プリヤに元白熊少女を放り込んでみた   作:『ユタカ』

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前回の前書きの影響からか
沢山の高評価をいただきまして
催促したみたいになってしまったのではと戦々恐々としている
相変わらず面倒くさい作者です。
それはさておき
高評価していただきありがとうございます。




妹の想い、姉の覚悟

 

 

「なっ…」

 

 

英霊級の身体能力を持つ二人、クロエとバゼットを先行させ

今、ようやく戦場へとたどり着いた凛とルヴィアであったが

状況を目にした二人は驚愕する。

 

 

「なんなのよあれ…ッ!?いったいなにが…」

 

 

目に飛び込んできた光景

それは

 

 

「どうなってますの…!?美遊…シロ…」

 

 

泥で形作られた巨人と

そして

 

 

「イリヤ…!!」

 

 

明るい紫を基調とした魔法少女服を身に纏い

魔力で形作られた半透明の紫色の翼が背中に展開された

目新しいイリヤの姿

いつものピンクの魔法少女服ではないその姿に

凛とルヴィアは驚愕していた。

へし折れた斬山剣の先端が地面へと突き刺さっており

その上にイリヤは飛行を行い、佇んでいる。

 

 

「はははハははハははははハはッ!!」

 

 

そんなイリヤの姿に

巨人の額にて一体化している子ギルが

笑い声を上げる。

 

 

「すごい!すごいよ、君!!

正直言うと少し心配だったんだよね」

 

 

とても楽しそうに

そして嬉しそうに

 

 

「僕とまともに渡り合えるのか

僕に勝つことが君にできるのかってね!!」

 

 

そんな子ギルの笑い声に呼応するかのように

巨人が折れた斬山剣を構え

 

 

「さあ、僕から奪い返してみなよ───」

 

 

地下の戦いにてクロエ達の全力を防いだ巨大な盾を始めとし

無数の宝具が泥より出現する。

そして

 

 

「───聖杯達を!!」

 

 

ステッキを構えたイリヤが

躊躇なく巨人へと突貫し、巨大な魔力弾を放つ。

巨人は、巨大な盾で魔力弾を防ぐ。

 

ガァンッッ!!!

 

先とは違い盾から大きな衝撃音が響き

盾にへこみが生まれる。

イリヤは盾を足蹴にし

下がりながら、魔力弾を連射していく。

 

 

「クロ!!」

 

「バゼット!!」

 

 

その様子を見ながら凛とルヴィアが

先行させていたクロエとバゼットを見つけ話しかける。

 

 

「なにが起きてるんですの!?

美遊とシロは!?」

 

「…ミユとシロは、あいつの中にいる」

 

「シロが………負けたんですの?」

 

「……………ええ」

 

 

敵の規格外さは理解していたものの

ルヴィアの見立てでは

どちらが勝ってもおかしくはなかった。

しかし

確かに自分達全員を相手にしたとしても

勝つことができるほどの戦闘力があると思わされたものの

シロエには、どこか危うさのようなものが感じられていた。

そんなシロエの敗北に

嫌な予感が当たってしまったとルヴィアは顔をしかめる。

 

 

「そして…イリヤが助けようとしてる」

 

「あれが…あれがイリヤなの!?」

 

 

巨人の腕の一本が迫り

イリヤはそれをかわしながらステッキに魔力の刃を展開

巨腕を真っ二つにし引き裂いていく。

 

イリヤが行使している大規模な攻撃を目の当たりにし

信じられない凛が驚愕しながら尋ねる。

 

 

「…そうよ。二つのステッキが一つになって

真の力発揮ってところじゃない?」

 

「そんなことが…!?」

 

「いや…だとしても───」

 

 

ズドォン!!!

 

イリヤの魔力の刃を巨人は盾で受け止めるが

とんでもなく鈍く重い音が響く。

 

 

「力の規模が大きすぎる…!

まるであの青目の少女のような…あれほどの魔力の行使が普通の個人に可能だとは思えない…!!」

 

 

シロエであれば…神霊の宝具という規格外な存在であれば

この威力の攻撃にも、まだ納得がいくものの

行使している目の前の少女…イリヤは

正真正銘の人間である。

それでも、この威力を成り立たせている理由は…

 

 

「あれほどの大出力…」

 

「…なんらかのインチキをしているわね。

それも明らかに…代償が要るインチキを」

 

 

イリヤは再び盾を足蹴に後方へと跳ぶ。

ステッキを振るい、自身の周囲から無数の魔力弾を放つ。

魔力弾が巨人へと着弾する。

 

 

「…くくく、はははははははッ!!」

 

 

子ギルは笑い声を上げながら

無数の宝具を放つ。

 

 

「───いいですかイリヤさん。

可能な限り短期決戦でお願いします。

このモードは通常の魔術回路以外のものを

擬似的な魔術回路として()()()()()()させているんです」

 

 

高速で飛行し

それらの宝具をかわしているイリヤに

ルビーが呼びかける。

 

 

「筋系、血管系、リンパ系、神経系までをも。

つまり……力を使えば使うほど、それらは磨耗し傷つきます」

 

 

イリヤは尚、迫りくる宝具に

無数の星型の障壁を展開。

宝具を完全に受け止めた後

子ギルへと突貫しようとする。

しかし

 

ブォン!!

 

巨人が折れた斬山剣を振るい

イリヤの突貫を遮断。

イリヤは急停止、斬山剣を足蹴に再び空へと舞い上がり

またしても迫る無数の宝具をかわし飛行を行っていく。

その時

 

 

「……ぐっ!!」

 

「クロ!?どうしたの!?」

 

 

クロエが呻き声と共に

両手と両膝を地面へとつく。

 

 

「別、に……なんでも……」

 

 

クロエはふらつきながら立ち上がる。

 

 

「なんでも……ないわよ……」

 

 

強がるクロエに近づく凛

そんなクロエの身体には

痛覚共有の呪いを示す赤い紋様が

全身へと広がっていた。

 

 

「痛覚共有で、ここまで……」

 

 

凛は歯噛みしながら

飛行を行っているイリヤを見上げる。

一本一本が絶大な威力を誇るあの迫りくる宝具を

シロエと同じように、ステッキで片っ端から叩き落としていた。

 

 

