やっと……たどり着きました。
ビュオオオォォォ……
猛吹雪が吹き荒れる円蔵山
雪が降り積もる程の異常気象の中で
ガギン!ギギィン!!
刃と刃がぶつかり合う音が鳴り響く。
子ギルが宝具を射出し
シロエが取り出した大剣でそれを叩き落としていた。
「器用に剣を扱うものだ」
宝具を投擲しながら
子ギルが余裕たっぷりに称賛する。
(鏡面界で戦った時よりも
破壊力も弾幕の密度も落ちてる。
けれど……)
それは間違いなく
子ギルが扱うことのできる宝具の数が
シロエの予想した通りに
極めて少なってしまっているからであった。
しかし
(……踏み込めない!!)
シロエは宝具を弾いているものの
子ギルの下へ踏み込むことができないでいた。
(理性を取り戻している所為で
一発一発の狙いが的確になってる!)
子ギルはシロエの動きを読み
時には足下、時には大剣へと
宝具を飛ばすことにより
反撃すら許さずシロエをその場に釘付けにしていた。
放つ宝具一発一発に意味があり
理性のない影が行った
破壊力と手数任せの乱雑な攻撃とは訳が違った。
(腐ってもアーチャー…と言ったところね。それに…)
シロエが飛んできた剣を叩き落とす。
叩き落とされた剣は地面へと
フ…
落ちきる前にその剣は消える。
(宝具の回収速度が速くなってる!!)
その射出された宝具を回収する力もまた
英雄王ギルガメッシュは有している。
そしてその回収速度が
鏡面界にて影と戦った時よりも
明らかに速くなっていた。
回収速度を速め、次々と使い回すことにより
宝具の絶対数の減少をカバーし
宝具の弾幕を維持しているのである。
(なら…!!)
シロエが次々と飛来してくる宝具を叩き落としながら
頭の中で打開案を練っていた。
その時
「シ…シロ!」
イリヤがシロエを助けるべく
駆け出そうとする。
シロエの憎しみを前にし先まで立ち竦んでいたが
今の戦況を目にし
防戦一方でこのままでは押し切られてしまうと
イリヤの目には映ったのである。
そして、そんなイリヤの焦った声に
イリヤの隣にいた美遊もまた呼応しようとする。
しかし
「動かないで!!そこで待機!!!」
シロエが宝具を叩き落としながら一喝し
イリヤと美遊はビクッと身体を震わせ
動きを再び停止させる。
「他に気を回している余裕があるのかい?」
子ギルが黄金の波紋を更に増やし
シロエへと射出する。
吹雪を切り裂きながら刃がシロエへと飛来し
バキィン!!
甲高い金属音が鳴り響いた。
「……こうされるのが、今のあなたには一番困るんじゃないかしら?」
「……蔵の中ではランクは確かに低めだけど
それでも、宝具の原典なんだけどなぁ」
困ったように笑う子ギル
シロエは宝具を叩き落としたのではない。
宝具を
そしてシロエの言う通り
宝具の絶対数がただでさえ少なくなっている子ギルにとっては
一番困る行動であった。
「どんなに道具が優れていても
扱うのがあなたじゃ、その辺の石ころとなんら変わらないわよ」
宝具は認める。
が、その使い方そして所有者である子ギルは認めない。
道具のみが脅威であり、子ギル自身は大したことはない、と
シロエは吐き捨てるように子ギルを罵倒すると駆け出す。
行き先は当然、子ギルの下へと
宝具を折られたからかようやく射出が止まったのである。
「まあ、君みたいな存在を相手にしたら
折られるのも不思議じゃないか」
シロエの罵倒を聞くも
子ギルは何処吹く風と変わらず飄々としている。
そんな子ギルの反応にシロエは
内心では僅かに訝しむものの、それを振り切り踏み込もうとする。
英雄王ギルガメッシュ
数多いる英霊達の中でも頂点に位置する者と言っても過言ではない英霊である。
しかし、その身体能力…筋力や敏捷などといったものは決して高いわけではない。
『戦う者』では決してない。
ましてや
その姿が子供のものとなったことにより
ステータスは更に低下している。
故に
(接近戦に持ち込みさえすれば必ず勝てる…!!)
