プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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今回の話にも独自設定及び設定の捏造が多量に含まれているため
ご注意ください。




真実

 

 

「宝……………具……………?シロ、が……………?」

 

 

物心がつき始めた頃より

人生の半分以上を

ずっと共に過ごした妹…シロエ

その正体が宝具であると明かされ

イリヤが呆然と呟く。

 

美遊も口を開かないものの

先までの沈黙とは違い

完全に予想の斜め上を行った正体に呆然としている。

 

 

「正確には、使い魔…あるいは分体

分類(カテゴリ)で言えば精霊だけどね。

ここまでのリソースを割かれているのなら、間違いなく宝具だよ」

 

 

そんな二人に子ギルが

余裕たっぷりに補足する。

 

 

「ルビー………神霊、ってその………」

 

「………英霊の座に迎えられるのは

なにも偉業を成した英雄だけではありません。

そんな英霊達よりも1ランク上の存在。

太古の昔、神話や伝説に登場する高位の存在。

わかりやすく言うのであれば、イリヤさんの想像している通り………神様、です」

 

「神………様………」

 

 

 

神様

読んで字の如く、イリヤが想像した通りであったが

イリヤからしてみれば

空想上の御伽話にしか出てこないような

雲の上の存在に、イリヤは言葉を失う。

 

 

「では、シロさんが扱っていた魔術は……まさか」

 

「神霊級の魔術だよ。本物の、ね」

 

「神代の……それも、本物の神が扱っていた魔術……。

現代の魔術師では解析すらできないのも

魔法染みた知識を所持していたのも

当然というわけですか」

 

 

そして、なにより

 

 

「クロさんが…そしてバゼットさんが勝てないわけです。

いくら英霊クラスの力を持っていたとしても、神霊には勝てません。

神霊に抗えるのは英霊の中でも、大英雄とまで呼ばれた

最上位に位置する…ほんの一握りの者達だけです。

英霊と神霊にはそれだけの決定的な差があります。

文字通り………格が違います」

 

 

格が違う。

先のシロエと子ギルの

大規模な攻防を目にした美遊は

否定の言葉を出せない。

しかし

 

 

「で、でも…シロは、平行世界のわたしだって…」

 

 

子ギルは

シロエが平行世界のイリヤであるということに

肯定の意を示した。

その一方で宝具でもあるとはどういうことなのか、と

イリヤがなんとか疑問を発する。

 

 

「疑似サーヴァント」

 

 

そんなイリヤの疑問にも

子ギルはあっさりと答える。

 

 

「疑似……サーヴァント?」

 

「疑似英霊って考えればいいよ。

英霊もしくは神霊を人間の肉体へと憑依させた存在

それが疑似サーヴァントというシステムだよ」

 

 

困惑するイリヤと美遊に

疑似サーヴァントについて

子ギルが説明を行う。

 

 

「そしてそれは、既に死した人間であったとしても可能」

 

 

死した人間。

イリヤと美遊は先の

私を殺した、という

シロエの発言を思い出す。

即ち

 

 

「平行世界の、わたしが………死んで

神様になったって………言うの?

それが………シロ、なの?」

 

「大体は合ってるけど、まだ少し違うかな。

神霊になったというよりも、依代として平行世界の君が選ばれた。

依代の肉体と精神を核として三つの霊格を詰め合わせ

融合したハイ・サーヴァント。

そして、その神霊が

自身の一部を使い、宝具として生み出した使い魔。

それが、これの正体だよ」

 

 

三つの霊格が融合したハイ・サーヴァント

まさしく規格外と呼ぶべき存在に

ルビーとサファイアは唖然とする。

 

平行世界の『イリヤ』が

死した後、神霊の依代になったという事実

そして、シロエの生い立ち。

シロエを造った存在がその神霊と化した『イリヤ』であるということ

シロエはその使い魔あるいは分体だということ

それらの衝撃的な情報を前にし、イリヤと美遊は頭が追いつかない。

 

 

「平行世界の君の成れの果て。

そのうちの一つの姿…と言ってもいいかもしれないね」

 

 