「あれだけの力を行使して……いずれ痛みだけではすまなく……ッ!!」

 

「いったいどれだけの無茶を…!!」

 

 

クロエが強がっているのは、凛達には目に見えてわかった。

痛覚共有の呪いを受けているクロエが、隠しきれないほどの痛み。

イリヤが受けている負担は想像を絶するものであり

その事実に凛とルヴィアの顔が険しくなる。

そして

 

 

「イリヤさん!!身体への負担が…!!」

 

 

宝具を叩き落としていたイリヤの

両目から血が流れる。

身体への負担がとうとう

目に見えてわかるようになってしまっていた。

 

 

「大、丈夫…!!」

 

「し、しかし…!!」

 

 

飛来してくる宝具一つ一つを叩き落としていく度に

身体中を苛む激痛が増していく。

イリヤは強がるものの、身体内部の負傷により動きは目に見えて鈍くなっていく。

ルビーの進言通り短期決戦に持ち込むべきなのは言われるまでもない。

しかし

戦況は完全に膠着してしまっている。

 

 

「こんな…痛みなんて…!!」

 

 

イリヤは止まらない。

止まるわけにはいかない。

イリヤは突破を計るべく出力を上げるも

身体を苛む激痛にイリヤとクロエの顔が大きく歪む。

 

そんなイリヤとクロエを見ていられず

凛がイリヤへと静止の命令を出そうとした。

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤとクロエの左手首から

光が溢れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…!?」

 

「な、なに…!?」

 

 

穢れのない純白の光。

それがイリヤとクロエの左手首から溢れ出し

全身を包み込む。

そして、二人は

紫の魔法少女服と赤の外套の上に

純白の光を纏う状態となる。

すると

 

 

「身体が……」

 

「痛みが……引いて……?」

 

 

先までイリヤとクロエを苛んでいた

増していく一方だった激痛

それが瞬く間に和らいでいっていた。

イリヤの両目から出血が止まり

クロエの全身に広がっていた赤い紋様は

端からあっという間に消えていき

 

 

「!ダメ…!まだ…!!」

 

 

そのまま激痛の原因である

腹部にある呪いの印を

打ち消しそうになったが

クロエは慌てて魔力を使い遮断することにより

その光から呪いを隔離する。

呪いを…イリヤとの繋がりを保護する。

 

その一方で

予期せずに余裕が生まれたイリヤは

迫りくる宝具にステッキを大振りし

出力を上げ、まとめて薙ぎ払った後

距離を取る。

 

そして

クロエとイリヤは

左手の袖をまくり

なにが起きているのか確認する。

 

 

「………これって」

 

 

そこにあったのは

 

 

「シロの……ブレスレット?」

 

 

誕生日にてシロエから貰ったもの

末妹からの初めてのプレゼント

手作りの純白のブレスレットであった。

 

ブレスレットのシンボルとして

あしらわれている六角形の氷の形をした結晶

光はそこから溢れ出しているようであった。

 

 

「あの子………なんで………」

 

 

なにが起こっているのか

瞬時に理解したクロエは

自身を嫌っていたはずのシロエの行動に

困惑し呆気に取られながらブレスレットを見つめる。

そして、その一方で

 

 

「シロ……」

 

 

イリヤもまたブレスレットを見つめながら

妹の名を呟く。

 

シロエはブレスレットを作成する際

ブレスレットに術式を埋め込んでいた。

その効果は…所有者の治癒。

所有者の負傷もしくは痛みに反応して起動する術式。

シロエの持つ神霊級魔術の魔術知識を総動員させて

作られたそのブレスレットは

一種の魔術礼装であった。

 

 

「す…すごいですよこれ!?

通常の外傷はもちろんのこと

呪いや精神異常といった魔術的状態異常・弱体すらも治癒されるように構築されています!

そして、そんな万能性を追求しながらもこの治癒速度!!

一つの礼装にここまでの効能を込められるなんて…!!」

 

 

仮にこの場にいる凛とルヴィアが

協力して同じく治癒魔術を施したとしても

敵わない程の治癒速度であった。

術者本人がいないにも関わらず礼装のみで

ここまでの治癒が成されていることに

ルビーが感嘆としていたが

 

 

「これが…神霊級の魔術…。

現代の魔術とは比べ物にならないとんでもない代物で」

 

「……違うよ」

 

「は…?」

 

 

イリヤには

シロエの施した術式のレベルの高さなど

当然、理解などできない。

しかし

 

 

「これは……シロの……『想い』だよ」

 

 

イリヤは思い出す。

 

 

『つまりさ…受け取り手が想いを感じたっていうのなら

そこに想いは確かに込められてるんだよ』

 

 

誕生会での兄の言葉を

 

 

「………なにが、嘘だっていうのよ」

 

 

確かに感じる。

このブレスレットから、この光から

温かなものを

わたしたちに無事であってほしい。

わたしたちを護りたい。

そんな想いが

 

 

「ちゃんとあるじゃない……。

シロの想いは、ここに……」

 

 

だけど…あの後

シロ自身のブレスレットも作ってほしいって…作りたいって

ミユは何度もシロにお願いした。

けれど、シロは

乗り気にならなくて、結局作ることはなかった。

それはつまり───

 

 

イリヤは左手首にある

光を放つ純白のブレスレットを

シロエの…妹の想いの結晶を

ギュ…と握りしめる。

 

 

「……絶対に、取り戻す」

 

 

イリヤは覚悟が伴った強い眼差しで

子ギルを一瞥する。

たとえ今、手の届かない場所にいたとしても

自身の背中を支えてくれている妹の存在を

イリヤは確かに感じた。

 

 

「………」

 

 

子ギルもまた同様に幻視する。

イリヤを護ろうとするシロエの存在を

その上で

 

 

「……くくくっ、あははハははははハははッッ!!!」

 

 

子ギルは大きく笑い声を上げる。

楽しさと嬉しさと

愉快で堪らないと

 

そんな笑い声と共に

再び振るわれる巨腕と飛来する無数の宝具

イリヤは巨腕に砲撃を放ちながら掻い潜る。

続けて飛んでくる宝具を角錐型の障壁を展開し完全に防ぐ。

その間にも続けて向かってくる巨腕を

 

パキィン!!

