は空を駆け
上下左右あらゆる角度から魔力弾を放ち
攻撃が激しさを増す。
しかし
金髪の少年を守る盾
その盾が美遊の魔力弾を悉く受け止める。
影が取り出していた盾よりも小ぶりな盾ではあるものの
美遊はそれを突破することができない。
そして、とうとう
「平行世界のお姫様」
金髪の少年が
それに触れてしまった。
「平行…世界…?」
聞き慣れない単語に
イリヤは唖然とする。
そして
そんなイリヤの隣にいるシロエは
「………」
無言ではあるが
その表情は
まるで能面の如く無であり
その瞳の奥には
長い月日を共に過ごしたイリヤが
見たことがない程のドス黒いなにかが渦巻いているが
イリヤは美遊達に集中しそれに気づかない。
「人の隠し事を暴くのは趣味じゃないんだけど
でも、状況がこうなってしまったんだからしょうがない」
美遊の攻撃が止まり
金髪の少年は頭を掻きながら
盾を黄金の波紋の中へと戻す。
「許してね。運が悪かったと思って
諦めてね。これが君の──
美遊が空にて立ちつくす。
その身体は震えている。
「ど…どういう意味!?いったい何の話を…」
「なるほど…。そういうことでしたか」
「ルビー……!?」
「仮説の一つとしてあったものです。
用途・製作者不明のクラスカードが発見された空間……鏡面界
虚数域のあの場所は…この世界と平行世界の境界面ですから」
ルビーの解説に
金髪の少年がイリヤ達へと
「ああ。君達にはお礼を言わなきゃね。
境目で迷子になっていた僕を実数域の方から見つけてくれたんだから」
笑みを浮かべながら
お礼を言う。
全く嬉しくないイリヤ達を尻目に
金髪の少年は再び美遊へと話しかける。
「ごめんね。僕としては君よりも別のものに興味があるんだけど───」
そして、次の瞬間
「───僕の半身はどうしても君が欲しいみたいだ」
ドーム状の泥の渦から
泥で形作られた巨腕が飛び出してきた。
巨腕が狙うのは
「ミユ!!!」
空にて立ちつくしている美遊であった。
イリヤが飛び出し
飛行を行い美遊へと右手を伸ばすが
間に合うはずがない。
巨腕が美遊へと迫り
そして触れようとした。
次の瞬間
全てが
凍りついた。
「!?」
「ぇ…?」
「へぇ…」
触れれば命はない。
そう言われていたドーム状の泥の渦も
そして
その渦から美遊を狙い飛び出してきた巨腕もまた
美遊へと触れる寸前で
全てが凍りつき
途轍もなく巨大かつ天まで伸びる氷柱の中へと閉じ込められ
動きが完全に停止されていた。
突然の事態に
イリヤが驚愕し
ショックを受けていた美遊も反応し
金髪の少年は興味深そうにそれを眺める。
さらに
「─────え」
異変はそれだけでは終わらなかった。
(ありえない……。いったい今、何月だと思って……!?)
イリヤが何度も瞬きをする。
しかし目の前の光景が覆ることはない。
時期は八月の後半
猛暑日が続き深夜であっても暑苦しく
まだまだ夏真っ盛りと言っていい。
にも関わらず
イリヤの目の前をちらつくその白い物体は
「─────雪?」
ーーーーーーーーーー
「なによ……あれ……?」
山の入口にいるクロエ達
そこから見れば異変は一目瞭然であった。
地下で猛威を振るった黒い泥
その泥が再び大量発生し激しく渦を巻いていたのは
凛達からも視認できており
それは確かに脅威ではあったが、まだ理解はできた。
あの英霊の仕業であると
しかし
その泥が一瞬にして凍りつき
閉じ込めるように発生した天まで伸びる巨大な氷柱
そしてさらに
その氷柱を基点として
黒く分厚い雲が発生し
その雲から雪がとめどなく降ってきており
こうして呆気に取られながら見ている間もそれは止むどころか勢いは加速度的に増しており
イリヤ達がいるであろう巨大な氷柱の周辺はもはや吹雪と言っても過言ではない程の規模となっていた。
さらに雪雲もどんどん大きく広がっていっており
クロエ達のいる山の入口ですら
雪がしんしんと降り始めていた。
幸いにも