シロエが秘していたもの

それを混乱しているイリヤ達にもわかりやすくするべく

子ギルが言い換える。

 

 

「な、なんでシロはそれを黙って…」

 

「…言えるわけがありません」

 

「ルビー…?」

 

「神霊クラスの魔術知識を持つ

神霊と繋がりのある存在………。

魔術師からしてみれば喉から手が出るほどに欲しい存在です。

知れ渡れば、間違いなく狙われます。

ましてや使い魔。人権なんて与えられるはずがありません」

 

「そ、そんなこと…!!」

 

 

イリヤには理解できなかった。

イリヤにとっての魔術師の知り合いは

凛とルヴィアそれにバゼット

バゼットとは直接、戦闘にこそなったものの

いずれも色々なことができる頼りになる大人

それくらいの認識しかなかった。

イリヤは知らない。

魔術師達の住む世界がどういうものなのか

自身もかつては魔術の道具として生み出されていたとしても

 

 

「…ッ」

 

 

そして、それを理解している美遊は

俯きながら、唇をきつく結ぶ。

 

 

「自身というよりも主の安全を理由にしていて

それとは別に、感情的な理由もあったようにも思うけどね」

 

「あん………た………!!」

 

 

ここまでひた隠しにしていた自身の秘密

それをよりにもよって、この大嫌いな英霊に暴露され

天の鎖に拘束されているシロエが

トラウマの刺激から多少は回復したのか

赤い瞳となったその目で、憎々しげに睨みつける。

しかし

その顔色は未だに青ざめ、さらには身体の震えも止まっておらず

服装も民族衣装へと変わることはなく

私服である薄緑色のワンピースのままなため

強がっているのは誰の目にも明らかであった。

そして、子ギルはそんなシロエに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そしてさらに言えば、これはその身に聖杯の機能まで宿している」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらなる爆弾を投下する。

 

 

「聖、杯……?え…?で、でも、シロは……」

 

 

イリヤが

クロエとの戦いが終着した際の

 

 

『わたしはここのアインツベルン本家とは一切関係性はない。

()()()()()()()()、足を踏み入れたことすらない』

 

 

エーデルフェルト邸の大浴場での

シロエの宣言を思い出す。

確かにそう宣言したと

そして

あの宣言は嘘だったのかと

イリヤは焦りながらシロエを見る。

しかし

 

 

「────────────────は?」

 

 

当のシロエは

憎々しげな様子が消え

呆然と子ギルを見つめていた。

 

 

「案の定と言うべきか、気づいていなかったんだね。君自身も」

 

「なにを、言って………ありえないわ。

だ、だって聖杯は座にいる()()()が」

 

 

依代の『イリヤ』由来である聖杯

その聖杯としての機能もまた英霊の座において刻まれてはいた。

もっとも、シトナイは召喚に応じ現界する際にはその聖杯の機能は持ち込まずに座へと置いてきていたのだが

それは、さておき

自身をシロエとして転生させる際にも、神霊級の魔術とそして聖杯の力を使っていたことを思い返しながら

聖杯は本体であるシトナイが持っているはずだと

そのシトナイから造られた自身には、その機能はないはずだと

動揺するシロエ

 

 

「ああ。聖杯はやっぱり君の主が持ってたんだね」

 

「ッ!?」

 

 

シロエは、ハッとし口を閉じ

子ギルを睨みつける。

引っかけたのか、と

聖杯の所在がシトナイが持っていることを確かめるために

しかし

 

 

「嘘なんかついてないよ。聖杯は今、君が持っている。

本当にわからないの?不完全ながらに使われたこともあったというのに」

 

「そんなこと……」

 

 

子ギルの人を食ったような態度に

シロエはムッとしながら

否定しようとするが

 

 

「ある………わけ………」

 

 

その時

シロエは思い出す。

 

 

『お願いだから元に戻ってよシロ!!!!』

 

 

バゼット戦での

イリヤの必死な叫びを

その後、自身の胸から溢れ出した

あの純白の光を

 

 

「…………」

 

「あの時……聖杯が、わたしの願いを叶えたの……?」

 

 

あの後

シロエの豹変により、それどころではなくなり

あの光のことなど、今の今まで頭から吹き飛んでしまっていたのである。

 