 

障壁で勢いを殺した後

狙いを定め、障壁を手首部分に展開し

巨腕の動きを封じる。

そして

障壁を解くと同時に

イリヤは飛来してくる宝具を薙ぎ払いながら

子ギルへと突貫する。

 

シロエの礼装が起動したことにより

先まで受け続けていた身体内部の傷は即座に回復され

イリヤの動きが明らかに良くなっている。

 

そんなイリヤの突貫を

なんとか止めるべく

振るわれる折れた斬山剣

しかし

 

 

「いくよ…シロ」

 

 

イリヤは魔力をステッキへと集中させ

その大出力で魔力の刃を形成し

 

ザシュッ!!

 

振るわれた斬山剣を斬り裂き

さらに突貫。

突貫しながらイリヤは

出力をさらに上げ

魔力の刃が加速度的に大きくなっていく。

そして、魔力の刃は

刃というよりも、もはや巨大な槍へと

その姿を変える。

巨人はイリヤの突貫を止めるべく

またしても巨大な盾を構える。

しかし

 

 

「こんなもの、すぐに壊してあげる」

 

 

イリヤの魔力の槍が放たれ

 

ドゴォンッッ!!!

 

轟音と共に盾へと大穴を空け

子ギルの胸を貫く。

 

 

「あの大盾を…ッ!?」

 

「なんという…」

 

 

シロエの礼装の起動が流れの変わり目となり

先までの膠着状態は破られた。

 

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

 

大出力の魔力の槍を放ったイリヤは

荒い息を吐く。

 

 

「…………ハハッ…」

 

 

そんなイリヤを見ながら子ギルは

笑い声を上げる。

 

 

「人の身で神々の盾を貫くか。

あれとの戦い以外でここまで楽しめるとは思わなかった」

 

 

シロエしか貫くことができなかった大盾

神々の盾。

それを貫いたということは

今、イリヤは戦闘においてシロエに追いついたと言っても過言ではなかった。

 

 

「ある程度まで頑張ってくれたのなら

適当な所で終わりにしようと思ってたけれど………気が変わった」

 

 

子ギルは突き刺さった魔力の槍を掴み

 

バキンッ!

 

握り潰し、魔力の槍は消滅する。

 

 

「仕方ないよね。興が乗ったんだから。

君こそは───」

 

 

子ギルは右手を泥へとかざす。

そして、泥から

 

 

「───僕の全力に、相応しい!!!」

 

 

螺旋状の剣が出現する。

 

子ギルが螺旋状の剣を右手で掴むと

剣は回転し、紅の暴風が発生する。

 

 

「……ッ!!」

 

 

地下での戦いの最後に見せた螺旋状の剣

その後のシロエの説明により発覚した対界宝具

それを思い出したイリヤの顔が険しくなり

 

 

「この豪風は…!!」

 

「あの時の…!?」

 

 

同じく思い出したバゼットとクロエの顔が青褪める。

 

 

「銘はない。僕はただ『エア』と呼んでる。

かつて天と地を分けた───文字通り世界を切り裂き創造した最古の剣。

…感じるかい?遺伝子に刻まれた始まりの記憶を」

 

 

シロエの解説通りの乖離剣の詳細。

そんな乖離剣を再び前にし

イリヤ達の恐怖がまたしても煽られる。

 

 

「受け止めることができたあれはもういない。

今度こそ、世界(ゆりかご)ごと君を切り裂き

今、ここに原初の地獄を織りなそう!!」

 

 

子ギルの宣言に

イリヤは

 

 

「ルビー。まだ、全力じゃなかったよね」

 

 

静かな声でルビーに

最大出力を要請する。

 

 

「!!シロさんの礼装で治癒されるにしても傷自体は負うんですよ!?

それに礼装の効果だっていつまで持つか…!!」

 

 

シロエからプレゼントされたブレスレットによって

確かに即座に治療され痛みは長引かないものの

力を使う度に傷は負い、激痛が走ることに変わりはない。

そして、さらに言うのであれば

こんな破格な効能が永遠に続くはずもない。

おそらくはある程度、時間が経つか

もしくは礼装に込められた魔力がつきてしまえば

術式は消滅し効能は失われる。

 

これらの不安要素に気づいていたルビーは

イリヤを止めようとするが

 

 

「どっちにしろここで負けたらお終いだよ。

それに、大丈夫。

どんなに痛みが走っても、効果が切れたとしても

シロの想いがここにある限り、わたしは…戦える」

 

 

妹が支えてくれている。

それならば、尚の事

姉が先に折れるわけにはいかない。

 

 

「だからお願い。

筋肉も、血管も、リンパ線も、神経も

わたしの全部を使って!!!」

 

 

イリヤはルビーの反対を退け

最大出力で魔力を込める。

そして

 

 

多元重奏飽和砲撃(クヴィンテッドフォイア)!!!」

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!!」

 

 

イリヤの全てを使った極大の砲撃と

子ギルの乖離剣から放たれた紅い魔光が

激突した。

 

 

「う…あああああッッ!!」

 

 

全身を引き裂かれるような激痛に襲われ

叫び声を上げるイリヤ

そんなイリヤの傷を癒すべく

シロエのブレスレットに込められた術式がフル回転する。

 

赤と青が入り混じった紫色の魔力砲と

全てを切り裂く紅の暴風が

せめぎ合う。

 

そして、打ち勝ったのは

イリヤの魔力砲であった。

 

文字通りイリヤの死力を尽くした一撃が

紅の暴風を押し込み

 

 

「ハハッ…ハハはハはハッッ!!」

 

 

笑い声を上げる子ギルを呑み込み

巨人へと激突する。

巨人を構成する泥が跳ね

弾け飛び、崩れ去っていく。

すると

 

 

「ッ!?」

 

 

イリヤの視界に映ったのは

衝撃により弾け飛ぶ泥に紛れて

泥から飛び出てきた

薄緑色のワンピースを着た

自身と瓜二つの銀髪の少女の姿

 

 

「シ………ロ………ッッ!!!」

 

 

泥から飛び出した銀髪の少女…シロエは

ピクリとも動かず、そのまま重力に従い

地面へと真っ逆さまに頭から落ちていく。

当然のことだが

イリヤは全力の砲撃を放っている最中であり

身動きが取れない。

激痛に歯を食いしばりながらも

妹が地面へと落ちていく様子を見ていることしかできない。

そして、そのまま

シロエは地面へと頭から叩きつけられそうになった。

その時だった。

 

パシッ!