雪雲は円蔵山上空でその成長を止めていたが
明らかにそれは加減されたものであり
本気になれば
この山はおろか冬木市全土にさえ広がりそうであった。
否、下手をすれば………
「これは………先の、あの英霊が………?」
目の前の異変にバゼットが呆然と呟く。
あの英霊がまたしても宝具を取り出し
この現象を生み出しているのかと
しかし、違う。
クロエ達にはとてもそうは思えなかった。
クロエ達の脳裏には違う人物が過っていた。
味方でありながらも、なにもかも正体が不明な
氷雪を操るあの少女
そしてバゼットも当然、本当はわかっていた。
あの英霊の宝具であるなら、同じくあの英霊が生み出したであろう泥を凍らせるわけがない。
そんなことは気づいている。
ただ、現実逃避をしたいがために見当違いのことを呟いてしまったのである。
凛達は先の地下での戦いにて
八枚目の英霊、その規格外の力を目の当たりにした。
しかし、それでも
絶対に勝てない、とは言い切れなかった。
その原因となっている少女が
この場にいる全員の脳裏に過っていた。
そんな中、凛が
先のカレンの補足情報を思い出す。
『先程も言いましたが…わたしは大空洞に出入りしそうな人間を監視していました。
即ち、この街に住む御三家の一つ…アインツベルンを』
『!』
『結論から言いますと…あの家に住んでいる者は全員、貴女達が接触するまでの間
大空洞に侵入しておらず、魔術を一度たりとも使用していません』
凛達が任務によりこの街へと訪れ
イリヤ達へと接触するまでの間
大聖杯の術式がある大空洞
その大空洞へと一度も足を踏み入れていない上に
魔術の使用すらも聖堂教会は感知していない。
それが意味するところは
「………ッ」
凛が疑ったあの少女は
クラスカードの作成に関与していない。
大聖杯の接触はおろか魔術の使用もなしに
あのカードの作成などできるはずがない。
薄々わかっていたこととはいえ
的外れな疑いをかけ
とんでもない濡れ衣を着せてしまったと
凛は罪悪感で俯いた。
ーーーーーーーーーー
ビュオオオォォォ!!
本来であれば蝉など虫の鳴き声が響いていた円蔵山
それらの虫の鳴き声は完全に消え失せ
大空洞周辺は猛吹雪となっていた。
「わぷっ!!」
吹雪に煽られるも
なんとか堪えるイリヤ
「こんなの……普通じゃない……!!」
夏であるにも関わらず…否
たとえ冬であったとしてもこんな猛吹雪は冬木市ではありえない。
魔術に詳しくないイリヤでもわかる。
これが自然現象ではないことに
人一人が扱っていいものでは断じてない、と
「これは………神、気………?」
「それも………ここまで、高ランクのものは………!?」
発せられる力を前に
ルビーとサファイアは気づく。
今まで一緒に戦ってきた少女
あの少女がいったいなにに属する存在なのかを
そして
イリヤは叫ぶ。
これを引き起こしているであろう者の名を
「───シロ!!」
妹の名を
件の少女シロエは
そんなイリヤの声に答えない。
そして、その視線の先には…金髪の少年
「───対軍、対国宝具。
対軍、対国宝具。
シロエがその気になれば
軍はおろか国すらも
滅ぼすことが可能であるそれをシロエは
たった一人の存在を殺すためだけに使用した。
「そう。君だよ」
金髪の少年が美遊からシロエへと
視線を向ける。
自身の興味はシロエにあると
「最初に見た時には正直、驚いたよ。
どうして君のような存在が
こんな聖杯戦争すら起こっていなさそうな平和な世界に
しかも人の肉体を持って存在しているのかってね」
「…」
シロエは金髪の少年の疑問には答えずに
泥を閉じ込めてる巨大な氷柱を横目でちらりと見る。
「…わたしがいる限りこの氷が解けることはない。
あとは、
不安定になっているこの辺り一帯の空間全てを凍結させて固定する。
それで………全部、終わりよ」
「切れっぱしとは、よく吠えるじゃないか。
刺々しく罵り合うシロエと少年
(混ざりものの…)
(…人形?)