シロエはそれがわかっていた。
そして、それは
子ギルも当然理解している。
よって子ギルは
近づくシロエから距離を取るように
バックステップをしながらまたしても宝具を射出する。
しかし
バキン!!ガギィン!!
シロエは当然の如くそれを叩き折る。
「うーん…」
接近を許してしまえば負けるが
かといって
数少ない手持ちの宝具が全て使い物にならなくなっても
戦闘不能となり当然敗北である。
シロエとの距離をなんとか保ちながら
子ギルが取った次の行動は
「うん。じゃあ───」
子ギルの周囲に展開されていた
黄金の波紋が一斉に消える。
と、ほぼ同時に
シロエの足下に黄金の波紋がいくつも形成される。
「!」
シロエは咄嗟に脚力を強化し
上へと跳ぶのとほぼ同時に
ザン!!
と黄金の波紋からいくつもの剣や槍が突き出してくる。
シロエの反応が少しでも遅れれば串刺しになっていたところである。
とはいえ、一息吐く暇などない。
空中にいるシロエは今にも射出されるであろう宝具を
薙ぎ払うべく大剣を構える。
しかし
シロエの予想に反し宝具は射出されることはなく
それどころか
それらの宝具は瞬く間に姿を消し
「───これなら、どうする?」
上空へと逃れたシロエの上下左右前後
シロエを取り囲むように無数の黄金の波紋が展開される。
「!?…ちっ!!」
まんまと誘い込まれたことを覚ったシロエは舌打ちをしながら
大剣を両手持ちから右手持ちへと変え
剣術を騎士王のものから変更する。
イメージするのは
北欧神話において
『戦士の王』と称えられたヴォルスンガ・サガの大英雄
更に、左腕を
白熊のそれへと変貌させる。
それとほぼ同時に
無数の黄金の波紋から刃が顔を覗かせる。
「シ…!!」
誰が見ても危機的状況と断じるであろう状況へと追い込まれたシロエ
そんなシロエを助けなければと
またしても動き出しそうになるイリヤだったが
先のシロエのほぼ命令に近い待機の指示
シロエは自身の助けを必要としていない。
その事実にイリヤは躊躇する。
そして、イリヤが躊躇した次の瞬間
シロエを取り囲んだ無数の黄金の波紋
その全てから一斉に宝具が放たれた。
しかし
ガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
北欧神話における最強の一角
その剣術を模倣し
右手の大剣で防いでいく。
模倣の練度が足りず大剣が間に合わないものは
左手の白熊の巨腕を盾にする。
無論、出来る限り宝具は弾くのではなく叩き壊す。
そうしなければ
この弾幕に終わりが来ないからである。
しかし
「ぐ…く……!!」
最初こそ完全に防げていたものの
時間が経つにつれシロエの動きが鈍くなり
宝具がシロエを掠めるようになっていっていた。
このままではいずれ防ぎきれなくなる。
それを覚ったシロエは
「う、ぐ…ああああぁぁぁッッ!!!」
全身から膨大な魔力を放出。
射出されていた宝具の全てを破壊し
360度取り囲むように展開されていた
黄金の波紋さえも消し飛ばす。
「わっ!?」
「きゃっ!?」
爆弾でも爆発したかのような衝撃であったが
空中での攻防であったため
イリヤと美遊には無論被害はない。
しかし
イリヤと美遊は驚きから小さく悲鳴を上げる。
そんな中、窮地を脱したシロエは
空中から落ちるように降りていき
勢いよく着地する。
しかし
「はぁ…はぁ…!!」
帽子は消し飛び
民族衣装はボロボロとなり
全身のあちこちに細かい切り傷や擦り傷を負っていた。
大きな怪我なく凌いだものの
シロエは片膝を地面へとつく。
(く…。他に手がなかったけれど
シグルドの剣技を模倣するのはやっぱり筋力が足りない…!)