実際に聖杯が使われたかもしれない場面が出てきてしまい

言葉を失うシロエと

同じくあの純白の光へと思い至ったイリヤ

しかし

 

 

「け……けど、聖杯は……座にいる()()()が持ってて……」

 

 

聖杯を持っていたのはシトナイ

それは確かである、と

シロエが口ごもりながら反論する。

それに対し

子ギルはシロエから視線を下へと落とし

 

 

「…そのカード」

 

 

排出(アンインストール)により

シロエの足下に落ちている

『バーサーカー』のクラスカードを一瞥する。

 

 

「そのカードがなんなのか。知ってる?」

 

「え。えーと…」

 

 

唐突な問いに

イリヤが答えることができないでいると

 

 

「…聖杯戦争における召喚器の一種!!」

 

 

シロエが余裕たっぷりな子ギルに対し

苛立たしげに問いに答える。

 

 

「通常の…アインツベルン達が運営した聖杯戦争は

英霊にエーテルの肉体を与えてサーヴァントとして召喚し令呪で従わせるのに対し

このカードは英霊をマスターの身体へと召喚させる。だから、服従させる令呪もこのシステムにおいては必要ない。

おそらくは………」

 

 

シロエが美遊を

ちらりと見ながら躊躇するも

 

 

「………ミユの、世界での聖杯戦争で使われていたもの。

聖杯戦争が終結し、その後の聖杯への願いによりミユと共にこの世界へとやってきた!!

それがなんだと言うの!?」

 

 

聖堂教会が…カレン先生が監視していたことを加味するならば

クロエ達には、これらの情報はバレていると

シロエは一気に言いきる。

 

 

「シロ………やっぱり、気づいて………」

 

 

薄々わかっていたこととはいえ

シロエが気づいていたことがはっきりとし

美遊が呆然と呟く。

 

 

「すごいね。別の世界のとはいえ、さすがは聖杯戦争の経験者といったところかな」

 

 

子ギルが称賛する。

シロエの考察は概ね当たっていると

しかし

 

 

「けど、惜しい。肝心なものが抜けてるよ。

君にとっては、一番重要なものがね」

 

「なに…?」

 

 

眉間に皺を寄せるシロエ

そして

 

 

「このカードを成り立たせている術式。

それは"置換魔術"なんだよね」

 

 

子ギルが

シロエにとっては衝撃の情報を伝える。

 

 

「置換、魔術…!?」

 

「使用者の肉体を媒介として、座に居る英霊と置換する。

それがこのカードに施された術式だよ」

 

 

カードに施された術式

それが置換魔術であるということを知り

衝撃を受けるシロエ

 

夢幻召喚(インストール)を行う際は

膨大な魔力とバーサーカーとの強力な縁を使用し

術式を知らないまま、強引に召喚を行っていたのである。

無論、神霊級の魔術知識を持つシロエならばカードを解析することも可能であったかもしれないが

カードが美遊に関係している可能性が浮上してきた時点で調べないことに決めてしまったのである。

 

 

「ま…さか………」

 

 

そして、それが

 

 

「聖杯が、わたしの中に置換されたの…!?」

 

 

シロエにとっては

最悪な事態を引き起こしてしまった。

 

 

「同一の身体、同一の魔力

そして座と現世という次元を超えて、なお繋がり続ける強固なパス

これらの条件を前にして置換魔術の術式が独りでに反応した。

君がカードを手に取ったその瞬間から

誰にも知られることなく起動していたんだよ」

 

 

手に取った瞬間。

シロエは思い出す。

エーデルフェルト邸にて凛と契約を結び

『バーサーカー』のカードを手にしたあの瞬間を

あの瞬間から置換は始まっていたのであった。

 

 

「しかも君さ、こっちの世界に来てから

神気を外部に一切漏らさず、自身の中に溜め込み続けていたでしょ」

 

 

それは…当然である。

神気なんてものを僅かにでも出してしまえば

正体など即座にバレてしまうからである。

実際のところ

何事も起きなければ、それで問題はなかった。

しかし

 

 