 

落下地点へと全速力で駆け寄ってきたクロエによって

シロエは受け止められた。

 

 

「はぁ……はぁ……くっ」

 

 

痛覚共有によりイリヤと同等の激痛を受けながらも

シロエの姿が見えた瞬間

クロエは全力で駆け出していた。

身を苛む激痛にクロエは荒い息を吐きながら

腕の中のシロエを見る。

 

 

「!!……………バカ」

 

 

シロエの瞼は閉ざされているが

その表情は

イリヤが最後に見た

ボロボロの笑顔を浮かべたまま

固まっていた。

そんなシロエの表情を見たクロエは

ギュ…と

冷たくなってしまっているシロエを抱きしめる。

 

そして、その一方で

その様子を確認したイリヤは

 

 

「…ああああああああああああああッッ!!!」

 

 

残った美遊を助け出すべく

激痛に耐えて

泥を消し飛ばしていく。

そして

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ポツ…

 

 

……………。

……水の音がする。

 

 

ポッ…

 

 

光も音もないのに…どうしてこの音だけ聞こえてくるんだろう。

 

 

ポ…

 

 

黒…。なにもない暗闇。

そうだ…。これが本来のわたしの世界。

 

全てを叶える力と引き換えに

わたしは全てを失った。

望んでそう生まれたんじゃない。

でも、聖杯として生まれてしまった以上

わたしの意志は関係ない。

わたしは光を与える役割の器。

わたし自身に光は必要ないんだ。

なのに……

 

光をくれた人達がいた。

居場所をくれた人達がいた。

こんなわたしでも

ちょっとだけ人間らしくなれる世界があった。

 

でも………その優しい嘘も、もう終わり。

 

 

ポッ

 

 

それは本来

わたしなんかが手にすることができないものだった。

この世界で過ごした三ヶ月は

きっと最後に見ることを許された夢。

 

 

ポ…

 

 

…悲しみはない。夢から覚めるだけ

ただ、元の自分に戻っただけだから

………けれど

 

 

ポッ…

 

 

心残りが……二つある。

一つは

 

 

「お兄ちゃん…」

 

 

ごめんね。

お兄ちゃんの最後の願い

ちゃんと叶えられなかった。

 

 

ポッ…

 

 

運命からは

やっぱり逃れられなかった。

 

 

『美遊がもう苦しまなくていい世界になりますように』

 

 

……そう願ってくれたのに

わたしにできたことは別の世界に逃げてきただけ

 

 

ポッ

 

 

ああ、でも…

 

 

『優しい人達に出会って──』

 

 

出会えたよ。

とてもとても優しい人達に

 

 

ポッ

 

 

そして…

 

 

『笑いあえる友達を作って──』

 

 

うん。作れたんだ。

とても大切な友達…。

二人も作れたんだ。

 

 

ポッ…

 

 

その子達は仲の良い姉妹で

銀色の髪がとても綺麗で……

 

 

『温かで細やかな──』

 

 

まるで月の光みたいな子達。

 

 

『幸せを掴めますように』

 

 

大切な友達だった。

なのに………わたしは

 

 

「シロ…」

 

 

もう一つの…心残り。

 

 

ポッ…

 

 

ごめんなさい…。巻き込んでしまって…。

 

 

『周りがなにを言ったとしても、それを決める権利なんて周りにはない』

 

 

ごめんなさい……。助けてあげられなくて……。

 

 

『ミユが…縛られる必要なんて、どこにもない。

縛られないで………ほしい』

 

 

気づいていたのに………。

シロもこの世界の住人じゃないって………。

わたし、自分のことばかりで

踏み込まれるのが、怖くて

なにも言ってあげられなくて

本当に………ごめんなさい。

 

 

『あなたはわたしと違って………まだ、ちゃんと生きてるんだから』

 

 

最後まで…わたしのことを

心配してくれて

お兄ちゃんと同じように

わたしの幸せを、願ってくれて

 

 

『あなたは、わたしのような終わりは迎えないでね。ミユ』

 

 

わたしを………想ってくれていて………。

 

 

ポッ…

 

 

本当に…………優しい子だった。

そして

そんなシロが慕っていた姉

 

 

『そんな風に思わないで!!』

 

 

シロに…妹に負けないくらい優しい

もう一人の友達。

その子の名前は──

 

 

「イリヤ…?」

 

 

美遊の真っ暗な視界が開かれる。

天井が壊され、むき出しとなった大空洞の中心にいる美遊

その美遊の周囲には

地面を埋め尽くしている崩れ去り動かなくなった泥

そして

先の激突により大きな皹の入った星空を背景に

背中には半透明の紫色の翼を展開し

紫色の魔法少女服と消えかけの純白の光を身に纏った

大切な友達の一人であるイリヤが

美遊の眼前へと降りてきていた。

 

 

「……泣いてるとこ、初めて見た」

 

 

ポッ…

 

 

「え……?」

 

 

 

先から美遊が聞いていた水の音

それは美遊の涙が零れ落ちていく音であった。

 

 

「美遊!!」

 

「二人とも無事!?」

 

 

凛とルヴィア、バゼットが

むき出しとなった大空洞の縁を下り

イリヤと美遊へと近寄り

 

 

「ミユ…!!」

 

 

クロエもまた

シロエを抱えたまま、遅れて近寄る。

 

 

「シロ…」

 

 

ピクリとも動かないシロエを見て

美遊の顔が大きく歪み

ポロポロと涙が溢れ出し地面へと零れ落ちる。

その一方で

 

 

「ははっ…二度も続けてエアが負けるなんてね」

 

 

泥から上半身を起こした子ギルが

今夜だけで二度も乖離剣を打破されたことに

悔しげではあるがどこか清々しい表情をしていた。

 

 

「黒い方の僕も…とうとうカードに戻っちゃったか」

 

 

子ギルから少し離れた位置へと

落ちている『アーチャー』のカードを眺める子ギル

とはいえ

 

 

「ま、半身だけでも受肉できたんだ。

これで良しとするかな」

 

 

疲れきっているのか

子ギルは自身のカードを回収せず

仰向けに寝転ぶ。

そして

 

 