シロエの知る限りでは
最も武に優れているであろうシグルドの剣術
しかし、それを完全に再現そして維持するには
どうしてもシロエでは筋力が絶対的に足りないのである。
瞬間的には模倣はできる。
そして、その攻撃力及び防御力は
騎士王の剣術すらも凌ぐものの
どうしても長続きはしないのである。
筋肉が疲労しプルプルと震えている右腕を見ながら
シロエは左腕を白熊の腕から元に戻す。
そんなシロエを見て
一先ず無事ではありそうだと
イリヤと美遊は安堵の溜め息を吐く。
「やるねぇ。あれで仕留められなかったのは
僕の時代でも数えるくらいしかいないよ?」
心底楽しそうにしながら称賛する子ギル
その様子はただ遊んでいるだけの無邪気な子供のようであった。
「さっきのでダメなら
数をいくら増やしたところで無駄だろうね」
子ギルは再び空中に黄金の波紋を展開させる。
しかし
その波紋は途轍もなく巨大であり
中から現れたものは
「なら次は、趣向を変えて……大雑把にいこうか」
煌々と燃え盛る炎が複数の刀身を形成した
超弩級の巨大な剣であった。
「な…」
「お、大きい…」
猛吹雪の中であっても
燃え盛る巨大な剣
「今の僕が持ち得る最大威力の宝具だ」
その銘は
「
子ギルがその名を口にすると
燃え盛る巨大剣…
空中よりシロエ目掛けて振り下ろされる。
「…」
シロエは無言のまま
ゆっくりと立ち上がると
俯きながら大剣を両手で握る。
そして
「え…!?」
大剣を水平に
上段へと構える。
「受け、止める気…!?」
「む…無茶だよ!?」
山すら切り裂きかねないほどの巨大な剣
あんなものを受け止めようとしたところで
その質量を前に潰されるだけか
あるいは刀身の炎にて灰燼に帰すだけであると
美遊とイリヤが焦る。
しかし
シロエは大剣を上段に構えたまま
ピクリとも動かない。
そして
次の瞬間
パキン
一瞬にして消え失せ、凍りつき
そして動きが停止する。
「「!?」」
驚愕するイリヤと美遊
さらに
「…調子に乗ってんじゃないわよ」
バキィ!!
シロエが大剣を振り抜くと
凍りついた
原型も残さず粉々に砕け散る。
とんでもない規模の攻防に絶句するイリヤと美遊
子ギルも笑みこそ絶やしてはいないものの
その笑みはどこか引きつっているように感じる。
「今のが最大威力って言ったわね」
それは即ち
あの乖離剣は
子ギルが所有していないということ
「スルトの剣に比べたら、蝋燭も同然ね」
嘲るシロエ
そんなシロエを前にし
子ギルは再び自身の背後に
黄金の波紋を複数展開させる。
そして、中から折れた剣が
「うざい」
瞬間
黄金の波紋が凍りつく。
「!?」
これには驚いたのか
子ギルは振り向き
凍りついた射出口を見て目を大きく見開く。
「あなたの武器が
人類の知恵、その原典であるなら」
それは魔女ロウヒの伝承と
イリヤの…シロエの心象風景の一部が
合わさることで形成された宝具
「わたしの武器は───自然そのもの。
吹き荒れる吹雪、凍てつかせる冷気、降り積もった深雪。
その全てがわたしの宝具」
現在、この円蔵山は
シロエの心象風景が反映されている状態である。
即ち
「今、この山において
わたしが凍らせることができないものは存在しない」
猛吹雪が吹き荒れているこの円蔵山は
シロエの領域と言っても過言ではなかった。
「真名の解放すらできない
ましてや
物の数じゃない」
息を呑むイリヤと美遊
子ギルも一筋の冷や汗を掻く。
そんな中、シロエが再び駆け出し
子ギルとの距離を潰そうとする。
「ふむ…」
子ギルはバックステップしながら考える。
子ギルが凍ってしまった波紋を消そうとしても
その意に反して波紋は消えずに展開されたままである。
発射することもなければ消えることもない。
完全にその機能を停止してしまっている。
そして当然のことだが
一度に展開できる波紋の数にも限りはある。
迂闊に波紋を展開するわけにはいかない。
シロエに凍らせられればその射出口は使えなくなってしまう。
しかし
「…」
フォン
子ギルがまたしても
黄金の波紋を展開させる。
しかし展開した場所は
自身の背後ではなく
自身から少し離れた位置に
「…!」
シロエはそれを
凍らせずに
波紋から飛んできた宝具を大剣で叩き折る。
(凍らせない…?)