「君の中へと置換されていった聖杯。

それが溜め込まれていた神気を取り込み変質し

その性能を遥かにランクアップさせた」

 

「な────」

 

 

第三次聖杯戦争

アインツベルンは必勝を期して復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァントを召喚した。

そして敗退後、復讐者(アヴェンジャー)を聖杯が取り込んだことで

聖杯が汚染されてしまうという事態が起きた。

今回、起きた事態はこのケースのほぼ真逆と言ってよかった。

 

 

「人間の魔術師が造り出した名ばかりの万能から

正真正銘本物の、神の奇跡へとね」

 

 

10年と約9ヶ月。

シロエが神気を溜め込み続けた期間である。

これだけの長期間、溜め込み続けた神気は

当然、とんでもない量と濃度になっており

それを取り込むということは

もはや神霊そのものを取り込むことと大差はなかった。

 

 

「君が、違う英霊の宝具…その事象を再現できたのも

その力の一端だよ」

 

 

違う英霊の宝具…その事象の再現。

地下で再現したマシュの『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)

そして先の戦いのセイバーの『約束された勝利の剣(エクスカリバー)

それらを現物も担い手もなしに

真名解放をした際の事象それのみを

再現してのけた件である。

 

 

「模倣とは、目標となるものを真似て造り出すこと。

目標に近づきたい、同じようにしたい。

そういった強い願望の一種なんだよ」

 

 

セイバー戦

あの時、お姉ちゃん…クロは

アーチャーのカードを夢幻召喚(インストール)して

聖剣を投影しセイバーを打倒した。

本来、アーチャー本人であっても不可能なはずの

神造兵装の完全再現そして真名の解放を行って…。

これはアーチャーの能力の他に

聖杯としての力も併用した結果なんだと思う。

その他にも聖杯の能力を使ってクロは

魔法と言っていい技術である空間転移すらも扱ってみせた。

 

なら、その聖杯の力がランクアップしたとしたら?

 

アーチャーの能力がなくても、ある程度まで神霊級の魔術で補填して

そこにランクアップした聖杯の力が加われば

強いイメージ…それこそ

実際に目にし、経験してきた事象であるならば

それがたとえ英霊の象徴(シンボル)である宝具であったとしても

実例がある以上、再現することは………可能になると思う。

 

 

「神霊級の魔術により事象のガワを造り出し

要である中身の神秘は聖杯が補った。

そうして出来上がったのが、あの氷の城やさっきの聖剣というわけさ。

…僕の『エア』が受け止められたのには、流石に驚いたけどね」

 

 

人理の盾なんてものを再現されたら納得するしかない……かな。

 

と不承不承ながらも子ギルが頷く。

一方で、シロエは

戦っている最中での

子ギルの視線を思い出す。

自身ではなく別のなにかを注視していたあの視線を

さらに

 

 

()()()みたいだね』

 

 

子ギルの言動を思い返す。

即ち

 

 

「あんた、まさか……そのためにわたしを怒らせて……!?」

 

「苦労したよ。怒れる君から夢幻召喚(インストール)を引き出して聖杯の置換を完全なものにするのは」

 

 

シロエがカードを使用し

置換魔術の術式を自身の中へと取り込めば

当然、触れている時よりも聖杯の置換速度は遥かに速まる。

子ギルはそれを…シロエの夢幻召喚(インストール)を狙っていた。

 

 

「誤解しないでほしいけど

君との戦いで手を抜いていたわけじゃないよ?

存分に楽しめたしね。

でも、それと同時に

君の中の人工物の聖杯がどうなるのか。

それも見てみたかったんだよね」

 

 

順当にその格を上げるのか。

あるいは

性質は違えど、かつての冬木の汚染された聖杯と同じように

周囲に災害を撒き散らすのか。

 

 

「運がいいというべきか。

順当にランクアップを果たした結果となった」

 

 

これはこれで面白いことになった、と

子ギルは満足そうに嗤う。

 

 

「元の人工物だった頃の面影なんてまるで残っていない

本当に稀有な存在となった。

オリジナルに極めて近いと言っていい。

美遊にだって決して勝るとも劣らないものだよ」

 