「出来る限りの便宜は図った。

あとは…あれ次第、か」

 

 

寝転んだまま

カードからシロエへと

視線を移し

 

 

「あー…。疲れた」

 

 

疲労を呟く子ギルであった。

 

 

「美遊様ッ!!」

 

 

イリヤの持つステッキからサファイアが分離し

イリヤの服装がピンクの魔法少女服へと戻る。

 

 

「美遊様!酷いです!わたしを置いていくなんて…!」

 

「…」

 

 

サファイアが美遊へと言い募るものの

美遊はシロエの様子に言葉を発することができないでいる。

その時

 

 

「あっ…」

 

 

イリヤを包みこんでいた純白の光が

 

フッ…

 

と完全に消え去る。

シロエのブレスレットに込められた

術式の効能が失われたのだ。

 

 

「イリヤ!大丈夫!?」

 

「うん…平気。シロが護ってくれたから」

 

 

凛が心配してイリヤへと声を掛けるも

イリヤは自身の無事を伝える。

 

 

「…」

 

 

そんなイリヤをクロエは

顔をしかめて見つめる。

確かにシロエの礼装の効能は

決着ギリギリまでなんとか持ち

痛みは既になくなっている。

しかし

最後の砲撃を放った時に感じた

全身を引き裂かれるようなあの激痛

とても無理をしていないとは言えなかった。

それを痛覚共有により理解していたクロエは

なにも言えずに顔をしかめるしかなかった。

 

 

「クロ…」

 

 

そんなクロエに

イリヤが

 

 

「ごめんね」

 

「………ふん」

 

 

同じ激痛を味わったクロエへと謝罪し

クロエは気恥ずかしそうに顔を背ける。

と、その時

クロエを包みこんでいた純白の光もまた

時間制限からかイリヤと同じように消え去る。

 

 

「!………」

 

 

クロエはそれを見届けた後

複雑そうな表情を浮かべながら

腕の中にいるシロエを見つめるのであった。

 

 

「ミユ」

 

「イリヤ……わたし……」

 

「わたしね、わかってたんだ」

 

 

罪悪感でいっぱいの美遊であったが

イリヤは優しく話しかける。

 

 

「えっ…?」

 

「ミユもシロと同じように

なにかとても大きな秘密を

抱え込んでるってわかってた」

 

 

シロエだけてはなく美遊もまた

なにかを抱え込んでいることに

イリヤは本当は気づいていた。

 

 

「わかってたのに踏み込めなかったんだ。

その秘密に触れちゃったら…もう元の関係には戻れないような気がして…」

 

 

イリヤもまた美遊と同じように

今の関係が、今の日常が

完全に壊れることを恐れていた。

しかし

 

 

「……けどね、もう逃げないよ。

ミユはわたしの友達だから。

友達が苦しんでるなら…もうほっとかない!」

 

 

美遊の胸に

温かななにかが

込み上げてくる。

 

 

「ミユは、一人じゃない」

 

「イリ、ヤ…」

 

 

悲しみじゃない

温かなものが溢れ

美遊の涙が止まることはなかった。

 

 

「あらあらー。

絶対ひっぱたいてやるんじゃなかったんですかー?」

 

「あはは…。そのつもりだったんだけど

こんな顔見ちゃったらできないや」

 

 

ルビーの突っ込みに

イリヤが苦笑いを浮かべる。

しかし

 

 

「けど………わ、わたしは………シロ、を………」

 

 

イリヤが

美遊の抱えている秘密から逃げないと宣言し

自身は一人ではないと理解しても

尚、シロエへの罪悪感は消えない。

美遊が涙声で呟き

イリヤの笑顔が曇る。

 

 

「………ミユの所為じゃないよ。

シロだって絶対にそう言うはずだよ」

 

 

それに、と

イリヤは続ける。

 

 

「まだだよ………まだ、終わってない」

 

 

イリヤは振り返り

クロエの腕の中にて

瞼を閉じているシロエを

強い瞳で見つめる。

 

 

「このまま……訳もわからないまま、お別れだなんて絶対に認めない」

 

 

確かに

シロエの正体も

シロエを造ったのが誰なのかも

判明した。

しかし……それだけであった。

シロエがなにを考えてこんなことをしたのか。

この世界へと来るまでに…自分達の知らない所でいったいなにがあったというのか。

わからないことは山積みであった。

 

 

『あなたたちとわたしとでは

歩んできた道程も、培われた価値観も

そして存在も

なにもかもが違いすぎる。

わかり合えるはずがない』

 

 

ここまでずっと一緒の日々を過ごしてきた。

だけど…認めるしかない。

わたしはシロのことをまだまだ全然知らないんだって。

 

 

「シロは死んでなんかいない。

ただ、眠っているだけ」

 

 

けれど、それでも

わかり合えないなんて認めない。

いなかったことになんてさせない。

絶対に…諦めない。

 

 

「シロを起こすために

シロから逃げずに今度こそ向き合うために」

 

 

どんなに違いがあったとしても

なにを抱えていたとしても

シロがわたしを騙していたとしても

ミユが友達なのと同じように

シロがわたしの妹なのも絶対に変わらないんだから。

 

 

「お願い…ミユ。力を貸して」

 

 

イリヤが美遊へと向き直り

手を差し出す。

 

妹が二度と目覚めることのない…死にも等しい状態となった。

絶望と断じていい状況

それでも、イリヤは

折れない。屈しない。諦めない。

そんなイリヤに触発され

美遊は

 

 

「…………うん…っ」

 

 

涙を袖で拭いながら

イリヤの手を取るのであった。

 

 

 

……

………

 

 

「………ルビー、サファイア。どう?」

 

 

イリヤの差し出させれた手を美遊が取った後

シロエになにが起こったのか知らない凛とルヴィアに

イリヤ達は状況を説明。

シロエの正体に凛とルヴィアはクロエ達と同じように驚愕した。

そして

動かないシロエをクロエが地面へと寝かせ

イリヤ達が見守る中

ルビーとサファイアがシロエが施した封印術式の解析を行っており

シロエの胸の中心には封印術式である

幾重にも折り重なり圧縮された魔法陣が浮かんでいる。

しばらく解析作業に当たっていたルビー達に

イリヤが躊躇いがちに声を掛ける。

 

 