「…」
イリヤは訝しむが
一方の子ギルは見抜く。
シロエはこの宝具を完全に制御することはできない、と
凍らせることができないものはないというのは嘘ではない。
しかしそれは
範囲内にあるものはなんでも凍らせる対象となり得てしまう。
ということでもあった。
そしてその凍らせる対象のコントロールは完全にはできない。
無闇矢鱈に凍らせていけば、どこかで必ずミスが出る。
そしてそのミスにより万が一にでも─────
子ギルがイリヤと美遊をちらりと見る。
「…なるほどね」
それならば話は簡単だ、と
子ギルは自身の周囲ではなく
あちこち不規則に波紋を展開させる。
シロエはそれを妨害できない。
折れた刃混じりにそのまま宝具が発射される。
シロエはそれらを大剣で受ける。
「
と、同時に
宝具を払った大剣から
魔力の刃が放たれる。
「!おっと」
シロエから放たれた魔力の刃は
子ギルの宝具を粉々にしながら子ギルへと迫ったが
子ギルはそれを回避する。
そして再び波紋より宝具を射出するも
「…」
シロエは無言のまま大剣を振るい
またしても宝具を粉々にしながら魔力の刃を放つ。
先までの攻防とは違い
シロエが大剣で子ギルの宝具を受ける度に
魔力の刃が子ギルへと襲いかかる。
子ギルは魔力の刃が飛んでくる度に
回避や盾を駆使することでなんとか防ぐ。
今の子ギルが知る由もないが
躊躇うことなく強大な魔力を振るうシロエのその戦い方は
かつて別の世界にて
聖杯の呪いに侵され
非情さに徹しきったセイバーの別側面
漆黒の鎧を纏った騎士王の戦い方と非常に酷似していた。
シロエもまたその記憶と経験を有してはいないが
以前シトナイから話として聞かされたことがあり
その話からシロエがイメージしたのがこの戦い方であった。
波紋の位置を補足されないように
自身の周囲ではなく離れた位置へと
不規則に波紋を配置したことにより
肝心の子ギル正面への弾幕が薄くなっている。
その上
魔力の刃を放つことで
子ギルはその度に防御を強要されてしまい
その際には、同時進行で行っている
宝具の射出の正確さは落ちてしまっていた。
よって
シロエの前進を止めることができない。
…ダン!!
シロエはとうとう子ギルへと接近することに成功する。
子ギルは咄嗟にシロエとの間に盾を設置する。
しかし
ザンッ!
先の影が使用していた盾と比べてランクが低いのか
シロエはバターでも切るかのように
盾をあっさりと切り捨て
バックステップをし距離を取ろうとしている子ギルの下へと
前進する。
子ギルは盾を複数枚取り出し
自身とシロエの間にさらに配置。
自身を何重にも護り、シロエを足止めしようとする。
しかし
シロエは構わず大剣を下から振り上げようとする。
「!!」
その刹那、子ギルは気づく。
シロエが振り上げようとしている大剣
その大剣に青白い光…高濃度の魔力を纏わせていることに
子ギルは全力で後方へと跳ぶ。
そして
パキィン!!!
シロエが大剣を振り上げた瞬間
大剣に込められていた魔力が冷気へと変換され
子ギルが展開した盾は全てが凍りつく。
子ギルが先まで立っていた場所も
当然の如く凍りついていた。
「ッ」
子ギルは後方へと跳んだことで
氷から逃れていたが
完全には逃げきれなかったのか
右脚が膝下まで凍りついてしまっていた。
しかし
バリィン!!
休む暇など与えない。
シロエは返す刀で大剣を振り下ろし
今度は魔力の刃が放たれる。
凍りついた盾を全て砕きながら魔力の刃が子ギルへと迫る。
「わ!?」
目の前の凍りついた盾が目隠しとなり子ギルの反応が遅れる。
子ギルは身体を大きく仰け反らせギリギリで回避を行う。
結果
「……ふう!」
子ギルは回避になんとか成功するものの
僅かに掠めたのか額から一筋の血を流していた。
「……しぶといわね。
わたしが殺すと言ったんだから、早く諦めなさいよ」
「最後まで生を模索して未来を掴み取ろうとするのが人だよ。
君にはわからないかもしれないけどね」
「………よく知ってるわよ」
シロエの返答に
目を僅かに細める子ギル
そして
フォン!ガガガガガ!!ザンッ!!バキィン!!!