「ミユ…?」

 

 

美遊の名前が出され

イリヤが困惑しながら

美遊へとちらりと視線を向けるも

美遊は無言のままである。

しかし

子ギルの言い方からイリヤは思考を巡らせ

 

 

「ミユも…聖杯戦争のために生まれたの?」

 

 

問いを投げかける。

しかし

やはりと言うべきか

美遊はその問いには答えられず

 

 

「違うよ。()()()()()()聖杯戦争が作られたんだ」

 

 

代わりに子ギルが答えていく。

 

 

「彼女は、生まれながらに完成された聖杯だよ」

 

 

美遊もまた聖杯である、と

 

 

「美遊様も…聖杯…!?」

 

「こっちの人形とは違って元々天然物。

人間が聖杯という機能を持ってしまった…と言うよりは

聖杯に人間めいた人格がついてしまったのかな。

いずれにせよ、どちらも世界にとってはバグみたいなものだ」

 

「……ッ!!勝手なことを…!!」

 

 

子ギルの言い分に

憤るイリヤ

しかし

 

 

「…」

 

「君はそこまで驚いていないように見えるね。

ある程度は、予想してたのかな?」

 

 

イリヤが目を見開きながら

再びシロエを見る。

しかし、シロエもまたなにも言わない。

 

 

「あるいは、それどころじゃない…とかかな?」

 

 

図星であった。

美遊が聖杯…即ち、イリヤと同じ立ち位置なのではないかと

シロエはそう予想を立てていたことがあった。

『平行世界』と『誕生日』という情報から

一瞬、頭に過っただけではあったものの

一度その答えにたどり着いていたため

そこまで動揺はしていなかった。

そう。美遊に関してのみで言うのであれば

 

 

()()()

現界する時には、必ず聖杯としての機能は持ち込まなかった。

それは、聖杯には悪い思い出しかないからだと思っていた。

けれど、それだけじゃなかったのかもしれない。

 

()()()は聖杯が変質することを恐れていた…?

 

聖杯が神霊の力を取り込めばどうなるのか予測できなくて

あまりにも危険すぎるから

冬木の汚染された聖杯のことを考えれば、()()()が警戒していたとしても不思議じゃない。

思えば()()()が聖杯の力を使ったのは

わたしを転生させた時の一回きり。

それに使った場所は英霊の座

万が一が起きたとしても被害は出ない。

もちろん使った時は、聖杯になにも混ざらないように

細心の注意を払っていただろうけれど

 

だけど

もし、それが本当だとしたら

()()()の聖杯を──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────あ、れ?

なんでわたしは、シトナイのことを()()()って呼んでるの───?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…嘘…。なん、で…」

 

 

確かにわたしは『イリヤ』の側面を持っている分体ではある。

けど、それでも

シトナイのことをわたしだと認識することはない。

なぜなら決定的な違いがあるから

それは言うまでもなく

『シトナイ』と『猟犬トケ』という違い。

生前から続く主従関係

つまり

『主』と『道具』という関係

その関係がある限り…わたしが『猟犬トケ』である限りは

シトナイのことをわたしと認識することはない。

現に、わたしは……………そう。

確か、マスター…と呼んでいたはず

なのに……………まさか……………

 

 

「シロ…?」

 

 

様子がおかしいシロエに

イリヤが声を掛けるが

それに答える余裕すら

今のシロエにはない。

 

 

「…ようやく気づいたかな?

君の精神もまた置換されていっていたことに」

 

「!!」

 

 

薄々勘づき始めたものの

子ギルの指摘に

シロエの目が見開かれる。

 

 

「精神…?」

 

「これを構成している精神は平行世界の君だけじゃない。

複数の精神が折り重なり、これの精神を構成していた」

 

 

シロエの衝撃的な情報が次々と飛び出し

イリヤの頭はパンクしそうであったが

子ギルは構わず情報を追加していく。

 

 

「だけど、カードに施されていた置換魔術の術式によって

主と共通して持っていた平行世界の君という側面そして精神が

置換されていき、加速度的に侵食していった」

 

 

そして、逆に

シロエしか持っていないもの

『猟犬トケ』の精神はどんどん薄れていき

 

 

「そして、その結果

精神バランスは完全に崩壊し

不安定な状態となった」

 

 

先の夢幻召喚(インストール)により

『猟犬トケ』の精神は

ほぼ消えかかっている状態となってしまっていた。

 

 

「ま、待って!!