「………術式の全体像は計六層の陣から成る封印式。

六層の封印が入り混じることで効力を発揮し

シロさんの体内…臓器や血管、骨など全てが凍りつき

あらゆる機能を停止させています」

 

「例えるなら一種のコールドスリープのような状態となっています」

 

 

シロエの異常なまでの身体の冷たさ

その理由がわかり、心配がさらに大きくなるイリヤだったが

ルビーとサファイアは続ける。

 

 

「六層の術式を全て除去することができれば封印も解かれると思います。

しかし…」

 

「………申し訳ありません。

わかったのはそれくらいです。

肝心の除去するための術式の構築はおろか

封印術式の詳細すらも解析することができませんでした」

 

「神霊級魔術、半端ないですねー」

 

 

解析作業に当たっていたものの

肝心なことはわからなかったと

完全にお手上げ状態のルビーとサファイア

 

 

「……………リンさん達は?なにかわかったことは…」

 

 

ルビーとサファイアの報告に

イリヤは魔術師である凛達へと

藁にも縋る思いで尋ねる。

なんでもいいからわかったことはないかと

しかし

 

 

「「「…」」」

 

 

凛とルヴィア、バゼット

魔術師三人は揃って

尋ねたイリヤに返事できず

苦虫を噛み潰したように顔を大きくしかめる。

 

 

「?リンさん?」

 

「…イリヤさん。この際ですから、はっきり言いますけど」

 

「ルビー…?」

 

「シロさんの魔術と凛さん達の魔術とでは

レベルが全然違うんですよ。

それこそ本当に天と地程のとんでもない差があります」

 

 

ルビーの断言に

凛達は悔しげに歯を噛みしめるものの

否定の言葉は出てくることはなく

そんな三人の魔術師達の様子に

 

そ、そんなに…?

 

と魔術知識を持たないイリヤは困惑した。

 

 

神霊級魔術を用いたシロエの全力を傾けた封印

それを解析することは現代の魔術師である凛達三人にはできないことであった。

 

 

「これを正攻法でなんとかしようとしたら

最低でも時計塔の総力を挙げなければ話になりません」

 

「そ、それでも可能性があるなら…!」

 

「二度と会えなくなりますよ」

 

「え…?」

 

「さっきも言いましたが

魔術師からしてみればシロさんはこの上ない垂涎の的です。

万が一封印を解除できたとしても

良くて監禁。最悪、解体されてホルマリン漬けもありえます。

いずれにしても二度と会えなくなるのは確実です」

 

 

ルビーの指摘に

現実味がなくいまいち想像ができないイリヤであったが

本当にそんな状況に陥るわけにはいかないため

反論せずに大人しく口を閉じる。

 

 

(というか、この状況でバゼットが協力的なのが妙なのよね…)

 

 

凛が訝しみながら

バゼットを横目で見る。

 

 

(英霊どころか神霊クラスの力を行使できる存在。

どう考えても封印指定の対象として引っ掛かるはずなのに……)

 

 

凛の所感では

バゼットに仕掛けてくる空気もなければ

なにかを企んでいる様子すらない。

無論、その方が助かるのは確かではあるが

バゼットのその様子に内心首を傾げる凛。

 

正攻法で封印を解くのは現実的ではない。

暫し無言になるイリヤ達だったが

 

 

「キャスターの宝具は?あれなら…」

 

 

美遊が正攻法ではない新たな案を出す。

 

キャスターの宝具『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。

それは歪な形をした短剣であり

攻撃力こそ普通のナイフと同程度しかないが

「あらゆる魔術を初期化する」という特性を持つ対魔術宝具である。

シロエの施した封印がどれほど複雑で高レベルなものであったとしても

それが魔術であるのであれば

確かに封印術式を破壊することも可能である。

しかし

 

 

「…やめておいた方がいいでしょう」

 

「サファイア…」

 

「シロ様は使い魔…つまりは極めて魔術的な存在です。

封印術式のみを破壊できれば問題はありませんが

下手をすればとどめを刺すことになりかねません」

 

 

シロエが使い魔である以上

身体のどこかに術式が必ず埋め込まれているはずである。

それまで破壊してしまった場合

封印を解くどころか存在を消滅させてしまう結果になりかねない。

サファイアの指摘に

美遊が口を噤む。

 

 

「他のカードも……ダメね。

どれも封印を解くような代物ではないわ」

 

 

集めた七枚のカード

そのどれもが攻撃するための宝具であり

封印を解除したり誰かを癒したりするための宝具ではなかった。

 

 

………………。

 

 

正攻法でも、カードを使用したとしても駄目。

封印を解く案がとうとう思いつかなくなり

沈黙するイリヤ達

そんな中

 

 

「……………酷い顔よね。本当に」

 

 

シロエが浮かべているボロボロの笑顔を見ながら

クロエがポツリと呟く。

一同はシロエの表情を見つめて

同意とばかりに沈痛な面持ちを浮かべる。

そしてクロエは思い返す。

 

 

『ずっと笑顔だったからといって

笑っていたとは限らないでしょうに』

 

 

戦いに赴く前、シロエの部屋にて

シロエが放った言葉を

 

 

(もしかしたら………シロが今まで浮かべていた笑顔も

今のこの酷い顔となにも変わらなかったのかもしれない。

けど………もしそうなら、わたしはシロのことを………)

 

 

イリヤと寸分変わらないシロエの笑顔

それを記憶から掘り起こし

思い悩むクロエ

その一方で

 

 

(シロ…………ッ)

 

 

イリヤに触発されたものの

未だ罪悪感に苛まれている美遊

美遊は耐えきれずにシロエから顔を背ける。

すると

 

 

「…………?」

 

 

美遊の視線が

イリヤの左手首で止まる。

 

 

「イリヤ…?そのブレスレット…」

 

「え?」

 

 

美遊につられて

自身の左手首…シロエのブレスレットに視線を移すイリヤ

そこには

 

 

「ブレスレットの色が…」

 

 

シロエのブレスレットの色。

細い金属製の輪もシンボルである六角形の氷の結晶も

雪を思わせる純白色だったのだが

それが今では六角形の氷の結晶が

純白色から水晶のような透明色へと変わっていた。

込められていた力を使い果たしたかのように

クロエのブレスレットも確認するとイリヤと同様であり

透明色へと変化していた。

 