振るわれる大剣
黄金の波紋より射出される折れた刃混じりの無数の武具
何度も放たれる強大な魔力の刃
幾重にも展開される盾
全てを凍てつかせる冷気
それらが猛吹雪の中
高速で次から次へとぶつかり合い
木々は薙ぎ倒され、岩は砕け散り
シロエと子ギルの周囲は更地となり
後に残るのは
降り積もった深雪のみ
「す…すごい…」
神話の戦いの再現
そう宣言した子ギルの意図を理解できてはいないものの
目の前の激しい攻防に
イリヤはただただ圧倒された。
(けど……このままいけば勝つのは……)
美遊は目の前の戦況を分析し
どちらが優位に立っているのかを
理解していた。
そして、それは
シロエも同様であった。
(押しているのは…………間違いなく、わたし)
蔵の中にある金ピカの宝具は、ほぼ全部へし折った。
その証拠にさっきから飛んできている宝具は折れているものしかない。
この調子で完全に壊していけば、刀剣に関してはすぐに底をつく。
それが影響して弾幕もどんどん薄くなっていってる。
そして刀剣の数がこの程度なら盾の残りも僅かのはず
この状況が続けば間違いなく
金ピカの手持ちの宝具が底をつくか
あるいはわたしの剣を防ぎきれなくなる。
どちらにしても、このままいけばわたしが勝つ。
金ピカを……殺すことができる。
なのに
(なんなの………この嫌な予感は………?)
目の前のこいつが
……ううん、そういうことじゃない気がする。
それならいったい………?
………わたしの知る金ピカは
どこまでも傲慢で常に他人を見下す。
天上天下唯我独尊
この世の全ては自分のもの
性格に難しかない奴だった。
けれど目の前のこいつは
わたしがいくら罵倒しても絶対に乗ってこない。
記憶の中のあいつだったら
罵倒どころか宝具を防いだだけでも間違いなく激昂する。
戦い方もそう
どんな時でも宝具を相手へと雑に投げつけるのがあいつの戦闘手段
数が少ないからって、こんな風に正確さを武器にして相手を攻める手段を取ることはなかったはず
(…………記憶の中の金ピカと目の前のこいつ
違和感を感じるのは確か。
だけど、それよりも
それ以上に気になるのは、こいつの目)
確かに
視線は向けている。
会話も成立している。
戦闘もしっかり対応してくる。
けれど、その目は…その眼差しは
わたしじゃなくて別のなにかを注視しているように感じる。
こいつの、この視線が
嫌な予感を掻き立てられる。
まるで
(まるで、なにか………なにかとんでもない見落としをしているような─────)
周囲の地形が変わるほどの戦闘を行いながらも
シロエは嫌な予感に苛まれる。
このまま戦闘を続けてもいいのか、と
そんなことすら頭に過ぎり始めた。
その時
「さっきから思ってたけど」
子ギルが宝具の射出を止め
シロエへと話しかける。
踏み込むチャンスだが
迷い始めたシロエは二の足を踏む。
「君ってさ、口が悪いよね。
それだけ僕を憎んでるってことだろうけど
そんなだと器が知れるよ?」
「………この状況で言ったところで
ただの負け惜しみにしか聞こえないわよ」
この状況が続けば勝つのは間違いなく自分であり
それは子ギルとて理解しているはずだと
シロエは子ギルの発言を流そうとする。
しかし
「
子ギルの続いた発言に
シロエの動きがピタリと止まる。
「主…?」
美遊が困惑する中で
イリヤは
『あの子も造られた存在だということ』
家を出る前の
アイリの発言を思い出していた。
(主…。その人がシロを造った…?)