じゃあ、シロの様子が最近おかしかったのは

カードの所為だったって言うの!?」

 

「…切っ掛けは、という話をするならそうだね」

 

 

子ギルが断言し

美遊の顔色が一気に青褪める。

 

 

「…」

 

「覚えがあるはずだよ。

なにせ、君が長年蓋をしてきた負の感情。

それが、ここ最近は時間が経つに連れて

抑えきれない程に肥大化していくのを君は感じていた」

 

 

そして

 

 

「負の感情を抑えきれずに周りを傷つけた後

いつも君は一人で落ち込み泣いていたんだから」

 

「え…」

 

 

子ギルが暴露するものの

最近の冷たすぎるシロエからは

到底想像できない様子に

イリヤが戸惑う。

しかし、当のシロエはというと

呆然としたままであった。

 

 

全部、カードが原因だった?

キリツグと、そしてその理想への憎しみ

アイリへの哀しみ

セラへの辛さ

クロへの苛立ち

それらがどんどん大きくなって、抑えきれなくなっていったのは

わたしが、変わったのは

わたしに…迷いが生まれたのは

わたしが………弱くなってしまったのは

 

全部、カードの……所為だった?

それじゃあまるで────

 

 

「ち、違……バーサーカーは悪くない!!

だって…」

 

「うーん。そうとは言いきれないんじゃないかな?

仮にだけど選んだのが他のカードだったのなら

手に取っただけで術式が勝手に起動するなんて事態は起きなかったはずだよ。

他のカードを選ぶという選択肢は君にはなかっただろうけどね」

 

 

術式を身体へと取り込む夢幻召喚(インストール)を行うのであれば

どのカードであっても悪影響を及ぼすものの

ただ触れているだけでは本来、置換が進むということはなかった。

『バーサーカー』のカード以外であるならば

バーサーカーと『イリヤ』の間にある強すぎる縁

それが却って仇となってしまったのだ。

 

 

「負の感情に駆られて周りを拒絶し」

 

 

シロエの中で

アイリ達やそしてクロエの姿が消え

 

 

「縋る思いで手に入れたカードも自身に害を為し」

 

 

バーサーカーの姿が消え

 

 

「そして、聖杯を勝手に持ち出し

主が避けていたであろう事態を引き起こした」

 

 

シトナイの姿が消える。

 

 

「あーあ。これで君には」

 

「や、やめ」

 

 

シロエに恐怖の表情が浮かぶ。

しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで君には、なにも無くなっちゃったね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ぁ」

 

 

シロエの中で

ずっと張り詰めていたなにかが

プツリ、と

切れる音がした。

 

 

「う、ああぁぁあああぁぁぁぁああぁぁあぁあぁぁぁあああああぁあぁぁあぁあぁぁああぁあぁぁあぁああぁあぁああぁぁあぁああぁぁあぁぁああああぁあぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁあぁあああぁあああぁぁぁああああぁぁああああぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁあああああぁあぁぁああぁぁぁぁ」

 

 

目からは光が消え

シロエは俯く。

そして

悲嘆に満ちた声が

堰を切ったように

シロエから出てくる。

 

 

「シロ?シロ!しっかりして!!」

 

 

シロエの中で

なにかが崩れてしまったことを

イリヤは感じ、声を掛けるも

シロエの耳にはもはや届かない。

 

 

誰も信じることができなくて

その結果、誰からも信じられなくて

手放しで信頼できると思ったバーサーカーも

わたしに害を与えていた。

そして

()()()の聖杯を勝手に持ち出して

挙げ句、()()()が避けていた変質までさせてしまった。

間違いなく………失望された。

 

誰もいない。

孤独。

なにもない暗闇へと

堕ちていく感覚。

ただただ、寒い。

 

誰もいなくなって、浮かんできたのは

『猟犬トケ』の前の主の…あの男の顔。

憤怒の表情をしたあの男の顔。

あの男が、罵倒する。

役立たず…ううん、違う。

それすらも通り越して

ゴミ、と─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────ゴミ?