大切にしているシロエのブレスレットの変化。

それに困惑している美遊に

 

 

「あ…多分これ、シロの…」

 

 

思い当たる節があるイリヤが

美遊に説明しようとしたその時

 

 

「魔術…が………」

 

 

イリヤの脳裏に閃光が走る。

 

 

「………ねえ、ルビー。このブレスレットを使うことってできないかな?」

 

 

ルビーはこのブレスレットに込められた魔術を見て

怪我が治る速さとそして

魔術で負った怪我や異常だって治せる万能性があるって

すごい驚いてた。

それならシロの異常ももしかしたら………。

 

 

「…」

 

「ブレスレットを…使う?」

 

「あ、うん。実はね、このブレスレットには…」

 

 

イリヤの案にルビーが吟味している中

話についていけていない美遊へと

シロエがプレゼントしたブレスレットに

込められた魔術を説明する。

 

 

「シロ……」

 

 

説明を受けた美遊は

左手首の純白のブレスレットを

ギュ…と大切そうに握りしめる。

 

 

「………可能性はあると思います。

あらゆる魔術的状態異常・弱体の治癒。

それには封印も含まれます」

 

 

そして、なにより

 

 

「シロさんに施された封印術式とブレスレットに施された治癒術式。

両方共にシロさんの全力を持って構築されています。

魔術のレベルにも差はありません」

 

 

可能性はある。

ルビーの返答を聞いたイリヤは

 

 

「……ミユ、お願い!

悪いけど、その…ブレスレットに込められてる魔術をシロに使わせて!!」

 

 

シロエが作ったブレスレットは全部で三つ。

そのうちの二つは

ツヴァイフォームの代償によってイリヤのブレスレットが

その痛覚共有によりクロエのブレスレットが

それぞれ効力を使い果たした。

よって効力がまだ残っているのは美遊のブレスレットのみであった。

故にイリヤは美遊に頭を下げ懇願する。

ブレスレットの術式をシロエのために使うことを許してほしいと

イリヤの懇願に美遊は慌てて

 

 

「イリヤ、顔を上げて。

ブレスレット自体は残るし、それにシロを助けるためなんだから拒否なんてしない」

 

「ありがとう…ミユ」

 

 

美遊の快諾に

イリヤは嬉しそうに笑みを浮かべる。

しかし

 

 

「待ってください。ブレスレットが残り一つというのもそうですが、他にも問題はあります」

 

 

ルビーとサファイアが

懸念点を上げる。

 

 

「ブレスレットが美遊様のもの一つのみ…つまり失敗は絶対に許されません。

そして……」

 

「……ブレスレットの術式を起動させる条件として

おそらくは所有者の負傷もしくは一定値以上の激痛が必要となります。

つまりは美遊さんが負傷する必要が出てくることになってしまいます。

それも命に関わるほどの」

 

「あ…」

 

 

言うまでもないがイリヤとしては

シロエを助けるためとはいえ美遊に傷ついてほしくない。

どうするかとイリヤが悩んでいると

 

 

「問題ない。任せて」

 

 

美遊の声にイリヤが目を向ける。

なにか案があるのかと

すると、そこには

 

魔力の刃を展開したサファイアを逆手持ちし

自身の左手首へと向けている美遊の姿が

 

 

「ミユゥーーーッッ!?

なにやってんの!?なにやってんの!!?」

 

「術式が起動するまで血液を体外に出すだけ」

 

「絵面がいろいろとヤバいよ!?」

 

「大丈夫。シロとイリヤのためなら、わたしは何ガロンでも血を流せる」

 

「ガロン!?よくわからないけど重い!!重すぎるよ!?」

 

 

絵面と発言が完全にヤンデレのそれである。

ガロンという単位はわからないものの(米国の単位で1ガロン=約3.785リットル。主に車のガソリンの取引等で使用される)

イリヤは美遊を後ろから羽交い締めにし

美遊の重すぎる想いと行動を食い止める。

そんな時だった。

 

 

「…わたしがやるわ」

 

 

クロエの発言に

一同の視線がクロエへと集まる。

 

 

「術式が…方法があるのなら

わたしの……聖杯としての力を使えば

ミユを傷つけずに術式を起動させることくらいはできると思う」

 

 

クロエの能力。

過程を省いて結果を出す能力。

それを用いることにより

美遊の負傷という起動条件の過程を省き、術式の起動という結果を導く。

 

 

「それならば……いけるかと思います」

 

 

クロエの提案により

美遊が傷つく必要はなくなり

イリヤは安堵の溜息と共に美遊を放す。

 

 

「残った問題は…」

 

「術式の効力をミユからシロに移す方法…よね」

 

 

術式が起動したとしても

治癒術式は所有者…つまりは美遊を

癒すためにその効力を発揮するだろう。

何故ならブレスレットはイリヤ、美遊、クロエの三人のために作られたからである。

シロエが三人専用として術式を組んでいたとしたら

仮にブレスレットをシロエに装着させたとしても

術式がシロエを所有者だと認識することはない。

 

万が一にも失敗は許されない中

その可能性を考えたクロエは

眉間に皺を寄せる。

しかし

 

 

「それはわたしがなんとかできるかと」

 

 

今度はサファイアが

その問題を解決する。

 

 

「シロ様と美遊様。

お二人の魔力の相性は抜群です。

その相性の良さを利用すれば

美遊様に施される術式の効能にシロ様を巻き込むことも可能かと思われます」

 

 

加えて

シロエとサファイアはマスター登録をしており

サファイア一本のステッキで美遊とシロエの二人を同時に転身させたこともあった。

それを応用すれば、美遊に施される術式の効能をシロエにも供給させることは可能であるという結論に達していた。

 

 

「あとは…」

 

「…ええ。不測の事態が起きた時には、アドリブでなんとかするしかありませんね」

 

 

シロエに施されている封印術式もブレスレットの治癒術式も

両方共に解析自体はできていない。

それらのブラックボックスから不測の事態が起きることは十分にあり得る。

とはいえ

 

 

(シロ…)

 

 

どうしようもないと思われた状況から

可能性を見出すことに成功した。

 

 

(みんな、力を貸してくれているよ……シロを助けるために)

 

 

そしてそれは

シロエの姉や友達、ステッキの力を

集結させた結果であった。

 

 

(『なにも無くなっちゃった』………そんなことない。

シロだって………一人じゃないよ)

 

 

 

……

………

 

 

話し合いが終わり

美遊とクロエの二人が

瞼を閉じボロボロの笑顔を浮かべ地面に横たわっているシロエの

隣へと並び立つ。

美遊はイリヤと同じようにサファイアを使い転身を行う。

そして

 

 

「………始めるわよ」

 

 

クロエの掛け声に美遊は頷き

クロエが美遊の左手首…純白のブレスレットへと触れる。

すると

 

 

(術式の理論もこの子の思想も

わたしは知らない。

それでもわたしは答えを導ける。

過程を省いて結果だけを得る。

それがわたしの力…!!)