イリヤが考えを巡らせていた。
その時
「金ピカァッッ!!!!!」
シロエの憎悪に満ちた怒号に
イリヤと美遊は驚き
身体が一瞬大きく跳ねる。
シロエは両手に持った大剣を上段に構える。
すると周囲の冷気…否
円蔵山全域に広がり漂っていた
夥しい量の冷気
その全てが
シロエの大剣へと
圧縮しながら集まっていく。
そして
超高濃度の冷気で形作られた
巨大な一本の剣となる。
「あれは…!!」
「クロに打とうとした…!!」
それは
バーサーカー戦において
聖剣を振るった経験を元にし
魔術へと落とし込んだ後、シロエのオリジナルを加えた一撃
かつてクロエと敵対していた頃
シロエがクロエを殺すべく
放とうとしていた光景を思い出すイリヤと美遊
しかし
「「え…!?」」
それは
突如として起きた。
シロエの大剣に纏われた超高濃度の冷気
それが、瞬く間に
黄金色の極光へと変換される。
変換されたその極光は紛れもなく
イリヤと美遊が見覚えのある
聖剣が放つ極光そのものであった。
手にしているものは間違いなく見慣れた大剣
にも関わらず
その極光は紛れもなく聖剣のもの
そんな奇異な光景が
イリヤと美遊の目の前に広がる。
しかし
怒りと憎しみに支配されているシロエが
それを気にすることはない。
そして、シロエは
地下での戦いと同じように
脳裏に浮かんできたその名を
口にする。
「
振り下ろされる大剣
放たれる極光
子ギルが無数の盾を展開するのが見えたが
放たれた極光は無数の盾ごと子ギルを易易と呑み込み
黄金色の極光は天へと昇った。
シロエは大剣を消し
両腕を白熊の腕へと変貌させ
さらに、腕を巨大化させる。
その大きさはイリヤと美遊が
今まで見たことがないほどに巨大であり
先の子ギルが取り出した燃え盛る巨大な剣
それを
「アアアアアアアァァァァァァァッッ!!!」
極光が立ち昇る中心へと
全力で何度も叩きつける。
ドゴォンッッ!!!ガァンッッ!!!ズドォンッッ!!!
一撃一撃毎に
土煙が舞い上がり
地面が大きく揺れ
山が陥没していくのを
イリヤと美遊は確かに感じた。
「シ……シロ………もう………」
イリヤが恐る恐る
未だに巨腕を叩きつけているシロエへと話しかける。
しかし
「ッッ!!!」
シロエは巨腕を素早く元に戻し
懐に手を突っ込む。
取り出したのは『バーサーカー』のカード
「ダ、ダメ!シロ!!」
バゼット戦でのシロエの暴走という
嫌な記憶が蘇ったイリヤが止めようとするが
「
白の民族衣装から
ほぼ半裸に近い黒の装束へと
シロエの姿が変わる。
さらに
「《加速》《硬化》《強化》《相乗》………!!」
四つのルーンと
さらに追加してもう一つルーンを
高速で刻み、極限まで強化する。
そして
「
シロエの立っていた地面が
踏み砕かれながらシロエの姿が消えた。
次の瞬間
ズドドドドドドドドドォンッッ!!!
土煙の中から
まるで連続で落雷でもあったかのような
途轍もない轟音が鳴り響いた。
「「……………」」
今まで戦ってきた敵達
その全てを消し飛ばしてもお釣りがくると思える程の
シロエの怒涛の連続攻撃を目の当たりにし
唖然とするイリヤと美遊
……………。
轟音が鳴り響いた後、場は不気味な程に静まり返っていた。
山全域から冷気を掻き集めたからか
猛吹雪は止み、再び夏の暑苦しさが戻ってきており
ただもうもうと土煙が舞うのみであった。
「ど……どうなったの……?」
沈黙に耐えきれずイリヤが呟いた。
その時
土煙が晴れる。
すると、そこには
シロエの両手両足に
黄金色に輝く鎖が巻きつき
シロエの斧剣が子ギルへと触れる寸前で
動きは停止していた。
「あん、た…やっぱり、天の鎖を……隠し持って……!!」
「やっぱりこの宝具も知ってたか。
最初から使ってたら、まず捕まらないだろうと思ったよ。
警戒してたみたいだったけど最後の最後で隙を見せたね」
天の鎖
相手の神性が高ければ高い程に強度が高まるその鎖は
シロエからしてみれば相性は最悪に近かった。
「あ…あの攻撃を受けて、無事…!?」
「無事ではないかな。
宝具もほとんど全部破壊されちゃって
使えるのは剣と盾が一つずつだけ
満身創痍もいいところだよ」
子ギルをよく見てみると
左腕は極光により焼け焦げ
その後の連撃も完全には防げなかったのか
纏った服はボロボロになり、身体のあちこちに大小様々な切り傷、打撲痕があった。
さらに右脚も変わらず凍りついたままであり、額からの血も止まっていない。
蔵の中の残りも相まって確かに満身創痍と言ってよかった。
「けど…」
シロエの両手両足に巻きついている
天の鎖が大きく引かれ
シロエの手から斧剣が零れ落ち
シロエは✕の字で拘束される。
「ぐ…」
「シロ!!」
未だに諦めてないのか
シロエは鎖から抜け出せないかと
身体を動かそうとするも
ガチャガチャ
と鎖が音を立てるだけであった。
「
「…?」
「さてと、じゃあ…」
子ギルの言葉の意味がわからず
訝しむシロエの
ガシッ!