ゴミハショブンシナイト。

ワタシガワタシデイルウチニ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから

それを使うことに

躊躇いはなかった。

 

 

「…ようやく、折れたかな?

じゃあ───」

 

 

シロエの心が完全に折れたことを

確認した子ギルは

 

フォン

 

拘束されているシロエの足下に

黄金色の波紋を展開させる。

人一人が入るくらいの大きさの波紋である。

 

 

「───しばらくの間、中でそのまま大人しくしてなよ」

 

 

俯いたままピクリとも動かないシロエが

そのまま降下していき

展開された波紋の中へと

足から消えていく。

 

 

「シロ!!!」

 

 

焦ったイリヤが駆け出し

シロエへと近寄り

引っ張り出すべく

シロエの右手を両手で掴む。

その時

イリヤは異変に気づく。

 

 

「!?(冷たい…!?)」

 

 

掴んだシロエの身体

その身体が

冷たかった。

生物のそれではない。

それこそ、まるで氷か

あるいは…死体のように

そして、よく見ると

シロエの胸の中心には

圧縮され、小さくなった幾何学模様の魔法陣が

幾重にも張り巡らされ、浮かび上がっていた。

 

 

「これは………封印か」

 

 

その複雑怪奇な魔法陣を読み解き

なにが起こっているのか

見抜いた子ギルが呟く。

 

イリヤとクロエがシロエの部屋を去った後

シロエが用意していた術式

それは…封印術式であった。

 

シロエにとっての最悪とは

自身が死ぬことではない。

自身が敗れ、万が一捕まった後

繋がりを辿られシトナイにまで手が及ぶことである。

シロエの施した封印術式は

自身のあらゆる機能を停止させる。

シロエの持つ神霊級魔術の魔術知識も

シトナイとの間にあるパスも

何者であろうと触れることができなくなる。

シトナイへと手を伸ばすことも無論不可能となり

そして、シロエが意図していないことではあったが

聖杯としての機能もまた第三者が使用することはできなくなっていた。

しかし

 

 

「正気かい?

見たところ神霊級魔術による多層封印式。

現代の魔術師では解除はおろか解析すら不可能に近い。

そして君は、主の下へと還ることすらできなくなる。

………自決するようなものだよ?」

 

「…」

 

「親の心、子知らず…か。

君は本当に脆く、愚かで────哀しい子だね」

 

 

子ギルがシロエを

憐れむような目で見る。

そして、その一方で

子ギルの

 

自決するようなもの。

 

という言葉から

イリヤは思い出す。

 

 

『───わたしが死ぬことになっても構わないということ』

 

 

ライダー戦後の

シロエの言葉を

 

 

「ダメッッ!!!!!」

 

 

既に波紋へと

腰まで呑み込まれてしまっているシロエを

 

 

「ダメだよ!!シロッッ!!!やめて!!!」

 

 

イリヤは力一杯に上から

引っ張り上げながら叫ぶ。

そんなイリヤに

 

 

「……お姉ちゃん、ミユを連れて逃げて」

 

 

シロエは俯きながら

誰の顔も見ずに

手を離し、ここから逃げるように伝える。

 

 

「それが……わたしからの、最後のお願いだよ」

 

「最後だなんて言わないで!!絶対に助けるから!!

わたしが、なんとかする」

 

「お姉ちゃん」

 

 

必死なイリヤの言葉を

遮るシロエ

そして

 

 

「ごめんね」

 

 

静かな声で謝罪をする。

 

 

「本当は、気づいていたんだよね。

わたし……………お姉ちゃんをずっと騙してた。

本当のわたしは………どこにも、いないの」

 

 

騙してた。

一番聞きたくなかった言葉に

イリヤの顔が大きく歪む。

 

 

違う。

手が緩むのは

シロの手が冷たくて、かじかんでいる所為。

わたしは、シロを……見捨てたいなんて

シロを、嫌いになんて

 

 