二人の会話についていけずに
置いてけぼりになるイリヤと美遊
「強がらないで。あなたの頼みの綱の宝具はほとんどがあっち持ちのはず。
今のあなたが扱えるのは全体の二割…下手をすれば一割にも満たないはずよ」
「うーん…。強がっているのは君の方なんじゃないかな?」
金髪の少年の指摘に
シロエは言葉を詰まらせる。
シロエのその様子に金髪の少年は笑みを深める。
「…」
「図星かな?やっぱり君、僕と会ったことがあるんだね。
僕の宝具、それに戦い方を詳しく知ってるみたいだったしね」
シロエの沈黙を肯定と判断し
金髪の少年は面白そうに話す。
しかし
「でも、ごめんね。
生憎だけど、この僕にその記憶はないんだよね。
いったいどこで」
「金ピカ……英雄王、ギルガメッシュ。
わたしを………殺した英霊」
シロエから発せられた言葉に
今度は金髪の少年…子ギルの動きがほんの一瞬止まる。
「どこかの特異点に召喚されて戦った結果…というわけじゃなさそうだね。どうやら…」
嘆息する子ギル
さらに
「シロ、が……殺され…た…?」
「ど……どういうこと!?何の話をしてるの!?」
聞き捨てならない不穏な言葉が飛び出し
声を上げる美遊とイリヤ
しかし
「………鏡面界で戦った時は…こいつには理性がないって
そして今、受肉した時には…あの時の記憶はこいつにはないって
そう、思って…自分を抑えてた。
でも……………やっぱり、ダメね」
二人の詰問に答えない。
そして、そんなシロエの目には
ドス黒いものが宿っていた。
「わたしは、あんたを殺したくて殺したくて堪らないのよッッ!!!」
バゼットやクロエに向けていた
『怒り』や『嫌悪』
そういったものを明らかに超えていた。
それは─────『憎しみ』であった。
妹の、友達の
そのドス黒い感情を前にし
イリヤと美遊の詰問は止まり
二人は凍りついたように動けなくなってしまう。
「大した憎しみだ。余程、酷い目に遭わされたみたいだね」
その憎しみを直接ぶつけられた子ギル
しかし
表情に陰りはなく、変わらず飄々としている。
「それで?」
「…なに?」
「それだけかい?その憎しみだけで君は僕と戦うのかい?」
子ギルの切り返しに
シロエは憎しみを表に出したまま固まる。
「その憎しみが嘘だとは言わないよ。
けど、それだけじゃないよね?
君の芯となっているものは」
ブォン!!
シロエが大剣を取り出し水平に宙を薙ぎ払う。
風切り音で子ギルの発言がかき消える。
「わたしがどうであろうと
あなたを殺すことに変わりはない。
おしゃべりが好きなら
座に帰ってから一人で勝手にやってなさい」
ゴチャゴチャうるさいと
シロエは子ギルを睨む。
「殺すわ。あなたを、今度こそ
わたしの全てを使って」
話は終わりだと
シロエは殺意を身体に漲らせる。
そんなシロエを前にし
「いいよ。僕も君には、ますます興味が湧いたしね。
じゃあ───」
フォン
子ギルは自身の周囲に
黄金の波紋を複数展開させる。
「───神話の戦い、ここに再現するとしようか」
シロエ「────金ピカ。わたしはあんたを…殺す」
子ギル「…あまり強い言葉を遣うなよ。弱く見えるぞ」
※ピクシブ百科事典より抜粋
凍えよ、天上の諸力たち(ポホヨラ・フィンブル)
ランク:A
種別:対軍/対国宝具
レンジ:1~80
最大捕捉:400人
凍てつく寒さ、雪、氷結の力を自在に操ってみせる。
呪いの言葉がひとたび解き放たれてしまえば、天から昼夜は地上全土は動く者なき無音の世界となり果てる。
太陽と月を洞窟へと封じた魔女ロウヒの伝承と、イリヤの心象風景の一部が合わさることで形成された宝具。ロウヒ本来の宝具とは効果と名称が異なる。
ポホヨラとはロウヒの支配する北の国、フィンブルとは古ノルド語で「大いなる」を意味する。具体的にはラグナロクの前兆であるフィンブルヴェト(大いなる冬)に由来すると思われる。
動く者なき無音の世界となり果てる。
とあるにも関わらず
猛吹雪だったり等、違いがあるのは
使用者がシトナイではなくシロエであるため
その差異から違いが出ています。