頭部を子ギルが右手で掴む。
「な…」
「なにするの!?」
美遊とイリヤが声を上げるが
子ギルはそれを無視する。
「うーん…。わかってたけど、ぐちゃぐちゃになってるなぁ。
片っ端から見ていくしかないか」
子ギルは肩を竦めながら作業を開始する。
「まず一つ目は……欺瞞。
空っぽな心とその最奥に秘めた負の感情を
隠して誤魔化し、道化を演じる虚ろな日々」
シロエの身体が
ピクリと震える。
「次は……停滞。
思考を放棄し主の命をただ遂行する日々
戦闘経験のみが積み重なるものの、主の願いが叶うことはなかった」
シロエは気づく。
子ギルがなにをしているのかを
「それでこっちの消えかかってるのは……うわぁ、道具というよりも奴隷じゃないかな?これは」
「わたしの、
シロエは
バーサーカーのカードが地面へと落ち
シロエの姿が民族衣装へと戻ったことにより
天の鎖による拘束に
一瞬、ほんの僅かではあるが隙間ができる。
シロエはその隙間を使い、右腕のみ天の鎖から引き抜く。
そして
「触れるなぁッッ!!!」
右腕を白熊のものへと変貌させ
今も自身の頭部を掴んでいる子ギルへと
力一杯に振るう。
しかし
ゴォン!!
子ギルは最後の盾を波紋から取り出し
白熊の腕を受け止める。
無論、シロエの頭部は掴んだままである。
「なら、こっちは…」
子ギルはなにごともなかったかのように
シロエの記憶を探っていく。
そして
子ギルの先までの笑みが消え
真顔となる。
「そういうこと、か………。聖杯戦争の常とはいえ、ろくでもないことをするなぁ。大人の僕は」
その時だった。
ビシ……バカァンッッ!!!
未だに探り続けている子ギルへの
シロエの憎悪が増したからか
白熊の右腕が盾を破壊し
子ギルへと衝突する。
メキィッ!!!
子ギルは地面を転がりながら吹き飛ぶ。
しかし、盾により勢いが殺されたからか
10m程転がった後、停止する。
そして
子ギルの負傷に反応したのか
天の鎖が自動的に動き
シロエの白熊の右腕をぐるぐる巻きにし拘束しようとする。
「…ッ」
シロエの右腕が元に戻るが
天の鎖はシロエの細腕を今度こそ完全に締め上げ
再びシロエは✕の字に拘束される。
そして、ゆらりと
子ギルが立ち上がる。
額からの出血はさらに酷くなっていた。
「…」
子ギルは無言のまま
黄金の波紋を展開させ
中へと右手を突っ込む。
そして
「……これも因果か」
呟いた子ギルが蔵の中から
残った最後の剣を取り出す。
「!!」
その剣を見たシロエの顔色が悪くなる。
何故なら、その剣は
「あ…ぁぁ……」
かつて
『イリヤ』を殺した剣
そのものであったからだ。
ガチャッ!!ガチャンッ!!!
シロエが恐怖に駆られ
激しく身動きをするも
拘束が解けることは無論ない。
右脚が凍っているからか子ギルはゆっくりとシロエへと近づく。
そして
ドスッ!!!