「お姉ちゃんは強くなった。

どんな困難があっても、逃げ出さない強さを得た。

もう………わたしがいなくても大丈夫」

 

 

イリヤが

何度も横に頭を振るう。

その身体は震えている。

 

 

「だから、哀しまないで。

元に戻るだけだから。

本来の…あるべき形に戻るだけ」

 

「いやだ!!!聞きたくない!!!」

 

 

イリヤの目に

涙が浮かぶが

シロエは変わらず俯いたまま

 

 

「ミユ」

 

 

美遊へと話しかける。

青褪めたまま、なにも言えずにいた美遊の身体が

ビクリと震える。

しかし

 

 

「ごめんね」

 

「え…」

 

 

身に覚えのないシロエの謝罪に

顔を青褪めさせていた美遊が困惑する。

 

 

「わたしと約束した所為で、却ってみんなに話しづらくさせちゃったよね。

わたしの都合にミユを巻き込んじゃった」

 

「ち、違…」

 

「ミユが聖杯だったことだけど…気にしなくて、いいと思う。

周りがなにを言ったとしても、それを決める権利なんて周りにはない。

ミユが…縛られる必要なんて、どこにもない。

縛られないで………ほしい」

 

 

美遊の目が

大きく見開かれる。

 

 

「あなたはわたしと違って………まだ、ちゃんと生きてるんだから」

 

「違う!!!!!

シロだって、ちゃんと生きてる!!!

それに謝るのは………巻き込んだのは!!!」

 

 

美遊の

涙声混じりの叫びも

シロエには届かない。

 

 

「あなたは、わたしのような終わりは迎えないでね。ミユ」

 

 

ガクン、と

イリヤの力が抜けたからか

シロエの身体が一気に首元まで

波紋へと呑み込まれる。

 

 

「お願いだから、待ってよ!!!

全部が……嘘、だったとしても

わたしなら気にしないから!!だから!!!」

 

 

イリヤの叫びに

シロエはゆっくりと顔を上げ

光を失った赤い瞳で

イリヤの顔を見上げる。

 

 

「シロ…!!」

 

 

ようやく反応したシロエに

イリヤが僅かに顔に喜色を浮かべる。

しかし

 

 

「………ごめんなさい。

わたしは………あなたの道具に成りきることが、できませんでした」

 

「なにを………言ってるの?」

 

「わたしは、あなたの道具には相応しくありませんでした」

 

「ねえ!!()()()()()()言ってるの!?」

 

「わたしは、自身の感情に振り回されてしまいました」

 

「わたしを…お姉ちゃんの方をちゃんと見て!!!」

 

「わたしは、自身の心を押し殺すことができませんでした」

 

「お願い……………だから……………」

 

 

イリヤの目から

涙が零れ

シロエの顔へと落ちる。

 

そんなイリヤにシロエは

これで最後だからと

いつもの笑顔を浮かべようとする。

 

しかし、その笑顔は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バイバイ。お姉ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前のものとは、似ても似つかない

今にも崩れ落ちそうな

ボロボロの笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

イリヤが掴んでいた手が

スルリと離され

 

 

「シ…………………ロ…………………」

 

 

シロエは

黄金の波紋の中へと

消えていった。

 

 

後に残ったのは

地面に落ちている

主を失った『バーサーカー』のカードのみであった。

 

 

 




子ギル「ジャンジャジャーン♪今明かされる衝撃の真実ぅ!!」

シロエ「金ピカァァァァァァッッ!!!※ベ◯タァァァァァァ風」

子ギル「そう!全てはカードを造ったエインズワースっていう人達の仕業だったのさ!!」

ΩΩΩ「な、なんだってー!!」

シトナイ「シロエの様子がおかしくなったのも!この小説がどんどん暗くなっていったのも!!文字数が次第に多くなっていったのも全部!!!」

作者「くっそぉ!!ぜってぇに許さねぇぞ、エインズワースゥゥゥゥゥッ!!」

ジュリアン「解  せ  ぬ」


※後書きが最近茶番だらけなのは
本編がシリアスすぎて茶番が入れられず
作者のふざけたい欲が爆発してるからです。


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