 

 

シロエのブレスレットから純白の光が溢れ出す。

美遊の負傷という過程を省き、術式の起動に成功したのだ。

純白の光が美遊の身体を包み込む。

さらに

 

 

(思い出して、あの時の感覚を。

シロと一緒に転身して

一緒に魔力砲を撃った。

シロの魔力と結びついて繋がるイメージ…!!)

 

 

トンネルの工事中

サファイア一本のステッキを使用し

共に転身し魔力弾を放つことにより

岩盤を破壊し

相性が最高と言っていいと

サファイアに称賛された。

 

その時の記憶、そして感覚を呼び起こし

イメージを保ちながら美遊は

サファイアを両手で握り締め

横たわっているシロエへとステッキの先端をかざす。

すると

美遊を包み込んでいた純白の光

その光がサファイアをかざした箇所…腹部を起点にして

シロエの身体全体へと広がる。

 

 

「術式の起動そしてシロさんの巻き込みに成功しました。

あとは…」

 

 

目論見通りに封印術式を解除してくれるかどうか。

シロエの胸に封印術式の魔法陣が浮かび

包み込んだ純白の光がじわりじわりと魔法陣へと集まっていく。

イリヤ達が固唾を呑んで見守る。

すると

幾重にも折り重なった複雑怪奇の魔法陣

そのうちの一番上にあった魔法陣

それがピシピシと徐々にひび割れていった後

パリンと音を立てて砕け散り

最後には完全に消失する。

 

 

「……一層目、解除完了しました」

 

「…!」

 

 

ルビーの通達に、顔を綻ばせるイリヤ

さらに純白の光は次の層の魔法陣を砕き、打ち消していく。

 

 

「続いて二層目……突破しました」

 

 

凛とバゼットが

魔術知識を持ちながらも、この状況になにもできないからか

なんとも言えない複雑な表情を浮かべながら状況を見守っている。

 

 

「三層目………突破」

 

 

ルヴィアも凛とバゼットと似た面持ちではあるものの

美遊と同様に従者であり義妹も同然であるシロエが大事なのだろう。

二人に比べれば表情は柔らかかった。

 

 

「四層目……………突破」

 

 

そして

子供達三人はというと

 

 

「…」

 

 

クロエが

 

 

「シロ…!!」

 

 

美遊が

 

 

「お願い、シロ!!戻ってきて!!」

 

 

イリヤが

熱のこもった瞳でシロエを見つめる。

三人の想いは一致している。

目を覚ましてほしい。

その一心であった。

そして、パリンと

五つ目の魔法陣が砕け散る。

 

 

「五層目、突破────ッッ!!?」

 

 

いける。

誰もが思った。

その瞬間

 

ズドオオオォォォンッッ!!!!!

 

途轍もない衝撃と共に

イリヤ達は吹き飛ばされる。

 

 

「キャアッ!?」

 

 

地面を転がり

シロエから離れてしまうものの

手足で踏んばりなんとか停止するイリヤ達

そうしてシロエの方へと急いで目を向ける。

すると、そこには

 

シロエが立ち上がっていた。

瞼を閉じたままだが、表情は完全な無表情となっている。

服装も変わらず私服である子供用のワンピースのまま。

一見異常という異常はなにもない。

ただし

 

シロエから純白の光が溢れ出していることを除けばだが。

 

シロエから溢れ出している純白の光は

極太の極光となり天を貫くように

上へ上へと止めどなく立ち昇っている。

 

 

「こ…これ、は……」

 

「な…なんなんですの!?これは…!?」

 

 

魔術師の大人組三人が狼狽する。

それもそのはず何故ならその光は

 

 

「これ……全部、魔力なの!?」

 

 

先まで凛達は八枚目のカードの英霊を相手に戦っていた。

八枚目のカードは地脈の中心にあり

二ヶ月半という長い月日の間、途方もない程の魔力を吸収しており

その魔力を使用し想定を遥かに超える程の脅威を叩き出した。

それなのに─────

 

見劣りした。

霞んで見えた。

八枚目の英霊が保有していた

泥の巨人までも造り出したあの魔力量が

 

目の前の少女から溢れ出している

途切れることのない

あまりにも夥しい量の魔力量に

凛達は魔術師として戦慄した。

 

 

「シ………シ、ロ…?」

 

 

シロエが発せられるとんでもない圧力

それに抗い恐る恐ると言った具合に

イリヤが声を掛ける。

しかし

 

 

「───封印術式、一層目から五層目までの削除を検知。

規約に従い迎撃術式『ローレライ』起動します」

 

 

シロエは瞼を閉じたまま

無感情に言葉を発する。

 

 

「これより削除された封印術式の再生準備に入ります」

 

 

否、無感情どころではない。

例えるならばそれは

AIから発せられるような機械的な音声。

 

 

「ね、姉さん。これは…」

 

自動迎撃術式(オートカウンター)…!?こんなものまで…」

 

 

冷や汗を流すサファイアとルビー

それらを意にも介さず

シロエは宣告する。

 

 

「警告。当術式の行動の妨げになると判断した敵性体は─────」

 

 

宣告するシロエの瞼が

ゆっくりと開かれる。

その瞳には

 

 

「─────殲滅します」

 

 

血のように暗く真っ赤な瞳に

幾何学模様の魔法陣が浮かんでいた。

 

今まで幾度となく

イリヤ達を護ってきたシロエの力

それが今まさに、牙を剥こうとしていた。

 

 

 




原作主人公の味方だったオリ主が
ラスボスになるお話が大好物です(ゲス顔)


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