子ギルの右手の剣が
シロエの胸の中心を貫いた。
かつての『イリヤ』と全く同じように
「い、あっ…」
「シロ!?」
「僕の友に拘束されてる状態で盾を壊すなんてね。
やるじゃないか。ねぇ?」
子ギルは突き刺した剣を
ぐりぐりと動かす。
「あ、が…ぐ……ぅ……」
動かす度に
シロエから苦悶の声が漏れ出る。
「やめて!!!」
シロエが痛めつけられている光景に
見ていることなどできなくなったイリヤが
子ギルへと魔力弾を放つ。
しかし
ゴンッ
子ギルは魔力を使い
障壁を形成しイリヤの魔力弾を防ぐ。
無論、先から取り出していた宝具の盾と比べれば脆弱ではあるが
イリヤはそれを突破することができない。
「…やられた分を返しただけだよ。
それに」
子ギルがシロエに突き刺した剣を
勢いよく引き抜く。
「あぐっ!!」
「シロ!!」
すると
シロエの胸の周りに
無数のルーン文字が浮かび
「え!?」
シロエの胸の刺し傷が見る見るうちに塞がっていく。
見覚えのある光景であった。
それは
「《蘇生》のルーン。
踏み込んでくる直前に刻んでいたね。
抜け目ない…いや、臆病だと言うべきかな」
シロエは
《加速》《硬化》《強化》《相乗》の四つのルーンと
そして
追加で一つのルーン…《蘇生》のルーンを刻んでいたのであった。
傷は完全に塞がり
ルーン文字が消える。
しかし
トラウマを刺激された所為か
シロエの顔色は悪いままであり、震えている。
さらに
「………うっ!」
戦意を喪失してしまったのか
民族衣装のシロエの姿が変わり
イリヤ達が見慣れているシロエの私服である
薄緑色の質素なワンピースへと
戻ってしまう。
もはやシロエが戦うことはできない。
そう判断し焦るイリヤと美遊
しかし
「─────え?」
シロエの変化は
それで終わらなかった。
「シ…シロ…なの…?」
「…」
「…………?」
イリヤの反応と無言の美遊に
シロエは訝しみながら何気なく
自身を拘束している鎖を見る。
すると、そこには
鎖に映った
「ぁ…(鎖で神性を、抑えられて…)」
シロエが思わず
イリヤと美遊から顔を逸らし俯く。
「い、いったい………なにが………?」
「…」
長い銀髪からも青みがなくなっており
もしも
美遊がプレゼントした髪留めがなければ
自身と完全に同じとなっていたであろうシロエのその姿に
困惑するイリヤ
そんなイリヤに返事をすることができないシロエ
その時
無言だった美遊が
「シロは、多分………わたしとは違う世界の………平行世界のイリヤなんだと思うの………」
「平行世界の………わたし!?」
イリヤが驚愕しシロエを見る。
しかし
シロエは俯いたまま、なにも言わない。
今までの沈黙とは違う。
まるでそれが真実であるかのように
イリヤがゴクリ…と唾を呑む。
「そうなの?シ」
「うん。そうだよ」
返ってきた肯定の言葉
しかし、それは
シロエからではなく子ギルからであった。
「でも、それじゃあ50点…いや、30点ってところかな」
「え…」
「それだけだと、これだけの力を持っていることへの説明がつかないでしょ?」
それは…その通りであった。
敵が存在しているその土地ごと
自然を操り、動く者なき永久凍土へと変えてしまうあの力
平行世界の住人以前に
人間が振るっていいものではない、と
イリヤも
そして平行世界の住人である美遊も
そう思った。
「当然だよ。だってこれ、人間じゃないからね」
ルビーとサファイアが黙っていた情報を
暴露する子ギル
「人間じゃ…………」
「…………ない?」
子ギルからの爆弾情報に
イリヤと美遊の目が見開かれる。
「これはね─────」
そして、とうとう
「─────神霊の宝具だよ」
一話目投稿から二年と七ヶ月ちょっと
62話目にしてようやく
正体バレへとたどり着きました。
シロエさん、いくらなんでも粘りすぎでしょ……。